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エアコン(11)-冷房時の省エネ運転

 前回はエアコンの冷房時における消費電力量への影響要因の分析を行うため、最大熱負荷計算法により冷房負荷の定量化を行いました。冷房時の熱負荷には、日射熱負荷、貫流熱負荷、すきま風熱負荷、室内発生熱負荷があり、気象条件、壁と窓の部材等、室内発熱の状況を入力することで、熱負荷を算定しました。

 その結果、熱負荷の合計値とエアコンの消費電力量から算定された除去熱量(実稼働時のCOP3.0と仮定して消費電力量に3を乗じたもの)が良く一致しており、熱負荷計算によりエアコンの消費電力量を推測できることが分かりました。また、熱負荷の種類毎の時間変動が明らかとなり、どのような要因がエアコンの時間消費電力量に影響を与えているかが明確になりました(「エアコン(10)-冷房時の熱負荷計算」を参照ください)。

 今後は、エアコンの消費電力量をいかに低減させるかについての検討を始めます。消費電力量を低減させるには、室内の冷房の熱負荷を低減させる方法と、エアコンの運転方法により消費電力を低減させる方法(省エネ運転)の2つがあります。今回は、エアコンの省エネ運転について検討します。

 前回の報告以降もエアコンの消費電力の測定を継続しており、エアコンの設定温度を変えた場合の消費電力量についてその相違を分析しました。また、エアコンの運転モードを「AI快適自動」に設定して運転したところ、消費電力量の大きな低減が見られました。これらの消費電力量は外気温や湿度によって影響を受けるため、単純には比較できません。そのため、それらの影響を考慮して消費電力量の相違を分析しましたので、報告します。

エアコンの消費電力量の継続的計測

 前回までは7月23日から8月5日までの設定温度を28℃にした場合のエアコンの消費電力量について報告しました。継続して8月7日から8月20日まで、設定温度を28.5℃にしてエアコンを運転し消費電力量の測定を行いました。

(1)計測対象のエアコンの仕様

 測定を行ったエアコンは前回報告と同じダイキン製ルームエアコンAN40ZRBKP-Wです。その仕様は下表に示す通りです。冷房能力は4.0kW(暖房能力5.0kW)、消費電力800Wであり、冷房の面積の目安は鉄筋構造の建物では28m2までです。

表-1 測定対象のエアコン

   項    目  内容(数値)
メーカーダイキン工業株式会社
型 番AN40ZRBKP-W
電 源単相200V
冷房能力(kW) 4.0
消費電力(W) 800
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室 28
木造南向和室 18
暖房能力(kW)標準 5.0
低温9.1
消費電力(W)標準900
低温3,390
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室23
木造南向和室18
消費電力量 kWh暖房時期間合計761
冷房時期間合計305
期間合計(年間)1,066
通年エネルギー消費効率(APF)7.1
省エネ基準達成率(%)144
冷房定格エネルギー消費効率(冷房COP)5.0
注)各仕様はJIS C9612: 2013に基づきます。期間消費電力量の数値はカタログ値を示しています。
出所)ダイキン工業株式会社:ルームエアコンRX/Rシリーズ、取扱説明書
ダイキン工業株式会社:ルームエアコンカタログ、2021年11月(2022年度製品用)

(2)消費電力量等の計測の方法

 消費電力量の測定方法は、本エアコンのメニューにある「電力・電気代」の「消費電力量」の表示を見ることで把握しました。この計測表示値は0.1kWh単位での表示になります。これを1時間単位で携帯電話端末にデータを受信して、読み取ります。

 室温、外気温の測定は、温度データロガAD-5326TTを用いて1時間毎に測定、記録します。本器は2つのサーミスタで同時に室内、屋外の温度を測定、記録ができます。

表-2 温度データロガの仕様(A&D社の温度データロガ)

 項 目   内   容   写  真
メーカー名株式会社エー・アンド・デイ
製品名・型番温度データロガー、AD-5326TT
測定範囲-40.0~90.0℃
測定精度±1.0℃(40℃未満)
±2.0℃(40~69.9℃)
±3.0℃(70℃以上)
センササーミスタ
測定間隔30秒毎
記録間隔1分~12時間の間隔で設定可能
出所)温度ロガAD-5326TT、取扱説明書

 湿度(相対湿度)は下表に示すエンペックス気象株式会社の温湿度計TM-2301より読み取ります。湿度は不定期に観測しています。

表-3 湿度計の仕様

 項 目  仕  様     外 観 写 真  
メーカー名エンペックス気象株式会社
製品名・型番TM-2301
電源単三電池×2個
表示項目温度
湿度(相対湿度)
測定範囲35~75%(常温)
測定精度±3% 

(3)消費電力量等の測定結果

 8月7日から8月20日まで、設定温度を28.5℃にしてエアコンを運転し、消費電力量、外気温、室温を測定した結果を下図を示します。この図を見ると、8月7日や13日のように外気温が低い時でも1日消費電力量は7.6および7.8kWhと大きな値となっています。この変動を見ると外気温との関連はあまり見られません

 下図に消費電力量がこの期間で最大である8月13日の時間消費電力量、外気温、室温の推移を示します。この日の外気温の平均は27.2℃とエアコンの設定温度(28.5℃)より低いことが分かります。また外気温の変動が小さく、室温はほぼ外気温と同じ傾向を示しています。

 この日の時間消費電力量は1日中ほぼ一定の値(約0.3kWh)を示しています。エアコンをつけなくても良いはずなのに、何故これほど消費電力量が多くなっているのでしょうか。

 そこで外気温と消費電力量の関係を表すグラフに相対湿度を表示したものを下図に示します。想像通り消費電力量は外気温との相関は低く、前回の報告と同様に相対湿度が高い日は異常に大きくなっていました。このことから相対湿度による影響は強くあるようです。この図で8月13日は相対湿度が94%と最も高い値でした。この日は台風が日本の近海に来ており、降水量も47.5mmという気象状況でした(湿度、降水量ともに東京地点気象観測所の観測値)。

出所)相対湿度は気象庁、過去の気象データ、東京地点による。平均外気温は表-2の温度データロガによる測定値。

 前回の報告で湿度の影響については、すきま風熱負荷として計算できることが分かっています。この日も異常に高い湿度のため、消費電力量が大きくなったと考えられます。この湿度による消費電力量の影響については後程詳しく分析します。

エアコンの設定温度による消費電力量の相違

 今回測定した期間のエアコンの設定温度は28.5℃でした。前回測定した時の設定温度は28℃でしたので、温度差がわずかに0.5℃ですが、どのような差があるのかについて分析しました。その結果を下表に示します。単純に消費電力量の平均値を比較すると設定温度28.5℃の方が0.87kWh少なくなっており、12%の節減になっています。

 しかし、この時の平均外気温は30.3℃であり設定温度28℃の時のそれは31.4℃と、今回の方が1.1℃低いことが分かります。同様に相対湿度、絶対湿度も今回の方が低くなっています。このことから、設定温度28.5℃の消費電力量の低減はこれらの気象条件の影響で低くなっている可能性があります。

表-4 エアコンの設定温度による消費電力量の相違

室温
外気温
相対湿度
絶対湿度
g/kg(DA)
消費電力量
kWh
修正消費
電力量 kWh
28.0℃ (A)27.331.477.619.67.246.49
28.5℃ (B)27.630.377.019.16.376.37
差 B-A0.3-1.1-0.6-0.5-0.87-0.12
比率 B/A1.010.960.990.970.880.98
出所)相対湿度は気象庁、過去の気象データ、東京地点による。外気温、室温は温度データロガの測定値。
注)設定温度28℃の修正消費電力量は、以下の回帰式の外気温、絶対湿度に設定温度28.5℃の時の値(30.3℃、19.1g/kg(DA))を入力して推計したものである。
Y=-9.75+0.3636・X1+0.2735・X2=-9.75+0.3636・30.3+0.2735・19.1=-9.75+11.02+5.22=6.49

 そこで、前々回の報告で作成した回帰式を使って温度と湿度の条件を同一にして消費電力量を修正したものを上表の最右欄に示します。これは、回帰式の外気温、絶対湿度に設定温度28.5℃の時の値を入力して推計したものです(回帰式の詳細は「消費電力量と気温の関係(3)」を参照ください」)。この推計値は下図にも示すように6.49kWhと小さくなり、その差はわずかなものになります(2%程度の低減)。

 このことから今回の計測では、設定温度0.5℃の差(28℃→28.5℃)は、消費電力量にあまり大きな影響を与えていないことが分かります。

「AI快適自動」の運転モードにおける消費電力量

 これまでの「冷房」運転に続いて、8月21日から8月31日まで運転モードを「AI快適自動」に設定して運転しました。この運転モードは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)によって自動運転するものです。本モードはカタログには以下のように記載されています。

センサーで室内の床・壁の温度を検知・推測し、エアコンが記憶した過去の運転も参考にしながら自動運転を行います。換気(給気、排気)や加湿、除湿コントロールも含めて、空気全体の肌寒さや暑さを感じにくい快適運転を行います」

 「AI快適自動」モードで運転した期間の計測された消費電力量、外気温、室温の結果を下図に示します。平均外気温は24.8℃から30.6℃と特に暑い日はありませんでした。8月28日から8月30日の3日間は外気温が大きく下がったため間欠運転をしています。

 そのため集計をする対象としては、8月21日から27日までの7日間とします。この期間の消費電力量は非常に少なく2.9から3.4kWhでした。この運転モードでは室温の設定は行われませんが、室温の平均値は概ね27℃前後となっていました。

 このうち、8月23日の時間消費電力量、室温、外気温の推移を下図に示します。外気温が15時から17時まで35℃程度まで上昇していますが、時間消費電力量は最大でも0.3kWhとなっているだけで、非常に少ない電力量で推移しています。

 前掲の8月13日と比較して、その日よりも外気温が高いにもかかわらず、どの時間帯も少ない消費電力量であることが分かります。これがAIによる効率的な運転の結果ということでしょうか。

 次に、これまでの計測してきた3つの運転モード別の外気温、室温、消費電力量の平均値を下表に示します。それぞれの運転モードと設定温度、測定期間は以下の通りです。

 (1) 運転モード:「冷房」、設定温度:28度、期間:7月23日~8月5日
 (2) 運転モード:「冷房」、設定温度:28.5℃、期間:8月7日~8月20日
 (3) 運転モード:「AI快適自動」、期間:8月21日~8月27日(設定温度はなし)

 今回測定した期間は8月下旬ということもあり、比較的気温が低い時期でした。それを考慮しても消費電力量は非常に少ない値となっています。この「AI快適自動」という運転モードにはどのような特徴があるのでしょうか。

表-5 運転モード別の外気温、室温、消費電力量の平均値

期間
No
運転モード設定温度
(℃)
外気温
(℃)
室温
(℃)
消費電力量
(kWh)
   期 間
 1冷房28.0℃31.427.37.247月23日~8月5日
 2冷房28.5℃30.327.66.378月7日~8月20日
 3AI快適自動29.426.93.168月21日~8月27日

 その特徴を分析するため、期間2と期間3における室内と屋外の湿度を下表にまとめました。ここでの湿度は表-3の湿度計による測定値です。湿度はいつも測定しているわけではないのですが、この期間にそれぞれ不定期に3回ほど測定していましたのでその結果を示しています。下表には相対湿度と温度をもとに絶対湿度を算定した結果も示しています。絶対湿度の計算結果を下図に示します。

表-6 運転モード別の屋外、室内の絶対湿度と熱負荷の相違

運転
月日外  気室  内絶対湿度差熱負荷
モード外気温
相対湿度
%
絶対湿度
g/kg(DA)
室温
相対湿度
%
絶対湿度
g/kg(DA)
g/kg(DA)W
冷房8/16315315.329389.75.6114.2
8/17324614.127398.95.2106.1
8/18267716.427409.17.3148.9
平均15.39.26.1123.1
AI快適
自動
8/21277316.6266614.12.551.0
8/23277617.2267315.61.632.6
8/27324413.5266012.80.714.3
平均15.814.21.632.6
注)ここでの相対湿度は湿度計による計測値です。絶対湿度はその時の気温における飽和絶対湿度に相対湿度を乗じて算定します。熱負荷は最大熱負荷計算法による絶対湿度差からすきま風熱負荷を算定したもの。

 上図から分かるように、運転モードが「冷房」の時の屋外と室内の絶対湿度の差は平均で6.1g/kg(DA)であるのに対して、運転モードが「AI快適自動」の時のそれは平均で1.6g/kg(DA)でした。つまり、「冷房」では室内の絶対湿度が大きく低下しているのに対して、「AI快適自動」では絶対湿度があまり変わっていません。これは、「冷房」では除湿が盛んに行われているのに対して、「AI快適自動」では除湿がほとんど行われていないことを示しています。

 上の表には屋外と室内の絶対湿度差からすきま風の潜熱負荷を算定した結果を最右欄に示しています(すきま風の潜熱負荷の算定方法については「エアコン(11)-冷房時の熱負荷計算」を参照ください)。運転モード別の潜熱負荷は「冷房」では123.1W、「AI快適自動」では32.6Wとなっており、その差は90.5Wです。

 これが24時間続くと仮定すると1日の消費電力量の差は約2.2kWh(=90.5・24/1,000)となります。除湿を行わない「AI快適自動」の消費電力量が2.2kWh程度低減するということになります。「AI快適自動」の期間は温度が1℃程度低いため、さらに消費電力量が低減して3.2kWh(=6.37-3.16)程度の差になったと考えられます(表-5参照)。

 また、「AI快適自動」においても気温が下がった期間に間欠運転を行いました(8月28日~30日)。7月初めのエアコンの試行運転期間においても間欠運転を行いましたが、運転再開後に大きめの消費電力になっていました。しかし、今回は消費電力量は低く抑えられていました。また、高湿度にも関わらず、若干室温が低く制御されており、不快感は感じませんでした。「AI快適自動」モードにおいては、前述の湿度制御に連動して温度の制御や消費電力を抑える制御が行われていると考えられます。メーカーに問い合わせても詳細の回答がなかったので、今後の検討課題としたいと思います。

冷房時の省エネ運転のまとめ

 これまでの冷房時の消費電力量を測定してきたまとめとして、7月と8月の2か月間の消費電力量、平均外気温、平均室温の推移を下図に示します。今回の測定では4つの期間に分けて運転方法を検討してきましたが、最終的には「AI快適自動」モードを活用することで、大幅な省エネができることが分かりました。今後はこの運転モードを利用していく予定です。

 「AI快適自動」モードの特徴を温度、湿度から分析した結果、外気温が低い時に湿度制御を行わないことが特徴的でした。それ以前の運転でたまたま湿度の設定をしていなかったため、AIがその運転を学習したことにより「AI快適自動」モードで除湿を行わなかったものと思われます。気温が低い時期の運転方法が分からず苦慮していましたが、今回の運転モードの変更でそれが解決できたように思います。

 また、これまでの運転方法により得られた結論をまとめると以下の通りです。

●送風モードは電力の消費量は非常に少ない(6時間で0.1kWh程度)。ただし、送風は室内空気の熱を除去しているのではないことに注意が必要。
●短時間のON/OFFを繰り返すよりも連続運転している方が省エネの場合がある。長時間出かけるとき以外は連続運転している方が消費電力量は少ない可能性がある。外気温、室内熱容量(面積等)に配慮して運転方法を決める必要がある。
●消費電力は気象条件(温度、湿度、日射量)や室内発熱による熱負荷により影響される。熱負荷を大きくしない方法を心掛けることが必要。本測定では日射を防ぐすだれやカーテンの活用によって、日射熱負荷を5割程度低減できた(熱負荷計算による)。
●湿度は消費電力量に大きく影響する。エアコンの冷房モードでも除湿を盛んにする場合があるので、過大に除湿をしていないか相対湿度を観察することが重要。本測定ではやや温度を下げて除湿を行わない場合の方が消費電力量を低減させることができた。
●熱負荷を大きく変動させるとエアコンが短期的に消費電力を増大させることがあるため、一定した熱負荷となるようにすることも配慮すべき。本測定では、就寝時に部屋を広くしてエアコンで冷やすより、昼間から寝室を冷やしておく方が消費電力の増加を抑えられた。

 今回はエアコンの運転方法による節電について検討してきました。前回の報告に示したように、エアコンの消費電力量については熱負荷が大きく影響することから、次回は熱負荷に影響を与える要因について分析し、消費電力量を低減させる対策について考察する予定です。