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熱負荷

エアコン(10)-冷房時の熱負荷計算

 前回まではエアコンの冷房時における消費電力量の測定結果より、消費電力量に与える影響要因について定性的に分析するとともに、気温及び他の気象要因との関係を定量化してきました。その結果、1日消費電力量と外気温、湿度との関係を統計的に定量化できました。また、時間消費電力量についても、気温が高く外気温の影響が大きい時は外気温と室温(及びエアコンの設定温度)から推計することができることが分かりました。

 ただし、そこで作成した回帰式は冬季の暖房時の消費電力量に比べて決定係数が小さい、すなわち適合性が良くないことも分かりました。特に、夏季の外気温がそれほど高くない時は、冷房時の消費電力量は気温の影響に加えて、湿度や室内の空調負荷についても考慮する必要があると思われました(「消費電力量と気温の関係(3)」を参照ください)。

 前回作成した回帰式は消費電力量と影響要因との過去のデータに基づく統計的な関係を示したにすぎません。統計解析は影響要因との関係性の有無を調べるのには有効ですが、その要因との物理的な関係性を把握できるわけではないのです。そのため気温や湿度等との関係性をよりよく理解するためには、物理現象に基づく定量化が必要です。

 これまでエアコンによる暖房時における室内の熱収支については、理論的な熱収支式に基づいて、その要因の影響を定量化してきました(「エアコン(7)-暖房時の室内熱収支」及びその修正版である「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」を参照ください)。冷房時においても同様な方法が適用できると考えられます。

 エアコン等の空調設備の設計に関しては、最大熱負荷を算定する手法が確立されています1)2)。この手法では、外気温、日射、湿度等の気象に関する熱負荷、さらに室内の機器や人体からの発熱も考慮した熱負荷が計算されます。この熱負荷を用いてエアコンの能力(冷房の場合、除去熱量)が決定されます。

 今回は、エアコン等の空気調和設備の設計に用いる最大熱負荷計算の理論に基づいてエアコンの冷房時の熱負荷を定量的に分析することを試みます。まず、熱負荷計算の理論を説明した後に、具体の部屋を対象にパラメータを設定して、各熱負荷要因がどの程度消費電力量に影響を与えているかを分析します。

冷房負荷計算の理論

 冷房負荷とはエアコン等の空調設備(空気調和設備)が対象とする冷房時の熱負荷をいいます。分かりやすく言うと、外気と熱交換すべき熱量(冷房の場合は外気に排出する熱量)をいいます。

 冷房負荷は毎日、毎時間変わるものですが、エアコンの能力を決めるためには、その最大値を求める必要があり、これを求める方法を最大熱負荷計算法と言います。ここでは、空気調和・衛生工学会が公表している「試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂2版」をもとに、その理論を紹介するとともに公開されているエクセルファイルを使った各種のパラメータの入力と解析結果の事例を示します1)

(1)熱負荷の概要

  最大熱負荷計算における冷房の熱負荷の種類は以下の通りです。

 (a)ガラス窓を透過する日射による熱負荷:qG
 (b)壁体を貫流する熱負荷:qn
 (c)すきま風や換気による熱負荷:qf
 (d)室内の内部で発生する熱負荷:qiT

(a) 日射熱負荷(qG
 まず、窓ガラスから透過する日射熱負荷(qG)は次式で表されます。

 qG=(IGD・SG+IGS)・SC・AG

  qG:窓ガラスから透過する日射熱負荷(W)
  IGD、IGS:ガラス窓標準日射熱取得直達成分、拡散成分(W/m2
  AG:窓ガラス面積(m2
  SG:ガラス面日照面積率(-)
  SC:遮へい係数(-)

(b) 貫流熱負荷(qn
 次に、貫流熱負荷(qn)については、次式で表されます。貫流熱負荷とは壁や窓等を通して室内に流入する熱負荷のことを言います。

 qn=A・U・ETD

  qn:壁や窓等からの貫流熱負荷(W)
  A:壁・窓・床・屋根の面積(m2
  U:その部位の熱貫流率(W/(m2・K))
  ETD:実効温度差(K)

 実効温度差(ETD:Effective Temperature Difference)とは日射の影響を含んだ貫流熱を考慮したものです。この計算は外壁貫流の時間遅れを加味した応答計算によって行われます。そのため、外壁の形態別に事前にシミュレーションを行った計算結果を用います。なお、窓の貫流熱負荷はETDではなく通常の温度差(Δt)を用います。

(c) すきま風熱負荷(qf
 すきま風熱負荷(qf)には顕熱負荷(qs)、潜熱負荷(qL)があり、次式によって計算します。これらの式は、流入してきた空気を室内の温度まで下げる負荷(顕熱負荷)と、また流入してきた水蒸気量を室内の水蒸気量まで下げる負荷(潜熱負荷)を意味します。

 qs=cp・ρ・Δt・Qi
 qL=γ・ρ・Δx・Qi÷1000

  qf:すきま風や換気による熱負荷(W)
  cp:空気の定圧比熱(=1) (J/(g・K))
  ρ:空気の密度(=1.2)(g/L)
  γ:水の蒸発潜熱(=2,500)(J/g)
  Δt:室内外乾球温度差(K)
  Δx:室内外絶対湿度差(g/kg(DA))
  Qi:すきま風の風量(L/s)

(d) 室内発熱負荷(qiT
 室内発熱負荷(qiT)は室内の発熱体の内部発熱ですが、以下があります。

(1) 人体発熱 人体表面からの放熱される顕熱と発汗として放熱される潜熱がある
(2) 機器発熱 一般的には顕熱が多いが、一部潜熱もある
(3) 照明発熱 顕熱のみ
(4) 厨房発熱 キッチンでのガスコンロ等の利用による発熱

 ここで、顕熱と潜熱について参考文献から引用すると以下の通りです3)
「物質は熱の出入りに伴って固体、液体、気体と状態に変化が起きる。この変化における熱量の増減に伴って温度変化が顕れる熱を『顕熱』と言い、熱量の増減があっても温度変化が潜んで現れない熱を『潜熱』という」。

 空調設備ではエアコンのように顕熱と潜熱の両方を利用して冷暖房を行うのが一般的です。また、人体発熱においては、高温の人体から室内空気に伝わるのが顕熱であり、発汗した汗の蒸発による室内空気への放熱(潜熱)があります。

(2)熱負荷の計算法

 まず、熱負荷の基礎となる外気条件については、アメダスの気象データにより「拡張アメダス設計用外界条件」が建築学会より公表され、新熱負荷計算法でもこれを採用しています。冷房と暖房の負荷計算に必要とされる厳しい気象条件として、温度、絶対湿度、エンタルピー、夜間放射量、風向、風速、太陽高度、太陽方位角、直達日射量、天空日射量、全日射量が提供されており、利用することができます。

 下表に拡張アメダス設計用外界条件の特徴を示します。最大負荷計算用としての年間における危険率や気象日を選んだ指標、及びその特徴と適する機器の例が示されています。エクセルファイルにはこれらのデータが地域別、時刻別に格納されており、地域を選ぶことでデータを入手することができます。

表-1 拡張アメダス設計用外界条件の特徴

 種 類  危険率過酷気象日選定指標   特    徴  適する機器の例
 (年基準)第1指標第2指標
冷房設計用 h-t基準7、8月の気象から作成可能な最も厳しい危険率日平均エンタルビー h日平均気温 tエンタルピー、気温が厳しく、天空日射量が比較的大きい。北ゾーンの空調機、ペリメータ機器、インテリア空調機、外調機、熱源装置
Jc-t基準7、8月の気象から作成可能な最も厳しい危険率日積算円柱面日射量 Jc日平均気温 t水平,西,東面日射量が強く、気温も厳しい。西・東ゾーンの空調機、ペリメータ機器
Js-t基準  0.5%日積算円柱南面日射量 Js日平均気温 t9月(北緯29°以南の地方は10月)の南面日射量が強い日の気象、秋に近いデータであるため気温、エンタルピーはh-t基準、Jc-t基準より低い。南ゾーンの空調機、ペリメータ機器
暖房設計用 t-x 基準  1%
日平均気温 t日平均絶対湿度 x気温および絶対湿度,エンタルピーが厳しく、t- Jh基準データに比べて気温の日較差が大きく、ある程度の日射量がある。外気導入する空調機、連続暖房機器、外調機、熱源装置
t-Jh基準  1%日平均気温 t日積算水平面日射量Jh気温は厳しいが湿度はやや高めで日射量は弱い。日最高気温が低い。外気導入しない空調機、ペリメータ機器
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂2版、2022年6月

 東京の冷房負荷に用いるデータとして、以下の3つの基準データが提供されています。部屋の向きなどにより基準を選択します。今回対象とする窓や壁は西向きであるため、Jc-t基準を選択します。Jc-t基準は7、8月の気象データから、日積算円柱面日射量と日平均気温の最も厳しい日として8月1日のデータを設定しています。

 ●冷房用h-t基準:北ゾーンの空調機に適用
 ●冷房用Jc-t基準:西・東ゾーンの空調機に適用
 ●冷房用Js-t基準:南ゾーンの空調機に適用

 これらのデータを利用して熱負荷を計算する内容をまとめたものを下表に示します。下表には、熱負荷を算定するための基礎式とそれを構成する要素(パラメータ)の計算方法を示しています。以下にそれぞれの熱負荷の計算方法を説明します。

表-2 冷房における熱負荷計算の概要

分 類基 礎 式構成要素(パラメータ) 単位データ入力、計算方法
日射
熱負荷
qG=(IGD・SG+IGS)SC・AGIGD:ガラス窓標準日射熱取得直達成分W/m2アメダスデータより地域別、時刻別に設定
IGS:ガラス窓標準日射熱取得拡散成分W/m2アメダスデータより地域別、時刻別に設定
SG:ガラス面日射面積率 -窓の庇、寸法等より計算
SC:遮へい係数 -ブラインド特性より設定
AG:窓ガラス面積 m2窓枠分を考慮(窓面積×0.85)
貫流
熱負荷
qn=A・U・ETDA:壁・窓・床・屋根の面積 m2実際の寸法から計算
U:その部位の熱貫流率W/(m2・K)壁、窓の材料構成より計算
ETD:実効温度差 K壁の材料構成、地域別に設定
すきま風
熱負荷
<顕熱負荷>
qs=cp・ρ・Δt・Qi
cp:空気の定圧比熱J/(g・K)一定値(1)
ρ:空気の密度 g/L一定値(1.2)
<潜熱負荷>
qL=γ・ρ・Δx・Qi÷1000
γ:水の蒸発潜熱 J/g一定値(2,500)
Δt:室内外乾球温度差 K外気温と室温の差を計算
Δx:室内外絶対湿度差g/kg(DA)外気と室内の絶対湿度の差を計算
Qi:すきま風の風量 L/s換気量、サッシ面積等から算定
室内
発熱負荷
人体発熱潜熱、顕熱 W軽度作業:98W/人
機器発熱液晶テレビ W消費電力(節電モードを考慮)
照明発熱シーリングライト W照明の消費電力
厨房発熱ガスコンロ等 Wガスコンロ発熱量、換気扇捕集率より計算
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

(a) 日射熱負荷

 日射熱負荷を算定する基礎式は以下の通りです。

 qG=(IGD・SG+IGS)SC・AG

 ガラス窓標準日射熱取得には直達成分(IGD)と拡散成分(IGS)があり、直達成分はガラス面日照面積率(SG)との積によって計算され、拡散成分は日照面積率には関係なく窓に入射するものとして計算します。IGD、IGSは上記のアメダスデータから取得します。

 また、SGは窓ガラスの構造等の寸法を下図の通り入力することで自動的に計算されます。下図の通りモデル化し、日の当たる部分の寸法を横x、縦y、窓の寸法を横b、縦hとしたとき、下の式からx、yを算出し、SG=x・y/b・hにより算定されます。

 x=B-b‘-ν|tanγ|
 y=H-h’-w・tanφ

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 さらに、遮へい係数(SC)は窓ガラスの種類とブラインド、カーテンの種類を選択することで設定されます。これらの設定値から、窓ガラスの日射熱負荷を計算します。なお、AGはガラスの面積のため、窓枠を除いた面積です。計算が煩雑となるため、窓面積に0.85を乗じて求めます。

(b) 貫流熱負荷

 貫流熱負荷の基礎式は以下の通りです。

 qn=A・U・ETD (壁の場合)
 qn=A・U・Δt (窓の場合)

 壁の貫流熱負荷は、面積(A)と熱貫流率(U)に実効温度差(ETD)を乗じて求めます。窓の貫流熱負荷はETDではなく室内外温度差(Δt)を乗じます。Uは壁や窓の部材構成を入力することで計算されます。Uの計算方法は本サイトの「建築材料(1)-外壁の断熱性能」及び「建築材料(2)-窓の断熱性能」に示していますので参考にしてください。

 また、ETDは前述の通り室内外の温度差に日射熱や夜間放射熱の影響を加えたものです。これもエクセルファイルで壁の部材構成を入力することで地域別、時刻別に計算されます。壁の部材構成の特徴のうち、主としてコンクリートの厚さにより4分類されており、その分類と拡張アメダス設計用外界条件から計算された結果を用います。

 さらに、窓の素材はガラスであり、壁のコンクリートのように蓄熱により時間遅れを伴って室内への熱負荷になることはないので、窓の貫流熱負荷の計算にはΔtを用いています。Δtは室外の気温と室温の差で計算されます。

(c)すきま風熱負荷

 ここでの熱負荷はすきま風や換気に伴う熱負荷を指します。この熱負荷は、顕熱負荷と潜熱負荷の2つがあり、以下の通り計算します。

 <顕熱負荷> qs=cp・ρ・Δt・Qi
 <潜熱負荷> qL=γ・ρ・Δx・Qi÷1000

 顕熱負荷(qs)は流入した空気量を冷却する熱負荷です。Δtは室内外の温度差、cpとρは空気の定圧比熱、密度で一定値です。すきま風の風量(Qi)はアルミサッシのすきま風の標準的な風量が提供されています。住宅用のアルミサッシの場合、窓の形態、風速、気密性別に標準風量が示されています。また、24時間換気システムの場合は、換気量は0.5回/hで設定されているため、これを用いることもできます。

 潜熱負荷(qL)はすきま風によって流入した外気を室内の湿度まで除湿するときの熱負荷を意味します。Δxは外気と室内の絶対湿度差であり、これに空気の密度ρ、すきま風の風量Qiを乗じて、除湿すべき水蒸気量が算定されます。そして、この水蒸気量に水の蒸発潜熱(γ=2,500J/g)を乗じて潜熱負荷が算定されます。

 この部分が湿度に関係する熱負荷であり、前回の報告で湿度が消費電力に影響を与えていた物理的な根拠を示すものです。エアコンは目標の湿度になるように除湿しますが、その時の熱負荷がすきま風による潜熱負荷であり、これによってエアコンの消費電力量が増加することになります。

(d)室内発熱負荷

 室内発熱負荷のうち、人体発熱は作業が軽度の場合、1人当たりの全発熱量は98W/人(室温26℃で顕熱64、潜熱34W/人)です。また、機器については、OA機器などの標準的な機種の発熱量原単位が提供されています。照明機器などは消費電力量を発熱量として設定します。

 厨房発熱は、ガスコンロの火力、換気扇による排気の捕集率、使用時間により発熱量を計算できます。換気扇の排気捕集率は排気風量によって異なりますが、中程度の排気風量(300m3/h)で90%とされています1)。従って、ガスコンロの発熱量の10%が室内に排気されると想定します。

冷房負荷の計算例

 ここでは、冷房負荷の計算例を示しますが、これらを正確に計算することが本サイトの趣旨ではないので、ここでは簡略化した計算過程を示します。また、今回利用する最大熱負荷計算法は空調設備の最大熱負荷を算定するものであるため、計算する時点は熱負荷の最大時になります。東京の西向きの部屋は8月1日の気象条件からデータが設定されており、これまで計測してきた消費電力量なども8月1日のデータを用いて分析を行っていきます。

(1)日射熱負荷

 今回の計算対象は東京の集合住宅の中間階にある西向きの部屋であり、部屋の外壁面は下図のような壁、窓、ベランダのひさし、そで壁の寸法となっています。気象条件となるIGDとIGSは東京の冷房用のJc-t基準を使います。

 壁と窓の寸法をエクセルファイルに入力することでSGが計算されます。下図に日射熱取得の各成分IGD、IGSとSGの計算結果を示します。IGDは部屋が西向きのため13時以降に日が差しますが、IGSは日の出とともに流入します。SGはベランダのひさしのため15時までは日影になっており、15時に30%、18時に100%となりますが、直ぐに日没のため19時には0%となっています。

 SC(窓の日射遮へい係数)は窓ガラスの厚み、カーテンやブラインドの種類を入力して求めます。本事例の場合は、窓ガラスの厚み3mm、窓のブラインドが外側にすだれ、内側に暗色カーテンと2重にあるため、SCは0.25(0.5×0.5)としました。

 これらから計算された日射熱負荷を下図に示します。日の出の5時過ぎから日射熱取得の拡散成分が増加していき、12時にピークとなった後減衰していきます。一方、15時以降日射熱取得の直達成分が増加していき、17時にピーク(1,130W)となって、19時の日没とともに0となります。

(2)貫流熱負荷

 貫流熱負荷は窓と壁ごとに面積(A)、熱貫流率(U)、実効温度差(ETD)または温度差(Δt)を乗じて算定されます。壁の材料構成と熱貫流率の計算結果を下図に示します。壁の熱貫流率は1.832 W/(m2・K)です。なお、貫流熱負荷は外壁だけではなく、室内の壁や床、天井などでも発生しますが、ここでは外壁以外の貫流熱負荷は無視します。

 窓の材料とブラインドは下図に示す通り、3mmの単板ガラスとすだれとカーテンです。単板ガラスの熱貫流率は6.4W/(m2・K)ですが、すだれ、カーテンの空気層を考慮して熱貫流率は3.32W/(m2・K)と算定されました。

 ETDは壁体の部材構成と気象条件から算定されます。壁体の部材の特徴により4タイプのETDが提供されています。タイプⅠは単層のコンクリート壁、タイプⅢは複層でコンクリートの厚さが200mm以下、タイプⅣはそれが200mm以上などと設定されています(詳細は参考文献1を参照)。

 下図にJc-tの西向きの壁の4タイプ別のETDを示します。この結果から分かるように、壁が薄いタイプは日射時に大きなETDとなり、壁が厚いタイプは日射時に大きくならずに夜間時に遅れて大きくなっていることが分かります。

 上の図に示したように、対象の外壁のコンクリートの厚さにより壁タイプⅢを選び(コンクリート厚さが200mm以下)、Jc-t基準の西向きのETDを採用します(下図の黒線)。

 選定したETDを入力して壁と窓の貫流熱負荷を計算した結果を下図に示します。これを見ると、昼間は窓の方が壁よりも大きな熱負荷となっています。窓はすだれやカーテンをしても大きな熱負荷となっています。そして、壁の貫流熱負荷は19時がピークであるのに対して、窓のそれは17時がピークです。また、壁と窓の熱負荷は深夜でも100~150W程度であることが分かります。

(3)すきま風熱負荷

 すきま風熱負荷は顕熱負荷と潜熱負荷があります。顕熱負荷は室内外温度差(Δt)を、潜熱負荷は絶対湿度差(Δx)を用いて算定します。なお、絶対湿度は時間的に変動していると考えられますが、ここでは一定とし、屋外の相対湿度72%(気象庁データより)、室内の相対湿度60%(観測値より)として計算しました。

 すきま風の風量(Qi)はアルミサッシのすきま風の標準風量を用います。住宅用のアルミサッシは「引き違い」のサッシで、風速2m/s、気密度中程度の場合、0.78L/m2・sとされており、これにアルミサッシ全体の面積(リビング5.56m2+寝室3.15m2)を乗じて6.8L/sを得ます。これらからすきま風熱負荷を計算した結果は下図の通りです。

 この結果より、潜熱負荷が非常に大きいことが分かります。前回の報告では統計分析により湿度の影響を分析しましたが、今回の熱負荷計算によって湿度の影響を理論的に定量化できました。

(4)室内発熱負荷

 室内発熱負荷を整理すると以下の表の通りです。人体発熱は2人が在室しており、98W/人の発熱とします。液晶テレビ(50インチ、4K)は80W(節電モード)、照明(シーリングライト)は44Wと設定しています。

 厨房発熱はガスコンロの「中火」が1.8kWであり(実測値より)、換気扇の排気捕集率を90%として、180Wが室内に排気されます。なお、厨房は隣室ですが、リビングに隣接しているため、考慮することとしました(顕熱のみで潜熱は考慮していません)。

 室内発熱量の合計は500W程度になります。これに各時間ごとの稼働状況を考慮して発熱負荷を算定します。それぞれの機器の稼働状況は下表の通りです。

表-3 室内発熱負荷の算定結果

発熱源  諸  元  発熱量(原単位)  負荷変動(発生時間)
人体発熱2人、軽作業98W/人(顕熱+潜熱)1日中2名が滞在を仮定
液晶テレビ50インチ、4K80W(節電モード)5時半~22時までON
照明シーリングライト44W(定格消費電力)5時半~22時までON
厨房「中火」、換気扇風量「中」「中火」1.8kW、換気扇排気捕集率90%より180W7時~8時、13時~14時、19時~20時:各30分使用
合計 500W
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

(5)熱負荷の総和とエアコンの除去熱量

 これまで算定してきた熱負荷を総合すると下図の通りです。この図を見ると、熱負荷の最大(約2,300W)は日射熱負荷が卓越する17時台です。朝方でも600~700W程度の熱負荷があり、就寝した22時以降はそれ以上の熱負荷があります。これは、壁の貫流熱負荷の時間遅れの影響によるものです。

 この図にはエアコンの消費電力量から算定したエアコンが除去した熱量(実稼働COP=3.0と仮定して消費電力量を3倍したもの)も示しています(エアコンの実稼働COPの設定根拠については「エアコン(8)-暖房時の室内熱収支の修正」を参照ください)。熱負荷の総和とエアコンが除去した熱量を比較すると概ね一致していることが分かります。エアコンは発生する熱負荷に対応して電力を消費していることが分かります。

 また、熱負荷の内訳をみると、夜間時は貫流熱負荷が卓越しており、次いですきま風熱負荷も比較的多く、人体発熱も無視できません。日の出から日射熱負荷が加わり、15時以降は日射熱負荷の直達成分が貢献して、大きな熱負荷となっています。

 今回の熱負荷計算によって、熱負荷の要因別にその大きさを算定することができ、エアコンの消費電力量への影響の大きさを把握できることが分かりました。また、熱負荷最大時の時刻別の消費電力量をある程度推計することができることも分かりました。

 今回の試算はこれまで簡易的に測定してきた計測値を用いて行ったものであり、その精度は高くはありません。精度を向上させるには、すきま風熱負荷を正確に計算するための時刻別の相対湿度の測定、室内発熱負荷の滞在人数や機器のON/OFFを把握してデータ入力することなどが必要です。

まとめ

 今回は、空調機器の能力を決定するための最大熱負荷計算方法を用いて、それぞれの熱負荷計算を行いました。最大熱負荷計算法は空調設備の能力を決定するために使われています。熱負荷計算法においては、日射熱負荷、貫流熱負荷、すきま風熱負荷、室内発熱負荷についてそれぞれの物理現象を定式化して負荷量を計算します。

 今回はこの計算法を使って熱負荷が最大となる日の負荷量を計算することで、その構成割合などを把握し、さらにこれらからエアコンの消費電力の推計が可能かどうかを考察することとしました。そのため、東京、西向きの部屋の熱負荷の最大日である8月1日を対象として、これまで計測してきた同日の観測データを用いました。

 日射熱負荷は窓から入る日射熱を太陽高度や日射熱取得、窓の方向、ひさしやそで壁の状況を基に算定します。貫流熱負荷は壁と窓の熱貫流率を用いて室内に流入する熱負荷を計算します。また、すきま風熱負荷はすきま風の風量と室内外の温度、湿度差を用いて、顕熱と潜熱の負荷を計算します。室内発熱負荷は人や機器の発熱量を計算します。

 日射熱取得などの気象条件は、最大熱負荷計算法ではアメダス設計用外界条件を用います。地域別に冷房及び暖房の最大熱負荷となる日が設定されており、その時の気象条件をエクセルファイルから取得することができます。

 これらの方法で対象となる部屋の状況を入力してそれぞれの熱負荷を計算しました。まず、日射熱負荷は5時過ぎから日射熱取得の拡散成分が増加していき、12時にピークとなって減衰しますが、日射熱取得の直達成分が15時から増加し、17時にピークとなって、日没に0となっていました。

 貫流熱負荷は壁よりも窓の負荷量が多くなっており、壁の貫流熱負荷は19時がピークに達するのに対し、窓の貫流熱負荷は17時がピークとなっていました。また、壁と窓の熱負荷は深夜でも100~150W程度ありました。

 すきま風熱負荷は潜熱負荷が非常に大きいことが分かりました。潜熱負荷は室内外の絶対湿度差により影響を受けています。前回の報告では統計分析により湿度の影響を分析しましたが、今回の熱負荷計算によって湿度の影響を明確に定量化できました。

 室内発生熱負荷は人体発熱、液晶テレビ(節電を考慮)、照明、厨房の発熱について、その稼働時間を入力して計算しました。

 これらを総合して全体の熱負荷を算定したところ、17時にピーク(約2,300W)となり夜間でも700W程度の熱負荷が生じていました。そして、エアコンの消費電力から冷房COPを3.0と仮定して除去熱量を算定したところ、熱負荷合計値とよく一致していました。このことから、最大熱負荷の計算方法でもエアコンの消費電力量を推計することが可能であることが分かりました。

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<参考文献>
1) 空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
2) 空気調和・衛生工学会編:空気調和設備計画設計の実務の知識、オーム社、2017年3月
3) 宇田川光弘、他:建築環境工学―熱環境と空気環境、改訂版、2020年4月