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複合機①-省エネ性能

複合機とは

 今回は複合機の省エネを取り上げます。複合機とはプリンター、コピー、スキャナー、FAXという複数の機能を備えた電子機器のことです。プリンターやコピー機は印刷または複写するだけの機能しかないのに対して、複合機はこのような多様な機能があることから、家庭での利用も増加していると思われます。省エネ法でもこの複合機を対象に省エネ基準を定めて省エネを誘導しています。最近では、コピー機でもプリンターの機能がついているなど、単一機能の機種が少なくなって複合機に近くなってきつつあるようで、統計でも複写機・複合機というひとくくりの分類で扱われることが多いようです。

 複合機は印刷の方式により、インクジェット方式とレーザー方式があり、前者が液体インクを紙に吹き付けるのに対して、後者は粉末インクをレーザーで付着させて印刷します。レーザー方式は印刷速度が速いため大量に印刷を行う業務用として使われることが多いようです。インクジェットのインクの種類として染料と顔料があります。染料はきれいな色合いが表現できることから、主に写真の印刷に用いていた家庭用の機種には染料が用いられることが多かったとのことです。

省エネ技術の動向

 複合機の省エネに関しては下図に示すように15年前と比較すると80%も消費電力量が低下しています。すなわち2005年は消費電力量が10kWh/週だったものが2019年は2kWh/週程度に低下しています。その要因を「一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会」の公式サイトから引用して説明します1)

出所)一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会、プリンター・複合機部会、省エネルギーへの取り組み
注1) 消費電力量のデータは国際エネルギースタープログラムに適合・登録されているプリンター、複合機のTEC値(カラー・モノクロ)の平均

 国内外で制定されるエネルギー消費効率に関する基準値の測定基準として、「国際エネルギースタープログラム」が2007年に提唱したTEC (Typical Electricity Consumption, 通称テック)があります。同プログラムは、オフィス機器の国際的な省エネルギー制度であり、製品の消費電力などについて米国EPA(環境保護庁)により基準が設定され、この基準を満たす製品に「国際エネルギースターロゴ」の使用が認められています。同プログラムの基準改訂の状況と日本製品の業界平均値を下図に示しています。

出所)一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会、プリンター・複合機部会、省エネルギーへの取り組み

 TECは、エネルギー消費量の基準として国際的に使用されており、省エネ法でも消費電力量の基準として採用されています。プリンター・複合機を、午前4時間(15分 x 16回※)と午後4時間(15分 x 16回※)の2回稼働させた場合の①スリープ時の電力+②プリント時の電力+③レディ時の電力を1日とし、1週間(5営業日 + 週末)トータルした積算電力量(単位はkWh/週)がTEC値となります。

 上図から分かるように、2009年の業界平均TEC値(3.0kWh/週)が2019年(0.5 kWh/週)に1/6にまで低下しています。ここで最初の図と上記の図との2019年値の相違は、2020年のVer3.0でTEC値の算出方法が変わっており、前者は変更前、後者は変更後の数値を記載しているためと思われます注)。この基準に従って省エネを実現してきたイメージを下図に示しています。TEC値を下げるため、印刷に要する電力だけでなく、レディ(待機)時の時間を短くしてスリープ時を長くするという改善をしてきたことが分かります。

 ※)回数は印刷速度によって変化します(引用元の注釈)
 注)経済産業省資源エネルギー庁、国際エネルギースタープログラム、2021年4月発行電子版によると、「Ver3.0の基準値はVer2.0に比較して5分の1以下になるが使用する用紙数の想定を4分の1に下げたため、比較する製品のTEC値も大幅に下がる」と記載があります。

出所)一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会、プリンター・複合機部会、省エネルギーへの取り組み

複合機の省エネ基準

 省エネ法の省エネ基準(基準エネルギー消費効率)を設定している経済産業省の告示は2013年告示第36号(制定)「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第68号です。下表に示すようにカラー印刷機能の有無、複写または印刷速度によって区分されており、複写または印刷速度の関数で算定されるようになっています。この式から複合機の消費電力はカラー印刷の有無と印刷速度に影響を受けていることが分かります。

表-1 複合機の基準エネルギー消費効率の算定式

区分名カラー複写又はカラー
印刷機能の有無
複写又は印刷速度基準エネルギー
消費効率の算定式
a毎分43枚未満のものEs=2.17X+125
b毎分43枚以上のものEs=8.48X-140
c毎分50枚未満のものEs=4.86X-30
d毎分50枚以上のものEs=8.72X-223
備考1 「複写又は印刷速度」とは、A4判普通紙へモノクロームで連続複写又は印刷を行った場合の1分当たりの複写又は印刷枚数とする。
備考2 「Es」及び「X」は、次の数値を表すものとする。
Es :基準エネルギー消費効率(kWh/年)
X :複写又は印刷速度(ただし、複写又は印刷速度が下限値以下の機器にあっては、下限値の値を用いるものとする。)
下限値:区分c:22ipm(イメージ/分)

 詳細は本サイトの「複合機のエネルギー消費効率」を参照ください。ここでは、一例として以下の機種の基準エネルギー消費効率及び省エネ基準達成率の算定結果を示します5)。本製品はCanon製G7030で、インクジェット方式、A4版までの用紙の印刷、複写が可能です。印刷速度(A4普通紙)はモノクロ約13.0ipm、カラー約6.8ipmです。TEC値は0.19kWh/週であり、 国際エネルギースタープログラム Ver3.0に準拠しています。

表-2  省エネ基準の検討に用いた製品の仕様

項  目 内  容
メーカー Canon
型 番 G7030
形式デスクトップ
プリント方式インクジェット方式
最高解像度(dpi)4800※1(横)×1200(縦)
インク4色(特大容量タンク)
使用可能用紙サイズA4、A5、B5、レター、リーガル、洋形封筒4号/6号、長形封筒3号/4号、商用10号封筒、DL封筒、はがき 等
給紙方式後トレイ/カセット
給紙可能枚数後トレイ100枚/カセット250枚
液晶モニター2行液晶
動作環境温度:5~35℃、湿度:10~90%(但し結露しないこと)
印刷速度
(A4普通紙)
モノクロ約13.0 ipm
カラー約6.8 ipm
ファーストスピード
(A4普通紙)
モノクロ約9秒
カラー約14秒
消費電力
注1)
コピー時(USB接続時)約15W
待機時(USB接続時)約1.0W
TEC値  注2)約0.19kWh
電   源AC100V 50/60Hz
外形寸法(収納時)約403×369×234(mm)
質   量約9.6kg
注1)ISO/JIS-SCID N2をA4普通紙 初期設定モードでコピーした場合。
注2)TEC値:1週間(稼働とスリープ/オフが繰り返される5日間+スリープ/オフ状態の2日間)にプリンターを使用した場合の消費電力量を想定した値です。本製品のTEC値は、キヤノンが独自に、国際エネルギースタープログラムバージョン3.0で規定されるTEC測定手順を用いて算出したものです。
出所)Canonビジネスインクジェットプリンター紹介サイト

 上表の機種において基準エネルギー消費効率は以下のように算定されます。

<基準エネルギー消費効率>
・カラー印刷が可能で、印刷速度が毎分43枚/分未満であるため、区分は「a」です(表-1参照)。
・基準エネルギー消費効率は以下の式を用います。
  Es=2.17X+125
・上式にX=22(印刷速度が13枚/分で22枚/分未満のため)を代入して以下を得ます(表-1の備考参照)。
・Es=2.17×22+125=172.74

 次に、この値から省エネ基準達成率は以下となり、この製品は省エネ基準を大幅に上回っています。

 省エネ基準達成率=基準エネルギー消費効率/本機のエネルギー消費効率×100
  =172.74/(TEC値×52)×100=172.74/(0.19×52)×100=988

  なお、国際エネルギースタープログラムのVer3.0ではTEC値の基準が0.6kWh/週となっており、本製品はその基準も大きくクリアしていることが分かります。

まとめ

 複合機はプリンター、コピー、スキャナー、FAXという複数の機能を備えた電子機器のことです。日本では2013年から省エネ法の対象となり省エネ基準を順守するよう努力したことによって15年前に比べて80%も省エネが進みました。

 複合機の省エネについては、「国際エネルギースタープログラム」で米国EPAが提案したTEC基準値(週単位の消費電力量の基準)があり、それに従う形で日本のメーカーも省エネに努めてきました。日本の省エネ基準についても、このプログラムに準じて設定されています。

 経済産業省の告示によるエネルギー消費効率は年間消費電力量ですが、省エネ基準はカラー印刷機能の有無、複写または印刷速度によって区分されており、複写または印刷速度の関数で算定されます。印刷速度を早くすると消費電力量も増加するため、快適に作業をするための印刷速度と省エネのバランスが重要ということになります。

 このプログラムに従って最近の複合機は電源を付けたままでも自動的にスリープとなる機能が付いており、その時間間隔も短くなっているため、非常に省エネが進んでいるようです。古い機種を持っている方は一度新しい機種との比較をされたら驚かれるかもしれません。

<参考文献>
1) 一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会、プリンター・複合機部会、省エネルギーへの取り組み、https://mfd.jbmia.or.jp/
2) 国際エネルギースタープログラム、公式サイト、https://www.energystar.go.jp/
3) 経済産業省資源エネルギー庁、国際エネルギースタープログラム、2021年4月発行電子版
4) 経済産業省2013年告示第36号(制定)「複合機のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第68号
5)Canonビジネスインクジェットプリンター紹介サイト