IPCC第6次評価報告書WG3政策決定者向け要約

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第56回総会及び同パネル第3作業部会(WG3)第14回会合が2022年3月21日(月)から同年4月4日(月)にかけてオンラインで開催され、IPCC第6次評価報告書(AR6)WG3報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、同報告書の本体等が受諾されました。

 なお、各作業部会の検討内容は以下の通りです。

 第1作業部会(WG1)- 自然科学的根拠
 第2作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性
 第3作業部会(WG3)- 気候変動の緩和

 第1作業部会の報告書は昨年8月に、第2作業部会は今年2月に公表されています。それぞれ以下のサイトをご確認ください。

 第1作業部会:「IPCC第6次評価報告書WG1政策決定者向け要約(SPM)」
 第2作業部会:「IPCC第6次評価報告書WG2政策決定者向け要約」

 ここでは、環境省が公表した和文要約を引用します(2022年4月4日環境省報道発表)。なお、英語版原本は以下からアクセスできます。

https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/downloads/report/IPCC_AR6_WGIII_SPM.pdf

政策決定者向け要約(SPM)の構成

 A:序と枠組み
 B:最近の開発と現在のトレンド
 C:地球温暖化抑制のためのシステム変革
 D:緩和、適応、持続可能な開発の連携
 E:対策の強化

B:最近の開発と現在のトレンド

B.1 人為的な GHG の正味の総排出量は、1850 年以降の正味の累積 CO2 排出量と同様に、2010~2019 年の間、増加し続けた。2010~2019年の期間の年間平均 GHG 排出量は過去のどの10年よりも高かったが、2010~2019年の増加率は2000~2009 年の増加率よりも低かった。(確信度が高い)

B.2 正味の人為的なGHG排出量は、2010年以降、全ての主要な部門で世界的に増加している。排出量のうち、都市域に原因特定しうる割合が増加している。GDPのエネルギー原単位とエネルギーの炭素原単位の改善による、化石燃料と工業プロセスからの CO2 排出量の削減は、産業、エネルギー供給、運輸、農業、及び建物における世界全体の活動レベルの上昇による排出量の増加を下回っている。(確信度が高い)

B.3 世界全体のGHG排出量に対する地域別の寄与度は引き続き大きく異なっている。地域や、国の一人当たりの排出量のばらつきは、発展段階の違いを部分的に反映しているが、同じような所得水準でも大きく異なる。一人当たりの排出量が最も多い上位10%の世帯が、世界全体の家庭部門のGHG排出量に占める割合が不均衡に大きい。少なくとも18か国が10年より長期にわたってGHG排出量の削減を持続している。(確信度が高い)

B.4 2010 年以降、いくつかの低排出技術の単価は継続的に低下している。イノベーション政策パッケージが、これらのコスト削減を可能にし、世界的な普及を支えてきた。イノベーションシステムに個別に対応する適合政策と包括的な政策の両方が、低排出技術の世界的普及に潜在的に関わる分配、環境、社会への影響を克服するのに役立ってきた。開発途上国では、それを可能にする条件が整備されていないため、イノベーションが遅れている。デジタル化は排出削減を可能にしうるが、適切に管理されなければ、副次的な悪影響を及ぼしうる。(確信度が高い) 。

図SPM.3 急速に変化するいくつかの緩和技術での単価の削減と使用

B.5 第5次評価報告書以降、緩和に対処するための政策や法律が一貫して拡充している。これにより、それらがなければ発生したであろう排出が回避され、低GHG技術やインフラへの投資が増加している。排出量に関する政策の適用範囲は、部門間で不均衡である。資金の流れをパリ協定の目標に向けて整合させることは、依然として進みが遅れており、追跡調査された気候変動資金の流れは 、地域や部門間で不均等に分配されている。(確信度が高い)

B.6 COP26より前に発表された国が決定する貢献(NDCs)の実施に関連する2030 年の世界全体のGHG排出量では、21世紀中に温暖化が 1.5℃を超える可能性が高い見込み。したがって、温暖化を2℃より低く抑える可能性を高くするためには、2030 年以降の急速な緩和努力の加速に頼ることになるだろう。2020年末までに実施された政策の結果、NDCs の実施によって示唆される世界全体のGHG排出量よりも高いGHG排出量になると予測される。(確信度が高い)

図SPM.4 モデル経路による世界全体のGHG排出量並びに短期的な2030年に政策評価の結果予測される排出量

B.7 追加的な削減対策を行わない既存の化石燃料インフラ及び現在計画されている化石燃料インフラが、今後その耐用期間中に排出すると予測される累積 CO2排出量は、オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を 1.5 ℃(> 50%)に抑える経路における正味の累積 CO2総排出量を上回る。またそれらは、温暖化を2℃ (> 67%)に抑える可能性が高い経路における正味の累積 CO2総排出量とほぼ同じである。(確信度が高い)

C:地球温暖化抑制のためのシステム変革

C.1 オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を1.5℃(>50%) に抑えるモデル化された経路と、温暖化を 2℃(> 67%)に抑える即時の行動を想定したモデル化された経路では、世界のGHG排出量は、2020 年から遅くとも2025 年以前にピークに達すると予測される。いずれの種類のモデル化された経路においても、2030 年、2040 年及び2050 年を通して、急速かつ大幅な GHG 排出削減が続く(確信度が高い)。2020 年末までに実施されるものを超える政策の強化がなければ、GHG 排出量は2025 年以降も増加すると予測され、そうなれば 2100 年までに中央値で3.2 [2.2~3.5] ℃ の地球温暖化をもたらす(確信度が中程度)。

C.2 オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を1.5 ℃(>50 %)に抑えるモデル化された経路では、世界全体として CO2排出量正味ゼロ(ネットゼロCO2)に2050年代前半に達し、温暖化を2 ℃(>67 %)に抑える可能性が高い経路では、ネットゼロCO2に2070年代前半に達する。これらの経路の多くは、ネットゼロCO2を達成した後も、正味の負のCO2排出を続ける。これらの経路はまた、他のGHG排出量の大幅な削減を含む。2030 年と2040 年までに GHG 排出量の大幅な削減、特にメタン排出量の削減を行うことは、ピーク温度を引き下げると共に温暖化をオーバーシュートする可能性を低減し、今世紀後半に温暖化を逆転させる正味負のCO2排出への依存度の低下につながる。GHG 排出量が世界全体で正味ゼロに達し、それを維持することは、温暖化の漸進的な低下につながる。(確信度が高い)

C.3 オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を 1.5℃(> 50%)に抑える、あるいは、温暖化を 2℃(> 67%)に抑える全ての地球全体のモデル化された経路は、全ての部門で、急速かつ大幅に、そしてほとんどの場合、即時的に、GHG 排出量を削減する必要がある。これらの削減を達成するためのモデル化された緩和戦略には、二酸化炭素回収・貯留(CCS)なしの化石燃料から、再生可能あるいはCCS付きの化石燃料のような超低炭素あるいはゼロ炭素エネルギー源への移行と効率の改善、非CO2 排出量の削減、残留する GHG 排出を相殺する二酸化炭素除去(CDR)法の導入が含まれる。例示的モデル経路( IMP )は、所与の温暖化レベルに整合する部門別の緩和戦略の様々な組み合わせを示す。

C.4 エネルギー部門全体を通してGHG 排出量を削減するには、化石燃料使用全般の大幅削減、低排出エネルギー源の導入、代替エネルギーキャリアへの転換、及びエネルギー効率と省エネルギーなどの大規模の転換を必要とする。排出削減の講じられていない化石燃料インフラの継続的な設置は、高排出量を「ロックイン(固定化)」する。(確信度が高い)

C.5 産業部門由来のCO2排出を正味ゼロにすることは、困難であるが可能である。産業由来の排出量の削減には、削減技術や生産プロセスの革新的変化とともに、需要管理、エネルギーと材料の効率化、循環型の物質フローを含む全ての緩和対策を促進するためのバリューチェーン全体での協調行動を伴う。 産業由来の GHG の正味ゼロ排出への推進は、低及びゼロ GHG 排出の電力、水素、燃料と炭素管理を用いた新しい生産プロセスの導入により可能となる。(確信度が高い)

C.6 都市域は、正味ゼロ排出に向かう低排出開発経路の中で、インフラと都市形態の体系的な移行を通して、資源効率を高め GHG 排出量を大幅に削減する機会を生み出しうる。成立済の、急成長中の、そして新興の都市にとっての野心的な緩和努力は、 1 )エネルギーと物質の消費量の削減または消費(形態)の変更、 2 )電化、及び3)都市環境における炭素吸収と貯留の強化を含む。都市は正味ゼロ排出を達成しうるが、それは、サプライチェーンを通じてその管轄境界の内外で排出量が削減される場合に限られ、そうなれば他部門にわたり有益な連鎖的効果をもたらす。(確信度が非常に高い)

C.7 モデル化された世界全体のシナリオでは、野心的な充足性対策、省エネ対策、及び再生可能エネルギー対策を組み合わせた政策パッケージが効果的に実施され、脱炭素化への障壁が取り除かれた場合、改修された既存の建物とこれから建設される建物は、 2050 年に正味ゼロのGHG 排出量に近づくと予測される。野心度の低い政策は、何十年にもわたって、建物の炭素ロック・イン(固定化)を起こすリスクを増大させる。一方、適切に設計され、効果的に実施される緩和介入策は、新築の建物と改修された既存の建物の両方において、将来の気候に建物を適応させながら、すべての地域において SDGs 達成に貢献する大きな潜在的可能性を有する。(確信度が高い)

C.8 需要側のオプションと低 GHG 排出技術は、先進国における輸送部門の排出量を削減し、開発途上国における排出量増加を抑制しうる(確信度が高い)。需要に焦点を当てた介入策はすべての輸送サービスに対する需要を削減し、よりエネルギー効率の高い輸送方式への移行を支援しうる(確信度が中程度)。低排出電力を動力源とする電気自動車は、陸上輸送について、ライフサイクルベースで最大の脱炭素化ポテンシャルを提供しうる(確信度が高い)。持続可能なバイオ燃料は、陸上輸送において、短期・中期的にさらなる緩和効果をもたらしうる(確信度が中程度)。持続可能なバイオ燃料、低排出の水素とその派生物質(合成燃料を含む)は、海上輸送、航空輸送、及び重量物の陸上輸送由来の CO2 排出の緩和を支援しうるが、生産プロセスの改善とコスト削減を必要とする(確信度が中程度)。運輸部門における多くの緩和戦略は、大気質の改善、健康上の便益、交通サービスへの衡平なアクセス、渋滞の削減、材料需要の削減など、様々な共便益(コベネフィット)をもたらすだろう(確信度が高い)。

C.9 農業、林業、その他土地利用(AFOLU )の緩和オプションは、持続可能な方法で実施された場合、大規模な GHG 排出削減と除去の促進をもたらしうるが、他の部門における行動の遅れを完全に補うことはできない。加えて、持続可能な方法で調達された農林産物は、他の部門において、より GHG 排出量の多い製品の代わりに使用しうる。実施を阻む障壁やトレードオフは、気候変動の影響、土地に対する競合需要、食料安全保障や生計との競合、土地の所有や管理制度の複雑さ及び文化的側面などから生じるかもしれない。共便益(コベネフィット)(生物多様性の保全、生態系サービス、生計など)を提供し、リスクを回避する(例えば、気候変動への適応を通して)ための、国ごとに特有の機会が多く存在する。(確信度が高い)

C.10 需要側の緩和には、インフラ利用の変化、エンドユース技術の採用、及び社会文化的変化及び行動の変容が含まれる。需要側の対策とエンドユースサービスの新しい提供方法によって、エンドユース部門における世界全体の GHG 排出量をベースラインシナリオに比べて 2050年までに 40~70% 削減しうる一方で、いくつかの地域や社会経済集団は、追加のエネルギーや資源を必要とする。需要側の緩和対応策は、全ての人々の基本的幸福の向上と整合的である。(確信度が高い)

図SPM.6 2050 年 まで の需要側緩和オプションの暗示的な潜在的可能性

C.11 CO2又は GHG の正味ゼロを達成しようとするならば、削減が困難な残余排出量を相殺する CDR の導入は避けられない。導入の規模と時期は、各部門における総排出削減量の軌道次第である。 CDR 導入の拡大は、特に大規模な場合、実現可能性と持続可能性の制約に対処するための効果的なアプローチの開発に依存する。(確信度が高い)

C.12 100米ドル/トン CO2 換算以下のコストの緩和オプションにより、世界全体の GHG 排出量を 2030 年までに少なくとも 2019 年レベルの半分に削減しうるだろう(確信度が高い)。モデル化された経路において、世界の GDP は引き続き成長するが、気候変動による損害の回避や適応コストの削減による緩和対策の経済的利益を考慮しない場合、現行の政策を超える緩和を行わない経路と比べて、2050年には数パーセント低くなる。温暖化を2℃に抑えることの世界規模の経済効果は、評価された文献のほとんどにおいて緩和コストを上回ると報告されている(確信度が中程度)。

D:緩和、適応、持続可能な開発の連携

D.1 気候変動の影響を緩和し、適応するための加速した衡平な気候行動は、持続可能な開発のために非常に重要である。気候変動行動もまたいくつかのトレードオフの結果となりうる。個々のオプションのトレードオフは、政策設計により管理することができる。国連の「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」の下で採択された持続可能な開発目標( SDGs )は、持続可能な開発の文脈において緩和オプションの含意を気候行動の評価基準として利用することができる。(確信度が高い)

D.2 持続可能な開発、脆弱性及び気候リスクの間には強い関連性がある。特に開発途上国においては、経済的、社会的、制度的資源が限定的である ため、脆弱性が高く、適応能力が低い結果となる場合が多い(確信度が中程度)。いくつかの対応のオプションは、特に人間の居住地や土地管理において、そして生態系との関連において、緩和と適応の両方の成果をもたらす。しかし、陸域生態系と水域生態系は、一部の緩和行動によって、その実施次第では悪影響を受けうる(確信度が中程度)。協調的な部門横断的な政策と計画により、相乗効果を最大化し、 緩和と適応の間のトレードオフを回避または低減しうる (確信度が高い)。

D.3 強化された緩和や、持続可能性に向けて開発経路を移行させるためのより広範な行動は、国内及び国家間に分配的な影響をもたらす。衡平性への配慮や、全ての規模における意思決定への全ての関係者の幅広く有意義な参加は、社会的信頼を築き、変革への支持を深め、広げうる。(確信度が高い)

E:対策の強化

E.1 短期的に大規模展開が実現可能な緩和のオプションは複数ある。実現可能性は、部門や地域、能力、及び実施の速度と規模によって異なる。緩和オプションを広く展開するためには、実現可能性の障壁を削減又は除去し、可能にする条件を強化する必要があるだろう。これらの障壁と可能にする条件には、地球物理学的、環境生態学的、技術的、経済的な要因があり、特に、制度的要因と社会文化的要因がある。UNFCCC COP26 以前に発表された NDCs を超える短期的な対策は、オーバーシュートしないまたは限られたオーバーシュートを伴って 1.5℃(>50 %)に抑える世界全体のモデル経路における長期的な実現可能性の課題を軽減や回避、もしくはその両方をしうる。(確信度が高い)

E.2 全ての国において、より広範な開発の文脈に組み込まれた緩和努力によって、排出削減の速度、深度、幅を増大させうる(確信度が中程度)。開発経路を持続可能性に向けて移行させる政策は、利用可能な緩和対策のポートフォリオを拡げ、開発目標とのシナジーの追求を可能にする(確信度が中程度)。開発経路を移行させ、システム全体にわたる緩和と変革を加速させる行動を、今、取ることができる(確信度が高い)。

E.3 気候ガバナンスは、各国の事情に基づき、法律、戦略、制度を通じて行動し、多様な主体が相互に関わる枠組みや、政策策定や実施のための基盤を提供することにより、緩和を支援する(確信度が中程度)。気候ガバナンスは、それが複数の政策領域にわたって統合し、シナジーの実現とトレードオフの最小化を支援し、国と地方の政策決定レベルを結びつけるときに最も効果的なものとなる(確信度が高い)。効果的で衡平な気候ガバナンスは、市民社会の主体、政治の主体、ビジネス、若者、労働者、メディア、先住民、地域コミュニティとの積極的な関与の上に成り立つ(確信度が中程度)。

E.4 多くの規制的手段や経済的手段はすでに成功裏に展開されている。制度の設計は、衡平性やその他の目標に対処するのに役立ちうる。これら制度は、規模を拡大し、より広範に適用すれば、大幅な排出量の削減を支援し、イノベーションを刺激しうる(確信度が高い)。イノベーションを可能にし、能力を構築する政策パッケージは、個々の政策よりも、衡平な低排出な将来への移行をよりよく支援できる(確信度が高い)。各国の状況に即した経済全体のパッケージは、排出量を削減し、開発経路を持続可能な方向にシフトさせつつ、短期的な経済目標を達成しうる(確信度が中程度)。

E.5 追跡調査された資金の流れは、すべての部門と地域にわたって、緩和目標の達成に必要なレベルに達していない。その資金ギャップ解消についての課題は、全体として開発途上国で最も大きい。緩和のための資金フローの拡大は、明確な政策の選択肢と政府および国際社会からのシグナルにより支えられうる。 確信度が高い加速された国際的な資金協力は、低GHG と公正な移行を可能にする重要な成功要因であり、資金へのアクセスや、気候変動の影響のコストと脆弱性における不衡平に対処しうる(確信度が高い)。

E.6 国際協力は、野心的な気候変動緩和目標を達成するための極めて重要な成功要因である。国連気候変動枠組条約( UNFCCC )、京都議定書、及びパリ協定は、ギャップが残っているものの、各国の野心レベル引き上げを支援し、気候政策の策定と実施を奨励している。世界規模未満のレベルや部門レベルで実行され多様な主体が参画するパートナーシップ、協定、制度やイニシアチブが出現してきているが、その有効性の程度は様々である。(確信度が高い)