前回まで、電子レンジとIH調理器に関してのエネルギー消費の特徴を整理してきました。今回からは、他の調理器具も加えて調理法別のエネルギー消費量を比較してみたいと思います。今回は「水をあたためる」ことに着目します。「水をあたためる」ことは、料理の基本であり、省エネ法に基づくエネルギー消費を測定する際の擬似負荷にもなっています。なお「水をあたためる」ことは電気だけでなく都市ガスなどでも可能ですが、今回は電気をエネルギー源とした調理器具のみを対象とします。
電子レンジの第1回報告(「電子レンジ(1)-省エネ特性」)では、マグネトロンでの電波の発生などに電力を要することから電子レンジの熱効率(出力と消費電力との比)は54%と計算されています。一方、前回までの報告ではIH調理器の熱効率は80~90%であることが、文献上からも実際の消費電力の測定(「IH調理器(2)-消費電力の測定」を参照ください)からも明らかになっています。
単純に類推するとIH調理器の方が、電力消費上優れていると思われます。ここでは、どの程度優れているかを実測によって確かめたいと思います。なお、電子レンジは少量の食品、飲料を温めるのに使われているため、温める水の量を200mLとします。
少量の水を沸かす器具として電気ケトルが普及していますが、今回の測定ではこれも加えて測定しました。電気ケトルは電気を使って水を温める「やかん」です。これと類似しているのが、電気ポットですが、これは湯沸かしと保温の両方を目的としています。保温のために断熱材を利用した機器が開発され、主流となっていましたが、近年は保温機能がない電気ケトルが主流です。価格が安いうえに、少量なので直ぐに水を沸かせる機能が消費者に受けています。今回はこれも比較対象として加えて消費電力の測定を行いましたので、報告します。
調理器具の消費電力量の比較方法
(1)比較対象の調理器具
調理には様々な方法があると思われますが、ここでは簡単のため水を温めるという方法に着目します。比較対象の調理器具は電子レンジ、IH調理器、電気ケトルです。これらを選択したのは同じ電気をエネルギー源とした調理器具であることです。
電子レンジはマイクロ波により水分子を振動・回転させて水の温度を上昇させ、食品を加熱する調理器具です。一方、IH調理器は装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させることにより食品を加熱するものです。電気ケトルは電熱線を容器の下部に設置して、接する水との熱伝導と熱対流によって加熱します。なお、電気ケトルもIH調理器もともに省エネ法の対象機器ではありません。
測定に用いた調理器具の概要を下表に示します。まず、電子レンジはシャープ株式会社RE-F23Aです。庫内容積は23Lであり、省エネ法の「区分B」(オーブン機能を有するものでヒーターの露出があるもの)で、省エネ基準達成率が104%の製品です。詳細の仕様は「電子レンジ(2)-加熱モード別の消費電力」を参照ください。IH調理器はT-falの卓上IH調理器Daily-IHです。これも前回の熱効率の算定で使用しましたので、詳細の仕様は「IH調理器(2)-消費電力の測定」を参照ください。
測定に用いた電気ケトルはT-falの電気ケトルAprecia Ag+ controlです。本機種は60℃から100℃まで7段階の温度設定が可能です。
表-1 測定に用いた調理器具の仕様
電子レンジ | IH調理器 | 電気ケトル | |
---|---|---|---|
調理器具の型式 | シャープ株式会社 RE-F23A | T-fal 卓上IH調理器 Daily-IH | T-fal 電気ケトルAprecia |
定格消費電力 | 1,460W | 1,400W | 1,250W |
容量(容積) | 23L(庫内容積) | - | 0.8L(ケトル容積) |
加熱モード | 「レンジ・好みの温度」 80℃ | 最強モード (火力レベル6) | 設定温度 80℃ |
調理器の外観 | |||
加熱用容器 | なし | ||
加熱容器の質量 | 377g | 1,066g | 573g |
(2)消費電力の測定方法
消費電力の測定は、200mLの水を18℃から80℃まで、3種の調理器具で加熱するという方法で行いました。測定方法の概要を下図に示します。3種の調理器具ごとに条件を同一にするため、水を大きな容器に入れて温度を測り、この容器から加熱する試料200mLを計量してそれぞれの容器に入れ、調理器具で加熱します。初期の水温は18℃であり、この温度が保たれるように、温度計で計測しながら温度上昇した場合には氷を入れて冷やし目標温度にします。
各調理器具の能力、あたための加熱モード、水を入れる容器について表-1に示しています。定格消費電力は電子レンジが最も大きく(1.46kW)、次にIH調理器(1.4kW)、電気ケトル(1.25kW)の順です。加熱モードは電子レンジ、電気ケトルは設定温度を80℃に設定できますが、IH調理器は温度設定がないため、火力レベルを最強に設定して加熱し、温度計を見ながら目標に達した時に電源を切ります。
加熱容器は、電子レンジは耐熱スープカップ、IH調理器はIH対応のミルクポット、電気ケトルはケトル本体です。スープカップの底部口径(底径)は11.5cm、高さは5.5cmです。IH用のミルクポットの底径は12cmです。質量は順に、377g、1,066g、573gです。
なお、温度計は(株)エーアンドディのAD-5326TT(チャンネル2、外部温度センサ、測定範囲:-40~90℃)を用いています。また、電力計はラトックシステム(株)のRS-WFWATTCH1です(下表参照)。
表-2 温度計(AD-5326TTの外部センサー)の仕様
項 目 | 内 容 | 写 真 |
---|---|---|
メーカー名 | 株式会社エー・アンド・デイ | |
製品名・型番 | 温度データロガー、AD-5326TT | |
測定範囲 | -40.0~90.0℃ | |
測定精度 | ±1.0℃(40℃未満) ±2.0℃(40~69.9℃) ±3.0℃(70℃以上) |
|
センサ | サーミスタ | |
測定間隔 | 30秒毎 | |
記録間隔 | 1分~12時間の間隔で設定可能 |
表-3 電力モニター(ワットチェッカー)の仕様
項 目 | 内 容 | 外 観 写 真 |
---|---|---|
メーカー名 | ラトックシステム株式会社 | |
製品名・型番 | RS-WFWATTCH1 | |
電源 | 100V | |
測定範囲 | 1~1,500W | |
測定項目 | 毎秒の電圧、電流、消費電力 毎分の積算電力量、電気料金、CO2排出量 |
|
データ保存 | CSV形式 | |
通信方法 | Wifi |
調理器具の電力消費量の測定結果
調理器具別の消費電力の測定結果は下図の通りです。また、それぞれの加熱時間、平均消費電力、消費電力量、熱効率の比較を表-4に示しています。
それぞれの加熱モードについては、電子レンジは「レンジ・好みの温度」のメニューから「80℃」を設定しています。電気ケトルは温度設定を80℃として加熱し、終了後温度測定を行った結果81℃になっていました。IH調理器には温度設定のメニューはありませんので、温度計を見ながら80℃になった時点でスイッチOFFにしまたが、正確に計測した結果85℃になっていました。これは、温度上昇の速さが極めて速かったためです。最終温度の統一が取れていませんが、それを考慮して結果を確認ください。
まず、加熱時の平均消費電力は電子レンジ、IH調理器、電気ケトルの順に、946W、1,260W、1,184Wでした。電子レンジは最初の30秒間は45~50Wとなっており、その後946Wが2分40秒ほど続いています。946Wの消費電力は、定格消費電力の65%(=946/1460)とかなり低い値となっています。これは、加熱しすぎを避けるために低電力にしている可能性があります。一方、IH調理器は定格消費電力の90%(=1,260/1,400)、電気ケトルはそれの95%(=1,184/1,250)となっています。
200mLの水を18℃から約80℃まで上昇させるのに要した時間は、下表に示すように順に、191秒(3分11秒)、95秒(1分35秒)、60秒(1分)でした(冷却ファンの稼働時間は含みません)。平均消費電力が2番目の電気ケトルが最も加熱時間が少なくなっています。電子レンジの高周波出力を600Wにしていれば、消費電力が1,100Wとなって所要時間が少なくなっていたものと思われますが、消費電力量は変わらないと想定します(ただし、この場合は温度設定ができません)。
また、消費電力量は、順に41Wh、33Wh、20Whです(下図参照)。この結果、電気ケトルが最も消費電力量が少なかったことになります。水を沸かすことが主目的の電気ケトルが最も省エネであったことは当然のことかもしれません。
表-4 調理器具による消費電力量、熱効率の比較
項目 | 単位 | 電子レンジ | IH調理器 | 電気ケトル | |
---|---|---|---|---|---|
上昇 温度 | 加熱前水温 (1) | ℃ | 18 | 18 | 18 |
加熱後水温 (2) | ℃ | 80 | 85 | 81 | |
上昇水温 (3)=(2)-(1) | K | 62 | 67 | 63 | |
与えた 熱量 | 加熱時平均消費電力 (4) | W | 946 | 1260 | 1184 |
加熱継続時間 (5) | 秒 | 191 | 95 | 60 | |
消費電力量 (6) | Wh | 41 | 33 | 20 | |
与えた熱量 (7)=(6)×3.6 | kJ | 147.6 | 118.8 | 72 | |
水が 受けた 熱量 | 水の質量 (8) | kg | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
水の熱容量 (9) | kJ/(kg・K) | 4.19 | 4.19 | 4.19 | |
水が受けた熱量 (10)=(3)×(8)×(9) | kJ | 52.0 | 56.1 | 52.8 | |
熱効率 (11)=(10)/(7)×100 | % | 35.2 | 47.2 | 73.3 |
表-4では、熱効率についても示しています。熱効率の計算式は以下の通りです。
熱効率(%)=水が受けた熱量/各調理器が与えた熱量×100
計算の一例として、電子レンジの場合の熱効率の計算過程を示します。水を18℃から80℃まで温めた熱量は、62℃上昇させた熱量であるので、以下で算定されます。
水が受けた熱量=質量200g×温度差(80℃-18℃)×水の熱容量4.19kJ/(kg・K)=52.0kJ
一方、消費電力量を熱量(J:ジュール)に換算すると、
電子レンジが与えた熱量=41.0Wh×3.6(kJ/Wh)=147.6 kJ
従って、熱効率は以下になります。
水を加熱した熱効率(%)=52.0/147.6×100=35.2%
同様の計算を行って、それぞれの熱効率は順に35.2%、47.2%、73.3%となりました(下図)。やはり、電気ケトルの熱効率が一番高く、次いでIH調理器、最後が電子レンジです。なお、今回の熱効率の計算は水を80℃まで上昇させた時の値ですが、JIS S2013(2019)「家庭用ガス調理器」では、既定の容器を使って水温を50℃まで上昇させたときの熱効率を算定するとされています。電気機器の熱効率もこれに準じて測定しています。その詳細については、前回の報告「IH調理器(2)-消費電力の測定」を確認ください。
一般的には、50℃より高い温度まで温めたときの熱効率は低下していきます。それは、温度を高くすると水分子で蒸発するものが多くなり、その潜熱で加熱した熱が奪われるためと考えられます。また、今回の消費電力の測定においては、電気ケトルのみ蓋が付いた状態で測定しており、電子レンジとIH調理器は蓋がなく水が蒸発しやすいため、熱の損失が大きいことが考えられます。そのため、電気ケトルの熱効率が相対的に高かったと考えられます。さらに、JIS S2103(2019)の熱効率の試験方法では、温度の設定だけでなく水を入れる容器やかくはん器具なども規定されていますので、ここで示した熱効率は製品のスペックとは異なります。しかし、一般家庭での調理にはこのような使い方をされることもあるので参考になると思います。
調理器具の特徴のまとめ
以上の検討をもとに、3種の調理器具の特徴を下表にまとめました。
表-5 調理器具の特徴のまとめ
項目 | 電子レンジ | IH調理器 | 電気ケトル |
---|---|---|---|
加熱の原理 | マイクロ波により水分子を振動・回転させて水の温度を上昇させ、食品を加熱する。 | 装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させることにより食品を加熱する。 | 電熱線を容器の下部に設置して、接する水との熱伝導と熱対流によって加熱する。 |
省エネ法対象 | 対象 | 対象外 | 対象外 |
熱効率 | 55%前後 | 80~90% | かなり高い(90%程度か) |
利点 | お湯を沸かさなくても直接野菜の水分の温度を上昇させることができるため、野菜などの下ごしらえに使える。レトルト食品のあたためにも適している。 | 熱効率は高い。センサーを用いた様々な省エネの機能が付加されているので、効率的な調理が可能。 | 熱効率はかなり高い。短時間に少量(1L前後)の水を沸かすのに用いるのが効果的。 |
欠点 | マグネトロンの稼働、高圧トランスでの損失等に電力を消費するため、熱効率は低い。 | IH調理器に使える容器(鍋等)は熱抵抗の大きな鉄やステンレスなどに限定されており、土鍋や陶器などの容器は使えない。 アルミや銅の鍋も使える機種が開発されているが、省エネの面では難がある。 | 水を沸かすのに特化している。味噌汁やスープのあたためには使えない。また、うどん、そばやパスタを茹でるための大量の水を沸かすためには使えない。 |
今回の測定では、少量の水(200mL)を温めるには電気ケトルが最も効率的であり、次いでIH調理器が効率的であることが分かりました。ただし、電気ケトルは水を温めることに特化しており、味噌汁やスープなどを温めることはできません。また、電気ケトルは少量の水を温める(沸かす)ことを目的としているため、1L前後の容量しか一度に温めることはできません。うどん、そばやパスタを茹でるための大量の水を沸かすためには使えません。
IH調理器は、その熱効率の高さから水を温める際も効率的であると言えます。今回の測定では少量の水の温めのため、加熱の過程で目標温度をオーバーしてしまい、熱効率がやや低い結果となりました。IH調理器の火力を有効に使うためには、少量すぎると思われました(1Lの水の温めの際の熱効率は前回の報告に示していますが、本測定での熱効率よりも高い値となっています)。
IH調理器は前回の報告にもあるように、センサーを用いた様々な省エネの機能が付加されているので、調理に用いるには効率的な器具と言えます。ただし、IH調理器に使える容器(鍋等)は鉄やステンレス等に限定されており、土鍋や陶器などの容器は使えません。最近、アルミや銅の鍋も使える機種が開発されていますが、省エネの面では難があります。
さらに、ビルトイン型のIH調理器はオールラウンドの調理が可能です。このビルトイン型IH調理器との比較対象となるのはガスコンロです。これらの比較については、熱効率に加えて温室効果ガスの排出特性についても検討することが有効あり(エネルギー源が異なるため)、それらの検討は後日報告することにします。
本測定において、電子レンジは最もエネルギー消費の面で評価が低い結果となりました。電子レンジの利点は、野菜などの下ごしらえでお湯を沸かさなくても直接野菜中の水分の温度を上昇させることができるため、水を沸かすためのエネルギーを要さないことです。また、レトルト食品を加熱するのに、直接温めることができるため、極めて効率的です。この調理方法におけるエネルギー消費の比較ついては、次回に報告する予定です。
このような調理器具の得意な加熱方法を探して、賢く使い分けることが重要と思われます。
まとめ
今回は、これまで個別に検討してきた電子レンジとIH調理器について、「水のあたため」に関する電力消費の傾向を比較しました。また、「水のあたため」には電気ケトルが一般的であるため、これも比較の対象としました。
測定対象とした電子レンジはシャープ株式会社RE-F23Aです。庫内容積は23Lであり、省エネ法の「区分B」で、省エネ基準達成率が104%の製品です。また、IH調理器はT-falの卓上IH調理器Daily-IHです。さらに、電気ケトルはT-falのAprecia Ag+ controlです。容量0.8Lまでの水を温めることができ、60℃から100℃まで7段階の温度設定が可能です。
ここでは200mLの水をそれぞれの器具に適した容器で加熱して80℃まで上昇させる際の消費電力量を比較しました。その結果、消費電力量は電気ケトルが最も少なく(20Wh)、次いでIH調理器(33Wh)、電子レンジ(41Wh)という結果になりました(若干上昇温度に差があります)。また、加熱時間も電気ケトルが最も早く既定の温度に達しています。水を沸かすことが主目的の電気ケトルが最も効率的であることは当然と言えるかもしれません。
今回の測定では、電気ケトルが最も効率的に水を温めることが分かりました。しかし、電気ケトルは水を温めることに特化しており、味噌汁やスープなどを温めることはできません。また、電気ケトルは少量の水を温める(沸かす)ことを目的としているため、1L前後の容量しか一度に温めることはできず、そばやパスタを茹でるための大量の水を沸かすためには使えません。
一方、IH調理器はその熱効率の高さから水を温める際も効率的であり、センサーを用いた様々な省エネの機能が付加されています。ただし、IH調理器に使える容器(鍋等)は鉄やステンレスと限定されており、最新の機種ではアルミや銅の鍋も使えますが、省エネの面では難があります。
電子レンジの利点は、野菜などの下ごしらえでお湯を沸かさなくても直接野菜の水分の温度を上昇させることができるため、水を沸かすためのエネルギーを要さないことです。また、レトルト食品を加熱するのにも効率的な調理が可能です。このような調理器具の得意な加熱方法を探して、賢く使い分けることが重要と思われます。
次回は電子レンジの得意とするレトルト食品のあたために関して消費電力量の測定を行って、IH調理器や他の調理器具との比較を行っていきたいと思います。