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バイオマス発電(3)-ごみの湿式メタン発酵による究極のエネルギー利用とは?

 前回は廃棄物系バイオマスの「ごみ」(一般廃棄物のうちし尿を除いたもの)のメタン化を対象に、そのメタン化技術の特性や焼却との比較を行って、脱炭素社会における有用性を示しました。日本においては依然として「ごみは焼却するもの」という認識が普及しており、地球温暖化防止のために焼却施設からの転換を行うことは容易ではありません。

 環境省が公表した脱炭素社会に向けた廃棄物・資源循環分野の中長期シナリオでは、2050年においても焼却施設は残っており、どうしても資源利用できないプラスチック(化石燃料による製品)の焼却による温室効果ガス対策としてCCUS(二酸化炭素回収による利用と貯蔵)を行うことが示されています1)

 しかし、本当にCCUSが必要なんでしょうか。CCUSの導入により、ごみ処理に使うエネルギーに加えて、新たな追加のエネルギーを要することになるのは間違いありません。四半世紀後のごみ処理の脱炭素化に向けて、今一度ごみ処理について熟考することが必要なのではないでしょうか。

 廃棄物系バイオマスのメタン化を進める上で、どのような戦略で普及を図るべきかについて検討することは重要なことと思われます。そのため、まずメタン化の具体的な事業を分析して、その事業の技術的な評価を通してメタン化の普及に向けた最適な戦略を見つけていくことが有効と考えられます。

 本報告ではメタン発酵技術のうち湿式メタン発酵を導入したメタン化事業の事例を整理しました。湿式メタン発酵は異物の混入条件が厳しいため、分別や選別の対策が重要です。そのため、事例の整理では選別機や発酵槽の構造上の対策について特に整理しました。

 さらに、湿式メタン発酵は発酵槽内の固形物濃度が低い、すなわち水分が多いことから多くの排水が発生し、その排水処理が課題です。そのため排水対策を含む環境保全対策についても整理しました。また、発生したメタンで発電した電力量と排水処理等の使用電力量とのエネルギー収支について分析しました。

 そして、日本における厳しい環境規制に対して、メタン化事業のエネルギー利用効率を高める条件を検討した結果、「メタン化後の消化液の液肥利用」がエネルギー利用上最も効果的な対策であり、脱炭素社会での切り札になるとの認識に至りましたのでご報告します。

<本報告のコンテンツ>

ごみのメタン化事業のパターン分類
(1) メタン化技術と対象バイオマス
(2) 日本におけるメタン化事業のパターン
(3) 湿式メタン発酵事業の分析の視点
汚泥再生処理センターの事例
(1) 汚泥再生処理センターの整備状況
(2) 汚泥再生処理センターのメタン化技術
 (a)破砕、選別機
 (b)前処理・発酵槽
 (c)メタン化技術別のメタン発生特性
生ごみ単独のメタン化の事例
(1) メタン化事業の概要
(2) メタン発生量とエネルギー収支
(3) 環境汚染対策
 (a)排水水質
 (b)排気ガス(大気汚染)
 (c)臭気(悪臭)
家畜排せつ物を中心としたメタン化の事例
(1) メタン化事業の概要
(2) エネルギー収支とエネルギーの有効な使用方法
(3) メタン化後の消化液の液肥利用の可能性
まとめ

ごみのメタン化事業のパターン分類

(1)メタン化技術と対象バイオマス

 前回の報告で、メタン化には発酵槽内でのバイオマスの固形物濃度と嫌気性菌の生息温度域による分類を紹介しました。すなわち、発酵槽内でのバイオマスの固形物濃度が10%前後である湿式メタン発酵、20~40%の乾式メタン発酵の2種類があります。また、生息温度域は35℃程度の中温発酵、55℃程度の高温発酵に分類できました。

 湿式メタン発酵では中温と高温の発酵を行う処理技術が開発され、乾式メタン発酵では主に高温発酵での処理技術が開発されていました。そして、湿式メタン発酵は発酵対象のバイオマスは主に生ごみ(食品廃棄物)、家畜排せつ物、下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥であり、乾式メタン発酵はこれらに加えて紙ごみや剪定枝なども対象にすることができます(詳細は前報告を参照ください)。

 これらの廃棄物系バイオマスのメタン発酵から見た特徴は表-1の通りです2)。表-1に示すように、水分、バイオガス発生量、アンモニア等の成分が異なっています。水分は生ごみ80%程度、濃縮汚泥96〜98%、紙20%程度、家畜排泄物は畜種によって異なります。

 バイオガス発生量は紙や生ごみが多く、汚泥や剪定枝は少なくなっています。効率的にバイオガスを回収するためには、性状にあったメタン発酵方式の選択と発酵槽内を目標含水率にする(希釈水を加える)ことが必要になります。

表-1 廃棄物系バイオマスのメタン発酵に関する特徴

  バイオマス      特     徴
生ごみ(食品廃棄物)・水分は80%程度で、一般的に分解しやすくガス発生量も多いためメタン発酵に適する。
・貝殻、骨、卵殻は発酵しづらいため除去する必要がある。一般廃棄物の場合はプラスチック等の他の廃棄物と混合しているため選別が必要である。
家畜排せつ物・乳牛、肉牛、豚、鶏によって水分や性状が異なる。水分は乳牛90%、肉牛55~70%、鶏20~30%である。
・採卵鶏はガス発生量が大きいがアンモニアが多く単独の処理には適さない。
下水汚泥・水分が多いため濃縮後の汚泥を使用する。濃縮汚泥の水分は96〜98%程度。ガス発生量は紙、生ごみよりも少ない。
し尿・浄化槽汚泥・水分が多いため濃縮後の汚泥を使用する。し尿汚泥(汲み取りし尿)に比べて浄化槽汚泥の方が、水分が多い。
紙ごみ・水分は20%程度であり、ガス発生量が多く、乾式メタ発酵に適する。
剪定枝・ガス発生量は少なく分解しにくい。
出所)NEDO:バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針、第6版、2022年

(2)日本におけるメタン化事業のパターン

 日本におけるメタン化事業にはある典型的な事例があり、以下のようなパターンに分類することができます。このパターンは対象とする廃棄物系バイオマスと経営主体によって分類されています。

 ① 家畜排せつ物を中心とした処理事業(酪農業)
 ② し尿汚泥と生ごみの共同処理事業(自治体のし尿処理事業)
 ③ 生ごみ単独の処理事業(自治体のごみ処理事業)
 ④ 食品廃棄物の処理事業(主として食品工場、産業廃棄物処理業者)
 ⑤ 下水汚泥を中心とした複数バイオマスの共同処理事業(自治体の下水道事業)
 ⑥ 乾式メタン発酵と焼却を併用したごみ処理事業(自治体のごみ処理事業)

 これらのパターン別の事例を表-2に示します。6パターンのうち、①~⑤は湿式のメタン発酵が採用され、➅のみが乾式メタン発酵が採用されています。家畜排せつ物やし尿汚泥、下水汚泥は水分が多い(固形物濃度が低い)ため湿式メタン発酵に適しているからです。➅はごみ全体(紙や木くずを含む)を対象としており、選別機を用いてバイオマスを乾式メタン発酵で、その他を焼却で処理します。

表-2 メタン化事業のパターン別の事例

No.  事業パターン          導 入 事 例
1家畜排せつ物を中心とした処理事業
(酪農業)
・八木町バイオエコロジーセンタ―(京都府八木町、1998年)
・別海町資源循環試験施設(北海道別海町、2001年)
・山鹿市バイオマスセンター(熊本県山鹿市、2005年)
・鹿追町環境保全センター(北海道鹿追町、2007年)
2し尿汚泥と生ごみの共同処理事業
(自治体のし尿処理事業:
汚泥再生処理センター)
・上越地域広域行政組合汚泥再生処理センター(新潟県、2000年)
・下伊那郡西部衛生施設組合汚泥再生処理センター(長野県、2000年)
・東蒲原広域衛生組合・奥阿賀汚泥再生処理センター(新潟県、2000年)
・奈良市衛生浄化センター(奈良県、2002年)
3生ごみ単独の処理事業
(自治体のごみ処理事業)
・北空知衛生センター(北海道深川市、2003年)
・中空知衛生施設組合リサイクリーン(北海道滝川市、2003年)
・砂川地区保健衛生組合・クリーンプラザくるくる(北海道砂川市、2003年)
・長岡市バイオガス発電センター(新潟県長岡市、2013年)
4食品廃棄物の処理事業
(食品工場内の処理、
産業廃棄物処理業)
・ジャパンリサイクル(株)(千葉県千葉市、1998年)
・富山グリーンフードリサイクル(株)(富山県富山市、2003年)
・バイオエナジー(株)(東京都大田区、2006年)
5下水汚泥を中心とした複数
バイオマスの共同処理事業
(下水道事業)
・珠洲市バイオマスメタン発酵施設(石川県珠洲市、2007年)
・北広島市バイオマス利活用施設整備事業(北海道北広島市、2011年)
・恵庭市バイオマスエネルギー推進事業(北海道恵庭市、2012年)
・豊橋市バイオマス利活用センター(愛知県豊橋市、2017年)
6乾式メタン発酵と
焼却を併用したごみ処理事業
(自治体のごみ処理事業)
南但広域事務組合・南但クリーンセンター(兵庫県朝来市、2013年)
防府市クリーンセンター(山口県防府市、2014年)
南部クリーンセンター第二工場(京都府京都市、2019年)
・町田市バイオエネルギーセンター(東京都町田市、2022年)
注)八木町バイオエコロジーセンターは現在、市町村合併により南丹市バイオエコロジーセンターに変わっています。
出所)NEDO:バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針、第6版、2022年、
環境省:メタンガス化施設整備マニュアル(改訂版)、2017年3月、
及び各メタン化事業のWebサイトなど。

 日本では、酪農業で家畜排せつ物をメタン化してエネルギー利用する事業(①)が当初からありました。これは、家畜排せつ物による環境汚染の防止とエネルギー利用を目的として農水省が支援してきたものです。さらに、食品工場からの食品廃棄物を工場主や廃棄物処理業者がメタン発酵により処理する事例もありました。バイオマ・ニッポン総合戦略ではこれらの産業廃棄物系バイオマスのエネルギー利用が促進されてきました。

 一方、一般廃棄物のメタン化は生ごみとし尿汚泥を共同でメタン化する事業(②)から始まりました。それは、1997年に旧厚生省(現在の所管は環境省)がし尿処理施設の更新において生ごみと共同で処理する事業への補助制度(汚泥再生処理センター制度)を設定したことが始まりでした。

 その制度化を受けて、日本の各メーカーがヨーロッパの技術を導入して、日本の汚泥再生処理センター用に技術開発を行いました。それが、メビウス、REM、リネッサです。これらの技術を活用してメタン発酵を行う汚泥再生処理センターが整備されていきました。また、一部の地域ではし尿処理施設としてではなく、生ごみの単独処理施設としてメタン化施設を整備する事例(③)もありました。

 これらのメタン化事業の経済性はバイオマスの処理量に依存します。メタン化事業は発酵槽や発電装置などの機械設備への投資額が大きくなるため、バイオマスをある規模以上の量を処理しなければ経済性を確保できないのです。しかし、バイオマスを安定的に集めることは難しいため、食品工場内部での処理や事業系・産業廃棄物を幅広く収集し、処理する廃棄物処理事業(④)で実施されていました。

 また、下水処理では下水汚泥を消化槽(メタン発酵槽と同じ機能)でメタンガスを回収してエネルギー利用することが一般的に行われています(日本での実施率は3割未満です)。下水処理施設で能力に余裕があって既設の消化槽に生ごみも受け入れた共同処理や、施設の更新時期に合わせて共同処理を行う拡張事業(⑤)が進められました。国土交通省の補助事業により、いくつかの下水処理場で生ごみ等を受け入れて処理を行っています。

 さらに近年になって、生ごみと紙ごみ等を合わせて処理する乾式メタン発酵を導入する事業(⑥)が増加してきました。これは、ごみを排出者で分別することなく選別機により発酵に適したバイオマスを選別し、他のごみを焼却炉で焼却するというものです。これは、排出者が分別する必要がないため、集めにくいバイオマスを確実に集めることができるという特徴を持っています。

 今回は、湿式メタン発酵を採用している事業の事例を整理していきます。ただし、⑤は下水処理プロセスをよく理解する必要があるため、ここではひとまず外しておきます。乾式メタン発酵は次回以降にとりあげます。

(3)湿式メタン発酵事業の分析の視点

 湿式メタン発酵を用いたメタン化事業の分析の視点をあげると以下の通りです。

 ① メタン化システムのメタン発生性能
 ② 発酵対象物の選別と異物混入に対する対策(選別機、発酵槽)
 ③ メタン化システムのエネルギー使用量(特に消化液の排水処理)
 ④ 消化液の液肥・堆肥としての利用

 メタン化によるエネルギー利用効果を分析する視点として第一にあげられるのは、メタンガスの発生量です。メタンガスの発生量が多いと発電や熱利用のエネルギー利用効果が高くなります。発酵温度や発酵槽の構造、滞留時間との関連を分析します。

 また、湿式メタン発酵は前報で示した通り、発酵対象となるバイオマスの条件が厳しく、ごみを対象とした場合はプラスチック等の異物の混入を避けるため分別、選別を徹底することが必要です。そのため、選別機の選択や発酵の前処理及び発酵槽の構造が重要な要素となります。

 さらに、メタン化システムのエネルギー使用量も課題です。湿式メタン発酵は固形物濃度が低い(水分量が多い)ため、排水が多量に発生します。さらに生ごみには窒素等の栄養塩が多く含まれるため、排水(消化液とも言います)を放流基準以下に処理するためにエネルギー量も多くなる傾向にあります。

 一方、消化液には有機分が残存しており、それを直接液肥として使用したり、堆肥化処理して堆肥として使用することができます。これは、異物の混入を厳しく制限した利点と言えます。液肥として利用すれば排水処理にかかるエネルギー量が軽減できることから、その可能性を探ります。

 これらのエネルギー使用の実態など、実際の事業ではどのような対応が取られているのかを分析して、湿式メタン発酵を採用するメタン化事業の効果的な対策を分析することが本報告の目的になります。

汚泥再生処理センターの事例

(1) 汚泥再生処理センターの整備状況

 汚泥再生処理センターの補助制度における補助要件は以下の通りです。まず、汚泥再生処理センターとは「し尿、浄化槽汚泥及び生ごみ等の有機性廃棄物を併せて処理するとともに資源を回収する施設」とされ、施設の構成は「水処理設備、資源化設備及び脱臭設備等の付属設備」となっています3)

 そして、生ごみ等の有機性廃棄物とは、「生ごみ(家庭厨芥、事業系生ごみ等)、汚泥(コミュニティ・プラント、農業集落排水施設、下水道施設等の排水処理施設から排出される汚泥)などの資源化可能な有機性の廃棄物」を言います。

 上記でし尿汚泥とは「汲み取り便所からの汚泥」のことを指し、浄化槽汚泥とは「浄化槽(単独処理浄化槽、合併処理浄化槽)から引き抜いた汚泥」を指します。また、コミュニティ・プラントや農業集落排水施設とは、小規模な下水道施設を指します(これらは所管する省庁が違うため、便宜的に分類しています)。

 そして、資源化設備とはメタン化設備、堆肥化設備、リン回収設備、助燃剤製造設備、炭化設備、その他の資源化設備を言います。補助要件は当初は①し尿と有機性廃棄物を併せて処理すること、②メタン化によりエネルギー利用すること、③発酵残渣を堆肥化等で有効利用することの3つを同時に満足することが求められていました4)

 しかし、これらを同時に満たすことが難しいことから次第に条件が緩くなり、「②の条件は満たさなくても資源化利用ができればよい」に変わってきているようです。その状況を示すのが下図です。図-1(a)には1998年以降に整備された汚泥再生処理センターの資源化設備の数を示します(複数の資源化設備を整備している施設もあります)。

 この間に整備された汚泥再生処理センターの施設数は148ですが、メタン発酵設備を有しているのは17しかありません5)。最も多いのは堆肥化施設で102あり、次いで助燃材製造設備が30あります。図-1(b)には施設の運転開始年別の施設数を示しています。汚泥再生処理センターは2001年から2005年まで47が整備されましたが、近年はその半分程度です。

 メタン化は2001年から2005年まで9施設が整備されましたが、以降は5年間平均2施設程度にとどまっています。それに対して、助燃材と炭化は近年増加してきており、当初の補助要件が変わって資源利用はメタン化でなくても良いという解釈に変わっていったものと思われます。

(2) 汚泥再生処理センターのメタン化技術

 汚泥再生処理センターが補助対象となったことで、日本の環境施設メーカーは共同で専用のメタン化システムの開発を行いました。そのシステムは前述したメビウス、REM、リネッサです。これらがヨーロッパの開発技術を導入したことは既に報告しました。

 当時の技術資料からこれらの技術の諸元を表-3に示します。表-3では、メタン発酵の設計条件(固形物濃度、温度、滞留時間)、処理プロセス、導入事業、開発に参加したメーカーを示しています6)7)8)9)10)

表-3 メビウス、REM、リネッサシステムの特徴

  項   目  メビウス   REM  リネッサ
メタン発酵
設計条件
固形物濃度10~15%10~15%10%
発酵温度55℃33~37℃37℃、55℃
滞留時間16日20日7日(1段目、2段目とも)
処理プロセス選別機選択破砕選別機、
(湿式混合調質機:
混合槽としても使用)
破砕→湿式粉砕選別機
(パルパー)
トロンメル選別機、
湿式粉砕選別機(パルパー)
混合槽ミックスセパレータ
(蒸気で55℃に加温)
スラリー貯留槽混合貯留槽
発酵槽プレチャンバー
(1日分容量)で酸発酵
主発酵槽(メタン発酵)
BIMA発酵槽No1.発酵槽(37℃)
No.2発酵槽(55℃)
(竪型槽内阻止板付き発酵槽)
攪拌方式ガス攪拌、液循環、
機械撹拌併用
発生ガスの旋回流による撹拌
(攪拌機はなし)
混合ポンプによる撹拌
(攪拌機はなし)
資源化設備脱水→堆肥化脱水→堆肥化、燃料化脱水→堆肥化
導入事業上越地域広域行政組合
下伊那郡西部衛生施設組合
生駒市汚泥再生処理センター
奥阿賀汚泥再生処理センター
奈良市衛生浄化センター
串間市汚泥再生処理センター
開発に参加した企業アタカ工業、荏原製作所、
クボタ、住友重機械工業、
栗田工業、三菱重工業、
西原環境衛生研究所
浅野工事、三機工業、
新潟鐵工所、三井鉱山、
三菱化工機
石川島播磨重工業、
東レエンジニアリング、
新日本製鐵、タクマ、
日本鋼管、日立造船、
三井造船
出所)岩尾充:メビウスシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
久芳良則:REMシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
坂上正美:リネッサシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
矢野聡:メビウスシステム・REMシステム(し尿等の混合処理)、環境技術、Vol.29、No.9、2000年
松本智樹、他:バイオガスシステム(リネッサシステム)の開発、日立造船技報、Vol.62、No.2、2001年

(a)破砕、選別機

 湿式メタン発酵では、異物(発酵不適物)の混入が厳しく制限されるため、選別機がいろいろ工夫されています。メビウスでは選択破砕選別機と湿式混合調質機、REMでは破砕後に湿式粉砕選別機(パルパー)、リネッサでは回転選別機(トロンメル)と湿式粉砕選別機(パルパー)を利用しています。

 選別機の事例を図-2に示します11)。選択破砕選別機は、円筒スクリーンと掻板が異なる速度で回転し、そのせん断と圧縮によって破砕選別されます。ビニール等のせん断を受けにくいものはそのまま出口より排出されます(図-2(1))。湿式粉砕選別機は通称パルパーと呼ばれ、水を加えて高速撹拌し、有機性廃棄物を粉砕、スラリー化させることで選別します(図-2(2))。

 回転選別機(トロンメル)は円筒スクリーンの回転力によりほぐし効果を与えながら選別します。スクリーンの大きさは排出部側になるほど大きくなっており、粒径の大きさによって選別されます(図-2(3))。湿式混合調節機は水を加えて混合撹拌するとともに加温し、可溶化を促進させます。選別装置で除去されずに混入した異物は槽底のナイフゲート弁を用いて外部に取り出されます(図-2(4))。 

(b)前処理・発酵槽

 メビウスでは破砕選別後にミックスセパレータと言われる湿式混合調質機(図-2(4)参照)を設置しています。ここで加温して酸発酵させる(滞留時間1日)と同時に、比重の重いものを沈殿させ分離させます。

 そして、ツインリアクターと称するメタン発酵槽は、図-3に示すように内部にプレチャンバーと呼ぶ仕切り板により容量1日分の槽を設けてあり、ここでさらに酸発酵を行います6)9)

 プレチャンバー内の混合液は徐々に発酵槽内の混合液と混ざる構造となっており、短絡流を防止しています。また、メビウスの撹拌方式は、ガス攪拌、液循環、機械攪拌の方法をとっており、上部に設置した機械式攪拌機とガス攪拌を併用し、スカムの発生を防止しています6)

 次に、REMの発酵槽はBIMA発酵槽を採用しています。これは図-4に示すように、コーン状の仕切り壁を介して上部室と主発酵部の上下に分割されています。主発酵部で発生するガスをコーン状の仕切り壁の下部に閉じ込めることによるガス圧を利用して上部室に液の一部を押し上げ圧力差を発生させます。

 均圧弁の開放によって上部室の液がセンターチューブを落下し、下部の撹拌翼により旋回流となり主発酵部を撹拌します。また、ミキシングシャフトからの落下液は主発酵部の上部に注がれスカム発生を防止します。撹拌回数はガス発生量に依存しますが、通常6~8回/日程度です。このように、槽内撹拌機、プロワー、ポンプなどの機器を必要としていないため、駆動エネルギーを不要とし、メンテナンスなどの維持管理も容易です7)

 さらに、リネッサの発酵槽は2槽設置されており、1段目は中温発酵、2段目は高温発酵となっています。各発酵槽内部を阻止板で分割して、各々の発酵過程に適応した菌体を保持するような構造になっています(図-5)。

 単一発酵槽の場合に懸念される投入物のショートパスにも対応できる構造で、安定した発酵物が得られます。槽内は下部から上部へ自然な流れを発生させる構造であるため、必要時のみ混合ポンプによって攪拌するだけで良く、最小限の攪拌エネルギーで内部攪拌が可能となります8)10)

(c)メタン化技術別のメタン発生特性

 各メタン化技術別の実証試験データより、メタン発生特性を示すと図-6になります。図-6はCOD分解率と分解COD当りメタン発生量を示しています(CODはCODcrを示す)。CODとは溶液中の有機物量を表すもので、この分解率が高いほどバイオガス(メタンガスと二酸化炭素)が多く発生することになります。また、分解COD当りメタン発生量が多いほどメタン発生量も多くなります。

図-6 メタン化方式別のCOD分解率と分解COD当りメタン発生量

 中温発酵であるREMのCOD分解率が高いことが分かります。これは発酵期間が20日と最も長いことが原因と考えられます。また、分解COD当りメタン発生量は理論的に0.35N-m3/kg-CODとされていますが12)、どのメタン化方法もこれに近い値となっています。

 汚泥再生処理センター制度で開発された各種の技術は、し尿と生ごみだけでなく様々な水分の多い廃棄物系バイオマスの共同処理に活用できるものと考えられます。これらの技術を大いに活用してメタン化の推進を図っていくべきと思われます。

生ごみ単独のメタン化の事例

(1)メタン化事業の概要

 一般廃棄物の生ごみだけを対象としたメタン化事業は北海道の空知地域の3か所のメタン化事業が有名です。近年、長岡市でも生ごみだけのメタン化施設が設置されました。これらのメタン化事業の状況を表-4に整理しました。

表-4 生ごみ単独のメタン化事業の事例

事業名北空知中空知砂川地区長岡市
処理能力(t/日)16552265
処理プロセス選別・前処理破砕・選別→
混合・調整槽
破砕・選別→
混合・調整槽
破砕・選別→
混合・調整槽
分別・破砕→
混合・調整槽
メタン発酵湿式高温、
膜分離メタン発酵法
湿式中温メタン発酵
(BIMA発酵槽)
湿式高温メタン発酵(2槽)湿式中温メタン発酵
資源化処理焼却堆肥化脱水+乾燥汚泥燃料化
残渣処理焼却ごみ焼却施設へ
脱臭処理活性汚泥式生物脱臭法、湿式スクラバー生物脱臭法、薬液洗浄法、活性炭吸着法フィルター式生物脱臭法
排水処理活性汚泥法+膜ろ過生物学的脱窒処理+凝集沈殿+活性炭吸着嫌気好気処理+膜ろ過下水処理場へ
処理(搬入)量(t/年)3,2838,3523,63313,267
1日処理量の能力に対する割合(%)56424556
バイオガス発生量 A(Nm3/年)351,736947,527590,7231,999,325
処理量当りA (Nm3/t)107113163151
メタン濃度(%)725365
エネルギー収支発電量 B (kWh/年)482,1531,617,115753,4692,462,060
処理量当りB (kWh/t)147194207186
使用電力量 C(kWh/年)862,4812,223,450895,697298,390 注)
処理量当りC(kWh/t)26326624722
B/C (%)567384825
注)長岡市の使用電力量は発電量から送電電力量(2,163,670)を引いた値。生ごみの処理量は搬入量であり発酵処理量ではありません。
出所)空知地区の3事業:谷川昇・石井一英・米通猛・二階堂匠:北海道中北空知地域の生ごみ分別収集とバイオガス化施設の維持管理費、第17回廃棄物学会研究発表会講演論文集、2006年
長岡市:李玉友、他:バイオメタン・バイオガス研究の応用と最新技術、廃棄物資源循環学会誌、Vol.32、No.4、2021年

(2)メタン発生量とエネルギー収支

 表-4に示すように、北海道空知地域の3つのメタン化事業は、残渣処理、排水処理ともに施設内で処理しているのに対して、長岡市では選別残渣は別の場所の焼却施設に、排水は下水処理場で処理を行っており、エネルギーを使用していませんので、同列の比較はできません。

 4つの事業のメタン発酵の処理量当りのバイオガス発生量は図-7に示すように107〜163 Nm3/t であり、処理量当りの発電電力量は147~207 kWh/tです(バイオガスはメタンと二酸化炭素などで構成されます。バイオガス発生量にメタン濃度を乗ずればメタン発生量が算定されます)。メタン化事業により幅がある結果となっています。

図-7 メタン化事業別のバイオガス発生量、発電電力量、使用電力量

 また、処理量当りの使用電力量は22~266kWh/tで空知地域の3事業の使用電力量は発電量よりも多く、場内の使用電力量を賄うことはできていません。これは寒冷地のため発酵槽の加温に多くのエネルギーを要することが原因と考えられます。

 発酵温度の影響については明確な傾向はありません。中温発酵である中空知の施設は処理水を河川に放流しているため排水処理に高度な技術を適用しているのに対して、高温発酵の他の施設は排水基準が緩い下水道への放流であるためです。

 一方、長岡市の使用電力量は発電電力量の12%にすぎず、発電したほとんどの電力を売電(送電)しています。長岡市の場合、排水処理は下水処理場で行っており、本施設での使用電力量は大幅に少なくなっています。

 このように、排水処理にかかる使用電力量は非常に大きなものであり、後に示すような液肥の利用によって排水処理をしない場合は大きなエネルギー利用効果が出ると想定されます。

(3) 環境汚染対策

 空知地域の3事業からの環境汚染物質に対する検討を行った結果を示します13)。具体的には、施設から生じる排水(水質汚染)、排ガス(大気汚染)、臭気(悪臭)に関する発生性状と対策の効果を以下に示します。ここでは、参考文献の原文のまま、メタン化施設はA、B、Cで表します。

(a)排水水質

 排水水質では生物化学的酸素要求量(BOD:biochemical oxygen demand)と全窒素(T-N)についての結果を図-8と図-9に示します。図で原水は処理前、処理水は処理後の水質を示します。それぞれ、最大、平均、最小の測定結果を示しています。

出所)谷川昇・古市徹・石井一英・西上耕平:生ごみバイオガス化施設におけるメタン回収量、環境保全性,経済性の検討、廃棄物学会論文誌、Vol. 19、No. 3、2008年
図-8 排水処理前後の水質(BOD)
出所)谷川昇・古市徹・石井一英・西上耕平:生ごみバイオガス化施設におけるメタン回収量、環境保全性,経済性の検討、廃棄物学会論文誌、Vol. 19、No. 3、2008年
図-9 排水処理前後の水質(T-N)

 施設ごとに原水水質の状況が異なっています。特にB施設の水質が低いのは、B施設が湿式中温のメタン発酵であり、発酵槽が大きいためと考えられます。A施設とC施設は下水道に、B施設は河川に放流されています。BODについては最大でも16mg/L(A施設)とよく除去されています。

 B施設は河川放流の排水基準(石狩川、し尿処理施設への許容基準40mg/L、日平均30mg/L)をクリアしています。また、A施設、C施設は下水道排除基準(下水道法に基づく許可基準600mg/L、日平均300mg/L)をクリアしています。

 一方、図-9に示す全窒素については、排水基準は湖沼や内湾等の閉鎖性水域へ排出された場合に規制がかかりますが、本地域では対象になっていません。もし規制がかかっている場合は注意が必要です。特にA施設では全窒素の原水濃度が高いため、低レベルまでの除去が難しいことが分かります。

 閉鎖性水域では窒素やCOD(化学的酸素要求量、閉鎖性水域ではBODの代わりにCODを使います)の排水基準が厳しくなっており、これに合わせるために排水処理施設の高度化が必要になり、排水処理のエネルギーも増加していくことが考えられます。

(b)排気ガス(大気汚染)

 大気汚染項目としてガスエンジン等からの排ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物などが挙げられます。各施設のバイオガスを利用したエンジン等の排ガス中には,NOxとSO2が含まれていますが、排ガス量は非常に少ない量でありメタン化施設からの環境負荷量は軽微であるとされています。

(c)臭気(悪臭)

 生ごみメタン化施設から発生する臭気の臭気濃度とガス量の積であるOER(Odor Emission Rate:臭気濃度・m3/min))で臭気を評価します。その臭気排出原単位(1日の生ごみ処理量1t当りのOER)を図-10に示します。

出所)谷川昇・古市徹・石井一英・西上耕平:生ごみバイオガス化施設におけるメタン回収量、環境保全性,経済性の検討、廃棄物学会論文誌、Vol. 19、No. 3、2008年
図-10 脱臭処理前後の臭気原単位

 発生源の臭気排出原単位は,概ね105レベル(平均は1.6×105)であり、各施設での脱臭設備によって処理された臭気の臭気排出原単位は1オーダー低い104レベルに低減されていました。発生源の臭気排出原単位に対する脱臭後のそれの比は、A、B、C施設の順に0.17、0.06、0.50となっています。生物脱臭法,薬液洗浄法,活性炭吸着法を組み合わせた脱臭設備を設置しているB施設の値が最も低く,生物脱臭法のみのC施設の値が高くなっていました。

 生ごみメタン化施設の1日の生ごみ処理量を乗ずることで、施設からのOERの概算値が推定できます。例えば、A施設の脱臭後の臭気排出原単位0.4×105に1日の処理量16t/日を乗じると6.4×105OER・m3/minとなります。

 施設のOER が106程度であると数百m離れた地点から悪臭苦情が発生する可能性があるとされており、生ごみメタン化施設の設置にあたっては,施設の規模と立地状況を考慮しながら臭気対策に万全を期す必要があるとされています13)

家畜排せつ物を中心としたメタン化の事例

(1)メタン化事業の概要

 最後に家畜排せつ物を中心としたメタン化の事例を示します。この事例では、1998年から稼働を開始した旧八木町バイオエコロジーセンター(市町村合併により八木町は南丹市に名称変更)が有名です。

 旧八木町は畜産業が盛んで、乳牛・肉牛1,150頭、豚1,500頭を飼育していました。このふん尿は、野積みによるハエ・悪臭、河川汚濁などの環境汚染対策のため、ふん尿から発生するバイオガスをエネルギー利用し発電するとともに、堆肥製造施設も導入しました。そのシステム構成と計画段階における物質収支を図-11に示します16)

出所)小川幸正、他:ふん尿・食品残渣のバイオガスプラントにおけるエネルギー供給施設としての評価に関する研究、空気調和・衛生工学会論文集、No.95、2004年
図-11 旧八木町バイオエコロジーセンターのシステム構成と物質フロー

 施設は、乳牛と豚のふん尿およびおからを原料とする「メタン施設」と肉牛のふん尿やメタン施設の脱水ケーキを原料とする「堆肥施設」に大別されます。メタン化施設の発酵槽はBIMA発酵槽であり、37 ℃の中温発酵槽と55℃の高温発酵槽の2基を設置しています。

 2基の発酵槽の滞留日数の設計値は、中温発酵が33日、高温発酵は26日です。高温発酵は中温発酵に比べて病原性細菌の消毒効果が高く、また種子の発芽率が抑制されるので、この消化液の一部を液肥として利用しています。

 発酵槽で発生するバイオガスはガスホルダーに一時貯留し、脱硫塔に送り硫化水素を除去した後にガスエンジン式発電装置の燃料として供給されます。発電した電気は、場内ならびに隣接する下水処理場で使用し、さらに余剰電力は電力会杜へ売電しています。発電装置から回収した温水(65 〜70℃)は、発酵槽の加温、管理室の給湯や暖房に使用しています。

 メタン発酵後の消化液は、脱水機で固形分が分離され、脱水ろ液は排水処理設備へ送られ、生物的脱窒・膜分離・凝集沈殿・オゾン処理・塩素消毒して放流されます。生物的脱窒処理水は精密ろ過膜による膜ろ過を行いますが渇色に着色しているため、凝集沈殿ならびにオゾン酸化による脱色を行った後隣接する河川に放流します。

(2)エネルギー収支とエネルギーの有効な使用方法

 2003年2月のエネルギー収支を図-12に示します。電力に関しては総電力量の5% 程度を購入していますがほとんどが発電電力で賄えます。そのうち約75%を施設内で使用し、残りの25%を売電しています。一方、熱に関しては温水による廃熱回収熱量の約43%程度をメタン発酵に必要な熱量として使用し、その他暖房給湯にわずかに使用する以外は、56%の熱が使用されずに放熱されています。

図-12 エネルギーバランス(2003.2年2月8日〜3月1日)

 表-5に使用電力の各設備に使われる内訳を示します。メタン発酵設備で使用する電力は電力使用量の1/3程度です。特に排水処理設備で使用する電力が半分以上、脱水・排水処理設備ならびに堆肥化設備での使用電力が2/3を占めています。

表-5 各設備の電力使用量

設備名称使用電力量(kWh/d)比率(%)
前処理・メタン発酵・管理建屋設備1,12236.1
脱水設備1183.8
排水処理設備1,74756.1
堆肥化設備1234.0
合計3,110100.0
出所)小川幸正、他:ふん尿・食品残渣のバイオガスプラントにおけるエネルギー供給施設としての評価に関する研究、空気調和・衛生工学会論文集、No.95、2004年

 現在日本では.固形の堆肥を有機肥料として使用していますが、消化液を液肥で使用できると使用電力の64% を占めている脱水・排水処理・堆肥化設備が不要となり、売電出来る電力比率が大幅に増え、バイオガスプラントのエネルギー生産施設としての評価も高まると言えます。

(3)メタン化後の消化液の液肥利用の可能性

 これまで北海道や九州の酪農地帯、稲作地帯で、メタン発酵後の消化液を液肥として実際に使用してきました。表-6に液肥利用が行われているメタン化施設を示します17)。表-6では液肥が使用されている地域および農地の種類を示しています。

表-6 液肥を利用しているメタン化施設

施設名都道府県牧草中心 水稲  畑   
開新牧場糞尿処理施設北海道
町村牧場バイオガスプラント北海道
鹿追町環境保全センター北海道
別海資源循環試験施設北海道
西天北クリーンセンター北海道
バイオマスパワー雫石小岩井事業所岩手県
葛巻町バイオガスシステム施設岩手県
土里夢農場バイオガスプラント岩手県
天城放牧場バイオガスプラント静岡県
南丹市八木バイオエコロジーセンター京都府
おおき循環センター福岡県
鳥栖環境開発綜合センター佐賀県
山鹿市バイオマスセンター熊本県
注)●:ある程度まとまりのある農家が液肥施用を実践。〇:実証試験圃場で施用。
出所)地域資源循環センター:メタン発酵消化液の液肥利用マニュアル、2010年

 地域では北海道、東北、九州の牧草地への施用(散布)が多いです。これは日本では家畜排せつ物は固液分離して、固体を堆肥とし液体を牧草の液肥として利用してきた歴史があるからです。牧草地での消化液の液肥利用は容易に行えると思われます。

 一部の地域では畑や水稲にも液肥が施用されていますが、数は少ない状況です。福岡県大木町と熊本県山鹿市では水田や畑に液肥を年間1万t程度施用しており、循環型の農業が確立されています。牧草地以外の水田や畑での液肥利用を推進することが重要です。

 液肥の利用における課題は、堆肥に比べて単位容量当りの栄養素が少ないことと、そのため散布に労力を要すること、施用時期に季節性があることです。散布の労力を軽減するため、メタン化事業側が散布サービスを行うことが効果的であるとされています17)

 また、栄養素については液肥に関する品質確保のためのマニュアルも作成されており、液肥の成分分析結果や作物別の施用量なども記載されており、堆肥と液肥を組み合わせる方法や少量の化学肥料を追加することなどの対策が示されています。

 液肥の需要時期は作物により決まっており、作付け前や出穂前に施用します。そのため、それ以外の時期はメタン発酵施設が稼働していても施用できず、貯留しておくことが必要です。表-6にある鹿追町環境保全センターの例では、9月中旬から4月中旬までの220日分の貯留を行う貯留槽を設置しています18)。貯留槽の建設費用に比べてエネルギー利用による効果が大きいことは言うまでもありません。

 参考文献ではメタン化施設の経済効果、エネルギー利用効果を高めるには液肥の使用が最も効果的であり、液肥利用での課題は十分に解決できるとしています。このように農地を多く抱えた地域においては、生ごみ、し尿、家畜排せつ物のメタン化施設の消化液を液肥として利用することが脱炭素社会での最重要施策であると考えられます。

まとめ

 今回は日本における湿式メタン発酵を採用しているメタン化事業の事例を説明してきました。タイトルがバイオマス発電としており、発電した電力を他に供給していると思われた方も多いと思われますが、実際には施設内での電力に使用されており、売電している量はわずかでした。

 それは、多くの施設が廃棄物の処理施設として利用されており、環境保全のために発電した電気が使用されていることによります。日本では、バイオマスで発電した電気をエネルギー供給施設としてではなく、廃棄物系バイオマスの処理施設としてとらえていたことが大きいと思われます。

 今回の分析によって、明らかになってきたことは以下の通りです。

① し尿と生ごみを共同処理する汚泥再生処理センターの補助制度化によって選別機や発酵槽などに多くの有効な技術が開発されました。また、これらの技術はこの制度の枠組みだけでなく様々なバイオマスを混合してメタン化することを可能にすることが分かりました。
② 一方、日本の環境規制の厳しさにより、排水処理等にエネルギーを要するため、生ごみとし尿の共同処理におけるメタン発酵技術が使われなくなってきたことも分かりました。これは、メタン化事業を適用しやすい立地条件を選ぶことによって有効な場合があることを示唆します。
③ 具体的には、窒素の排出基準が厳しくない地域での整備が可能であると考えられることです。また、長岡市の事例のように排水を下水処理施設で処理することもエネルギー利用面では有効と考えられます。
④ さらに、家畜排せつ物(畜産ふん尿)の事例で見たように、メタン発酵後の消化液は肥料としての価値が高いものであり、堆肥化ではなく液肥としてそのまま使用することができます。その場合、排水処理や堆肥化に使用するエネルギーを節約でき、多くのエネルギーを有効に使うことができます。
⑤ このように液肥の利用を行うためには、その需要地である農耕地が必要で、液肥の品質の確保も重要になります。そのためには、発酵槽への有害物や異物の混入を防ぐことが必要となり、生ごみの場合は排出者での適切な分別が重要となります。

 湿式メタン発酵のエネルギー利用上最も有効なケースは消化液の液肥利用です。液肥利用について、農家等の生産者、及び農作物を利用する消費者の理解を得て、脱炭素社会での廃棄物系バイオマスを利用したメタン化事業を推進していくことが必要と思われます。

<参考文献>
1) 環境省:廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)、2021年8月5日
2) NEDO:バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針、第6版、2022年
3) 環境省:廃棄物処理施設整備国庫補助事業に係る汚泥再生処理センター性能指針(改正)、2003年12月19日
4) 森下忠幸:有機性資源循環システム・汚泥再生処理センターへの期待、廃棄物学会誌、Vol.11、No,5、2000年
5) 環境省:一般廃棄物処理実態調査結果、2021年度調査結果、施設整備状況、し尿処理施設
6) 岩尾充:メビウスシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
7) 久芳良則:REMシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
8) 坂上正美:リネッサシステムについて(汚泥再生処理センターの動向)、環境技術、Vol.27、No.12、1998年
9) 矢野聡:メビウスシステム・REMシステム(し尿等の混合処理)、環境技術、Vol.29、No.9、2000年
10)松本智樹、他:バイオガスシステム(リネッサシステム)の開発、日立造船技報、Vol.62、No.2、2001年
11)環境省:メタンガス化施設整備マニュアル(改訂版)、2017年3月
12)野池達也編:メタン発酵、技法堂出版、2009年5月
13)谷川昇・古市徹・石井一英・西上耕平:生ごみバイオガス化施設におけるメタン回収量、環境保全性,経済性の検討、廃棄物学会論文誌、Vol. 19、No. 3、2008年
14)八村幸一・古市徹・谷川昇・石井一英・米通猛・二階堂匠:北海道中北空知地域の生ごみ分別収集とバイオガス化施設の維持管理費、第17回廃棄物学会研究発表会講演論文集、2006年
15)李玉友、他:バイオメタン・バイオガス研究の応用と最新技術、廃棄物資源循環学会誌、Vol.32、No.4、2021年
16)小川幸正、他:ふん尿・食品残渣のバイオガスプラントにおけるエネルギー供給施設としての評価に関する研究、空気調和・衛生工学会論文集、No.95、2004年
17)地域資源循環技術センター:メタン発酵消化液の液肥利用マニュアル、2010年
18)鹿追町:鹿追町環境保全センター、パンフレット