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需給対策

ディマンド・レスポンス(3)-2023年夏

 ディマンド・レスポンス(DR:Demand Response)とは逼迫した電力需給を改善するために電力需要パターンを変化させて対応するものです。DRについては、政府の積極的な関与のもとに過去2回(2022年夏、冬)実施されてきましたが、2023年夏にも実施されました。

 2023年夏については、政府からは7月と8月の東京地域における電力逼迫のため、節電の必要性がアナウンスされました。また自治体(東京都)は節電キャンペーンを継続的に実施することが示されていました。今回は政府からの補助は打ち切られ、小売電気事業者と東京都だけのインセンティブが付与されることになりました。

 今回も小売電気事業者としての東京ガスのDRに参加しました。実施予定期間は2023年7月初めから9月末までです。2023年夏の気温は高く、9月末まで真夏日が継続するという状況で、節電するには非常に厳しい状況が続きましたが、前回と同様に蓄電池を利用して無理のない節電を行いました。

 今回もスマートメータによる消費電力量の計測値と小売電気事業者から公表される節電量、さらに蓄電池からの給電量の測定をとりまとめ、2022年夏季との比較などを加えながら取りまとめました。

 さらに節電量を算定するベースライン時の気温とDR実施日の気温の相違についても分析し、「ベースラインの対象となった日の消費電力量が節電の基準として適切か」についても検討を行いましたので、結果を報告します。

 なお、これまでのDRへの参加の記録は以下の通りです。DRの必要性やその仕組みなどについても説明していますので、参考にしてください。

 2022年夏季:「ディマンド・レスポンス(1)-2022年夏」

 2022年冬季:「ディマンド・レスポンス(2)-2022年冬」

<本報告のコンテンツ>

2023年夏の節電事情
(1)国の節電対策の公表・DR参加における節電実績
(2)地方自治体の節電キャンペーン
(3)小売電気所業者による節電キャンペーン

DRの参加における節電実績
(1)DR対象日と時間帯
(2)節電方法
(3)節電結果

節電効果の分析
(1) 過去のDR実施結果との比較
(2) 節電量を決めるベースライン
(3) ベースラインとDR実施日の気温の比較

まとめ

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2023年夏の節電事情

(1)国の節電対策の公表

 2023年夏季の全国の電力の見通しについては、経済産業省の総合資源エネルギー調査会、電力・ガス基本政策小委員会、電力需給に関する検討会で以下のように公表されています1)

 全国の2023 年度夏季の電力需給は、猛暑を想定した電力需要に対し、安定供給に最低限必要な予備率3%を概ね上回っているものの、一部で厳しい見通しとされました。具体的には表-1に示すように東京地域の7月の予備率が3.1%と、最低限必要な数値をかろうじて上回っているということでした。そのため、国は特に東京地域に対して以下の対策を講じました。

 ・追加供給力(kW)の確保
 ・無理のない範囲での節電の協力の呼び掛け
 ・電源の補修点検時期の調整等

表-1 2023年夏季の電力需給見通し(予備率)

7月8月9月
北海道、東北5.27.615.8
東京3.14.85.3
中部

9.8
11.77.8
北陸
11.9


11.3
関西
中国
四国11.214.4
九州9.811.918.5
沖縄22.318.721.6
注)単位:%
出所)経済産業省:総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会、電力需給に関する検討会合資料、2023年6月9日

 東京地域への節電要請については、特に7月と8月に限定して無理のない範囲での節電の協力を呼び掛け、DR等の需要対策の実効性をより一層高める観点から、電力需給の見通し及び対策の必要性について、産業界や家庭等への周知活動に取り組むとしていました。

(2)地方自治体の節電キャンペーン

 地方自治体では東京都が「家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業」として、DRへの参画を呼び掛けていました2)。東京都は小売電気事業者に対してDR実施に必要な経費を助成する補助事業を継続的に実施しています。

 その条件は、「都内で5日以上の節電を達成した需要家に対し、節電推進期間ごとに1需要家当り 1,000 円相当のポイントを助成する」というものです。助成対象は東京都内に電力を供給する小売電気事業者です。小売電気事業者は東京都からの助成をもとに、参加した需要者に節電量に応じてポイントを還元する仕組みになっています。

(3)小売電気事業者による節電キャンペーン

 小売電気事業者はこれまでと同様に多くの事業者がDRに取り組んだ模様です。今回参加した東京ガスの節電キャンペーンは、2023年5月頃から実施要項を公表して参加者を募集していました。本キャンペーンの節電インセンティブは、以下の2つの節電ポイントが付与されます3)

・節電ポイント:1kWh当り5ポイント、ボーナスポイントあり
 (ボーナスポイントは表-2の通り)
・節電行動ポイント:節電対象時間中にお出かけスポットに到着により20ポイント
 (スマートフォンの「会員向けページ」を開いて[判定]ボタンをタップし、位置情報が一致することが条件)

表-2 節電キャンペーンのボーナスポイント(東京ガス、2023年夏)

 No.  節 電 量 ボーナスポイント
 1 5kWh未満  な し
 2 5kWh以上10kWh未満 ポイント 10円分
 3 10kWh以上20kWh未満 ポイント 50円分
 4 20kWh以上30kWh未満 ポイント 100円分
 5 30kWh以上40kWh未満 ポイント 200円分
 6 40kWh以上50kWh未満 ポイント 300円分
 7 50kWh以上60kWh未満 ポイント 500円分
 8 60kWh以上70kWh未満 ポイント 1,000円分
 9 70kWh以上80kWh未満 ポイント 1,500円分
 10 80kWh以上90kWh未満 ポイント 2,000円分
 11 90kWh以上100kWh未満 ポイント 2,500円分
 12 100kWh以上 ポイント 3,000円分
出所)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、夏の節電キャンペーン2023

 2022年冬季のDRについては、国は予算化によって高額のインセンティブを付与していましたが、今回はその予算化は行われませんでした。

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DRの参加における節電事情

(1)DR対象日と時間帯

 今回も東京ガス(小売電気事業)の節電キャンペーンに参加しました。東京都に住民登録している方は自動的に東京都の節電キャンペーンに参加できます。節電キャンペーン期間は7月から9月までの3か月間でした。

 図-1にDR対象日を示します。節電は平日のみ行われます。7月は9日、8月は10日、9月は11日の30日間でした。曜日では、木曜日が最も多く8日、火曜、金曜が7日、水曜が6日、月曜は2日のみでした。

 また、DR対象時間帯を図-2に示します。今回のDR対象時間帯は11時から17時までの時間帯が多くなっており、冬季のように午前中と夕方に分かれているという日はあまりありませんでした。1日のDR時間は最大7時間、最小1時間でした。30日間の合計DR時間は134時間、1日平均DR時間は4.5時間でした。

図-2  DR対象時間帯

(2)節電方法

 今回も節電は蓄電池を用いて需要を平滑化する方法をとりました。蓄電池の仕様を表-3に示します。前回(2022年冬季)と同様に蓄電池を3個用意しました。利用した蓄電池はJackery社製のポータブル電源3種で、定格容量は1,000Wh、700Wh、400Whです。合計の蓄電容量(給電能力)は2.1kWhとなります。

表-3 用いた蓄電池(ポータブル電源)の仕様

  項 目  内 容
蓄電池1製品名Jackeryポータブル電源1000
定格容量リチウムイオン電池
46.4Ah/21.6V(1,002Wh)
出力ポートAC出力×3:100V,~60Hz,10A,合計1,000W(瞬間最大2,000W)
USB-A出力:5V=2.4A
USB-C出力×2:5V=3A,9V=2A, 12V=1.5A
蓄電池2製品名Jackeryポータブル電源700
定格容量リチウムイオン電池28.05Ah/14.4V(708Wh)
出力ポートAC出力×2:100V/5A,~60Hz, 500W
USB-A出力:5V/2.4A
USB-C出力:5V/3A, 9V/3A, 12V/3A, 15V/3A, 20V/3A
蓄電池3製品名Jackeryポータブル電源400
定格容量リチウムイオン電池28.05Ah/14.4V(403Wh)
出力ポートAC出力:100V,~60Hz,2A, 200W(瞬間最大400W)
USB出力:5V=2.4A
出所)Jackeryポータブル電源、取扱説明書

 これらの蓄電池と家電機器との接続は表-4の通りです。蓄電池1にはテレビと磁気ディスク、蓄電池2にはパソコンとモデム、ルータ、蓄電池3には空気清浄機とサーキュレータを接続しています。これらの機器の定格電力は表-4の通りですが、液晶テレビは節電モード(80W程度)、サーキュレータも稼働時間は短く、また強度設定は中(6W程度)です。

表-4 蓄電池に接続した家電機器

 接続機器   型 式機器の定格電力定格電力合計
蓄電池1液晶テレビ東芝REGZA 50BM620X150W注)160W程度
磁気ディスクElecom SDG NY0202UBK10W程度
蓄電池2ノートパソコンNEC PC-NX850LAB90W129W
モデムNTT東日本 VH1004EN9W
ルータSoftbank30W
蓄電池3空気清浄機トゥーコネクト製Airdog A3s27W37W
サーキュレータアイリスオオヤマ製CFD-18110W
注)液晶テレビは節電モード(約80W)で利用

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(3)節電結果

 DR対象日における節電量と蓄電池からの給電量を表-5に示します。同表には、節電量を決めるベースラインのパターン番号についても示しています(ベースラインは後述します)。

表-5 DR対象時間、ベースライン、節電量とバッテリーからの給電量

No.対象月日対象時間ベースライン節電量節電量注)
(外出日除く)
蓄電池から
の給電量
備考
17月4日3パターン11.58外出
27月7日2パターン20.700.700.31
37月11日5パターン30.830.830.54
47月12日4.5パターン31.451.450.73
57月13日4パターン31.75外出
67月18日4パターン40.600.600.44
77月26日2.5パターン51.231.230.35
87月28日6パターン62.53外出
97月31日6パターン60.450.450.86
108月2日5パターン70.600.600.53
118月3日7パターン70.780.780.94
128月4日7パターン71.231.230.90
138月8日5パターン80.700.700.33
148月9日3パターン80.500.500.29
158月10日4パターン80.380.380.46
168月21日7パターン91.031.030.80
178月24日6パターン101.081.080.46
188月29日7パターン110.990.990.84
198月31日6パターン120.830.830.61
209月1日6パターン120.730.730.63
219月5日6パターン132.80外出
229月6日4パターン130.800.800.40
239月7日4パターン131.101.100.40
249月8日1パターン130.250.250.0
259月14日4パターン140.400.400.44
269月19日2パターン150.230.230.33
279月20日5.5パターン151.001.000.60
289月21日3.5パターン150.850.850.23
299月22日2パターン150.550.550.31
309月29日2パターン160.480.480.42
合計13428.4319.7713.15
日平均4.50.950.760.51
時間平均0.210.170.11
注)7月4日、13日、28日と9月5日は外出しているため除外して集計。外出日を除くと節電実施日数は26日、節電時間は115時間、1日当り時間数は4.4時間。
出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果。

 30日間の節電量は28.43kWhでした。1日当りにすると0.95kWh/日、対象時間当りでは0.21kWh/hの節電ができていることになります。ただし、7月4日、13日、28日と9月5日は外出しており、外出日以外の節電量は19.77kWh、1日平均では0.76kWh/日、対象時間平均では0.17kWh/hとなります。

 蓄電池からの給電量は26日間で13.15kWhであり、1日当り0.51kWh/日でした(外出日は蓄電池からの供給は行いませんでした)。これは、蓄電池を使った日の節電量の約7割程度(=13.15/19.77)に相当します。また、蓄電池の給電能力2.1kWhに対しては1/4程度(=0.51/2.1)の能力しか使われていません。これは、1日の節電対象時間が短くなったことによります。

 DR対象日の節電量と蓄電池からの給電量の推移を図-3に示します。節電量が大きい7月28日と9月5日は2.5kWhを超えていますが、いずれも外出したことによるものです。外出していない日で節電量が最大なのは7月12日の1.45kWhです。また蓄電池からの給電量は最大で1kWh程度です。

注)赤丸の日は外出した日。
出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果。
図-3 DR対象日の節電量と蓄電池からの給電量の推移

 また、外出した日は4日あり、その節電量の合計は8.66kWhであり、1日平均節電量は2.17kWhでした。外出していない日の平均節電量は0.76kWhですので、外出している日は大きな節電ができることは確かです。今回の節電キャンペーンで「節電行動ポイント」を設定したのは、効果的と言えるかもしれません。

 節電事例として消費電力量、ベースライン、節電量の1日の推移(30分単位)を図-4、図-5に示します。この図は節電量が最大と2番目の7月12日と8月4日のものです。いずれの場合もDR対象時間帯の前後で家電機器を使うようにしており、ベースライン(黒線)を上回っていることが分かります。

出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果の消費電力量、ベースライン値をグラフから読み取り。
図-4 ベースライン、消費電力量、節電量(7月12日)
出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果の消費電力量、ベースライン値をグラフから読み取り。
図-5 ベースライン、消費電力量、節電量(8月4日)

 日ごろから節電をしていてベースラインの消費電力量が少なく(30分当り0.4kWh未満)、蓄電池からエアコンへの給電はできないため消費電力量は0にはならず、節電量はあまり多くはありません。節電量を増加させるには、前回の報告に示したように大出力(2kW以上)の機器にも給電が可能な蓄電池を用意する必要があります。

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節電効果の分析

(1) 昨年夏のDR実施結果との比較

 今回と2022年夏季の節電実績との比較を行った結果を表-6に示します。表-6の最右欄の「2023年夏修正」は、外出日を除いて集計したものです。外出日は蓄電池からの給電は行っていないので、給電量の平均値などはこの欄をご参照ください。

 2022年夏季との比較では、DR対象日は大きく増加しましたが(19日→30日)、1日当りのDR対象時間が短くなりました(8.3時間/日→4.5時間/日)。そのためトータルのDR対象時間は減少しました(158.0時間→134.0時間)。1日のDR対象時間の短縮は2022年冬季から変わったものでした。

表-6 昨年夏の節電結果との比較

項  目2022年夏2023年夏2023年夏修正
節電対象日数(日)193026
時間数(時間)158.0134.0115.0
1日当り時間数(時間/日)8.34.54.4
節電量節電量 A(kWh)18.1128.4319.77
1日平均 B(kWh/日)0.950.950.76
時間平均 C(kWh/時間)0.110.210.17
蓄電池からの給電量給電量 D(kWh)9.5913.1513.15
1日平均 E(kWh/日)0.500.440.51
時間平均 F(kWh/時間)0.060.100.11
節電量に対する給電量の割合D/A(%)53.046.366.5
注)「2023年夏修正」は外出日を除く集計値。

 1日当りのDR対象時間は短くなったものの、1日当りの節電量はほぼ同じ(0.95kWh/日)であったため、全体の節電量は10kWh程度増加(18.11kWh→28.43kWh)しました。これは、前回に比べて蓄電池の個数を増やし(2個→3個)、全体の給電能力を増加(1.4kWh→2.1kWh)させたことと、外出による効果が大きかったためです。

 蓄電池からの給電量は増加し(9.59kWh→13.15kWh)、節電量に対する給電量の割合(外出日を除いた集計)は66.5%と増加しました。蓄電池の1日当り給電量は0.5kWh/日であり、今回も蓄電池の総容量2.1kWhを効果的に使うことはできませんでした。

(2)節電量を決めるベースライン

 節電量を判断する基準となる消費電力量のベースラインの一例を示すと図-6の通りです。ベースラインとはDR実施前の平日5日間(DR実施日は除く)の平均消費電力量を意味します(ベースラインの決定方法については「ディマンド・レスポンスへの参加(1)-2022年夏」を参照ください)。ベースラインのパターンは16種類あり、その適用された日は表-4に示した通りです。

出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果のベースライン値をグラフから読み取り。
図-6 ベースラインの一例

 ベースラインの4時間ごとと1日合計の消費電力量を表-7に示します。4時間毎の最大の消費電力量の発生する時間帯は日によって異なっていることが分かります。これは電力を使う洗濯乾燥機と食洗機の稼働時間がまちまちであるためです。

 ベースラインの1日消費電力量はパターン11(8月29日に適用)が最大で10.658kWh、パターン16(9月29日に適用)が最少の7.425kWhとなっています。パターン11は最も気温が高くなる8月半ばころの消費電力量であり、パターン16は気温が下がってきた9月末の消費電力量です。

表-7 ベースラインの時間変動パターン

0-00-4:004:00-8:008:00-12:0012:00-16:0016:00-20:0020:00-24:00 合計 
パターン10.8751.3001.7502.325 2.325 1.80010.375
パターン 20.7501.0501.2252.150 2.350 1.7259.250
パターン 30.7501.1251.4252.225 2.425 1.5759.525
パターン 40.5251.0251.3252.050 2.350 1.3258.600
パターン 50.7501.375 2.325 1.9522.1001.3759.877
パターン 60.7501.200 2.175 1.9752.0001.2259.325
パターン 70.9001.300 2.175 2.0752.0251.3259.800
パターン 81.0001.4002.0252.050 2.125 1.2009.800
パターン 90.7501.475 2.150 2.0502.0751.80010.300
パターン 100.8251.5501.850 2.350 2.1001.77510.450
パターン 110.8751.5002.100 2.308 2.1501.725 10.658
パターン 120.8751.5752.025 2.225 2.2001.72510.625
パターン 130.9751.5502.0002.100 2.225 1.72510.575
パターン 140.8001.3001.6751.850 2.050 1.6759.350
パターン 150.9001.2501.4501.700 1.950 1.7258.975
パターン 160.6251.0751.0501.525 1.650 1.500 7.425
出所)東京ガス:会員専用ページ、夏の節電キャンぺーン2023、節電結果のベースライン値をグラフから読み取り。

(3)ベースラインとDR実施日の気温の比較

 DRを実施するかどうかは小売電気事業から前日の18時頃に伝達されます。おそらく翌日の消費電力量を予測して供給能力との比較で節電時間帯を決定していると想定されます。そのため、夏季においては気温が高く消費電力量が上昇しそうな日がDRの対象日として選ばれていると思われます。

 そこで、気温が高い7月から8月末のベースラインの対象日とDR実施日の平均気温を比較した結果を図-7に示します。この結果を見ると7月から8月初めにかけてのDR実施日の平均気温はベースライン対象日のそれより高い傾向があることが分かります。

注)平均気温は屋外に設置された温度データロガに記録された1時間値の1日平均値。
図-7 DR実施日とベースライン対象日の平均気温

 気温が高い日はエアコンの消費電力量が大きくなります。DR実施日の気温に比べてベースライン対象日の気温が低い場合は、ベースラインの消費電力量が小さくなり、正確に節電量を把握できないと考えられます。このような場合は気温補正をするなどの配慮も必要ではないかと思われます。

 しかし、DR実施日の平均気温を見ると気温が低い日もあり、必ずしも気温が高い日が選定されているわけではないように見えます。これは、天候により太陽光発電などの供給力が低下する場合に、DRを実施している可能性があります。しかし、DR実施日の選定については情報が提供されていませんので、詳細な検討はできません。

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まとめ

 2022年冬季に引き続き2023年夏季のDRにも参加しました。DR期間は6月から8月までの3か月間で、DRの対象日は30日間でした。2022年夏季と比べると対象日数は増加しましたが、1日当りのDR対象時間が1/2程度になったため、総DR対象時間は減少しました。

 以前と同様に蓄電池を使って節電を行い、節電量は28.43kWhと昨年夏より多くなりました。蓄電池からの給電量は13.15kWhであり、節電量に対する割合は約7割となりました(外出日を除く給電を行っている日での割合)。これは蓄電池を3個設置して多くの家電機器に電気を供給したことによります。

 蓄電池容量は昨年の1.4kWhから2.1kWhに増加しました。ただし、蓄電池からの1日の給電量は最大でも1kWh/日であり、給電を行った日の平均給電量は0.5kWh/日でした。これは蓄電池の能力2.1kWhの半分(最大給電時)しか利用できておらず、1日平均では1/4の利用にとどまります。

 この原因は、2023年においては1日当りの節電時間が短くなっていたためです。節電効果を上げるためには、前回の報告でも示したように大出力(2kW以上)の家電機器にも供給が可能な蓄電池を用意する必要があります。

 また、ベースラインの消費電力量が節電の基準として適切かどうかの分析として、ベースライン時の平均気温とDR実施日のそれを比較しました。7月から8月上旬にかけてDR実施日の気温がベースラインに比して非常に高い日がありました。これはDR実施日は消費電力量が増加する日を対象としているからであり、気温差が大きい場合は節電量が過小評価される恐れがありました。

 このような場合には、節電の評価において気温の補正をするなどの配慮も必要と考えられました。なお、DRの実施を決める判断基準として、消費電力量が多い日だけでなく需給が逼迫する日として気温が高い日に加えて曇りの日で太陽光発電の供給が見込めない日も含まれていると想定されました。

 今回のDRの企画においては、前年度との比較によるポイントはなくなり、「節電行動ポイント」が新しく設定されました。今回のDR時の節電量の測定においては、外出した日の平均節電量は2kWhを超えており、外出の効果は大きなものでした。気温の高い日に外出することはあまり健康的ではありませんが、図書館のような冷房が効いている場所での滞在は効果的と思われます。

 今回のDRへの参画でのインセンティブは節電量に対して約140(28×5)ポイント、ボーナスポイントが100ポイントで合計240ポイントです。さらに、節電行動ポイントとして80ポイント(外出回数4回×20)が加わり、320ポイントとなりました。

 地球温暖化防止対策として節電の練習となると考えてDRに参加しましたが、実際にはDR対象時間帯だけの節電にとどまっており、節電量の拡大にはつながっていません。節電要請には協力したいと思いますが、DRへの参画の報告は今回限りとし、今後はより地球温暖化防止への効果的な対策を検討していくこととします。

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<参考文献>

1)経済産業省:公式Webサイト、ニュースリリース、2023年度夏季の電力需給対策を決定しました、2023年6月9日、https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230609009/20230609009.html
2)東京都地球温暖化防止活動推進センター:公式Webサイト、家庭の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業、https://www.tokyo-co2down.jp/subsidy/demand_response
3)東京ガス:公式Webサイト、夏の節電キャンペーン2023、https://drlv.tokyo-gas.co.jp/campaign/dr2023_summer.html