前回はエアコンの冷房負荷のうち日射熱負荷について検討してきました。日射熱負荷は住居の位置、窓の方位、ひさしやそで壁などにより大きく変わることが分かりました。さらに、窓ガラスの種類やブラインド、カーテンの使用が重要であり、既存の窓ガラスに遮熱フィルムや遮熱塗料などを貼り付けたり、塗布したりすることで日射熱負荷を低減できることも分かりました (「エアコン(12)-冷房負荷の低減(1)」を参照ください)。
今回は壁と窓ガラスの貫流熱負荷を取り上げます。室内外の温度差により熱流の移動があり、これを熱の貫流といいます。室内外の温度差が大きいほど貫流する熱量は多くなります。また建材ごとに熱伝導率が異なっており、これらを組み合わせた壁や窓の熱を貫流させる性質(熱貫流率)により貫流熱負荷が変わります。
これまで、壁と窓ガラス(サッシ)の省エネ法に基づく性能基準については既に報告しています。ここでは、冷房時の熱負荷を検討するために再度熱貫流の基礎理論を整理し、断熱効果を高める対策の冷房負荷の低減効果について分析しましたので報告します。
貫流熱負荷の影響要因
壁や窓の貫流熱負荷(qn)については、次式で表されます1)。
qn=A・U・ETD (壁の場合)
qn=A・U・Δt (窓の場合)
A:壁・窓・床・屋根の面積(m2)
U:その部位の熱貫流率(W/(m2・K))
ETD:実効温度差(K)
Δt:室内外の温度差(K)
壁の貫流熱負荷を算定する際の実効温度差(ETD:Effective Temperature Difference)とは日射の影響を含んだ貫流熱を考慮したものです。ETDは、後に示すように壁の貫流の時間遅れを加味した応答計算によって算定されます。そのため、壁の建材構成別に事前にシミュレーションを行った計算結果を用います。窓の場合は日射熱が窓ガラスに吸収されて時間遅れを伴って放出されることが少ないため、実効温度差ではなく室内外温度差(Δt)を用います。
熱貫流率に影響する主要な要因は外壁と窓の熱貫流率です。熱貫流率が大きいと熱の流入(夏の場合)、熱の損失(冬の場合)が大きくなり、冷房、暖房の熱負荷が上昇します。そのため、熱貫流率を低くする壁や窓の建材の構成による断熱対策が行われます。
次に日射により外壁に蓄積された熱の放熱に影響する実効温度差については、住居の位置と壁の方位、外壁の建材構成により変化します。さらに、日射の吸収(吸収率)を低減するものとして、ひさしやグリーンカーテンなどの日射を抑制する対策もあります。
これらの要因のうち、どの要因に注目するかを以下に示します。
(1)住居の位置(緯度・経度):東京を固定
(2)外壁、窓の方位:東西南北の違いを分析
(3)外壁、窓の建材構成:外壁、窓の建材構成による熱貫流率の低減対策を分析
(4)実効温度差:壁、窓の方位、日射吸収率を低減する対策の分析
まず、住居の位置(緯度・経度)は東京を固定とします。アメダス外界条件には全国の836地点のデータが保存されていますが、これらの地域を取り上げると無数の条件になるので東京地点を固定とします。
次に、外壁や窓の方位については、その日射量については前回報告済みですので、ここでは東西南北の違いによる実効温度差に与える影響を分析します。住み替えなどを検討されている方の参考になると思います。また、外壁と窓の建材構成による熱貫流率への影響を分析します。さらに実効温度差(ETD)については、上記の東京地点を仮定し、外壁の建材構成、方位、日射吸収率の低減対策について分析したいと思います。
壁の建材構成による影響
壁の熱貫流率の算定方法は「建築材料(1)-外壁の断熱性能」に示していますが、ここで再掲します。熱貫流率(U)は以下のように算定されます。
U=1/(1/ho+d1/λ1+d2/λ2+d3/λ3+……+dn/λn+1/hi)
=1/(Ro+R1+R2+R3+………+Rn+Ri)
=1/RT
U:熱貫流率 (W/(m2・K))
ho:室外側壁表面での表面熱伝達率 (W/(m2・K))
hi:室内側壁表面での表面熱伝達率 (W/(m2・K))
λn:構成する材料の熱伝導率(W/(m・K))
dn:構成する材料の厚さ(m)
Ro:外表面熱伝達抵抗(m2・K/W)
Ri:内表面熱伝達抵抗(m2・K/W)
Rn:第n層の熱抵抗(m2・K/W)
RT:熱貫流抵抗(m2・K/W)
建材の熱伝導率の一例を下表に示します。下表に示すように物質の密度が大きいものほど熱伝導率が大きくなります。また、壁の構成として中空層を設けると断熱性が向上しますが、密閉中空層の熱伝導抵抗Rは0.15(m2・K)/W、非密閉中空層のそれは0.07(m2・K)/Wです。
表-1 主な建材の熱伝導率、比熱、密度
材料名称 | 熱伝導率 | 容積比熱 | 比熱 | 密度 |
---|---|---|---|---|
W/(m・K) | J/(L・K) | J/(g・K) | g/L | |
鋼 | 55.000 | 3,600 | 0.46 | 7,900 |
コンクリート | 1.600 | 2,000 | 0.88 | 2,300 |
セメント・モルタル | 1.500 | 1,600 | 0.8 | 2,000 |
タイル | 1.300 | 2,000 | 0.84 | 2,400 |
ガラス | 1.000 | 1,900 | 0.75 | 2,500 |
石膏ボード | 0.220 | 830 | 1.1 | 750 |
天然木材 | 0.120 | 520 | 1.3 | 400 |
吹付けロックウール | 0.064 | 412 | 1.42 | 290 |
グラスウール断熱材10K相当 | 0.050 | 8 | 0.84 | 10 |
吹付け硬質ウレタンフォームA種1 | 0.034 | 47 | 1.7 | 36 |
密閉中空層 | R=0.15(m2・K)/W | |||
非密閉中空層 | R=0.07(m2・K)/W |
ここで、壁の熱貫流率の計算事例を以下に示します。室外及び室内側の表面熱伝達率(ho、hi)は、風速や季節によって異なるのですが、実務的にはho=23、hi=9W/(m2・K)を用いることが多いようです2)。
なお、断熱材については、建築材料を対象とした省エネのトップランナー制度により基準熱損失防止性能が設定されています。これは、以下の4種の断熱材を対象としています3)。
●グラスウール断熱材
●ロックウール断熱材
●押出法ポリスチレンフォーム断熱材
●硬質ウレタンフォーム断熱材2種、3種
その性能基準は下表の通りです(表中の熱損失防止性能は熱伝導率と同じ意味です)。この性能基準の目標年度は前者3種は2022年度以降、硬質ウレタンフォームは2026年度以降となっています。従って、前者3種は現在(2022年9月)既にこの基準が適用されています。そのため、表-1の断熱材の熱伝導率はグラスウールは0.04156W/(m・K)、ロックウールは0.03781W/(m・K)を遵守した製品が多いはずです。
表-2 断熱材の性能基準
区分 | 区分名 | 基準熱損失防止性能 | |
---|---|---|---|
断熱材の基材 | 断熱材の種類 | W/(m・K) | |
押出法ポリスチレンフォーム | 押出法ポリスチレンフォーム断熱材 | 0.03232 | |
ガラス繊維(グラスウールを含む。以下同じ) | グラスウール断熱材 | 0.04156 | |
スラグウール又はロックウール | ロックウール断熱材 | 0.03781 | |
硬質ポリウレタンフォーム | 2種 | 硬質ウレタンフォーム断熱材2種 | 0.02216 |
3種 | 硬質ウレタンフォーム断熱材3種 | 0.02289 |
2. 3種とは、日本産業規格A9521(2017)に規定する硬質ウレタンフォーム断熱材の種類が3種のものをいう。
出所)2013年経済産業省告示第270号(制定)「断熱材の性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2020年告示第68号)
一方、硬質ウレタンフォームを現場で吹付けて断熱性能を図る場合には、省エネ法による性能基準とは別に「準建材トップランナー制度」が導入され、ガイドラインによって断熱性能の向上を図っています。その性能基準を下表に示します4)。本性能基準の目標年度は2017年度以降のため、表-1の吹付け硬質ウレタンフォームA種1は0.034ではなく0.026W/(m・K)を遵守しているはずです。
表-3 成型後の吹付け硬質ウレタンフォームの熱損失防止性能
種類の区分 | 基準熱損失防止性能 |
---|---|
A種1、A種1H | 0.026 |
A種2、A種2H | |
A種3 | 0.039 |
窓の建材構成による影響
窓の熱貫流率も壁と同様の方法で算定されますが、計算が複雑になるため窓ガラスの種類別の公表値を使うことが多いようです。その一例を下表に示します。複層ガラスの熱貫流率は単板ガラス(透明FL8mm)の1/2から1/3となっています。このことから、複層ガラスの断熱性能の高さが分かります。
表-4 窓ガラスの熱貫流率
ガラス種類 | 厚さ | 熱貫流率(W/(m・K)) | ||
---|---|---|---|---|
mm | ブラインドなし | ブラインドあり | ||
単板ガラス | 透明フロート(FL) | 3 | 6 | 4.2 |
8 | 5.8 | 4.1 | ||
12 | 5.6 | 4.1 | ||
19 | 5.4 | 3.9 | ||
網入り | 6.8 | 5.8 | 4.1 | |
熱吸グリーンGR | 8 | 5.8 | 4.1 | |
複層ガラス | 透明FL二重 | 8 | 3.2 | 2.6 |
熱吸GR+透明FL | 8 | 3.2 | 2.6 | |
日射取得型Low-E+透明FL | 8 | 2.5 | 2.2 | |
日射遮へいLow-E+透明FL | 8 | 2.5 | 2.1 | |
高日射遮へいLow-E+透明FL | 8 | 2.4 | 2.1 | |
日射取得型Low-E+透明FL(アルゴン) | 8 | 2.1 | 1.8 | |
日射遮へい型Low-E+透明FL(アルゴン) | 8 | 2.1 | 1.8 | |
高日射遮へいLow-E+透明FL(アルゴン) | 8 | 2 | 1.7 |
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
実効温度差の影響
(1)実効温度差の基礎式
日射の影響を受ける壁の貫流熱負荷を算定する際は、通常の温度差の代わりに実効温度差(ETD)を用います。ETDを求めるために相当外気温度(SAT)を以下の式で算定します。
SATn=t0+Δts
SATn:相当外気温度(℃)
Δts=a・In/ho (K)
In:外壁面全日射量(W/m2)
a:外壁日射吸収率(-)
ho:外壁表面熱伝達率(W/(m2・K))
to:外気温度(℃)
ETDnは以下の式で算定されます。
tn=SATn-tr
23
ETDn=∑yj・tn-j=y0・tn+y1・tn-1・・・+y23・tn-23
j=0
tn:n時の相当外気温度-室温(K)
tr:室温(℃)
ETDn:実効温度差(K)
yj:無次元化した実効温度差用の周期定常壁貫流応答係数
このyjは事前に計算によって算定されており、壁のタイプと住居の位置と壁の向きを入力することでETDnを取得することができます。
(2)壁のタイプ別の実効温度差
実効温度差を求めるための壁のタイプとは下表の中から選択します。コンクリートの厚さdと断熱材の厚さLから壁のタイプを選択し、それに対応するETDを取得します(ETDは参考文献1から提供されるエクセルファイルに格納されています)。
下表に示すように壁の建材構成がコンクリートのみの単層壁の場合はコンクリートの厚さ(d)により壁タイプが決まります。壁の建材構成が断熱材を挟んだコンクリート壁の場合は、dと断熱材の厚さ(L)により壁タイプが決定されます。また金属板と断熱材を用いた壁の場合は、Lによって壁タイプが決まります。
表-5 壁タイプ選定表
壁体構成 | 壁タイプ | ||||
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | ||
断熱なし、コンクリート、単層壁 | d=0~30 | d=30~140 | d=140~230 | d=230以上 | |
断熱なし、気泡コンクリート、単層壁 | d=0~30 | d=30~130 | d=130~210 | d=210以上 | |
内断熱(外断熱)、コンクリート、複層壁 | L=20 | - | d=0~100 (0~70) | d=100~190 (70~140) | d=190以上 (140以上) |
L=35 | - | d=0~90 (0~60) | d=90~180 (60~140) | d=180以上 (140以上) |
|
L=65 | - | d=0~80 (0~50) | d=80~170 (50~130) | d=170以上 (130以上) |
|
内断熱(外断熱)、普通コンクリート、複層壁 | L=0 | - | d=0~100 | d=100~200 | d=200以上 |
L=20 | - | d=0~90 (0~20) | d=90~190 (20~100) | d=190以上 (100以上) |
|
L=35 | - | d=0~80 (0~20) | d=80~180 (20~80) | d=180以上 (80以上) |
|
断熱あり、金属板、複層壁 | L=0~30 | L=30~60 | L=60~90 | L=90以上 | |
断熱あり、金属板、複層壁 | L=0~20 | L=20~50 | L=50~80 | L=80以上 |
壁タイプ別のETDの一例を下図に示します。下図は東京地点の壁タイプ別に4方位(東西南北)別のETDを示しています。タイプⅠでは東と西のETDの最大値は25Kを越えていますが、タイプⅡからⅣにかけて次第に減少していき、タイプⅣでは14Kを下回っています。なお、実効温度差の1日合計はどの方位も壁タイプによらず同じ数値です。例えば、西向きの方位のETDを1日合計したものは229Kであり、どの壁タイプも同じ数値になっています。
出所) 空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
(3)外壁の日射吸収率の影響
エクセルファイルに格納されているETDnは外壁表面の日射吸収率(a)が0.7の場合です。aの値がこれと大きく異なる場合のETDnは以下の式で算定できます。
ETDn=a・(ETD0.7,n-ETD日陰,n)/0.7+ETD日陰,n
ETD0.7,n:日射吸収率a=0.7とした時の実効温度差(K)
ETD日陰,n:日陰面における実効温度差(K)
上記のETD日陰,nは地点別、壁タイプ別にエクセルファイルに格納されています。例えば、東京のh-t基準、壁タイプⅠ、12時の日陰面のETD日陰,nは12.5Kです。同じ地点、同じ壁タイプ、同時刻の水平面のETD0.7,nは30.5Kですので、もしa=0.35の場合は以下となります。
ETD12=0.35・(30.5-12.5)/0.7+12.5=21.5
壁の日射吸収率を低減する方法としてグリーンカーテンがあげられます。ある研究によれば、グリーンカーテンの使用の有無により晴天時のピーク時には外壁の温度が6~7℃程度の差があったという測定結果が得られています5)。また、別の研究では緑の被覆率95%でグリーンカーテン通過後の日射量が80%以上削減されたとの結果もあります(被覆率とは緑のカーテンで壁を覆う割合)6)。従って、グリーンカーテンによって日射による壁の熱吸収を大きく低減できるものと想定されます。
貫流熱負荷対策の効果分析
これまで整理してきた貫流熱負荷の低減対策について、以前に熱負荷計算を行った対象の部屋に適用することで、どの程度の効果が出るかを分析します。前々回の報告で対象とした部屋の外壁の図を再掲します。部屋の向きは西向き、ひさしの長さ1.85m、そで壁長さは1mです。
(1) 外壁の断熱性能の向上
外壁の現状の建材構成を下図に示します。現状の外壁の熱貫流率(U)は1.832W/(m2・K)ですが、これを先に示した新しい性能基準を満たした断熱材(硬質ウレタンフォーム2種)に変更した場合を計算します(表-2参照)。この断熱材の熱伝導率は0.02216ですのでこれを用いて熱貫流率を求めると下図の通り1.189W/(m2・K)となります。
この熱貫流率を用いて外壁の貫流熱負荷を算定したものが下図です。現況と改善後の熱負荷は熱貫流率の大きさに比例して約65%(=1.189/1.832)となっており、低減率は35%です。この分の冷房エネルギーを改善できるということになります。
(2) 窓ガラスの断熱性能の向上
次に、現状の窓ガラスの熱貫流率(U)は単板ガラス3mmですので、6W/(m2・K)です。前回の検討では、すだれとカーテンを考慮した熱貫流率(3.32)を設定していました。これを複層ガラスのLow-Eグリーン(ガラス厚3mm、中空層12mm)に変更した場合を検討します。株式会社LIXILのカタログから熱貫流率は1.6W/(m2・K)を得ました7)。
この熱貫流率を用いて窓ガラスの貫流熱負荷を算定したものを下図に示します。これも現況と改善後の熱貫流率に比例して熱負荷が減少しており、その低減率は52%(1-1.6/3.32)です。これはすだれやカーテンによる熱損失の影響を考慮していないものです。もし単板ガラス3mmのそのままの熱貫流率を使って比較すると73%(1-1.6/6.0)となります。非常に大きな改善効果であることが分かります。
(3) 日射抑制による実効温度差の影響
日射を外壁が吸収し、その吸収した熱が時間遅れを伴って夜間時に放熱されるのを防ぐために、外壁への日射の影響を軽減する対策が取られています。環境省はクールチョイスのWebサイトでグリーンカーテンを取り上げています8)。
このグリーンカーテンによる被覆対策を行って外壁の日射吸収率(a)を改善した場合を想定します。現状の計算における日射吸収率は0.7ですが、これを0.3まで低下させることができたと仮定して計算してみます(前述した研究結果からはこの数値は可能と考えられます)。先に示した計算式で東京地点の西向きの部屋の冷房時の基準Jc-tを用いて、壁タイプⅢのETDを計算した結果を下図に示します。
この結果を見ると、日射吸収率を改善させた場合の貫流熱負荷は壁の日射の吸収が抑えられ、夜間時の壁から室内への放熱が大きく抑えられています。現況の最大熱負荷が300Wであるのに対して改善後のそれは138Wとなっており、その低減率は54%(1-138/300)です。この貫流熱負荷の1日の総和を比較すると現況が3.7kWh、改善後は1.9kWhとなり、その低減率は49%(1-1.9/3.7)でした。このことから日射吸収率の低減は、熱負荷がピーク時の抑制効果が高いことが分かります。
おわりに
今回は、冷房の熱負荷のうち、外壁と窓からの貫流熱負荷を取り上げ、その低減対策について検討しました。貫流熱負荷に関連する要因として、外壁とガラス窓の熱貫流率、さらに外壁の日射吸収率の低減効果を分析しました。
外壁と窓ガラスの建材に関しては省エネ法の対象となっており、既に断熱材やサッシの省エネ基準が示されています。具体的には、外壁の断熱材については、厳しい基準が決められ2022年以降に実現を求められています。また、サッシについても複層ガラスを対象に基準が決められています。
そこで、前回熱負荷の計算を行った対象の部屋で、これらの基準を満たす対策を実施した場合の貫流熱負荷を計算しました。外壁については、現状の壁の建材構成において基準を満たす断熱材を導入した場合を仮定しました。その結果、現状の熱貫流率は1.832W/(m2・K)ですが、断熱材を変えるだけで1.189W/(m2・K)と約35%低減できました。この割合が冷房エネルギーに影響することになります。
また、窓ガラスについては、現状の熱貫流率3.32W/(m2・K)を複層ガラスのLow-Eグリーン(中空層12mm)に変更することで熱貫流率は1.6W/(m2・K)に改善しました。これを用いることで冷房の熱エネルギーを約52%低減できました。
これまで検討してきた部屋は西日の当たる日射の影響が大きいところであり、外壁が厚いコンクリートと断熱材による効果から、外壁の貫流熱負荷は夜間時に遅れて大きくなっていました。そのため、日射の影響を軽減するためグリーンカーテンにより日射吸収率を現状の0.7から0.3に改善した場合を計算しました。
その結果、実効温度差が大きく変わり、夜間時の外壁から室内への放熱が大きく抑えられていました。現況の最大熱負荷は300Wであるのに対して改善後のそれは138Wとなっており、その改善効果は約54%でした。また、日射吸収率の改善は熱負荷がピーク時の抑制効果が高いことも分かりました。
このように、外壁と窓ガラスの熱貫流率および日射吸収率を改善させることで大きな貫流熱負荷の改善がみられたことから、断熱対策が冷房エネルギーを大幅に軽減できることが分かりました。
次回は、熱負荷のうち残されているすきま風熱負荷を取り上げて、対策の効果を分析します。すきま風の影響は、冷房負荷に対して影響が少ないと考えられがちですが、建築の専門家は断熱性と気密性を重要視しており、気密性に影響するのが「すきま」です。次回はこの気密性向上対策についても検討していきます。
<スポンサーサイト>
<参考文献>
1) 空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
2)空気調和・衛生工学会編:空気調和設備計画設計の実務の知識、改定4版、オーム社、2017年
3) 2013年経済産業省告示第270号(制定)「断熱材の性能の向上に関する熱損失防止建築材料製造事業者等の判断の基準等」、最新改正2020年告示第68号
4) 経済産業省資源エネルギー庁:吹付け硬質ウレタンフォームの熱の損失の防止のための性能の向上等に関するガイドライン、2017年10月12日
5)成田健一:緑のカーテンが教室の温熱環境に及ぼす効果、第21回環境情報科学学術研究論文発表会、2007年
6)鈴木弘孝、加藤真司、藤田 茂:表面温度と日射量から見たグリーンカーテンの温熱環境改善効果、ランドスケープ研究、Vol. 79、No.5、2016
7)LIXIL株式会社、窓リフォーム(内窓インプラス)、カタログ、2022年6月
8)環境省:公式サイト、Cool choice、グリーンカーテンプロジェクト
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/green/