IPCC第6次評価報告書WG1政策決定者向け要約(SPM)

IPCC報告書について

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は過去に地球温暖化に関する様々な評価報告書を公表してきました。IPCC内に以下の3つの作業部会があり、それぞれの分野において世界中の専門家が集結して研究し、成果を公表しています。

 第1作業部会(WG1)- 自然科学的根拠
 第2作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性
 第3作業部会(WG3)- 気候変動の緩和

 既に第5次評価報告書が公表され、直近では2016年10月に「1.5℃特別報告書」が公表されていました。IPCC第41回総会(2015年2月)において、第6次評価報告書(AR6)は5~7年の間に作成すること、その後18カ月以内に公表することなどが決定されており、2021年はその作成期限に近づいていました。

 環境省のWebサイトにて、IPCC第54回総会及び同パネルWG1第14回会合が、2021年7月26日から8月6日にかけてオンラインで開催され第6次評価報告書第1作業部会報告書(AR6/WG1)の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、同報告書が受諾されたことが公表されています(2021年8月9日報道発表)。

 そのため、ここではこの報告書について概要を報告します。なお、報告書の本体等は、総会での議論を踏まえた編集作業等を経て、2021年12月頃にIPCCから公表される予定のようですので、その際に再度内容を精査する予定です。 

IPCC第6次報告書WG1政策決定者向け要約の概要

A. 気候の現状

A.1 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。

A.2 気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである。

A.3 人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている。熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象について観測された変化に関する証拠、及び、特にそれら変化を人間の影響によるとする原因特定に関する証拠は、AR5 以降、強化されている。

A.4 気候プロセス、古気候的証拠及び放射強制力の増加に対する気候システムの応答に関する知識の向上により、AR5 よりも狭い範囲で、3℃という平衡気候感度の最良推定値が導き出された。

B. 将来ありうる気候

B.1 世界平均気温は、本報告書で考慮した全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21 世紀中に、地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える。

B.2 気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大する。この気候システムの変化には、極端な高温、海洋熱波、大雨、いくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度、強い熱帯低気圧の割合、並びに北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小を含む。

B.3 継続する地球温暖化は、世界全体の水循環を、その変動性、世界的なモンスーンに伴う降水量、降水及び乾燥現象の厳しさを含め、更に強めると予測される。

B.4 二酸化炭素(CO2)排出が増加するシナリオにおいては、海洋と陸域の炭素吸収源が大気中のCO2 蓄積を減速させる効果は小さくなると予測される。

B.5 過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的である。

C. リスク評価と地域適応のための気候情報

C.1 自然起源の駆動要因と内部変動は、特に地域規模で短期的には人為的な変化を変調するが、百年単位の地球温暖化にはほとんど影響しない。起こりうる変化全てに対して計画を立てる際には、これらの変調も考慮することが重要である。

C.2 より一層の地球温暖化に伴い、全ての地域において、気候的な影響駆動要因(CIDs)の同時多発的な変化が益々経験されるようになると予測される。1.5℃の地球温暖化と比べて2℃の場合には、いくつかのCIDs の変化が更に広範囲に及ぶが、この変化は、温暖化の程度が大きくなると益々広範囲に及び、かつ/又は顕著になるだろう。

C.3 氷床の崩壊、急激な海洋循環の変化、いくつかの複合的な極端現象、将来の温暖化として可能性が非常に高いと評価された範囲を大幅に超えるような温暖化など、「可能性の低い結果」も、排除することはできず、リスク評価の一部である。

D. 将来の気候変動の抑制

D.1 自然科学的見地から、人為的な地球温暖化を特定のレベルに制限するには、CO2 の累積排出量を制限し、少なくともCO2 正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある。メタン排出の大幅な、迅速かつ持続的な削減は、エーロゾルによる汚染の減少に伴う温暖化効果を抑制し、大気質も改善するだろう。

D.2 温室効果ガス排出量が少ない又は非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9 及びSSP1-2.6)は、温室効果ガス排出量が多い又は非常に多いシナリオ(SSP3-7.0 又はSSP5-8.5)と比べて、温室効果ガスとエーロゾルの濃度及び大気質に、数年以内に識別可能な効果をもたらす。これらの対照的なシナリオ間の識別可能な差異は、世界平均気温の変化傾向については約20 年以内に、その他の多くのCIDs については、より長い期間の後に、自然変動の幅を超え始めるだろう(確信度が高い)。