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ライフサイクル全体のGHG排出量の分析(1)-テレビと照明

 これまで家電機器のエネルギー消費の削減が温室効果ガス(GHG)排出量を削減することにつながると考え、省エネ型の機器や省エネ対策を推奨してきました。しかし、家電機器は使用時だけでなく、製造時や廃棄時にもエネルギーを消費し、GHGを排出しています。

 そのため、使用時よりも製造、廃棄時に多量にGHGを排出していないかチェックする必要があります。近年の家電機器は半導体を使ってIoT機能を付加したものが増えてきており、その素材の採掘・精練や部品の製造、製品組立についてもエネルギーを要するものが多いと思われます。

 このような製品のライフサイクル全体に渡るGHGの排出を評価する方法をLCA(Life Cycle Assessment)と言います。LCAはGHGのみでなく環境負荷全般を対象とし、GHGのみの排出を評価する場合はLCCO2とされますが、ここではGHG排出を評価する意味で使います。

 ここでは、これまで取り上げてきた家電機器や熱利用機器を対象に、ライフサイクル全体におけるGHG排出を分析したLCAの事例を取りまとめます。その結果より、ライフサイクル全体のGHG削減に関する対策をより深く分析していく予定です。今回はテレビと照明を取り上げます。テレビのLCAは既に「テレビの省エネ対策」で記載していますが、照明のLCAはオリジナルです。

<本投稿のコンテンツ>

テレビのLCA分析の事例
(1) LCAの分析方法
(2) LCAの分析結果
(3) 製造時と使用時の二酸化炭素排出量の比較

照明のLCA分析の事例
(1)LCAの分析方法
(2)LCAの分析結果
(3)積み上げ法によるLCA事例

まとめ

テレビのLCA分析の事例

(1)LCAの分析方法

 テレビのLCA分析を行った事例を以下に紹介します1)。この分析では製造時と使用時のLCAを行っており、廃棄時は評価していません。比較の対象はブラウン管テレビ(CRT)と液晶テレビ(LCD)の2種類のテレビで、CRTは15インチのみLCDは15インチと32インチの2種を比較しています。

 これらのテレビを分解して素材、部品を取り出し、その資源の採掘から製造に至るGHG(ここでは二酸化炭素)排出量を推計します。その算定方法は以下の通り各部品の重量に二酸化炭素排出原単位を乗じて合算する積み上げ法を採用しています。この原単位は国立環境研究所環境負荷原単位データベース「3EID」を使用しています。

 部品、素材の製造時の二酸化炭素排出量(kg-CO2)=部品、素材の重量(kg)×二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg)

 対象となるテレビの重量とその構成部品の重量割合を表-1に示します。重量はCRT15は12.01kg、LCD15は5.29kg、LCD32は22.25kgでした。LCD15はCRT15の約1/2、LCD32はLCD15の約4倍の重量となっています。

表-1 対象テレビの重量と主要な素材、部品の重量割合

  テレビの種類   重量(kg)  主要な素材、部品の重量割合
CRT15
ブラウン管、15インチ
12.01CRTユニット(65%)、ABS樹脂(15%)、ガラス(7~8%)、基板(5%)
LCD15
液晶、15インチ
5.29ステンレス鋼板(約4割)、ABS樹脂(約2割)、液晶モジュール(1.5割)、基板(1割)
LCD32
液晶、32インチ
22.25ステンレス鋼板(約6割)、ABS樹脂(約1.5割)、液晶モジュール(7~8%)、基板(約7~8%)
注)素材、部品の重量割合は文献のグラフより読みとった値です。
出所)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月

 また、CRTの素材、部品はCRTユニットとABS樹脂、ガラスで9割程度を占め、基板は5%程度となっています。一方LCDはステンレス鋼板、ABS樹脂、液晶モジュールで8割以上を占め、基板は1割程度でした。

 次に、テレビの主要な素材、部品の二酸化炭素排出原単位を図-1に示します。この原単位が大きいのは基板、液晶モジュール、トランジスタ、抵抗器などの部品です。一方、ガラス、CRTユニット、アクリル板、ABS樹脂、ステンレス鋼板などは小さな値となっています。

出所)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月
図-1 テレビの素材、部品の二酸化炭素排出原単位

 また、製品の使用時はテレビの定格消費電力に使用時間を乗じます。使用年数は8年1日の使用時間を4.5時間(省エネ法による)と3.3時間(2005年国民生活時間調査報告書、NHK放送文化研究所)を仮定して計算しています。

(2)LCAの分析結果

 これらの基礎データをもとに、テレビの二酸化炭素排出量を計算した結果を図-2に示します。図-2で使用時の二酸化炭素排出量の計算における1日使用時間はModel1は4.5時間、Model2は3.3時間で、8年間使用した計算結果を示しています。

出所)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月
図-2 テレビの製造時、使用時の二酸化炭素排出量

 まず、テレビの製造時と使用時を合計した二酸化炭素排出量は、Model1ではCRT15、LCD15、LCD32の順に512.2、299.9、1200.2kg-CO2となっています。LCD15はCRT15の約6割、LCD32はCRT15の約2.3倍となっています。

 また、製造時の二酸化炭素排出量はそれぞれ70.3、85.0、246kg-CO2となっています。LCD15はCRT15の重量の半分でありながら、その製造時の二酸化炭素排出量はCRT15よりわずかに大きくなっています。これは図-1に示したように液晶モジュールの二酸化炭素排出量原単位が大きいためです。

 LCD15とLCD32を比較するとLCD32は重量が4倍以上ですが製造時の二酸化炭素排出量は3倍程度です。これはLCD15とLCD32の製造時の重量当り二酸化炭素排出量はそれぞれ16.1、11.1kg-CO2/kgと、LCD32が大きく低減していることからも分かります。これは表-1より、画面サイズが大きくなると二酸化炭素排出原単位が大きい液晶モジュールと基板の重量割合が減少したためです。

 一方、使用時の二酸化炭素排出量はLCD15はCRT15の半分以下であり、LCD32はLCD15の4.4倍となっています。CRT15からLCD15への買い替えによって使用時の二酸化炭素排出量が減りますが、LCD32に買い替えると2倍以上の二酸化炭素排出量になってしまうことが分かります。テレビがCRTからLCDに移行していく過程で大型化が進んだことによって、製造時及び使用時の二酸化炭素排出量が増加した可能性があります。

(3)製造時と使用時の二酸化炭素排出量の比較

 次に、製造時と使用時の二酸化炭素排出量を比較します。CRT15の「使用時/製造時」はModel1は6.3、Model2では4.8です。LCD15のそれはModel1は2.5、Model2では2.0です。このことは、LCDの方が製造時の二酸化炭素排出量の割合が高く、製品を選ぶときに特に注意を要することが分かります。

 製品の購入後の二酸化炭素排出量の時間変化を示すと図-3の通りです。図-3では、CRT15、LCD15、LCD32について、テレビの視聴時間をModel2で計算したものを示します。CRT15は購入時点ではLCD15よりも少ないですが、1年後には逆転して大きくなり、その後大きな差が開いていくことが分かります。

図-3 時間の経過による二酸化炭素排出量の変化

 LCDもCRTも製造時の二酸化炭素排出量は現時点においては使用時のそれに比べて小さいものであり、それほど気にしなくても良いものです。しかし、電気の脱炭素化が進んでいく過程では、製造時の二酸化炭素排出量にも留意することが必要になるでしょう。

 一方、LCD32は製造時も大きな二酸化炭素排出量であり、使用時も大きな排出量であるため、その差は大きく開いていきます。大型化によって製造時の重量当り二酸化炭素排出量が低減していくとは言っても、使用時の消費電力量の増加によって二酸化炭素排出量は増加していくので、画面の大型化については注意したほうがよさそうです。

 次に、この製造時の二酸化炭素排出量の重要性をより分かりやすくするために図-4を作成しました。これは、テレビの使用年数による年間平均の二酸化炭素排出量を示したものです。この図より使用年数が長い方が年間平均の二酸化炭素排出量は低減していきます。これは製造時の二酸化炭素排出の影響が少なくなることを意味しています。

図-4 テレビの使用年数による年平均二酸化炭素排出量

 もし、1年未満でテレビを買い替えた場合はLCDよりもCRTの方が少ない二酸化炭素排出量(年平均値)で済むことになります。製造時の二酸化炭素排出量が大きいほどこの逆転する使用年数は長くなります。従って、買い替えのタイミングは製造時の二酸化炭素排出量とエネルギー使用量(エネルギー効率)に依存することが分かります。

 なお、本論文は2010年に発表されたものであり、電源構成が現状と異なるため電力の二酸化炭素排出係数は現状と異なる可能性があります(論文中には明記されていません)。また、各種の素材、部品の二酸化炭素排出原単位も改善されている可能性はありますので、この結論は研究時点のものであることを考慮してください。ただし、今回の結論が大きく異なることはないと思われます。

照明のLCA分析の事例

(1)LCAの分析方法

 ここでは白熱電球、蛍光灯、LED照明について分析します。これらの機器の全光束、重量、耐久時間(寿命)、消費電力と製造時及び廃棄時における二酸化炭素排出原単位を表-2に示します。表-2の機器の諸元は白熱電球については参考文献3、他の機器はパナソニックの最新の製品仕様によります。

 算定を簡便化するために、製造及び廃棄段階での二酸化炭素排出量の算出方法は、「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」(環境省)における原単位を使用します2)

表-2 照明機器の諸元と二酸化炭素排出原単位

照明器具全光束
(lm)
重量
(kg)
耐久時間
(hr)
消費電力
(W)
製造時CO2
排出原単位
(kg-CO2/千円)
廃棄時CO2
排出原単位
(kg-CO2/kg)
価格
(円)
電球白熱電球8000.0232,00060.02.670.047520
電球型蛍光灯7500.06010,00011.02.670.047800
LED電球8100.07740,0007.42.670.0472,600
照明器具丸型蛍光灯4,5800.37620,00058.03.140.0472,400
LED照明5,5002.70040,00034.43.140.04738,000
注)白熱電球の諸元は下記論文による。他の電球、照明器具の諸元はパナソニック社の製品情報による(2023年10月24日閲覧)。電球と照明器具の二酸化炭素排出原単位は「環境省、サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」による。製品の価格は価格コムから平均的な価格を使用。
出所)田畑智博、文多美:家庭用照明のLED照明への切り替えに伴うCO2削減コストの試算、第6回LCA学会発表会講演要旨集、2011年3月

 まず、製造時は製品の価格当り排出原単位を用い電球は2.67 kg-CO2/千円、照明器具は3.14kg-CO2/千円です。また廃棄時はどの機器も埋め立てを想定し、埋立時の重量当り排出原単位である0.047 kg-CO2/kgを用います。製品の価格は価格コムにおける平均的な価格を採用しています。

 また、使用段階では各商品の消費電力量に、系統電力平均値の排出原単位を乗じます。ここでは現在の日本の平均的な電力の二酸化炭素排出係数である0.44 kg-CO2/kWhを用います。

 また、各機種の条件を統一するため、全光束はほぼ同一と見なし使用時間を40,000時間に統一して照明機器の比較を行います。そのため白熱電球と電球型蛍光灯は40,000時間を点灯させるためそれぞれ20個、4個分の製品を使用します。また、照明器具については丸型蛍光灯を2個使用します。

(2)LCA分析結果

 上記の分析方法を用いて計算した結果を表-3に示します。この結果、製造、使用時、廃棄時の合計の二酸化炭素排出量は白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球の順に1,084kg-CO2、202 kg-CO2、137 kg-CO2であり、白熱電球はLEDの約8倍、蛍光灯はLEDの1.5倍です。

 また、照明器具の製造、使用時、廃棄時の二酸化炭素排出量は、丸型蛍光灯は1,036 kg-CO2、LED照明は725 kg-CO2となっており、蛍光灯はLED照明の1.4倍となっています。

表-3 条件を統一した照明機器のLCA分析結果

照明機器製造・廃棄時二酸化
炭素排出量(kg-CO2
使用時二酸化
炭素排出量(kg-CO2)
 合 計 
(kg-CO2)
製造廃棄の
割合(%)
電球白熱電球27.81,056.01,083.82.57
電球型蛍光灯8.6193.6202.24.25
LED電球6.9130.2137.15.03
照明器具丸型蛍光灯15.11,020.81,035.91.46
LED照明119.4605.4724.816.47
注)電球の全光束を約800lm、耐久時間40,000時間とし、照明器具の全光束を約5,000lm、耐久時間を40,000時間として計算。製造・廃棄時の二酸化炭素排出原単位は表-7より、電力の二酸化炭素排出係数は0.44kg-CO2/kWhを使用。

 次に、それぞれの機器の製造・廃棄時と使用時の二酸化炭素排出量を比較したものを図-5に示します。ほとんどの機器の製造・廃棄時のそれは小さいですが、LED照明器具は比較的大きな119 kg-CO2でとなっています。表-3の最右欄に全二酸化炭素排出量に対する製造時の割合を示していますが、LED照明の製造・廃棄時の二酸化炭素排出量は16%を占めています。

図-5 照明機器のライフサイクルの二酸化炭素排出量

 これは、丸型蛍光灯が蛍光灯の製造だけのものに対して、LED照明は照明器具とLEDランプの両方を含むためと思われます。ただし、今回利用した環境省の二酸化炭素排出原単位が価格当りのものであるため、LED照明の価格が非常に高額であることが原因している可能性もあります。そのため、価格当り原単位ではない別の方法で算定した事例を整理することにします。

(3)積み上げ法によるLCA事例

 海外の文献でより詳細な方法で製造時と使用時の二酸化炭素排出量を算定した事例を紹介します4)。これはドイツの家電製品の製造企業が自社製品のLCAを行ったものです。この文献では機器に使われた素材や部品を整理し、それらの製造過程で使用された一次エネルギーをもとに二酸化炭素排出量を算定しています。

 この分析においては、素材の発掘、精製、輸送、部品の製造、製品の加工、販売までを、生産地を特定して積み上げによる一次エネルギーを算定しています。主な部品の製造と組立は中国、使用はヨーロッパです。分析の対象は白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球の3種であり、それを構成する素材と部品を表-4に示します。

 表-4で、ベースは口金の部分、充填材とは電球内で光に変える部品全体を言います。LED電球の「電球」におけるヒートシンクはLEDから発する熱を吸収するアルミ製の素材を指します。充填材のゴールデンドラゴンプラスは製品名と思われます。

表-4 分析対象の照明器具の構成素材、部品

分 類    GLS       CFL      LEDランプ 
ベース口金
ベースセメント
はんだ
電気接点
ベースセメント
カバー (上部+底部)
のり/はんだ
口金
電子安定器
口金
コンタクトプレート
プラスチックスリーブ
アルミ板
電子安定器
電 球ガラスガラス電球材
ヒートシンク
充填材ゲッター
フィラメント
ワイヤー(サポート+鉛)
エキゾーストチューブ
フレア
充填ガス
コーティング
フレーム(電極コイル、発光材料、
焼結ガラスパール、ワイヤ)
チューブ(ステム+排気)
鉄ペレットと水銀
ゴールデンドラゴンプラス
(LEDチップ:蛍光体、基板、
はんだ、金属反射板、
InGaN量子井戸)
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009

 それぞれの照明機器の諸元(全光束、消費電力、耐久時間)と構成された素材、部品からその製造に要した一次エネルギーを表-5に示します。照明機器別の耐久時間は白熱電球1,000時間、蛍光灯10,000時間、LED電球25,000時間であり、条件を合わせるために表-5に示すように白熱電球は25個、蛍光灯は2.5個分の製造、廃棄時の二酸化炭素排出量を算定します。

表-5 分析対象の照明器具の諸元と製造時の一次エネルギー消費量

照明機器全光束
(lm)
消費電力
(W)
耐久時間
(時間)
個数
(個)
1次エネルギー消費量
(kWh)
白熱電球 GLS345~420401,0002515.3
電球型蛍光灯 CFL810,0002.510.2
LED電球 LED825,00019.9
注)白熱電球(GLS classic A)、電球型蛍光灯(DULUX Superstar classic A)、LED電球(Parathom A55 with Golden Dragon LEDs)
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009

 図-6に照明器具の製造に要する一次エネルギーの消費量(耐久時間25,000時間分の個数を乗じたもの)の内訳を示します。白熱電球は15.3kWh(1個当り0.61kWh)、蛍光灯10.2kWh(1個当り4.1kWh)、LED電球は9.9kWhです。LEDは1個当りの一次エネルギー消費量は大きいですが、耐久時間を考慮すると逆転することが分かります。

 それぞれの内訳は、白熱電球は充填材(フィラメントなど)の割合が大きいですが、蛍光灯はベースの割合が高く、LED電球は電球部分に多くのエネルギーを要しています。LED電球の電球部分が大きいのはアルミニウムで作られたヒートシンクという熱を吸収する部品が含まれているためです。

出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009
図-6 分析対象の3種の電球の諸元と製造時の一次エネルギー消費量

 これらの結果より、それぞれの照明の二酸化炭素排出量を算定した結果を表-6及び図-7に示します。製造時の二酸化炭素排出量は2.2から3.5kg-CO2と大きな差はありませんが、使用時のそれは白熱電球が564 kg-CO2、蛍光灯とLEDが同じく113 kg-CO2となっています。この製品の製造企業では蛍光灯とLEDの消費電力が同じ8Wであるため(2009年当時)、使用時の二酸化炭素排出量は同じ結果となっています。

表-6 素材、部品の積み上げ法によるLCA結果

照明機器製造時(kg-CO2)使用時(kg-CO2)合計(kg-CO2)製造時の割合(%)
白熱電球 25×GLS3.5564567.50.6
電球型蛍光灯 2.5×CFL2.2113115.21.9
LED電球 LED lamp2.4113115.42.1
注)製造時の二酸化炭素排出量は素材、部品の積み上げに基づく。使用時の電力の二酸化炭素排出係数は0.564kg-CO2/kWhを使用。
出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009

 図-7では製造時の二酸化炭素排出量は10倍のスケールで表示しています。この結果よりライフサイクル全体における製造時の二酸化炭素排出量の割合は白熱電球では1%未満、蛍光灯とLED電球でも2%程度と小さなものでした。

出所)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009
図-7 3種の電球のLCA結果

 この分析結果と表-2に示した価格当りの原単位方式での計算結果とを比較すると、こちらの方が製造時の割合が小さくなっています。なお、表-6では廃棄時の二酸化炭素排出量を含んでいませんが、文献によればその値は非常に小さい(0.1%未満)とのことです。

 どちらの方法でも製造時の割合は小さく、使用時の二酸化炭素排出量が多いことから、使用時の省エネを進めることが重要であることが分かります。

まとめ

 今回はテレビと照明に関するライフサイクル全体におけるGHG(ここでは二酸化炭素)排出量の分析事例を紹介しました。結果をまとめると以下の通りです。

<テレビについて>

・テレビはブラウン管テレビ(CRT)も液晶テレビ(LCD)もどちらも製造時のGHG排出量は使用時に比べて小さく、ライフサイクル全体でのGHG排出量の2割から3割程度でした。

・製造時のGHG排出量はLCDの方がCRTよりやや大きくなっていました。これはLCDを構成する部品のうち、基板や液晶モジュールの重量は軽いもののGHG排出原単位は大きく、製造時のGHG排出量を増加させるためです。

・LCDは使用時のエネルギー消費に伴うGHG排出量が少ないため、相対的に製造時の割合が大きくなります。そのため、頻繁に買い替えを行うとテレビ視聴における年間平均の二酸化炭素排出量が大きくなることに留意する必要があります。

・CRTからLCDに普及の中心が移行していく過程で、大画面化によって使用時のGHG排出量が増加していったと考えられ、大画面への買い替えの場合は使用時の省エネに留意する必要があります。

・同じ画面の大きさの場合、LCDの省エネ特性により製造時のGHG排出量が大きいLCDでも1年で逆転する(CRTのGHG排出量が大きくなる)ことが分かりました。やはりGHG排出におけるLCDの優位性は確かです。

<照明について>

・白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球を対象とした製造時のGHG排出量は、ライフサイクル全体の2%以下と非常に小さく、廃棄時のGHG排出量はさらに小さな値でした。どちらの電球も使用時の省エネを進めることがGHG削減につながると言えます。

・電球1個当りの製造時のGHG排出量は白熱電球<電球型蛍光灯<LED電球の順に小さいですが、電球の寿命を考慮すると(LED電球に対して白熱電球は1/40、電球型蛍光灯は1/2)、25,000時間の使用ではLED電球が一番小さくなります。

・LEDの使用時の省エネ性からライフサイクル全体のGHG排出量は最も小さいため、LEDの普及促進は妥当と考えられます。文献によっては蛍光灯とLEDの消費電力が同じという記述もありましたが、資料がやや古いためLEDの性能向上が反映されていないためと考えられます。

・LCA手法については、環境省の進めるサプライチェーンを通じた組織のGHG排出等の算定のための排出原単位は、個別の家電機器の比較などには利用できない可能性もあることが分かりました。組織でどの程度のGHGを排出しているかの大まかな把握を行う手法ととらえた方がよさそうです。

<参考文献>

1)牧口 裕介、伊坪 徳宏:ライフサイクルの視点に基づく 家電製品の買い替えによる環境負荷削減効果分析、第5回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、2010年3月
2)環境省:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)
3)田畑智博、文多美:家庭用照明のLED照明への切り替えに伴うCO2削減コストの試算、第6回LCA学会発表会講演要旨集、2011年3月
4)OSRAM Opto Semiconductors GmbH, Siemens Corporate Technology: Life Cycle Assessment of Illuminants, A Comparison of Light Bulbs, Compact Fluorescent Lamps and LED Lamps, November 2009