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熱負荷

エアコン(12)-冷房負荷の低減(1)

 前回まではエアコンの冷房時の省エネ運転について検討してきました。その結果、エアコンの設定温度については対象とした機種では思ったほど大きな影響がないことが分かりました。また、運転モードを「AI自動快適」モードにした場合は、温度、湿度の快適性だけでなく消費電力の省エネにも大きな効果があることが分かりました(「エアコン(11)-冷房時の省エネ運転」を参照ください)。

 今回からは、前々回に報告した冷房時の熱負荷について取り上げ、その低減による省エネの可能性について分析します。冷房時の熱負荷として日射熱負荷、貫流熱負荷、すきま風熱負荷、室内発熱負荷の4種類がありました(詳細は「エアコン(10)-冷房時の熱負荷計算」を参照ください)。

 日射熱負荷は住居がある位置(緯度、経度)や壁面の方位(南向き、西向き等)、ひさしやそで壁などが影響します。貫流熱負荷は室内外の温度差により流入する熱負荷であり、壁や窓の部材構成、さらにカーテンやブラインドなどが影響します。すきま風熱負荷は住居の気密性や換気の状況によって変わります。

 前々回の報告では、対象となる部屋の条件を固定して各種の熱負荷について計算してきましたが、住み替えなどを行う場合にはそれぞれの熱負荷を考慮して望ましい建築構造や間取りなどを検討してみたいという方もおられると思います。そのため、少し幅広く住居の条件を変えることによって、熱負荷がどのように変化するかについて分析してみたいと思います。また、住居の住み替えをしなくても熱負荷の軽減対策があります。遮熱効果の高い窓ガラスに変えることや、遮熱フィルムなどを貼ったり遮熱塗料を塗ること、ブラインドやカーテンを使うことなどです。

 以上のように、熱負荷に与える影響要因は非常に多く1回の報告では十分な検討結果を示せないため、何回かに分けて報告します。今回は窓からの日射熱負荷を取り上げ、住居・間取りの条件や日射熱負荷を軽減する対策の効果についての検討を行いましたので、以下に報告します。

日射熱負荷の影響要因

 日射熱負荷の計算方法を再掲すると以下の通りです。

 qG=(IGD・SG+IGS)SC・AG

  qG:窓ガラスからの透過日射熱負荷(W)
  IGD、IGS:ガラス窓標準日射熱取得直達成分、拡散成分(W/m2
  AG:窓ガラス面積 (m2)
  SG:ガラス面日照面積率(-)
  SC:遮へい係数(-)

 このうち、ガラス窓標準日射熱取得の直達成分、拡散成分(IGD、IGS)は住居のある位置、窓の方位によって決まります。また、ガラス面日照面積率(SG)は上記の条件に加えて、ひさしやそで壁の長さによって決まります。そして、遮へい係数(SC)は窓ガラスの特徴やカーテンやブラインドの有無、種類によって決まってきます。

 これだけ多くの要因があるため、どの要因に注目するかを以下に示します。

(1) 住居の位置(緯度・経度):東京を固定とします。
(2) 窓の方位:東西南北の違いを分析
(3) ひさし、そで壁:ひさしやそで壁の長さによる影響を分析
(4) ガラス窓:ガラス窓の種類、ブラインドの遮へい効果を分析

 まず、住居の位置(緯度・経度)は東京を固定とします。アメダス外界条件には全国の836地点のデータが保存されていますが、これらの地域を取り上げると無数の条件になるので東京地点を固定とします。

 次に、窓の方位は、東西南北の違いを分析します。住み替えなどを検討されている方の参考になると思います。また、ひさしとそで壁についてはそれらの長さによる影響を分析します。さらにガラス窓は遮へい係数(SC)の違いについて分析します。単板ガラス、複層ガラスなどのガラスの種類ブラインドの有無、さらに遮熱材料(遮熱フィルム、遮熱塗料)の利用に着目します。

住居の方位、構造による影響分析

(1)窓の方位

 東京地点の冷房時の最大熱負荷になるのは方位によって異なっています。窓の方位別のガラス窓標準日射熱取得の直達成分(IGD)の変動状況を下図に示します。日射熱取得は南向きのみ9月15日、他の方位は8月1日に最大となります1)。下図より東と西は最大値が550(W/m2)程度南は350(W/m2)程度です。南は11時~12時頃が最大となり、東は7時ころ、西は16時頃が最大となります。北は夏の日射取得が少なく、最大でも18(W/m2)程度です。

注)東と西は東京Jc-t基準、南はJs-t基準、北はh-t基準の窓ガラス標準日射熱取得(直達成分)。
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 次に、ガラス窓標準日射熱取得の拡散成分(IGS)の変動状況を下図に示します(直達成分とはスケールが異なりますので注意してください)。拡散成分は12時をピークとして最大でも130(W/m2)程度であり、窓の方位別に大きな違いはありません。

注)東と西は東京Jc-t基準、南はJs-t基準、北はh-t基準の窓ガラス標準日射熱取得(直達成分)。
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 直達成分と拡散成分を合成したガラス窓標準日射熱取得の特徴について下表にまとめます。最大日射熱取得が大きいのは東と西であり(612~613W/m2)、南はその75%程度です。1日の総日射熱取得については、やはり東と西が多く(3,304~3,342Wh/m2)、南は東と西の9割程度となっています。

 エアコンの消費電力量は総日射熱取得に比例すると考えられますので、南は東と西の9割程度となると想定されます。なお、北はいずれも非常に小さい値です。夏場の日射が少ないため、冷房負荷は非常に小さくなります。

表-1 窓の方位別の最大日射熱取得と総日射熱取得

方位最大日射熱取得
(W/m2)
最大日射熱取得
の時刻
総日射熱取得
(Wh/m2
最大日射熱取得
が生じる日
東向き6138時頃3,3048月1日
西向き61216時頃3,3428月1日
南向き45312時頃3,0189月15日
北向き13410時頃1,2228月1日
注)東と西は東京Jc-t基準、南はJs-t基準、北はh-t基準の窓ガラス標準日射熱取得(直達成分)。最大日射熱取得とは1日のうちの最大の熱取得(W/m2)、総日射熱取得とは1日の熱取得の総和(Wh/m2)を指す。

(2) ひさし、そで壁の長さ

 日照面積率(SG)は、窓ガラスとひさし、そで壁等の寸法が下図の通りとした場合、以下の式で計算されます。

 <SGの計算式>

 SG=x・y/b・h
 x=B-b‘-ν|tanγ|
 y=H-h’-w・tanφ

 SGに影響を与えるのは上図のひさしの長さ(w)とそで壁の長さ(v)です。そこでwとvを変化させた場合のSGを算定しました。検討した壁、窓の寸法は以下の通りです。

<検討条件>
 ひさし:幅B=4.8m、高さH=2.48m
 窓:幅b=3m、高さh=1.85m
 窓とそで壁との距離b‘=0.9m、窓と床面との距離h’=0.1m

 下図はひさしの長さを0.5m刻みで、0mから2mまで5通りの長さに変化させた場合の方位別の時刻別のSGの推移を示しています。これを見ると、東向きと西向きのSGはひさしが長くなるとその100%の時間帯が短くなります。一方、南向きはひさしが長くなると日照時間は変わらずにSGが減少していくことが分かります。北向きは朝と夕方にわずかにSGが最大でも40%程度であることが分かります。

 このことから、東向き、西向きの窓はひさしを長くしても時間帯によっては100%のSGを避けることはできず、別の方法で日差しを防ぐ必要があることが分かります。南向きの窓はひさしを1.5m以上にするとSGをほぼ0にすることができ、1mでもそれを最大40%に抑えることが可能です。

 次に、そで壁の長さ(v)によるSGの変化を下図に示します。これは、ひさしがない場合(w=0)にvを0.5から2mまで0.5m刻みで変えた場合の計算結果です。これを見ると、東と西はvによってSGは大きく変わりませんが、南はvの長さによってSGが100%である時間が変わります。

日射熱負荷の低減対策

 日射熱負荷を低減させる対策として窓の日射を遮る対策が考えられます。日射を遮る指標を遮へい係数(SC)といいます。遮へい係数の定義は下式に示す通りで、この値が小さいほど日射を遮へいする効果が高いことになります。

 遮へい係数(SC)=任意のガラスの日射熱取得/日射入射角30度の時の3mm透明ガラスの日射熱取得

 分母の3mm透明ガラスの日射熱取得率は87%とされており1)、例えばLow-E複層ガラスの日射熱取得率は40%とされているため、Low-E複層ガラスの遮へい係数は以下となります2)

 Low-E複層ガラスの遮へい係数=40/87=0.46 

(1) 窓ガラスの種類

 窓ガラスにも様々な種類があり、その種類によってSCが変わります。下表にガラスの種類別のSCを示します。単板ガラスの透明フロート(FL)で厚さ3mmが一般的なガラスですが、定義によりその遮へい係数は1.0です。ブラインドがある場合、明色のブラインドは0.50、暗色は0.67です。また、厚さが8mmはブラインドなしで0.93、厚さが12mmは同じく0.87です。

表-2 窓ガラスの種類別の遮へい係数(SC)

ガラス種類厚さ 遮へい係数
mmブラインドなし明色ブラインド中間色ブラインド暗色ブラインド
単板ガラス透明フロート(FL)310.50.580.67
80.930.480.550.62
120.870.460.520.59
190.810.440.50.55
網入り6.80.90.480.540.61
熱吸グリーンGR80.610.360.390.42
複層ガラス一般複層(透明FL二重)80.780.50.550.6
熱吸GR+透明FL80.470.320.350.37
日射取得型Low-E+透明FL80.610.430.460.50
日射遮へい型Low-E+透明FL80.460.340.360.38
高日射遮へい型Low-E+透明FL80.350.270.280.29
日射取得型Low-E+透明FL(アルゴン)80.610.440.470.51
日射遮へい型Low-E+透明FL(アルゴン)80.460.340.370.38
高日射遮へい型Low-E+透明FL(アルゴン)80.340.270.280.29
注)透明FL:透明フロート、熱吸GR:熱吸収グリーン、Low-E:光学薄膜、アルゴンは中空層に充填されるガス
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 また、複層ガラスも様々なガラスの組み合わせが可能ですが、「透明FL二重」(二枚の透明ガラスの中間に中空層がある)のSCは0.78、「Low-E+透明FL」のそれは0.46などとなっています。Low-Eガラスは光学薄膜(Low-E膜)を塗布・蒸着した板ガラスを言います(下図参照)。これらの中空層を持つ複層ガラスは日射への遮蔽効果と高い断熱性を有します(詳しくは「建築材料の断熱性能の向上の判断基準」を参照ください)。

出所)経済産業省、省エネルギー小委員会、建築材料等判断基準ワーキンググループ、「サッシ及びガラスに関するとりまとめ」、2014年11月6日

 ところで、太陽光は下図に示すように幅広い波長領域に分布しており、その熱エネルギー(日射熱)は紫外線が約6%、可視光が約46%、赤外線が約48%を占めるとされています4)

出所)産業技術総合研究所:公式Webサイト、研究成果記事一覧、2007年、日射熱を反射するクールなガラス

 この日射熱のうちどの波長の光を遮へいするかで室内に届く熱と光の特性が変わります。熱線の赤外線だけを遮へいしても最大でも48%しか熱を遮へいできないので、可視光をどの程度遮へいするかが課題です。可視光を完全に遮へいすると室内に光が入らなくなるため、照明が必要になります。

 下表に株式会社LIXILの内窓用の複層ガラス製品の光学的・熱的性能を示します。Low-Eガラスに付着する光学薄膜の種類により可視光と日射の反射率や紫外線のカット率を変えています。また、薄膜の貼り付けを複層ガラスの内側から外側にすることでさらに遮へい効果を高めることができます。

表-3 複層ガラスの光学的・熱的性能の一例(LIXIL製品)

Low-E 色ガラス構成光学的性能(%)熱的性能
室外側中空層
mm
室内側可視光日射紫外線熱取得率遮蔽係数熱貫流率
透過率反射率透過率反射率カット率(η)(SC)W/(m2・K)
Low-E
複層C
透明312LowE
3-C
78.912.450.932.968.50.580.661.7
Low-E
複層G
透明312LowE
3-G
72.415.235.544.180.00.460.521.6
Low-E
複層G
(高遮熱)
LowE
3-G
12透明372.414.335.542.180.00.390.441.6
一般
複層
透明312透明382.214.875.713.440.20.800.912.9
注)透明3: 透明3mmガラス、LowE3:Low–E 3mmガラス、LowE3-Cはクリア、LowE3-Gはグリーンの製品名で、光学特性が異なるLow-E薄膜を貼ったガラスです。グリーンのLow-E膜は可視光、日射の反射率が高く、紫外線カット率が高くなっています。なお可視光は波長380~780nm、日射は波長2500nmまでの光を指します。
出所)株式会社LIXIL、窓リフォーム(内窓インプラス)、カタログ、2022年6月

 日射の遮へい効果は夏の熱取得を防ぐには都合が良いですが、冬は日射による室内の保温効果を低減するため、暖房のエネルギーがかかることになります。日射による冷房エネルギーの低減と暖房エネルギーの増加を考慮して決めることが必要です。

(2)その他の遮熱材料

 窓ガラスの種類やブラインド・カーテンの他に遮熱性を向上させるものとして遮熱フィルムや遮熱塗料(コーティング剤)があります。これらは、エアコンの省エネだけでなく都市部のヒートアイランド対策としても取り上げられています。日射熱負荷を軽減することでエアコンの消費電力量を低減し、その結果エアコンからの排熱量を削減するというものです。

 遮熱フィルムや遮熱塗料については、環境省の環境技術実証事業のうち、ヒートアイランド対策技術分野(建築物外皮による空調負荷低減等技術)として毎年多くの製品が申請され承認されています5)。それらの製品の性能を調査した結果を整理すると下表の通りです3)

 遮熱フィルムの遮へい係数は平均が0.55、最大が0.85、最小が0.22となっており、極めて遮へい効果が高い製品もあります。遮へい効果が高い製品は可視光、日射の反射率が高い(50%以上)ことが分かります。一方、遮熱塗料の遮へい係数は平均で0.76となっており、遮熱フィルムより遮へい効果は低くなっています。

表-4 遮熱フィルム、遮熱塗料の光学特性の集計結果

項目透過率[%]反射率[%]遮へい係数日射熱取得率熱貫流率
紫外線可視光日射可視光日射[-][-]W/(m2·K)
遮熱フィルム平均1.450.534.822.925.30.550.485.7
最大7.386.965.659.458.40.850.756.1
最小06.86.46.75.30.220.194.4
遮熱塗料平均9.976.853.17.46.20.760.676
最大50.986.9738.57.30.910.86.1
最小0.257.426.85.74.80.570.56
注)透過率は紫外線(波長300~380nm)、可視光(波長380~780nm)、日射(300~2500nm)の分光透過率を言う。
出所)伊藤大輔、武田仁、足永靖信、藤本哲夫:既存の窓面を対象にした遮熱化技術の光学特性および熱特性の調査と空調負荷削減効果に関する数値計算、日本建築学会技術報告集、第16巻、第32号、2018年2月

日射熱負荷対策の効果分析

 これまで整理してきた日射熱負荷の対策について、前回熱負荷計算を行った対象の部屋に適用することで、どの程度の効果が出るかを分析します。また、既に対策を実施している場合は、その対策を実施していなかった場合は、どうなっているかについても検討します。

 前々回の報告で対象とした部屋の外壁の図を再掲します。地域は東京、部屋の向きは西向き、ひさしの長さ1.85m、そで壁長さは1mです。また、窓はすだれとカーテンで二重にブロックしているので、SCを0.25として計算しています。

(1) 窓の方位による日射熱負荷の影響

 窓は実際は西向きですが、仮に他の方位に向いていると仮定して日射熱負荷を算定すると下図の通りです。東向きは6時から9時までの日射熱負荷が生じており、西向きとは対照的な推移を示しています。

 また、北向きと南向きは日射の直達成分が入らないため拡散成分のみによる日射熱負荷となります。なお、南は日射熱が最高となるのは8月1日ではなく9月15日のため、日射熱の拡散成分がやや小さくなっています。

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

(2) ひさしの長さによる日射熱負荷の軽減

 ひさしの長さを変えた場合の日射熱負荷の変動を下図に示します。現状のひさしの長さは1.85mですが、日射熱取得の直達成分は14時以降に窓に侵入し、熱負荷の最大値は17時の約960W程度です。

 一方、ひさしがない場合の熱負荷は12時以降に直達成分が侵入し、16時に最大となり、その値は1,100Wを越えています。ひさしによってその侵入時間とピークを抑えることができています。ひさしを現在よりも長くして2.5mとした場合は、直達成分の侵入時間を1時間ほど遅らせることができ(15時以降)、最大値も845Wと9割程度に抑えることができます。

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 消費電力量に比例すると考えられる総熱負荷量を下表の最右欄にまとめました。ひさしの長さが2.5mの時は3.6kWhに対して、ひさしがない時は6.2kWhの熱負荷が室内に生じています。この計算では窓の遮へい係数(SC)を0.25としており非常に日射が入りにくい条件で設定していますので、もしブラインドやカーテンがない場合はこの4倍の熱負荷が生じることになります。

表-5  ひさしの長さによる熱負荷量の相違

ひさし長さ
直達成分の侵入時刻熱負荷の最大値 
W
最大値の発生時刻総熱負荷量
Wh
2.515時頃84517時頃3,640
1.8514時頃96517時頃4,240
1.514時頃1,02917時頃4,590
113時頃1,08316時頃5,260
0.512時頃1,13216時頃5,920
012時頃1,13216時頃6,170

(3) 窓ガラスの遮へい効果による日射熱負荷の軽減

 表-2に示した窓の種類別の日射熱負荷の状況を下図に示します。一般的な窓ガラスである単板3mm(透明フロート)は遮へい係数(SC)が1.0であり、その最大熱負荷は3.9kWです。透明フロートが2枚組み合わされた一般複層ガラス(SC=0.78)は最大熱負荷3kW程度です。高遮へいLow-Eガラス(SC=0.35)は1.4kWを下回る最大熱負荷で、単板3mmガラスの1/3程度となっています。

 このように、現状の窓ガラスの遮へい係数が大きいものは複層ガラスなどに交換するか、既存の窓の内側に内窓を設置することも検討する必要があります。それらが不可能な場合は、カーテンやブラインドで熱を遮へいすることが求められます。ただし、この場合は部屋に明かりが入りにくく、眺望も遮られます。

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

まとめ

 今回は、冷房の熱負荷のうち、窓からの日射熱負荷を取り上げ、その低減対策について検討しました。日射熱負荷に関連する要因として、窓の方位、ひさし、そで壁、ガラス窓の遮熱特性(ガラス窓の種類、ブラインド、遮へいフィルム、塗料)の影響を分析しました。

 窓の方位は、日射熱取得に最も大きな影響を与えています。日射熱取得の直達成分が窓に入射する時間帯が最も大きな熱負荷となります。東向きと西向きの窓は朝方と夕方に比較的大きい熱取得が5,6時間継続します。一方、南向きはそれらより大きくはありませんが、比較的長い時間継続して入射します。

 これらのことから方位によって熱負荷を低減させるためのひさしやブラインドが重要な要素となります。ひさしは窓が東向き、西向きに関しては日照面積率100%である時間を短縮させる効果があり、その長さが長いほど時間を短くできます。一方、窓が南向きの場合、ひさしは日照面積率を小さくすることができ、真夏にはそれを0にすることもできます。

 日射熱負荷を低減させる有効な方法は窓ガラスの遮へい係数を低減させることです。そのために、各種の窓ガラスが提供されており、ガラスの厚さを厚くしたり、複層ガラスに高日射遮へいLow-Eガラスを使ったりして、遮へい係数を低減しています。また、ブラインドやカーテンを取り付けることでも大きな効果をもたらします。

 さらに、既存の窓ガラスに貼り付ける遮熱フィルムや、塗り付ける遮熱塗料なども開発されており、その製品の認証が環境省の実証事業として推進されています。遮熱フィルムには複層ガラスなどより遮熱効果が高いものもありますが、可視光の反射率が高いため近隣の影響にも留意する必要があります。

 カーテンやブラインド、遮熱フィルムなども遮へい効果が高いものは赤外線だけでなく可視光も遮断するため、部屋の中が暗くなることや眺望への影響をどのくらい許容するかを検討する必要があります。また、日射熱負荷の低減は冷房時にはプラスに働きますが、暖房時にはマイナスに働くため、両者のバランスを考えることも重要です。

 次回は冷房の熱負荷のうち、外壁や窓ガラスの貫流熱負荷について検討する予定です。

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<参考文献>
1) 空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
2) 足永靖信、伊藤大輔、藤本哲夫:建築窓ガラス用フィルムの分光特性に関する調査、日本建築学会技術報告集、第14巻、第28号、2008年10月
3) 伊藤大輔、武田仁、足永靖信、藤本哲夫:既存の窓面を対象にした遮熱化技術の光学特性および熱特性の調査と空調負荷削減効果に関する数値計算、日本建築学会技術報告集、第16巻、第32号、2018年2月
4) 産業技術総合研究所:公式Webサイト、研究成果記事一覧、2007年、日射熱を反射するクールなガラス
5) 環境省:環境技術実証事業、ヒートアイランド対策技術分野、建築物外皮による空調負荷低減等技術、平成28年度実証対策技術の環境保全効果等