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空調・住環境

湿度の管理(1)ー結露対策

 以前の投稿でエアコンの暖房時の環境質(温度と湿度)の管理について報告しました。その報告ではエアコンでの暖房時に温度と湿度の測定を行って、その推移を分析しました(「エアコン(6)-暖房時の環境質管理」を参照ください)。その結果、室内の水平、垂直温度分布が問題になり、家具の配置や断熱対策の必要性が明らかになりました。この時は湿度の管理についてはスペースの問題から、あまり説明しませんでした。今回は室内の環境質の管理において、温度と同様に重要な湿度の管理について報告します。

 湿度は空気中の水分に関係する指標ですが、その指標もいくつかあるので、まずその指標について説明します。そして、湿度管理で最も問題となるのが室内の結露であり、その結露がなぜ生じるのか、その原理と条件について説明します。そして、室内の結露を防止するための対策について検討します。

絶対湿度と相対湿度、飽和度

 湿度には相対湿度と絶対湿度があります。単に湿度というと、相対湿度のことを指します。まず絶対湿度について説明し、次に相対湿度及びそれに類似した飽和度について説明します。

<絶対湿度>

 絶対湿度とは乾き空気1kg中にある水蒸気の量です。

 絶対湿度 x(kg/kg(DA))=水蒸気の質量/乾き空気1kg

 上のkg(DA)は乾き空気(Dry Air)の質量を表します。ここで、「乾き空気」とは大気中の成分から水蒸気を全て取り除いた空気のことです。逆に一般的な水蒸気が含まれる空気は「湿り空気」と言います。これを言い換えると、絶対湿度x(kg/kg(DA))とは空気(1+x)kg中に水蒸気がxkg含まれている状態を言います。

 乾き空気の成分は、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素等から構成され、一般的な乾き空気の組成は下表の通りです。

表-1 乾き空気の成分組成

成 分窒素 N2酸素 O2アルゴン Ar二酸化炭素 CO2
質量組成(%)75.5323.141.280.05
体積組成(%)78.0820.950.930.03
分子量28.013431.998839.94844.01
出所)空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識、オーム社、2017.

 次に、湿り空気には空気と水蒸気が混合されており、水蒸気は湿り空気内のモル分率に比例した分圧を示します(ダルトンの分圧の法則)。すなわち、水蒸気の分圧(pw)は、水蒸気のモル分率(vw)と全圧(P)の積で算定されます。
 pwvwP

 空気が含むことができる水蒸気には限界があり、ある温度条件で空気が含むことができる限界の状態の(湿り)空気を飽和空気と言い、その時の水蒸気圧を飽和水蒸気圧と言います。

<相対湿度>

 相対湿度φとは湿り空気の水蒸気圧pwの同じ温度における飽和水蒸気圧pwsに対する割合を百分率で表したものです。相対湿度は水蒸気圧を使って以下の式で表されます。

 相対湿度φ(%)=水蒸気圧pw/飽和水蒸気圧pws×100

<飽和度>

 相対湿度に良く似た指標として飽和度ψがあります。飽和度とは、ある湿り空気の水蒸気量(絶対湿度x)の同温同圧の飽和空気の水蒸気量xsに対する割合を百分率で表したものであり、以下のように表されます。

 飽和度ψ(%)=絶対湿度x/飽和空気の絶対湿度xs
 
 下図に、温度毎の相対湿度、飽和度をパラメータにした水蒸気圧、絶対湿度の変化を示します。ある温度に対して相対湿度または飽和度を与えることで水蒸気圧または絶対湿度を求めることができます。下図の実線は相対湿度の値を示すため左軸(第1軸)の水蒸気圧を、破線は飽和度の値を示すので右軸(第2軸)の絶対湿度を得ることができます。

 図からも分かるように「相対湿度と飽和度は最大で3%程度の差を生じるが、常温以下ではほぼ同値となる」とされています1)。そのため、相対湿度を飽和度と同一にとらえ、温度と相対湿度から絶対湿度を推定するという方法を紹介している文献も多いようです。本報告でもこの方法で絶対湿度を推計します。

 なお、絶対湿度xを正確に求めるために、水蒸気圧pw、大気圧Pとの以下の関係式を用います2)。この式によって相対湿度から絶対湿度をより正確に把握することができます(この式は水蒸気を完全気体と仮定し、気体の状態方程式から導かれます)。

 x(kg/kg(DA))=0.622×pw/(Ppw

結露と露点温度

 住居の湿度管理で最も問題になるのが結露です。湿度管理がうまくいかないと窓や床、壁に結露が生じ、その結果建材の腐食が進みます。特に壁や床の内部に腐食が進行すると建物の寿命を著しく縮めます。水分の多いところにはカビやダニなどが生息して、カビは異臭となり、ダニはアレルギーや喘息の発症など人の健康を害する可能性があります。このように、結露は建物や人体に数々の問題を生じさせる元凶なのです。そこで、結露になる環境質(温度、湿度)の条件を知ることが重要です。

 下図に温度と絶対湿度のグラフを示しています。グラフ上には相対湿度60%と100%(飽和空気)の時の絶対湿度が示されています。室内の温度が25℃で相対湿度60%の時の絶対湿度は12g/kg(DA)程度です。この室内の温度が低下していき17℃以下になったときは飽和空気の絶対湿度を超えてしまうため、これ以上水蒸気でいることができず結露することになります(なお、正確には飽和度を使うべきですが、常温では飽和度と相対湿度の値はほぼ同一の値をとるため、相対湿度を使って説明しています)。この結露する温度を露点温度といいます。

 さらに、温度が下がって5℃になったときは、最初の絶対湿度から5℃の飽和空気の絶対湿度を除した水分が結露することになります。絶対湿度は乾き空気の質量に対する水分量であるため、それを考慮して結露量を算定することができます。

 結露は、冷たい水を入れたコップの表面に水滴がついているのを、分かりやすい事例として紹介されることが多いようです。コップの表面の温度が低下して露点温度以下となり結露したものです。住宅の場合、室内と室外とで温度差が大きい窓や壁等で結露が起こります。断熱性の低い窓ガラスで、外気に冷やされて室内側の表面温度が低下し、結露している例が多いです。

室内設備による結露対策

 結露対策のうち建築設備での対策として、換気設備と高断熱化が挙げられます。

<換気設備>

 室内の換気は建築系の多くの専門家が重要視するものです。近年の住宅では多くが24時間換気システムを採用しています。これは近年の建築物においては、断熱性と気密性を向上させた設計が重要視されているからです。気密性が高いとすき間風による自然の換気が低減され、室内での建材からの汚染によるシックハウス症候群などが問題になります。そのため、建築基準法が改正され、機械換気設備の設置が義務化されました3)(2003年7月に施行されたシックハウス対策に係る建築基準法及び施行令の改正)。

 24時間換気システムとは自然換気とは異なって機械設備により強制的に換気するものです。これはシックハウス対策だけでなく、結露対策としても有効です。室内の湿気を外気と交換することにより除去することができるためです。一方、省エネルギーの立場からは換気を頻繁に行うことで、夏場は室外の暖気を、冬場は冷気を室内に取り込むことになり、エアコンの消費電力量を増大させることにつながります。そのため、最近は換気設備に全熱交換型換気設備という排気、吸気の際に熱交換を行って、省エネを図るものも出てきています。これについては、別の機会に紹介することにします。

<断熱対策>

 次に、断熱性能の向上については、結露が温度低下により生ずることから、室内表面の温度低下を防止する対策として採用されます。以前の報告(「エアコン(6)-暖房時の環境質管理」)で壁面や窓の表面温度が室温に比べて低いことが明らかになりました。また、外壁や窓(ガラス、サッシ)の断熱性によって熱貫流率が異なり、それによって室内側の表面温度も異なることも分りました(「建築材料(1)-外壁の断熱性能」「建築材料(2)-窓の断熱性能」を参照ください)。そのため、窓などの断熱性能を向上させて室内表面の温度低下を防ぐことで結露を防ぐことができます。

 例えば、前述の露点温度の説明の例のように、室内25℃、相対湿度60%の室内が、夜になって温度が低下していく状況を想定します。夜に外気温が10℃になり夜間の熱平衡時に窓の熱損失が30W/m2となった時に、熱貫流率が2.2W/m2・K、3.2W/m2・K、6.4 W/m2・Kの3種類の窓ガラスについて、結露するかどうかを計算してみます。

 下表にあるように、熱貫流率6.4W/m2・Kの窓ガラスは単板ガラス、同じく3.2W/m2・K は1層の中空層を持つ複層ガラス、2.2W/m2・Kは中空層2層を持つ複層ガラスです。それぞれの熱貫流率は室内の熱伝達率を含めているので、室内熱伝達率を除いた熱伝達率を算定します。まず室内熱伝達抵抗を除いた全体の熱抵抗(R‘)を算出し、その逆数によりガラスの室内表面までの熱貫流率(U’)を算定すると、それぞれ21.7、5.0、2.8 W/m2・Kとなります。

 この熱貫流率を用いて、外気温10℃で熱平衡時の窓の熱損失30W/m2の時の窓の室内表面温度を算定すると、それぞれ11.4℃、16.0℃、20.7℃となります。この結果より、単板ガラスと中空層が1層の複層ガラスの窓は結露しますが、中空層が2層の複層ガラスは結露しないことが分かります。このように、断熱効果を上げることで結露を防げることが分かりました。

表-2 単板ガラスと複層ガラスの表面温度の計算

 h、λ d 単板ガラス複層ガラス(a)複層ガラス(b)
室外表面熱抵抗 ro=1/ho230.0430.0430.043
ガラス熱抵抗 d/λ10.0030.0030.0030.003
密閉中空層の熱抵抗 rg
0.150.15
ガラス熱抵抗 d/λ10.0030.0030.003
密閉中空層の熱抵抗 rg0.15
ガラス熱抵抗 d/λ10.0030.003
室内表面熱抵抗 ri=1/hi90.1110.1110.111
熱貫流抵抗 R=∑(ro+rg+ri+d/λ)0.1570.3100.463
熱還流率 U=1/R6.43.22.2
R’(室内熱伝達を含まない熱貫流抵抗)0.0460.1990.352
U'(室内熱伝達を含まない熱貫流率)21.75.02.8
熱損失 (W/m2)303030
外気温 (℃)101010
ガラスの室内表面温度 (℃)11.416.020.7
結露の有無(露点温度17℃)結露する結露する結露しない
注)単板ガラス、複層ガラスの構成は下図の通りです。

室内の湿度コントロール

 ここでは、以前に報告した室内の暖房時の環境質(温度、湿度)を測定した結果を用いて、室内の湿度コントロールについて具体的に検討します(測定結果は「エアコン(6)-暖房時の環境質管理」を参照ください)。この報告では9時から12時までのエアコン暖房時の室温と相対湿度の結果を示しました。今回は、前述した絶対湿度の変化により室内の水蒸気の状況を分析し、湿度コントロールを検討します。

<絶対湿度の変化>

 下図に相対湿度と絶対湿度の推移を示します。測定中はエアコンの設定温度は22度、加湿器の設定相対湿度は50%でしたので、温度と相対湿度の状況により水蒸気が変動します。まず、9時から9時30分時までは気温上昇が大きく、相対湿度は大きく減少しますが、絶対湿度は大きく変動していません。9時20分に相対湿度が50%を下回ったため加湿器が稼働し始め、水蒸気が増加していきます。その結果絶対湿度が大きく上昇していき、同時に相対湿度も上昇します。

 10時に室温が24℃を超えたためエアコンの加温が弱まり温度が一定となり、加湿器の加湿も停止してほぼ絶対湿度も一定となります。その後、11時30分にエアコンが停止し、室温が低下すると同時に相対湿度は上昇しますが、絶対湿度は変化していません。

 このことから、絶対湿度と相対湿度の特徴がよくわかると思います。絶対湿度は実質の水蒸気の量を表すのに対し、相対湿度は気温の影響で変わっていくものだからです。

<加湿された水分量>

 ここで、加湿された水分量について検討してみます。以前の報告にあるようにこの部屋の容積と比重から(乾き)空気の質量は以下の通りです。

 室内空気の質量(kg)=室内体積(m3)×空気の密度(kg/m3
 =24.118×1.192=28.75 kg

 なお、(乾き)空気の密度は1気圧(101.325kPa)、加湿器が稼働している平均室温(23.1℃)における値を算定して、用いています4)(気圧、温度別の密度は理科年表2022より)。

 付加された水分量(g)=空気の質量(kg)×絶対湿度の増加分(g/kg(DA))
=28.75×(9.7-6.5)=92 g

 以上より、この50分間で92g(ml)の水が空気中に付加されたことになります。

<結露の可能性>

(1)加湿前(測定日の朝)

 次に、この部屋でのエアコンを稼働する前の状態を考えます。この部屋の朝の室温は16.6℃、窓の表面温度12.4℃、相対湿度は60%でした。従ってこの時の絶対湿度は以下の通りです。

 16.6℃、相対湿度60%の絶対湿度=飽和空気の絶対湿度11.818×60/100=7.1g/kg(DA)

 下図の通り絶対湿度7.1g/kg(DA)の時の飽和空気の温度(露点温度)を見ると8.8℃となります。この時の窓の表面温度は12.4℃でしたので、結露は起こらないことが分かります。

(2)加湿後

 測定日に加湿をしたため、絶対湿度は最大9.7g/kg(DA)まで上昇しました。そのまま温度が低下したとするとどうなるでしょうか。下図のように絶対湿度9.7g/kg(DA)の飽和空気の温度(露点温度)は13.5℃となり、朝の室温のように12.4℃まで低下した時は結露することになります(ここでは、最大の絶対湿度を使って検討しましたが、実際には換気などにより絶対湿度は減少して、結露は生じない可能性はあります)。

 このように、加湿によって絶対湿度が上昇することを頭に入れて、結露対策を検討することが必要です。なお、もし快適性の向上のために加湿が必要な場合は、表-2に示したように窓の熱貫流率を下げて、断熱性を高めることにより、結露を防ぐことが必要になります。現在は、窓は単板ガラスですが、複層ガラスに変更するなどを考慮することになります。

まとめ

 今回は、室内の湿度管理について、特に結露に着目した対策を検討しました。湿度にはいくつかの指標があり、絶対湿度と相対湿度、それに類似した飽和度という指標がありました。絶対湿度は乾き空気1kg当りの水蒸気の量を示しています。空気が含むことができる水蒸気には限界があり、ある温度条件で空気が含むことができる限界の状態を飽和空気と言い、飽和空気の絶対湿度以上の水蒸気は結露して水に変わります。

 相対湿度(飽和度)はある温度における絶対湿度の飽和空気の絶対湿度に対する割合を指します(常温では飽和度と相対湿度はほぼ同じ値です)。従って、温度が変わると飽和空気の絶対湿度が変わるので、実際の水蒸気量が変わらなくても変化することになります。

 結露を防ぐ方法として、換気と断熱対策があります。換気は室内の湿気を外気と交換することで低下させ、結露を防ぐ方法です。しかし、これは外気の温度を室内に呼び込むことになり、冷暖房時のエアコンの消費電力量を増大させることになります。この対策には全熱交換型換気システムが開発されているのですが、それについては後日検討していきます。

 結露を防ぐ方法の断熱対策は室内表面温度の低下を防ぐことで結露を防止する方法です。外気温が低下する場合でも壁や窓の断熱性を向上させて室内表面温度を低下させないことで、結露を防止できます。以前に報告した壁に高い断熱性能の建築材料を使ったり、窓に複層ガラスを使ったりするなどの方法があります。

 最後に室内での温度、湿度の測定をした事例において、加湿器を使った際の絶対湿度の変化を分析しました。絶対湿度を算定することで、加湿器から付加された水分量が計算できました。また、加湿されたことによって、温度が低下した際に結露する可能性も明らかになりました。このことから、加湿器によって過度に湿度を上げることに注意する必要があることが分かりました。

 次回は再度、湿度管理をとりあげ、健康面や快適性を維持するための管理方法を検討していきます。

<参考文献>
1) 空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識、オーム社、2017.
2) 宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.
3)国土交通省、建築基準法に基づくシックハウス対策について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000043.html
4)国立天文台編:理科年表、2022年