今回は炊事の省エネについて検討します。炊事のための電気消費量は、冬季にはエアコン、冷蔵庫、給湯、照明に次いで5番目に多いと報告されています(資源エネルギー庁統計)。また、炊事は電気だけでなくガスも使うため、家庭のエネルギー消費に伴う光熱費に大きな影響を及ぼしていると言えるでしょう。
オール電化の世帯が増加していると言っても、炊事のためのエネルギーはやはりガス(LNG、LPG)が中心です。ガスは燃料価格の上昇に伴って料金が上昇してきました。電気は、原子力や太陽光と言った化石燃料以外のエネルギーでも発電することができますが、ガスの原料は現状では化石燃料しかないため、料金の値上げ幅はガスの方が大きいはずです。
家庭のエネルギー代を削減するためには、炊事に使われる電気とガスのエネルギー消費量を低減させることが重要です。ガスと電気のどちらを選ぶと経済的かという問いも良く聞かれることですし、どのような調理法が省エネかも整理しておきたいところです。
ところで炊事の省エネについては、料理のおいしさや好みに反して調理方法を変えることは難しいと感じます。例えば、ガスコンロを強火にして中華鍋で作った炒飯を食べている人がIH調理器のフライパンで作った炒飯をおいしいと感じるか、あるいは調理器具としてIH調理器を選択するかといわれると、それはしないように思われます。
つまり省エネだからと言って慣れ親しんだ料理の味や食感を変えてまで、その調理法を変えることはあまりないのではないでしょうか。少なくとも、その情報からどのような味になるか試してみてから、自分で判断して決めると思います。
ただし、今回は料理の味や物性に関する情報を省略して、いろいろな調理法の消費エネルギーの計測結果を示します。炊事のエネルギー消費に係る経費を削減するための1つの情報として提供することが目的です。従って、今回の省エネ対策としてはお薦めの対策はありません。
今回はまず、調理方法に着目して炊事のエネルギー消費の特徴を整理します。調理には、「焼く」、「茹でる」、「揚げる」などの異なるエネルギーの加え方があります。また、単に「焼く」と言っても、肉を焼く場合とパンを焼く(オーブン)場合では温度の加え方が違います。そのため、それらの調理法別のエネルギー消費の特徴を整理することが重要です。
次に、個別の調理器具を使用する際のエネルギー消費量とそのエネルギー代(電気代、ガス代)について整理します。家政学の分野では、調理法別の消費エネルギーや出来上がった料理の物性について研究されていますが、後者は専門ではないのでここではエネルギー消費量のみをとりあげます。
さらに、調理法だけでなくエネルギー消費を効率化する工夫、配慮事項もあります。具体的には、鍋に蓋をすることや具材を細かく切って調理することで、熱を逃がさず効率的に食材を温めることなどです。そのため、今回の記載内容は以下の通りです。
① 調理法別のエネルギー消費の特徴
② 省エネとなる調理器具の選択
③ 調理上のエネルギー消費を効率化する工夫
調理法別のエネルギー消費の特徴
ここでは、「焼く」、「炒める」、「揚げる」、「茹でる」、「煮る」、「蒸す」の6つの基本的な調理法の特徴を整理します。基本的な調理法の特徴と食材に加わるエネルギーの熱効率の傾向を表-1に示します。
調理には、食材だけでなく鍋やフライパンなどの容器を温めるエネルギーと、「茹でる」場合の水や「揚げる」場合の油などを温めるエネルギーが必要です。これらの食材以外を加熱するエネルギーが多いほど、エネルギー消費量が多くなると考えられます。
表-1 調理方法別のエネルギー消費の特徴
調理法 | 調理法の特徴 | 食材以外加熱対象物 | 食材への加熱の熱効率 |
---|---|---|---|
焼く | グリル:主として放射熱により加熱 | (焼き網) | 熱効率は高い |
フライパン(容器を加熱して熱伝導により容器内の食材を加熱) | フライパン | ||
オーブン(庫内の空気温度を上昇させて加熱) | オーブン、庫内の空気 | オーブンの場合、庫内が広いほど熱効率は低下する | |
炒める | 強火で加熱する | フライパン、鍋 | 熱効率は高い |
揚げる | 高温の油で加熱する | 鍋、油 | 熱効率はやや低い(油を加温するエネルギーが必要) |
茹でる | 100℃程度の湯で加熱する | 鍋、水 | 熱効率は低い(水を加温するエネルギーが必要) |
煮る | 食材を100℃程度の調味液で加熱する | 鍋、調味液 | 熱効率は低い(調味液を加温するエネルギーが必要) |
蒸す | 蒸気で食品を加熱する | 鍋、水 | 熱効率は非常に低い(水を蒸気にするエネルギーが必要) |
その観点からは、「焼く」(グリル)が食材のみを加熱することができるので(焼き網は必要)、最も熱効率が高いのではないかと思われます。また、炒めるは食材をかき混ぜながら加熱するので、熱の伝わり方は非常に効率的と言えます。
逆に、「茹でる」は水を100℃程度まで上昇させるエネルギー、「蒸す」は水を蒸発させるエネルギー、「揚げる」は油を160~180℃程度まで上昇させるエネルギーが必要であるため、多くのエネルギーを要します。
また、「焼く」(オーブン)はオーブン内の空気を加熱して温め、オーブン内の食材をゆっくり焼き上げる方法であり、「蒸す」は密閉された鍋等の中の水を蒸発させて蒸気で食材を加熱する方法のため、オーブンや容器内の加温エネルギーが必要です。したがって、これらの調理法は容器内の空間の大きさもエネルギー消費量に影響を与えます。
これらの種々の調理法によるエネルギー消費量の測定結果を表-2に示します。ここでは、「炒める」、「焼く」、「揚げる」、「蒸す」、「煮る」の5種類の調理法を同じ中華鍋で食材の温度が75℃になるまで加熱した時のガス消費量を示しています。
表-2 中華鍋を使った5種の調理法によるガス消費量
調理法 | 調理名 | 食 材 | 調 理 法 | ガス消費量 | 食材重量当り ガス消費量 |
---|---|---|---|---|---|
炒める | キャベツ炒め | キャベツ400g、油20g(試料の5%) | 予熱30秒(火力5)、油と食材を投入後、攪拌(2回/秒)、60秒間加熱。終了時間は感応試験により食材が一様に火が通った時点を選択。 | 8.2 L | 0.02L/g |
焼く | ハムステーキ | ハム30g×4枚、油3.6g(試料の3%) | 予熱55秒(火力3)、食材投入後30秒毎に裏返し、内部温度75℃超過時に一旦裏返し、焼き色を確認して消火。 | 7.4 L | 0.06L/g |
揚げる | とんかつ | 豚モモ肉100g×4枚、卵M1個、小麦大さじ1,油600mL、パン粉25g | 豚肉を筋切り、塩・胡椒し、小麦粉を薄くまぶし、卵液をつけてパン粉をまぶした。油が180℃になった時点で2枚投入し、150秒後に取り出した。15~20秒以内に残り2枚を投入し150秒後に取り上げ、消火。 | 30.9 L | 0.08L/g |
蒸す | 蒸しイモ | サツマイモ400g(5cm幅の輪切り)、水2,000mL | 水はり後、点火(火力5)し、360秒で蒸発させ、火力3に切り替え、イモの内部が75℃になるまで加熱を行った。 | 76.2 L | 0.19L/g |
煮る | 煮豚 | 豚モモ肉400g、水2,400mL | 水を張ってから火力5で加熱、水温98℃となった時点で豚肉投入(変形を防ぐためタコ糸で縦68mm、横147mm、高さ60mmの形状に固定)、火力を3~4で加熱し、内部温度が75℃超で終了。 | 171.9 L | 0.43L/g |
注2)使用した熱源はビルトインガスコンロ、ハーマン製C3W89RDTLTGを使用。
出所)三神彩子、他:加熱操作法ごとの中華鍋の省エネ性及びCO2排出量削減効果の評価、日本調理科学会誌、Vol.43、No.2、2010
それぞれの調理法別に調理を行う食材は異なっており、「炒める」はキャベツ(キャベツ炒め)、「揚げる」は豚モモ肉(とんかつ)などとなっています。そのため、ガス消費量を単純に比較することは難しいのですが、その特徴を把握することはできます。
すなわち、「炒める」と「焼く」は少量の油によって温度が伝わりやすく、油の比熱は水の半分程度であるため、ガス消費量は少なくなっています。一方、「蒸す」と「煮る」は水を2L以上使って食材を加熱しているため、その水の加熱エネルギーが必要となり、他の調理法よりも多くのガス消費量となっています。
そして、「揚げる」については使用している油は600mLと少量であり、上昇温度は大きいものの比熱が小さいこともあって「炒める」と「焼く」よりは多いですが、「蒸す」と「煮る」に比べると非常に少なくなっています。
なお、「焼く」(オーブン)の場合は、庫内容積により熱効率が変わります。下図に電子レンジとガスコンロのオーブン部の省エネ基準を示します1)2)。電子レンジの省エネ基準は年間消費電力量ですが、下図の通り30Lを境界にして2つに区分されています。両者の差はヒーターが露出しているタイプは約5kWh/年、ヒーターが露出していないタイプは約9kWh/年と、庫内容積が大きいほど消費エネルギーが大きくなります。
一方、ガスコンロの省エネ基準は庫内容積の関数で表され、庫内容積が大きいほど省エネ基準値(決められた調理に要する消費電力量)は大きくなります。このように、国が定めた省エネ基準値が庫内容積が大きいほど消費電力が大きくなる(逆に熱効率は低くなる)ことを許容しており、これらの調理器具は庫内容積が小さいほど省エネとなることが分かります。
これらをまとめると以下となります。
●調理方法のうち、食材を調理する際に水の加熱を伴う方法は消費エネルギーを要する(茹でる、煮る、蒸す)。
●食材を直接加熱する調理法(炒める、焼く)は比較的エネルギーは少ない。油を使う調理法(揚げる)はその中間である。
●オーブン機能を有するものは、庫内容積が小さいほど消費エネルギーは少ない。
このような傾向を認識することで、どのような調理法が省エネであるかが分かり、エコクッキング(省エネや環境にやさしい調理法)への興味もわいてくるのではないでしょうか。
省エネのための調理器具の最適選択
(1) 加熱方法の種類と特徴
ここでは、調理器具を整理するために、加熱方法に着目します。加熱方法を分類すると以下の4種類となります。
① 湿式加熱
② 乾式加熱
③ 誘電加熱
④ 電磁誘電加熱
湿式加熱は水を媒体として加熱する方法であり、「茹でる」、「煮る」、「蒸す」などがあります。乾式加熱は「焼く」、「揚げる」、「炒める」などの火であぶったり、焼いたり、油で熱を通す方法がこれに当ります。調理方法のエネルギー消費の特徴で整理したように湿式加熱はエネルギー消費量が多く、乾式加熱は湿式加熱よりも少ないことが分かっています。ガスコンロ、電熱器(ヒーター)はこれらの湿式加熱、乾式加熱が可能です。
さらに、誘電加熱とは電子レンジによる加熱方法を指しており、マグネトロンという特殊な真空管から発射するマイクロ波によって、食材の水分を振動させ、その運動によって熱を発生させるものです。したがって、電子レンジの熱効率は55%程度と低いのですが、食材を温めるのに水を必要としていないため、消費エネルギーは少なく、短時間で温めることができることが特徴です3)。
一方、電磁誘電加熱とは電磁調理器(IH調理器)による加熱方法を指しており、電磁波による誘電加熱を利用して、調理器具に熱を発生させて加熱するものです4)。磁力発生コイルに高周波電流を供給すると磁力線が生じ、その結果、鍋底にうず電流が流れます。これと鍋の材料のもつ抵抗でジュール熱が発生し、鍋底自身が発熱します。そのため、鍋の材料は電気抵抗の大きな金属でなければなりません。
IH調理器の熱効率は90%程度とされており4)、他の調理器具と比べても非常に高い効率となっています。この高い熱効率は、電磁誘電加熱が鍋の金属に直接作用するため熱の損失が少ないためです。
IH調理器のメリットは、炎が出ないため火災などの可能性が低いこと、温度センサーによる自動調節が可能なこと、燃焼しないため二酸化炭素等の排出で空気が汚れず換気の必要がないこと、プレート天板が平らであり掃除が簡単であることがあります。
一方、デメリットとしては、IH調理器は温める容器として、一般には鉄、ホーロー、ステンレス製の鍋しか使えず、大きさ(底径)は12cm以上、容器の底が平らでIH調理器のプレートに密着するものが推奨されます。ただし、オールメタルIH調理器はアルミ、銅、多層鍋も使用できますが、熱効率は低くなるためあまりお勧めできません。
電子レンジ、IH調理器の加熱原理と省エネ性能等については本サイトの以下に示していますので参考にしてください。
電子レンジ(1)-省エネ性能
電子レンジ(2)-加熱モード別の消費電力
IH調理器(1)-加熱原理と製品の特徴
IH調理器(2)-消費電力の測定
(2)電気とガスの調理器具の比較
電気機器とガスコンロによる調理内容別のエネルギー消費量、投入熱量と料金(電気、ガス)の比較を表-3に示します5)。前回の報告で算定した電気、ガス料金から使用量当りの料金単価をそれぞれ44.8円/kWh、220.5円/m3と設定しました。
これを熱量当り単価に変換するとそれぞれ12.44円/MJ、4.92円/MJとなります。このことから、電気とガスの投入熱量の比が2.53倍(12.44/4.92)よりも大きければ電気の方が安くなり、小さければガスの方が安くなります。
表-3 炊事における電気、ガスの消費量と料金
料 理 | 調理器具 | 使 用 機 器 | 食 材 | 消費 エネルギー | 熱量注1) MJ | 料金注2) 円 |
---|---|---|---|---|---|---|
炊飯 注3) | 電気炊飯器 | 象印マホービン製NH-VD10 | 無洗米 320g 水 480g | 151.1 Wh | 0.544 | 6.8 |
ガスコンロ | ハーマン製ガスビルトインコンロC3W89RDTLTG | 29.0 L | 1.3 | 6.4 | ||
トースト 注3) | トースター | 三洋電機(株)製SK―PZ 1 | 8 枚切り食パン 4 枚 | 81.2 Wh | 0.292 | 3.6 |
ガスコンロ(グリル) | ハーマン製ガスビルトインコンロC3W89RDTLTG | 17.7 L | 0.793 | 3.9 | ||
ピザ 注4) | オーブントースター | 象印マホービン製ET―GM30 | 23センチ ピザ | 125.9 Wh | 0.453 | 5.6 |
ガスコンロ(グリル) | リンナイ製ガスビルトインコンロRHS31W23L9R | 15.8 L | 0.707 | 3.5 | ||
焼飯 注5) | 電子レンジ | シャープ製RE-F23A | 冷凍焼豚焼飯 480g | 68.3Wh | 0.246 | 3.1 |
ガスコンロ | リンナイ製ガスビルトインコンロRHS31W23L9R | 7.5 L | 0.336 | 1.7 | ||
レトルト カレー 注6) | 電子レンジ | シャープRE-F23A | レトルトカレー 200g | 22.8Wh | 0.082 | 1.0 |
IH調理器 | T-fal卓上IH調理器 Daily-IH | 223.1Wh | 0.803 | 10.0 | ||
ガスコンロ | リンナイ製ガスビルトインコンロRHS31W23L9R | 27.0 L | 1.210 | 6.0 |
注2)電気料金単価 44.8円/kWh(東京電力EP、スタンダードS、関東地区、40A、月使用量400kWh、2023年1月料金)
ガス料金単価 220.5円/m3(東京ガス、一般料金、東京地区、月使用量50m3、2023年1月料金)
注3)三神彩子、他:日常調理における調理操作の違いが消費エネルギー及びCO2排出量の削減に及ぼす影響、日本調理科学会誌、Vo.42、No.5、2009年
注4)本サイト、「調理器具の比較(3)-ピザを焼く」
注5)本サイト、「調理器具の比較(4)-焼き飯のあたため」
注6)本サイト、「調理器具の比較(2)-レトルト食品のあたため」
(a)炊飯
炊飯における電気炊飯器の電気消費量は151.1Wh、ガスコンロのガス消費量は29.0Lです。投入された熱量は順に0.544MJ、1.3MJ(熱量比2.39)でした。その結果、1回の炊飯当りの電気料金は6.8円、ガス料金は6.4円でした。
過去のデータからはガスコンロの方が経済的とされていましたが、この測定結果ではどちらもあまり変わらないという結果です。これは電気炊飯器の熱効率が高い(使用した機器はIH炊飯器です)、またはガスコンロの熱効率が低いことを示唆しています。なお、電気炊飯器の保温のための消費電力は考慮していません。
(b)トーストを焼く
トースターとガスコンロのグリル部で食パン(8枚切り)4枚を2回に分けて焼いた場合の消費エネルギーを測定しました。その結果は、トースターは81.2 Wh、ガスコンロは17.7 Lでした。また、投入された熱量は順に0.292MJ、0.793MJ(熱量比2.72)でした。
その結果、エネルギーコストはトースター(電気)3.6円、ガスコンロ(ガス)3.9円と、ガスコンロの方が大きくなりました。これもガスコンロの熱効率がやや低いことを示唆しています。
(c)ピザを焼く
オーブントースターとガスコンロのグリル部での消費エネルギーを測定した結果、それぞれ125.9 Wh、15.8 Lでした。また、投入された熱量は順に0.453MJ、0.707MJ(熱量比1.56)でした。
その結果、トースター5.6円、ガスコンロは3.5円と、ガスコンロの方が経済的という結果となりました。ここで、算定された熱量比1.56を基に、オーブントースターの熱効率を85%と仮定すると、ガスコンロの熱効率は54%(85/1.56)となり、スペック値に近い数値が得られます。
(d)焼飯のあたため
電子レンジとガスコンロを用いて冷凍焼飯をあたためました。前者は68.3Whの電気を消費し、後者は7.5 Lのガスを消費しました。また、投入された熱量は順に0.246MJ、0.336MJ(熱量比1.37)でした。その結果、電気は3.1円、ガスは1.7円となり、ガスの方が経済的という結果となっています。
ここで、ガスコンロの熱効率を55%と仮定して電子レンジの熱効率を算定すると75%(55×1.37)となります。電子レンジのスペック上の熱効率は最大でも55%程度ですので、電子レンジは単純に熱効率の計算はできないことが分かります。これは電子レンジの加熱の機構が他の機器と異なっているからです。
(e)レトルトカレーのあたため
レトルトカレーのあたためを電子レンジ、IH調理器、ガスコンロで比較しました。電子レンジは直接加熱し、IH調理器とガスコンロは水に入れて加熱しました。電子レンジの消費電力は22.8Whと、IH調理器の223.1Whの1/10程度でした。
また、ガスコンロのガス消費量は27Lでした。IH調理器とガスコンロの熱量は、それぞれ0.803MJ、1.210MJ(熱量比1.51)です。その結果、かかった費用は順に1.0円、10.0円、6.0円となり、電子レンジの経済性が最も高く、次いでガスコンロとなりました。
(3)水のあたための経済的な方法
水のあたためのエネルギー消費に関する2つの事例を示します。表-4に電子レンジ、IH調理器、電気ケトルを用いて少量の水(200mL)をあたためた結果を示しています。この結果、電気ケトルが最も消費電力が少ないという結果になりました。
表-4 少量の水のあたため(200mL)
調理器具 | 使用機器 | 材料 | 消費エネルギー Wh | 熱 量 MJ | 料 金 円 |
---|---|---|---|---|---|
電子レンジ | シャープ RE-F23A | 水200mL18℃→80℃ | 41 | 147.6 | 1.8 |
IH調理器 | T-fal 卓上IH調理器Daily-IH | 水200mL18℃→81℃ | 33 | 118.8 | 1.5 |
電気ケトル | T-fal 電気ケトルAprecia | 水200mL18℃→85℃ | 20 | 72.0 | 0.9 |
電気料金単価 44.8円/kWh(東京電力EP、スタンダードS、40A、月使用量400kWh 2023年1月単価)、17,925/400
出所)本サイト、「調理器具の比較(1)-水をあたためる」
次は、1.5Lの水をあたためた場合の測定結果を表-5に示します6)。IH調理器は火力を3kWと2kW、ガスコンロは4.2kWと2.45kWを用いて測定しました。その結果、ガスコンロとIH調理器の熱量比は最大でも2.27(1.34/0.59)であり、ガスコンロの方が料金が安いことが分かりました。
なお、本測定が示された論文は2006年に発表されたものですが、その時の料金単価の結果も示しています。この時は電気料金単価20.40円/kWh、ガス料金単価112.32円/m3で計算しており、現在はその約2倍となっています。
表-5 水のあたため(1,500mL)
調理器具 | 使用機器 | あたため条件 | 火力 | 時間 | 消費 エネルギー | 熱量 MJ | 料金注2) 円 | 料金注3) 円 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IH調理器 | 松下電器産業 KZ-HS 32B | 1,500mL 20℃→90℃ | 3kW | 3分5秒 | 0.164kWh | 0.59 | 3.34 | 7.35 |
2kW | 4分39秒 | 0.164kWh | 0.59 | 3.34 | 7.35 | |||
ガスコンロ | リンナイ RSK-N38W6GD3X3 | 1,500mL 20℃→90℃ | 4.2kW | 4分53秒 | 29.8L | 1.34 | 3.35 | 6.57 |
2.45kW | 6分27秒 | 22.8L | 1.02 | 2.56 | 5.03 |
注2)原典の電気料金単価 20.40円/kWh、ガス料金単価 112.32円/m3
注3)電気料金単価 44.8円/kWh(東京電力EP、スタンダードS、関東地区、40A、月使用量400kWh、2023年1月料金)、ガス料金単価 220.5円/m3(東京ガス、一般料金、東京地区、月使用量50m3、2023年1月料金)
出所)中山由美子、IHクッキングヒーターについて、日本調理科学会誌、Vol.39、No.2、2006.
(4)電子レンジの効果的な使用法
電子レンジは熱効率はそれほど高くないのですが、他の調理器具に比べて食材を加熱する機構が違います。それは食材中の水分をマイクロ波によって直接振動させて加熱するという機能だからです。そのため、容器を温めることなくまた熱が均等に伝わるようにかき混ぜるという必要もありません。電子レンジには特に効果的な使い方があるため、ここでその結果を示します。
調理内容別に電子レンジとガスコンロのエネルギー料金を比較したものを表-6に示します7)。同表の料金は参考文献に示された料金(1988年頃)とこれを基に最近の料金単価に換算したものの両方を示しています。この表から分かるように、電子レンジの有効な使い方はご飯や総菜の再加熱や野菜の下ごしらえなどで「茹でる」操作にあると言えます。
表-6 電子レンジとガスコンロの調理時間、料金の比較
調理内容 | 調理方法 | 時間 (分) | 料金 注1) (円) | 料金 注2) (円) | 味 |
---|---|---|---|---|---|
ごはん再加熱 (2杯、400g) | 電子レンジ | 3 | 1.5 | 2.5 | ◎ |
ガスコンロ | 15 | 5.4 | 16.9 | 〇 | |
肉だんご再加熱 (300g) | 電子レンジ | 2.5 | 1.3 | 2.1 | 〇 |
ガスコンロ | 14 | 3.1 | 9.7 | 〇 | |
酢豚解凍・加熱 (250g) | 電子レンジ | 9 | 4.9 | 8.0 | 〇 |
ガスコンロ | 14 | 3.7 | 11.6 | 〇 | |
肉まん解凍・加熱 (2個、300g) | 電子レンジ | 4 | 2 | 3.3 | 〇 |
ガスコンロ | 20 | 7 | 22 | ◎ | |
しゅうまい解凍・加熱 (12個、225g) | 電子レンジ | 5 | 2.7 | 4.4 | ◎ |
ガスコンロ | 14 | 6.6 | 20.7 | 〇 | |
とりの酒蒸し(200g) | 電子レンジ | 4 | 2.1 | 3.4 | 〇 |
ガスコンロ | 18 | 7.8 | 24.5 | 〇 | |
赤飯 (2 杯) | 電子レンジ | 14 | 7.2 | 11.8 | ◎ |
ガスコンロ | 42 | 14.9 | 46.7 | ◎ | |
じゃがいもゆで (2個、300g) | 電子レンジ | 8 | 4.3 | 7.1 | ◎ |
ガスコンロ | 40 | 15.7 | 49.2 | 〇 | |
こまつなゆで (2個、300g) | 電子レンジ | 2.5 | 1.4 | 2.3 | 〇 |
ガスコンロ | 7 | 4.9 | 15.4 | ◎ | |
いちごジャム (200g) | 電子レンジ | 18 | 10.1 | 16.6 | ◎ |
ガスコンロ | 23 | 5 | 15.7 | ◎ |
注2)電気料金単価 44.8円/kWh、東京電力EP、スタンダードS、関東地区、40A、月使用量400kWh、2023年1月料金。ガス料金単価 220.5円/m3、東京ガス、一般料金、東京地区、月使用量50m3、2023年1月料金を使用して計算した値。
出所)肥後温子:電子レンジと調理加工、調理科学、Vol.21、No.2、1988
調理時の省エネ行動による省エネ効果
調理法や調理器具の選択のほかに、調理する際の工夫や配慮によって省エネを達成できる場合があり、ここではそれらの分析結果を紹介します。表-7に測定された省エネ効果をまとめたものを示します。
表-7 省エネ行動別の省エネ効果
調理における工夫、配慮事項 | 省エネ効果 | 実験における条件 |
---|---|---|
なべ底の水濡れを拭く | 熱効率が平均2.5%改善 | なべ底の水を拭いた場合と拭かない場合の比較 |
鍋底の直径が大きなものを使う | 熱効率が平均2.6%改善 | 鍋の直径15cmと20cmの比較 |
ガスコンロの火力を中火または弱火にする | 熱効率が平均4.9%改善 | ガスこんろの開度を全開と中開の比較 |
加熱容器にふた(蓋)をする | 熱効率が平均3.2%改善 | 鍋のふたをした場合としない場合の比較 |
食材の大きさを小さくする | ガス消費量が18%削減 | 鮭の切り身を丸ごとと1/2に切った場合の比較 |
ガス消費量が36%~72%削減 | ジャガイモを丸ごと、半分、1/4、1cm角にした場合の比較 |
三神彩子、他:日常調理における調理操作の違いが消費エネルギー及びCO2排出量の削減に及ぼす影響、日本調理科学会誌、Vo.42、No.5、2009年
まず、カセット型のガスコンロを使って、さまざまな調理法別のエネルギー消費量を分析した事例を示します。鍋のサイズ、容器内の水量、鍋底の水濡れ、ガスコンロの火力、ふたの有無を変えて、所定の温度まで水を加熱した場合のエネルギー効率を算定した結果を表-8に示します8)。
同表より鍋底が濡れている場合と乾いている場合の差は全てプラス(平均2.5%)となり、なべ底の水分をふき取るだけで省エネになることが分かります。加えた熱が鍋底の水分を蒸発させるのに奪われるためです。
また、鍋の直径の大小については、同じ条件のエネルギー効率の差を平均すると直径が大きい方(20cm)が2.6%高いことが分かります。
表-8 省エネ行動別のエネルギー効率の比較
鍋のサイズ | 水量 | ふたの有無 | 火力 | 鍋底ぬれ | 鍋底乾き | 差 |
---|---|---|---|---|---|---|
小 直径15cm | 500mL | ふた無 | 強火 | 31.9% | 32.9% | 1.0% |
弱火 | 37.0% | 38.4% | 1.0% | |||
ふた有 | 強火 | 34.4% | 35.8% | 1.0% | ||
弱火 | 42.0% | 42.2% | 0.2% | |||
大 直径20cm | ふた無 | 強火 | 35.4% | 37.9% | 2.5% | |
弱火 | 38.3% | 42.0% | 3.7% | |||
ふた有 | 強火 | 36.7% | 40.0% | 3.8% | ||
弱火 | 39.9% | 44.0% | 4.8% | |||
1000mL | ふた無 | 強火 | 42.9% | 44.0% | 1.50% | |
弱火 | 45.8% | 50.0% | 4.5% | |||
ふた有 | 強火 | 45.1% | 48.0% | 3.7% | ||
弱火 | 52.0% | 53.0% | 1.2% |
火力の強火:全開、弱火:半開
エネルギーの測定方法:カセットコンロ(岩谷CB-AS-1)を用いて加熱後、カセットボンベの重量を電子秤で0.01g単位で測定。以下の算定式により熱効率を算定。
A:有効に使われたエネルギー量(J)=加熱前後の水温の差(度:K)×水量(ml)×4.18
B :エネルギー消費量(J)=ガス使用量(g)× 49,525(J/g)(49,525:ブタンガス 1g 当りの発熱量)
A / B:エネルギー効率(%)
出所)西薗大実、調理におけるエネルギーのむだを省く方法に関する研究、群馬大学教育学部紀要、第54 巻、2019
また、ガスコンロの火力別のエネルギー効率を比較したものを図-2に示します。弱火の方が効率が高い(平均4.9%)ことが分かります。ガスコンロは大きな火力(強火)で加熱すると熱損失が大きくなるため、弱火(参考文献では弱火と表現していますが開度が半分なので中火と言えます)で熱損失を最小限にすることが必要です。
図-2 ガスコンロの火力別のエネルギー効率
さらに、加熱する容器のふたの有無でもエネルギー効率が異なります。図-3の通りふたをする方がエネルギー効率が高くなり、その差の平均は3.2%です。
図-3 ふたの有無別のエネルギー効率
また、鮭の切り身とカレーのジャガイモの加熱におけるカット状況の違いによるガス消費量の測定結果を下図に示します5)。加熱する際に食材を大きなままにするよりも、大きさを小さくした方が熱が通りやすく、ガス消費量が少なくなるようです。
図-4 食材の大きさによるエネルギー効率
<参考文献>
1)2006年経済産業省告示第63号(制定)「電子レンジのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
2)2002年経済産業省告示第433号(制定)「ガス調理機器のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準」、最終改定2019年経済産業省告示第46号
3)家電製品協会:省エネ家電deスマートライフ: 電子レンジを買換えて省エネ
4)日本電機工業会:製品分野別情報、IHクッキングヒーター
5)三神彩子、他:日常調理における調理操作の違いが消費エネルギー及びCO2排出量の削減に及ぼす影響、日本調理科学会誌、Vo.42、No.5、2009.
6)中山由美子:IHクッキングヒーターについて、日本調理科学会誌、Vol.39、No.2、2006.
7)肥後温子:電子レンジと調理加工、調理科学、Vol.21、No.2、1988.
8)西薗大実:調理におけるエネルギーのむだを省く方法に関する研究、群馬大学教育学部紀要、第54 巻、2019.