前回から冬季に増加する家庭のエネルギー代を節約する省エネ対策を取り上げてきました。これまで本サイトで報告してきた内容を節電のテーマにそって取りまとめています。今回は冬季のエアコンの節電方法を整理した結果を示します。エアコンは冬季には家庭の消費電力量の3割以上を占め、家電製品の中では最も大きなものです1)。そのため、エアコンの節電効果は大きいと言えます。
政府広報を始めとして様々なメディアでは設定温度を下げて運転することで節電ができるとしています。そこでは、設定温度を20℃にするなどを推奨していますが、室温に対する感覚は個人差が大きく、一律に温度を20℃にすることは危険です。
現実的にはエアコンの設定温度を20℃にすると、20℃を下回ることが度々あります。それが頻繁に起こると健康を害してしまい、本サイトの趣旨に反してしまいます。無理をして設定温度を下げることはお勧めできません。温度を下げても普段の設定温度から1℃か0.5℃程度でしょう。
エアコンの節電対策として、フィルターの清掃などの維持管理を適切に行うことや室内空気の循環など手軽に行う対策もあります。しかし、より大きな節電効果を期待するなら、出来れば室内の断熱性を高めてエアコンの消費電力量を低減する方法や買い換えによる省エネ性の向上などを検討することも必要です。今回の節電対策は以下の7つです。
① エアコンの効率性を低下させない維持管理
② 室内空気の循環による暖房効果の向上
③ エアコンの節電機能の利用
④ エアコンの無理のない温度設定
⑤ 室内の断熱性の向上
⑥ 新しいエアコンの買い換え
⑦ 他の暖房設備との併用
最後の他の暖房設備との併用については、これまでの地球温暖化対策の枠を超えて、節電に着目して有効な対策として挙げるものです。日本においては電源の脱炭素化が進まない中で、2050年までの移行期間中の対策として想定できると思われます。ここでは人が温まるという暖房の基本的な機能について考えてみました。
(1)エアコンの効率性を低下させない維持管理
資源エネルギー庁によると、フィルターの清掃を行うことでエアコンの効率低下を防ぐことから節電ができるとされています。エアコンのフィルターを月に2回清掃すると、フィルターが目詰りしているエアコン(2.2kW)とフィルターを清掃した場合との比較で、年間で消費電力量31.95kWhの省エネができるとしています2)。
最近ではフィルターの掃除を自動で行う機種も出てきており、機種の違いによって維持管理の方法や清掃の頻度も違うので操作マニュアルを確認して適切な頻度で行うことが必要です。
(2)室内空気の循環による暖房効果の向上
室内の空気は高さ方向に温度成層ができ床と天井では温度が大きく異なります。エアコンで温風を下向きに設定しても、人がいる高さの温度が低くなり寒く感じることがあります。また、エアコンの位置により温度が上がりにくい場所や、逆に上がりやすい場所があり、均等に温度を保つことが難しいのです。特に断熱性が低い部屋ではその傾向が強いようです。
一例として、壁の高さ方向に温度を測定した結果を下図に示します。測定したのは広さ10m2(約6畳)の部屋で、東壁上部にエアコンがあります。まず、西壁はエアコンの温風が当たっているため最も暖かくなり、逆に東壁は最も温度が低くなっています。北壁と南壁の温度はそれらの中間の温度です(詳細は「エアコン(6)-暖房時の環境質管理」を参照ください)。
また、高さ方向の温度差については、東壁の温度の差異が最も大きく、3~4℃もあります。北壁の東側(エアコンの温風が届きにくい)も上部と下部で3℃程度の差があります。このように、温度の分布が大きく異なると温まりにくい場所にいると寒く感じ、エアコンの温度設定を高くすることになり、消費電力量が大きくなります。
そのため、サーキュレーターによって温度分布を改善するという対策が効果的です。暖房の場合はサーキュレーターを上部に向けて天井付近に溜まりがちな暖気を動かし、部屋の空気を効率よく循環させることが効果的とされます3)。
サーキュレーターの効果についてアイリスオーヤマの商品ページから引用したものを右図に示します3)。エアコンのみの場合、床と天井の温度差が8.8℃であったものが、サーキュレーターを使用することで0.6℃まで縮小したとされています。このように、部屋の高さ方向の温度差を解消するにはサーキュレーターが効果的です。
サーキュレーターの消費電力が心配な方のために電力を測定した結果を下表に示します。測定した製品はアイリスオーヤマのCFD-181です。下表には取扱説明書にある性能仕様(カタログ値)も示してあります。本製品は「弱」、「中」、「強」の3段階の調節と縦横の首振りが可能です。
カタログ値は「強」の場合が定格電力の18Wとしています4)。しかし、実測値は「強」で縦横に首振りを行った場合の最大値でも15Wです。「弱」では3.1W、「中」では5.5Wと非常に少ない電力で使用できます。「強」で縦横の首振りモードで12時間使っても0.2kWhにしかなりませんので、安心して使うことができます。
表-1 サーキュレーターの消費電力量の測定結果
項 目 | 定格電力 | 待機電力 | 消費電力(W) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
(W) | (W) | 「弱」 | 「中」 | 「強」 | 強+横振り | 強+縦横振り | |
カタログ値 | 18 | - | 10 | 13 | 18 | - | - |
実測値 | - | 0.6 | 3.1 | 5.5 | 9.5 | 12.0 | 14.8 |
(3)節電機能の利用
エアコンには様々な節電機能が搭載されています。節電機能の一例を下表に示します。これらの機能は、センサーとAIによる自動制御機能を利用しています。居住者の快適性と省エネを目的として多くのメーカーがこれらの機能を搭載しています。
下表の最右欄には、冷房と暖房時の節電率も示されています(この値は各社が独自で算定したものです)。この機能の付加によって価格が高くなる傾向もありますので、記載された節電率と価格とを総合評価して購入の判断をされたらどうかと思います。
表-2 節電機能の事例
機 能 | 機 種 | 機能概要 | 評価指標 | 節電率 (冷/暖) |
---|---|---|---|---|
学習や予測を主とした機能 | シャープ AY-J40X2 「クラウドAI」 | 部屋の性能と帰宅時間などを「クラウドAI」で学習し、⽴ち上げ制御や、外出前に温度をゆるめる温度シフト制御で省エネ。 | ⼀⽇(6.5時間) の消費電⼒量 | 17.1% /-% |
パナソニック CS-408CX2 「おへや学習機能」 | 部屋の負荷条件を解析・学習、部屋の特性に応じてムダな⽴ち上げパワーをカットし節電する「おへや学習機能」。 | 運転開始から設定温度到達までの積算消費電⼒量 | ||
⽇⽴ RAS-XJ40J2 「AIこれっきり運転」 | 画像・温湿度・近⾚外線カメラを搭載した「くらしカメラAI」で体感温度変化予測や部屋環境を検知した「AIこれっきり運転」 | 安定時1時間の消費電⼒量 | -% /43.1% |
|
三菱電機 MSZ-FZ6318S 「先読み運転」 | ムーブアイmirA.I.(⾼精度⾚外線センサ)による体感温度変化予測で「先読み運転」。 | 設定温度到達後4時間の消費電⼒量 | 3.1% /5.9% |
|
人のセンシングを主とした機能 | ダイキン RXシリーズ 「快適エコ⾃動運転」 | ⼈感センサーで⼈のいる場所に集中的に気流を吹き分け、快適と省エネを両⽴して⾃動運転する「快適エコ⾃動運転」。 | 実測データに基づき室内温度安定時の16時間運転の消費電⼒量 | 27.9% /8.0% |
東芝 RAS-E406DRH 「ecoモード」 | ⼈サーチセンサーで⼈の位置を把握し運転する「ecoモード」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 29.9% /17.3% |
|
三菱重⼯ SRK40SW2 「エコ運転」 | ⼈感センサーで⼈の状況を確認、⼈の活動量に応じて⾃動でひかえめな運転に切り替える「エコ運転」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 35.6% /49.3% |
|
不在時オフを主とした機能 | 東芝 RAS-E406DRH 「不在節電機能」 | ⼈サーチセンサーで⼈の位置を把握し運転する「不在節電機能」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 30.6% /79.4% |
パナソニック CS-408CX2 「不在省エネ運」 | ⼈の不在を検知すると、運転パワーをセーブする「不在省エネ運転」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 19.9% /20.0% |
|
富⼠通ゼネラル AS-X40H2 「不在ECO」 | ⼈感センサーで在室か検知し⾃動で節電運転への切り替えや運転の停⽌・再開をする「不在ECO」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 27.5% /46.6% |
|
三菱重⼯ SRK40SW2 「不在時ひかえめ運転」 | ⼈感センサーで⼈の不在を検知すると、約15分後に⾃動でパワーをひかえめにする「不在時ひかえめ運転」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 53.3% /20.2% |
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部屋のセンシングを主とした機能 | シャープ AY-J40X2 「エコ⾃動運転」 | ⽇差しの変化などを⾒分けて、⾃動で運転効率を優先した省エネ運転をする「エコ⾃動運転」。 | 運転開始から1時間後の積算電⼒量 | 36.4% 20.1% |
パナソニック CS-408CX2 「ひとものセンサー」 | ⼈・家具・間取りなどを⾼精度で⾒分ける「ひとものセンサー」で温冷感を解析し、快適性と節電効果を⾼める。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 55.1% /70.4% |
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富⼠通ゼネラル AS-X40H2 「3D温度センサー」 | 「3D温度センサー」で計測した⽴体的な部屋温度とハイブリッド気流によって、運転のムダを省き、快適性と省エネ性を向上。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 27.4% /31.1% |
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送⾵とのハイブリッドを主とした機能 | 三菱重⼯ SRK40SW2 「快適⾃動運転」 | 温度・湿度センサーでお部屋の状況をチェックしPMVや体感温度に合わせて⾃動で送⾵に切り替える「快適⾃動運転」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 53.3% /27.4% |
三菱電機 MSZ-FZ6318S 「ハイブリッド運転」 | ムーブアイmirA.I.(⾼精度⾚外線センサ)による体感温度に合わせて冷房と送⾵の「ハイブリッド運転」。 | 安定時1時間の消費電⼒量 | 88.5% /14.4% |
|
自動掃除を主とした機能 | 東芝 RAS-E406DRH 「⾃動お掃除」 | エアコン内部の「⾃動お掃除」で省エネ性能をキープ | 1年間の期間消費電⼒量の算出値 | 10.2% |
実際の節電機能を利用した効果を測定した結果を以下に示します。測定に用いたエアコンは三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sです(性能の詳細は「エアコン(4)-暖房時の消費電力」に記載しています)。本機は冷房能力4kW(暖房能力5kW)、14畳用(28m2)、通年エネルギー消費効率(APF)6.3の性能を有します(APFの意味は本報告の(6)で説明します)。約30m2のリビングに設置されており、エアコンの温度設定を24℃に設定して、5時半から22時まで運転しています。
本機には表-2の節電機能の事例に示した「不在時省エネ運転」の機能(「スマートオフ」)を有しています。この機能は、人がいなくなると自動で省エネ運転に切り替え、そのまま人がいない状態で一定時間続く(30分後)と自動で停止するという機能です(節電機能の詳細は「エアコン(5)-暖房時の省エネ運転」に記載しています)。
「スマートオフ」モードに設定して、消費電力量の測定を行った結果を以下に示します。測定したのは2日間で、ケース1はリビングでの不在時間が2時間程度、ケース2は3時間程度です。そして、各ケースの平均外気温はそれぞれ10.54℃と8.60℃でした。また、その時の消費電力量の実測値はそれぞれ4.52kWh/日、5.19 kWh/日でした。
過去のデータから外気温と1日消費電力量の回帰式を作成しており、それを基にスマートオフの設定をしていない場合の1日消費電力量の推計値はそれぞれ5.00 kWh/日、5.85 kWh/日です。これによりスマートオフ運転を行ったことによる節電量(率)は0.48kWh/日(9.7%)、0.66 kWh/日(11.2%)となり、約1割程度の節電ができたことが分かります。
表-3 スマートオフの運転モードでの節電効果
不在時間 | 平均外気温 | 消費電力量(kWh/d) | 節電量 | 節電率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
(℃) | 実測値 | 推計値 | (kWh/d) | (%) | ||
ケース1 | 2時間程度 | 10.54 | 4.52 | 5.00 | 0.48 | 9.6 |
ケース2 | 3時間程度 | 8.60 | 5.19 | 5.85 | 0.66 | 11.3 |
なお、スマートオフの運転時の室温と外気温の変化(ケース1)を下図に示します。リビングに不在中は20℃程度まで室温が下がっていることが分かります。また、エアコン稼働中でも室温が設定温度の24℃まで上がっていないのは、室温を測定している温度データロガの高さが約1mであり、エアコンのセンサーの測定位置と異なるためと思われます。
(4)無理のないエアコンの温度設定
設定温度を低下させることで消費電力量を削減できるのは言うまでもありません。しかし、前述したように快適性の温度の範囲には個人差が大きく、無理に設定温度を下げることは快適性だけでなく健康に悪影響をもたらします。
そのため、十分な厚着対策をしたうえで今までの設定温度を0.5~1.0℃程度下げるのが限界と思われます。温度設定を変えて消費電力量の削減量を測定した事例を以下に示します。今回の測定も三菱電機の「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sを用いています。
通常の設定温度24℃のところ23℃に下げて運転した結果が下図です。2日間にわたって行った節電効果を下表に示しています。この時の平均外気温は12.79℃及び11.77℃であり、消費電力量の実測値は3.40kWh/日及び3.76kWh/日でした。
下図に示すように、設定温度24℃でエアコンを運転した時の回帰式による推計値は4.03 kWh/日、4.47 kWh/日でした。そのため、節電量及び節電率は0.64kWh/日(15.6%)、0.71kWh/日(15.9%)となります。設定温度を1度下げることで15%程度の節電ができたことになります。
表-4 設定温度を1℃低下させた場合の節電効果
設定温度 | 平均外気温 | 消費電力量(kWh/d) | 節電量 | 節電率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
(℃) | (℃) | 実測値 | 推計値 | (kWh/d) | (%) | |
ケース3 | 23 | 12.79 | 3.40 | 4.03 | 0.63 | 15.6 |
ケース4 | 23 | 11.77 | 3.76 | 4.47 | 0.71 | 15.9 |
なお、設定温度23℃の時の室温と外気温の1日の変動を下図に示します。エアコンは5時半にスイッチONし、22時にOFFしています。エアコンが稼働している時でも室温が20℃を下回ることが確認できます。エアコンはセンサーにより室温を測定して自動制御されていますが、その制御がうまくいかないことがあることが分かります。この分析の詳細は「エアコン(5)-暖房時の省エネ運転」を参照ください。
(5)室内の断熱性の向上
エアコンの暖房負荷を低減する最も基本的な対策は室内の断熱性を向上させることです。暖房時は室内の熱が外気へと逃げていく熱損失が生じます。断熱性が高いとはその熱の損失が少ない住居の特性を言います。
室内の熱は壁や窓、床や天井などの建材を通して流出(損失)していきます。この建材の熱の通しやすさ(熱貫流率)を低下させることで断熱性の向上が図れます。これまでの報告で壁については、「建築材料(1)-外壁の断熱性能」で、窓については「建築材料(2)-窓の断熱性能」で取り上げてきました。
壁の断熱性を向上させるためには、下図に示すように壁材の中に断熱性の高い断熱材と空気層を入れます。断熱材については、省エネ法の対象となっており、その性能基準も決められていますので、「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」を参考にしてください。
また、窓も一枚のガラスではなく複層ガラスを使ってガラスの間に空気層等を設けることで断熱性を向上させています。下図に様々な複層ガラスの事例を示しています。中空層を2層にするなどして断熱性を高めることができます。
しかし、外壁や窓の熱貫流率を低下させるということは簡単ではありません。リフォーム工事によって壁や床の断熱材を改修することで断熱性の向上が図れますが、集合住宅の場合はそれも不可能に近いでしょう。
断熱性を向上する方法として集合住宅でも可能な方法が内窓の施工です。内窓とは既存の窓の内側に窓を設置することです。内窓を施工した事例を下の写真に示します。ここで設置した内窓は上図に示す中空層が1層のLow-E複層ガラスです。内窓の詳細は「建築材料(3)-内窓の設置と補助申請」を参照ください。
この内窓の設置前後の夜22時から朝5時までの間の外気温と室温の状況を比較した結果を下図に示します。内窓を設置したケースは外気温が低いにも関わらず、室温の低下が少なくなっています。
この室温低下の低減効果は窓の断熱性だけでなく他の壁や床、天井の断熱性にも影響を受けますので、それらも考慮して内窓を設置するかどうかを判断することが必要です。内窓の施工には国や地方自治体の補助が予算化されていますので、それらの活用についても検討することをお勧めします。補助申請の詳細は「建築材料(3)-内窓の設置と補助申請」を参照ください。
(6)新しいエアコンへの買い換え
エアコン製品は省エネ法の対象として年々省エネ性能が向上しています。資源エネルギー庁によれば、エアコンは過去10年間(2009年から2019年)で約17%程度省エネ性能が向上したとされています5)。
エアコンの平均使用年数は13.7年とされており、運転音が気になったり暖房の効き目が悪く感じるようになったら買い換えのタイミングと考えて良いと思われます。エアコンは省エネ法の対象となっており、2022年5月に改正が行われ省エネ基準値も厳しい値となっています。本改正の目標年度は2027年度です。このように省エネ性能も上がっていることから10~15年以上使用している機器は買い換えによって省エネ効果は高いと考えられます。
エアコンの省エネ基準の指標値は通年エネルギー消費効率(APF)です。APFとは、年間を通してある一定条件のもとにエアコンを使用したとき、1年間に必要な冷暖房能力を、1年間でエアコンが消費する電力量(期間消費電力量)で除した数値です。これは消費したエネルギーに対して何倍のエネルギーを得たかを表すものです(エアコンの省エネ性能については「エアコン(1)-省エネ性能」を参照ください)。
下図に省エネ基準の新旧の比較を示します。これまでは家庭用のエアコンの省エネ基準値はエアコン能力により細かく区分されて設定されていましたが、今回の改定で大きく冷房能力2.8kW以下はAPF6.6(寒冷地は6.2)、同じく2.8kW超はAPF6.6(同じく寒冷地は6.2)を上限とする冷房能力の関数で設定されることになりました6)。
これらの基準値における省エネ基準達成率の計算方法を前述した「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sを例として説明します。これまでの基準(2026年度まで)では本製品は冷房能力が4.0kWのため省エネ基準値はAPF4.9であり、本製品のAPFは前述の通り6.3です。そのため、省エネ基準達成率は以下の通り128%となります。
省エネ基準達成率(目標年度2026年度)=6.3/4.9=128%
一方、小売店での省エネ性能の表示は多段階評価を採用しています。これまでは下表の通り、省エネ基準達成率のランク別に星の数(最高点は5つ星)で表していました。本製品は省エネ基準達成率が128%ですので、5つ星ということになります。
表-5 多段階評価点の省エネ基準達成率(目標年度2026年度)
多段階評価 | 省エネ基準達成率 |
---|---|
★★★★★ | 121%以上 |
★★★★ | 114%以上121%未満 |
★★★ | 107%以上114%未満 |
★★ | 100%以上107%未満 |
★ | 100%未満 |
一方、新基準では上図に示す通り冷房能力が4.0kWの基準値はAPF6.6となりましたので、新しい基準での省エネ基準達成率は以下の通り95%です(この製品のAPFが新しい基準に基づく算定方法でも同じ数値と仮定)。
省エネ基準達成率(目標年度2027年度)=6.3/6.6=95%
さらに、2022年9月の小売店での省エネ表示の改正で多段階評価点の表示となりました。多段階評価点とは最高点を5.0、最低点を1.0とした41段階の評価方法です。その多段階評価点の算定方法によると以下の計算式となり、算定される多段階評価点は2.6です。
多段階評価点=3+2/26×(省エネ基準達成率-100)=2.6
本製品の新旧の省エネラベルの表示を以下に示します。新旧の基準により多段階評価値が大きく変わることに留意してください。ラベルには多段階評価値に加えてAPF、省エネ基準達成率や年間電力料金も表示されていますので、これらを確認して購入することをお勧めします。
このように新しい省エネ基準は非常に厳しいものになりました。しかし、新たな省エネ基準に適合する製品も各メーカーから多数提供されています。資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトから新基準に適合した製品数を集計したものを下図に示します7)。新基準に適合している製品を提供している企業は8社あり、それらの企業毎のエアコンの能力別及び省エネ基準達成率別の製品数を下図に示します。
出所)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネ型製品情報サイト、エアコン(目標年度2027年度)、閲覧日2022年12月15日
各社ともに全ての能力ランクごとに一定の製品数を提供しています。既に省エネ基準達成率が110%を超える製品を提供しているメーカーもあります。日立は冷房能力「2.8kW以下」で29製品、「2.8超4.0kW以下」で15製品を提供しています。また三菱電機は「2.8超4.0kW以下」で6製品、「4kW超」で22製品提供しています。さらにパナソニックは「2.8超4.0kW以下」で8製品を提供しています。
買い換えにおいては、これらの省エネ基準達成率などを考慮して、費用効果の高い製品を選びたいものです。なお、資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトは以下から参照できますので、ご確認ください。
資源エネルギー庁:省エネ型製品情報サイト (seihinjyoho.go.jp)
(7)他の暖房設備との併用
ここでの他の暖房設備とは化石燃料を用いる石油ストーブやガスストーブを指しています。2050年の脱炭素化に向けて化石燃料を使う製品の使用を推奨することはあまり適切ではないのですが、電力の脱炭素化が進んでいない日本においては、途中年度では採用しうる手段と考えられます。特に、今回は節電に特化した報告ということもあり、他の暖房設備の効果的な利用方法についても記載したいと思います。
本来、暖房は人を温めるための手段でした。暖房の初期のものは焚火と考えられます。焚火を使い始めたときは、暖房の目的は「人が暖を取る」ためのものでした。一方、今回取り上げたエアコンは部屋全体を温めるものであり、目的が少し異なると考えて良いでしょう。
例えば、朝起きて朝食時に人のいる場所だけを温め、直ぐに仕事に行く場合を考えます。部屋全体を温める必要はなく、人だけを温める目的での暖房設備として石油ストーブが有効です。そのような状況での石油ストーブとエアコンとのエネルギーコストを比較します。
両者のコスト比較を行った結果を下表に示します。過去の報告で、対象のリビング(14畳、30m2)を1℃温度を上昇させるための熱量は2.3MJであると算定されました(詳細は「ストーブ(3)-エアコンとの併用」を参照ください)。朝起きた時に16℃の部屋を22℃まで温めるには13.8MJ(=2.3×6)の熱量を加える必要があります。そのためのエアコンの消費電力量はエアコンの平均的なCOP(成績係数)を3.0として、1.3kWhと計算されます。
表-6 エアコンと石油ストーブのコスト比較
型 式 | 稼動条件 | 必要熱量の 計算条件 | 必要熱量 (MJ) | エネルギー 消費量 | エネルギー 単価 | 料金 (円) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
エアコン | 三菱電機「霧ヶ峰」 MSZ-ZW403S | 16→22℃まで の温度上昇 | 2.3MJ/温度上昇1℃ | 13.8 | 1.3 kWh | 39 円/kWh | 51 |
石油 ストーブ | コロナファンヒータ FH-G3215Y | 1時間の稼働 | 0.31MJ/1hr稼働 灯油熱量37MJ/L | 11.5 | 0.31 L | 119 円/L | 37 |
・対象の部屋(30m2)を1℃温度上昇に要する熱量は実測により2.3MJ。
・部屋の広さは14畳、断熱性が低い部屋のため、冬季の朝は16℃まで低下する。
・出かけるまでに22℃まで温度を上昇(上昇温度6℃)させるため、13.8MJ(=2.3×6)を要する。
注2)エアコンの消費電力量の計算は以下による。
・消費電力量(kWh)=供給エネルギー量(MJ)/COP(3.0)/3.6(MJ/kWh)
・COP3.0は低負荷時も含めた平均的な成績係数として設定。
注3)石油ストーブ(コロナファンヒータFH-G3215Y)の1時間当たり灯油消費量は、実測により0.31L/hr。
・1時間稼働に要する灯油消費量は0.31L(0.31×1)となる。
・灯油の熱量は37MJ/Lのため、石油ストーブが1時間稼働した場合の熱量は11.5MJ(=0.31×37)となる。
注4)電力料金は、東京電力エナジーパートナーの従量電灯B、冬季に400kWh/月使用を前提に2022年12月の従量料金をベースに算定。
従量料金=30.54(300kWh以上の従量料金)+5.13(燃料費調整額)+3.45(再エネ賦課金)≒39円/kWh
注5)灯油料金は、資源エネルギー庁、給油所小売価格調査より東京都の最新値2022年12月12日(2,141円/18L)より119円/L。
エアコンの暖房COPは4~5程度が一般的であり、投入エネルギー(電力)の4~5倍の暖房エネルギーを得ることができます。しかしこの数値はスペック値であって、空調機器を設計・計画する人たちの間では、低負荷などを含む実際の運転においてはCOP=3.0が一般的と想定されています。
そのためエアコンは部屋全体を温めるために1.3kWh(=13.8/3.0/3.6)の消費電力量を要することになります。電力の最新の従量料金を39円/kWhとすると、その電気料金は約51円です(従量料金の計算は上表の注釈を参照ください。燃料費調整額は電力小売事業者によって大きく異なりますので注意してください)。
一方、石油ストーブ(コロナ社製ファンヒーター、FH-G3215Y)の1時間当りの灯油消費量は実測により0.31L/hrです。これを使って朝の出勤前1時間、人のいるところだけを温める場合の灯油代(灯油単価119円/L)は約37円です。この結果より、電気代と灯油代を比較すると灯油代は電気代の約7割ということになります。
この石油ストーブは部屋全体ではなく人を温めるためだけに使われるため、この灯油消費量でも十分に間に合います。そのため、短時間で局所的に暖を取るという目的であれば、化石燃料の暖房利用の方がコストが安いということがありえると判断されます。
上記の計算はある特定の住環境における実測に基づいたエネルギー消費量の計算結果であり、一概にこのような結論とはならないかもしれません。しかし、今回の事例以外にもこのようなケースは少なくないと思われます。そのため、このような局所的、短期的な暖房には石油ストーブを使い、部屋全体を長時間温める場合にはエアコンを使うといった暖房機器の使い分けも考慮して良いのではないかと思われます。
<参考文献>
1)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネポータルサイト、家庭向け省エネ関連情報、家庭でできる省エネ、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/index.html#general-section
2)資源エネルギー庁:省エネ性能カタログ(家庭用)、2022年版、エアコンの上手な使い方
3)アイリスオーヤマ:公式Webサイト、商品情報、サーキュレーターの効率的な使い方、https://www.irisohyama.co.jp/seasonal/circulator/special.html
4)アイリスオーヤマ:サーキュレーターCFD-181、取扱説明書
5)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネポータルサイト、家庭向け省エネ関連情報、機器の買換で省エネ節約、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/choice/
6)エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等、1999年3月31日通商産業省告示第190号(廃止・制定)、最終改定2022年5月31日経済産業省告示第128号
7)資源エネルギー庁:公式Webサイト、省エネ型製品情報サイト、エアコン(目標年度2027年度)、閲覧日2022年12月15日