建築材料の断熱性能の向上の判断基準

トップランナー制度の対象となる建築材料

 2013年5月にトップランナー制度の建築材料への拡大に関する措置を追加した省エネ法の改正が行われ、同年12月に施行されています。これまでのトップランナー制度は、エネルギーを消費する機械器具が対象でしたが、自らエネルギーを消費しなくても、住宅・ビルや他の機器のエネルギーの消費効率の向上に資する建築材料等を新たにトップランナー制度の対象に追加し、住宅・建築物の断熱性能の底上げを図ったものでした。

 この改正では「外壁等に使用される断熱材」及び「窓に使用されるガラス及びサッシ」が追加されました。断熱材は、「押出法ポリスチレンフォーム」、「グラスウール」、「ロックウール」、「硬質ウレタンフォーム(ボード品)」の4種類です。

 なお、硬質ウレタンフォーム断熱材のうち「現場吹付け品」(施工現場にて硬質ウレタンフォーム原液を専用の吹付け装置を用いて断熱施工面に直接スプレーし、その場で発泡・硬化させたもの、下図参照)については、硬質ウレタンフォーム原液そのものは断熱性能を有さず、断熱性能を得るのは現場吹付け後の状態であるため、法律で規制するのではなくガイドラインによって規制することとしており、ここではその性能基準についても示します。

外壁等に使用される断熱材

 省エネ法施行令(エネルギーの使用の合理化等に関する法律施行令)第21条第2号には断熱材の製造、加工または輸入の事業を行う者に対して性能基準(判断基準)を遵守することを規定しています。そして、その具体的な性能基準値は2013年経済産業省告示第270号で示され、最新の基準は2020年経済産業省告示第68号に示されています1)

 この判断基準はエネルギー消費機器と同様にトップランナー基準と呼ばれる方法で設定されています。エネルギー消費機器のトップランナー制度については、本サイトの「エネルギー消費機器のトップランナー制度と省エネラベリング制度」に詳しく記載していますので、参考にしてください。

 対象とする断熱材は、以下の通りです。
●グラスウール断熱材及びロックウール断熱材(住宅用人造鉱物繊維断熱材)
●押出法ポリスチレンフォーム保温材(発泡プラスチック保温材)
●硬質ポリウレタンフォーム(2種、3種)

 下表に断熱材の種類ごとの性能基準を示します。なお、告示では性能基準の代わりに「基準熱損失防止性能」という言葉を使っています。これらはどちらも「熱伝導率」のことを指しています(熱伝導率の測定方法は日本産業規格JIS A9521:2017に示されています)。

表-1 断熱材の性能向上に関する判断基準

区分区分名基準熱損失防止性能
断熱材の基材断熱材の種類W/(m・K)
押出法ポリスチレンフォーム押出法ポリスチレンフォーム断熱材0.03232
ガラス繊維(グラスウールを含む。以下同じ)グラスウール断熱材0.04156
スラグウール又はロックウールロックウール断熱材0.03781
硬質ポリウレタンフォーム 2種硬質ウレタンフォーム断熱材2種0.02216
 3種硬質ウレタンフォーム断熱材3種0.02289
備考1. 2種とは、日本産業規格A9521(2017)に規定する硬質ウレタンフォーム断熱材の種類が2種のものをいう。
2. 3種とは、日本産業規格A9521(2017)に規定する硬質ウレタンフォーム断熱材の種類が3種のものをいう。
出所)2013年経済産業省告示第270号(制定)「断熱材の性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2020年告示第68号)

 その目標年度は2022年度以降の各年度であり、硬質ポリウレタンフォームを用いた断熱材にあっては、2026年度以降となっています。

 対象となる事業者は以下の事項を、断熱材の見やすい箇所や、カタログまたは技術資料に表示することが義務付けられています。

(1) 品名または形名
(2) 区分名
(3) 熱損失防止性能(熱伝導率)
(4) 事業者名

サッシ

 断熱材と同様に省エネ法施行令に規定された「サッシ」の製造、加工または輸入の事業を行う者に対して性能基準(判断基準)を遵守することを規定しています。

 サッシ及び後に説明する複層ガラスの断熱性能を向上させる対象住居は、戸建住宅、低層共同住宅(以下「戸建住宅等」という。)に使用されるものを対象にしています7)。戸建住宅等の開口部はある程度定型化されているのに対し、高層建築物の開口部はその用途・規模・設計に応じてオーダーメイドで設計されることが通常であり、建築基準法に基づき厳しい耐風基準及び耐火基準への適合が求められていることから、トップランナー制度による改善は見込めないためと想定されたためです。

 そして、その具体的な性能基準値は2014年経済産業省告示第234号(サッシの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等)で示され、最新の改正は2019年経済産業省告示第416号に示されています5)。その目標年度は2022年度以降の各年度です。下表に基準熱損失防止性能の算定式を示します。下図に示すサッシの形式別に性能基準が設定されています。

表-2 サッシの性能向上に関する判断基準

 区分名  区  分基準熱損失防止性能の算定式
(1)引違い片引き窓、引違い窓、引分け窓及び両袖片引き窓に用いられるサッシq=2.21・S0.91+1.38・S0.94+0.14・S0.99
(2)FIX固定窓に用いられるサッシq=1.71・S0.89+1.27・S0.97+0.28・S1.03
(3)上げ下げ片上げ下げ窓及び両上げ下げ窓に用いられるサッシq=2.54・S0.79+1.02・S0.88+0.12・S1.06
(4)縦すべり出したてすべり出し窓に用いられるサッシq=1.49・S0.77+1.56・S0.87+0.37・S1.12
(5)横すべり出しすべり出し窓に用いられるサッシq=1.71・S0.86+1.30・S0.92+0.40・S1.08
出所)経済産業省、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日

 窓の面積を横軸にして温度1K当たりの熱損失をグラフ化したものを下図に示します。「引き違い」タイプの熱損失が最も大きく、「上げ下げ」タイプが一番小さな値をとります。

 本告示における熱損失防止性能とは、単位温度差当たりの熱損失量を言います。具体的にはサッシが構成する窓の熱貫流率に窓の面積を乗じたものです。
 q=U×S
 ここで、
 q:建築物の内外の温度差1度(単位温度差)当たりの熱損失量(W/K)
 U:サッシが構成する窓の熱貫流率(W/(m2・K))
 S:サッシが構成する窓の面積(m2

 サッシが構成する窓の熱貫流率(U)は、日本産業規格 (JIS A4710:2015)に規定する方法により測定された値又はJIS A2102-1(2015)若しくはJIS A2102-2(2011)に規定する方法により算出された値とされています。この場合において、当該窓のガラスは、次の表の左欄に掲げるサッシの種類に応じ、右欄に掲げる仕様のものを用いることとされています。

表-3 サッシの熱貫流率を測定する際に使用するガラスの仕様

サッシの種類ガラスの仕様
23mm以上のガラス厚さに対応可能なサッシ3mmの厚みを有する単板ガラス3枚を組み合わせたものであって、各々のガラスの間隙が7mmであり、かつ当該間隙に一般空気を充填したもの
15mm以上23mm未満のガラス厚さに対応可 能なサッシ3mmの厚みを有する単板ガラス2枚を組み合わせたものであって、ガラスの間隙が12mmであり、かつ当該間隙に一般空気を充填したもの
15mm未満のガラス厚さに対応可能なサッシ3mmの厚みを有する単板ガラス

 また、サッシが構成する窓の面積(S)は、JIS A2102-1(2015)に規定する窓の面積とするとされています。なお、対象となる事業者は断熱材と同様の事項を、製品の見やすい箇所や、カタログまたは技術資料に表示することが義務付けられています。

複層ガラス

 断熱材と同様に省エネ法施行令に規定された「複層ガラス」の製造、加工または輸入の事業を行う者に対して性能基準(判断基準)を遵守することが規定されています。そして、その具体的な性能基準値は2014年経済産業省告示第235号(複層ガラスの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等)で示され、最新の改正は2019年経済産業省告示第416号に示されています6)

 省エネ法においては、ガラス製品のうち複層ガラスのみを制度の対象にしています。複層ガラスには、光学薄膜(Low-E膜)を塗布・蒸着していない板ガラスを使用したもの(一般複層ガラス)とLow-E膜を塗布・蒸着した板ガラスを使用したもの(Low-E複層ガラス)があります(下図参照)。

出所)経済産業省、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日

 単板ガラスが対象から外れたのは、単板ガラスが必ずしも建築材料として窓に用いられるとは限らず、また、ガラスメーカーが出荷段階で用途を特定することができないためとされています。そして、単板ガラスの断熱性能を向上させることは困難であることから、単板ガラスを用いた窓から、より断熱性能の高い複層ガラスを用いた窓への移行を、サッシのトップランナー制度(単板ガラス用サッシから複層ガラス用サッシへの移行)によって促すこととされています7)

 また、複層ガラスのうち、ガラス総板厚み10mm以下のものを対象とするとされています。これは、ガラス総板厚みが10mm以上のものは高層建築物に多く使われているためと、10mm以下のものが基準を検討していた当時(2012年)に、多くの割合を占めていたためです。

 下表に基準熱損失防止性能の算定式を示します。算定式は、中空層の厚さによって異なる性能となっており、中空層が「2mm以上16mm以下」の複層ガラスについては中空層の厚さ(x)による算定式で求められます。ここでの基準熱損失防止性能とは熱貫流率を示しています(中空層が真空の状態の場合は別途熱伝導率を用いて算定されますがここでは省略します)。

表-4 複層ガラスの性能向上に関する判断基準

中空層の厚さ基準熱損失防止性能又はその算定式
2mm未満3.85
2mm以上16mm以下U=-1.00ln(X)+4.55
16mm超1.77
備考1 「中空層の厚さ」とは、並置した板ガラス等の間に生じる間隙(以下「中空層」という) の距離とする。この場合において、一枚の複層ガラスに複数の中空層を有するときは、当該中空層の距離の総和とする。
2 U及びXは、次の数値を表すものとする。
U:基準熱損失防止性能(W/m2・K)
X:中空層の厚さ(mm)
3 lnは自然対数を表すものとする。
<複層ガラスの中空層の厚さによる性能基準の相違>

 その目標年度は2022年度以降の各年度です。なお、表示義務についても他の建材と同様の表示義務があります。

吹付け硬質ウレタンフォーム

 硬質ウレタンフォームを現場で吹付けて断熱性能を図る場合、原液自体に断熱性能はない上、吹付け施工者は施工品質の管理を行うことはできるが、断熱材の原液の成分改善による熱の損失防止性能の改善を行うことはできないため、原液の製造、加工又は輸入(原液製造等事業者)を行う者と吹付け施工を行う者の両者に対し、熱の損失防止性能の向上に関する事項を定める必要があります。そのため、省エネ法による性能基準とは別に「準建材トップランナー制度」を構築し、ガイドラインによって断熱性能の向上を図っています8)

 硬質ウレタンフォームの原液を吹き付けて成型した後の性能基準は下表の通りです。下表にある基準熱損失防止性能は他の断熱材と同様に熱伝導率のことを指します。

表-5 成型後の断熱材の熱損失防止性能

種類の区分基準熱損失防止性能
A種1、A種1H  0.026
A種2、A種2H
A種3  0.039
出所)資源エネルギー庁:吹付け硬質ウレタンフォームの熱の損失の防止のための性能の向上等に関するガイドライン、2017年10月12日

 本基準の遵守のために製造事業者及び施工者に推奨されていることを以下に示します。

1.原液製造等事業者の推奨事項
イ. 原液製造等事業者は、断熱材施工事業者に対して、JISA9526(2015) に規定する原液使用標準(原液の温度及び圧力、積層時の時間間隔等の吹付け条件を含む作業標準、使用上の注意事項等の施工管理上必要な要件を示したもの)等の施工管理上必要な事項を周知し、施工条件の適切な管理に努めること。
ロ. 原液製造等事業者は、断熱材施工事業者による熱損失防止性能の確保及び品質管理のための第三者認証(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会の優良断熱材認証制度等)の取得を推進し、又は取得に向けて適切な協力に努めること。

2.断熱材施工事業者の推奨事項
イ. 断熱材施工事業者は、原液製造等事業者が定める原液使用標準を遵守するとともに、熱絶縁施工技能士(吹付け硬質ウレタンフォーム断熱工事作業)の資格者の立会いの下での施工に努めること。
ロ. 断熱材施工事業者は、吹付け施工に関する「品質管理基準」、「熱絶縁施工ハンドブック」等を用いた自社内若しくは社外の研修又は熱損失防止性能に資する技能検定(職業能力開発促進法(1969年法律第64号)第44 条に規定する技能検定をいう)を通じて、施工者の熱損失防止性能の確保に関する知識及び技能の向上を図ること。
ハ. 断熱材施工事業者は、熱損失防止性能を確保するため、第三者認証(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会の優良断熱材認証制度等)の取得に努めること。

 本ガイドラインの適用の目標年度は2017年10月12日からとされています。また、省エネ法対象製品と同様に、製品への表示義務もあり以下のものを表示することになっています。

 1.品名又は形名
 2.JISA9526(2015)に規定する種類の区分の別
 3.成型後の断熱材の熱損失防止性能
 4.原液製造事業者等の氏名又は名称

<参考文献>
1)2013年経済産業省告示第270号(制定)「断熱材の性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2020年告示第68号
2)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、最終取りまとめ(建材トップランナー原則、建材トップランナー制度の対象となる建築材料、断熱材における建材トップランナー制度の内容)、2013年12月20日
3)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、最終取りまとめ(準建材トップランナー制度の対象となる硬質ウレタンフォーム断熱材(現場吹付け品)、硬質ウレタンフォーム断熱材(現場吹付け品)に関する準建材トップランナー制度の内容)、2017年10月12日
4)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、最終取りまとめ(硬質ウレタンフォーム断熱材(ボード品)に関する建材トップランナー制度の内容)、2019年7月30日
5)2014年経済産業省告示第234号(制定)「サッシの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第416号
6)2014年経済産業省告示第235号(制定)「複層ガラスの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第416号
7)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日
8)経済産業省資源エネルギー庁、吹付け硬質ウレタンフォームの熱の損失の防止のための性能の向上等に関するガイドライン、2017年10月12日