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調理機器

IH調理器(1)-加熱原理と製品の特徴

 今回は調理器具のうち、IH調理器について取り上げます。IH調理器は電磁波を使用するため、電磁調理器とも呼ばれます。さらに、台所のガスコンロを代替するビルトイン型の場合には、IHクッキングヒーターと呼ばれることが多いようです。

 この調理器の原理は装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させるものです。この加熱原理は誘導加熱(induction heating、IH)というため、IH調理器と呼ばれています。ここでは、IH調理器と呼ぶことにします。

 なお、IH調理器は省エネ法の対象にはなっておりません。その原因は普及率が大きくないことが想定されますが、省エネの手段が少ないこともあるかもしれません。本報告では、まず誘導加熱(IH)の原理や特徴を整理し、調理に使われるメリット、デメリットをまとめます。次いで現在製造、販売されている製品の状況を整理して、消費電力の傾向を把握します。そして最近の製品にはセンサーを用いて自動で消費電力を削減する機能が搭載されているため、その省エネの具体的な方法について整理していきます。

IH調理器の原理と熱効率

 IH調理器の加熱原理は前述したとおり、誘導加熱により金属性の調理器を自己発熱させるものですが、その機構は下図に示す通りです1)

 磁力発生コイルに高周波電流を供給すると磁力線が生じ、その結果、鍋底に渦電流が流れます。これと鍋の材料のもつ抵抗でジュール熱が発生し、鍋底自身が発熱します。そのため、鍋の材料は電気抵抗の大きな金属でなければなりません。

 IH調理器の熱効率は90%とされており1)、他の調理器具と比べても非常に高い効率となっています。ここで言う熱効率とは、投入された熱量(=消費電力量)に対する食品・飲料に加えられた熱量の比率を言います。この高い熱効率は、誘導加熱が鍋の金属に直接作用するため熱の損失が少ないためです。電子レンジがマグネトロンを稼働させる電力や高圧トランスでの熱損失などにより熱効率が55%程度しかないのと比べると非常に効率的です(電子レンジの熱効率については、「電子レンジ(1)-省エネ性能」を参照ください)。ただし、調理方法が異なるため、省エネ性については単純な比較はできません(この点については後日比較検討を行います)。

 なお、東京ガスの資料ではIH調理器の熱効率90%については、ガスコンロの熱効率測定方法(JIS基準)で測定した場合は79%であるとされています2)。この90%という高い数字はカタログ上の数字とみても良いでしょう。容器や火力などの測定する条件によっても変わってくるため、実際には80%から90%程度とみておくのが妥当と言えます。

 一方、ガスコンロは最新の機器でも56.3%とされています(JIS基準に基づく最新のガスコンロの熱効率3))。これはコンロの炎が鍋のみを熱するのではなく、周りの空気を温めるなどの熱損失があるためです。しかし、電気機器の熱効率とガスコンロのそれを単純に比較することはできません。日本の電力会社の電源構成は依然として化石燃料の割合が高く(約8割)、化石燃料を用いて発電した電気の発電効率は最大でも55%(LNG火力発電の場合)とされているからです(本サイトの「ストーブ(2)-二酸化炭素排出特性」を参照ください)。そのため、投入された化石燃料の熱量に対する熱効率はIH調理器の場合は最大でも約50%(=55%×90%)となり、ガスコンロの方が化石燃料の熱量に対する熱効率は高いと言えます。

 なお、今後電力は化石燃料への依存を脱して、再生可能エネルギーなどに移行していくことが考えられますので、化石燃料の熱効率だけで比較することは適切ではありません。また、本サイトの趣旨からもこれらの家電機器の使用による温室効果ガス(二酸化炭素が中心)の排出量について整理することが重要です。それらの比較検討については後日行う予定です。

IH調理器の種類と特徴

 IH調理器は主としてプレートタイプが主流ですが、炊飯器にも使われています。プレートタイプのIH調理器は卓上型据え置き型ビルトイン型の3種類に分けられます。卓上型は食卓の上で鍋料理のように調理しながら食べるという目的で作られた小型の調理器です。一方、ビルトイン型はガスコンロと同様にシステムキッチンの中に組み込まれ、幅広い調理に対応できる火力(出力)と口数(ガスコンロの場合のガスバーナーの数)を持っています。据え置き型は卓上型とビルトイン型の中間として位置づけられます。

 IHクッキングヒーターという言葉はビルトイン型と据え置き型を含めて呼ぶことが多いようです。その日本での普及率は25%程度とされています4)。近年のオール電化住宅の普及により新築の住宅ではビルトイン型が常備されているところもあります。IHクッキングヒーターの出荷台数は622千台(2021年4月から2022年2月まで)であり、電子レンジの3,249千台、ホットプレートの910千台と比較しても多くはありません5)

 プレートタイプのIH調理器のメリット、デメリットを下表に示します。

表-1 IH調理器のメリット、デメリット

  メリット  デメリット
(1) 他の電気機器と比較して熱効率が高い(1) 調理用の容器が限定される(材質、形態、大きさ)
(2) 炎が出ないため火災などの可能性が低い(2) あぶりはできない(鍋が接触していないと加熱しない)
(3) 燃焼しないため二酸化炭素等の排出がない(3) ビルトイン型は消費電力が大きいため、現状の契約電力量を大きくすることが必要
(4) プレート天板が平らであり掃除が簡単(4) 停電時は使えない
(5) センサーを用いた温度調節などの自動化が容易(5) ガスコンロに比べて値段がやや高い
出所)日本電機工業会:製品分野別情報、IHクッキングヒーター

 IH調理器のメリットは、前述の高い熱効率に加えて、炎が出ないため火災などの可能性が低いことがあげられます。また、燃焼しないため二酸化炭素等の排出がないため、空気が汚れず換気の必要がないことがあります。さらに、プレート天板が平らであり掃除が容易であるとも言われています。そして、最近のクッキングヒーターにはセンサーが装備され鍋の温度を感知して無駄な電力を消費しないよう制御することができ、様々な料理の自動調理機能を用意して簡単に調理できるようになっています。このほかのメリットとして、周りの空気を熱することがないので、冷房時に省エネになるとされています。

 デメリットは、IH調理器は先に示したように特定の金属製の容器のみしか使えないことです。使うことができる容器は鉄、ホーロー、ステンレス製の鍋になります。ガラスや陶器、土鍋などは使えません。容器の材質に加えて、大きさ(底径)にも制約があり、12cm以上の口径のものが推奨されます(アルミ、銅は15cm以上)。さらに容器の形状では容器の底が平らでIH調理器のプレートに密着するものでなければなりません。

鉄ホーロー
鉄、鉄鋳物
ステンレス

 なお、近年はオールメタルIH調理器が開発され、熱抵抗の少ないアルミ、銅、多層鍋も使用が可能になっています。オールメタルIH調理器については、後で解説します。

 また、炎が出ないのでスルメや海苔などを直接火であぶることはできません。また、鍋をプレートから離すと加熱できないため、フライパンなどによる鍋振り調理はできません(機種によっては可能と表示しているものもあります)。

 卓上型IH調理器の能力(定格消費電力)は1kWから1.4kWが主流ですが、ビルトイン型は軽く1.5kWを超えます。家庭用の電源は一般的には100Vですが、1.5kWを超えると200Vの電源が必要になります。ビルトイン型はガスコンロを代替するものなので、コンロを3か所、グリルを1ヵ所持つのが普通であり、最大5.8kWの能力を持っています。

 このくらいの消費電力になると電力会社との契約が一般家庭で主流の30~40A(アンペア)では調理器だけでブレーカーが落ちてしまいますので、契約電力を変える必要があります。5.8kWの機器を使う場合は、60A程度の電力契約が推奨されています。もちろん、停電時には使えないため、代替の調理器具か蓄電池などの設備を用意することが必要です。

 定格の消費電力は5.8kWですが、この消費電力を使うことはほとんどないと言われています。熱効率が高く火力のコントロールが優れているため、省エネ性能は高いとされています。シーズヒーターコンロ(伝熱線を使った一般的な電気コンロ)との比較では20%の省エネとされており、1か月の標準的な電気代は1,020円/月と試算されています1)

IH調理器製品の生産・販売状況

 IH調理器は省エネ法の対象になっていないので経済産業省の省エネ型製品情報サイトには製品の記載がありません。ここでは、価格ドットコムのサイトから製品情報を取得し、それの集計を行います6)

 まず、ビルトイン型のIHクッキングヒーターの消費電力別の製品数は下図の通りです。消費電力が5.8kWのものが圧倒的に多く製品数全体(180)の75%を占めています。1.3kW、1.4kWの製品は卓上型と同程度の消費電力量ですが、ビルトイン型ではあるがヒーターの口数が1ヵ所のものです。

出所)価格.com、IHクッキングヒーター(2022年4月11日閲覧)

 また、コンロの最大出力別では3~4kW未満が148製品と最も多く、次いで2kW~3kW未満が19製品となっています。さらに、ヒーターの数では3口が130製品と最も多く、システムキッチンのガスコンロの構成と同様のものになっています。

 メーカー別ではパナソニックと日立が50製品以上を、三菱電機も40製品以上を提供しています。

出所)価格.com、IHクッキングヒーター(2022年4月11日閲覧)

 次に、卓上型のIH調理器の製品数は以下の通りです。1.4kWの製品が135製品と最も多く、全体の約8割を占めています。すべての製品がヒーターは1口であり、最大出力もその消費電力に一致しています。メーカー別ではアイリスオーヤマが30以上の製品を提供しており、ドリテック、山善、パナソニックが5製品以上を提供しています。

出所)価格.com、IHクッキングヒーター(2022年4月11日閲覧)
出所)価格.com、IHクッキングヒーター(2022年4月11日閲覧)

IHクッキングヒーターの省エネ機能

 ビルトイン型のIHクッキングヒーターについて、最新型機種の仕様を下表に示します7)。また、この仕様をもとに能力の概要を示したものを下図に示しています。

表-2 ビルトイン型IHクッキングヒーターの最新機種の仕様

   項   目   内    容
品 番KZ―AN77K/KZ―AN77S
電 源単相200V (50-60Hz共用)
総消費電力5,800W/4,800W/4,000W (切換式) 
待機電力0.85W
本体 (約)寸法幅748 mm× 奥行570mm×高さ230mm
質量29.4 kg
グリル庫内高さ(約)101 mm
グリル皿大きさ(約)輻258 mm × 奥行394mm
質量(約)1.2 kg
左IHヒータ最大消費電力3200 W(アルミ・銅: 2600W)
火力調節(約)10段階 110W相当~3200W
(アルミ・銅 9段階 150W相当~2600W)
焼き物温度調節(約)5段階 140~230℃
揚げ物温度調節(約)7段階 140-200℃ .
自動調理湯沸し
調理タイマー1分~9時間30分
右IHヒーター最大消費電力3200W* (アルミ銅:2600W)
火力調節(約)10段階 110W相当~3200W
(アルミ・銅:9段階150W相当~2600W)
焼き物温度調節(約)5段階 140~230℃
揚げ物温度調節(約)7段階 140~200℃
自動調理湯沸し
調理タイマー1分~9時間30分
後ろIHヒーター最大消費電力2000W
火力調節(約)8段階 90W相当~2000W
自動調理湯沸し・炊飯
調理タイマー1分~9時間30分
グリル最大消費電力2750W
自動調理12メニュー(切身・干物・つけ焼き・姿焼き(小/中/大)·とり塩焼き・とりつけ焼き・焼きなす・トースト・ビザ・温めなおし)
凍ったままIHグリル8メニュー(切身・干物・つけ焼き・姿焼き(小/中)・とり塩焼き・とりつけ焼き・トースト)
オープン調理(温度調節)(約)11段階 80~280℃
手動火力調節(約)上下ヒーター:3段階 1020W相当~1470W相当、上ヒーター900W相当
調理タイマー手動:1分~30分 オーブン: 1分~90分
出所)パナソニック(株)、公式Webサイト、IH調理器/IHクッキングヒーター
出所)パナソニック(株)IHクッキングヒーターKZ-AN77Kの仕様より作図

 この機種には、IHヒーターが3箇所、グリルが1ヵ所ついています。総消費電力は最大5.8kWですが、4.8kW、4.0kWに切換えることができます。なお、待機電力は0.85Wであり、大きな消費電力ではありません。IHヒーターの火力は10段階に調節が可能であり、また焼き物温度は5段階、揚げ物温度は7段階に調節が可能です。またヒーター、グリルのすべてにタイマーが設置されています。 

 本機種はオールメタルIH調理器であるため、アルミや銅の調理器具も使うことが可能です。オールメタル調理器は銅やアルミのような電気抵抗が少ない金属に対しても発熱するように、コイルの巻き数を従来の2倍にしています。また、コイル線は通常のIH調理器のコイルがφ0.3mm、50本の撚り線に対して,φ0.05mm、1620本の微細の撚り線としています8)。オールメタル調理器では加熱効率が落ちるため消費電力が大きくなるうえ、最大出力が低下するため加熱時間や火力を調整する必要があります(表-2参照)。省エネを考慮すれば、IH調理器を効率的に使える容器(鉄、鉄ホーロー等の鍋)を使用する必要があります。

 また、最新の機種では温度測定に赤外線センサ(IRセンサ)を用いています。従来の機種のようにトッププレートからの熱をサーミスタにより取得するのではなく、鍋底から出る赤外線を検知して温度を計測しています。サーミスタに比べて迅速な温度検知ができるため、食材の投入タイミングを正確に知らせることでおいしく、迅速に調理できることを可能にしています(下図参照)。温度を迅速に把握することで焼き過ぎの無駄なエネルギーの使用を防止して省エネルギー化が図れます9)

出所)石丸直昭、北泉武:ビルトインIHクッキングヒータの進化、日本AEM学会誌、Vol.18、No.3、2010.

 また、IH調理器には自動調理機能として、湯沸かし機能炊飯機能がついており、最適な温度管理によって調理が可能になっています。さらに、グリルについても自動調理ができるようにプログラム化されており、これもおいしく仕上げるだけでなく、無駄な電力を消費しないように設定されています。

 このほかに、安全性の向上と省エネのために以下の機能が装備されています。スイッチの切り忘れや調理器具が載っていない時の自動OFF機能や、温度が高すぎないように高温の際の通電コントロールなどの機能が搭載されています。温度調節により過大な加熱の防止と調理時間を調節することで、消費電力を低減できるようになっています。

表-3 安全性と省エネのための機能

機 能内 容
1グリル高温自動OFFグリル庫内の発火などによって温度が異常に上がると、自動的に加熱を停止してブザーと異常表示で知らせる。
2切り忘れ自動OFF(全ヒーター)切り忘れても最終ボタン操作から一定時間が過ぎると、ブザーでお知らせし、自動的に通電を停止。
3空焼き自動OFF(左右IH・後ろIH)鍋の空焼き状態が約15分続くと、自動的に通電を停止し、ブザーと異常表示でお知らせ。
4温度過昇防止(左右IH・後ろIH)鍋底の温度が上がりすぎると、自動的に通電をコントロール。鍋底温度が下がると自動的に火力は強くなる。
5鍋なし自動OFF(左右IH・後ろIH)鍋を外すと火力表示が点滅し、一定時間が過ぎると表示が消え通電を停止。点滅中に鍋を戻すと再加熱する。
出所)パナソニック(株)、公式Webサイト、IH調理器/IHクッキングヒーター

まとめ

 今回はIH調理器の原理と製品の種類、特徴を整理しました。原理は装置内部に配置されるコイルに流れる電流により、所定の種類の金属製の調理器具を自己発熱させるもので、誘導加熱(induction heating、IH)といわれています。

 誘導加熱の原理はプレート型の調理器だけでなく炊飯器などにも応用されています。プレート型のIH調理器はビルトイン型、据え置き型、卓上型の3種類が製品として販売されています。IH調理器のメリットは、(1)金属を直接加熱するので熱効率は90%と非常に高い、(2)炎が出ないため火災などの可能性が低い、(3)燃焼しないため二酸化炭素等の排出がない、(4)プレート天板が平らであり掃除が簡単、(5)センサーを用いた温度調節などの自動化が容易などがあります。

 IH調理器のデメリットは、(1)調理用の容器が限定される(材質、形態、大きさ)、(2)あぶりはできない(鍋が接触していないと加熱しない)、(3)ビルトイン型は消費電力が大きいため、現状の契約電力量を大きくすることが必要、(4)停電時は使えない、(5)ガスコンロに比べて値段がやや高いなどがあります。

 熱効率が高く火力のコントロールが優れているため、省エネ性能は高いとされています。シーズヒーターコンロ(伝熱線を使った一般的な電気コンロ)との比較では20%の省エネとされており、1か月の標準的な電気代は1,020円/月と試算されています

 現在、製造・販売されているビルトイン型IH調理器の主流は、ヒーター口数が3口、最大出力が3~4kW、消費電力5.8kWの製品です。カーボンニュートラル時代を想定して、ガスコンロに代わるものとして期待されているものと思われます。卓上型IH調理器はヒーター口数が1口で、消費電力が1.4kWの製品が主流であり、多くのメーカーが製品を提供しています。

 IH調理器の省エネ技術として赤外線センサを用いた温度調節の自動化があります。サーミスタよりも温度の検知速度が速い赤外線センサを用いて鍋底の温度を迅速に把握し、加熱し過ぎないように効率的に温度制御を行うことで省エネを実現しています。なお、従来はIH調理器に対応していなかったアルミや銅の鍋を使うことができるオールメタルIH調理器が開発されていますが、鉄系の鍋よりも消費電力がかかるため、省エネの面では使わない方がよさそうです。

 次回は、実際にIH調理器の消費電力を測定し、その熱効率を確認するとともに、省エネ性や温室効果ガス(二酸化炭素)排出に関する特性を把握することにします。

<参考文献>
1)日本電機工業会:製品分野別情報、IHクッキングヒーター
2)東京ガス:東京ガスの環境活動、Environmental Activities 2009
3)資源エネルギー庁:省エネ性能カタログ(家庭用)、2021年版
4)環境省:家庭部門のCO2 排出実態統計調査事業委託業務報告書、2021年3月
5)日本電機工業会:JEMA自主統計、民生用電気機器国内出荷実績
6)価格.com:IHクッキングヒーター(2022年4月11日閲覧)
7)パナソニック(株):公式サイト、IH調理器/IHクッキングヒーター
8)石丸直昭、北泉武:ビルトインIHクッキングヒータの進化、日本AEM学会誌、Vol.18、No.3、2010.
9)宮内貴宏:IHクッキングヒータの技術動向、電気設備学会誌、Vol.31、No.2、2011.