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エネファーム(2)-導入効果の定量分析~エコキュートとどちらが有利?

 前回はエネファームの原理、特徴(長所、短所)、普及の状況、普及施策などをまとめました。従来のシステムに比べてエネファームの運転経費(電気代とガス代)が安価になり、環境負荷(CO2排出量)が削減されることは分かりましたが、その根拠が明確ではありませんでした。

 それは公表されている資料では算定の根拠となる電力とガスの使用実態やそれらの料金が明確でないことです。そして、導入者にとって重要なのは高額な設備を導入する際の投資効果(元が取れるのか)ですが、それも示されていませんでした。

 給湯の省エネとコスト削減を検討している人にとっては、これまで検討してきたエコキュートやエコジョーズとの経済性を比べてみたいと思われる方もいると思います。そこで、今回はエネルギー需要(熱負荷)とエネルギー機器の熱効率を仮定したうえで、エネファームと他の給湯機器についてエネルギー消費と費用効果等の定量的な分析を行ってみました。

資源エネルギー庁:あらためて知る「燃料電池」~私にもできるカーボンニュートラルへの貢献(前編)

 結論を先に言うと、エネファームに提供されている各種の補助金を利用しても導入費用(本体価格と設置工事費)の元を取ることは難しそうです。エネファームの価格は低下してきていますが、現行の価格では依然として高額であることが原因です。

 ただし、CO2削減効果を考慮してカーボンプライシングの概念を加えて評価したところ、クレジット価格が3千円/t-CO2以上で元が取れることが分かりました。現在は一般家庭でクレジットの売買をすることありませんが、脱炭素社会では可能性があるかもしれません。

 また、エネファームは1次エネルギー消費量、CO2排出量、エネルギー代がエコキュート、エコジョーズなどの高効率ガス給湯器に比べて少ないですが、10年間稼働後の総費用は最も高い(ガスの一般契約料金の場合)ことが分かりました。これも設備費が高額なためです。ただし、ガス会社によってはエネファーム用の割引料金があるので、それを使うと費用は若干低下します。

 なお、CO2排出量についてはエネファームの商品説明書に書かれているCO2排出係数が火力発電所のものであり、これを用いることでエネファームのCO2排出削減効果を大きく見せていることが分かり、算定方法について留意すべきと思われました。

 脱炭素社会への移行を想定すると化石燃料を使うエネファームの優位性には疑問が持たれます。しかし、日本が進めようとしている水素社会ではその優位性が復活します。それらの具体的な内容については本文をご確認ください。

本報告のコンテンツ>
エネファームの導入効果の分析
(1)分析の条件
(2)エネルギー使用量の算定
(3)CO2排出削減効果
(4)エネルギー代の削減効果
 (a)電気料金、ガス料金
 (b)年間エネルギー代

エネファームの投資効果(費用対効果)
(1)補助金を考慮した費用効果
(2)カーボン・クレジットを考慮した費用効果

給湯方式別の導入効果の比較
(1)計算条件とエネルギー使用量
(2)1次エネルギー消費量
(3)CO2排出量
(4)年間エネルギー代
(5)総費用

まとめ

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エネファームの導入効果の分析

(1)分析の条件

 パナソニックの商品説明書において、環境性能(CO2削減量)が記載されています。その説明書に計算条件も書かれていますので、それをもとに導入効果(CO2削減効果及び電気・ガス代の軽減)を分析してみます1)

<パナソニックのエネファームの計算条件>
①エネルギーの年間負荷(戸建(延床面積120m²)、4人家族を想定)
 給湯:16.2GJ、風呂保温:1.3GJ、冷房:8.7GJ、床暖房:10.8GJ、エアコン暖房:2.9GJ、調理:2.2GJ、照明他:16.1GJ
②電力需要
 ガス温水床暖房所有のガス・電気併用住宅の電気使用量:5,714kWh/年
③使用機器
 従来システム:ガス給湯暖房機、ガス温水床暖房(居間)、ガスコンロ、居間以外の暖房および冷房は電気エアコンを使用
 エネファーム:エネファーム、ガス温水床暖房(居間)、ガスコンロ、居間以外の暖房および冷房は電気エアコンを使用
④エネファームのエネルギー効率(パナソニックの製品の性能)
 発電効率:40%、熱回収率:57%
⑤CO₂排出係数
 都市ガス:2.29kg-CO₂/m³(ガス会社データ)
 電気:0.65kg-CO₂/kWh(「地球温暖化対策計画(2021年)」における2013年度火力発電の平均排出係数)

 従来システムとエネファームの熱負荷の相違を図-1に示します。エネファームで発電した電気を照明他で使用し、発電による排熱を給湯に使用します。

出所)パナソニックのエネファームの商品説明書
図-1 熱負荷の条件

(2) エネルギー使用量の算定

 上記の前提条件をもとに、エネファームの導入前後での電気、ガスの使用量を算定すると表-1の通りです。従来システムでは冷房、エアコン暖房、照明他は電気を使用し、残りはガスを使用します。エネファームの場合はエアコンの冷房、暖房は電力会社からの電気を使用しますが、照明他はガスを使って発電した電気と電力会社からの電気を使うことになります。

表-1 エネファーム導入前後の電気、ガスへの熱負荷の分担

 給湯 風呂保温 冷房  床 暖 房 エアコン暖房 調理  照 明 他  合計 
負荷(GJ)16.21.38.710.82.92.216.158.2
①従来システム電  気8.72.916.138.5
ガ ス16.21.310.82.219.7
②エネファーム電 気8.72.95.422.4
ガ ス16.21.310.82.210.735.8
出所)パナソニックの環境性能算定における計算条件より作成

 図-2に示すようにエネファームで発電する電気の出力は700Wであるため、700Wを超える電気は電力会社から購入します2)。また夜間は発電を停止するので夜間の電気も電力会社から購入します。ここでは、電力会社からの購入量とエネファームからの供給量の比を1:2と仮定します。この仮定より、照明他の電気はエネファームから10.7GJ、電力会社から5.4GJ供給すると算定されます。

図-2 エネファームの運転条件による電力会社と発電からの供給電力

 次に、これらの負荷をもとに熱利用機器が負担する際のエネルギー使用量(電気とガス)を算定します。機器には熱損失があるため、この負荷に対して熱効率を考慮して各エネルギー使用量を算定します。

 エネファーム導入前の負荷毎のエネルギー使用量の算定結果が表-2です。ガス器具の熱効率はこれまで本サイトで調査してきた結果を用いています。またエアコンの熱効率も定常運転時に用いられるCOP3.0を用いています。

 この結果より、ガス使用量は878m3、電気使用量は5,547kWhとなりました(計算過程は下のコラムに示します)。この電気使用量は計算条件に示された「電気使用量:5,714kWh/年」と概ね一致しています。従ってここで仮定した各エネルギー機器の熱効率が概ね妥当であったことが分かります。

表-2 従来システム(エネファーム導入前)のエネルギー使用量

負荷の種類負荷量(GJ)使用エネルギー熱効率エネルギー使用量単位
給 湯16.2ガス80%450878m3
風呂保温1.3ガス75%39
調 理2.2ガス55%89
床暖房10.8ガス80%300
照明他16.1電気1.04,4725,547kWh
冷 房8.7電気3.0806
エアコン暖房2.9電気3.0269
合 計58.2
注)都市ガス熱量:45MJ/m3、エアコンの成績係数(COP):3.0を設定。ガス機器の熱効率はこれまでの報告の結果をもとに設定。
<エネファーム導入前の負荷毎のエネルギー使用量の計算>

(1)ガス使用量
 ・給湯: 16.2×1,000/0.80/45=450 m3
 ・風呂保温: 1.3×1,000/0.75/45=39 m3
 ・調理: 2.2×1,000/0.55/45=89 m3
 ・床暖房: 10.8×1,000/0.80/45=300 m3

(2)電気使用量
 ・照明他:16.1×1,000/1.0/3.6=4,472kWh
 ・エアコン暖房: 8.7×1,000/3.0/3.6=806 kWh
 ・冷房: 2.9×1,000/3.0/3.6=269 kWh

 次に、エネファーム導入後のエネルギー使用量を算定した結果を表-3に示します。照明他の負荷のうち5.4GJ(1,500kWh)は電力会社から購入します。残りの10.7GJ(2,970kWh)はエネファームにより都市ガスを用いて発電して供給します。

 これを発電するためのガス量を算定すると594m3となります(発電効率40%)。さらにそのガス量の持つ熱量の57%を回収できますので、339m3(594×0.57)が節約できることになります1)。これらの結果より、エネファームを導入した場合のガス使用量は1,133m3、電気使用量は2,575kWhとなります。

表-3 エネファーム導入後のエネルギー使用量

負荷(GJ)使用エネルギー熱効率エネルギー使用量単位
給 湯16.2ガス80%4501,133m3
風呂保温1.3ガス75%39
調 理2.2ガス55%89
床暖房10.8ガス80%300
照明他10.7ガス(発電)40%594
ガス(熱回収)57%-339
5.4電気1.01,5002,575kWh
冷 房8.7電気3.0806
エアコン暖房2.9電気3.0269
合 計58.2
注)都市ガスの発熱量45MJ/m3。パナソニック説明書より、エネファームの発電効率40%、熱回収率57%を設定。
<エネファーム導入後の負荷毎のエネルギー使用量の計算>

(1)ガス使用量
 ・給湯: 16.2×1,000/0.80/45=450 m3
 ・風呂保温: 1.3×1,000/0.75/45=39 m3
 ・調理: 2.2×1,000/0.55/45=89 m3
 ・床暖房: 10.8×1,000/0.80/45=300 m3
 ・照明他:10.7×1,000/0.40/45=594 m3
 ・発電で発生した熱に相当するガス量:594×0.57=339 m3 (ガスの量を節約できます)

(2)電気使用量
 ・照明他: 5.4×1,000/1.0/3.6=1,500 kWh
 ・エアコン暖房: 8.7×1,000/3.0/3.6=806 kWh
 ・冷房: 2.9×1,000/3.0/3.6=269 kWh

 エネファームの導入によるエネルギーの変化を図-3に示します。エネファームの導入後はガス使用量は255m3増加し(3割増)、電気使用量は2,972kWh減少(5割以上減)したことになります。ガスの増加量に対して電気の減少量の方が大きいことが分かります。

図-3 エネファームの導入によるエネルギーの変化

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(3) CO2排出削減効果

 これらの結果より、CO2排出量を算定すると表-4の通りです。電気、ガスのCO2排出係数はパナソニックの商品説明書にある数値を採用しています。電気のCO2排出係数は0.65kg-CO2/kWhと、火力発電の数値(2013年設定値)を採用しています。

 これは、CO₂削減効果の算定には対策により影響を受ける電源(マージナル電源)のCO₂排出係数を用いて計算することが必要であり、日本ではマージナル電源は火力電源と考えることが合理的であるという理由によります3)。多くのメーカーの商品説明書でこの数値が使用されています。

 従来システムのCO2排出量が5,616kg-CO2であるのに対して、エネファームでは4,268kg-CO2となっており、その差は1,348kg-CO2となります(表-4)。これは、パナソニックの商品説明書にある1.3t-CO2と一致しています1)

表-4 エネファームの導入によるCO2排出削減量

エネルギー使用量
(kWh,m3/月)
CO2排出係数
(kg-CO2/kWh,m3)
 CO2排出量 
 (kg-CO2) 
従来システム電気5,5470.653,6065,616
ガス8782.292,011
エネファーム電気2,5750.651,6744,268
ガス1,1332.292,595
導入効果(CO2削減量)1,348
注)電気はマージナル電源である火力発電のCO2排出係数(2013年度実績)を用いる。

(4)エネルギー代

(a)電気料金、ガス料金

 電気料金とガス料金の実績より使用量当りの料金単価を表-5の通り設定しました。付録にそれぞれのエネルギー使用量と料金単価の関係を示します。エネルギー料金には燃料費調整額と国からの補助金が含まれます。燃料費調整額は電気料金改定後の2023年6月から2024年3月までの平均値を採用しました。なお、補助金は2024年6月までで終了しますので、ここでは考慮しません。

 電気、ガス料金は使用量に応じて単価が変わりますので、年間使用量から月平均値を算定しそれに対応する料金単価を設定します(付録参照)。具体的には電気の年間使用量5,547kWh/年から月平均使用量462kWh/月を算定し、その料金単価35.3円/kWhに年間使用量を乗じて年間電気代を算定します。

表-5 エネファームの経済効果(エネルギー料金)

年間使用量
月平均使用量
エネルギー代導入効果
(E/年)(E/月)料金単価
(円/E)
金額(円)合計(円)削減額
(円)
削減率
(%)
従来
システム
電気5,54746235.3195,809357,625
ガス87873184.3161,815
エネファーム
一般契約
電気2,57521534.889,610294,45663,16917.7
ガス1,13394180.8204,846
エネファーム
割引料金
電気2,57521534.889,610274,03783,58823.4
ガス冬期680136157.1106,828
ガスその他45365171.377,599
注)単位のEは電気はkWh、ガスはm3を意味する。電気料金は東京電力の従量電灯B(契約電流40A)、ガス料金は東京ガスの料金体系を採用。電気、ガスの料金単価は月平均使用量をもとに設定。ガス使用量の実績から冬期:その他期=6:4と仮定して算定。

 また、ガスは前回の報告で示したように、一般の契約料金とエネファーム用の料金が設定されている事例(東京ガス)があるので、その2ケースを設定します。エネファーム用の料金単価は冬期(12月~4月)とその他期(5月~11月)別に単価が設定されており、ガスの季節別使用量の傾向をもとに単価を計算しています。

(b)年間エネルギー代

 以上の料金単価を用いて年間のエネルギー代を計算すると表-5の通りです。エネファームの導入効果(エネルギー代軽減額)は一般契約料金では約63.2千円(削減率17.7%)、エネファーム用の割引料金では83.6千円(削減率23.4%)の効果となっています。

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エネファームの投資効果(費用対効果)

(1) 補助金を考慮した費用効果

 エネファームの導入を検討している方のために、その投資効果を分析します。ここでの投資効果とは一般的な給湯器(従来システム)に代えてエネファームを採用した時の費用と効果の差を指すこととします。ここで費用はエネファームと従来システムとの差(追加費用)、効果は従来システムに対するエネルギー代の軽減額です。

 ここではガス料金を一般契約料金とエネファーム用料金の2つのケースの投資効果を分析します。まず、エネファームの投資費用については本体価格と設置費込みで1,300千円4)、従来システムの費用は150千円5)と仮定します。耐用年数は10年とし、10年間の保守、維持管理費はゼロとします(設置費に含む)。

 さらに、補助金として経済産業省より200千円、東京都から70千円の補助を受けると仮定します(前回報告を参照ください)。これらより補助金を控除した投資額は1,030千円(=1,300-200-70)であり、従来システムとの差額は880千円(1,030-150)です。エネファームの導入効果はエネルギー代の10年間の軽減額です。

 これらの算定結果より費用効果は図-4の通りです。図-4よりガス料金がエネファーム用の割引料金でも効果と費用の差はマイナスです。現状におけるエネファームの設備費が高額なため従来型のシステムとの比較では投資効果がプラスにはならないことが分かります。

図-4 エネファームのコストと効果(エネルギー代軽減額)の比較

(2) カーボン・クレジットを考慮した費用効果

 エネファームは1次エネルギー消費量を大きく削減でき、またCO2削減効果も大きいことから、個人の経済効果のみではなく社会全体の効果を把握してみます。ここでは、CO2の削減効果を金銭的な価値として換算した結果を紹介します。

 CO2の削減量はカーボン・クレジットとして経済価値に置き換えることができます。現在、JPX市場ではCO2の環境価値を売買しており、その価値を効果として見込みます。表-6に示す通り日本のCO2クレジットの価格は2,000~3,000円/t-CO2で取引されています6)

表-6 日本のカーボン・クレジット市場での取引状況

クレジットの種類約定値段(円/ t-CO2累計売買高
(t-CO2
加重平均 安値~高値
省エネルギー1,6651,510~2,85062,898
再生可能エネルギー(電力)3,0322,601~3,900136,068
再生可能エネルギー(熱) 2,2822,000~2,480122
J-クレジット 森林 8,0956,046~9,900 64
J-VER(未移行)森林8,4508,450~8,45052
合   計 199,204
出所)日本取引所グループ(JPX):公式Webサイト、カーボン・クレジット市場、直近のニュース・イベント、市場開設以降の売買状況、2024年1月17日

 ここでは、クレジット価格を3ケース(3,000、5,000、10,000円/t-CO2)設定して費用効果を算定します。エネファーム用のガス料金で効果を算定した結果にカーボン・クレジットを付加した結果を図-5に示します。クレジット価格が3千円でほぼ追加費用に近づき、5千円の場合は追加費用を上回ることが分かります。

 クレジット価格は欧州で100ユーロ(現在の為替レートで約16,000円)に達したこともあり、脱炭素社会でクレジット価格がこのレベルになった場合にはエネファームの導入も進むかもしれません。

 また、エネファームの価格があと5万円低下すればクレジットを要しなくても元は取れるでしょう。ただし、エネファームの補助金は不確定の部分も多く(特に国の補助金)、エネファーム用の割引料金もガス会社によって異なるので、購入の時点ではよく検討することが必要です。

図-5 カーボンクレジットを考慮したエネファームの導入による費用と効果

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給湯方式別の導入効果の比較

(1)計算条件とエネルギー使用量

 ここでは、これまでに本サイトで取り上げてきた高効率給湯器とエネファームを比較します。比較する給湯器はエコキュート、エコジョーズであり、参考に一般の給湯器(従来システム)も対象とします。

 計算条件として熱利用機器の負荷を表-7に示します。4ケースとも、調理(ガスコンロ)、床暖房(ガス)、冷房・エアコン暖房(電気)は共通です。エコキュートは給湯、風呂保温が電気(ヒートポンプ)、エネファームは照明他が電気とガスの併用です。

 ヒートポンプを用いた熱利用機器の熱効率(COP)については、エアコンは3.0、エコキュートは2.5とします。照明他の熱効率は1.0です。ガスコンロの熱効率は55%、エコジョーズの熱効率は従来システムより15%ほど高く95%です。

 これらはこれまでの報告で説明してきた数値を採用しています。給湯器の性能の詳細については以下のコラムに示すサイトを参照ください。

<給湯器等の関連サイト>

・従来のガス給湯器の説明
 ガス温水器のエネルギー消費効率

・エコキュートの説明
 エコキュートのエネルギー消費効率

・エコジョーズの説明
 ガス給湯器(1)-省エネ性能 

・給湯器の省エネ性の比較
 電気温水器ーエコキュートの省エネ性能

・ガスコンロの説明
 ガスコンロのエネルギー消費効率
 

表-7 各給湯器が使用する負荷別のエネルギーと熱効率

 給湯 風呂保温 冷房 床暖房エアコン暖房 調理 照明他
負荷(GJ)16.21.38.710.82.92.216.1
①従来システム電気3.03.01.0
ガス80%75%80%55%
②エネファーム電気3.03.01.0
ガス80%75%80%55%発電40%
熱回収57%
③エコキュート電気2.52.53.03.01.0
ガス80%55%
④エコジョーズ電気3.03.01.0
ガス95%90%80%55%
注)負荷の値はパナソニックの資料に基づく。熱効率は熱利用機器の性能値をもとに設定。

(2)1次エネルギー消費量

 上記の計算条件でそれぞれの電気使用量とガス使用量を算定した結果を表-8に示します。エコキュートの電力使用量は7,491kWhと大きくなりますが、ガスは389m3と少なくなります。一方、エコジョーズについては電気使用量は従来システムと同じく5,547kWhですが、ガス機器の熱効率が高いためガス使用量は753m3と少なくなっています。

表-8 給湯方式別の1次エネルギー消費量、CO2排出量の計算結果

エネルギー1次エネルギー(MJ)CO2排出量(kg-CO2
使用量
(E)
原単位
(MJ/E)
計算値
(MJ)
合 計
(MJ)
排出係数
(kg-CO2/E)
計算値
(kg-CO2)
合 計
(kg-CO2
①従来
システム
電気5,5479.41852,24291,7520.653,6065,617
ガス8784539,5102.292,011
②エネ
ファーム
電気2,5759.41824,25175,2360.651,6744,269
ガス1,1334550,9852.292,595
③エコ
キュート
電気7,4919.41870,55088,0550.654,8695,760
ガス3894517,5052.29891
④エコ
ジョーズ
電気5,5479.41852,24288,2420.653,6065,438
ガス8004536,0002.291,832
注)単位のEは電気はkWh、ガスはm3を意味する。電気の1次エネルギー原単位は9.418MJ/kWh(経済産業省資料より)、ガスのそれは45MJ/m3(都市ガス会社資料より)。

 これらから1次エネルギー(熱量ベース)を計算すると図-6の通りです。なお電気の1次エネルギー原単位は経済産業省資料より9.418MJ/kWhを使用しています7)。都市ガスのそれは45MJ/m3です8)。この結果、エネファームの1次エネルギーは75.2GJと最も少なく、次いでエコキュート(88.1GJ)、エコジョーズ(88.2GJ)の順となりました。

図-6 給湯方式別の1次エネルギー消費量

(3)CO2排出量

 各給湯器のCO2排出量は図-7の通りです。この結果ではエネファームが4.27t-CO2と最も少なく、次いでエコジョーズの5.44t-CO2であり、エコキュートは従来システムより大きい5.76t-CO2となっています。エコキュートのCO2排出量が多いのは電気のCO2排出係数を火力発電の数値を使っているからです。

図-7 給湯方式別のCO2排出量(電力のCO2排出係数:0.65 kg-CO2/kWh)

 この火力発電のCO2排出係数を使うことは日本ガス協会が推奨していました。このようにすることで高効率ガス給湯器のCO2排出削減効果を大きく示すことができるためです。しかし、電気を使う給湯器との比較においてこの数値を適用するのはフェアではないように思います。

 そこで電気のCO2排出係数を現行の電源構成のものにして計算すると図-8の通りです。ここでは2021年度の日本全国の平均CO2排出係数である0.434kg-CO2/kWhを使用しています9)。この結果、全体の排出量はどの給湯方式も減少していますが、特にエコキュートの減少量は大きくなっています。その結果エコキュートのCO2排出量は4.14t-CO2とエコジョーズより小さくなりました。

図-8 給湯方式別のCO2排出量(電力のCO2排出係数:0.434 kg-CO2/kWh)

 さらに、日本のエネルギー基本計画では2030年には再エネ、原発が6割を占めるためCO2排出係数が0.263 kg-CO2/kWhとなります10)。これを用いて計算した結果を図-9に示します。エコキュート(2.86t-CO2)がエネファーム(3.27t-CO2)を逆転することが分かります。

図-9 給湯方式別のCO2排出量(電力のCO2排出係数:0.263 kg-CO2/kWh)

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(4)年間エネルギー代

 年間のエネルギー代を給湯方式別に算定すると表-9の通りです。年間エネルギー使用量を月平均に換算し、これに月別料金単価を乗じて算定しました。月別料金単価は付録に示しています。電気料金単価は消費電力量によって大きな差はありませんが、ガス料金単価はガス使用量が多いほど安くなっています。

表-9 給湯方式別の年間エネルギー代

エネルギー使用量
(E/年)
月平均エネルギー
使用量(E/月)
使用量当り
単価(円/E)
年間エネルギー代
(円)
エネルギー代
合計(円)
従来システム電気5,54746235.3195,809357,624
ガス87873184.3161,815
エネファーム①電気2,57521534.889,610294,456
ガス1,13394180.8204,846
エネファーム②電気2,57521534.889,610274,037
ガス1680136157.1106,828
ガス245365171.377,599
エコキュート電気7,49162435.7267,429346,357
ガス38932202.978,928
エコジョーズ電気5,54746235.3195,809344,289
ガス80067185.6148,480
注)単位のEは電気はkWh、ガスはm3を意味する。エネファーム①のガス料金は一般契約料金、エネファーム②はエネファーム用の割引料金でガス1は冬期(12月~4月)、ガス2はその他期(5月~11月)。エネルギー料金の月単価は付録を参照。

 年間のエネルギー代の算定結果を図-10に示します。最も年間エネルギー代が安いのはエネファーム①(割引料金)で274千円、次いでエネファーム②(一般契約料金)で294千円であり、次いでエコジョーズ(344千円)、そしてエコキュート(346千円)の順でした。エネファームは7割がガス代ですがエコキュートは8割が電気代です。

図-10 給湯方式別の年間エネルギー代

(5) 総費用

 給湯方式別の総費用を比較したものが図-11です。総費用とは、設置費(補助金を考慮)と10年間のエネルギー代の合計です。これを見ると、最も安いのはエコジョーズ(3,693千円)、次いで従来システム(3,726千円)となり、エネファーム②(割引料金、3,770千円)、エコキュート(3,914千円)、エネファーム①(一般契約料金、3,975千円)の順になりました。

注)設置費:従来システム150千円、エコキュート550千円、エコジョーズ250千円
補助金:エネファーム270千円、エコキュート100千円、他は0円とした。
図-11 給湯方式別の総費用

 エネファームは割引料金ではエコキュートよりも安いですが、一般契約料金では最も高額になってしまいました。エネファームの水素製造を伴う高度なエネルギー利用システムが高額な設備費用となってしまうためです。

 一般の料金では総費用が最も高額になるエネファームですが、将来の脱炭素社会においては状況は変わるものと想定されます。それは日本においては化石燃料の代替として水素を普及させる構想があるからです13)

 水素供給のインフラが整備され、水素が一般の世帯に導管を通じて供給される場合はエネファーム設備を簡略化でき(改質器が不要な純水素家庭用燃料電池)、大幅に設備費が軽減されます。その場合はエネルギー代が安いエネファームが他の給湯器に代わって普及していくでしょう。

 この水素は再生可能エネルギー等で製造されるグリーン水素です。エネファームがグリーン水素を使って発電し排熱を利用しても、CO2は排出されない脱炭素社会が実現する可能性があるのです。日本が進める水素社会については次回の報告で紹介していきたいと思います。

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まとめ

 今回はエネファームの省エネ性能、環境性能を定量的に把握しました。導入する方にとって重要である費用効果についても分析を加えました。また、高効率給湯器であるエコキュート、エコジョーズとの比較も行いました。

 まず、製品の説明書にある家庭の熱負荷モデルをもとに、家庭でのエネルギー使用量を算定しました。説明書には詳しいパラメータは示されていませんが、各熱利用機器の熱効率を設定することで説明書に示された環境負荷(CO2削減量:1.3t-CO2/年)と一致することを確認できました。

 この条件の下で最新の電気料金、ガス料金実績(東京電力、東京ガス)を用いて年間のエネルギー代を算定した結果、ガスの一般契約料金では18%、エネファーム用料金では23%のエネルギー代が従来システムに比べて削減できることが分かりました。

 次に、エネファームの費用効果を分析しました。ここでの費用は従来システムに対する追加費用です。エネファームには国と自治体で補助金が設定されており、それを考慮しました。経済産業省の資料ではエネファームの設置費用は1,300千円、国の補助金が200千円、東京都のそれは70千円であるため、補助金を控除した設置費用は1,030千円となります。従来システムの設置費は150千円のため、追加費用は880千円となります。

 一方、効果はエネルギー料金の削減額であり、エネファーム用の割引料金の場合は10年間(耐用年数)で836千円となります。費用と効果を比較するとわずかに効果が費用を上回ることはできません。そこでカーボンプライシングの概念を用い、CO2削減効果(1.3t-CO2/年)にクレジットを乗じてその効果を算定すると、3千円/t-CO2で効果と費用がバランスすることが分かりました。

 そして、高効率給湯器であるエコキュート、エコジョーズと1次エネルギー消費量、CO2排出量、年間エネルギー代を比較するといずれもエネファームが優位性を有していました。しかし、総費用(設置費用と10年間のエネルギー代)はエネファームが最も高額となりました(ガス料金が一般契約の場合)。

 ただし、CO2排出量についてはエネファーム製品の商品説明で使われている排出係数が火力発電の数値であるため、これを現行の日本の平均電源構成に基づく数値で計算するとエコキュートに近づき、2030年の電源構成(予想値)ではエコキュートが逆転していました。

 なお、今回の計算ではエネルギー使用における条件やエネルギー料金単価などを仮定しています。この条件が変わるとその結果も変わってくるため、導入に当たってはそれぞれの条件を設定して検討することをお勧めします。特にガスと電気の使用量については結果に大きな影響を与えますので、留意してください。

 今後、電力の脱炭素化が進められていく過程では、CO2排出量はエコキュートが優位になっていくことが分かります。ただし、エネファームは化石燃料をグリーン水素に置き換えることでCO2排出量を低減させることができます。

 エネファームの燃料電池システムは、ガスを改質して水素を生成させて発電しますが、これを直接水素(グリーン水素)を供給することでCO2排出量は大きく低減します。水素を直接供給する場合は改質器が不要になること(純水素型燃料電池システム)で、大幅な低コスト化が可能となります13)

 今後、燃料電池自動車用の水素ステーションの整備に伴い、市街にも水素供給インフラが整うことにより、純水素型家庭用燃料電池の利用が広がる可能性があります。一般世帯への水素の供給が実現するかどうかは今後の施策にかかってきます。次回は水素エネルギーに関する施策の状況などを報告する予定です。

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付録 電気料金、ガス料金について

(1)電気料金

 東京電力エナジー・パートナー(東京電力EP)の東京地区、従量電灯Bの料金体系を付表-1に示します11)。再エネ賦課金は2023年5月から1.4円/kWhに減少しています。

付表-1 東京電力、東京地区、従量電灯Bの料金体系

項 目区 分数  値
基本料金
(円/月)
10A295.24
15A442.86
20A590.48
30A885.72
40A1180.96
50A1476.20
60A1771.44
電力量料金(円/kWh)-120kWh30.00
120-30036.60
300kWh-40.69
再エネ賦課金(円/kWh) 1.40
燃料費調整額単価(円/kWh) -5.00
出所)東京電力EP:公式Webサイト、電気料金プラン一覧、関東地区、規制料金プラン(従量電灯B・C)、料金単価、2024年3月12日閲覧

 燃料費調整額は発電原料となる燃料代の変動によって決定されます。これは料金改定をした2023年6月から2024年3月までの平均値を用います。燃料費調整額の実績を付表-2に示していますが、この期間の燃料費は改定時のそれより低下しているためマイナスの数値です。

 表中の調整額Aは国の補助金を考慮した数値となっているためこれを控除したものが真の調整額(A+B)となります。この真の調整額の平均値は-5.00円/kWhですので、これを料金算定に用います。なお、国の補助金は2024年7月以降はなくなりますので、ここでは考慮しません。

付表-2 電気料金の燃料費調整額の設定

項目6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月平均
調整額 A-8.78-9.95-11.21-12.22-9.23-9.47-9.67-9.65-9.56-9.28
補助金 B77773.53.53.53.53.53.5
A+B-1.78-2.95-4.21-5.22-5.73-5.97-6.17-6.15-6.06-5.78-5.00
注)単位は円/kWh。補助金は2024年5月まで3.5円/kWh、6月1.8円/kWhで、7月以降はなくなります。
出所)東京電力EP:公式Webサイト、電気料金プラン一覧、関東地区、規制料金プラン(従量電灯B・C)、料金単価、2024年3月12日閲覧

 この条件の下で電気使用量に対する料金単価(使用量当り料金)を算定したものが付図-1です。使用量が120kWh、300kWhで傾向が変わっていますが、300kWhまでは低減傾向、300kWh以上は上昇傾向にあります。付図-1を見ると概ね35円/kWhとなっています。

注)東京電力EP)、関東地区、従量電灯B、契約電流30Aと40Aの料金単価を示す。
再エネ賦課金1.4円/kWh、燃料費調整額は-5.0円/kWhを採用。
付図-1 電気使用量による電気料金単価

(2)ガス料金

 東京ガスの関東地区の料金体系を付表-3に示します12)。同表では一般契約料金とエネファーム用の割引料金を示しています。エネファーム用の料金は使用量が多いほど従量料金単価が安くなるように設定されています。

 付表-4に示すように燃料費調整額(補助金を考慮しない)を電気料金と合わせるために2023年6月から2024年3月までの平均として設定します。国の補助金はなくなりますので、それを控除したものの平均は39.4円/m3となります。

付表-3 東京ガス、関東地区のガス料金体系

項 目分 類一般契約エネファーム
冬期その他期
基本料金(円/月)A  0~20759759759
B  21~801,0561,4851,485
C  81~2001,2321,925
D  201~5001,892
E  501~8006,292
F  801~12,452
従量料金単価(円/m3A  0~20145.31145.31145.31
B  21~80130.46109.01109.01
C  81~200128.26103.51
D  201~500124.96
E  501~800116.16
F  801~108.46
燃料費調整額(円/m339.439.439.4
出所)東京ガス:公式Webサイト、ガス料金表、東京地区等、2024年3月12日閲覧

付表-4  ガス料金の燃料費調整額の設定

項目6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月平均
調整額 A22.7413.564.57-1.1412.4411.9912.2613.4215.1119.30
補助金 B30303030303030301515
A+B52.7443.5634.5728.8642.4441.9942.2643.4230.1134.339.4
注)単位は円/m3 。補助金は2024年5月まで15円/m3、6月7.5円/m3で、7月以降はなくなります。
出所)東京ガス:公式Webサイト、ガス料金表、東京地区等、2024年3月12日閲覧

 この条件の下でガス使用量に対する料金単価(使用量当り料金)を算定したものが付図-2です。使用量が100m3までは大きく変動していますが、100m3を超えると直線的に減少傾向となっています。ガスの料金単価は使用量が多いほど低下していく逓減型料金体系です。一般契約料金とエネファーム用料金との差は概ね20円/m3程度です。

 なお、東京ガスはガス温水床暖房、ガス浴室暖房乾燥機とセットでエネファームを使う際の割引料金も提供していますがその詳細は公開されていないためここでは示しません。この場合はさらに料金単価が低額になるとのことです。

出所)東京ガス:公式Webサイト、ガス料金表、東京地区等
付図-2 ガス使用量によるガス料金単価

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<参考文献>

1)パナソニック:公式Webサイト、家庭用燃料電池「エネファーム」、商品ラインアップ、戸建住宅向け標準モデル、2024年3月7日閲覧
2)日本ガス協会:公式Webサイト、エネファーム、エネファーム(家庭用燃料電池)の特長、2024年3月12日閲覧
3)日本ガス協会:公式Webサイト、地球環境への取り組み、地球環境CO₂削減対策の効果と電気のCO₂排出係数について、2024年3月12日閲覧
4)資源エネルギー庁:⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦の概要(2023年度補正予算)
5)東京ガス:公式Webサイト、個人のお客様向け、ガス機器見積もり・交換、2024年3月12日閲覧
6)日本取引所グループ(JPX):公式Webサイト、カーボン・クレジット市場、直近のニュース・イベント、市場開設以降の売買状況、2024年1月17日
7)経済産業省:エアコンディショナー及び電気温水機器判断基準ワーキンググループ、電気温水機器の取りまとめ(2021年3月)
8)東京ガスネットワーク:公式Webサイト、都市ガスについて、都市ガスの種類・熱量・圧力・成分、2024年3月12日閲覧
9)資源エネルギー庁:電気料金及び電気事業制度について、温対法に基づく事業者別排出係数の算出及び公表について(電気事業者別排出係数)、2023年5月22日
10)電力中央研究所:電力中央研究報告-日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価、2016.(2030年の電源構成は最新のエネルギー基本計画をもとに算定)。
11)東京電力EP:公式Webサイト、電気料金プラン一覧、関東地区、規制料金プラン(従量電灯B・C)、料金単価、2024年3月12日閲覧
12)東京ガス:公式Webサイト、ガス料金表、東京地区等、2024年3月12日閲覧
13)再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議:水素基本戦略、2023年6月6日