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断熱建材

【続報】内窓は暖房時に比べて冷房時の省エネ効果が大きいことを実測で確認した!

 これまで内窓の省エネ効果については、冬季(暖房時)の断熱性やエアコンへの省エネ効果について何回か報告してきました。今回は冷房時の省エネ効果について分析します。

 まず、内窓施工後の夏季(冷房時)の断熱性について外気温や室温等の測定結果より分析しました。そして、その結果とエアコンの冷房時の消費エネルギーの測定結果をもとに、内窓の冷房時の省エネ効果について分析しました。その結果、暖房時に比べて省エネ効果が大きいことが分かりました。

 その原因は、夏季(冷房時)は日射熱の影響を強く受けますが、内窓の複層ガラスは日射熱の軽減効果が大きいことです。その原因を定量化するために、これまで検討してきた最大熱負荷計算法をもとに検証してみましたので報告します。

 ところで、今回の分析においては内窓の断熱性や熱負荷計算などの基礎的な理論を理解しておく必要があります。それらを説明することはしませんので、過去の報告を参照ください。専門的な説明が必要な場合は、その箇所を参照いただくようお願いします。

 まず、建材の断熱性能に関する理論については、壁と窓についての以下の報告を参照ください。

 ①壁の断熱性能:建築材料(1)-外壁の断熱性能
 ②窓の断熱性能:建築材料(2)-窓の断熱性能

 次に、設置した内窓の性能仕様と設置状況については以下の通りです。

 ③内窓の諸元:建築材料(3)-内窓の設置と補助申請

 内窓の冬季における断熱効果を実測したのは以下で報告しています。

 ④断熱効果:【速報】内窓の断熱効果を実測で確認してみた!

 さらに、それらの結果を用いて内窓の暖房機器(エアコンと石油ストーブ)へのエネルギー消費量の影響を分析したものが以下です。

 ⑤暖房の省エネ効果:【続報】内窓によるエネルギー消費と暖房代の削減効果を分析してみた!

 ところで、このエアコンの消費エネルギーについては、居室の熱負荷によって変動します。熱負荷の基礎理論や実際の計測結果については、以下で報告してきました。冷房時の熱負荷計算については以下で説明しています。

 ➅冷房時の熱負荷計算:エアコン(10)-冷房時の熱負荷計算

 また、暖房時の熱負荷計算を用いて内窓の省エネ効果を分析したものは以下で説明しています。

 ⑦暖房時の熱負荷計算:【続報】内窓の省エネ効果を暖房の熱負荷計算によって検証してみた!

 今回の報告では、参照するサイトを上記の番号で示していますので、その番号に対応する上記の場所をクリックしてご確認ください。

<本報告のコンテンツ>
内窓の夏季の断熱効果の分析
(1)内窓の施工状況と断熱性能
 (a)内窓の設置状況
 (b)内窓の断熱性能
(2)外気温と室温、ガラス面温度の測定
 (a)温度の測定箇所と測定方法
 (b)温度の測定結果
 (c)室内に熱が伝わる仕組み
(3)内窓の夏季の断熱効果の分析
内窓施工後のエアコンの消費電力への影響分析
(1)消費電力量の測定結果
(2)同一条件における消費電力量の比較
熱負荷計算による内窓の断熱効果の分析
(1)熱負荷の内窓施工前後の比較
 (a)熱負荷の基礎式
 (b)日射熱負荷
 (c)貫流熱負荷
(2)エアコンの消費電力量と熱負荷合計の比較

内窓の夏季の断熱効果の分析

(1) 内窓の施工状況と断熱性能

(a)内窓の設置状況

 内窓を設置した居室の間取りと窓の仕様(配置、寸法)を図-1に示します。対象の窓はリビング(約5.6m2)と寝室(約3.1m2)の2つです。この窓は西向きでひさしの影響を受けて、真夏は夕方に日射が最も厳しくなります(参照サイト➅)。

図-1 内窓を設置した居室の平面図と側面図

(b)内窓の断熱性能

 内窓の施工前後の状況を図-2に示します。左は施工前の単板ガラスであり、右は施工後の単板ガラスと複層ガラスの組合せとなります。単板ガラスと複層ガラスの熱貫流率と日射熱取得率は表-1の通りです。窓の断熱性能については参照サイト②を確認ください。

図-2 内窓の施工前後のガラスの構成

表-1 単板ガラスと複層ガラスの断熱性能

ガラス種別   仕   様熱取得率(-)熱貫流率W/(m2・K)
単板ガラス厚さ3mm、透明フロート0.876.4
複層ガラスLow-E複層ガラス(グリーン、高遮熱仕様)0.391.6
出所)単板ガラス:空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
Low-E複層ガラス:LIXIL(TOSTEM):窓リフォームカタログ、内窓インプラス、複層ガラス光学性能値、2022年5月

(2) 外気温と室温、ガラス面温度の測定

(a)温度の測定箇所と測定方法

 内窓の断熱効果を分析するために、室内外の温度と外窓、内窓のガラス面の温度も測定しました。ガラス面の温度を測る目的は、窓ガラスの熱の伝わり方を細かく把握するためです。

 温度の測定装置、測定箇所、測定期間、記録間隔は以下の通りです。

 ●測定装置
 測定装置は表-2に示す温度データロガAD-5326TTを3個使用しています。内蔵温度センサーで外気温、中間層、室温を測定し、外部温度センサーでガラス面の温度を測定します。設定した時間間隔に測定値が保存されます。

表-2 温度データロガの仕様(A&D社の温度データロガ)

  項  目          内   容   写   真  
メーカー名株式会社エー・アンド・デイ
製品名・型番温度データロガー、D-5326TT
電源CR2032(ボタン電池)×2個
表示項目温度(CH1/CH2)、時刻
温度CH1
(内蔵温度
 センサ)
測定範囲0.0~60.0℃
測定精度±1.0(40℃未満)、±2.0(40℃以上)
センササーミスタ
温度CH2
(外部温度
 センサ)
測定範囲-40.0~90.0℃
測定精度±1.0(40℃未満)、±2.0(40~69.9℃)、±3.0(70℃以上)
センササーミスタ
測定間隔30秒毎
データロガ
 機能
データ数最大525,600
記録間隔1分~12時間の間隔で設定可能
出力形式CSV形式

 ●測定箇所(図-3参照)
  ①外気温:ベランダ面に置いたダンボール箱(日よけ、通気可能)の中に設置
  ②外窓ガラス外側:床面から高さ1mのガラス面にセンサーを張り付け
  ③外窓と内窓の中間層:置台にセンサーを設置
  ④内窓ガラス外側:床面から高さ1mのガラス面にセンサーを張り付け
  ⑤内窓ガラス内側:床面から高さ1mのガラス面にセンサーを張り付け
  ⑥室温:床面からの高さ1mの置台にセンサーを設置

図-3 温度の測定箇所

  ●測定期間:7月29日から8月12日までの15日間
  ●記録間隔:1時間(毎正時記録)

(b)温度の測定結果

 各センサーで温度を測定した結果の一例を図-4に示します。図-4(1)は1日中晴天だった8月4日の測定データであり、図-4(2)は降雨があった8月1日のデータです。

 8月4日の外気温(図-3の①、黒線)は測定期間では最も高く、最高気温38.5℃、平均気温33.3℃でした。外気温のセンサーは日射が当たらないため、ガラス面ほど高温にはなりません。

 外窓ガラス外側の温度(②、赤線)は図-4(1)に示すように、朝方は外気温(①、黒線)より低いですが、次第に上昇していき、日射の直達成分が卓越する14時以降は非常に高温になっています。

図-4(1) 外気温、ガラス面温度、室温の推移(8月4日)
図-4(2) 外気温、ガラス面温度、室温の推移(8月1日)

 同じ日(8月4日)の内窓ガラス外側(④、茶色)の温度は、外窓ガラス外側(②、赤線)よりも遅れて上昇していき、17時(日射が最も強い時間)には外窓ガラス外側と同程度の温度になっています。

 内窓(複層ガラス)の室内側の温度(⑤、青線)は、朝方は室温(⑥、緑線)に近い温度ですが、日射の影響を受けて上昇していきます。しかし、その温度上昇は非常に小さく最高でも33℃と外気温よりも高くなることはありません。これは、複層ガラスの断熱効果のためです。

 また、外窓と内窓の間の中間層の温度(③、黄色線)は外窓ガラス外側の温度上昇を受けて上昇していることが分かります。内窓を設置する前はこの温度がエアコンの熱負荷に影響を与えていたと考えられます。なお、室温(緑線)は設定温度28度の制御通り一定温度で推移しています。

 次に、図-4(2)に示すように8月1日は11時頃に雨が降り出し15時頃まで曇りが続きました。その間の外気温は大きく下がって28℃程度になっています。日射が遮られると外窓ガラス外側の温度も上がらず、この時間帯はどの温度も外気温と同様の温度になっています。

(c)室内に熱が伝わる仕組み

 各センサーの温度の1日最大値の推移を図-5に示します。雨が降った8月1日と8月9日を除き、各温度の1日最大値は一定の傾向を示していることが分かります。また、外窓ガラス外側と内窓ガラス外側の温度(赤線、茶色線)はほぼ同一の温度となっています。これらの原因を探るため、日射量が大きい時の窓からの熱の伝わり方について考察します。

図-5 外気温、ガラス面温度、室温の1日最大値の推移

 温度が上昇していく仕組みは、太陽からの日射熱外部との温度差による貫流熱によって変化していきます(参照サイト②を参照)。そのうち、日射熱が室内に伝わっていく過程を図-6に示します。日射熱は太陽エネルギーの放射によって窓ガラスに伝わります。一番外側にすだれがあるため、放射はその空隙を通って伝わることになります。

図-6 日射熱が室内に伝わるイメージ

 外窓のガラスに伝わった熱はさらに放射と対流を通じて内窓のガラスに伝わります。内窓の外側のガラス面は太陽の直接放射によるものと、外窓ガラスからの放射、対流によって温められるため、時間が経過すると外窓の温度と同程度になります。

 また、内窓のガラス内側の温度は内窓の日射熱取得率の性能により、大きく低減します。本内窓は「Low-E複層ガラスグリーン」という高遮熱仕様で、日射の遮熱効果が非常に高いため、図-5に示すように内窓のガラス内側の温度(青線)は晴天日には外側の温度(茶色線)より10℃以上低くなっています。 

 一方、中間層や室内の空気は放射によって温められることはなく、ガラスやカーテンからの対流によって温められます3)。そのため、中間層の温度(黄色線)は外窓ガラスや内窓ガラス外側よりも低くなります。また室温(緑線)も内窓からの放射と対流によって温められたカーテンからの対流による熱の影響を受けながらも、エアコンの冷房効果により一定の温度が維持されます。

 次に、貫流熱は室外と室内の温度差によって伝達されます。貫流熱量は図-7に示すように熱貫流率に温度差を乗じて算定されます。その熱貫流率は外窓、内窓、すだれ、カーテンによる総合的な断熱性能を反映して決定されます。すだれは外窓との間の空気層、カーテンは内窓との間の空気層によって貫流熱負荷を軽減する効果を持ちます。

図-7 貫流熱が室内に伝わるイメージ

(3) 内窓の夏季の断熱効果の分析

 測定した期間(降雨日除く)の中間層と内窓ガラス内側の温度差(③-⑤)の平均値を図-8に示します。ここでは外窓と内窓の中間層の温度(③)は内窓設置前の室内側の温度と見なせると仮定します。この中間層と内窓ガラス内側の温度差を内窓設置前後の温度差、すなわち内窓の断熱効果ととらえることができます。

注)測定した15日間のうち、雨が降った2日を除く13日の平均
図-8 内窓施工前後における温度差

 図-8では時間帯(3時間)ごとに温度差の平均値を示しています。これを見ると、15時から18時までは6.4℃の温度差がみられます。温度差の最低は3~9時の1.2℃であり、1日の平均では約3℃です。内窓の設置によりこれだけ温度が低下したと見なせます。その分の熱負荷が内窓の設置によって軽減できたことになります。

内窓施工後のエアコンの消費電力への影響分析

(1)消費電力量の測定結果

 エアコンは2022年夏季の測定を行ったものと同じ製品であり、その性能仕様は表-3の通りです。本製品の冷房COP(成績係数)は5.0の性能を有しています。冷房COPとは消費電力量の何倍の熱を除去できるかを示します。ただし、このCOPは最大熱負荷時の性能と見なされ、定常運転時のCOPは3程度と見なすのが一般的です。

表-3 エアコンの性能仕様

   項    目  内容(数値)
メーカーダイキン工業株式会社
型 番AN40ZRBKP-W
電 源単相200V
冷房能力(kW) 4.0
消費電力(W) 800
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室 28
木造南向和室 18
暖房能力(kW)標準 5.0
低温9.1
消費電力(W)標準900
低温3,390
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室23
木造南向和室18
消費電力量 kWh暖房時期間合計761
冷房時期間合計305
期間合計(年間)1,066
通年エネルギー消費効率(APF)7.1
省エネ基準達成率(%)144
冷房定格エネルギー消費効率(冷房COP)5.0
注)各仕様はJIS C9612: 2013に基づきます。期間消費電力量の数値はカタログ値を示しています。
出所)ダイキン工業株式会社:ルームエアコンRX/Rシリーズ、取扱説明書
ダイキン工業株式会社:ルームエアコンカタログ、2021年11月(2022年度製品用)

 消費電力量の測定は、wifi対応のスマートリモートコントロール機能を用いてiPoneで1時間ごとに積算消費電力量データを受信し、記録しました。ただし、本機能で把握できる電力量の最小単位は0.1kWhであり、測定精度は高くはありません。

 内窓施工前後の1日平均外気温と消費電力量の関係を図-9に示します(外出等の特異日は除きます)。ただし、エアコンの運転モードは、施工前は「冷房」で、施工後は主に「AI快適自動」です。

 「AI快適自動」の運転モードは、設定される直前の運転方法(設定温度など)を学習して、快適な運転を自動で行うものです。運転モードは異なりますが、内窓施工後の消費電力量が少なくなっているのが分かります。このデータだけでも内窓の施工による省エネ効果を垣間見ることができます。

注)内窓施工前のエアコンの運転モードは「冷房」、内窓施工後は「AI快適自動」
データは2022年及び2023年の7月18日~8月15日までの28日間を使用しています。
ただし、2023年は8月4日から8月6日のデータを除きます。
図-9 内窓施工前後の外気温とエアコンの消費電力量の関係

(2)同一条件における消費電力量の比較

 ここでは、内窓施工前後について気象条件と運転モードが同一の日の消費電力量を比較します。後で熱負荷の分析を行うため、内窓の施工前は東京の冷房設計用気象条件である8月1日のデータを採用します。2022年8月1日の熱負荷計算については参照サイト➅で既に計算しています。

 内窓施工後(2023年)についても8月1日を選択したいのですが、2023年8月1日は前述の通り雨が降っており、残念ながら8月1日を計算の対象とすることができません。そこで、高気温と予報された8月4日から8月6日の3日間は「冷房」モードで運転し、2022年8月1日の気象条件と類似の日を探したところ、8月4日がその条件に当てはまることが分かりました。

 両者の気象条件とその日のエアコンの消費電力量を表-4に示します。表-4より外気温、室温の平均値の差はどちらも0.5℃未満であり、類似した気象条件であったと判断できます。また、エアコンの運転モードはどちらも「冷房」であり、設定温度は28℃で統一しています。

表-4 内窓施工前後の気象条件と消費電力量

項 目2022年8月1日2023年8月4日両者の差
外気温
(℃)
平均33.633.30.3
最高38.438.5-0.1
最低30.929.71.2
室温
(℃)
平均27.327.6-0.3
最高28.528.00.5
最低26.727.2-0.5
1日消費電力量(kWh)8.57.11.4
注)エアコンの運転条件は両日とも、冷房モード、設定温度28℃です。

 これらの日の消費電力量は内窓施工前が8.5kWh、内窓施工後が7.1kWhと、その差は1.4kWhでした。このことから、内窓の省エネ効果は16%程度(=1.4/8.5)であったと言えます。

 以前の報告で、冬季の暖房時のエネルギー消費量(エアコンと石油ストーブの消費エネルギー)については約1割軽減されたと推計されていました(参照サイト⑤を確認ください)。そのため、夏季は冬期に比べて省エネの効果が大きかったと言えます。

熱負荷計算による内窓の断熱効果の分析

(1)熱負荷の内窓施工前後の比較

(a)熱負荷の基礎式

 これまでの分析では暖房時に比べて冷房時の方が内窓の省エネ効果が大きいことが分かりました。それを理論的に確かめるため、ここでは最大熱負荷計算法を用いて分析します。内窓施工前の冷房負荷の分析で同様の計算を行っています(参照サイト➅を確認ください)。

 最大熱負荷計算法はエアコン等の空調設備の能力を決定するための計算法です。そのため、東京では冷房設計用気象条件(東京h-t基準データ)である8月1日の太陽軌道に基づく日射、温度条件を用いています。

 下のコラムにその計算法を示します。このうち、内窓の施工によって変わるのは、日射熱負荷と貫流熱負荷の2つです。このパラメータの変化をまとめて表-5に示します。以下でパラメータの設定根拠とその熱負荷の変化について具体的に示します。

表-5 内窓施工前後の熱負荷計算におけるパラメータの変化

熱負荷種類パラメータ内窓施工前内窓施工後   変更の根拠
日射熱負荷窓の日射熱取得率0.250.10内窓の性能仕様より算定
貫流熱負荷窓の熱貫流率3.41.2内窓の性能仕様より算定
<最大熱負荷計算法の概要>

 最大熱負荷計算における冷房の熱負荷の種類は以下の通りです。
(a)ガラス窓を透過する日射による熱負荷:qG
(b)壁体を貫流する熱負荷:qn
(c)すきま風による熱負荷:qf
(d)室内の内部で発生する熱負荷:qiT
 
(a) 日射熱負荷(qG
 まず、窓ガラスからの透過日射熱負荷(qG)は次式で表されます。
 qG=(IGD・SG+IGS)SC・AG
  qG:窓ガラスからの透過日射熱量(W)
  IGD、IGS:ガラス窓標準日射熱取得直達成分、拡散成分(W/m2
  AG:窓ガラス面積
  SG:ガラス面日射面積率(-)
  SC:日射熱取得率(-)

(b) 貫流熱負荷(qn
 次に、貫流熱負荷(qn)については、次式で表されます。
 qn=A・U・ETD
  A:壁・窓・床・屋根の面積
  U:その部位の熱貫流率(W/(m2・K))
  ETD:実効温度差(K)
 実効温度差(ETD:Effective Temperature Difference)とは日射の影響を含んだ貫流熱を考慮したものです。この計算は外壁貫流の時間遅れを加味した応答計算によって行われます。そのため、外壁の形態別に事前にシミュレーションを行った計算結果を用います。

(c) すきま風熱負荷(qf
 すきま風熱負荷(qf)は顕熱負荷(qs)、潜熱負荷(qL)があり、次式によって計算します。
 qs=cp・ρ・Δt・Qi
 qL=γ・ρ・Δx・Qi÷1000
  cp:空気の定圧比熱(=1) (J/(g・K))
  ρ:空気の密度(=1.2)(g/L)
  γ:水の蒸発潜熱(=2,500)(J/g)
  Δt:室内外乾球温度差(K)
  Δx:室内外絶対湿度差(g/kg(DA))
  Qi:すきま風の風量(L/s)

(d) 内部発熱負荷(qiT
 内部発熱負荷(qiT)は室内の発熱体の内部発熱ですが、以下があります。
(1)人体発熱:人体表面からの放熱される顕熱と発汗として放熱される潜熱がある
(2)機器発熱:一般的には顕熱が多いが、一部潜熱もある
(3)照明発熱:顕熱のみ
(4)厨房発熱:キッチンの発熱

(b)日射熱負荷

 夏季には窓からの日射熱によるガラス窓透過日射熱負荷が大きいのが特徴です。特に太陽光が直達する時点では室内の熱負荷が非常に大きくなります。日射熱負荷の計算方法はコラムに示した通りであり、すでに内窓施工前のそれは計算済みです。

 そこで、内窓施工後のパラメータを算定します。日射熱負荷の式に示すように内窓の施工によって日射熱取得率が変わります。すだれの空隙率30%、3mmの単板ガラスの日射熱取得率0.87(表-1より)より、

 すだれと外窓ガラス通過後の日射熱取得率0.30×0.87=0.26
  (前回の報告では0.25を採用)

 外窓(3mmの単板ガラス)を通った日射が日射熱取得率0.39(表-1より)の複層ガラスを通過することで以下の通り日射熱取得が計算されます。

 内窓施工後の居室内への日射熱取得率:0.30×0.87×0.39=0.10

 このことから、全日射量(直達日射量+間接日射量)に日射熱取得率0.10を乗じることで日射熱負荷を算定することができます。なお日射量は東京の8月1日の平均的な数値を参考文献1より引用できます。また、方位とひさし等の条件を与えることで、窓への日射量が計算されます。

 内窓設置前の日射熱取得率は0.25を採用していましたので、図-10に示すように今回の日射熱負荷は前回の0.4倍の値になっていることが分かります。窓が西向きであり、ひさしの影響によって日射量が17時に最大になっています。

図-10 内窓施工前後の日射熱負荷

(c)貫流熱負荷

 内窓施工後の窓ガラス全体の熱貫流率は既に報告した通りです(参照サイト⑦を参照)。前回は冬季の分析だったため、すだれとカーテンは考慮していません。そのため、これらの空気層を考慮して計算すると、表-6に示す通り内窓施工後の熱貫流率は1.2W/(m2・K)となります。

表-6 内窓施工後の窓全体の熱貫流率

熱伝導率
λ
厚さ d
(m)
①施工前
単板ガラス
②Low-E
複層ガラス
施工後窓ガラス
①+②
室外表面熱抵抗 ro=1/ho230.0430.0430.043
すだれ空気層 rG0.070.07
ガラス熱抵抗 d/λ 10.0030.0030.003
中間層の熱抵抗 ra0.07
Low-E複層ガラス(グリーン)の熱抵抗 rg0.4710.471
カーテン空気層 rG0.070.07
室内表面熱抵抗 ri=1/hi90.1110.1110.111
熱貫流抵抗 RG=∑(ro+ra+rg+ri+rG+d/λ)0.2970.6250.838
熱貫流率U=1/RG
W/(m2・K)
3.41.61.2
注)複層ガラスの熱貫流率(1.6)はLIXILカタログによる。
室外表面熱伝達率 ho=23W/(m2・K)、室内表面熱伝達率 hi=9W/(m2・K)、ガラスの熱伝導率 λ=1.0W/(m・K)、非密閉中空層の熱抵抗 ra=rG=0.07W/(m2・K)は参考文献2による。

 これをもとに、内窓施工前後の窓の貫流熱負荷と壁の貫流熱負荷を計算すると図-11の通りです。壁の貫流熱負荷は内窓の施工前後で変化はありません。内窓施工前の窓の熱貫流率は3.4 W/(m2・K)でしたので、貫流熱負荷は約0.4倍になっているはずです。

図-11 内窓施工前後の貫流熱負荷

(2)エアコンの消費電力量と熱負荷総和の比較

 内窓施工前後の時間別の熱負荷の総和を図-12と図-13に示します。積層棒グラフに熱負荷の内訳を示しています。内窓施工後は昼間の日射熱負荷が大きく減少し、貫流熱負荷も減少していることが分かります。

 その結果、17時の熱負荷のピーク時では内窓施工前の熱負荷の総和が2,450Whから施工後は1,560Whと約36%減少しているのが分かります。また、1日の熱負荷量は25,900Whから20,300Whと22%減少していました。

図-12 熱負荷の総和とエアコンによる除去熱量(内窓施工後)
図-13 熱負荷の総和とエアコンによる除去熱量(内窓施工前)

 図-12と図-13にはエアコンの消費電力量に基づく除去熱量(黒線)も示しています。エアコンの除去熱量は、消費電力量に成績係数(COP3.0)を乗じたものです。熱負荷の合計値とエアコンの除去熱量の傾向は概ね合致しています。このことは最大熱負荷計算法がエアコンの消費電力量を推計できることを示しています。

 今回の熱負荷計算の結果をまとめると表-7の通りです。内窓の施工により日射熱負荷と貫流熱負荷が大きく減少しており、その結果約22%の省エネ効果が得られることが分かりました。これは暖房時よりも大きな省エネ効果です。その理由は暖房時には熱負荷とはならない日射熱負荷の影響が大きいためでした。

 なお、実際の消費電力量の逓減効果は16%でしたので、熱負荷計算による効果が若干大きく出ています。この差は最大熱負荷計算における細かな熱負荷量の条件(湿度など)を設定できないことによるものと考えられます。

表-7 エアコンの冷房時における内窓の省エネ効果

項 目内窓施工前
2022/8/1
内窓施工後
2023/8/4
両者の差
(軽減率)
平均外気温(℃)33.633.30.3
平均室温(℃)27.327.6-0.3
1日消費電力量(kWh)8.57.11.4(16%)
エアコンの除去した熱量(kWh)注)25.521.34.2(16%)
最大熱負荷計算による熱負荷(kWh)25.920.35.6(22%)
注)エアコンの消費電力量にCOP(=3.0)を乗じた計算値。

<参考文献>
1)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
2)空気調和・衛生工学会編:空気調和設備計画設計の実務の知識、オーム社、2017年3月
3)宇田川光弘、他:建築環境工学―熱環境と空気環境、改訂版、2020年4月
4)LIXIL(TOSTEM):窓リフォームカタログ、内窓インプラス、複層ガラス光学性能値、2022年5月