基準エネルギー消費効率
コンピュータの基準エネルギー消費効率は経済産業省の告示「電子計算機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」に示されています。コンピュータのタイプとして、サーバ型とクライアント型の2種についての省エネ基準(基準エネルギー消費効率)が示されています。
ここでは、家庭の省エネを対象としているため、クライアント型のコンピュータ(パソコン)についてのみ記載します。告示では省エネ基準を設定するために以下の区分がされています。
① ノートブック
② デスクトップ-一体型、分離型に細分化
さらに、ノートブックについてはPスコア(中央演算処理装置CPUのコア数にクロック周波数(GHz)を乗じた数値)により3区分となっています。またデスクトップはPスコアと筐体容量により6区分されており、それぞれ以下の性能数値を用いて省エネ基準が算定されるようになっています。
●メインメモリ
●ディスプレイの画素数
●磁気ディスク装置の容量
● グラフィック
● 内部電源装置
これらの区分毎の省エネ基準の算定式を下表に示します。
表-1 パソコンの基準エネルギー消費効率の算定方法
製品形態の種別 | Pスコア | 画面サイズ | 筐体容量 | 区分名 | 〈目標基準値〉基準エネルギー消費効率の算定式 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ノートブック パーソナル コンピュータ | 8未満 | 15型未満 | ― | 10 | E=5.21+TECmemory +TECint_display + TECstorage + TECgraphic | |
15型以上 | ― | 11 | E=7.75 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic | |||
8以上 | ― | ― | 12 | E=11.34 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic | ||
デスクトップ パーソナル コンピュータ | 一体形 | 8未満 | ― | ― | 13 | E=39.87 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic |
8以上 | ― | ― | 14 | E=53.32 + TECmemory + TECint_display + TECstorage + TECgraphic | ||
分離型 | ― | ― | 5リットル未満 | 15 | E=29.59 + TECmemory + TECstorage + TECgraphic | |
― | ― | 5リットル以上 20リットル未満 | 16 | E=31.33 + TECmemory + TECstorage + TECgraphic+ TECpower | ||
― | ― | 20リットル以上 35リットル未満 | 17 | E=28.45 + TECmemory + TECstorage + TECgraphic+ TECpower | ||
― | ― | 35リットル以上 | 18 | E=40.47 + TECmemory + TECstorage + TECgraphic+ TECpower |
備考
- 「一体形デスクトップパーソナルコンピュータ」とは、コンピュータ本体とディスプレイが一つの交流電源ケーブルを介して交流電力を受け単一機器として機能するデスクトップコンピュータをいう。
- 「分離型デスクトップパーソナルコンピュータ」とは、ディスプレイを有さないコンピュータ本体と外部ディスプレイからなるデスクトップコンピュータをいう。
- 「Pスコア」とは、中央演算処理装置のコア数に中央演算処理装置のクロック周波数(GHz)を乗じた数値とする。
- 「画面サイズ」とは、表示画面の対角外径寸法をセンチメートル単位で表した数値を2.54で除して小数点第2位以下を四捨五入した数値とする。
- 「筐体容量」とは、電子計算機においてハードウェアを構成する部品を収納する筐体の容量をリットルで表した数値とする。
- Eは次の数値を表すものとする E:基準エネルギー消費効率(kWh/年)
- TECmemoryの数値は次の式により算出するものとする。TECmemory=Mmax × αm、Mmax:キャッシュメモリを除いた最大記憶容量(GB)、αmの数値は次の表の左欄に掲げる区分に応じて、同表の右欄に掲げる数値とする。
区分 | αm |
---|---|
区分10、11及び12 | 0.186 |
区分13、14、15、16、17及び18 | 0.248 |
- TECint_displayは次の表の左欄に掲げる区分に応じて、同表の右欄に掲げる算定式により算出するものとする。
区分 | 画面サイズ | TECint_display |
---|---|---|
区分10、11及び12 | ― | TECint_display= (8.76×0.30) × ((A÷2.54÷2.54)×0.0300+r×0.244) |
区分13及び14 | 17.4型未満 | TECint_display= (8.76×0.35) × ((A÷2.54÷2.54)×0.0300+r×0.244) |
17.4型以上 | TECint_display= (8.76×0.35) × ((A÷2.54÷2.54)×0.0393) | |
A:表示画面の縦寸法に横寸法を乗じて小数点第2位以下を四捨五入した数値(cm2) r:画面に表示される総画素数(単位メガピクセル) |
- TECstorageは次の表の左欄に掲げる区分に応じて、同表の右欄に掲げる数値とし、2.5型磁気ディスク装置及び3.5型磁気ディスク装置のいずれも有さない場合は0とする。
区分 | 磁気ディスク装置の種別 | TECstorage |
---|---|---|
区分10、11及び12 | ― | 2.51 |
区分13、14、15、16、17及び18 | 2.5型磁気ディスク装置を有するもの | 3.14 |
3.5型磁気ディスク装置を有するもの | 20.38 |
- TECgraphicは次の表の左欄に掲げる区分に応じて、同表の右欄に掲げる算定式により算出するものとし、独立型GPUを有さない場合は0とする。
区分 | TECgraphic |
---|---|
区分10、11及び12 | TECgraphic=4.198 |
区分13、14、15、16、17及び18 | TECgraphic=0.587×FB+30.463 |
FB:画面に表示する画像データを一時的に保管するメモリ領域(単位 ギガビット毎秒) ただし、上記の算定式の結果、TECgraphicが130以上の場合は130の数値を用いるものとする。 |
- TECpowerの数値は次の式により算出するものとする。TECpower=PAC × 0.0543、PAC:内部電源装置の定格入力(W)
年間消費電力量の算定方法
経済産業省の告示では、年間消費電力量は日本工業規格JIS C 62623:2014「パーソナルコンピュータの消費電力測定方法」に従うと書かれています。JISでは以下のように測定し、年間消費電力量を推定できるものとされています(以下はJIS C62623:2014、「5.6.2 推定値による年間消費電力量の計算式(推定有効作業負荷)」よりの引用です)。
TECestimated=(8760/1000)×[Poff×Toff+Psleep×Tsleep+Pidle×Tidle+Psidle×(Tsidle+Twork)]
- 100%=Toff+Tsleep+Tidle+Tsidle+Twork
- TECestimated:年間消費電力量の推計値(kWh/年)
- Toff :製品がオフモードに費やす時間の年間比率
- Tsleep:製品がスリープモードに費やす時間の年間比率
- Tidle:製品がオン状態でありロングアイドルモード(画面表示なし)である時間の年間比率
- Tsidle:製品がオン状態でありショートアイドルモード(画面表示あり)である時間の年間比率
- Twork:製品がオン状態でありアクティブモード(画面表示あり)である時間の年間比率
- Poff:オフモードにおける平均消費電力測定値(W)
- Psleep:スリープモードにおける平均消費電力測定値(W)
- Pidle:ロングアイドルモードにおける平均消費電力測定値(W)
- Psidle:ショートアイドルモードにおける平均消費電力測定値(W)
この各モードの消費電力(Px)についてはJISで細かく測定条件を規定されているのですが、簡単に言えばオフモードは電源OFFの状態、スリープモードは文字通りスリープの状態、ロングアイドルとショートアイドルはパソコン上で電源が入っていて入力がされない状態を言います。
上記の計算式に用いる各コンピュータの各モードの年間比率(Tx)は、下表の値が推奨されています(JIS C 62623:2014、附属書B(参考)「主要プロファイル」の「表B.1-企業の主要プロファイル負荷サイクル調査における負荷サイクル特性」を引用しています)。JISおよびISO/IEC及び国際エネルギースタープログラム コンピュータ基準7.0においても当該比率が規定されているとのことです。なお、本年間比率はオフィスでの作業上の実測結果に基づいています2)。
表-2 コンピュータの各モード別の年間比率の推奨値
デスクトップ | ノートブック | |
---|---|---|
Toff | 45 | 25 |
Tsleep | 5 | 35 |
Tidle | 15 | 10 |
Tsidle | 35 | 30 |
Twork | 0 | 0 |
上記の推奨された年間比率を使うと年間消費電力量は以下のように推計されます。
・ デスクトップコンピュータ TECestimated
=8.76×(Poff×45%+Psleep×5%+Pidle×15%+Psidle×35%)
・ ノートブックコンピュータ TECestimated
=8.76×(Poff×25%+Psleep×35%+Pidle×10%+Psidle×30%)
以下に JIS C 62623 に示されている年間消費電力量の計算事例(JIS62623、附属書D TEC計算例)を示します。
1.ノートブックパソコンの計算例
これは、JIS C 62623:2014の附属書D「TEC計算例」、「D.2 ノートブックパーソナルコンピュータの例」の引用です。ノートブックパーソナルコンピュータは、そのTEC値(年間消費電力量)を測定することを目的として、次の構成をもつものとする。
− 2コアCPU
− 15インチ(38.1 cm)ディスプレイ
− 2メモリ伝送路能力
− 4ギガバイトメモリ
− 一体形グラフィックス制御装置
このノートブックパーソナルコンピュータを使用してJISに規定した試験を実施し,その結果を以下のように得た。
Poff =1.4 W
Psleep =4.3 W
Pidle =8.7 W
Psidle =13.2 W
推奨された年間比率を用いる場合は、次の計算式を使用する。
Notebook TECestimated=8.76×(Poff×25 %+Psleep×35 %+Pidle×10 %+Psidle×30 %)
この計算式に測定値を代入する。
Notebook TECestimated=8.76×(1.4×25 %+4.3×35 %+8.7×10 %+13.2×30 %)
よって、
Notebook TECestimated=58.6 kWh/年
2.デスクトップパソコンの計算例
これは、JIS C 62623:2014の附属書D「TEC計算例」、「D.3 デスクトップパーソナルコンピュータの例」の引用です。一体形デスクトップパーソナルコンピュータは、そのTEC値を測定することを目的として、次の構成をもつものとする。
− 3コアCPU
− 20インチディスプレイ
− 3メモリ伝送路能力
− 4ギガバイトメモリ
− 一体形グラフィックス制御装置
この一体形デスクトップパーソナルコンピュータを使用してJISに規定した試験を実施し、 その結果を以下のように得た。
Poff =2.2 W
Psleep =4.1 W
Pidle =25.7 W
Psidle =33.6 W
推奨された年間比率を用いる場合は,次の計算式を使用する。
Desktop TECestimated=8.76×(Poff×45 %+Psleep×5 %+Pidle×15 %+Psidle×35 %)
この計算式に測定値を代入する。
Desktop TECestimated=8.76×(2.2×45 %+4.1×5 %+25.7×15 %+33.6×35 %)
よって、
Desktop TECestimated=147.3 kWh/年
※JISは著作権で守られています。JISの規格文書は一般社団法人日本規格協会から入手することができます。pdf、印刷物、CDを購入することができ、それらは購入者本人の利用に限定されています3)。本サイトのJISに関する記載内容は日本規格協会の許可を得て掲載しています。
一方、一般社団法人日本産業標準調査会のホームページからJISの番号検索を行い閲覧することは可能です。ただし、pdfのダウンロードはできませんので、pdfの取得、印刷物は購入することになります。閲覧を希望の方は同調査会のWebサイトをご確認ください4)。
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<参考文献>
1)1999年通商産業省告示第194号(廃止・制定)「電子計算機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改定2019年経済産業省告示第69号
2)日本工業規格JIS C 62623:2014「パーソナルコンピュータの消費電力測定方法」
3)一般社団法人日本規格協会、日本規格協会のWeb販売サイト、https://webdesk.jsa.or.jp/
4)一般社団法人日本産業標準調査会 、公式Webサイト
https://www.jisc.go.jp/index.html