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エネルギー料金

【緊急分析】急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析

 これまで、家庭の電気代削減をテーマに、テレビ、エアコン、冷蔵庫、照明の節電対策を検討してきました。次は調理器具による炊事のための省エネについて検討する予定なのですが、炊事では電気だけでなくガス(都市ガス、プロパンガス)も使用されます。そのため、単に節電の検討だけでなく電気とガスのどちらを選ぶとエネルギーコストを最小にできるのかもテーマになります。

 その検討のためには、電気料金とガス料金を比較する必要があります。特に両者は基本料金の設定方法と従量料金の設定タイプ(逓増型、逓減型)が異なっているのです。そのため今回はこれらの料金体系についても取り上げて分析することにします。

 2021年から2022年を通して燃料価格が上昇してきました。特に2022年に入ってからは急上昇しています。その原因はパンデミックからの経済活動の回復下において燃料供給が遅れたことと、ロシアのウクライナ侵攻による燃料供給ルートの変化があります。

 家庭においては電気代・ガス代の徴収票を見てその増加ぶりに驚いている方も多いでしょう。電気は石炭、石油、LNGを原料として発電され、ガスも燃料そのものですので、燃料価格の上昇の影響を受けました。この電気、ガス料金の高騰はいつまで続くのでしょう。

 電気・ガス料金の激変を受けた国の補助金が予算化されて2023年2月から導入されますが、それも予定では10月までとなっています。そして、小売電気事業者からは本格的な料金値上げが申請されており、それが許可されたら一層大きな影響が出ます。

 ところで、2016年の小売電気事業の自由化により新電力と呼ばれる小売電気事業者が数多く生まれました。当初はその料金価格の安さにひかれて、新電力に切り替えた人も多かったと思われますが、現状では旧電力系企業とどのくらいの価格差となっているのでしょうか。

 新電力は現状では旧電力系企業に比べて料金が高くなっているところが多いのです。新電力の中には経営が苦しくなって事業を停止したところもあります。それではまた旧電力系企業に変更する方が良いのか。それは早計過ぎます。なぜなら旧電力系企業はこれから本格的な料金値上げに向かうからです。それらの動向を知るためには、小売電気事業の電気料金設定に関するしくみを知る必要があります。

 また、冒頭に示した炊事に使われるエネルギー代の軽減のために、電気とガス料金の特性分析も行っていきます。電気機器とガス器具では熱効率が異なるため、それを考慮した「有効熱量当りコスト」という指標で、両方の料金を比較することを提案します。個別の料理に用いる調理器具の選択は次回のテーマです。

 ということで、今回の主要な検討項目は以下の5点です。

① 電気料金の推移と料金設定方法
② ガス料金の推移と料金設定方法
③ 電気料金・ガス料金の今後の動向
④ 電気料金・ガス料金の料金体系の相違
⑤ 電気・ガスの有効熱量当りコストの分析

(1)電気料金の推移と料金設定方法

(a)旧電力系企業の電気料金

 小売電気事業者は東京電力エナジーパートナー(以後東京電力EPと略称)などの旧電力会社から小売電気事業に分離された企業と、小売電気事業に新たに参入した新電力(事業)があります。新電力の大手として、ガス事業から参入した東京ガス、燃料供給事業から参入したエネオス電気、さらに通信事業から参入したSBパワーなどがあります。これらの新電力は価格の安さを売りにして供給量を増やしてきました。

 まず、旧電力系企業の電気料金について、電気料金の推移を整理します1)。図-1に東京電力EPの2021年1月から2023年2月までの推移を示します。ここでは、「従量電灯B」と「スタンダードS」の2つの料金メニューについて、契約電流40A、月使用量400kWhの電気料金を示しています。

出所)東京電力エネジーパートナー、電気、電気の料金プランから作図
図-1 東京電力EPの電気料金の推移(40A、400kWh使用時)

 この図を見ると、2021年1月から2023年1月まで一貫して上昇を続け、2023年2月に急に減少していることが分かります。この2月の急下降は政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による値引きが行われることが原因です。

 このうち「従量電灯B」は従来からの料金メニューであり、「スタンダードS」は電力自由化後に新しく設定された料金メニューです。この大きな違いは燃料費調整額の差異に寄ります。この燃料費調整額は発電の燃料となる石炭・石油・天然ガスの価格変動を調整するもので、価格次第でプラスにもマイナスにもなるものです。

 ここで、電気料金の算定方式について説明します。電気料金は以下の式で算定されます。基本料金は契約電流によって設定され、従量料金は電気使用量に従量料金単価を乗じて算定されます。基本料金と従量料金の価格の事例を表-1に示します。

 電気料金(円/月)=基本料金+従量料金+燃料費調整額+再生可能エネルギー賦課金

表-1 電気料金の料金体系(東京電力EP、従量電灯B)

  分  類  単位料金
基本料金契約電流 10A1契約286円00銭
契約電流 15A429円00銭
契約電流 20A572円00銭
契約電流 30A858円00銭
契約電流 40A1,144円00銭
契約電流50A1,430円00銭
契約電流 60A1,716円00銭
従量料金最初の120kWhまで(第1段階料金)1kWh19円88銭
120kWhをこえ300kWhまで(第2段階料金)26円48銭
上記超過(第3段階料金)30円57銭
出所)東京電力EP、公式Webサイト、従量電灯B、料金単価

 また、燃料費調整額は燃料の価格の変動によって調整される料金であり、再生可能エネルギー賦課金は再生可能エネルギーの普及を促進するために賦課される料金を指しています。

 燃料費調整額は、燃料費調整単価に電気使用量を乗じて算定されます。燃料費調整単価の設定方法は過去3か月の燃料費(石炭、石油、天然ガス)の平均値に一定割合を乗じて算定された値をもとに、定額(44,200円)を上回ったときにプラス、それを下回ったときにマイナスの調整額を設定します。詳しい算定方法は下のコラムに示します。

<燃料費調整額の算定方法>
 燃料費調整額は、以下の計算式によって求められます。
 燃料費調整額 = 燃料費調整単価 × 電気使用量

<燃料費調整単価の計算方法>
 燃料費調整単価は、以下の計算式により求められます。
【プラス調整(平均燃料価格が基準燃料価格を上回った場合)】
 燃料費調整単価 = (平均燃料価格 - 基準燃料価格) × 基準単価 ÷ 1,000
【マイナス調整(平均燃料価格が基準燃料価格を下回った場合)】
 燃料費調整単価 = (基準燃料価格 - 平均燃料価格) × 基準単価 ÷ 1,000

 平均燃料価格が基準燃料価格を上回った場合はプラス調整の計算式を、下回った場合はマイナス調整の計算式を採用する仕組みです。
 それぞれの用語の意味は以下の通りです。
(1)平均燃料価格
 平均燃料価格は、過去3ヶ月間の燃料価格を使って求められる数値です。
原油、液化天然ガス、石炭の価格に、それぞれ所定の換算係数をかけて求められます。
(2)基準単価
 基準単価は、平均燃料価格が1キロリットル当り1,000円変動した場合に調整される単価です。
(3)基準燃料価格
 基準燃料価格とは、電力会社が料金プランを作った当時に想定していた平均燃料価格です。
 言い換えれば、現在の価格設定の前提となった燃料価格を指します。
 この金額をもとに、家計の電気代に燃料費調整額が加えられるのか、あるいは引かれるのかが決まります。
 なお、電力自由化前は電気料金単価に制限がかけられており、燃料費調整単価の計算において平均燃料価格が基準燃料価格の1.5倍を上回る場合は、その基準燃料価格の1.5倍を上限価格としそれを上回る部分については調整を行わないことになっていました。しかし、電力自由化後はそのような制約はなくなりました。ただし、旧電力系企業の旧料金メニューには依然として上限価格が残されていました。

<関東地区、2023年1月の算定事例>
 具体的に関東地区を事例に2023年1月の燃料費調整単価を算定した例を示します。
(1)料金メニュー「スタンダードS」の場合
 2022年8月から10月の燃料価格は以下の通りです。
 平均原油価格 平均LNG価格 平均石炭価格 平均燃料価格
 96,630 円/kl  152, 786円/t  53,483 円/t 100,200 円/kl
 関東地区の平均燃料価格は44,200円/kl、基準単価は0.232円/kWhと決められています。
 従って、これらから燃料費調整単価は以下と計算されます。
 燃料費調整単価 = (100,200 – 44,200) × 0.232 ÷ 1,000=12.99円/kWh
(2)料金メニュー「従量電灯B」の場合
 燃料価格の上限価格は66,300円/t(44,200×1.5)ですので、燃料費調整単価は以下の通りです。
 燃料費調整単価 = (66,300 – 44,200) × 0.232 ÷ 1,000=5.13円/kWh
 燃料価格がいくら上昇してもこの値が適用されます。
出所)東京電力EP、燃料価格調整額に関する説明書

 この燃料費調整単価には上限が設けられているものとそうでないものがあります。具体的には、東京電力EPの場合、「従量電灯B」(特定小売供給約款を適用)は、上限が設けられており、「スタンダードS」(電気需給約款・低圧を適用)は上限価格は設けられていません。

 そのため、後者は燃料費の上昇に伴い上昇し続けることになります。前者は平均燃料価格が上限価格に達した場合は、それを上回る部分については調整を行いません。そのため、図-1で「従量電灯B」が2022年9月以降は一定値を示しているのは、その燃料費調整単価が上限値(5.13円/kWh)に達したためです。

(b)新電力の電気料金

 電力供給事業は2016年に電力自由化を行い、新電力(事業)が多数誕生しました。新電力の大手として、前述した東京ガス、エネオス電気、SBパワーなどがあります。ここではこれらの電気料金の推移を整理します。

 3社の2021年1月から2023年2月の電気料金の推移を図-2に示します2)3)4)。3社ともに2021年から2022年8月までは同様の傾向で料金が上昇しています。しかし8月以降東京ガスは上昇を続けていますが、エネオス電気とSBパワーは9月から11月は一定値となりその後12月以降東京ガスと同様の料金になりました。

出所)各小売電気事業者の公式サイトから料金体系を基に作図。
図-2 新電力3社の電気料金(400kWh/月)の推移

 これは、エネオス電気とSBパワーの2社は旧電力会社系企業に合わせて燃料費調整単価に上限を設けていたのですが、12月に上限を撤廃したためです。そのため、燃料費調整単価が12月に大きく増加し(5.13円/kWhから12.99円/kWhまで7.86円/kWhの増加)、電気料金も急上昇(3,144円=7.86×400)したのです。東京ガスは早々に上限を撤廃したため、9月以降上昇が続くことになりました。

 なお、2023年2月以降10月までは国の補助金により、この燃料費調整単価を7円/kWh減額することになっています。そのため、このグラフでも2023年2月の電気料金は約2,800円(=7×400)軽減されているのです。

(c)旧電力系企業と新電力の電気料金の比較

 これまで示してきた東京電力EPの2つの料金体系と新電力3社の料金体系を表-2に示します。表-2に示す通り基本料金と従量料金の使用量ランクはどの料金体系も同じです。また、再生可能エネルギー賦課金の単価も同一の値となっています。従量料金の各ランク別の単価は、それぞれの事業者が工夫を凝らした単価になっています。

 さらに、燃料費調整単価は東京電力の「従量電灯B」のみが上限値となっている以外は、同一の単価になっています(2023年1月の燃料費調整単価の計算はコラム内に記載しています)。この燃料費調整単価の差は非常に大きいものです。

表-2 小売電気事業の料金体系

小売電気事業東京電力EP東京ガスエネオス電気SBパワー
料金メニュー従量電灯BスタンダードS基本プラン東京Vプラン おうちでんき
契約電流40A40A40A40A40A
基本料金(円/月)1,144 1,144 1,144 11441144
従量料金単価120kWhまで19.8819.8819.7819.8819.68
120kWh超300まで26.4826.4625.2924.5426.21
300kWh超30.5730.5727.3626.2230.26
燃料費調整単価5.1312.9912.9912.9912.99
再生可能エネルギー賦課金単価3.453.453.453.453.45
400kWhの料金14,78517,92517,38217,14517,825
注)燃料費調整賦課金は2023年1月の値、各社とも関東地域を対象とした料金体系。電気料金の計算は、セット割やキャンペーンによる値引きなどは考慮していません。
出所)各小売電気事業者の公式サイト。

 図-3に小売電気事業の料金メニュー別の電気料金(40A、400kWh/月使用)を示しています。これを見ると、皮肉にも電力自由化後に設定された料金メニューによる電気料金が従来の料金メニューよりいずれも高額となっていることが分かります。

注)燃料費調整賦課金は2023年1月の値、各社とも関東地域を対象とした料金体系。電気料金の計算は、セット割やキャンペーンによる値引きなどは考慮していません。
出所)各小売電気事業の公式Webサイト、料金体系をもとに計算。
図-3 小売電気事業の電気料金の比較

(2)ガス料金の推移と料金設定方法

 まず、ガス料金の算定方法は基本料金と従量料金によって算定されます。基本料金、従量料金ともにガスの使用量ランク別に決められています。従量料金は原料価格の変動に応じて調整される仕組みとなっています5)

 ガス料金(円/月)=基本料金+従量料金
  基本料金:ガス使用量により変動
  従量料金:(基準料金単価+原料費調整単価)×ガス使用量

 小売ガス事業も2017年に全面自由化となっていますが、東京地区においては圧倒的に東京ガスの供給量が多いため、ここでは東京ガスをとりあげます。東京ガスの基本料金と従量料金単価(東京地区)を表-3に示します5)

表-3 ガス料金(東京ガス、一般料金、東京地区)

ランク 1ヶ月のガス使用量基本料金従量料金単価(円/m³)
円/件・月基準料金単価2022年12月2023年1月2023年2月
 A表0m3から20m3まで759145.31204.65214.18193.8
 B表20m3超80m3まで1,056130.46189.8199.33178.95
 C表80m3超200m3まで1,232128.26187.6197.13176.75
 D表200m3超500m3まで1,892124.96184.3193.83173.45
 E表500m3超800m3まで6,292116.16175.5185.03164.65
 F表800m312,452108.46167.8177.33156.95
出所)東京ガス、公式Webサイト、ガス料金、一般料金、東京地区

 表-3にあるように基本料金はガス使用量のランクによって決められています。これは電気料金の基本料金の仕組みとは異なっています。同表には従量料金の基準料金単価と2022年12月から2023年2月までの料金単価も示しています。従量料金は原料費調整(東京ガスでは原料費調整という言葉を使っています)が行われて毎月改定が行われています。

 基準料金単価とは最新の料金改定において設定された従量料金単価で、原料費調整額が考慮されていない金額です。2023年1月のA表の従量料金単価214.18円/m3と基準料金単価145.31円/m3との差68.87円/m3が燃料費調整単価です。

 東京ガスの料金について、2021年1月から2023年2月までの推移を図-4に示します。ここでは、「一般料金」の料金メニューで、50m3/月使用した場合のガス料金を示しています。

出所)東京ガス、公式Webサイト、ガス料金
図-4 ガス料金(東京ガス、一般料金、東京地区)の推移

 この図を見ると、2021年1月から2023年1月まで上昇を続け、2023年2月に急に減少しています。この2月の減少は電気と同様に政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による値引き(30円/m3)が行われるためです。

 ガス料金の原料費調整制度にも調整額の上限が設定されていました。図-4で2021年7月から9月のガス料金が一定なのは、燃料費調整額が上限に達したためです。そこで東京ガスはこの上限を10月以降に撤廃したため、ガス料金は大きく上昇していきました。ただし、この上限値は影響緩和のための移行措置として、表-4に示すように段階的に変更することとしています。

表-4 原料費調整のための調整上限の設定値

検針月2022年10月11月12月1月2月3月
調整上限(円/t)102,360113,120123,880134,640145,400156,200
出所)東京ガス、公式webサイト、ガス料金に関するお知らせ(原料費調整制度における調整上限の変更)、2022年7月21日

 この調整方法を下のコラムに示します。電気と同様に原料価格の過去3か月間の平均価格を基に、基準原料価格を上回った金額によって調整額が算定されます。

<原料費調整額の算定方法>
 原料費調整額は、以下の計算式によって求められます。
 原料費調整額 = 原料費調整単価 × ガス使用量

<原料費調整単価の計算方法>
 原料費調整単価は、以下の計算式により求められます。
【プラス調整(平均原料価格が基準原料価格を上回った場合)】
 原料費調整単価 = (平均原料価格 - 基準原料価格) × 基準単価 ÷ 100
【マイナス調整(平均原料価格が基準原料価格を下回った場合)】
 原料費調整単価 = (基準原料価格 - 平均原料価格) × 基準単価 ÷ 100
 平均原料価格が基準原料価格を上回った場合はプラス調整の計算式を、下回った場合はマイナス調整の計算式を採用する仕組みです。

 それぞれの用語の意味は以下の通りです。
(1)平均原料価格
 平均原料価格は、過去3ヶ月間の原料価格を使って求められる数値です。
 LNG、LPGの価格に、それぞれ所定の換算係数をかけて求められます。
(2)基準単価
 基準単価は、平均原料価格が1t当り100円変動した場合に調整される単価です。
(3)基準原料価格
 基準原料価格とは、ガス会社が料金プランを作った当時に想定していた平均原料価格です。この金額をもとに、家計のガス代に原料費調整額が加えられるのか、あるいは引かれるのかが決まります。
 なお、ガス自由化前はガス料金単価に制限がかけられており、原料費調整単価の計算において平均原料価格の上限価格を上回る部分については調整を行わないことになっていました。しかし、ガス自由化後はそのような制約はなくなり、上限価格は廃止されています。また、東京ガスは上限撤廃の移行措置として、表-4に示した上限値の設定を行っています。

<関東地区、2023年1月の算定事例>
 具体的に東京地区を事例に2023年1月の原料費調整単価を算定した例を示します。2022年8月から10月の原料価格は以下の通りです。
 平均LNG価格  平均LPG価格  平均原料価格 
 152,790円/t  98,160 円/t   150,190 円/t (10円未満四捨五入)
 東京地区の平均原料価格は57,250円/t、基準単価は0.0891円/m3と決められています。
 従って、これらから原料費調整単価は以下と計算されます。
 原料費調整単価= (150,190 –57,250) × 0.0891 ÷ 100=82.80円/m3
 ただし、緩和措置により調整上限を1月は134,640円/tと設定しているため、以下となります。
 原料費調整単価= (134,640 –57,250) × 0.0891 ÷ 100=68.87円/m3
 東京地区の例えばB表の基準料金単価(料金改定時の従量料金単価)は130.46円/m3であるため、従量料金単価は以下となります。
 従量料金単価=130.46+68.87=199.33円/m3
出所)東京ガス、公式Webサイト、原料費調整額について

(3)電気料金・ガス料金の今後の動向

 これまで見てきたように燃料価格の上昇に連動して電気料金、ガス料金も上昇してきました。しかし、旧電力系企業の旧料金体系では燃料費調整単価の上限が設定されているため、小売電気事業の中ではその赤字分による損失が続いていました。

 そのため、2022年11月末に旧電力系の小売電気事業のうち5社が経済産業省に値上げを申請しました。12月5日に公聴会を開催し、現在審査中となっています。その申請書に書かれた料金値上の概要を表-5に示します6)7)8)9)10)

 値上げを申請したのは東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社です(2023年1月20日時点)。平均的な電気使用量である260kWh/月(北陸電力のみ230kWh/月)の料金をもとに現行料金からの値上げ率を計算した結果は、28%から42%までの範囲となっています。

表-5 電気料金の値上げ申請の概要(2023年1月20日時点)

事業名契約種類契約電流月使用量現行料金改定料金値上額値上率
東北電力従量電灯B30A260kWh8,565 11,282 2,717 31.72%
北陸電力従量電灯B30A230kWh6,402 9,098 2,696 42.11%
中国電力従量電灯A30A260kWh8,029 10,428 2,399 29.88%
四国電力従量電灯A30A260kWh7,915 10,120 2,205 27.86%
沖縄電力従量電灯30A260kWh8,847 12,320 3,473 39.26%
出所)いずれも経済産業省のニュースリリース、「電力の値上申請を受理しました」より取得。
東北電力:規制料⾦値上げ申請の概要について、2022年11月24日
北陸電力:規制料金の認可申請の概要、2022年11月30日
中国電力:電気料金の見直しについて(低圧供給のお客さま)、2022年11月25日
四国電力:特定小売料金(規制料金)の値上げ申請 について、2022年11月
沖縄電力:電気料金の値上げ申請について、2022年11月

 これらの値上げ申請は燃料費調整額に上限があり他の新電力とは異なる不利な条件という観点から、値上げそのものは認めざるを得ないと思われます。ただし、値上げが国民生活に大きく影響することから、経営の合理化策を詳細に審査したうえで値上げ幅についての指導が行われると想定されます。

 今回の値上げ申請の内容を見ると、小売電気事業の中には燃料費調整額以外の値上げ要因を加えて値上額を決めている企業があります。確かに、原子力発電所が稼働せず老朽化した火力発電所を稼働せざるを得ない状況では、修繕費や必要な投資もあったと想定され、これも含めて認可されるかどうかが焦点になります。

 先に述べたように、政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の補助は2023年10月まで(9月使用、10月徴収分まで)とアナウンスされており、11月以降はこの補助がなくなると仮定すると、急激な電気料金の値上げに見舞われることになります。

 なお、国の補助事業は小売電気事業、小売ガス事業からの申請に応じて値下げした事業に対して支援を行うものです。多くの小売事業がこれに応じていますが、もし自分が供給を受けている電気・ガス事業が対象かどうか調べたい場合は、以下を確認してみてください。

 資源エネルギー庁:電気・ガス価格激変緩和対策事業の詳細

 また、今回申請した5社以外の旧電力系企業も値上げ申請を検討中と言われており、同様の申請が行われる可能性があります。さらに燃料費調整額の上限がない新電力もいろいろな課題を抱えているため、この旧電力系企業に合わせて値上申請を行う可能性もあります。

 ただし、値上が行われる新料金体系においても燃料価格に連動した燃料費調整制度は適用されるため、燃料価格が低下してくれば電気料金も低下していく可能性はあります。今回の値上げの検討のベースとなった2022年7月~9月の燃料価格よりも低下している場合は調整額がマイナスとなり、幾分料金は下がります。

 その傾向を探るために図-5にLNG、原油、石炭(一般炭)の価格の推移を示します11)。LNGについては2022年9月、一般炭については11月がピークであり、その後はやや低下しています。小売電気事業が値上げ申請の検討に使った燃料価格データは7月から9月までの3か月ですが、現状ではまだその数値を下回っているとは言えないようです。

出所)2021年1月~2022年11月:財務省、貿易統計、確定値
2022年12月:財務省、貿易統計、速報値
図-5 燃料価格の推移

 また、輸入した燃料価格に影響がある為替レートについても見ておきます。図-6に為替レート(ドル・円)の月末データ(東京インターバンク相場)の推移を示します12)。2022年3月から始まった円安が10月に150円/ドルに近づきましたが、その後は130円台前半まで戻しています。

 燃料価格の推移との類似性から、この円安が燃料価格の上昇に影響を与えたことは間違いないようです。また、7月から9月の為替レートは140円/ドル前後と思われますが、現状はややそれを下回った程度です。今後、円高が進めば燃料価格も低下していくことが想定されます。 

出所)日本銀行、時系列統計データ、東京インターバンク相場(月次)、東京市場・月末17時時点
図-6 為替レート(ドル・円)の推移

 しかし、この為替レートの予測も含めて燃料価格を予測することは難しく、燃料費の価格低下による電気料金の低減を期待できるものではないと思われます。そのため、電気、ガス料金を抑えるには、自ら省エネ対策を徹底するしかないと言えます。

(4) 電気料金・ガス料金の料金体系の相違

 これまで見てきたように電気料金とガス料金の料金体系は異なっています。電気料金の計算では、表-1に示すように基本料金は契約電流により決まっています。契約電流が30Aであれば858円、40Aであれば1,144円などであり、毎月の電気使用量とは無関係です。

 また、従量料金は表-6に示すように電気使用量ランクごとに設定された従量料金単価にその「ランク内の使用量」を乗じて計算したものの総和を算定します。そして、その従量料金単価は電気使用量が多くなると大きな値になっています(逓増制)。

表-6 電気料金の計算方法

電気使用量 kWh100250350
基本料金(契約電流 40A)円1,144 1,144 1,144
従量料金単価
円/kWh
0~120kWh 19.881,9882,385.62,385.6
120~300kWh 26.483,442.44,766.4
300kWh以上 30.571,528.5
従量料金 円1,988.05,828.08,680.5
燃料費調整賦課金 円/kWh 12.991,299.03,247.54,546.5
再エネ賦課金 円/kWh  3.45345.0862.51,207.5
合  計  円 4,776.011,082.015,578.5
使用量当たりコスト 円/kWh47.844.344.5
出所)東京電力EP、スタンダードS、関東地区、2023年1月の料金単価より計算。

 一方、ガス料金の基本料金は表-7に示すようにガス使用量によって変わります。そして、従量料金の算定においては、該当するガス使用量ランクの従量料金単価に「総使用量」を乗じて算出します。例えば、50m3/月の使用量の場合は、「20~81m3」のランクの従量料金単価に「総使用量」を乗じて算定するだけです。そして、その従量料金単価はガス使用量が多くなるほど小さくなっています(逓減制)。

表-7 ガス料金の計算方法

ガス使用量 m31550100
基本料金
 円
0~20m3 759  759
20~80m3 1,056  1,056
80~200m3 1,232  1,232
従量料金
 円/m3
0~20m3 214.183,212.70
20~80m3 199.339,966.50
80~200m3 197.1319,713.00
合計  円3,971.7011,022.5020,945.00
使用量当たりコスト  円/m3264.8220.5209.5
出所)東京ガス、一般料金、東京地区の料金体系をもとに計算。

 電気とガスの使用量による料金の変動傾向を図-7に示します。同図で電気料金は契約電流40Aの事例を示しています。電気は使用量が増加するほど料金の上昇率が増加します。しかし、ガスは逆に使用量が増加するほど料金の上昇率は減少します。電気は電気の使用を抑える省エネ型の料金体系と言えますが、ガスは余り省エネを促進する料金体系とは言えないことが分かります。

(5)電気・ガスの有効熱量当りコストの分析

 炊事に使われるエネルギーコストを最適化する準備のために、ここでは電気とガスのエネルギーコストを比較できる方法について検討します。

 まず、電気のコストは電気使用量(kWh)当り金額として表されます。一方、ガスはガス使用量(m3)当りの金額で表されます。これらの比較を可能とするために、料金を熱量当りの料金単価に換算すれば比較がしやすいと思われます。

 換算方法は下式の通り、それぞれの使用量当りの熱量を、電気は3.6MJ/kWh、ガスは44.8MJ/m3として換算します。そしてその熱量当りのコストを比較します。

 電気の熱量当り単価=電気料金/{電気使用量(kWh)×3.6(MJ/kWh)}
 ガスの熱量当り単価=ガス料金/{ガス使用量(m3)×44.8(MJ/m3)}

 しかし、電気機器とガス器具では、熱の効率が異なるため、加えた熱量が食材に伝わる熱量とは限りません。そのため熱量を実際に食材に伝わる有効熱量に変換します。有効熱量は電気製品とガス器具の熱効率を考慮して、調理する食材に伝わる熱量を計算したものです。

 電気製品の熱効率は電子レンジ54%、IH機器85%、電熱器(電気ケトル、トースターなど)90%ですので、平均的に80%と仮定します。また、ガス器具としてのガスこんろの熱効率は一般的に55%程度です。以上のことから電気とガスの有効熱量の計算式は以下の通りです。

 電気の有効熱量=電気使用量(kWh)×3.6(MJ/kWh)×熱効率(80%)
 ガスの有効熱量=ガス使用量(m3)×44.8(MJ/m3)×熱効率(55%)

 電気とガスの料金については前節で計算した料金を用います。これらの計算方法により電気、ガスの使用量別に有効熱量当りの料金単価を算定した結果を図-8に示します。電気は契約電流別に算定しています。

 この結果を見ると、電気は契約電流(20A~50A)によらず、減少から増加傾向になっています。これは電気使用量が少ない領域では基本料金の影響が顕著に現れている結果です。また、使用量ランクにより従量料金単価が異なるため、使用量ランクの境界でギャップが生じています。

 電気使用量が200kWh以上では14~16円/MJと狭い範囲にあり、電気使用量が多くなるほどやや増加しています。契約電流が多くなると基本料金の影響でやや大きな単価になりますが、電気使用量が多くなるほどその差は小さくなり、その値は16円/MJを大きく上回ることはありません。

 一方、ガスはガス使用量が増加すると有効熱量当りの単価は減少していきますが、ガス使用量が10m3以上では8~12円/MJの範囲です。ガス使用量が50m3以上では9円/MJを下回ってきます。これらの結果から、電気とガスの有効熱量当りのコストの平均値をそれぞれ16円/MJ、9円/MJとすると、ガスは電気の56%程度となります。

 この結果は電気とガスの燃料(原料)を用いた製造方法による違いから想定できるものです。なぜなら電気の発電効率は最大でも50%程度とされており、燃料の熱量の半分程度が失われますが、ガスはLNGをそのまま使うことができ、熱量の損失は少ないためです(料金には燃料費だけでなく発電所や送配電等に係る施設費や維持管理費が加わってコストが決まっています)。

 このように、有効熱量当りの料金に換算することで、電気とガスの調理におけるコストを比較することができました。この方法で炊事の際のコスト最小の調理法を検討する準備ができました(今回はエネルギーのコストにのみ注目しており、化石燃料からの温室効果ガス排出量については考慮していないことをご了承ください)。

 今回の分析では電気機器とガス器具の熱効率を一定値としてコスト比較を行いましたが、実際の調理器具の比較をするときはその器具の熱効率を設定して比較することが必要と言えます。次回は調理器具のエネルギーコストの低減について検討していきます。

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<参考文献>
1)東京電力エネジーパートナー:公式Webサイト、 電気の料金プラン一覧
2)東京ガス:公式Webサイト、電気料金プラン
3)エネオス電気:公式Webサイト、電気料金プラン
4)SBパワー:公式Webサイト、電気料金プラン
5)東京ガス:公式Webサイト、ガス料金プラン
6)東北電力:規制料⾦値上げ申請の概要について、2022年11月24日
7)北陸電力:規制料金の認可申請の概要、2022年11月30日
8)中国電力:電気料金の見直しについて(低圧供給のお客さま)、2022年11月25日
9)四国電力:特定小売料金(規制料金)の値上げ申請 について、2022年11月
10)沖縄電力:電気料金の値上げ申請について、2022年11月
11)財務省:貿易統計、輸入、月別確定値(2021年1月~2022年11月)、速報値(2022年12月)
12)日本銀行:時系列統計データ、東京インターバンク相場(月次)、東京市場・月末17時時点