地球温暖化対策計画の改定

2021年の改定の動き

 前回の地球温暖化対策計画は2016年5月に閣議決定され、公表されました。この時期は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第五次評価報告書(AR5)が出され、今後の地球温暖化防止の目標を「平均気温の上昇を2℃未満にする」ことが求められた時期でした。

 その後、IPCCは2016年12月に「IPCC1.5℃特別報告書」を公表しました。これによると、平均気温の上昇が1.5℃と2℃上昇の間に生じる影響に優位の差があることや、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後には世界の二酸化炭素排出量が正味ゼロとすることが必要との見解でした。

 我が国は、2016年11月にパリ協定を締結し、2020年3月にはNDC(国家が決定した貢献)を国連に提出しました。そして、2020年10月に首相の所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを目標に掲げました。さらに、2021年4月の気候サミットで首相は「2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年において温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦する」と表明しました。

 このような動きを受けて現行の地球温暖化対策計画の改定が必要になり、計画の改定案を審議してきました(中長期の気候変動対策検討小委員会、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会)。2021年7月26日に地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合において、本計画の改訂版に関する協議が行われ、計画の素案が示されました。その後、パブリックコメントを経て最終計画案が作成され、10月22日に閣議決定されました。本文及び資料は参考文献に示しますので、ここではその概要を示します1)

地球温暖化対策計画の概要

(1)地球温暖化対策の基本的考え方

1.環境・経済・社会の統合的向上
2.新型コロナウイルス感染症からのグリーンリカバリー
3.パリ協定への対応
4.研究開発の強化と優れた脱炭素技術の普及等による世界の温室効果ガス削減への貢献
5.全ての主体の意識の変革、行動変容、連携の強化
6.評価・見直しプロセス(PDCA)の重視

(2)温室効果ガスの排出削減・吸収量に関する目標

 温室効果ガスの排出削減・吸収量に関する目標については、下表に示す通りです。素案の時点では排出量は概数で示されていましたが、計画書では百万t‐CO2の単位で書かれており、細かな積み上げの結果が窺われます。また、非エネルギー起源の排出量と吸収源についても示され、最終目標量を正確に数字が追えるようになっています。

表-1 温室効果ガス排出量・吸収量の目標

2013排出実績2030排出量 削減率  従来目標 
合   計14.087.60▲46%▲26%
エネルギー起源CO212.356.77▲45%▲25%
部門別産  業     4.632.89▲38%▲7%
業務その他2.381.16▲51%▲40%
家  庭   2.080.70▲66%▲39%
運  輸   2.241.46▲35%▲27%
エネルギー転換1.060.56▲47%▲27%
非エネルギー起源CO2、メタン、N21.341.15▲14%▲8%
HFC等4ガス(フロン類)0.390.22▲44%▲25%
吸収源-▲0.48-(▲0.37億t-CO2)
二国間クレジット制度(JCM)官民連携で2030年度までの累積で1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指す。我が国として獲得したクレジットを我が国のNDC達成のために適切にカウントする。-
注)単位:億t-CO2
出所)環境省、地球温暖化対策計画

 温室効果ガス排出量・吸収量の合計は二国間クレジットの獲得量を除いて7.66 t‐CO2 ですので、目標値7.60 t‐CO2 との差0.06 t‐CO2 が二国間クレジット分として計上されていることになります。今回、COP26で二国間クレジットの獲得を実現するJCM事業の位置づけも明確になったことから、記載されている通りJCM事業で1億t-CO2の移転が実現すれば、目標値を上回ることができることになります。

(3)目標達成のための対策・施策

 国、地方公共団体、事業者及び国民の基本的役割は以下の通り。
1.「国」の基本的役割
(1)多様な政策手段を動員した地球温暖化対策の総合的推進
(2)率先した取組の実施
(3)国民各界各層への地球温暖化防止行動の働きかけ
(4)地球温暖化対策に関する国際協力の推進
(5)大気中における温室効果ガスの濃度変化の状況等に関する観測及び監視
2.「地方公共団体」の基本的役割
(1)地域の自然的社会的条件に応じた施策の推進
(2)自らの事務及び事業に関する措置
(3)特に都道府県に期待される事項
3.「事業者」の基本的役割
(1)事業内容等に照らして適切で効果的・効率的な対策の実施
(2)社会的存在であることを踏まえた取組
(3)製品・サービスの提供に当たってのライフサイクルを通じた環境負荷の低減
4.「国民」の基本的役割
(1)国民自らの積極的な温室効果ガスの排出の量の削減
(2)地球温暖化防止活動への参加

(4)温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策

 対策の部門別の取り組み内容を体系を下表に示します。

表-2 各部門の取り組み内容

 このうち、家庭部門における取り組み内容は以下の通りです。
C.家庭部門の取組
(a) 脱炭素型ライフスタイルへの転換
(b) 住宅の省エネルギー化
(c) 省エネルギー性能の高い設備・機器の導入促進
(d) 徹底的なエネルギー管理の実施
(e) 電気・熱・移動のセクターカップリングの促進
(f) その他の対策・施策
ここで、「脱炭素型ライフスタイルへの転換」とは以下の内容とされています。
・ LED照明、省エネルギー家電、高効率給湯器、電動車など省エネルギー・脱炭素製品への買換えや、新築住宅のZEH化・既存住宅の断熱リフォーム
・ 家庭における再生可能エネルギー発電設備の導入や脱炭素電力契約への切り替え
・ 再生可能エネルギー電力とEV/PHEV/FCVを活用する「ゼロカーボン・ドライブ」の普及
・ そのほか、地域の実態に応じた徒歩・自転車・公共交通機関の利用促進、エコドライブの実践、カーシェアリングの利用、テレワークや各種オンラインサービスの活用、再配達の抑制など移動・輸送の脱炭素化
・ サステナブルファッションへの切り替え、働き方改革にも資するクールビズ・ウォームビズの実施、旬の食材の地産地消、食品ロス対策、脱炭素に資する製品・サービスの選択をはじめとする身近な場面での取組を通じた脱炭素なライフスタイル・ワークスタイルへの転換

家庭部門における目標と対策について

 表-1に示した通り、家庭部門での温室効果ガス排出削減の目標は従来目標の39%から66%に大幅にアップしています。また、素案に示されていた2019年度との比較でも56%増となっています(表-3参照)。すなわち、家庭部門で現状から50%以上の削減を目標としているのです。しかも、目標年度までは残り10年もないというのにです。

表-3 現状の温室効果ガス排出量(2019年度)との比較

2013年度実績
百万t-CO2
2019年度実績
百万t-CO2
2030年度目標
百万t-CO2
産業部門463384約290
業務その他の部門238193約120
家庭部門208159約70
運輸部門224206約140
エネルギー部門10689.3約60
合  計1,2351,029約680
出所)環境省、地球温暖化対策計画素案、中長期の気候変動対策検討小委員会(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合)(第8回)配布資料、2021年7月26日

 排出削減対策については、脱炭素型ライフスタイルへの転換とあります。この意味は生活スタイル(電気製品、燃料使用、自家用車、住宅、ファッション等あらゆるもの)を全面的に変えていかないといけないことを意味しています。

<参考文献>
1)環境省Webサイト、地球環境・国際環境協力、地球温暖化対策計画、http://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html