IPCC第6次評価報告書WG2政策決定者向け要約

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第55 回総会及び同パネル第2作業部会(WG2)第12回会合が2022年2月14 日(月)から同年2月27 日(日)にかけてオンラインで開催され、IPCC 第6次評価報告書(AR6)WG2 報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、同報告書の本体等が受諾されました。

 なお、各作業部会の検討内容は以下の通りです。

 第1作業部会(WG1)- 自然科学的根拠
 第2作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性
 第3作業部会(WG3)- 気候変動の緩和

 第1作業部会の報告書は昨年8月に公表されています(「IPCC第6次評価報告書WG1政策決定者向け要約(SPM)」を確認ください)。 

 ここでは、環境省が公表した和文要約を引用します(2022年2月28日環境省報道発表)。なお、英語版原本を読まれる方は以下からアクセスできます。

https://report.ipcc.ch/ar6wg2/pdf/IPCC_AR6_WGII_SummaryForPolicymakers.pdf

政策決定者向け要約(SPM)の構成

 A:はじめに
 B:観測された影響及び予測されるリスク
 C:適応策と可能とする条件
 D:気候にレジリエントな開発

A:はじめに

 本報告書は、気候、生態系と生物多様性、人間社会の相互依存性を認識し、過去のIPCCの評価報告書に比べて、自然科学、生態学、社会科学及び経済学にわたって知識をより強力に統合する。気候変動の影響及びリスクの評価は、適応の評価とともに、同時に明らかになっている気候以外の世界の動向(例えば、生物多様性の喪失、全般的に持続可能ではない自然資源の消費、土地及び生態系の劣化、急速な都市化、人間の人口移動、社会経済的不平等、そしてパンデミック)の文脈において行っている。

B:観測された影響及び予測されるリスク

B.1 観測された気候変動影響

 人為起源の気候変動は、極端現象の頻度と強度の増加を伴い、自然と人間に対して、広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を、自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしている。開発と適応の努力の中には脆弱性を低減させるものもある。複数の部門や地域にわたり、最も脆弱な人々とシステムが不均衡に影響を受けていると見受けられる。気象や気候の極端現象の増加により、自然と人間のシステムはそれらの適応能力を超える圧力を受け、それに伴い幾つかの不可逆的な影響をもたらしている。(確信度が高い) (図SPM.2)

図SPM.2(a) 生態系において観測された気候変動影響
図SPM.2(b)  人間システムにおいて観測された気候変動影響

B.2 生態系と人間の脆弱性と暴露

 気候変動に対する生態系及び人間の脆弱性は、地域間及び地域内で大幅に異なる(確信度が非常に高い)。これは、互いに交わる社会経済的開発の形態、持続可能ではない海洋及び土地の利用、不衡平、周縁化、植民地化等の歴史的及び現在進行中の不衡平の形態、並びにガバナンスによって引き起こされる(確信度が高い)。約33~36 億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活している(確信度が高い)。種の大部分が気候変動に対して脆弱である(確信度が高い)。人間及び生態系の脆弱性は相互に依存する(確信度が高い)。現在の持続可能ではない開発の形態によって、生態系及び人々の気候ハザードに対する曝露が増大している(確信度が高い)。

B.3 短期的なリスク(2021~2040 年)

 地球温暖化は、短期のうちに1.5℃に達しつつあり、複数の気候ハザードの不可避な増加を引き起こし、生態系及び人間に対して複数のリスクをもたらす(確信度が非常に高い)。リスクの水準は、脆弱性、曝露、社会経済的開発の水準及び適応に関する短期的な傾向に左右される(確信度が高い)。地球温暖化を1.5℃付近に抑えるような短期的な対策は、より高い水準の温暖化に比べて、人間システム及び生態系において予測される、気候変動に関連する損失と損害を大幅に低減させるだろうが、それら全てを無くすることはできない(確信度が非常に高い)。

B.4 中期的~長期的なリスク(2041~2100 年)

 2040 年より先、地球温暖化の水準によって、気候変動は自然と人間のシステムに対して数多くのリスクをもたらす(確信度が高い)。127 の主要なリスクが特定されており、それらについて評価された中期的及び長期における影響は、現在観測されている影響の数倍までの大きさになる(確信度が高い)。気候変動の規模と速度、及び関連するリスクは、短期における緩和や適応の行動に強く依存し、予測される悪影響と関連する損失と損害は、地球温暖化が進むたびに拡大していく(確信度が非常に高い)。

B.5 複雑で複合的かつ連鎖的なリスク

 気候変動の影響とリスクはますます複雑化しており、管理が更に困難になっている。複数の気候ハザードが同時に発生し、複数の気候リスク及び非気候リスクが相互に作用するようになり、その結果、全体のリスクが複合化し、異なる部門や地域間でリスクが連鎖する。気候変動に対する対応の中には、新たな影響とリスクをもたらすものもある。(確信度が高い)

B.6 一時的なオーバーシュートの影響

 地球温暖化が、次の数十年間又はそれ以降に、一時的に1.5℃を超える場合(オーバーシュート)、1.5℃以下に留まる場合と比べて、多くの人間と自然のシステムが深刻なリスクに追加的に直面する(確信度が高い)。オーバーシュートの規模及び期間に応じて、一部の影響は更なる温室効果ガスの排出を引き起こし(確信度が中程度)、一部の影響は地球温暖化が低減されたとしても不可逆的となる(確信度が高い)

C:適応策と可能とする条件

C.1 現在の適応とその便益

 適応の計画及び実施の進展進捗は、全ての部門及び地域にわたって観察され、複数の便益を生み出している(確信度が非常に高い)。しかし、適応の進展は不均衡に分布しているとともに、適応ギャップが観察されている(確信度が高い)。多くのイニシアチブは、即時的かつ短期的な気候リスクの低減を優先しており、その結果、変革的な適応の機会を減らしている(確信度が高い)

C.2 将来の適応オプションとその実行可能性

 人々及び自然に対するリスクを低減しうる、実行可能で効果的な適応オプションが存在する。短期における適応オプションの実行可能性は、部門及び地域にわたって差異がある(確信度が非常に高い)。適応策が気候リスクを低減する有効性は、特定の条件、部門及び地域について報告されており(確信度が高い)、温暖化が進むと効果が低下する(確信度が高い)。社会的不衡平に対処し、気候リスクに応じた工夫を差異化し、複数のシステムを横断するような、統合的な多部門型の解決策は、複数の部門における適応の実行可能性と有効性を向上させる(確信度が高い)。

C.3 適応の限界

 人間の適応にはソフトな(適応の)限界に達しているものもあるが、様々な制約、主として財政面、ガナバンス、制度面及び政策面の制約に対処することによって克服しうる(確信度が高い)。一部の生態系はハードな(適応の)限界に達している(確信度が高い)。地球温暖化の進行に伴い、損失と損害が増加し、更に多くの人間と自然のシステムが適応の限界に達するだろう(確信度が高い)

C.4 適応の失敗の回避

 第5次評価報告書(AR5)以降、多くの部門及び地域にわたり、適応の失敗の証拠が増えている。気候変動に対する適応の失敗につながる対応は、変更が困難かつ高コストで、既存の不平等を増幅させるような、脆弱性、曝露及びリスクの固定化(ロックイン)を生じさせうる。適応の失敗は、多くの部門及びシステムに対して便益を伴う適応策を、柔軟に、部門横断的に、包摂的に、長期的に計画及び実施することによって回避できる。(確信度が高い)

C.5 可能とする条件

 可能にする条件は、人間システム及び生態系における適応を実施し、加速し、継続するために重要である。これらには、政治的コミットメントとその遂行、制度的枠組み、明確な目標と優先事項を掲げた政策と手段、影響と解決策に関する強化された知識、十分な財政的資源の動員とそれへのアクセス、モニタリングと評価、包摂的なガバナンスのプロセスが含まれる。(確信度が高い)

D:気候にレジリエントな開発

D.1 気候にレジリエントな開発の条件

 観測された影響、予測されるリスク、脆弱性のレベル及び動向並びに適応の限界の証拠から、世界中で気候にレジリエントな開発のための行動をとることについて、第5 次評価報告書(AR5)における以前の評価に比べて更に緊急性が高まっていることを示す。包括的で、効果的かつ革新的な対応によって、持続可能な開発を進めるために、適応と緩和の相乗効果を活かし、トレードオフを低減することができる(確信度が非常に高い)。

図 SPM.5 気候にレジリエントな開発を可能とする好機は急速に減少している
気候にレジリエントな開発(CRD)は、持続可能な開発を支える温室効果ガスの緩和策や適応策を実施するプロセスである。この図は、AR5 WG2(気候にレジリエントな経路を表す)の図SPM.9に基づき、CRDの経路がいかに複数の場における社会的選択と対策の累積の結果であるかを表す。パネル(a)CRDの向上(緑の歯車)又はCRDの低下(赤い歯車)に向かう社会的選択は、気候リスク、適応の限界、開発ギャップの文脈における、多様な政府、民間部門及び市民社会の主体による意思決定と対策の相互作用の結果である。
これらの主体は、局地的なレベルから国際的なレベルにおいて、政治的な場、経済的・財政的な場、生態学的な場、社会文化的な場、知識とテクノロジーの場、及びコミュニティで、適応策、緩和策及び開発行為に取り組んでいる。気候にレジリエントな開発の機会は、世界全体に衡平に分布していない。パネル(b):継続的に行われる社会的選択は累積することで、世界全体の開発経路を気候にレジリエントな開発の向上(緑色)又は低下(赤色)に向かわせる。過去の条件(過去の排出量、気候変動及び開発)によって既に、CRDを向上させる一部の開発経路が排除されている(緑の点線)。パネル(C):より高度なCRDは、全ての人々にとって持続可能な開発を促進する結果となるのが特徴である。気候にレジリエントな開発は、地球温暖化の水準が1.5℃を超えると徐々に達成が困難になる。2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)の進捗が十分でない場合は、気候にレジリエントな開発の見込みが低下する。残余カーボンバジェットを考慮すると、適応の限界と気候変動のリスクの増加に反映されるように、更に気候にレジリエントな開発に向けて経路を動かす好機が減少している。

D.2 気候にレジリエントな開発を可能とする

 気候にレジリエントな開発は、行政、市民社会及び民間部門が、リスクの低減、衡平性及び正義を優先する包摂的な開発を選択するとき、そして意思決定プロセス、資金及び対策が複数のガバナンスのレベルにわたって統合されるときに可能となる(確信度が非常に高い)。気候にレジリエントな開発は、国際協力によって、そして全てのレベルの行政がコミュニティ、市民社会、教育機関、科学機関及びその他の研究機関、報道機関、投資家、並びに企業と協働することによって促進されるとともに、女性、若者、先住民、地域コミュニティ及び少数民族を含む伝統的に周縁化されている集団とパートナーシップを醸成することによって促進される(確信度が高い)。これらのパートナーシップは、それを可能とする政治的な指導力、制度、並びに資金を含む資源、気候サービス、情報及び意思決定支援ツールによって支援されるときに最も効果的である(確信度が高い)。(図SPM.5)

D.3 自然と人間のシステムのための気候にレジリエントな開発

 変化する都市形態と曝露及び脆弱性の相互作用によって、気候変動に起因するリスク及び損失が、都市及び居住地に生じうる。しかし、世界的な都市化の傾向は、短期的には、気候にレジリエントな開発を進める上で重要な機会も与える(確信度が高い)。社会的、生態学的及びグレー/物理的なインフラを含む、都市インフラに関する日常的な意思決定に対する統合的で包摂的な計画及び投資は、都市域及び農村域の居住地の適応能力を大幅に高めうる。衡平な結果は、先住民や周縁化された脆弱なコミュニティを含め、健康と福祉そして生態系サービスにとっての複数の便益に貢献する(確信度が高い)。都市域における気候にレジリエントな開発は、都市部周辺地域の製品及びサービスのサプライチェーンや資金の流れを維持することによって、都市化がそれほど進んでいない地域における適応能力をも支える(確信度が中程度)。沿岸域の都市及び居住地は、気候にレジリエントな開発を進める上で特に重要な役割を果たす(確信度が高い)。

D.4 不適応の回避

 生物多様性及び生態系の保護は、気候変動がそれらにもたらす脅威や、適応と緩和におけるそれらの役割に鑑み、気候にレジリエントな開発に必須である(確信度が非常に高い)。幅広い証拠から導き出された最近の分析は、地球規模での生物多様性及び生態系サービスのレジリエンスの維持は、現在自然に近い状態にある生態系を含む、地球の陸域、淡水及び海洋の約30%~50%の効果的かつ衡平な保全に依存すると示唆している(確信度が高い)

D.5 気候にレジリエントな開発の実現にむけて

 気候変動が既に人間と自然のシステムを破壊していることは疑う余地がない。過去及び現在の開発動向(過去の排出、開発及び気候変動)は、世界的な気候にレジリエントな開発を進めてこなかった(確信度が非常に高い)。次の10 年間における社会の選択及び実施される対策によって、中期的及び長期的な経路によって実現される気候にレジリエントな開発が、どの程度強まるかあるいは弱まるかが決まる(確信度が高い)。重要なのは、現在の温室効果ガス排出量が急速に減少しなければ、特に短期のうちに地球温暖化が1.5℃を超えた場合には、気候にレジリエントな開発の見込みがますます限定的となることである(確信度が高い)。これらの見込みは、過去の開発、排出量及び気候変動によって制約され、包摂的なガバナンス、十分かつ適切な人的及び技術的資源、情報、能力及び資金によって可能となる(確信度が高い)