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電子レンジ(3)-飲み物をあたためる

 前回は電子レンジを用いて、主として冷凍食品の解凍・あたためにおける加熱モード別の消費電力の分析をおこないました。加熱モードにはレンジ加熱(スチーム加熱を含む)、オーブン加熱、グリル加熱の3種がありますが、このうちレンジ加熱のみがマイクロ波による加熱で、オーブン加熱、グリル加熱は内蔵するヒータにより加熱されるものでした。これらの機能は、電子レンジを用いてさまざまな食事の調理を行いたいというニーズにより、追加されていったものです。

 今回は飲み物をあたためる際の消費電力を分析します。マイクロ波は食品中の水分子を振動・回転させて温度を上げるものなので、飲み物の加熱は電子レンジ本来の機能と言えます。冷めた味噌汁やスープをあたためなおす際には大変重宝する機能です。また、少量の牛乳やお酒をあたためる際にも使う方はいるでしょう。これらの加熱(加温)は、微妙な温度調節が課題です。味噌汁、スープはやや温度が高く、牛乳とお酒は温度が高すぎるとおいしくなくなります。特に、日本酒の「お燗」は微妙な温度調節が必要であり、「熱燗(あつかん)」、「人肌燗(ひとはだかん)」など、お酒の種類によって適切な温度があるようです。

 電子レンジでは赤外線センサーにより食品の温度を測定してあたための調節を行うことができるとされています。あらゆる物体は表面から赤外線を出しており、その赤外線のエネルギー量を検知することで温度を測定します1)。今回はこの電子レンジの温度設定を行ってレンジ加熱を行い、加熱後の正確な温度と消費電力の把握を行います。

 さらに、電子レンジには湿度センサーにより水分が蒸発するのを検知して熱量を制御、停止させる機能がついています。食品の自動あたためや、お酒の「燗」や牛乳のあたためにはこの湿度センサーが働くようです。今回はこの機能を使った牛乳と酒のあたためを行い、あたため後の温度と消費電力量を測定しましたので、報告します。

電子レンジのセンサーによる温度制御

 ここでは具体の電子レンジを例にして、センサーを使って温度制御を行う方法を説明します。測定に使用した電子レンジはシャープ株式会社のオーブンレンジRE-F23Aです。庫内容量は23Lです。本電子レンジには赤外線センサーと湿度センサーの2種類のセンサーが搭載されています。そのセンサーを使って温度制御を行うあたためのメニューを下図に示します。 

<シャープ・電子レンジRE-F23Aのおもて面のあたために関するメニュー>

 まず、赤外線センサーを使ったメニューは「レンジ、好みの温度」です。このメニューはレンジ加熱を行う際に好みの温度を設定してあたためるものです。このボタンを5回押すと初め70℃が表示され、次に下の「仕上がり温度」メニューで温度を調節します。

 赤外線センサーは下図に示すように右の斜め上から庫内中央に置いた食品の表面温度を検知します。使われる容器は「高さの低い容器を使う」とされており、推奨している容器は幅12cm以上、高さが5cm以下のものです2)。コップのような高さが高い容器は赤外線センサーで温度を正確に把握できないため、推奨されていません。

 次に、本電子レンジのメニューで、前述の<メニュー図>の下に「あたため」というメニュー(丸いボタン)がありますが、これは自動で食品をあたためる機能であり、湿度センサーによる制御が行われます。「あたため」は食品の蒸気(湯気)が湿度センサーに検知され、それによって加熱が終了します。そのため、このメニューの時は「ふたやラップをしない、ラップをするときはゆとりを持たせて軽くかぶせる」とされています。ふたをしたりきつくラップをすると、蒸気が庫内に出て行かずに、湿度センサーが検知できず、加熱し過ぎになるためです。

 さらに、「牛乳・酒」のメニュー(メニューの右上のボタン)でも、飲み物のあたためにおいて湿度センサーにより加熱を停止させているようです(カスタマーセンターからのヒアリング)。酒などが蒸発したことを検知して加熱を停止します。日本酒や牛乳を上図のようなスープ皿で飲む人はいないため、赤外線センサーを使った加熱の制御はできず、このような手法をとっていると思われます。

赤外線センサーによる温度制御

(1)測定方法

 ここでは、あたためる飲み物を「水」とします。これを特定の容器に入れ、設定温度を入力して加熱します。加熱後、温度計(サーミスタ型温度計)で温度を計測して赤外線センサーの精度を確認します。また、前回と同様に消費電力の測定も行います。

 水を入れる容器は、説明書に従い高さの低いスープカップを使用します。しかし、コーヒーなどをあたためるのに移し替えるのは面倒なので、マグカップの場合も試してみました(表-2参照)。測定の条件は以下の通りです。

 (1)容器:スープカップ
    設定温度 70℃(ケース1)、80℃(ケース2)
 (2)容器:マグカップ
    設定温度 70℃(ケース3)

 なお、初期の水の温度は18℃です。大きな容器に水を入れ、温度計で測定しながら温度を18℃に保ちます。温度が室温により上昇するため、氷水等を使って温度を一定に保つように調整します。温度計は株式会社エー・アンド・ディのAD-5326TTの2つのセンサーのうち、外部温度センサー(チャンネル2)を利用します。外部温度センサーの測定精度は以下の通りです。温度範囲により異なりますが、測定する70℃以上は±3.0℃と、やや精度が悪くなっています。なお、測定間隔は30秒ごとです。

表-1  温度計(AD-5326TTの外部センサー)の仕様

 項 目 内   容
測定範囲 -40.0~90.0℃
測定精度 ±1.0℃(40℃未満)
 ±2.0℃(40~69.9℃)
 ±3.0℃(70℃以上)
センサ サーミスタ
測定間隔 30秒毎

(2)測定結果

 測定結果を下表に示します。スープカップの「設定温度70℃」のあたため後に計測された温度は73.4℃であり、設定温度70℃をかなり超過しています。しかし、温度計の測定精度が±3.0℃であるため、特に大きな問題とは言えません。「設定温度80℃」のあたため後の計測された温度は80.2℃であり赤外線センサーが的確に温度制御しているように思われます。一方、マグカップの方は、「設定温度70℃」に対して計測された温度が80℃を超えていました。

表-2 水のあたための測定結果

ケース1ケース2ケース3
容 器スープカップマグカップ
初期温度18℃18℃18℃
あたため設定温度70℃80℃70℃
あたため後の温度73.4℃80.2℃80.1℃
加熱継続時間 注) 2分53秒3分11秒2分51秒
消費電力量36.6Wh41.7Wh36.0Wh
注)加熱継続時間は初期消費電力(45W~50W)と定常消費電力(930W~950W)の合計時間です。

 これは、赤外線センサーは前述のように斜め上から検知するため、マグカップの中の飲み物の温度を検知しにくいためと考えられます。シャープ(株)のカスタマーセンターにヒアリングした結果では、「マグカップなどを使用すると、赤外線センサーが検知しにくくなりますので、実際は温まっているのに加熱が止まらない、または、まだ温まっていないところがあるのに加熱が止まった、という両方が考えられます」とのことでした。推奨通りの底の浅い広口のスープ皿のようなものであたためることが必要なようです。

 次に、消費電力については下図に示す通りです。スタートボタンを押した直後は45~50W程度の消費電力が約30秒間続いています。その後、930~950W程度の消費電力が2分23秒間続きます。その後は加熱が終了して冷却ファンの消費電力約15Wが約40秒間続き、終了します。表-2の加熱継続時間は「あたためスタート」ボタンを押してから定常消費電力が終了するまでの時間です(70℃のあたための場合、2分53秒)。

 この結果、「設定温度70℃」のスープカップとマグカップでのあたための場合の加熱継続時間(2分50秒程度)と消費電力量(36~37Wh程度)はほぼ同じ数値でした。一方、「設定温度80℃」のスープカップでのあたためは、加熱時間は20秒程度、消費電力量は5Wh程度増加していました。

 ところで、このあたために必要な熱量(消費電力量)は上昇温度(温度変化)に比例すると言えます。そのため、ケース2の消費電力量はケース1とケース2の温度変化の比率で推計できる可能性があります(下式の「∝」は比例関係を表します)。

 必要熱量(Wh)∝温度変化(℃)

 ケース1とケース2の温度変化は以下の通りです。

 ケース1:73.4-18.0=55.4℃
 ケース2:80.2-18.0=62.2℃

 ケース2の温度変化はケース1のそれの1.12倍(=62.2/55.4)となります。ケース1の消費電力量は36.6Whでしたので、ケース2の消費電力量はその1.12倍となるため以下のように計算されます。

 ケース2の消費電力量=36.6×1.12=41.0Wh

 測定された消費電力量は41.7Whでしたので、若干誤差(2%未満)はありますが、概ねこの比例関係が成り立っていることが分かりました。

湿度センサーによる制御

(1) 測定方法

 湿度センサーを用いていると説明があった「牛乳・酒」のメニューを使って、牛乳と酒のあたためた後の温度と消費電力を測定します。使用する容器は下の写真のように、日本酒は製品の容器をそのまま使っています。また、牛乳は耐熱グラスに移し替えて、加熱しています。

 本測定には、温度計は料理用のアルコール温度計を使います。測定後に飲み物を無駄にしないためです。なお、本温度計は最小目盛が1℃であるため、測定結果の数値は1℃単位となります。また、消費電力の測定は、ラトックシステム(株)のRS-WFWATTCH1を使用しました。

 温度計:料理用のアルコール温度計(一般用ガラス製温度計)
 消費電力:ラトックシステム ワットチェッカーRS-WFWATTCH1

(2) 測定結果

 日本酒と牛乳の自動あたための測定結果を下表に示します。それぞれのあたための容量は、日本酒は180mL、牛乳は200mLです。あたため前は日本酒は16℃牛乳は6℃でした。牛乳は冷蔵庫に入れてあったため、少し温度が低くなっています。あたため後の温度は日本酒は61℃、牛乳は55℃になっていました。日本酒の主成分であるエタノールの沸点は約78℃ですので、その温度よりも少ない温度で蒸発したことになります。牛乳の沸点はさらに高いはずですが、日本酒より低い温度であたためは終了しています。

表-3  日本酒と牛乳のあたための測定結果

日本酒牛 乳
容量180mL200mL
容 器製品の容器耐熱グラス
初期温度16℃6℃
あたため後の温度61℃55℃
温度変化45℃49℃
加熱時消費電力1,100W1,100W
加熱継続時間2分2分5秒
消費電力量25Wh25Wh

 あたための消費電力の推移の図はここでは省略しますが、基本的には水の加熱の場合と同様です。加熱継続時間は日本酒は2分、牛乳は2分5秒とほとんど同じでした。加熱時の消費電力は約1,100Wです。その結果、消費電力量はともに25Whと同じ結果となりました。加熱による上昇温度は若干牛乳の方が大きく(日本酒45℃、牛乳49℃)、また容量も牛乳の方が多いのですが、加熱量は同一となりました。この結果からは、湿度センサーを利用しているというより、出力と加熱時間が固定値としてプログラム化されているように思われます。

 ところで、今回の日本酒のお燗の温度は60℃を超えてしまいました。日本酒造組合中央会によると、お燗の種類と酒質別の適正温度は下表のように決められているようです3)。最高級な大吟醸では最も温度が低い人肌燗(35~40℃)しか認められていません。一番高い温度でも熱燗(本醸造酒、普通酒のみ)の55℃ですので、今回の60℃を超えた燗酒を飲むことは推奨されていません。この温度ではアルコールが蒸発する量も増えるため、大変もったいないということになります。適正温度にするためには、電子レンジを使って加熱時間を試行錯誤して好みの味を追求する努力が必要です。

表-4 お燗の種類と酒質別適正温度

 お燗の種類温度範囲酒質別適正温度
 名前 読み方大吟醸吟醸酒純米酒本醸造酒普通酒
熱燗あつかん50~55
上燗じょうかん45~50
ぬる燗ぬるかん40~45
人肌燗ひとはだかん35~40
注)〇:おいしく飲める温度、◎:特においしく飲める温度
出所)日本酒造組合中央会:知っておきたい燗酒の常識

安全で効率的に電子レンジを使うために

 電子レンジで注意しなければならないのは加熱し過ぎの事故です。加熱しすぎて火災になったり、やけどしたりすることが報告されています。下図に東京都消防庁における電子レンジの使用時による火災の発生件数とその内訳を示しています4)

 これを見ると、近年になって発生数が急激に増えています。その原因で最も多いのが「加熱し過ぎ(過熱)」であり、その次が「誤使用」となっています。過熱により食品の温度が上がり、出火して火災になる件数が多いということです。東京消防庁の報告では、出火しやすいのは水分の少ないさつまいもや肉まんなどを加熱し過ぎる場合とのことです。

 このような火災に至らないまでも、過熱による消費電力量の増大も問題となりえます。前述のセンサーを使って自動的に加熱する場合、容器の不適切な使用やラップの仕方等によって過熱となる場合があることに留意する必要があります。具体的には、コーヒーなどをあたためる場合の赤外線センサーが検知しにくい容器の使用や、牛乳にふたをして湿度センサーに検知しない場合などは、過熱の恐れがあります。

 このように、電子レンジのセンサーを万能と思わずに、慎重に出力と加熱時間を選択して利用することが、安全性の確保や省エネにつながりますので、注意して使うようにしたいものです。

まとめ

 今回は電子レンジを使って飲み物をあたためる際のセンサー類の働きについて整理しました。電子レンジには赤外線センサーと湿度センサーが装備されており、これを用いて食品のあたためを制御しています。そのため、そのセンサーを使って飲み物を実際にあたため、出来上がりの温度と消費電力の測定を行いました。

 具体的には、赤外線センサーは食品の表面の温度を測定して、設定された温度になるように加熱を制御したり、設定したプログラムに基づいて自動的なあたためを行っています。また、湿度センサーはあたためにより食品から発生した蒸気を検知して、加熱を停止させています。

 飲み物についても赤外線センサーによりスープなどのあたための温度設定ができるほか、湿度センサーを用いて牛乳や酒のあたため(蒸気を検知した加温の停止)を行っています。今回は条件をそろえるため、対象を水にして温度を設定してあたためを行いました。また、牛乳と日本酒の自動あたためにおける温度と消費電力の測定も行いました。

 まず、水のあたためにおいては、容器をスープカップ(飲み口が広く高さが低い)とマグカップ(飲み口が狭く高さが高い)の2つを使って設定温度70℃と80℃であたためを行いました。スープカップでのあたためでは、あたため後の温度が比較的設定温度に近い結果でしたが、マグカップは設定温度を10℃以上超過していました。マグカップは赤外線センサーの検知が難しいため、加熱し過ぎや過熱が不十分な場合が生じる可能性がありました。このことから、説明書にあるように、飲み物をあたためる際は、飲み口が広い、高さが低い容器を使うことが重要です。

 また、消費電力については、最初45W程度であたためが始まり、最大でも950W程度であり、加熱し過ぎないように留意した制御となっていました。また、設定温度の異なる消費電力の差異を分析すると、上昇温度に比例した電力が消費されることを確認しました。

 牛乳と日本酒のあたためについては、出来上がり温度は日本酒は61℃、牛乳は55℃となっていました。加熱時間、消費電力量はどちらもほぼ同じ数値となっています。沸点の温度が異なる飲み物で同じ消費電力量になっているため、このメニューでは湿度センサーを利用しているのではなく、出力と加熱時間を固定値として設定されているように思われました。

 近年、電子レンジを使用する際の火災の発生件数が増加していることが報告されています。この主たる原因は加熱し過ぎとのことです。加熱し過ぎは火災の原因だけでなくエネルギーの増大にもつながるため、食品に適した加熱方法を把握しておくことが必要です。また、今回分析した電子レンジのセンサーの機能は容器やラップなどに留意してあたためを行うことが必要です。センサーによる自動制御を過信せずに、慎重に出力と加熱時間を選択して利用することが、安全性の確保や省エネにつながることに留意してください。

<参考文献>
1) ウィキペディア:赤外線センサー
2) シャープ株式会社:加熱水蒸気オーブンレンジ、RE-F23A、取扱説明書
3) 日本酒造組合中央会:知っておきたい燗酒の常識
4)東京消防庁:安全・安心情報、火災に注意!電子レンジを安全に使用しましょう、https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/topics/201703/