ルータのエネルギー消費効率

 ルータはインターネットの普及に伴って電話回線や光回線により取り込んだ信号を家庭内のパソコンや携帯電話等に伝送する装置です。当初はパソコンと有線で接続していましたが、スマートフォンの普及に伴って、Wifiによる無線伝送を行うものが普及するようになりました。

 ルータは2009年から省エネ法が適用されていますが、その省令(告示)は2009年経済産業省告示226号(制定)「ルーティング機器のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改正2019年告示46号です。

 本告示ではルーティング機器という言葉が使われていますが、ルータと同じものですので、ここではよく使われているルータを用います。なお、情報通信機器に関する用語については、末尾の付録の用語解説を参照ください。

基準エネルギー消費効率

(1) 対象範囲

 実効伝送速度が200Mbit/s 以下(無線ルータにおいては100Mbit/s 以下)のものである小型ルータのうち、以下のものを対象としています。

 ・VPN(Virtual Private Network)機能を持たず、
 ・VoIP(Voice over Internet Protocol)機能がある場合は回線数が2つ以下のもの

(2) 目標年度

 2010年度

(3)目標基準値

 ルータのエネルギー消費効率は、決められた測定方法の下で測定された最大実効伝送速度における消費電力とされています。省エネ基準の目標値はWAN側のインターフェースの種別、LAN側のインターフェースの種別によって区分されて以下の値または算定式によって規定されています。

表-1 ルータの基準エネルギー消費効率

  区    分基準エネルギー消費効率
 又はその算定式
WAN側インターフェースの種別LAN側インターフェースの種別区分名
イーサネットのみのものイーサネットのみのもの A    4.0
イーサネットであってVoIP付きのもの B    5.5
イーサネットであって無線付きのもの C 2.4GHz帯のみの無線を送信する場合:
 E=0.10×X2+3.9
5GHz帯のみの無線を送信する場合:
 E=0.15×X5+3.9
上記2波を同時に送信する場合:
 E=0.10×X2+0.15×X5+5.1
ADSLのみのものイーサネットのみのもの D    7.4
イーサネットであってVoIP付きのもの E    7.4
イーサネットであって無線付きのもの F    8.8
備考1 「WAN側」とは、インターネット等のネットワークに接続するポートの側をいい、「LAN側」とは、その他の機器等に接続するポートの側をいう。以下同じ。
2 E、X2及びX5は、次の数値を表すものとする。
 E:基準エネルギー消費効率(W)
 X2:2.4GHz帯の無線出力(mW/MHz)
 X5:5GHz帯の無線出力(mW/MHz)
3 区分名Cにおいて、2.4GHz帯又は5GHz帯の無線を選択し、送信すること

 小型ルータのアーキテクチャを図-1に示します。小型ルータのWAN側(宅外ネットワーク)、LAN側(宅内ネットワーク)のインターフェース(I/F)は以下の通りです。

 ●WAN側インターフェース:イーサネット、ADSL
 ●LAN側インターフェース:イーサネット、VoIP(電話)、無線

 これらのI/Fが電力消費に影響を与えることから、省エネ基準はこれらのI/Fの種別ごとに区分されて基準値が設定されています。以下にそれぞれのI/Fの特徴を示します。 

出所)総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会ルータ等判断小委員会、最終とりまとめ、2007年3月
図-1 小型ルータのアーキテクチャ

① WAN 側I/F について
 小型ルータには2つのI/F(イーサネットまたはADSL)が存在します。小型ルータに使用されているイーサネットは、最大100 メートルの伝送距離に限定されています。イーサネットは現在10Mbit/s、100Mbit/s、1Gbit/sps 等が存在していますが、小型ルーターにおいては10Mbit/s、100Mbit/s のみとなっています。

 一方ADSLは、通信事業者の局舎から設置場所(家庭など)までを接続する通信方式であり、長距離(最大で6~7km 程度)にわたって数十Mbpsの伝送を行うことを目的としています。

 そのため、長距離伝送に適した変復調処理を高速DSP(Digital Signal Processor)などにより実現しています。この長距離伝送及び変復調処理の実装分が、イーサネットに比較して多くの電力を必要とします。

② LAN 側 I/F について
 LAN 側は、大きく分けて3つの方式が存在し、幾つかの組み合わせで構成されています。
・ イーサネットI/F
 標準的なI/Fであるイーサネットを具備するため、ADSL モデム、光終端装置(ONU:Optical Network Unit)等にも接続可能なルーターであり、汎用性が高く、下記の2方式に比べ少ない回路で構成することができます(有線ルータ)。なお、小型ルータにおいてはWAN 側I/F と同じくイーサネットは10Mbit/s、100Mbit/s のみです。
・ VoIP(電話) I/F
 有線ルータにVoIP 機能を有し、電話機を接続することで、データのみならず、音声信号をも伝送するものです。音声信号を伝送するためのSLIC とCODEC 機能(図-1参照)が有線ルータに追加されるため有線ルータよりも消費電力が多くなります。

※SLIC :Subscriber Loop Interface Circuit
 電話機を接続するためのインターフェース回路
※CODEC: Coder Decoder
 電話機からの音声信号をデジタル化し、WAN 側に伝送したり、WAN 側からのデジタル信号を音声信号に変換する。

・ 無線I/F
 有線ルータに加えて無線でデータ伝送を行うルータです。接続の容易さ及び廉価化から、近年普及の著しいルータです。現時点での無線方式は、IEEE802.11a, b, gという方式が規格化されています。無線を伝送するためのMAC(Media Access Control)及びRF(Radio Frequency)回路が追加されており、有線ルータより電力消費が大きくなります。

(4)製品への表示事項

(1)品名および型名
(2)区分名
(3)2.4GHz帯の無線出力(区分名Cの場合にあって、2.4GHz帯のみの無線を送信する場合又は2波を同時に送信する場合に限る)
(4)5GHz帯の無線出力(区分名Cの場合にあって、5GHz帯のみの無線を送信する場合又は2波を同時に送信する場合に限る)
(5)エネルギー消費効率
(6)製造事業者などの氏名又は名称

エネルギー消費効率の測定方法

(1) エネルギー消費効率の測定は最大実効伝送速度における消費電力を測定するものとする。なお、消費電力及び最大実効伝送速度を測定する際の条件は以下とする。
①1秒当たりのWAN側への出力パケット数及び1秒当たりのLAN側への出力パケット数の和が最大となるものとする。
②測定パケット長は1500バイトのパケットを伝送するものとする。ただし、測定パケット長が1500バイトのパケットを伝送できない場合は、パケット長が最大のものとする。
③ユニキャスト通信用のIPパケットを用いる。
④ヘッダ部のデータパターンは任意とし、測定パケットのデータパターンは全て0とする。
⑤消費電力の測定に際して、ルータの最大実効伝送速度に適応した必要最小限のパケットを送信することを可とする。
⑥ルータが受信したパケットをルーティングする設定とする。なお、ルーティングとは、日本産業規格X5003に規定する開放型システム間相互接続の基本参照モデル6.に示す参照モデルのうち第3層(ネットワーク層)を利用して、ネットワーク上のデータの中継を行うものであり、具体的にはIPアドレスを参照して中継動作を行うものとする。なお、中継動作に際して、IPアドレスのヘッダ情報であるTTLを減算し、異なるデータリンクへの中継を行うこととする。
⑦ルータの基本性能・機能を損なうことなく着脱できる部品又は停止可能な機能については、取り外し又は停止して測定することとする。
⑧測定に関与しないポートについてはリンクダウンすることができる。
⑨周囲温度は16℃~32℃とする。ただし、無線付きのルータは0℃~40℃とする。
⑩電源電圧は、定格入力電圧(100Vまたは200V)±10%の範囲とする。
⑪AC電源の周波数は、定格周波数とする。
⑫定常状態で測定することとする。
⑬AC電源を採用している製品では、コンセントプラグの端子における消費電力を測定すること。
⑭AC電源の場合、有効電力を消費電力とすること。

(2) 無線付きのルータは以下の条件とする。
①無線送信方向はWAN側からLAN側への送信方向とする。
②同時動作可能な無線LANインターフェースが複数ある場合は同時動作することとする。
③データの圧縮機能、出力電力等の調整機能を停止した構成とする。
④リンク速度はルータの最大リンク速度とする。
⑤測定機器にはパケットジェネレータを用いて測定すること。

付録

付表 情報通信用語の解説

 項 目 名     内   容  
ADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line)電話局から各家庭や事業所まで引かれている、銅線の加入者電話回線(Subscriber Line)を利用して、数M~十数Mbit/s の高速データ通信を可能にする通信方式。'90 年頃に開発され、既設の2 芯の銅線をそのまま使って高速データ通信を行えるが、距離が長くなると減衰やノイズの影響などによって最大転送レートが下がるため、通常は電話局から数 km までの範囲でしか利用できない。「Asymmetric」(非対称)という名のとおり、非対称型の通信方式で、電話局から利用者に向けた下り方向と上り方向ではデータ転送速度が異なる。
CODEC (Coder Decoder)符号化方式を使ってデータの符号化と復号化を双方向にできる装置やソフトウェアなどのこと。
CPU (Central Processing Unit)CPU は、プログラムによって様々な数値計算や情報処理、機器制御などを行うコンピュータにおける中心的な回路である。
DSP (Digital Signal Processor)デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサで、データ処理を高速に行うことが出来る。
FTTH (Fiber To The Home)電話局から各家庭までの加入者線を結ぶアクセス網を光ファイバー化し、高速な通信環境を構築する計画。1986 年に米国の地域電話会社サザン・ベルがフロリダ州で実験を行ったのが始まりで、日本では 1994 年に NTT が全国を 2010 年までに光ファイバー化する FTTH の推進を開始した(1997 年の政府経済対策閣僚会議では 2005 年までを要求)
IEEE802 委員会IEEE は、米国の電気・電子技術の学会。802 委員会は、LAN 等の標準化を担当する下部組織。
IEEE 802.11nIEEE が 2008 年後半策定予定の無線 LAN 規格の一つ。実効速度 100Mbps 以上となる。複数のアンテナを用いて送受信を行うMIMO(Multiple Input Multiple Output)」を使用し、高速無線通信を可能とする方式。
IP (Internet Protocol)OSI 参照モデルにおける、ネットワーク層(第3 層)のプロトコル。ネットワーク上の各ノードに割り当てられたIP アドレスをベースにして、2つのノード間で、ベストエフォート型のデータグラム指向の通信を行う。IP は、ベストエフォート型のデータグラム指向の通信なので、相手先へパケットが届かないこともあるし、複数のパケットが到着する可能性もあるが、その場合の再送などの制御は、すべて上位プロトコル(TCP:Transmission Control Protocol 等)にまかされている。
LAN (Local Area Network)同一フロア、同一のビルないしは近隣のビル内などにあるコンピュータ同士を、イーサネットなどの比較的高速なデータ転送能力を持つ方法で接続したネットワーク。
MAC (Media Access Control) MAC アドレス媒体アクセス制御のためのアドレスで、すべてのNIC(Network Interface Card)に固有の番号のこと。コンピュータネットワーク技術において、OSI 参照モデルの第 2 層(データリンク層)の副層のこと。イーサネットの場合 MAC アドレスは 48bit で、前半 24bit は IEEE(米国電気電子技術者協会)が管理する各ベンダー固有のアドレス、後半24bit がNIC ごとの固有の番号となっている。世界中で同じ MACアドレスを持つ NICは存在しない。イーサネットはこの MACアドレスをもとにしてデータの送受信を行う。マネジメント機能も有するスイッチ製品は、最小一個のMACアドレスをもつ。ルーター製品もWAN数とLAN側の一つを合わせたMACアドレス数をもつ。
ONU (Optical Network Unit)光ファイバー通信(FTTH)において、端末側(家庭側)に設置する終端装置。光からイーサネット等への変換を行う。
RF (Radio Frequency)無線通信等の高周波信号のこと。
SLIC (Subscriber-Loop-Interface-C ircuit)電話線のインターフェース。
TTL (Time to Live)TTL は IP ヘッダに記載された値。パケットが1つのルーターを通過する毎に 1 が減算される。TTLが0になった場合にパケットを廃棄することでネットワーク上をパケットが無限ループすることを防ぐ。
VoIP (Voice over IP)IP ネットワーク上で音声通話を実現する技術。電話網のインフラをデータネットワークと統合することで、回線の稼働率を上げ、通信コストを下げるのが目的。LAN 同士をデータ通信網で結び、電話対電話で通話を可能にする企業向けのシステムを指すことが多い。
VPN (Virtual Private Network)VPN は専用通信回線の代わりに公衆通信網を、多数の加入者であたかも専用線のように利用する技術。LAN 間接続などが代表的な利用例。
WAN (Wide Area Network)通常はLANに対比して使用される言葉で、遠隔地にあるコンピュータ同士(LAN 同士)を接続した広い、範囲をカバーする広域ネットワークのこと。
イーサネット (Ethernet)米ゼロックス社パロアルト研究所にて発明され、IEEE〈米国電気電子技術者協会〉という機関によって定められた通信方式の規格。通信速度や通信に使用するケーブル、データのやりとりの方式が定められていて、現在国内外で使用されているものの多くはこの規格に準拠している。社内 LAN などで使われる 10BASE-T、100 BASE‒T もこの規格のひとつ。IEEE は、標準化・策定をおこなう学会組織でその中の 802.3 委員会でイーサネットが審議され続ける。
モデム (Modem)デジタル信号をアナログ信号に変換し(またはこの逆の変換を行ない)、電話回線を経由してコンピュータ同士が通信できるようにするための装置。
ルーティング (Routing)経路制御と訳し、ネットワーク上に送りだされたパケットの宛先情報を調べて、正しく目的の装置へ届くように制御すること。
無線 LAN (Wireless LAN)有線ケーブルを使わず、電波や光などの無線で通信を行う LAN。 2000 年に対応製品が各社から発売され、爆発的な普及を始めた。有線ケーブルの敷設が必要ないため、オフィスでは配置換えで机を動かした際もケーブルの再敷設といった手間を省けるほか、ケーブルの敷設が困難な家庭内でもニーズが高まっている。
出所)資源エネルギー庁:総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会ルータ等判断小委員会、最終とりまとめ、2008年3月

<参考文献>

1)2009年経済産業省告示226号(制定)「ルーティング機器のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改正2019年告示46号
2)資源エネルギー庁:総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会ルータ等判断小委員会、最終とりまとめ、2008年3月