乗用車のエネルギー消費効率

基準エネルギー消費効率の改定の概要

 乗用車(法律上は「乗用自動車」が使われます)は貨物自動車とともに省エネ法の特定エネルギー消費機器29品目のうちの1つです。乗用車の省エネ基準等は1999年通商産業省・運輸省告示第2号(制定)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号によって規定されています。

 乗用車の告示は、1999年の制定からこれまで13回の改定を行っています(2022年10月現在)。2020年の改定では、これまでガソリン、軽油、LPガス車のようなエンジンを搭載した車種に加えて、電気自動車とプラグインハイブリッド車が対象となりました。その結果、従来の燃費であるガソリン1L当りの走行距離が使えなくなり、その燃費の定義を拡大することになりました。

 旧基準のエネルギー消費効率の指標は燃費です。これは1Lのガソリンで何km走ることができるかを示すものです。電気自動車等を加えたことで電力については発電段階に遡ってエネルギー消費を評価し、ガソリン等を燃料とする車種と比較可能な形にした新しい燃費の概念を導入しました。

 また、燃費の測定方法は、これまでの日本固有のJC08モードから、世界標準のWLTCモードに変更されました。これにより、燃費が1つの指標から4つの指標(走行状況による違い)に増えることになり、自動車の走行状況別に燃費を把握しやすくなったと言えます。

基準エネルギー消費効率

(1) 対象範囲

 旧基準の対象範囲は、ガソリン、軽油又は液化石油ガス(LPガス)を燃料とした乗用車でした。新基準においては、これらに加え今後相当程度普及が見込まれる電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車を新たに対象としました。従って、新基準の対象範囲は、以下の通りです2)

●特定ガソリン乗用自動車、ディーゼル乗用自動車、特定LPガス乗用自動車:ガソリン、軽油、LPガスを燃料とするもの(電気を動力源とするものを除く)のうち、乗車定員9人以下若しくは乗車定員10人(車両総重量3.5t以下に限る)の乗用自動車
●プラグインハイブリッド乗用自動車:電気を動力源とするもの(燃料を使用するものに限る)のうち、乗車定員9人以下若しくは乗車定員10人以上(車両総重量3.5t以下に限る)の乗用自動車
●電気乗用自動車:電気を動力源とするもの(燃料を使用するものを除く)のうち、乗車定員9人以下若しくは乗車定員10人以上(車両総重量3.5t以下に限る)の乗用自動車

 乗車定員と車両総重量について対象範囲についてまとめると下表の通りです。

表-1 新基準の対象となる自動車の範囲

※ 型式指定自動車以外の乗用車は対象外。
※ 旧基準は乗車定員10 人以下及び乗車定員11 人以上かつ車両総重量3.5 トン以下としていたが、WLTP の導入に伴い、乗車定員10 人の3.5 トン超の乗用車を除外している。

 次世代自動車と言われる電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車については対象とされましたが、燃料電池自動車は現時点では車種が限られること等から対象とされませんでした。しかし、他の次世代自動車の取扱を踏まえつつ、中長期的な視野に立って達成判定における適切な評価を検討する必要があるとされました。

(2)目標年度

 従来から対象とされている自動車は2020年度と2030年度の2つの目標が設定されており、新たに対象となった自動車は2030年度が目標となっています。

〈特定ガソリン乗用自動車・ディーゼル乗用自動車・特定LPガス乗用自動車〉
●2020年度以降の各年度(2029年度まで)
●2030年度以降の各年度

〈プラグインハイブリッド乗用自動車、電気乗用自動車〉
●2030年度以降の各年度

(3)目標基準値の考え方

 旧基準におけるエネルギー消費効率(燃費値)は、燃料1L当りの走行距離をkmで表した値(km/L)でした。新基準では、電力を使用する自動車が対象に加わりましたので、電力と燃料の比較ができる燃費に変更することが必要です。そのため、電気については発電段階に遡ってエネルギー消費を評価することとし、新基準では旧基準のTank-to-Wheel (TtW)評価に代えてWell-to-Wheel(WtW)評価でエネルギー消費効率(WtW 燃費値)を算定することとしました。

 なお、旧燃費値との連続性を確保するため、ガソリン自動車のエネルギー消費効率が旧燃費のTtW 評価によるエネルギー消費効率と同じになるよう、WtW 評価によるエネルギー消費効率をガソリンの上流側のエネルギー消費効率で除した値を新燃費値におけるエネルギー消費効率とし、単位は「km/L」としました。この新たなエネルギー消費効率の計算方法の詳細については下のコラムに示していますので、参考にしてください。

 新しいエネルギー消費効率(WtW 燃費値)の計算方法のイメージを下図に示します。WtWの評価による燃費(WtW燃費)は下図に示すように、ガソリン車の場合は従来の燃費(TtW燃費)にガソリン精製効率、ガソリン輸送効率、ガソリン給油効率を乗じて算定されます。ここで、ガソリン精製効率、ガソリン輸送効率、ガソリン給油効率を乗じたものをWtT効率とします。WtW燃費は以下より算定されます。
 WtW燃費=WtT効率×TtW燃費/ガソリン換算値 (ガソリン、軽油、LPG)
 WtW燃費=WtT効率/電費×ガソリン換算値 (電気)
 
 ここで、電費(Wh/km)とは1kmを走行するのに要した電力量Whのことです。ガソリンの燃費と異なって分子と分母が逆転していることに留意してください。
 上式のガソリン換算値とはそれぞれの低位発熱量から算定される以下の値です。
 低位発熱量(ガソリン:31.3MJ/L、軽油:35.8MJ/L、LPG:24.7MJ/L)より、軽油のガソリン換算1.14(35.8/31.3)、LPGのガソリン換算0.79(24.7/31.3)となります。
 電気は、ガソリン低位発熱量をWhで除して、電気のガソリン換算8,700(31,300,000/3,600)となります。
 WtT効率は、各種統計や計画書に基づき、以下のように計算されます(添え字は以下です。G:ガソリン、D:軽油、L:LPG、E:電気)。
 WtT効率G=精製効率G(0.929)×輸送効率G(0.995)×給油効率G(0.995)=0.920
 WtT効率D=精製効率D(0.939)×輸送効率D(0.995)×給油効率D(0.995)=0.930
 WtT効率L=0.983 (参考文献からは計算方法を確認できませんでした)
 WtT効率E=発電効率×送配電効率=0.714 (2030年の電源構成を考慮して算定)
(※電源構成:再エネ22~24%程度、原子力22~20%程度、LNG27%程度、石炭26%程度、石油3%程度、これは第5次エネルギー基本計画の電源構成です)
 これらから、それぞれのWtWは以下の通り計算されます。
 WtW燃費G=0.920・TtWG
 WtW燃費D=0.930・TtWD/1.14
 WtW燃費L=0.983・TtWL/0.79
 WtW燃費E=0.714・8,700/TtWE=6,212/TtWE
 ここで、新たな燃費(エネルギー消費効率)を旧燃費に合わせるため、以下のようにガソリンのWtT効率G(0.920)で除することとします。
 エネルギー消費効率(新燃費)=TtW燃費G,E,D,L×WtT効率G,E,D,L/WtT効率G
 その結果、それぞれの新燃費は以下の通りです。
 エネルギー消費効率(新燃費)D=(0.930/0.920)・TtWD/1.14=TtWD/1.1
 エネルギー消費効率(新燃費)L=(0.983/0.920)・TtWL/0.79=TtWL/0.74
 エネルギー消費効率(新燃費)E=(6,212/0.920)/TtWE=6,750/TtWE
 上記の算定式は、表-4の記載内容と同じ内容となります。
出所)資源エネルギー庁:総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ・交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会合同会議 取りまとめ(乗用車燃費基準等)、2019年6月25日

(4)新たな目標基準値

①目標年度が2020年度以降の各年度(2029年度まで)のもの
 ●特定ガソリン乗用自動車
 ●ディーゼル乗用自動車
 ●特定LPガス乗用自動車

表-2 基準エネルギー消費効率(2020年度まで)

 区    分基準エネルギー消費効率 (km/L)
車両重量が741kg未満のもの24.6
車両重量が741kg以上856kg未満のもの24.5
車両重量が856kg以上971kg未満のもの23.7
車両重量が971kg以上1,081kg未満のもの23.4
車両重量が1,081kg以上1,196kg未満のもの21.8
車両重量が1,196kg以上1,311kg未満のもの20.3
車両重量が1,311kg以上1,421kg未満のもの19.0
車両重量が1,421kg以上1,531kg未満のもの17.6
車両重量が1,531kg以上1,651kg未満のもの16.5
車両重量が1,651kg以上1,761kg未満のもの15.4
車両重量が1,761kg以上1,871kg未満のもの14.4
車両重量が1,871kg以上1,991kg未満のもの13.5
車両重量が1,991kg以上2,101kg未満のもの12.7
車両重量が2,101kg以上2,271kg未満のもの11.9
車両重量が2,271kg以上のもの10.6
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

②目標年度が2030年度以降の各年度のもの
 ●特定ガソリン乗用自動車
 ●ディーゼル乗用自動車
 ●特定LPガス乗用自動車
 ●プラグインハイブリッド乗用自動車
 ●電気乗用自動車

表-3 基準エネルギー消費効率(2030年度以降)

車両重量 M基準エネルギー消費効率 FES
(1) 2,759kg未満FES(M)=-0.00000247×M - 0.000852×M+30.65
 FES(M):車両重量がMkgの基準エネルギー消費効率 (km/L)
 M :車両重量 (kg)
(2) 2,759kg以上FES = 9.5
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

 自動車の種類別のエネルギー消費効率の算定方法は下表のとおりです。なお、下のWLTCモードとはWLTPにおけるテストサイクル(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)を指します。なお、WLTPとは「国際調和排出ガス・燃費試験法」(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)を指します。

表-4 WLTCモード燃費値からエネルギー消費効率を算定する計算式

   種 類   エネルギー消費効率
特定ガソリン乗用自動車 WLTCモード燃費値
ディーゼル乗用自動車 WLTCモード燃費値を1.1で除した値
特定LPガス乗用自動車 WLTCモード燃費値を0.74で除した値
プラグインハイブリッド
乗用自動車
 WLTCモード走行時の数値を用いて以下の式により算出した値
 エネルギー消費効率
 =1/[UF(RCD)×{1/FeCD+1/(6.75×RCD/E1)}+{1-UF(RCD)} /FeCS]
  UF(RCD) :プラグインレンジに応じて算出される係数
  FeCD:プラグイン燃料消費率(km/L)
  FeCS:ハイブリッド燃料消費率(km/L)
  E1:一充電消費電力量(kWh/回)
  RCD:外部充電による電力によってWLTCモードで走行できる最大距離(km)
電気乗用自動車 WLTCモード走行時の数値を用いて以下の式により算出した値
 エネルギー消費効率 = 6750/EC
  EC:交流電力量消費率(Wh/km)
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

(5)製品への表示事項

 製品への表示事項は以下の通りです。
●車名及び型式
●製造事業者等の氏名又は名称
●使用する燃料及び電気の種類(レギュラーガソリン、プレミアムガソリン、軽油、LPガス又は電気の別)
●原動機の型式及び総排気量
●車両重量
●乗車定員
●原動機の最高出力及び最大トルク
●エネルギー消費効率
 WLTCモード燃費値を算定している乗用自動車にあっては、エネルギー消費効率及び次に掲げる数値。

表-5 車種別のエネルギー消費効率に関する表示事項

自動車の種類エネルギー消費効率に関する表示事項
特定ガソリン乗用自動車、ディーゼル乗用自動車、特定LPガス乗用自動車・WLTCモード燃費値
・市街地モード燃費値
・郊外モード燃費値
・高速道路モード燃費値
プラグインハイブリッド乗用自動車・交流電力量消費率
・市街地モード交流電力量消費率
・郊外モード交流電力量消費率
・高速道路モード交流電力量消費率
・ハイブリッド燃料消費率
・市街地モードハイブリッド燃料消費率]・郊外モードハイブリッド燃料消費率
・高速道路モードハイブリッド燃料消費率
電気乗用自動車・交流電力量消費率
・市街地モード交流電力量消費率
・郊外モード交流電力量消費率
・高速道路モード交流電力量消費率
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

●燃料供給装置の形式
●変速装置の形式及び変速段数
●筒内直接噴射その他の主要燃費向上対策
●一充電走行距離(電気乗用自動車に係るものに限る。)又は等価EVレンジ(プラグインハイブリッド乗用自動車に係るものに限る。)

 ここで、表-5における走行モードは以下の通り説明されます。
 WLTCモードは市街地モード、郊外モード及び高速道路モードから構成される。
●市街地モードは信号、渋滞等の影響を受ける走行を想定したものである。
●郊外モードは信号、渋滞等の影響を比較的受けない走行を想定したものである。
●高速道路モードは高速道路等における走行を想定したものである。

<参考文献>
1)1999年通商産業省・運輸省告示第2号(制定)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号
2)資源エネルギー庁:総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ・交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会合同会議 取りまとめ(乗用車燃費基準等)、2019年6月25日
3)資源エネルギー庁:省エネポータルサイト、エネルギー消費機器製造事業者等の省エネ法規制、機器・建材トップランナー制度について、パンフレット(日本語版)、乗用自動車、
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/equipment/toprunner/01_car.html