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消費電力量と気温の関係(1)

 今回は消費電力量と気温の関係について考察したので報告します。恐らく今回の報告だけでは十分な検討結果を示せないと思われるため、「その1」として報告します。9月27日の報告で2020年と2021年8月の消費電力量の比較を行いました(「2021年8月の消費電力を前年と比較」を参照ください)が、機器の買い換えなどでは十分説明できない部分があり、気温の影響もあるものと思われました。特に、その後に得られた2021年9月の消費電力量の結果を見て、さらにその思いを強くしましたので、今回は9月の消費電力量と気温の影響を分析した結果を報告します。

2021年9月の消費電力量

 まず、2021年9月と2019年、2020年の同じ月のX氏宅の消費電力量の推移を下図に示します。2019年と2020年の消費電力量(それぞれ443.4、443.7kWh/月)は同レベルの値です。一方、2021年は190.9kWh/月(1日平均6.4kWh/日)とこれらの43%まで大きく低下しています(57%の節電)。しかし、この差は単に前年との差をとったものであり、前年とは気温の条件が異なっているため、節電対策のみによるものかどうか分かりません。

出所)東京ガス、会員サイト「myTOKYOGAS」

 また、2021年9月の同種世帯(家族数2人)の消費電力量(275.3kWh/月)と比較すると3割程度少ないことが分かります(下図)。この結果より、8月よりも節電の効果が大きく現れてきたものと思われます(8月は同種世帯比6.5%減)。この消費電力量において、9/1と9/23~9/25は同種世帯に近い値あるいは超える値となっていますが、これはエアコンの稼働によるものと想定されます。2021年の9月は比較的涼しく、9/1と9/23~9/25以外は冷房を使うことはなく、エアコンを利用した日は同種世帯と同じような消費電力量となっています。

出所)東京ガス、会員サイト「myTOKYOGAS」

 下図に過去3年の9月の最高気温データを示しています。下図から2021年の9月上旬は他の年に比べて非常に低い気温となっているのが分かります。そして、2021年は最高気温が30℃を大きく超えているのは9/23~9/25の3日間であることが分かります。9/1は8月の継続でエアコンを使用していましたが、気温が下がったため9/2からエアコンを使用することはなく、9/23からの3日間の暑さでエアコンが復活したため、消費電力量が5kWh/日程度上がったということが分かります。2021年は気温が低いためエアコンの使用頻度が少なく、消費電力量の違いが出ていたものと思われます。

出所)国土交通省気象庁、過去の気象データ、東京・練馬地点の気温

2019年、2020年9月の気温と消費電力量との関係

 過去3年分の9月の気温、消費電力量の半旬平均値を集計したものを下表に示します。半旬平均値の「半旬」とは5日間のことを指し、1日単位の比較では家庭での行動の相違の影響が大きいため(買い物などの外出や、洗濯等の行動など)、5日分の平均値をとっています。この表から先程説明したように2021年の第1半旬(9/1~9/5)と第2半旬(9/6~9/10)の各種の気温(最高、平均、最低)も他の2年より非常に低いことが分かります。

表-1 気温、消費電力量の9月半旬データ(2019~2021年)

項 目第1半旬
(9/1-5)
第2半旬
(9/6-10)
第3半旬
(9/11-15)
第4半旬
(9/16-20)
第5半旬
(9/21-25)
第6半旬
(9/26-30)
最高気温
(℃)
201930.034.828.227.728.728.9
202032.732.929.027.923.723.9
202122.224.628.427.629.025.3
平均気温
(℃)
201926.129.124.423.324.224.0
202027.728.124.924.920.819.8
202120.221.224.122.924.521.1
最低気温
(℃)
201923.124.321.120.020.320.0
202024.224.921.622.318.416.4
202118.718.121.319.120.517.4
消費電力量
(kWh/日)
201915.216.314.313.115.314.4
202017.416.816.214.911.811.6
20216.85.95.75.58.55.7
出所)気温データ:国土交通省気象庁、過去の気象データ、東京・練馬地点の気温
消費電力量:東京ガス、会員サイト「myTOKYOGAS」

 ここでは、家電機器の買い換えや節電行動前の気温による消費電力量の影響を分析します。そのため、2019年と2020年の2年分の半旬平均データを基に、気温と消費電力量の関係を定量化します。下表に、気温に関する統計値と消費電力量の間の相関係数を示しています。ここで、気温に関する統計値とは、最高気温、平均気温、最低気温、30℃を超える日数をさしています。30℃を超える日数を統計値にしたのは30℃以上でエアコンを稼働させることが多いためです。これを見ると、平均気温が最も消費電力量と相関が高いことが分かります(相関係数0.924)。

表-2 気温と消費電力量との相関 

項 目 相関係数
最高気温 0.900
平均気温 0.924
最低気温 0.908
30℃超の日数 0.783
出所)気温:国土交通省気象庁、過去の気象データ、東京・練馬地点の気温
消費電力量:東京ガス、会員サイト、myTOKYOGAS

 そこで、平均気温と消費電力量の関係を下図にプロットしました。これをみると気温が高くなると消費電力量は増加していきます。図中に回帰式も示していますが、本式は検定により「統計的に有意」であることが分かりました(図の注釈参照)。回帰式の係数から、平均気温が1度上がると0.6kWh増加することが分かります。これはエアコンの消費電力量の影響が大きいと考えられます。エアコンの消費電力量については、気温の影響を熱力学的な計算により理論的に分析することも可能ですが、このような簡単な回帰式でも大まかな検討はできるように思われます。

注)回帰式の決定係数R2は0.85、危険率1%で有意(統計学的検定による)。ここでの危険率1%とは、この式が有効であると判断するリスクが1%未満であることを意味します。

気温を考慮した節電量の推計

 以上で作成された半旬平均データによる気温と消費電力量の回帰式を用いて、節電対策前(機器の買い換えや節電行動をしない時)の2021年の消費電力量を推計します。推計された半旬平均の消費電力量を下図に示します(下図の黒色破線)。9月の第1半旬と第2半旬の気温が低いため、2021年の消費電力量は3~4kWh/日少なくなっています。この値を基に2021年9月の消費電力量の合計を求めると、398.0kWh/月となります。すなわち、家電機器を買い換えたり節電する前であればこの消費電力量になっていたと想定されます。

 この推計値と実際の消費電力量190.9kWh/月の差が気温を考慮した節電量ということになります。その値は207.1 kWh/月(=398.0-190.9) であり、52%の節電ということになります。この方法によれば、単に前年と比較した場合と比較して、気温の影響を考慮することができ、節電量をより正確に把握することが可能になったと考えられます。

 ところで、今回の分析は世帯全体の消費電力量と気温の関係を分析したものです。当初想定したように、エアコンの影響が一番大きいと思われますが、それがすべてではありません。冷蔵庫の消費電力や日常の生活行動も外気温に影響を受けるからです。そのため、気温との関係を正確に把握するためには、個別の家電機器の消費電力量を対象に分析する必要があります。しかし、X氏宅のエアコンは3基ありますが、その主要機器は200Vの電圧がかかる大型のエアコンのため、家庭用のワットチェッカーでは測定ができません。200Vのエアコンの消費電力の分析については今後の課題とします。

まとめ

 前回報告した8月の消費電力量に続いて、2021年9月についても過去の消費電力量と比較しました。その結果、前年との比較では約57%の節電となっており、同種世帯との比較でも3割の節電となっていました。これまでの機器の買い換えや節電行動の効果が現れてきていると思われます。

 2021年9月は、最初の10日間(上旬)の気温が低くエアコンを使う必要がなかったことにより、前年よりも大きな節電となったと思われました。そのため、気温と消費電力量との関連を機器の買い換え前の2019年と2020年の2年間のデータを用いて分析した結果、平均気温と強い相関があることが分かり、平均気温による回帰式を用いて消費電力量の簡易な推計が可能となりました。

 作成した回帰式を用いて、2021年の気温の実績から節電対策前(家電機器の買い換えや節電行動をしない)の消費電力量を推計しました。この推計値と実際の消費電力量の差が気温の影響を考慮した節電対策による節電量と考えられました。その結果は207.2 kWh/月であり、推計値に対して52%の節電ということが分かりました。

 <参考文献>
1)気温データ:国土交通省気象庁、過去の気象データ、東京練馬地点の気温
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/
2)消費電力量:東京ガス、会員サイト「myTOKYOGAS」