前々回は乾式メタン化事業の都市のごみ処理における有効性を検討してきました。乾式メタン化システムは都市ごみ全体を対象とし、発酵残渣を農業利用しなくても良いという利点を有している半面、メタン化できない可燃ごみを焼却するため、脱炭素社会に向けてプラスチックの分別収集・リサイクルが重要になることを示しました。
前々回の乾式メタン発酵施設はKOMPOGAS(横型乾式メタン発酵)について検討してきましたが、今回取り上げるのはDRANCO(縦型乾式メタン発酵)です。DRANCOはベルギーのOWS社が開発した技術であり、最初から都市ごみを対象に開発が進められたようです。
この方式の特徴は希釈水の投入がほとんどないため、排水処理施設を設置していないことです。また、撹拌設備や加温設備などもなく非常にシンプルな構造になっています。攪拌や加温設備がない構造で乾式メタン発酵が行われる仕組みとは、どのようなものでしょうか。
今回の分析の中心は縦型乾式メタン発酵に特有の以下に示す課題の対応方法です。
・高い固形物濃度での撹拌と加温方法
・アンモニアによる発酵阻害
・発酵残渣の有効活用(資源化)
DRANCOでは希釈水をほとんど使わず、発酵槽内では高濃度の有機物が分解処理されます。希釈水を少なくすることで排水量を少なくできますが、発酵槽内の流動性が失われ処理対象物の撹拌と加温が難しくなります。
さらに、メタン発酵の一番の課題であるアンモニアによる発酵阻害が生じる可能性があります。アンモニアは嫌気性細菌の活動に影響を与えますが、生ごみやし尿汚泥などには多くの窒素分が含まれているため、それがアンモニアに変換されてメタン発酵を抑制するのです。
今回はDRANCOを開発したベルギーのOWS社の技術資料を基に、そのメタン化プロセスの構成と物質収支を整理して、撹拌と加温の仕組みを明らかにします。また、アンモニア阻害については文献と事例から、阻害が起きる条件と対策について整理します。
また、これまで見てきたようにメタン発酵のもう一つの課題は発酵残渣(消化液)の処理です。湿式メタン発酵では消化液の脱水後の排水処理が課題でした。また、乾式メタン発酵(KOMPOGASの場合)も、脱水残渣を焼却処理する際に焼却不良を起こすことがありました。
今回は発酵残渣の燃料としての利用を検討している事例を示します。発酵残渣は有機物分が残存しているため、肥料や燃料として活用できます。燃料としての利用は乾燥にエネルギーを必要とするため、エネルギー収支を分析してその対策の評価を行う必要があります。
以前の報告(「バイオマス発電(4)-乾式メタン発酵は都市部のごみのメタン化の切り札となるか?」)で日本では2つの民間企業でこの方式が採用されていることを紹介しました。これらの企業は国の実証試験などに参加して、施設の諸元や運転データ等を公開しています。
そこで本報告では、事例の整理としてアンモニアの発酵阻害を防止するために紙ごみを有価で買い取って処理している(株)富士クリーンの事例を紹介します。また、脱水残渣を助燃剤として活用することを検討しているオリックス資源循環(株)の事例を説明します。
<本報告のコンテンツ> ■縦型乾式メタン発酵の課題 (1) 縦型乾式メタン発酵(DRANCO)の概要 (2) アンモニア阻害 (3) 発酵残渣の有効活用 ■(株)富士クリーンの乾式メタン化システム (1)処理施設の概要 (2)処理対象バイオマス (3)アンモニア阻害対策 ■オリックス資源循環(株)の乾式メタン化システム (1)処理施設の概要 (2)処理対象バイオマス (3)物質収支、エネルギー収支 (4)発酵残渣の有効活用方法の検討 |
縦型乾式メタン発酵の課題
(1)縦型乾式メタン発酵(DRANCO)の概要
DRANCOはベルギーで開発された技術であり、縦型の発酵槽で処理することから縦型乾式メタン発酵と呼ばれます。これは横型の押出し流れであるKOMPOGASとは異なっています。乾式メタン発酵における発酵槽内の固形物濃度は25~40%(含水率60~75%)です。
湿式メタン発酵の含水率90%以上と比べると非常に少ない数値です。そのため、DRANCOの日本側代理店である栗田工業の説明では、「発酵残渣の水分が少ないため、排水処理設備が不要で、排水の放流が困難な立地条件でも施設の設置が可能です」と説明されています1)。同社の説明資料からその特徴を示すと以下の通りです。
・幅広い有機性廃棄物からバイオガスを回収可能
・メタン発酵後の水処理が不要
・乾式メタン発酵槽はメンテナンスフリー
・複雑な前処理が不要
乾式メタン発酵は生ごみ、汚泥に加えて紙ごみ、剪定枝なども対象とできることや、水処理が不要ということが大きなメリットです。メンテナンスフリーとは発酵槽内に撹拌機や、加温設備などがないシンプルな構造であり、複雑な前処理が不要とは簡単な破砕選別設備のみで良いためです。
このシステムを開発したベルギーのOWS社の資料からシステムの特徴を整理すると以下の通りです2)。図-1に示すように発酵槽は円筒形で下部は円錐状となり、自然流下で下降した発酵汚泥を捕集する構造になっています。
投入された廃棄物は破砕、選別機により40mm以下に細分化され、混合槽で蒸気により加温されます。そして、捕集された発酵汚泥と混入されてポンプで発酵槽上部に送られます。ポンプで発酵槽に供給される投入バイオマスと発酵汚泥の比は1:6~8とされています。
従って、投入バイオマスと汚泥は通常2~4日で下部まで到達しますが、何度も発酵槽に戻されるため全体的なバイオマスの滞留時間は20日とされています。その量に対応する発酵汚泥が次の処理(堆肥化または燃料化)に送られます。
このシステムの特徴は加温を混合槽への蒸気の混入によって行い加温装置を設置していないことや、発酵槽の撹拌はバイオガスの上昇と発酵混合物の循環供給により行われることです。従って、発酵槽は非常にシンプルであり、機械的な動力はポンプだけという特徴があります。
DRANCOシステムの物質収支を図-2に示します。システムフローは発酵の前後に乾式選別と湿式分離を配置していることが特徴的です。乾式選別ではプラスチックや金属などの粗選別を行うのみですが、発酵後の湿式選別では堆肥の品質を向上するための細かな選別が行われます。
また、図-2に示すように投入される蒸気は投入される廃棄物(選別前)の2%であり、発酵槽への投入量に対しては3%となっています。つまり、発酵槽に供給される希釈水は非常に少ないことが分かります(COMPOGASの導入事例では投入バイオマスと同量の希釈水が供給されていました)。
また、DRANCOシステムでのメタン発酵により分解される有機物は12%です。また、発酵残渣(56%)は湿式分離で繊維など36%が分離され、分離後20%の残渣が堆肥化されて堆肥として14%の固形物(含水率55%)が生じます。堆肥化過程で除かれる水分は5%です。
本システムでは発酵残渣を焼却せずに堆肥化を選択しているため、湿式分離で異物を除去することが必要です。湿式分離の方法が具体的に示されていませんが、効率的な分離方法があるかどうかが課題です。どちらを選択するのかは今後評価していくことが必要と思われます。
(2) アンモニア阻害
メタン発酵はメタン生成に至るまでに多くの細菌(微生物)が関与し、その生息温度域などの環境条件によって異なる細菌が関与します(「バイオマス発電(2)-ごみのメタン化の概要と焼却の比較」を参照ください)。その細菌の種類によって良好な発酵ができる環境条件が異なり、条件によっては発酵しないまたはスピードが遅いという発酵阻害が生じます。
メタン発酵におけるアンモニア性窒素濃度の影響の程度を表-1に示します。アンモニアは低濃度では有効ですが、高濃度では特にアルカリ域で毒性が出るとされています3)。アンモニアは水中ではアンモニウムイオンと遊離アンモニアの双方で存在しますが、毒性は遊離アンモニアが強いのです。遊離アンモニアの比率はpHが高いほど、温度が高いほど増加するので、高温、高pH領域で毒性が強く出ます。
表-1 メタン発酵におけるアンモニア性窒素の影響
アンモニア性窒素濃度(mg/L) | 影 響 |
---|---|
50~200 | 有効 |
200~1,000 | 悪影響無し |
1,500~3,000 | pH7.4~7.6以上で阻害要因 |
3,000以上 | 毒性あり |
中温発酵(35℃程度)の場合はアンモニア濃度が3,000~4,000mg/L、高温発酵(55℃程度)の場合は2,000mg/L以上で発酵阻害が生じるとされています4)。乾式メタン発酵は高温発酵ですのでアンモニアによる発酵阻害が生じる可能性があり、特に水分濃度が低いDRANCO方式の場合はより可能性が高くなります。
タンパク質を多く含む生ごみ(食品廃棄物)や家畜排せつ物など(特に鶏糞、豚糞)は窒素を多く含み、分解してアンモニアを発生します。そのため、これらの処理量が多くなる場合はアンモニア阻害に注意する必要があります。
その対策として、アンモニア濃度を低減させるため、窒素の含有が少なく分解性有機物が多い紙ごみの処理量を増やすことが行われています。水分量が少ない乾式メタン発酵の特徴を生かすためには、原料バイオマスの紙ごみの割合を増やすことが重要となります。
(3) 発酵残渣の有効活用
これまでの検討で見てきたように、メタン発酵のもう一つの課題は発酵残渣(消化液)の処理です。湿式メタン発酵では消化液の脱水後の排水処理が課題でした。また、前々回の乾式メタン発酵の場合も、脱水残渣(固形物)を焼却処理しますが、その量によっては焼却不良を起こすことがありました。
OWSが開発したDRANCOシステムでは発酵残渣を湿式分離によって異物を除去し、堆肥化することを選択していました。堆肥化をすることはメタン発酵後の残渣に有機物分(肥料としての栄養分)が残っていることを意味します。
発酵残渣に残された有機分は肥料として利用する以外にエネルギーとして利用することもできます。これまで見てきたKOMPOGASの事例で発酵残渣を焼却処理していたのは、エネルギー利用をしているとも解釈できます。エネルギー利用する際に含水率は問題になりますが、異物を除去する必要はありません。
今回の事例では、発酵残渣を乾燥させ助燃剤として活用するという方法を検討しています。この方法は乾燥にエネルギーを必要とするため、エネルギー収支を分析してその対策の評価を行う必要があります。助燃剤としてのエネルギー利用について、製造と利用におけるエネルギー収支の分析結果について紹介します。
(株)富士クリーンの乾式メタン化システム
(1)処理施設の概要
(株)富士クリーンは香川県綾川町で廃棄物処理事業者として一般廃棄物、産業廃棄物の処理を行っています。経済産業省の補助を受けてバイオマスの乾式メタン発酵の実証事業を2018年から2022年まで実施しました。
初めにFS調査(Feasibility Study:実行可能性調査)を行い、その後実際にプラントを建設して実証試験を行ってきました。実証試験といってもプラントは実機レベルの大規模なものであり、FS調査での検討事項や運転データなどが公開されています。
(株)富士クリーンのメタン化システムの施設構成を図-3に示します5)。処理能力は73.08t/日、発酵槽容量3,000m3、ガスエンジン発電機370kWが2基、蒸気ボイラ500kg/hが4基、排ガスボイラ630kg/hが1基設置されています。
(2)処理対象バイオマス
FS調査時点における受入バイオマスの構成を図-4に示します。調査時点における処理対象のバイオマスは、主に一般廃棄物が約5割、汚泥が2割(固体、液体含む)、食品加工残渣(動植物性残渣)が14%、紙ごみ1割などとなっています。
2018年度、2019年度に実証試験を行った際のバイオマス種別の搬入量、メタン化処理量を表-2に示します。メタン化処理されるバイオマス種別の割合は食品加工残渣47%、汚泥30%、紙ごみ(難再生古紙)23%となっています。表-2では搬入量からメタン発酵槽への選別率も示しており、食品加工残渣は約8割、脱水汚泥は約6割、紙ごみは100%となっています。
表-2 バイオマス種別の搬入量、メタン化処理量
バイオマス | 搬入量① | メタン化② | 選別率②/①(%) | ②の構成比(%) |
---|---|---|---|---|
食品加工残渣 | 6,506 | 5,167 | 79.4 | 46.5 |
脱水汚泥 | 5,463 | 3,381 | 61.9 | 30.4 |
難再生古紙 | 2,566 | 2,566 | 100.0 | 23.1 |
合計 | 14,536 | 11,115 | 76.5 | 100.0 |
出所)(株)富士クリーン:「国内最大級の縦型乾式メタン発酵技術を用いた多様な廃棄物を原料としたバイオガスによる熱電併給型廃棄物処理モデル」、バイオマスエネルギー地域自立システム化実証事業、ワークショップ2021、配布用資料、2021年3月18日
(3)アンモニア阻害対策
実証試験データからメタン化投入量全体に対する紙ごみの比率と投入ごみ量当りのバイオガス発生量を図-5に示します。この図からは紙ごみの投入量とバイオガス発生量の関係は明確ではありませんが、紙ごみ比率が低いとバイオガス発生量が少なくなる傾向があるようです。
実証試験結果より、良好な発酵のためにセルロース系バイオマス(紙ごみを含む)が8%以上必要であると報告されています。これは、メタン発酵におけるアンモニア阻害を避けるための重要な情報ということができます。
また、セルロース系のみでもメタン発酵は可能ですがメタン濃度は48%を維持できないと報告されています。さらに、原料投入条件を維持できれば、1トンの原料あたり200 Nm3以上のバイオガスを回収することができるとされています。
FS調査の段階で近隣地域で発生する紙ごみ(再生が難しい古紙)の調達可能量が想定より少ないことが判明しました。そこで、図-6に示すような他の地域からの難再生古紙の調達に関する経済性の検討を行いました。まず、難再生古紙の販売価格を確認したところ2,000~3,000円/tということが分かりました。
紙をメタン発酵して発生するバイオガス量は330Nm3/tであり、この熱量に相当する重油代は約10,800円と計算されました(調査時点の重油価格は65円/L、バイオガス熱量に対応する重油量166L/tより)。
重油の価格は変動しますが、それを考慮しても難再生古紙の値段は重油代を下回る可能性が高いと言えます(図-6参照)。そのため、有価物として購入した難再生古紙をメタン発酵処理してもメリットが出ることから、有償での調達を決断したということです。
オリックス資源循環(株)の乾式メタン化システム
(1) 処理施設の概要
オリックス資源循環(株)は埼玉県から委託されたPFI事業として寄居バイオガスプラントを建設しました。最大処理能力100t/日、発電容量1,600kW、年間発電量約9,800MWh(一般家庭約3,140世帯分の年間消費電力)とされています。国内のメタン発酵施設としては最大級のものです6)。
本施設は2021年秋に竣工し、既に運転を開始しています。処理フローを図-7に示します。縦型乾式メタン発酵(DRANCO)を採用し、バイオガスで発電した電力は売電し、発酵残渣は脱水、乾燥処理した後、場外搬出しています。
乾燥用の熱源はメタン発酵で回収したバイオガスを利用する計画です。なお、発酵残渣の乾燥物の助燃剤としての活用可能性を現在検討中であり、エネルギー性能が明らかになれば乾燥用の熱源として使用されることが想定されます。
(2) 処理対象バイオマス
当事業の協力エンジニアリング企業である栗田工業が環境省の実証事業調査に参加し、バイオガス化施設の運転データをもとに脱炭素化に関する検討を行っています7)。本調査の目的は、広域的なごみ焼却システムにおいて、乾式メタン発酵施設で処理することで焼却施設のごみ量を減らし、温室効果ガスの削減を図ることです(ここでの広域的とは複数の市町村の共同を言います)。
この調査は2021年度から2023年度まで続きますが、ここでは2022年度の調査報告書をもとに整理していきます。本施設では一般廃棄物と産業廃棄物のうち、可燃ごみとして搬入されるごみを対象としています。報告書に示された可燃ごみの組成分析結果を表-3に示します。
表-3 メタン発酵原料の組成調査結果(湿重量ベース、単位:%)
ごみ組成 | 実証試験ごみ | 全国調査注) |
---|---|---|
紙類 | 47.6 | 31.2 |
布類 | 0 | 3.3 |
木・竹・わら類 | 9.1 | 14.9 |
ビニール、ゴム、皮革類 | 14.8 | 10.0 |
厨芥(生ごみ) | 21.7 | 40.0 |
不燃物類 | 5.8 | 0.0 |
その他 | 1 | 0.8 |
合計 | 100 | 100.0 |
出所)栗田工業(株):脱炭素化・先導的廃棄物処理システム実証事業<乾式メタン発酵施設を活用したごみ処理広域化におけるエネルギー自立型中継施設の実証>委託業務成果報告書、2023年3月
表-3には環境省が公表している全国調査の結果も示しており、比較すると本施設のごみの組成は紙類の割合が非常に大きいことが分かります。これは、紙と生ごみを一緒にごみ袋に入れて収集したことで、生ごみの水分が紙に移行して紙ごみの重量割合が多くなったためと考えられます。
この比較は紙と生ごみ(食品廃棄物)を別々に収集している(株)富士クリーンの場合とは比較できません。ただし水分が移行したとはいっても、この結果を見ると紙ごみの不足によるアンモニア阻害が生じる恐れは少ないと考えられます。
(3)物質収支、エネルギー収支
報告書に示されたデータより物質収支を示すと図-8の通りです。搬入ごみ76.5t/日のうち44.7t/日がメタン発酵槽に投入されます(選別率58%)。メタン発酵槽でのバイオガス発生量は8,068Nm3/日(メタン濃度55%相当)であり、ごみ投入量当りバイオガス発生量は180.5 Nm3/日でした。これは、前々回に報告した南但クリーンセンターの192 Nm3/日(メタン濃度50%相当)と同程度でした。
このバイオガスで発電される電力量は14,914kWh/日とされています。メタン濃度55%の熱量を19.7MJ/Nm3とすると、発電効率は34%と計算されます(=14,914/(8,068・19.7/3.6))。これは、ごみ焼却発電の平均的な発電効率15%と比較すると非常に高い値です。
メタン発酵槽に投入される前に蒸気で加熱するため、蒸気の重量が加わりますがそれは示されていません。OWSのシステムと同様とすれば投入バイオマスの3%程度と想定されます(図-2参照)。脱水設備へは33.5t/日が投入され、脱水後に夾雑物が選別されて焼却施設に14.5t/日が投入されます。その後、乾燥設備を経て助燃剤として4.4t/日が製造されます。
次にエネルギー収支を図-9に示します。発電量14,914kWh/日に対して発電設備に要する消費電力量は1,097であるため、FIT制度における売電量は13,817kWh/日です。実に発電量の93%を売電することができています。
なお、メタン化施設に要する消費電力量(買電量)は6,126kWh/日であるため、実質的には余剰電力率は52%((13,817-6,126)/14,914)と計算されます。FITの買取価格が高額であるため、発電設備に要する消費電力量を除いた分を全て売電しているのです。
本施設の消費電力量の内訳をみると図-10の通りです。この中で最も電力を消費しているのは脱臭設備(39%)であり、次いでメタン発酵設備(27%)、残渣処理設備(16%)、前処理設備(16%)の順となっています。メタン発酵設備の消費電力が少ないのはDRANCOシステムの特徴と言えるかもしれません。
(4)発酵残渣の有効活用方法の検討
発酵残渣の有効活用として本施設では乾燥による助燃剤としての活用を検討しています。そのため、発酵残渣の性状を分析しそのエネルギー特性を整理した結果を表-4に示します。乾燥物を粒度の大きさによって分類し、その低位発熱量を重量比により平均値を算出しています。その結果、平均の低位発熱量は15.1MJ/kgとなりました。
表-4 乾燥物(助燃剤)のエネルギー特性(低位発熱量)
項 目 | 単位 | サンプル1 | サンプル2 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
粒度の大きさ | 2mm未満 | 2~5.6mm | 5.6~46mm | 2mm未満 | 2~5.6mm | 5.6~46mm | |
粒度分布 | 重量% | 11.5 | 17.8 | 70.7 | 8.0 | 28.6 | 63.4 |
強熱減量 | % | 61.3 | 66.6 | 69.3 | 63.3 | 67.0 | 68.4 |
高位発熱量 | kJ/kg-wet | 13,993 | 15,478 | 14,562 | 15,478 | 15,973 | 17,587 |
低位発熱量 | kJ/kg-wet | 13,315 | 14,712 | 13,656 | 14,755 | 15,329 | 16,861 |
MJ/kg-wet | 13.8 | 16.3 | |||||
MJ/kg-wet | 15.1 |
本調査で検討している乾燥機は図-11の通気回転式乾燥機です。熱風は吹き込み主管を通って吹込み枝管から排出されて原料を乾燥させます。熱風は原料の粒子間を高速度で流れ効率的に乾燥される特徴があるとされています8)。
乾燥によって得られた助燃剤からどの程度エネルギー回収できるかを検討したものが表-5です。本システムでは、発酵残渣の乾燥に加えて脱臭設備(脱臭炉)でもA重油を使っています。その内訳は、発酵残渣の乾燥(熱風発生炉)に42.4L/t(ごみ処理量当り)、脱臭炉に43.0L/tです。
A重油の発熱量を45.2MJ/kg、比重を0.85kg/Lとすると、熱風発生炉と脱臭炉に必要な発熱量は3,281MJ/tとなります。一方、助燃剤の生産量は198.2kg/t(ごみ処理量当り)であり、表-4に示したように助燃剤の発熱量は15.1MJ/kgであるため、助燃剤のごみ量当り発熱量は2,993MJ/tとなります(表-5)。
表-5 発酵残渣の乾燥による助燃剤のエネルギー評価
項 目 | ごみ処理40t/日の時の値 | ごみ処理量当りの値 | |
---|---|---|---|
所内でのA重油使用量 | 熱風発生炉 | 1,694 L/日 | 42.4 L/t |
脱臭炉 | 1,720 L/日 | 43.0 L/t | |
合計 | 3,414 L/日 | 85.4 L/t | |
所内の必要エネルギー量 | A重油発熱量 | 45.2 MJ/kg | 45.2 MJ/kg |
比重 | 0.85 kg/L | 0.85 kg/L | |
必要熱量 A | 131,166 MJ/日 | 3,281 MJ/t | |
助燃剤のエネルギー量 | 生産量 | 7,928 kg/日 | 198.2 kg/t |
発熱量 | 15.1 MJ/kg | 15.1 MJ/kg | |
発熱量 B | 119,713 MJ/日 | 2,993 MJ/t | |
助燃剤の熱量カバー割合 B/A | 91.3 % | 91.2 % |
この結果より、助燃剤の熱量は所内の必要熱量(熱風発生炉、脱臭炉)の約9割を確保できることが分かりました。助燃剤を製造することで、自らの製造にかかる熱量を賄うだけでなく、脱臭炉のエネルギー源としても利用できることが分かりました。
本システムの発酵残渣を助燃剤とする調査では、KOMPOGASの事例で見てきた「乾式メタン化+焼却」とは異なる方法を探っています。助燃剤にプラスチックが含まれていれば焼却によって二酸化炭素排出を防ぐことはできないため、これまでの方法と同じ結果となってしまいます。
そのため、本システムでは助燃剤の製造(乾燥)の前にプラスチック等のバイオマス以外のものを除去する方法(選別方法)についても検討する予定です。今後も調査は継続される予定ですので、脱炭素化社会に向けた最適なバイオガス化後の残渣利用の方法について検討を深めていただきたいものです。
<参考文献>
1)栗田工業(株):公式Webサイト、乾式メタン発酵技術「KURITA DRANCO PROCESS」、2023年8月24日閲覧
2)OWS(Organic Waste Systems nv):the DRANCO technology:a unique digestion technology for solid organic waste、2012
3)野池達也:メタン発酵。技法堂出版、2009年
4)NEDO:バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針、第6版、第2部バイオマスエネルギー事業の導入要件・技術指針、メタン発酵系バイオマス編、2022年3月
5)(株)富士クリーン:「国内最大級の縦型乾式メタン発酵技術を用いた多様な廃棄物を原料としたバイオガスによる熱電併給型廃棄物処理モデル」、バイオマスエネルギー地域自立システム化実証事業、ワークショップ2021、配布用資料、2021年3月18日
6)オリックス資源循環(株):公式Webサイト、2023年8月25日閲覧
7)栗田工業(株):2022年度脱炭素化・先導的廃棄物処理システム実証事業<乾式メタン発酵施設を活用したごみ処理広域化におけるエネルギー自立型中継施設の実証>委託業務成果報告書、2023年3月
8)株式会社大和三光製作所:公式Webサイト、タコロータリー乾燥機、2023年8月25日閲覧