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エアコン(5)-暖房時の省エネ運転

 前回の報告(「気温と消費電力の関係(2)」)では、気温とエアコンの消費電力の関係を統計的手法により分析しました。本報告では、その結果を用いてエアコンの省エネ運転時の消費電力量について検討します。なお、エアコンの消費電力の測定方法については、「エアコン(4)-暖房時の消費電力」に詳しく記載していますので参照してください。

エアコンの省エネ運転の機能

 測定対象としたのは三菱電機の「霧ヶ峰」MSZ-ZW403Sで、冷房能力4.0W、暖房能力5.0W(標準時、部屋の広さの目安14畳、約23.1m)、通年エネルギー消費効率(APF)が6.3の製品です。最近のエアコンにはソフト的な節電の機能が盛り込まれています(ソフト的な節電機能については、「エアコン(1)-省エネ性能」の「表-4 ソフト的な省エネ技術」を参照ください)。

 本エアコンにもセンサーを用いたソフト的な省エネ技術が搭載されています。下図に測定対象としたエアコンの制御設備の概要を示します。まず、「ムーブアイ」と呼ばれるセンサーは左右に動きながら、人の存在を感知してスイッチをON、OFFまたは温度を上下させる機能を持ちます。また、「スマートアイ」というセンサーはエアコンの前に立っている人や部屋の状況を検知し、自動的にスイッチをONにしたり、立っている人の足元に温度の高い温風運転をしたりする機能があります。

出所)三菱電機(株)、三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」、取り扱い説明書、2013年版

 これらのセンサー機能を使った各種の運転モードを下表に示します。節電するためには「スマートセーブ」や「スマートオフ」の機能を使うと良いようです。

表-1 エアコンの運転モード

 機能の名称 機能の選択肢   機能の概要
スマートセーブON/OFF人がいなくなると自動で省エネ運転に切り替えます
スマートオフON/OFF人がいなくなると自動で省エネ運転に切り替え、そのまま人がいない状態で一定時間続く(30分後)と自動で停止します
スマートオンON/OFFエアコンの前に立つと運転を開始します
スポットエアON/OFFエアコンの前に立っている間、冷房中は涼風を、暖房中は温風を当てます
ハイブリッド運転おすすめ冷房/おすすめ暖房/おすすめ切ムーブアイが検知した天井面と床面の温度差が大きい時に、気流制御の機能を活用してハイブリッド運転(冷暖房運転と送風運転の切り替え)
出所)三菱電機(株)、三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」、取り扱い説明書、2013年版

 具体的には、下図に示すように「スマートセーブ」は人がいなくなると自動で省エネ運転に切り替える機能であり、「スマートオフ」は人がいなくなると自動で省エネ運転に切り替え、そのまま人がいない状態で一定時間続く(30分後)と自動で停止するという機能です。

出所)三菱電機(株)、三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」、取り扱い説明書、2013年版

省エネ運転モードによる消費電力量の分析

 運転モードの「スマートオフ」をONにして消費電力量の測定を行いました。その結果を下図と表-2に示します。測定は2日間行い、設定温度24℃、稼働時間は5時半から22時までの同一の条件です。ケース1はリビングでの不在時間が2時間程度、ケース2は3時間程度です。そして、各ケースの平均外気温(エアコン稼働時間帯の平均)はそれぞれ10.54℃と8.60℃でした。また、その時の消費電力量の実測値はそれぞれ4.52kWh/日、5.19 kWh/日でした。

 前回の報告(「消費電力量と気温の関係(2)」)で、標準運転時の消費電力量を平均外気温で予測する回帰式を作成しています。回帰式を作成した際の運転方法は、設定温度24℃、運転モードは全て「標準」、5時半から22時までの稼働です。この回帰式を基に「スマートオフ」の設定をしていない場合の消費電力量を推計すると、それぞれ5.00 kWh/日、5.85 kWh/日です。これにより「スマートオフ」運転を行ったことによる節電量(率)はそれぞれ0.48kWh/日(9.6%)、0.66 kWh/日(11.3%)となり、約1割程度の節電ができたことが分かります。

表-2 スマートオフの運転モードでの節電効果

不在時間平均外気温消費電力量(kWh/d)節電量節電率
(℃)実測値推計値(kWh/d)(%)
ケース12時間程度10.544.525.000.489.6
ケース23時間程度8.605.195.850.6611.3
注)2つのケースとも、エアコンの設定温度は24℃、稼働時間は5時半から22時までと同一です。

 なお、「スマートオフ」の運転モード時の室温と外気温の変化(ケース1)を下図に示します。リビングに不在中は20℃程度まで室温が下がっていることが分かります。また、エアコン稼働中でも室温が設定温度の24℃まで上がっていないのは、エアコンのセンサー高さ(約2.5m)と温度データロガの高さ(約1m)が異なるためと思われます。

設定温度の変更による消費電力量の分析

 次に、より高い節電効果を得るため、エアコンの設定温度を23℃に下げて運転しました。その結果を下図と表-3に示します。測定は2日間にわたって行われました。この時の平均外気温は12.8℃(ケース3)及び11.8℃(ケース4)であり、消費電力量の実測値はそれぞれ3.40kWh/日及び3.76kWh/日でした。回帰式による推計値はそれぞれ4.03 kWh/日、4.47 kWh/日でした。そのため、節電量及び節電率はそれぞれ0.63kWh/日(15.6%)、0.71kWh/日(15.9%)となります。設定温度を1度下げることで15%程度の節電ができたことになります。

表-3 設定温度23℃の時の節電効果

設定温度平均外気温消費電力量(kWh/d)節電量節電率
(℃)(℃)実測値推計値(kWh/d)(%)
ケース32312.793.404.030.6315.6
ケース42311.773.764.470.7115.9

 ケース4の室温と外気温の推移を下図に示します。室温はエアコンのスイッチON後に20℃を越えますが、午前中は外気温が低いため20℃を下回る時間帯もあります。午後は外気温が上がってくるため20℃以上を維持することができています。

 今回は平均外気温が12℃前後と比較的暖かい時期であったため、設定温度を23℃としても問題はありませんでした。しかし、さらに外気温が低い場合には温度設定を下げるとかなり室温が下がるため、1日を通してその運転モードを継続できるかどうか分かりません。エアコンの暖房時の節電は快適性を考慮して設定することが必要です。暖房の節電については、エアコンのエネルギー消費効率が高い機器に買い換える(後継機種でAPFが7.8を示すものが販売されています)ことや、住宅の断熱性能を上げることを検討することが必要と思われます。

まとめ

 本報告では、エアコンの省エネ運転モードを利用した場合の節電量を計測しました。エアコンにはセンサーを用いて居住者が不在時に自動的に出力を低減させる機能があります。対象のエアコンではそのセンサーを「スマートアイ」、その運転モードを「スマートオフ」と呼んでいます。この機能を使って2時間または3時間の不在時の場合の消費電力量(a)を測定しました。

 また、前回の報告で作成した平均外気温から消費電力量を推計する回帰式を使って、通常の運転モードでの消費電力量(b)を計算しました。そして、これらの差を節電量(b-a)として算定しました。その結果、節電量は10%程度の節電となりました。しかし、不在から戻ってきた際の温度低下は比較的大きなものであるため(2℃程度)、快適性を失わずに省エネを実現できる工夫が必要と思われました(リモートで帰宅前に運転モードを変える等)。

 また、設定温度を1℃低下させた場合(設定温度23℃)の消費電力量(c)についても測定しました。同様に測定しした日の平均外気温を基に設定温度24℃のときの消費電力量(d)を回帰式より算定し、その差を節電量(d-c)として算定しました。その結果、節電量は15%程度でした。ただし、設定温度を下げた場合の室温の変化は20℃を下回る場合もあるため、比較的気温が高い時期(平均外気温が12.8℃)では問題ありませんが、さらに気温が低下した場合には快適な生活が可能かどうか難しいと思われました。

 このように、エアコンの設定温度を変えたり、省エネ運転モードを利用することにより省エネが可能です。ただし、暖房時の節電は快適性とのバランスを取った運転方法を採用する必要があります。さらなる暖房の節電については、エアコンの買い換えによるエネルギー消費効率を上げることや、リフォームにより住宅の断熱性能を上げることを検討することが必要と思われます。