今回は給湯器(温水器)として位置づけられるエネファームを取り上げます。エネファームとは、ガスや石油を使って自宅で「電気と湯を同時につくる創エネシステム」とされています1)。すなわちガスや石油をもとに発電して電気を利用し、その際に生じる熱で給湯します。エネファーム(ENE-FARM)は和製英語で、エネルギー(energy)とファーム(farm:農場)を組み合わせたものです。
エネファームの発電原理は燃料電池です。燃料電池は水素を原料として空気中の酸素と反応させて発電します(電気分解の逆の反応)。水素はガスや石油などの炭化水素から発生させます。燃料電池はエネファーム以外に自動車(FCV)でも使われており、電気でモーターを回転させて走ります。FCVは水素を水素ステーションから調達しますが、エネファームは自ら水素を製造します。
燃料電池は小型でも発電効率が高く、排熱も給湯に利用でき、発電所で発電した電気のように送電ロスもないため、エネルギーを効率よく利用できるのです。この電気、熱の併用システムをコジェネレーションと言います。
このエネルギー利用効率の高さにより、1次エネルギーの削減とCO2排出量の削減を実現できるため、国でもエネファームへの助成を行うなど、導入を推奨してきました。しかし、価格が他の給湯器と比べて高いことなどから普及が進んでいません。
今回の報告ではエネファームの導入を検討している方のために、エネファームの長所だけでなく電気と給湯における使いやすさ、設置スペースや維持管理等の課題、サポートを受けられる期間(保証期間)についてもまとめます。
また、エネファーム導入による電気とガス料金の変化やエネファーム用のガス料金の優遇事例、さらに導入時に受けられる国や自治体の補助の可能性なども整理します。なお、エネファームの導入効果の定量的な分析については、次回以降の報告で取り上げる予定です。
<本報告のコンテンツ> ■エネファームの原理と特徴 (1)エネファームの原理 (2)エネファームの特徴 (a)エネファームの発電、給湯能力 (b)エネファームの長所 (c)エネファームの短所 ■エネファームの省エネ、環境性能 (1)エネファームの省エネ性能 (2)エネファームのCO2削減効果 ■エネファームの普及状況と普及促進策 (1)エネファームの普及状況 (a)販売台数 (b)販売価格 (2)普及促進策 (a)国の補助制度 (b)自治体の補助制度 (c)建築物省エネ法 ■エネファーム製品の省エネ性能 (1)登録製品の省エネ性能 (2)代表的製品の省エネ性能 ■まとめ |
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エネファームの原理と特徴
(1)エネファームの原理
エネファームとは一般の家庭に電気と熱の両方を供給する燃料電池システムであり、専門用語でいうと燃料電池コジェネレーションシステムと言います。コジェネレーションとは熱と電気を両方生み出す意味(コ+ジェネレート)で熱電併給と訳されます。燃料電池コジェネレーションシステムは産業用として利用されていましたが、家庭でも利用できるようにしたものがエネファームなのです。
エネファームの設備構成は図-1に示す通りです。設備は燃料電池ユニットと貯湯ユニットから構成されます。燃料電池は水素と酸素から発電しますが、水素は都市ガスの場合はメタン(都市ガスの主成分)に高温高圧で水蒸気を反応させて水素に変換します(水蒸気改質法)。LPガスや石油の場合も同様な方法で水素を製造します。
出所)パナソニック:「エネファームとは、燃料電池とは」を参考に作図
図-1 エネファームの設備構成
下のコラムに水蒸気改質法の反応式を示します。反応式には示されませんが、反応には触媒が重要な役割を果たします。触媒にはアルミナ、銅、亜鉛などが混合された金属粉末が使用されます。
<メタンと水蒸気による水素生成> 都市ガス(メタン)を用いた水蒸気改質法による水素生成反応は以下の通り。本反応には触媒(アルミナ等)を添加します。全体の反応は吸熱反応であるため、高圧高温化で反応をさせています。 CH4 + H2O ⇔ CO + 3H2 -205kJ/mol (1) CO + H2O ⇔ CO2 + H2 +42kJ/mol (2) |
燃料電池の原理を図-2に示します。燃料電池の基本となる構成要素は電解質、正極と負極の電極です。正極と負極は触媒作用を持った物質で、電解質はイオン(H+など)を通し、電子(e–)と水素(H2)や酸素(O2)を通しにくい特性の物質です。
図-2 燃料電池の原理
正極と負極を電気回路で接続することで電流が流れ(電子が移動)、発電が行われます。燃料電池の内部では水素と酸素が反応して水が生成されるだけです。燃料電池は発電時に有害物が排出されない究極のエネルギー生成技術です。反応の詳細を下のコラムに示します。
<燃料電池の反応式> (1) 1個の電子を持った水素が負極に触れると、電子を離し、水素イオンに変化します。 H2→2H++2e– (2) 負極で取り出された電子が、負極と接続された電気回路を通って正極へ流れることで、電気が発生(発電)します。 (3) 負極で電子を失った水素イオンは電解質の中に入りますが、電気的に不安定なため、正極(+)で安定しようと電子を取り込み酸素と化合し、水が生成されます。 2H++2e–+1/2O2→H2O このように、燃料電池は水素と酸素が反応し水に変化する過程で電気を発生させる装置であり、原理的には「燃料電池は、水の電気分解の逆で発電する」と説明されます。 |
家庭用の燃料電池は表-1に示すように電解質によって分類されます。すなわち電解質が固体高分子形の燃料電池(PEFC)と固体酸化物形の燃料電池(SOFC)の2種類です。それぞれの特徴は以下の通りです2)。
表-1 燃料電池の種類と特徴
固体高分子形燃料電池(PEFC) | 固体酸化物形燃料電池(SOFC) | |
---|---|---|
電解質材料 | 固体高分子膜 | ジルコニア系セラミックス |
運転温度 | 70~90℃ | 700~1,000℃ |
発電効率(HHV) | 30~40% | 40~65% |
想定出力 | ~100kW | ~100,000kW |
出所)パナソニック:公式Webサイト、エネファームとは、燃料電池とは、2024年2月20日閲覧
固体高分子形燃料電池(PEFC)
電解質材料にイオン交換膜を使用するもので、発電効率は30~40%(HHV)であるものの、動作温度が70〜90℃と低く燃料電池を構成する機器の小型化が可能なことから、家庭用や自動車用の燃料電池として実用化されています。
固体酸化物形燃料電池(SOFC)
電解質材料にジルコニア系セラミックスなどを使用するもので、動作温度が700~1,000℃と非常に高温で、発電効率は40~65%(HHV)と高くなっています。火力発電所等の高出力の発電設備用に期待されているとともに、家庭用の燃料電池としても実用化されています。
これらの電解質はどちらも固体電解質(SE)であり、前々回の全固体電池の報告でも説明したように、SEはイオン伝導率が高く、安全性も高い特徴があります。SOFCの動作温度は700℃以上と非常に高いですが、PEFCは動作温度が低く製品を小型化でき、価格も抑えることができるのが特徴です。
SOFCの電解質である酸化物系SEは高電圧での適合性が良く高出力で、発電効率は50%を超える性能を示します。このように燃料電池は発電効率が非常に高いことが特徴であり、給湯に使われる熱回収を考慮するとエネルギー利用率は100%に近くなることもあります。
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(2)エネファームの特徴
(a)エネファームの発電、給湯能力
エネファーム製品の発電能力は400Wから700Wであるため、家庭の全ての電気を賄うわけではありません。エアコンや電子レンジなどの定格出力が700Wを超える家電機器には使用することができません。それらの機器には商用電力を使用することになります。
また、発電時の余熱を利用するので、家庭で必要な湯をいつでもエネファームから供給できるわけではありません。発電していない時の給湯には貯湯槽から供給できますが、使用量に対して貯湯槽の容量が十分でない場合は補助的な給湯器(バックアップ熱源機)からの供給を必要とします。
エネファームは家庭で必要な一部の電気と湯を供給し、不足する場合は電力会社と補助的な給湯器が補完することになります。エネファームの特性上、電気と給湯の需要パターンが一致していることが望ましいですが、そのタイミングが異なるため様々な工夫がされており、その制御イメージを図-3に示します。
エネファームの一般的な運転パターンでは、朝(9時頃)、発電を開始して昼間の電気を供給し、同時に排熱で湯をつくります。湯は貯湯槽にためられ、夜の入浴前に満タンにします。そして、電気の使用量が少ない夜には発電を停止します(貯湯槽からの湯が不足した場合はバックアップ用の熱源機が稼動します)。
図-3 エネファームの発電、給湯パターン
発電していないときや家庭内の消費電力が定格出力を超えるときは電力会社からの電気を使用します(買電)。家庭の電気、給湯における生活スタイルを「エネファーム」が学習して発電のタイミングを自動調整するので、それぞれの家庭に適した省エネを実現するということです。
最近では、家庭での太陽光発電と組み合わせてより効率的な発電システムを作ることで、買電量を抑制しCO2排出量をさらに削減することも行われているようです。
(b)エネファームの長所
まず、エネファームの長所を列挙すると以下の通りです。
・エネルギー代の低減(電気代が安くなり、ガス代の価格上昇が抑えられる)
・1次エネルギー使用量の低減
・CO2排出量の削減
・災害時の電力の確保
エネファームはガスで発電するため、電気代が安くなり、ガス代は高くなります。エネファームの発電効率の高さから、電気代が大きく減少しガス代の増加は比較的小さいため、合計の料金は安くなる場合が多いようです。
これは発電の排熱を利用していることとガス代は使用量が多いほど単価が低下する傾向があることも一因です。さらにエネファーム用の安い料金体系を設定しているガス会社があり、これを使うと電気代とガス代の合計がさらに低減します。
表-2に東京ガスのエネファーム導入世帯用のガス料金体系とその料金試算結果を示します(一般契約料金との比較)。エネファーム単体を導入の場合とガス浴室暖房乾燥機、ガス温水床暖房との組合せにより料金が変わります。
モデル使用量の場合(冬期100m3/月、その他期56m3/月)、エネファーム単体でもその他期(5月~11月)は772円、冬期(12月~4月)は1,782円の割安(それぞれ9%、13%削減)になります。さらに、上記のセット割引の場合では最大で25%ガス代が減少します。
表-2 エネファーム導入世帯のガス割引料金の一例(東京ガス)
料金プラン | その他期(5月~11月分) | 冬期(12月~4月分) | |
---|---|---|---|
エネファーム発電エコプラン | 使用量 | 56m3/月 | 100m3/月 |
削減金額 | 772円/月 | 1,782円/月 | |
削減割合 | 9% | 13% | |
エネファーム発電 +ガス浴室暖房乾燥機使用 | 使用量 | 57m3/月 | 106m3/月 |
削減金額 | 1,024円/月 | 2,316円/月 | |
削減割合 | 12% | 16% | |
エネファーム発電 +ガス温水床暖房使用 | 使用量 | 53m3/月 | 117m3/月 |
削減金額 | 708円/月 | 3,606円/月 | |
削減割合 | 9% | 22% | |
エネファーム発電 +ガス浴室暖房乾燥機 +ガス温水床暖房使用 | 使用量 | 58m3/月 | 127m3/月 |
削減金額 | 1,049円/月 | 4,410円/月 | |
削減割合 | 12% | 25% |
また、エネファームのエネルギー利用効率の高さにより、1次エネルギー使用量とCO2排出量も削減できます(詳細は後述)。なお、1次エネルギー使用量とは発電に用いる1次エネルギー(石炭、天然ガス)をエネルギー量の単位(MJ)で算定したものです。
さらに、停電時にバックアップ電源としての利用も可能です。多くの製品が停電時に自立運転できる機能を有しています。このような分散電源を活用して社会全体の電力需要を制御していこうという動きもあります。
(c)エネファームの短所
エネファームの短所を列挙すると以下の通りです。
・広い設置スペースを要する
・導入コスト(本体価格、設置費、維持管理費)が高額
・標準使用期間(保証期間)が10年から12年
・化石燃料を使用しているためCO2排出をゼロにできない
エネファームの短所としては貯湯槽を設置するスペースとコストの問題があります。スペースの問題は貯湯槽の容量が大きくなることから、その設置スペースが必要なことであり、集合住宅では設置に制限があります。メーカーによっては、集合住宅用の製品も提供しており、共用部廊下やベランダに設置できるものもあります。
導入コスト(本体価格)は2009年に登場した時は300万円程度でしたが、年々低下していき現在は100万円程度(本体価格)となっています。しかし、エコキュートやエコジョーズと比較すると依然として高額です。ただし、国や自治体の補助金などを利用して負担を減らすことができます(補助金は後述)。
エネファームは安全に運転できる使用期間が設定されており(10年または12年)、その期間はメーカー等からの保守・点検が行われます。それを過ぎると点検等の保守費用がかかるうえ、設定された使用期間を超過した運転はあまり推奨されないので、交換を求められることが多いようです。
そして、エネファームの最大の欠点は化石燃料を原料としていることです。そのため、どんなに効率を向上させても、CO2の排出をゼロにはできません。これを根本的に解決するには、化石燃料に変えてクリーンエネルギーにすることです。グリーン水素を導管で供給することや、メタンガスを脱炭素化(合成メタン、バイオメタン)することが求められます。
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エネファームの省エネ、環境性能
(1)エネファームの省エネ性能
エネファームの省エネ性能は発電効率が高く、送電ロスが小さいことによる電力量の低減が大きな要因です。図-4に示すように商用電力を使用する場合、発電段階で55~60%のロスが生じ、送電ロスが約5%のためエネルギー効率は35~40%程度です。
図-4 エネファームのエネルギー効率
これに対し、各家庭でエネルギーをつくるエネファームは、エネルギーをつくる場所と使う場所が一緒であるため、エネルギー効率は70~90%程度とエネルギーを有効に利用することができます。
(2)エネファームのCO2削減効果
エネファームの導入効果は、実証試験により一次エネルギー削減量は12,230 MJ/年であり従来システムに対して23%削減と算定されています。またCO2 排出削減量は1,330kg-CO2/年であり、従来システムに対して38%削減です。
これは、エネファームが目標通りに普及した場合(当初目標530万台、普及目標については後述)、2,460m2の森林が吸収するCO2量に相当するものと見積もられています(図-5)。
図-5 エネファームによる一次エネルギーの削減率とCO2削減率
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エネファームの普及状況と普及促進策
(1) エネファームの普及状況
(a)販売台数
エネファームは2009年に販売が開始されました。図-6に示すように累計の販売台数は年々増加し、2023年(第3四半期まで)には50万台を突破しています5)。燃料の種類は都市ガスが9割以上を占めており、残りはLPガスが1割程度となっています。
エネルギー基本計画では2030年に530万台の普及を目標としていましたが、最新の計画では300万台に見直されています6)。ただし、見直された目標値でも実現できるかどうかは微妙な状況です。
出所)コージェネ財団、燃料電池室:公式Webサイト、エネファームの普及台数
図-6 エネファームの販売台数
(b)販売価格
エネファームの販売価格を図-7に示します7)。発売当初の300万円から2020年には100万円程度と1/3に減少してきました。燃料電池の2つの方式のうち固体高分子形燃料電池(PEFC)の方が安く、固体酸化物形燃料電池(SOFC)がやや高額となっています。
図-7 エネファームの販売価格
(2)普及促進策
(a)国の補助制度
省エネで環境性能が高いエネファームを普及させるため、国ではこれまで補助金による助成措置を行ってきました。2023年度の補助制度の概要を表-3に示します8)。エネファームだけでなく給湯器全体(エコキュート、ハイブリッド給湯器を含む)を対象にしています。
表-3 国の高効率給湯器への補助概要(経済産業省補助)
項 目 | ヒートポンプ給湯機 (エコキュート) | ハイブリッド給湯機 | 家庭用燃料電池 (エネファーム) |
|
---|---|---|---|---|
エネルギー源 | 電気 | 電気・ガス | ガス | |
特 徴 | 圧縮すると温度上昇し膨張すると温度が下がる、気体の性質を利用して熱を移動させるヒートポンプの原理を用いてお湯を沸かし、タンクに蓄えるもの。 | ヒートポンプ給湯器とガス給湯器を組み合わせてお湯を作り、タンクに蓄えるもの。二つの熱源を用いることで、より高効率な給湯が可能。 | 都市ガスやLPガス等から作った水素と空気中の酸素の化学反応により発電するとともに、発電の際の排熱を利用してお湯を沸かし、タンクに蓄えるもの。 | |
価格(機器+工事費) | 55万円程度 | 65万円程度 | 130万円程度 | |
補助額 | 基本額 | 8万円/台 | 10万円/台 | 18万円/台 |
AorC | 10万円/台 | 13万円/台 | 20万円/台 | |
B | 12万円/台 | 13万円/台 | ||
A&B | 13万円/台 | 15万円/台 | ||
追加措置注2) | +10万円(蓄熱暖房機) +5万円(電気温水器) |
注2)蓄熱暖房機(蓄熱レンガを電気で温め、放熱することで部屋を暖める器具)、電気温水器を撤去する場合
出所)資源エネルギー庁:⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦の概要(2023年度補正予算)
エネファームの補助金額は基本額が18万円で、レジリエンス機能が強化された機種は20万円となっています。レジリエンス機能の強化とは停電時に自立運転機能があるものを指しています。また、補助基数については戸建ては2台まで、共同住宅は1台までです。
補助対象製品は、一般社団法人燃料電池普及促進協会(FCA)に製品登録したものとされています。なお、2023年度の補助は補正予算を活用したものであり、毎年予算化されていないので、よく確認をする必要があります。
(b)自治体の補助制度
多くの自治体でエネファームへの補助を行っています。ここでは東京都の事例を示します9)。東京都では「水素を活用したスマートエネルギーエリア形成推進事業(家庭部門)」において表-4の補助事業を実施しています。
東京都の補助率は機器費の5分の1であり、機種と戸建/集合によって上限額が決まっています。具体的にはPEFCは7万円/台(戸建)、12万円/台(集合)、SOFC(700W)は10万円/台(戸建)、15万円/台(集合)などとなっています。
表-4 東京都のエネファームへの補助の概要
助成対象機器 | 補助率 | 補助上限額注) |
---|---|---|
固体⾼分子形燃料電池(PEFC) | 機器費の5分の1 | 7万円/台(戸建)/12万円/台(集合) |
固体酸化物燃料電池SOFC(700W) | 10万円/台(戸建)/15万円/台(集合) | |
固体酸化物燃料電池SOFC(400W) | 7万円/台(戸建)/12万円/台(集合) |
出所)東京都環境公社:水素を活用したスマートエネルギーエリア形成推進事業(家庭部門)の補助要綱
(c)建築物省エネ法
国は2019年5月に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)の改正を行い、建築物の設計、施工時の建築確認の交付基準等をより厳しくしています10)。
具体的には説明義務制度として、300m2未満の住宅・建築物を設計する際に、「建築士から建築主に対して省エネ基準への適否等の説明を行う義務」が新設されました(2021年4月施行)。この説明によって建築主が省エネを目指すことを期待するという制度です。
省エネ基準への適否とは、住宅における一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量以下か否かを指します。その一次エネルギー消費量の算定においては、暖房、冷房、換気、給湯、照明、家電エネルギーを個別に算定します。そのため、給湯に要するエネルギーを算定する際にエネファームの省エネ性能が評価され、その普及が促進されることが期待されます。
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エネファーム製品の省エネ性能
(1)登録製品の省エネ性能
エネファーム製品は省エネ法の対象にはなっていません。もともと省エネ性の高い製品であるためと思われます。ただし、エネファーム製品の性能を保証するための登録制度があり、その登録を認定するのが燃料電池普及促進協会(FCA)です。
ここでは、FCAに登録されている製品の状況を示します4)。表-5にエネファームの製造企業とその製品数を示します。製品を登録している企業は5社ですが、そのうちの2社はガス供給企業であり、他社の製品を販売しているので、製造しているのは3社と考えられます。
表-5に示すようにパナソニックはPEFCのみ、アイシンと京セラはSOFCのみを販売しています。使用できる燃料別の製品数は、アイシンは都市ガス用が14製品、LPガスは11製品、京セラは都市ガス用の4製品のみです。パナソニックは都市ガス用80製品、LPガス用21製品となっています。全登録製品数は130製品です。
表-5 エネファームの登録製品
種 類 | 燃 料 | アイシン | 京セラ | パナソニック | 合 計 |
---|---|---|---|---|---|
PEFC | 都市ガス | 0 | 0 | 80 | 80 |
LPガス | 0 | 0 | 21 | 21 | |
SOFC | 都市ガス | 14 | 4 | 0 | 18 |
LPガス | 11 | 0 | 0 | 11 | |
合 計 | 25 | 4 | 101 | 130 |
FCAの製品登録の要件(概要)は表-6の通りです。この要件のうち省エネ性を表すものは発電効率と総合効率です。PEFCの発電効率(低位発熱量基準)の要件は33%以上、SOFCのそれは40%以上です。また、熱回収率を含む総合効率はどちらも80%以上となっており、非常に高い省エネ性が要求されています。
なお、表-6より貯湯槽容量の要件は熱出力温度と発電効率により差異があり、これらが高いほど容量が小さく設定されています。温度が高く発電効率が高いほど高温の湯を迅速に供給できるためです。
表-6 FCAの製品登録に必要な主な要件
固体⾼分子形燃料電池(PEFC) | 固体酸化物燃料電池(SOFC) | |
---|---|---|
燃料電池関連 | ●定格運転時に0.5~1.5kWの発電出力があること。また、熱出力温度(燃料電池ユニット部出口における温水温度)は50℃以上であること。 ●燃料電池の排熱を回収し、熱を有効利⽤できる機構を持つこと。 ● 定格運転時における低位発熱量基準の発電効率33%以上、総合効率が80%以上であること。等 | ●定格運転時に0.5~1.5kWの発電出力があること。また、熱出力温度(燃料電池ユニット部出口における温水温度)は60℃以上であること。ただし、定格運転時における低位発熱量基準の発電効率が47%以上かつ熱出力温度が65℃以上の場合、発電出力は0.4kW以上とする。 ● 燃料電池の排熱を回収し、熱を有効利⽤できる機構を持つこと。 ● 定格運転時における低位発熱量基準の発電効率40%以上、総合効率が80%以上であること。等 |
貯湯関連 | ●燃料電池ユニットの排熱を蓄えられる貯湯槽を有すること。 ●貯湯容量が150L以上であること。 ただし、熱出力温度が55℃以上、かつ定格運転時におけるLHV基準の発電効率が35%以上の場合、120リットル以上。 なお、熱出力温度が55℃以上、かつ定格運転時におけるLHV基準の発電効率が38%以上の場合、90リットル以上。 | ●燃料電池ユニットの排熱を蓄えられる貯湯槽を有すること。 ● 貯湯容量が50L以上であること。 ただし、定格運転時におけるLHV基準の発電効率が47%以上の場合、25リットル以上、同発電効率が47%以上かつ熱出力温度が65℃以上の場合、20リットル以上 |
(2)代表的製品の省エネ性能
パナソニックとアイシンの代表的な製品を表-7に示します2)11)。両製品とも発電出力は700Wであり、燃料電池の形式はパナソニックはPEFC、アイシンはSOFCです。
パナソニックは燃料電池と貯湯槽が別々の構造であり、アイシンは貯湯槽が内部に取り込まれる構造となっています。そして、アイシンの特徴は熱源機(給湯機)を既存のものを使用できるとされており、燃料電池と既存の給湯器の両方で給湯を行う形式となっています。
表-7 パナソニックとアイシンの製品の一例
メーカー | パナソニック | アイシン | |
---|---|---|---|
品番 | FC-70NR13** | FCCS07C2NJ | |
発電出力 | 700W | 700W | |
燃料電池形式 | 固体高分子形(PEFC) | 固体酸化物形(SOFC) | |
エネルギー効率 (LHV) | 発電 | 41% | 55% |
熱回収 | 57% | 32% | |
総合 | 98% | 87% | |
貯湯温度 | 約60℃ | 約60℃ | |
貯湯槽容量 | 100L | 25L | |
ガス消費量(LHV) | 1.7kW | 1.3kW | |
質量(乾燥時/満水時) | 燃料電池 | 59kg / 64kg | 86kg/113kg |
貯湯槽 | 73kg/177kg | ||
外形寸法(mm) | 燃料電池 | H1,650×B400×D350 | H1,274×B600×D330 |
貯湯槽 | H1,650×B790×D350 | ||
停電時出力 | 最大500W | 最大700W | |
騒音値 | 燃料電池 | 37dB(A)(発電時) | 39dB(A) (ラジエータファン動作時) |
貯湯槽 | 49dB(A)以下 | ||
環境性能(CO2排出削減) | CO2:1.3t削減 | CO2:1.5t削減 | |
設計標準使用期間 | 10年 | 12年 |
出所)パナソニック、アイシンの公式Webサイト及び商品説明資料より
効率については、パナソニックが発電効率41%、熱回収効率57%、総合効率98%です。一方アイシンは発電効率55%、熱回収効率32%、総合効率87%です。アイシンの発電効率は非常に高いですが、パナソニックは熱回収率が高いため総合効率が100%に近いエネルギー効率となっています。
貯湯槽容量はパナソニックが100L、アイシンは25Lです。アイシンは発電効率の高さと熱出力温度の高さにより貯湯槽の容量を小さくでき、貯めた湯を使用するというよりも、従来の給湯器のように使用する時点で加熱して供給するというスタイルと思われます。その結果が熱回収率の違いに表れています。
寸法は表-7に示す通りであり、寸法から計算される設置面積はパナソニックが0.42m2(0.4×0.35+0.79×0.35)、アイシンは0.20m2(0.6×0.33)です。アイシンは貯湯槽が小さいため狭い面積で設置が可能です。また、質量もパナソニックは全体で約240kgですがアイシンは113kgと軽量です(いずれも満水時)。
環境性能として商品説明書には従来システムと比べてCO2排出量削減量がパナソニックは1.3t-CO2/年、アイシンは1.5t-CO2/年と書かれています。ただし、この計算結果は各社のそれぞれの計算条件での数値であるため、単純に比較することはできないと思われます。
また、エネファームは高度なエネルギー使用機器であるため、安全に使用できる期間として設計標準使用期間が設定されており、パナソニックは10年、アイシンは12年です。この期間が終了すると、点検および保安部品の交換が必要となり、販売店やガス事業者とのやり取りが必要になります。
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まとめ
ここではエネファームの原理、特徴を示し、家庭におけるエネルギー供給の位置づけ、長所、短所を整理しました。またその優れた省エネ性能、環境性能を考慮した国や自治体での普及を促進する助成対策と普及の実態を整理してきました。
まず、エネファームは燃料電池を使用したコジェネレーション(熱電併給)システムです。化石燃料(ガスや石油等)を利用して水素を生成し、空気中の酸素と反応させて発電し(水の電気分解の逆の反応)、その際に発生する熱を利用するというものです。
燃料電池自体は二酸化炭素を発生せず、発電効率も高く(40%~55%)、熱利用も含めた総合効率では70~90%にも達します。これに対して商用電源の発電効率は高くても50%程度、需要地までの送電ロスなどもあるためエネルギー利用効率は40%程度です。
これに比べるとエネファームのエネルギー利用効率は非常に高いと言えます。その結果、一次エネルギーを2割以上削減でき、CO2排出量も3割以上(メーカー試算値は1.3~1.5t-CO2/年)削減できるとされています。
このような省エネ性能、環境性能を考慮して、国や自治体でも助成措置が取られてきました。しかし、国が目標とした2030年までに530万台の導入に対して、2023年時点で50万台程度にとどまっており、普及が進んでいるとは言えません。
その原因として価格の問題があります。エネファームが登場した2009年時点の本体価格は300万円程度でしたが、2020年には100万円以下と価格の低下傾向が続いていますが、依然として他の給湯機器との差は大きいのです。
エネファームの導入により電気代、ガス代を合計したエネルギー料金は減少しますが、設置費用が高額で耐用年数が10年程度であり、10年を超えると点検などの維持管理費がかかるため、普及が進んでいないと思われます。
さらに、エネファームは単独では家庭の給湯必要量の全てを供給できるわけでなく、バックアップの熱源機(給湯機)が必要であることや、発電しているときしか熱を利用できない特性上、電力需要と給湯需要のパターンを一致させることを求められるなどが使用者の購入意欲を下げている可能性があります。
さらに、脱炭素社会に向けては化石燃料の使用を前提としていることから、現状における高い環境性能(CO2削減特性)も完全にCO2の削減を防止できないことが大きな課題と言えます。脱炭素社会に向けては、エネファームに水素を直接供給することや化石燃料ではないグリーン燃料(バイオ燃料、合成燃料等)を使用できる社会に移行することが求められます。
エネファームの導入効果については、特にコスト関係については今回十分な分析ができなかったため、次回はそれらの分析を行っていく予定です。また、水素社会への移行の動向についても今後取り上げていきます。
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<参考文献>
1)日本ガス協会:公式Webサイト、エネファーム(家庭用燃料電池)、エネファームとは、2024年2月20日閲覧
2)パナソニック:公式Webサイト、エネファームとは、燃料電池とは、2024年2月25日閲覧
3)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):NEDO水素エネルギー白書、2015年2月
4)燃料電池普及促進協会:公式Webサイト、家庭用燃料電池、2024年2月25日閲覧
5)コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)、燃料電池室:公式Webサイト、エネファームの販売台数、2024年2月25日閲覧
6)資源エネルギー庁:2030年におけるエネルギー需給の見通し参考資料、2021年8月4日
7)資源エネルギー庁:公式Webサイト、あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)、2022年4月22日
8)経済産業省:⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦の概要、令和5年度補正予算
9)東京都環境公社:エネファームの導入を東京都が支援します、パンフレット
10)ビューローベリタスジャパン、建築認証事業本部:建築物省エネ法、令和大改正版、2021年2月8日
11)アイシン:公式Webサイト、エネファームについて、製品情報、2024年2月25日閲覧