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消費電力量と気温の関係(2)

 本報告ではエアコン(暖房)の消費電力量と気温の関係を分析した結果を報告します。以前の投稿で気温と世帯全体の消費電力量の関係を分析した結果を報告しました(「消費電力量と気温の関係①」を参照ください)。前回の報告では、気温と関係が深いのはエアコンの冷房の消費電力量であることが推察されました。前回用いたデータは世帯の消費電力量(小売り電力会社からのデータ)でしたが、今回は実際に測定したエアコン(暖房)の消費電力量を対象としています。エアコンの暖房の消費電力量の測定方法や測定結果については、本サイトの「エアコン(4)-暖房の消費電力」に示していますので参考にしてください。

エアコン(暖房時)の時間消費電力量と気温の関係

 測定したエアコンは既報にも示した通り、三菱電機製「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sです。暖房能力5kW(標準)、7.1kW(低温)であり、APF(通年エネルギー消費効率)は6.3です。「エアコン(4)-暖房の消費電力」の調査においては1時間毎に消費電力量を測定しましたので、まず時間消費電力量と気温の関係を分析します。

 エアコンの運転には目標温度が設定されており、エアコンはこの温度になるように自動運転されています。したがって、設定温度と室内温度の差が大きいほどエアコンの運転は活発になり消費電力量は多くなると思われます(本調査では設定温度を24℃としています)。

 また、室内の気温は窓や壁からの熱伝導及び熱伝達により熱が奪われ外気温が低いほど低下するため、エアコンは外気温が低いほど多くの電力を消費すると考えられます。すなわち、エアコンの暖房の消費電力量は以下の温度の影響を強く受けると考えられます。

(1)設定温度と室温との差(ここでは必要上昇温度と称します)
(2)外気温

 室温と外気温は30分ごとに測定されており、消費電力量は1時間ごとに測定されています。そのため、データ分析のためのデータセットを以下の通り作成しました(下図を参照ください)。

(1)時間消費電力量(例えば9時~10時の1時間の消費電力量)
(2)必要上昇温度:毎時初期の温度差(設定温度24℃と9時の室温の差)
(3)外気温:1時間の平均外気温(9時30分の外気温)

 エアコンが稼働している6時から22時までの1日分の17データを用いて、相関分析を行った結果は表-1の通りです。「時間消費電力量」は「必要上昇温度」とは正の相関、「外気温」とは負の相関があり、絶対値がほぼ同程度の相関係数となっています。

表-1  エアコン(暖房)の時間消費電力量と温度との相関

時間消費電力量必要上昇温度外気温
時間消費電力量1
必要上昇温度0.8941
外気温-0.878-0.7581
注)必要上昇温度=「設定温度-室温」、時間消費電力量はワットチェッカー(EC-200)による測定結果、室温、外気温は温度データロガ(D-5326TT)による測定結果。
Microsoft Excelのデータ分析機能「相関」を使っています。

 そこで、これらを変数として消費電力量の回帰式を作成すると表-2の通りです。ここでは、それぞれの単回帰式と2つの変数を使った重回帰式を作成しました。重回帰式(下表のケース1)の重相関係数は0.945であり、決定係数は0.894です。そして、自由度調整済み重相関係数は0.879で、単回帰式(ケース2,ケース3)のそれよりも大きくなっており、2変数を用いた重回帰式を採用する意義はあると考えられます。また、統計的にも有意であることも分かりました。

表-2 時間消費電力の回帰式の作成結果

切 片偏回帰係数重相関係数決定係数自由度調整済み重相関係数
必要上昇温度外気温
ケース10.18400.03099-0.004590.9450.8940.879
ケース20.08340.051580.8940.8000.786
ケース30.2895-0.008560.8780.7710.756
注)必要上昇温度=「設定温度-室温」、時間消費電力量はワットチェッカー(EC-200)による測定結果、室温、外気温は温度データロガ(D-5326TT)による測定結果。
Microsoft Excelのデータ分析機能「回帰分析」を使っています。

 この重回帰式は以下の通りです。

<設定温度24℃の時の1時間の消費電力量の推計式>
 Z=0.1840+0.03099・X-0.00459・Y
  Z:時間消費電力量(kWh/h)
  X:必要上昇温度(設定温度(24℃)-室温)(℃)
  Y:外気温(℃)

 この重回帰式による消費電力量の実績値と推計値との比較を下図に示します。概ね傾向を表していると考えられます。この結果より、室温と外気温を測定、保存することにより、1時間毎のエアコンの暖房時消費電力量を推計できる可能性があります。

エアコン(暖房時)の一日消費電力量と気温の関係

 次に、エアコンの時刻別消費電力量を測定することは手間がかかるため、1日の消費電力量を推計することを考えます。説明変数は時間消費電力量の回帰式で用いたものを候補とします。「必要上昇温度」はエアコンが稼働している時間帯の平均値を用います。また外気温についてもエアコンが稼働している時間帯の平均値を用います。下図に測定した1日消費電力量、平均室温、平均外気温のデータを示します。

 また、気象に関するデータとして日照時間、平均風速(気象庁のデータ1)を使用)も加えて消費電力量との相関を分析しました。その結果を表-3に示します。消費電力量と相関が高いのは平均外気温と平均「必要上昇温度」であり、他はあまり相関が高くありません。

表-3 エアコン(暖房時)の1日消費電力量と気象要因の相関

1日消費電力量平均必要上昇温度平均外気温日照時間平均風速
1日消費電力量1
平均必要上昇温度0.8351
平均外気温-0.943-0.8111
日照時間-0.560-0.7020.6811
平均風速0.1090.228-0.025-0.4471
注)10日間のデータを用いて分析、1日消費電力量はワットチェッカー(EC-200)による測定結果、室温、外気温は温度データロガ(D-5326TT)による測定結果。日照時間、平均風速は気象庁データによる。
Microsoft Excelのデータ分析機能「相関」を使っています。

 そこで、これらの変数を用いて消費電力量と回帰式を作成すると下表のような結果となりました。重回帰式(下表のケース1)の重相関係数は0.951であり、決定係数は0.904、自由度調整済み重相関係数は0.877です。また、外気温との単回帰式(ケース3)は 重相関係数が 0.943、 決定係数は 0.890、 自由度調整済み重相関係数は 0.876と重回帰式とほとんど変わりません。

表-4 1日消費電力量の回帰式の作成結果

切 片偏回帰係数重相関係数決定係数 自由度調整済み重相関係数
必要上昇温度外気温
ケース18.12960.2233-0.35790.9510.9040.877
ケース21.94670.91640.8350.6960.658
ケース39.5752-0.43370.9430.8900.876
注)必要上昇温度=「設定温度-室温」、1日消費電力量はワットチェッカー(EC-200)による測定結果、室温、外気温は温度データロガ(D-5326TT)による測定結果。
Microsoft Excelのデータ分析機能「回帰分析」を使っています。

 消費電力量の推計のために採用可能な重回帰式と単回帰式は以下の通りです。

 <設定温度24℃の時の1日消費電力量の推計式>
 Z=8.1296+0,2233・X-0.3579・Y  (重回帰式)
 Z=9.5752       -0.4337・Y  (単回帰式)

  Z:1日消費電力量(kWh/日)
  X:平均必要上昇温度(設定温度(24℃)-平均室温)(℃)
  Y:平均外気温(℃)

 これらの回帰式による消費電力量の実績値と推計値との比較を下図(赤線が重回帰式、青線が単回帰式です)に示します。どちらも概ね傾向を表していると考えられますが、外気温のみの単回帰式でも十分な推計が可能なようです。そのため外気温の1日平均値を計算し、これをもとに上記の単回帰式を用いれば、1日の消費電力量を推計することが可能と思われます。この回帰式の傾きから、外気温が1℃低下するとエアコンの消費電力量は0.43kWh/日増加することになります。

 なお、本推計式については、エアコンの設定温度が24℃の条件で、採用されたデータの範囲内で推計する際に有効と思われますが、外気温がこれを超える範囲でも用いることが可能かについて、新しい測定データをもとに検討しました。11月末になって外気温が低くなり、その時の消費電力量を測定しました。回帰式を作成したのは平均外気温が12℃から16℃の範囲でしたが、新しいデータは8℃と10℃の時のものです。

 測定した結果を下図に示します。青いプロットは回帰式を作成した11月中旬のデータであり、赤いプロットが新しく測定したデータです。この図より、外気温が回帰式を作成した範囲外でも推計値は比較的適合していると見ることができます。

 このように、統計的手法によって外気温と消費電力量の関係が定量化されましたので、次回は節電方法による消費電力の効果を分析していきます。

まとめ

 本報告ではエアコンの消費電力量と気温との関係を分析しました。前回の報告では、世帯の全消費電力量と気温との関係を分析していましたが、今回はエアコン単体の消費電力量を対象としています。分析には1時間単位と1日単位の2つの消費電力量と気温との関係を分析しました。

 まず、1時間単位の消費電力量については、エアコンの 「必要上昇温度」(設定温度と室温との差) とは正の相関、外気温とは負の相関があることが分かりました。これは、エアコンは設定温度に近づけるように自動運転されているため、「必要上昇温度」が大きいと出力を上げて運転して温度を上げるためであり、外気温が低いほど室温を低下させるため、消費電力量が増加するためと考えられます。

 これらの変数を用いて重回帰式を作成(1日17個のデータを使用)したところ、重相関係数が0.945(決定係数0.890)で、統計的に有意の回帰式を作成することができました。そのため、これを使って消費電力量を推計できる可能性があることが分かりました。

 次に、1日消費電力量の10日分のデータを用いて、時間消費電力量と同様の変数に加えて他の気象要因(日照時間、平均風速)を用いて相関分析を行いました。その結果、特に外気温との相関が高いこと、次いでエアコンの「必要上昇温度」が高いことが分かりました。

 そのため、これらの変数を用いて重回帰分析を行い、自由度調整済み重相関係数が0.877で、統計的に有意な重回帰式が得られました。また、外気温による単回帰式もほぼ同様の 自由度調整済み重相関係数(0.876)を示したため、単回帰式を用いることで、1日の消費電力量も推計できる可能性があることが分かりました。

 また、この回帰式を外挿しても推計値が比較的実績値との「あてはめが良い」こともわかりました(回帰式を作成したデータの外気温の範囲外で推計しても比較的適合していました)。次回は、 外気温と消費電力量の回帰式を使って、節電方法による消費電力量の効果を分析していく予定です。

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<参考文献>
1)気象データ:国土交通省気象庁、過去の気象データ、東京練馬地点の日照時間、平均風速、https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/