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消費電力量と気温の関係(4)-2023年夏の異常高気温でも節電ができた理由とは?

 日本の2023年夏の気温は例年にも増して高くなり、「猛暑日」(最高気温が35℃を超える日)が続出しました。これまでの最高だった2010年の「猛暑日」日数を超えて観測史上最高を記録しました。平年との差では特に北海道や東北地方で顕著だったようです。

 また日本だけでなく、世界中の気温も上昇していたようです。気温が50℃を超える地域もあったことがテレビでも放送されていました。また、高気温の影響による山火事の被害や集中豪雨による洪水被害も多発しました。世界中で地球温暖化の影響が顕在化し、さらに悪化してきているという印象を受けます。

 その高気温の影響でエアコンはフル稼働状態になり、節電どころではないと感じた方も多いでしょう。このサイトは健やかな地球温暖化対策を追及しているので、健康を害してまで節電してはいけません。夜間に熱中症にかかる人も多く、夜間時もエアコンを止められないので消費電力は上昇します。

 しかし、このサイトでは2年前から省エネ対策の検討を行い、夏の高気温に備えた省エネ対策を実施してきました。ここでは省エネ対策前の2019年から2023年までの5年間の気温と消費電力量の比較分析を行って、省エネ効果を明らかにします。

 今回は特に今夏の日本の猛暑の状況を、気象データから明らかにしていきます。そして、これまで省エネのために機器の買い換えや内窓の施工などの対策を行ってきた効果を、気温の影響も考慮して分析しましたので報告します。

<本報告のコンテンツ>

2023年夏の気温の状況
(1)全国の気温
(2)東京の気温

気温と消費電力量の関係
(1)平均気温と世帯消費電力量の実績
(2)平均気温と世帯消費電力量の回帰分析
(3)気温補正による世帯消費電力量の比較
(4)平均気温とエアコンの消費電力量の関係

まとめ

2023年夏の気温の状況

(1)全国の気温

 気象庁の発表による日本の2023年夏(6月~8月)の気温の状況は以下の通りです1)

●北日本を中心に暖かい空気に覆われやすく、南から暖かい空気が流れ込みやすかったため、夏の平均気温は北・東・西日本でかなり高かった。1946年の統計開始以降、夏の平均気温は北日本と東日本で1位となった(全国の153の気象台等での観測値)。
●地球温暖化等の長期的な気候変動の監視に用いられる15地点の観測値による日本の平均気温偏差は+1.76℃となり、1898年の統計開始以降で最も高かった2010年(+1.08℃)を大きく上回り、夏として最も高かった。
●気象官署とアメダスを合わせた915 地点中、128 地点で日最高気温の高い方から、248 地点で日最低気温の高い方からの観測史上1 位を更新した。新潟県糸魚川では8 月10 日の最低気温が31.4℃となり、日最低気温の高い方からの歴代全国1位を更新した。

 この報告では日本中の各地で平均気温が観測史上1位を記録したこと、さらに最高気温が高くなったことと同時に、最低気温も高くなったことを示しています。これは、夜間時においても高温が続き、エアコンの稼働を停止できないことを意味します。

 気象庁の公表した資料より、全国の気温平年差と日照時間の平年比を図-1に示します2)。まず、夏季の平均気温の平年差(観測年の平均値との差)は北海道で3.0℃、東北で2.9℃でした。一方、沖縄は0.1℃、九州南部は0.3℃、四国は0.5℃とそれほど大きくはありません。

 東京を含む関東甲信は1.8℃であり北海道、東北と比べて大きくはありませんが、例年に比べて2℃近くの温度差があったということは、大変暑い夏であったことは間違いありません。

出所)気象庁:報道発表、夏(6~8月)の天候、2023年9月1日
図-1 2023年夏の気温の平年差、日照時間の平年比

 平均気温への影響要因の一つである日照時間を図-1の折線で示しています。図-1より東北、関東、北陸では日照時間の平年比が130%を超えており、東海、北海道でも110%以上でした。一方、四国、九州南部、沖縄でのそれは100%未満でした。気温の平年差が大きい地域では、日照時間が平年より長かったということができるでしょう。

 もちろん、これは高温をもたらした一つの要因であり、これがすべてではありません。北海道の日照時間の平年比が112%であるのに、気温の平年差が最大であることは説明しにくいです。気象庁の異常気象分析検討会ではこの高温の原因について図-2に示すように説明しています3)

出所)気象庁:報道発表、2023年梅雨期の大雨事例と7月後半以降の顕著な高温の特徴と要因について(異常気象分析検討会の分析結果の概要)、2023年8月28日
図-2 2023年7月後半以降の高温の原因となる気象条件

 まず、原因の基礎的要因として、地球温暖化の影響により全球的に気温と海水温が高いことが挙げられます。その影響により南太平洋で台風を含む活発な積雲対流活動域が北西進し、上層の亜熱帯ジェット気流が北に移動して、暖かい高気圧が日本を覆ったことが直接的な要因としています。

 このジェット気流の北偏はヨーロッパ・地中海方面でのジェット気流の蛇行も影響したと考えられています。さらに北日本の高温は近海の海水温が記録的に高かったことも挙げられます。このように、地球温暖化による気温、海水温の上昇が影響して様々な要因が重なって今夏の異常高温が生じたと考えられています。

(2)東京の気温

 気象庁が公表している気象データベースから過去5年間の東京地点の夏季の気温を整理しました。1日の平均、最高、最低気温について、夏季(6月~8月)の92日間の平均値を比較した結果を図-3に示しています4)。2023年の東京の夏季の気温はいずれも5年間で最大となっています。

出所)気象庁:公式Webサイト、各種データ・資料、過去の気象データ検索、2023年9月3日閲覧
図-3 過去5年間の夏季の平均、最高、最低気温の平均値(東京地点)

 特に最高気温は前年よりも1.4℃過去4年間の平均(29.7℃)よりも2.2℃も高くなっており、気温の上昇が目立つ近年の中でも際立って気温が高かったことが分かります。それを裏付けるのが、図-4に示す猛暑日の日数です5)

 猛暑日とは最高気温が35℃以上の日を指します。観測開始年の1876年以降、猛暑日の日数は増加傾向にありますが、2023年は8月末までに22日を記録しました。これまでに最も多かった昨年の16日を超えており、9月に猛暑日が記録されればさらにこの数値は上がります。

出所)気象庁:公式Webサイト、大都市における猛暑日日数の長期変化傾向、2023年9月3日閲覧
図-4 観測開始以来の猛暑日日数の推移(東京地点)

 一方、真夏日(最高気温が30℃以上の日)は68日(8月末まで)とこれまでの中では第3位(1位は71日)ですが、9月も真夏日は続くとみられていますので、最大を超える可能性が大きいです。なお、東京での最高気温の最大値は37.7℃でした。この気温は気象台の百葉箱での観測値ですので、アスファルト上の日光の当たる場所ではこれより数℃高いことが想定され、命の危険が叫ばれるのもうなずけます。

気温と消費電力量の関係

(1)平均気温と世帯消費電力量の実績

 まず、過去5年間の平均気温と世帯全体の消費電力量を整理します。消費電力のデータはこれまで取り上げてきたX氏宅のデータです。家族数は2人で3LDKの間取りの集合住宅に住んでいます。

 消費電力量は日々の生活行動により影響を受け、大きく変動します。具体的には外出や家電機器などの不定期の稼働による気温の変化とは関係ない変動です。そこで、その変動を平滑化するために半旬単位の平均値をもとに分析します。

 ここで、「半旬」とは連続する5日のことを言いますが、正確には5日と6日の場合があります。1か月は30日(6月)と31日(7月、8月)があり、31日の場合は第6半旬は5日ではなく6日となります。

 平均気温について半旬の平均値を算定した結果を表-1と図-5に示します。図-5から分かるように6月は概ね20℃から25℃の範囲、7月は20℃から30度の範囲、8月は25℃から30℃の範囲で推移しています。一般的に8月が最も高気温となり、7月は変動の大きな月になっています。

 しかし、2022年は特異な年で6月第6半旬が最も高くなっています。この高温が電力需給の逼迫に影響したことは既に報告しています。そして、2023年は7月第2半旬から高気温となり、7月第4、第6半旬で30℃を超え、7月、8月を通して高い気温が継続的に続いていることが特徴です。

表-1 東京地点の過去5年間の平均気温の半旬平均値

 月半旬順位20192020202120222023
 6月第1半旬22.222.821.521.321.4
第2半旬20.124.223.718.221.8
第3半旬19.32423.119.722.3
第4半旬23.622.622.023.024.4
第5半旬21.921.222.826.022.8
第6半旬23.524.423.029.726.5
 7月第1半旬23.224.721.328.325.9
第2半旬20.225.424.926.328.3
第3半旬21.223.425.525.128.9
第4半旬24.622.328.226.730.2
第5半旬25.425.028.428.528.1
第6半旬28.824.926.929.130.5
 8月第1半旬29.927.429.028.429.4
第2半旬30.129.128.428.829.2
第3半旬29.230.323.928.228.8
第4半旬28.830.225.727.829.7
第5半旬26.528.028.026.929.4
第6半旬26.429.429.225.528.9
出所)気象庁:公式Webサイト、過去の気象データ検索、東京地点、2023年9月4日閲覧
出所)気象庁:公式Webサイト、過去の気象データ検索、東京地点、2023年9月4日閲覧
図-5 過去5年間の1日平均気温の半旬平均値

 次に、X氏宅の世帯全体の消費電力量を表-2と図-6に示します。2019年の8月第4半旬と第5半旬は長期的な旅行のためデータは欠測としています。2022年と2023年はデマンドレスポンスに参加して節電していますが、蓄電池の使用の影響を除いた消費電力量に修正しています。

表-2 過去5年間の消費電力量の半旬平均値 (単位:kWh/日)

 月半旬順位20192020202120222023
6月第1半旬16.312.78.46.26.0
第2半旬12.815.58.16.45.9
第3半旬9.516.48.96.06.4
第4半旬11.114.76.37.16.3
第5半旬14.314.27.68.96.2
第6半旬13.013.38.79.79.8
7月第1半旬14.415.27.811.57.0
第2半旬14.716.68.111.08.5
第3半旬14.417.09.711.78.9
第4半旬16.615.212.511.59.8
第5半旬15.017.712.59.78.2
第6半旬16.816.313.012.910.0
8月第1半旬18.417.115.214.410.9
第2半旬22.119.613.612.211.1
第3半旬20.422.612.312.09.7
第4半旬18.412.110.410.8
第5半旬19.612.18.310.7
第6半旬16.822.711.47.18.8
注)2019年8月第4半旬と第5半旬は長期不在によりデータ欠測。デマンドレスポンスの節電要請期間は蓄電池からの給電量を考慮して消費電力量に修正。
出所)東京ガス:公式Webサイト、myTOKYOGAS、電気使用量
注)2019年8月第4半旬と第5半旬は長期不在によりデータ欠測。
出所)東京ガス:公式Webサイト、myTOKYOGAS、電気使用量
図-6 過去5年間の消費電力量の半旬平均値

 図-6より節電対策を行っていない2019年と2020年の消費電力量は6月、7月は15kWh/日、8月は20kWhを超える場合もありました。それに対して2021年以降は6月は10kWh/日以下、7月、8月でも15kWh/日以下と少なくなっていることが分かります。

 この消費電力量の夏季(6月~8月)における合計値(総消費電力量)とその1日平均値を表-3に示します。総消費電力量は2019/2020年に対する比率、1日平均値は前年との差についても示しています。また同表では、各年における節電対策についても示しています(2019/2020年の消費電力量はデータ欠測がない2020年の値)。

表-3 節電対策の消費電力量への影響

 項 目2019/2020年2021年2022年2023年
節電対策節電対策なしエアコン、冷蔵庫、
洗浄便座、照明の
省エネ型への買換え
テレビの明度調節
洗濯乾燥機の天日
干し後の使用
内窓の施工、エアコン
のAI自動運転
消費
電力量
(kWh)
3か月合計注1)1,562.2965.6904.1793.9
上記の変化率注2)1.000.620.580.51
1日平均17.010.59.88.6
上記の前年差注3)-6.5 -0.7 -1.2
注1)2019/2020年の消費電力量は、データ欠測のない2020年のデータを採用。
注2)「上記の変化率」とは各年の3か月合計消費電力量の2019/2020年の値に対する比率。
注3)「上記の前年差」とは、各年の1日平均消費電力量の前年の値との差、例えば(2022年-2021年)など。

 節電対策については、2019年と2020年は一切節電対策を行っていません。2021年は冷蔵庫、エアコン、洗浄便座、LED照明を省エネ型に買い換えており、効率的な機器による省エネが可能となっています。

 2022年は節電行動としてテレビの明度の変更(40%程度の節電)、洗濯乾燥機での節電(40%程度の節電)を行っています。さらに2023年は内窓の施工とエアコンのAI自動運転を行っており、その影響があると考えられます。

 この結果、総消費電力量は2019/2020年から減少していき、2023年には当初の半分程度にまで減少していることが分かります。また、1日平均値では当初は17kWh/日であったものが2023年には8.4kWh/日(17.0-8.6)節電できていることが分かります。

 また、前年度との比較から2021年は6.5kWh、2022年は0.7kWh、2023年は1.2kWhの節電ができていることが分かります。ただし、これは気温の影響が大きいので次節以降でその補正を行った節電量を把握していきます。

(2)平均気温と世帯消費電力量の回帰分析

 上記で比較した各年の消費電力量は平均気温が異なる条件でのものでした。実際は2023年の平均気温が高いため、消費電力量の差はより大きいものと考えられます。そこで気温と消費電力量の関係を分析するため、回帰分析を行いました。

 その結果を表-4と図-7に示します。表-4には回帰式とその決定係数、統計的な有意性を示しています。これらの回帰式は全て危険率1%で有意です。これは統計用語で「この式は意味がない」という確率が1%以下であることを意味し、有意性は高いと言えます。Xの値に平均気温を入力すると消費電力量が算定されます。

 まず、4種の回帰式を見て注目すべきは直線の傾きが徐々に低下していることです。これは気温の上昇に対する消費電力量の上昇の影響が少なくなっていることを意味します。消費電力量の気温上昇による影響を少なくできることになります。

表-4 気温と消費電力量の回帰分析結果

2019/2020年2021年2022年2023年
回帰式0.7943x - 3.62450.7796x - 9.27170.5868x - 5.41640.5390x - 5.9500
データ数34181818
決定係数0.7020.7120.5990.806
統計的有意性危険率1%有意危険率1%有意危険率1%有意危険率1%有意
注)2019/2020年は2年分データをまとめて回帰式を作成。Xに2023年の平均気温を入力することで、2023年の温度の場合の消費電力量を推計できる。危険率1%有意とは、「回帰式が意味がない」とする確率が1%以下であることを意味します。
図-7 平均気温と消費電力量の関係

 図-7から2021年と2019/2020年の差より省エネ型機器に買い換えたことにより5kWh以上の節電ができたことが分かります。また、2022年の傾向より省エネ行動による節電はそれほど大きな効果ではありませんが、1kWh程度の節電となっています。

 2023年の消費電力量はさらに減少しています。これは、内窓の影響とエアコンの省エネ運転の影響が出ています。特に高気温である30℃を超えた日でも消費電力量は10kWh/日程度となっているのは内窓の効果が大きいと考えられます。

 また図-7の2022年と2023年の差から、内窓の施工については、2kWh程度(エアコンの省エネ運転の影響を含みます)の省エネ効果があることが見て取れます。

(3)気温補正による世帯消費電力量の比較

 ここでは各年の消費電力量について、上記で作成した気温による消費電力量の回帰式を用いて気温補正を行った値で比較をします。表-4に示した回帰式のXの値に2023年の平均気温を入力して計算したものが気温補正値です。

表-5 気温補正による消費電力量の比較

 項 目2019/2020年 2021年  2022年  2023年 
気温補正後
の消費電力量
(kWh)
3か月合計1,5701,088964794
上記の変化率注1)1.000.690.610.51
1日平均17.111.810.58.6
上記の前年差注2)-5.2 -1.4 -1.9
注1)「上記の変化率」とは各年の3か月合計消費電力量の2019/2020年の値に対する比率。
注2)「上記の前年差」とは、各年の1日平均消費電力量の前年の値との差、例えば(2022年-2021年)など。

 総消費電力量の気温補正値と実測値を比較して示したものが図-8です。各年の気温補正による総消費電力量は実測値よりも大きくなっています。これは2023年の平均気温が他の年よりも高かったことを意味しています。

注)総消費電力量は6月~8月の3か月分の消費電力量の総和。
図-8 総消費電力量の実績値と気温補正値の比較

 具体的には、気温補正値は実測値に対して2021年は13%増(1,088/966)、2022年は7%増(964/904)でした。そして、各年の総消費電力量の気温補正値を比較すると、2021年は2019/2020年の0.69、2022年は当初の0.61、2023年は0.51となっています。

 また表-5の1日平均消費電力量の前年との比較により、2021年は5.2kWh、2022年は1.4kWh、2023年は1.9kWhの節電ができていることが分かります。これは表-3の気温補正を行う前と少し異なっていますが、図-7から解釈した節電傾向と一致しており、気温補正値の方がより実態を表していると判断することができます。

 このように省エネ対策を行ってきたおかげで、2023年の高気温でも消費電力量を低減させることができたことが分かりました。特に、消費電力量が何も対策をしていなかった2019年、2020年の半分程度になっており、各年の対策が着実に省エネの効果をあげていることもわかりました。

(4)平均気温とエアコンの消費電力量の関係

 これまでの分析は世帯の全消費電力量を対象とした気温との関係でした。ここでは、エアコンの消費電力量と気温の関係を分析します。このエアコンはリビングに設置してある大型のエアコンです。エアコンの機種はダイキン工業AN40ZRBKP-Wであり、冷房定格エネルギー消費効率(冷房COP)が5.0の製品です。

 2022年と2023年の2年間は同じエアコンを使用しており、この2年の比較を行います。表-3に示した通り、2022年と2023年では内窓の施工とエアコンの運転方法が異なっており、その相違が消費電力量に影響します。

 エアコンの冷房時の消費電力量と平均気温の推移を図-9(2022年)、図-10(2023年)に示します。同図ではエアコンを稼働し始めた7月と8月の外出した日を除いたデータを示しています。この2年間のうち、2022年の運転モードは「冷房」モードを、2023年は「AI快適自動」モードを使用しています。また、運転時間は24時間です。

 この「AI快適自動」モードはこのモードに設定する前の運転を学習して、それをもとにAIが快適な運転を自動で行うものです。また、2022年は運転開始時期のため試行錯誤を行っており、設定温度などを変更(28℃をベースに変更)していますが、2023年は28℃で統一しています。

注)気温はエアコンの設置してある居室の屋外の気温(気象台の気温ではない)
図-9 エアコンの消費電力量と平均気温の推移(2022年)
注)気温はエアコンの設置してある居室の屋外の気温(気象台の気温ではない)
図-10 エアコンの消費電力量と平均気温の推移(2023年)

  そのため、2022年は消費電力量は大きく変動しています。これはエアコンの最適な運転方法が分からず、いろいろな運転操作を試しているためです。一方、2023年は消費電力量の変動は少なく、平均気温の変動に合わせて消費電力量も変動しているように見えます。

 次に、エアコンの消費電力量と平均気温の関係を示したものを図-11に示します。図中に示した回帰式の決定係数(R2)は0.155と0.324とあまり大きくはありませんが、統計的にはどちらも危険率1%で有意でした(回帰分析の結果は表-6参照)。

 これらの回帰式が統計的に有意であることを前提に、図-11の2つの回帰式をみると、どちらも傾きは0.3程度です。このことから、平均気温が1℃上昇すると消費電力量は概ね0.3kWh/日増加するということがわかります。そして、2022年と2023年では概ね2kWhの差があると解釈できます。

図-11 エアコンの消費電力量と気温の関係

 世帯全体の消費電力量でも示したように、2022年と2023年の平均気温は異なっています。そこで、作成した回帰式を用いて平均気温が同じ場合のエアコンの消費電力量の差異を比較してみたいと思います。

 平均気温と消費電力量の回帰分析の結果を表-6に示します。統計的な有意性の検討結果は前述した通りです。データ数が異なっており(外出等の日数が異なるため)、単純にこの期間の総消費電力量を比較できません。そのため、この期間の平均気温に対する1日の消費電力量を比較することにします。

 表-6に示すように、採用データにおける2022年の1日平均気温の平均は29.9℃、2023年のそれは31.2℃でした。その気温差は1.3℃であり、図-3に示した東京地点の1.1℃と類似したものとなっています。

 また、採用したデータにおけるエアコンの消費電力量の平均値は2022年が6.0kWh/日、2023年が4.4kWh/日であり、その差は-1.6kWh/日でした。そこで作成した回帰式に2023年の平均気温を入力して消費電力量を計算すると、6.5kWh/日となり、2023年との差は-2.1kWhとなりました。これは図-11から把握した節電量と類似した結果となっており、気温補正が有効であることが分かります。

表-6 気温補正によるエアコンの消費電力量

     項 目2022年2023年  差異  
回帰分析回帰式0.3189x - 3.5000.3133x - 5.344
データ数5751
決定係数0.1550.324
統計的有意性危険率1%で有意危険率1%で有意
採用データでの平均気温の平均(℃)29.931.21.3
採用データでの消費電力量の平均(kWh/日)6.04.4-1.6
2023年気温補正による消費電力量(kWh/日)6.54.4-2.1
注)外出などの特異日はデータに採用していません。危険率1%有意とは「回帰式が意味がない」とする確率が1%以下であることを意味します。

 図-11のデータの変動は、エアコンの消費電力量は気温以外に相対湿度や日射量などの影響を受けることによります。特に日射量は壁を温め、その蓄熱されたものが夜間時に排出されて夜間時の消費電力量に影響を与えることが分かっています。これらの詳細については、以下をご確認ください。

 ●相対湿度の影響:エアコン(11)-冷房時の省エネ運転
 ●日射量の影響:エアコン(13)-冷房負荷の低減(2)

 また、エアコンの運転方法と気象条件(日射量と気温)を統一した消費電力量の比較については、以下の記事に記載してありますので参考にしてください。

 ●エアコンの運転方法と気象条件を統一した消費電力量の比較:
 「内窓は暖房時に比べて冷房時の省エネ効果が大きいことを実測で確認した!」

 ところで、表-4に示した2023年の回帰式の傾きは0.5程度となっています。この時の消費電力量は世帯全体のものであり、このエアコン以外に他の部屋にある2台のエアコンと様々な家電機器の消費電力量が含まれます。

 冷蔵庫も外気温が上がると消費電力量が上がることが想定されるため、エアコンが稼働していない時期でも気温の影響はあるものと考えられます。冷蔵庫も買い換えしていますので、その省エネ効果が出ている可能性があります。

 このように、夏季の高温に備えて家電機器の省エネタイプへの買い換えは重要になります。エアコンや冷蔵庫はもちろん、テレビや照明などの発熱体の冷房負荷への影響もあるので、もう一度自宅の家電の点検をしておくことが有効です。

まとめ

 今回は2023年夏において、日本の多くの地域で平均気温、最高気温、最低気温が観測史上高い方で1位を記録しており、その高気温が地球温暖化によって引き起こされた様々な気象要因によって生じていることを気象庁の資料によって説明しました。

 そして、2023年夏季の高気温においても、2年前から省エネ対策を実施してきたことによって、消費電力量を減らすことができたことを確認しました。また、消費電力量と気温の回帰式より、この5年間の省エネ対策が気温の影響を小さくしていることを明らかにしました。

 5年間の消費電力量の変化より、気温の影響も考慮して省エネ対策の効果を定量化した結果は以下の通りです。エアコン、冷蔵庫、照明等の省エネ型への買い換えで約5kWh/日、テレビの明度低減などの省エネ行動で約1kWh/日、内窓の設置とエアコンの省エネ運転で約2kWh/日が節電できたと推計されました。

 また、リビングに設置したエアコンの消費電力量の実測データをもとに、内窓の設置と省エネ運転の効果を分析しました。その結果、これらの省エネ対策により概ね2kWh/日の省エネ効果が定量化され、世帯全体の消費電力量の分析結果と一致していました。

 2023年夏のような高気温は地球温暖化の進行が続く以上、避けることはできないと思われます。今後も夏季には同様の高気温の日が発生すると考えてよいでしょう。猛暑日がさらに増え、夜間時の最低気温も増加していくためエアコンの消費電力量も増加していくでしょう。

 地球温暖化を防止するうえで化石燃料の消費を少しでも減らすことを目的に家庭での省エネ対策を検討してきましたが、エネルギー消費効率の高い機器への買い換えに加えて、内窓設置の有効性が確認されました。これをもとに今後も省エネによる二酸化炭素排出削減を推進していきたいと思います。

 これまでの報告において、建材の断熱性や冷房負荷の低減対策なども分析してきましたが、これからも続く高気温に備えて、これらの検討結果も踏まえて実際の対策を検討してみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
1)気象庁:報道発表、夏(6~8月)の天候、2023年9月1日
2)気象庁:報道発表、夏(6~8月)の天候、別紙、2023年9月1日
3)気象庁:報道発表、令和5年梅雨期の大雨事例と7月後半以降の顕著な高温の特徴と要因について(異常気象分析検討会の分析結果の概要)、2023年8月28日
4)気象庁:公式Webサイト、過去の気象データ検索、2023年9月4日閲覧
5)気象庁:公式Webサイト、大都市における猛暑日日数の長期変化傾向、2023年9月4日閲覧