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断熱建材

建築材料(2)-窓の断熱性能

 今回は前回に引き続き建築材料(建材)に関する断熱性能の報告です。今回の建材は省エネ法施行令に示された「窓に使用されるガラス及びサッシ」です。建材のトップランナー制度を導入した経済産業省の告示の内容は本サイトの「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」に説明していますので参考にしてください。

 ここでは、既に報告している室内での熱損失を検討した事例における窓(サッシ、ガラス)の熱損失をさらに詳細に検討し、その断熱性能を向上した場合の試算を行います(熱損失の計算は「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」を参照ください)。本報告における熱伝導の基礎理論は参考文献1を基にしています1)

複層ガラスの伝熱

 外壁の伝熱については、前回の報告(「建築材料(1)-外壁の断熱性能」)に示した通り、建築材料が持つ固有の熱伝導率を用いて、室内外の熱伝達率をも考慮した熱貫流率を用いることで算定できました。サッシのガラスについても同様の方法で熱貫流率を用いて熱流量が算定できます。

 近年は断熱性の向上を図るため複層ガラスが推奨されています。省エネ法の対象も省エネが期待できる複層ガラスに限定されています。下図に単板ガラスと複層ガラスの例を示します2)

出所)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日

 上記のガラスの熱貫流率を計算すると以下の通りです。ガラス単板(厚さ3mm)の場合は熱貫流率が6.4 W/(m2・K)であるのに対して、中空層2層の場合は2.2 W/(m2・K)と1/3程度になっています。これは、熱の損失が約1/3になるということですので、断熱効果が大きいことが分かります。

表-1 複層ガラスの断熱効果(熱貫流率)

(1)単板ガラス(2)複層ガラス
(a)中空層1層(b)中空層+合せガラス(c)中空層2層
室外表面熱抵抗 ro=1/ho0.0430.0430.0430.043
ガラス熱抵抗 d/λ 0.0030.0030.0030.003
密閉中空層の熱抵抗 rG0.150.150.15
ガラス熱抵抗 d/λ0.0030.0030.003
密閉中空層の熱抵抗 rG0.15
ガラス熱抵抗 d/λ0.0030.003
室内表面熱抵抗 ri=1/hi0.1110.1110.1110.111
熱貫流抵抗
RG=∑(ro+rG+ri+d/λ)
0.1570.310.3130.463
熱貫流率 U=1/RG
W/(m2・K)
6.43.23.22.2
単位)熱抵抗の単位はm2・K/W
注)ガラスの熱伝導率λ=1.0 W/(m・K)、ガラスの厚さ3mm、室内表面での熱伝達率hi=9 W/(m2・K)、室外表面での熱伝達率ho=23 W/(m2・K)、密閉中空層の熱抵抗 rG=0.15 m2・K/Wとして計算。

 省エネ法における複層ガラスの性能基準を以下に示します3)(詳細は本サイトの「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」を参照ください)。省エネ法におけるガラスの対象範囲は、「複層ガラスのうち、ガラス総板厚み10mm以下のもの」に限定されています。表中の熱損失防止性能の指標には熱貫流率U(W/(㎡・K))が用いられます。

表-2 複層ガラスの性能基準

中空層の厚さ基準熱損失防止性能又はその算定式
2mm未満3.85
2mm以上16mm以下U=-1.00ln(X)+4.55
16mm超1.77
備考1 「中空層の厚さ」とは、並置した板ガラス等の間に生じる間隙(以下「中空層」という) の距離とする。この場合において、一枚の複層ガラスに複数の中空層を有するときは、当該中空層の距離の総和とする。
2 U及びXは、次の数値を表すものとする。
U:基準熱損失防止性能(W/(m2・K))
X:中空層の厚さ(mm)
3 lnは自然対数を表すものとする。

 この表の性能基準について、横軸を中空層厚さ(X)にして図に示したものが下図です。中空層の厚さが2mm未満は熱貫流率が3.85W/(m2・K)、2mm以上16mm以下は中空層厚さの対数による関数で表され、16mm超は1.77 W/(m2・K)となります。

 先程の事例で、単板ガラスの熱貫流率が6.4 W/(m2・K)であったことから、この基準を満たさないことは明らかです。

 ところで、窓ガラスの熱収支(熱取得または熱損失)は外壁とは異なり、日射を透過、吸収するため、室内への日射熱取得が可能となります(下図参照)。

<窓の熱収支(熱取得と熱損失)> 出所)参考文献1より作図。

 窓の熱収支は以下の式で表されます1)

  HGHOHsaHst    (1)

 ここで、
 HG:窓ガラスの熱収支(W)
 HO:室内外温度差による貫流熱量(W)
 Hsa:吸収日射熱取得(W)
 Hst:透過日射熱取得(W)

 吸収日射熱取得はガラスに吸収された日射が流入する熱量であり、窓から室内への直接的な熱取得はHOHsaです。Hstはガラスを透過して室内に入射する日射量ですが、窓からの直接的な熱取得ではなく、床や内壁などの室内表面に入射、吸収されて室内への熱取得になります。 吸収日射熱取得 Hsa は以下で算定されます。

 Hsa=AGBGdIGdBGsIGs)  (2)

 ここで、
 AG:窓ガラスの面積
 BG:吸収日射熱取得率(-)
 IG:ガラス窓に入射する日射量(W/m2
  添え字dは直達日射、sは拡散日射を指します。

 吸収日射熱取得率はガラスに入射した日射が吸収されて室内に流入する割合です。吸収日射熱取得率は単板ガラスの時は以下の通りです。

 BGro/RG・aUG・ro・a  (3)

 ここで、
 ro:室外表面熱抵抗 (m2K/W)
 RG:ガラスの熱貫流抵抗 (=1/U)(m2K/W)
 a:ガラスの日射吸収率(-)
 ガラスの日射吸収率はガラスの種類によって決まります。

サッシの伝熱

 サッシは意匠性や用途の違いから、最終消費者のニーズ等に合わせて多種多様な開閉形式が存在し、各々構造上の違いや寸法等の傾向の違いから熱損失防止性能に差が生じています2)。省エネ法では下図の5種類の開閉形式の区分のもとで下表に示された性能基準が設定されています4)

<サッシの開閉形式別の構造>
出所)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日

表-3  省エネ法におけるサッシの性能基準(判断基準)

 区分名  区  分基準熱損失防止性能の算定式
(1)引違い片引き窓、引違い窓、引分け窓及び両袖片引き窓に用いられるサッシq=2.21・S0.91+1.38・S0.94+0.14・S0.99
(2)FIX固定窓に用いられるサッシq=1.71・S0.89+1.27・S0.97+0.28・S1.03
(3)上げ下げ片上げ下げ窓及び両上げ下げ窓に用いられるサッシq=2.54・S0.79+1.02・S0.88+0.12・S1.06
(4)縦すべり出したてすべり出し窓に用いられるサッシq=1.49・S0.77+1.56・S0.87+0.37・S1.12
(5)横すべり出しすべり出し窓に用いられるサッシq=1.71・S0.86+1.30・S0.92+0.40・S1.08

 表中の熱損失防止性能とは、単位温度差当たりの熱損失量を言います。具体的にはサッシが構成する窓の熱貫流率に窓の面積を乗じたものです。

 qU×S

 ここで、
 q:建築物の内外の温度差1度(単位温度差)当たりの熱損失量(W/K)
 U:サッシが構成する窓の熱貫流率(W/(m2・K))
 S:サッシが構成する窓の面積(m2

 これを横軸を窓の面積にして図にしたものが下図です。引き違いタイプが最も熱損失が大きく、上げ下げタイプが最も小さくなっています。 詳細は本サイトの「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」を参照ください 。

窓(サッシ・ガラス)の断熱性の改善効果

 前回の報告(「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」)で検討した室内熱収支において、窓(サッシ・ガラス)の断熱効果を向上させた場合の熱損失を検討してみます。ここでは、窓の熱収支を示した(1)式により算定します。

<室内外の温度差による熱貫流(熱損失)Ho

 まず、現状の窓の内外の温度差による熱貫流量HOを算定します。下表に窓単体の熱貫流率とカーテンの効果を加えた熱貫流率の2つのケースを計算しています。カーテンの効果を考慮しない熱貫流率は6.19 W/(m2・K)、カーテンの効果を考慮したものは4.32 W/(m2・K)となります。

表-4 東壁の窓の熱貫流率

項目熱伝導率
λ, h
厚さ
d
熱抵抗
ⅾ/λ,1/h
熱抵抗
(カーテン考慮)
室外表面熱抵抗 ro=1/ho230.0430.043
ガラス熱抵抗 d/λ10.0070.0070.007
室外表面熱抵抗 ri=1/hi90.1110.111
カーテン空気層 rG0.07
熱貫流抵抗 RG
RG=∑(ro+rG+ri+d/λ)
0.1620.232
熱貫流率 U=1/RG
W/(m2・K)
6.194.32
注)ガラスの熱伝導率λ=1.0 W/(m・K)、ガラスの厚みd=7mm、室外表面の熱伝達率ho=23 W/(m2・K)、室内表面での熱伝達率hi=9 W/(m2・K)として計算。

 このカーテン効果を考慮した熱貫流率(4.32)に室温と外気温の温度差(13.98K)を乗じると窓の面積当たり熱貫流量は60.4W/m2となります(室温はカーテンを通した後の温度のため)。

 窓の面積当たり熱貫流量(カーテン効果を考慮)=4.32×13.98=60.4 W/m2

<吸収日射熱取得 Hsa

 次に、窓の熱損失については、(1)式にあるようにこの熱貫流量に加えて日射による熱取得(Hsa:吸収日射熱取得)を算定する必要があります。算定式の(2)式、(3)式を再掲します。

 HsaAGBGdIGdBGsIGs)  (2)
 BGro/RGaUGroa  (3)

 今回の室内の温度測定をした条件は、隣接する建物により日射が室内に直接入ることはありませんが、間接的な日射による熱取得があると考えられます。したがって、(2)式のうち直達日射は考慮する必要がなく、拡散日射のみを算定します((2)式の添え字sの項)。

 まず、ガラス窓に入射する拡散日射量(IGs)ですが、NEDOの「日射量データベース閲覧システムver.2.1」より、近傍の観測地点と観測日時を入力し、拡散日射(データベースでは散乱日射量と称しています。×印のデータです)を得ます5)。このデータベースから東京都練馬地点の12月15日の11時の日射量は0.76MJ/m2です。これを換算すると211.1W/m2です。

 次にガラスの日射吸収率(a)はガラスメーカーの仕様から0.20を得ました。
また、RGro表-4から、それぞれ0.163、0.043です。そして(3)式より、
 BGro/RGa==(0.043/0.163)・0.20=0.053

 これを(2)式に用いて、吸収日射熱取得(窓の面積当たり)は11.2W/m2となります。

 Hsa/AGBGdIGdBGsIGs=0+0.053×211.1=11.2(W/m2

出所)国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)、日射に関するデータベース

<窓のトータル熱流量>

 これらの計算結果より、 単位面積当たりの窓の熱流量を算定すると、以下の通りです。
 窓の熱流量(単位面積当たり)=熱貫流量(60.4)-吸収日射熱取得(11.2)=49.2(W/m2

 ここで、ガラス面の室内外の温度差による熱貫流は室内から室外への熱損失、そしてガラスの吸収日射熱取得は室外から室内への熱流入ですので符号をマイナスとしています。

 前回の室内表面からの熱伝達による計算では窓の熱損失はカーテンでの熱抵抗を考慮して44.5W/m2と算定していました。この結果より両者の方法で算定された熱流量(熱損失)は概ね整合していると考えられます。前回報告した外壁の熱損失と今回の窓の熱損失の結果を考慮すると、室内の熱伝達による熱損失の計算結果と、熱貫流による熱損失の計算結果がほぼ整合していたことが確かめられ、計算式で採用したパラメータの数値が概ね妥当であったことが分かりました。

<窓のリフォームによる断熱効果の算定>

 次に、ここで得られた窓単体(カーテン効果を考慮しない)の熱貫流率を省エネ法の性能基準と比較してみます。まず、この窓の温度差1K当りの熱損失(カーテン効果を考慮しない熱損失)を求めると熱貫流率に窓の面積を乗じて13.62(W/K)となります。

 窓の温度差1K当りの熱損失=6.19×2.2=13.62(W/K)

 測定を行った部屋の窓のタイプは「引き違い」であり、窓の面積は2.2m2でした。これを「引き違い」の性能基準の式よりもとめると、以下の通り7.73(W/K)です(下図参照)。

 窓の温度差1K当りの熱損失の性能基準(q)=2.21S0.91+1.38S0.94+0.14S0.99
  =2.21・2.20.91+1.38・2.20.94+0.14・2.20.99
  =7.73 (W/K)

<「引き違い」タイプのサッシの窓面積2.2m2の温度差1K当たりの熱損失の性能基準 >

 このことより、現状の窓は省エネ法の性能基準の1.76倍の熱損失があることが分かります(=13.62/7.73)。そこで、仮に性能基準と同じ断熱性能でこの窓をリフォームするとした場合の熱損失量を計算すると以下の通りです。

 まず、窓ガラスの室外の表面温度は計測していないので外気温を使います。定常時(10時30分から11時30分)の平均外気温は9.1℃です。また定常時の窓ガラスの平均表面温度は16.3℃です。そのため、ガラスの室内外の温度差は以下の通り7.2Kとなります。

 窓ガラスの室内外の温度差=16.3-9.1=7.2(K)

 窓ガラスの室外温度は外気温よりも高くなっているはずですので、実際には温度差はこの値よりも低くなります。温度差1K当りの熱損失に温度差を乗じることにより熱損失量が計算されます。

 熱貫流量=q×窓ガラスの温度差=7.73×7.2(K)=55.66(W

 この熱損失に吸収日射熱取得を減じると窓の熱損失は以下の式より41.6Wとなります(吸収日射熱取得の詳しい算定法は下欄に示します)。

 日射吸収熱取得を考慮した熱損失=55.66-14.03=41.6(W

<吸収日射熱取得の算定>
 性能基準(7.73)の熱貫流率は
  U=7.73/2.2=3.51
 熱還流抵抗は
  RG=1/U=1/3.51=0.2849
 また
  rO=0.043 (表-4より)
 従って、
  BGsrO/RGa=0.043/0.2849・0.2=0.0302
 日射熱取得は
  HOGBGsIGsAG=0.0302・211.1・2.2=14.03

 熱収支の計算では、カーテンによる熱遮断効果を2割として計算していましたので、窓の熱損失は以下の式より33.3Wとなります。

 窓のカーテン効果を考慮した熱損失=41.6×0.8=33.3(W)

 熱収支図における熱損失が改善した結果を下図に示します。現状の窓の熱損失は98Wでしたので、性能基準を満足した窓にリフォームした場合は65W(66%)改善されます。前回の外壁のリフォームと合わせると150Wの改善です。エアコンの供給熱量は520Wから370Wとなり、電力消費量も173Wから123Wと約3割の省エネとなります。

<窓と東壁を性能基準を満たすようにリフォームした場合の省エネ効果>

まとめ

 今回は、窓(ガラスとサッシ)の熱流量(暖房の場合は熱損失)について検討しました。ガラスとサッシは省エネ法の対象となっておりその省エネ基準(性能基準)を整理しました。ガラスは複層ガラスのみが対象となっており、単板ガラスは省エネが期待できないとして対象外でした。しかし、これはサッシの性能基準により、複層ガラスを付けたサッシへの普及を図るとの意図のようです。

 窓の熱流量(熱損失)は、外壁と同様の方法で求める熱貫流と、さらに日射の影響を考慮した吸収日射熱取得を算定することで把握できます。熱貫流率は室内外の熱伝達抵抗とガラス及び中空層の熱抵抗を算定し、それらの和(総熱抵抗)の逆数が熱貫流率になります。ガラスの熱抵抗は熱伝導率と厚さにより決まるのは、外壁と同様です。

 一方、吸収日射熱取得は当該地域の日射量により異なるもので、その日射量を基本にガラスの吸収率を乗じて算定することになります。日射量については、NEDOの日射データベース閲覧システム等により把握が可能です。

 前回までに検討してきた熱収支モデルにおいて、窓の熱貫流率と吸収日射熱取得を計算して熱損失を計算したところ、以前に室内熱伝達率から算定した熱損失と同レベルの値が算定されました。このことから、両方法の計算式で採用したパラメータの数値が概ね妥当であったことが分かりました。

 最後に、現在の窓をリフォームすることで熱損失の改善状況を把握しました。具体的には窓の熱貫流率を省エネ法の性能基準値となるように改善した場合、窓の熱損失は66%改善しました。そして、前回検討した東壁の断熱化の効果も加えるとエアコンの消費電力量は約3割の省エネとなりました。

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<参考文献>
1)宇田川光弘、他:建築環境工学-熱環境と空気環境(改訂版)、朝倉書店、2020.
2)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日
3)2014年経済産業省告示第235号(制定)「複層ガラスの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第416号
4)2014年経済産業省告示第234号(制定)「サッシの性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2019年告示第416号
5)国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)、日射に関するデータベース、https://www.nedo.go.jp/library/nissharyou.html