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熱負荷

エアコン(15)-冷房負荷の低減(4)

 これまで、冷房の熱負荷としての日射熱負荷、貫流熱負荷、すきま風熱負荷についてとりあげ、その算定方法と熱負荷軽減対策の省エネ効果を分析してきました。今回は室内発熱負荷を取り上げます。

 室内発熱負荷は家電機器や都市ガス等を用いた厨房機器からの発熱があります。これまでリビングのエアコンの冷房負荷を検討してきましたので、リビングで使われることが多い機器が対象となります。さらに、機器による発熱以外に人体からの発熱も冷房負荷には少なからず影響があります。

 冷房負荷を低減してエアコンの消費電力量を削減するには、これまで検討してきた家電機器等の省エネ対策が効果的です。また、厨房機器については、熱を室外に排出する換気設備が効果を発揮します。しかし、人体の発熱負荷については、室内での活動内容によって熱負荷が変わりますが、熱負荷の発生を抑えるように生活することは困難でしょう。

 今回は室内発熱負荷についてその要因と熱負荷低減対策について分析します。そして、これまで検討してきた全ての熱負荷に関する対策を行った場合の冷房負荷への軽減効果について分析することとします。

室内発熱負荷の影響要因

 室内発熱負荷(qiT)とは室内の発熱体の発熱のことですが、以下があります。

(1) 人体発熱:人体表面からの放熱される顕熱と発汗として放熱される潜熱がある
(2) 機器発熱:一般的には顕熱が多いが、一部潜熱もある
(3) 照明発熱:顕熱のみ
(4) 厨房発熱:キッチンの発熱(顕熱及び潜熱)

(1)人体発熱

 人体発熱は人体の表面から対流と放射によって放熱される顕熱と発汗によって放出される潜熱があります。下表に作業内容別の全発熱量とその内訳(顕熱、潜熱)を示しています。静座の時は98W/人であり、軽作業で116W/人などとなっています。気温によって顕熱と潜熱の値が変わりますが、その合計値(全発熱量)は同じです3)。人体発熱は他の家電機器が停止し、日射や外気温が低下した夜間時にその影響が大きくなります。

表-1 作業内容別の人体の発熱量

全発熱量着衣量22℃24℃26℃28℃
[W/人][clo]顕熱潜熱顕熱潜熱顕熱潜熱顕熱潜熱
静座 980.67623732564345147
軽作業1160.68828803667495561
事務所業務1210.69229814068535566
立ったり座ったり歩いたり1390.69742855471685881
着席作業2080.6116921021068712171137
普通のダンス2300.6131991151159813280150
歩行(4.8km/h)2770.614513212714910816989188
ポーリング4000.4176224151249126274101299
注)相対湿度50%.気流速度:0. 2m/sとして算定。着衣量(clo=0.6)は夏期の軽装を指す。温度は室温。
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

(2)機器発熱

 家電機器の発熱量の一例を下表に示します。液晶テレビは50~150W、DVDレコーダ、パソコンは25W程度です。液晶テレビは画面の大きさにより消費電力は異なります。また、視聴時に省エネモードを選択することにより消費電力量を低減できます。発熱量は実際の消費電力を用いることでより正確な値が把握ができると思われます。

表-2 稼働時間の長い機器の発熱量

 機器・器具名発熱量(W) 機器·器具名発熱量(W)
液晶テレビ50~150DVDレコーダ25
冷蔵庫200~300コビー機・複合機500
温水洗浄便座24~41(貯湯式)
9~25(瞬間式)
洗濯機400
1,100(乾燥時)
パソコン25食器洗い乾燥機900
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 消費電力の節電はこれまで本サイトで検討してきた通りです。例えば液晶テレビは節電モードとバックライトの明るさにより下図の通り最大7割程度低減できました(詳細は「液晶テレビ(3)-省エネ機能の利用」を参照ください)。このように、家電機器の省エネはその機器の消費電力の低減だけでなく、エアコンの冷房負荷を軽減できるというメリットがあります。

東芝50インチ液晶テレビREGZA 50ABM620Xの消費電力測定結果

(3)照明発熱

 照明器具は蛍光灯とLED照明があり、今後はLEDに完全移行していきます。蛍光灯は下表の通り部屋の広さに応じて適用される消費電力の目安が決められています。例えば、部屋の広さが6畳の場合は明るさが3,200 lm(lmはルーメンと読み、明るさの全光束を意味します)であり、蛍光灯の消費電力は60~80Wとされてきました。

表-3 部屋の広さ別の蛍光灯、LED照明の標準消費電力

4.5畳6畳8畳10畳12畳14畳
標準全光束(lm)270032003800440050005600
直管蛍光灯(W)40~6060~8080~100100~120120
環形蛍光灯(W)6262~7272~102102~120120~150150
LED照明(W)22.526.731.736.741.746.7
注)標準全光束は日本照明工業会の「LEDシーリングライトの適用畳数」より、蛍光灯の消費電力は空気調和・衛生工業会(新最大熱負荷計算法)より、LED照明の消費電力は標準全光束をエネルギー消費効率120(lm/W)(製品の実績より)で除して算定。

 一方、LED照明はその性能により明るさと消費電力の関係が幅を持った値となっています。そのため、LED照明は省エネ法によってエネルギー消費効率が「全光束/消費電力」と決められており、昼光色の省エネ基準は100lm/Wとされています。

 現在製造販売されているLEDシーリングライトの平均的なエネルギー消費効率は120 lm/Wであるため、ここではこれを用いてLED照明の消費電力を算定しました。それを上表の最下欄に示しています。LED照明の省エネ基準及び製品の平均的なエネルギー消費効率等については、「LED照明(2)-照明器具の省エネ性能」を参照ください。LED照明の消費電力は蛍光灯の1/2から1/3程度になっています。消費電力が少ないということは発熱量も少ないことになります。

(4)厨房発熱

 厨房発熱については、厨房機器による発熱量に加えて、厨房換気扇による排気量が重要になります。厨房発熱による熱負荷において考慮するべき熱量は以下となります。

 qs=(1-ηt)・Hs (W)
  qs:厨房発熱負荷 (W)
  ηt:換気扇による排気捕集率 (-)
  Hs:厨房機器(ガスコンロ等)による発生熱量(W)

 上式に示す通り、ガスコンロ等による発生熱量のうち換気扇により室外に排出された分を除いた熱量が室内に放熱されます。

 ガスコンロ等の発生熱量は厨房での都市ガスの燃焼熱量です。これまでの報告で示した通り、ガスコンロ等の発熱量は機器の能力と調節度合に応じて変化します。例えば、能力4.2kWのガスコンロの「中火」の都市ガス消費量は2.38L/minであり、その発熱量は約1.8kWでした(詳細は「調理器具の比較(4)-焼飯のあたため」を参照ください)。

 また、一般の住宅用換気扇の排気量は下表に示す通りです。排気風量は「弱」では30~40L/s(108~144m3/h)、「強」では120~140L/s(432~504 m3/h)です。

表-4 住宅用厨房換気扇の排気量

排気風量(L/s)30~4090~100120~140
排気風量(m3/h)108~144324~360432~504
出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 下図に排気風量と廃棄捕集率の関係を示します。排気風量が「中」(324~360m3/h)の時はガスコンロの発熱量が7.27kWの場合84~88%、3.48kWの場合93%程度捕集されていることから、この残りの1割~2割の熱量が室内に放熱されます。一方、排気風量が「弱」(108~144m3/h)の時の捕集率は、ガスコンロの発熱量が7.27kWの場合45~55%程度、3.48kWの場合55~65%程度捕集されて、40%以上の熱量が室内に放熱されます。

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 ガスコンロ等の使用時における換気扇の排気風量別の放熱量(換気扇から捕集されなかった熱量)を比較したものを下図に示します。下図より、ガスコンロ7.27kWの使用時に換気扇を「弱」で稼働させると3.6kW程度が室内に放熱されますので、冷房負荷は大変大きくなります。ガスコンロ3.48kWでは1.4kW程度、IHヒーターでは1.5kW程度の放熱量です。

出所)空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月

 一方、換気扇を「中」で稼働するとそれぞれ0.9kW、0.3kW、0.1kWとなり、ガスコンロ7.27kW以外は影響が少ないと言えます。このことから、火力が大きな厨房機器を使う場合は、換気扇の風量を上げることに留意することが必要です(これは冷房負荷の問題だけでなく、言うまでもなく室内空気質の人体への悪影響にも関係します)。

(5)室内発熱負荷の低減対策の効果

 ここでは、室内発熱負荷に関する機器等での節電による冷房負荷への軽減効果について確認します。これまで検討してきた対象リビングでの室内発熱負荷のうち、照明と液晶テレビは既に節電対策を行っていますが、その対策をしなかった場合と比較してみます。

 (1)液晶テレビ:節電モード、バックライトにより消費電力80W→実施しない場合130W
 (2)照明:LED照明44W→蛍光灯120W(12畳の直管蛍光灯の標準電力より)

 ここで、液晶テレビの消費電力80W は節電モード1、バックライト80%で視聴した場合の実績値です。標準の消費電力は130Wですので、節電率38%(1-80/130)です。慣れるとこの程度のバックライトでも問題なく視聴ができます。LEDシーリングライトの消費電力44WはODELIC製のSH-8268LDRの定格消費電力です。これも蛍光灯に比較して63%(1-44/120)の節電率です。 

 室内発熱負荷の対策実施の有無別の熱負荷合計値を下図に示します。照明とテレビは起床した5時半から21時まで15.5時間連続した使用を仮定しています。液晶テレビと照明以外は人体発熱と厨房発熱(キッチンがリビングに隣接しているため考慮)が含まれます。人体発熱196Wは表-1の「静座」の98W/人を採用し、2人分なので2を乗じて算定しています(1日中一定値として設定)。

 上図に示すように、機器の節電により最大126Wの冷房負荷を軽減できており、1日の合計では約2kWh(=0.126・15.5)となります。なお、夜間時でも200W程度の室内発熱(人体発熱)があり、これが夜間時の冷房負荷を上昇させる要因となっています(リビングに隣接した寝室を冷やすため夜間でもエアコンを稼働させています)。

全熱負荷の低減対策の効果分析

(1)熱負荷低減対策の実施シナリオ

 ここでは、これまで4回にわたって検討してきた集合住宅のリビングにおける冷房負荷対策による低減効果をまとめます。熱負荷は以下の4種類がありました。

(1)ガラス窓を透過する日射熱負荷
(2)壁体を貫流する熱負荷
(3)すきま風による熱負荷
(4)室内の内部で発生する熱負荷

 これらの熱負荷を低減する対策としては下表のものが有効と考えられます。ただし、対策の実施には建物の建て替え(リフォームを含め)が必要なものもあり、既存の住宅における対策実施の容易性を考慮して対策の実施シナリオを設定しました。

表-5 冷房負荷を低減させる対策の実施の容易性

熱負荷
種類
  低減対策  実施の容易性実施済シナリオ1
対策なし
シナリオ2
現状
シナリオ3
対策追加
日射熱
負荷
ひさし、そで壁建て替えが必要(困難)
窓ガラスの交換または内窓比較的容易
遮熱フィルム、塗料比較的容易
カーテン、ブラインド容易
貫流熱
負荷
外壁の断熱化建て替えが必要(困難)
窓の断熱化(交換、内窓)比較的容易
グリーンカーテン比較的容易
すきま風
熱負荷
構造物全体の気密性の向上建て替えが必要(困難)
気密シール、気密テープ等比較的容易
室内発熱
負荷
テレビの節電モード利用容易
照明機器のLED化容易
厨房換気扇の適正利用容易
注)〇印は既に実施済みの対策、◎印はシナリオ3で実施を仮定する対策、●は既に実施しているがシナリオ1で実施していないことを仮定する対策

 上表の「実施済」欄の〇印は、既に対策が実施済みのものを示します。また、ここでの分析では、対策の実施済みのものでもその効果を明確にするため、以下では対策を行っていない場合も含めて分析します。すなわち、対策実施のシナリオを3種類とし、以下のものを比較します。

 シナリオ1(対策なし):表-5に示した●印の対策を実施していないと仮定
 シナリオ2(現状):表-5に示した〇印の対策を実施
 シナリオ3(対策追加):現状に加えて、表-5の◎印の対策を実施すると仮定

 これらの対策シナリオで、想定する熱負荷軽減対策のパラメータの値をまとめると下表の通りです。

表-6 対策実施シナリオ別のパラメータの値

 熱負荷種類   低減対策 パラメータシナリオ1
対策なし
シナリオ2
現状
シナリオ3
対策追加
日射熱負荷カーテン、ブラインド遮へい係数0.50.250.25
貫流熱負荷窓の断熱化(交換、内窓)窓の熱貫流率3.323.321.6
グリーンカーテン日射吸収率0.70.70.3
すきま風熱負荷気密シール、気密テープ等C値5.05.02.0
室内発熱負荷テレビの節電モード利用消費電力W1308080
照明機器のLED化消費電力W1204444

 表-5に挙げた対策のうち、日射熱負荷の軽減のためのカーテン、ブラインドは既に使用しており、遮へい係数0.25という十分な遮へい効果を実現しています。そこで、シナリオ1ではブラインド1枚のみとして遮へい係数0.5を仮定します。他のシナリオでは現状値(0.25)を用います。

 貫流熱負荷については、窓の断熱化(複層ガラス)と壁のグリーンカーテンによるETD(実効温度差)の低減が可能です。シナリオ3において窓の熱貫流率を1.6、壁の日射吸収率を0.3と想定します(ETDの意味や数値の詳細については「エアコン(13)-冷房負荷の低減(2)」を参照ください)。

 すきま風熱負荷については、気密シールや気密テープなどによる機密性能の向上があります。現在のすきま風は6.3L/sとして計算していましたが、これはC値5.0と同等の風量となっていました。そのため、シナリオ3においては気密対策によりC値2.0に改善した場合を想定します。これは高気密とは言えませんが、気密シール等の対策で可能なレベルと考えられます(C値の意味、数値については「エアコン(14)-冷房負荷の低減(3)」を参照ください)。

 最後に、室内発熱負荷の対策は、既に機器の省エネ対策や厨房換気扇の適切な排気風量での使用を行っています。そこで、シナリオ1では機器の省エネ対策を行っていない場合を想定します。具体的には液晶テレビの省エネモードを標準モードとした場合、照明をLEDではなく蛍光灯とした場合を取り上げます。

(2)熱負荷低減対策の組合せ効果

 以上で設定した3種類の対策シナリオにおける熱負荷の相違を比較したものを下表に示します。この表では1日の熱負荷合計値(kWh)と最大熱負荷である17時の熱負荷(kW)を比較しています。

表-7 対策実施シナリオ別の1日熱負荷合計値と最大熱負荷

1日熱負荷合計(kWh)最大熱負荷(kW)
対策なし現状対策追加対策なし現状対策追加
日射熱負荷 8.464.234.231.930.970.97
貫流熱負荷3.723.721.910.250.250.15
4.364.362.100.310.310.12
すきま風熱負荷6.356.352.610.440.440.18
室内発熱負荷テレビ 2.151.321.320.130.080.08
照明 1.980.730.730.120.040.04
人体、厨房4.974.974.970.200.200.20
合  計31.9925.6817.873.382.291.74

 下図は、1日の熱負荷合計値を熱負荷の種類別に比較したものです。これを見ると、「対策なし」については日射熱負荷が最も大きく、次いですきま風熱負荷です。また「現状」において最も熱負荷合計値が大きいのはすきま風熱負荷であり、次いで人体等の熱負荷です。一方、「対策追加」についてはすきま風熱負荷が小さくなって人体等の発熱負荷が最大となっています。「対策追加」においては、制御できるものは対策を実施済であり、制御できない人体発熱が最大となっていることが分かります。

 下図の最大熱負荷時である17時の熱負荷については、「対策なし」における日射熱負荷が極めて大きな値となっており、最大熱負荷時は日射熱負荷を抑制する重要性が分かります。「対策追加」の最大熱負荷は「現状」からの低減率は小さくなっています。

 さらに熱負荷軽減対策の効果を詳しく見るために、軽減対策を行った「対策追加」の場合の1日の熱負荷の推移を下図に示します。下図には対策実施前(現状)の熱負荷合計値も示しています。概ねどの時間帯も軽減効果が現れています。

 次に、対策の実施前後の冷房負荷について、6時間ごとの負荷量を比較したものを下表に示します。まず、1日の合計冷房負荷は改善前が25.7kWhで、改善後は17.9kWhと、改善効果は30%となっています。

表-8 熱負荷対策実施前後の冷房負荷の比較

0時~6時6時~12時12時~18時18時~24時合計
日射熱負荷68792,8175284,229
貫流熱負荷改善前 A1,4441,2322,4542,9548,083
改善後 B7116331,2651,3974,006
差 A-B7335991,1891,5574,077
変化 B/A0.490.510.520.470.50
すきま風熱負荷改善前 A1,0831,2132,1351,9196,350
改善後 B4464998797902,615
差 A-B6377131,2561,1293,735
変化 B/A0.410.410.410.410.41
室内発熱負荷1,2382,0102,0101,7627,020
合計改善前 A3,7715,3339,4167,16225,682
改善後 B2,4004,0216,9724,47717,870
差 A-B1,3711,3122,4452,6857,813
変化 B/A0.640.750.740.630.70

 次に、熱負荷の種類別には貫流熱負荷が窓の断熱とグリーンカーテンの効果により、改善前は8.1kWhであったものが改善後は4.0kWhとなっており、両方の対策により50%の削減効果となっています。また、すきま風熱負荷は気密性の向上により改善前は6.4kWhであったものが改善後は2.6kWhとなっており、59%の削減効果となっています。

 また、6時間ごとの区間別の冷房負荷の軽減効果を計算した結果は、18時~24時における熱負荷の軽減量が最も多くなっていました。これは、この部屋の外壁のコンクリート厚が比較的厚く断熱材も使われており、日中に吸収された日射熱の夜間時の放熱(貫流熱負荷)を防ぐグリーンカーテンの効果が大きいためです。

 さらに、すきま風熱負荷は12時~18時の時間帯に最も大きな軽減量となっていました。これは昼間に上昇した外気温の影響で、すきま風による熱量の増加を気密性の向上により低減させたことによります。

まとめ

 今回は、これまで検討してきた熱負荷のうちで残された室内発熱負荷を取り上げ、その特性と軽減対策を検討してきました。そして、これまで検討してきた全ての熱負荷軽減対策を対象に、実際に実施できる対策を行った場合の冷房負荷の軽減効果を分析しました。

 室内発熱負荷については、人体発熱、機器発熱、照明発熱、厨房発熱がありますが、人体発熱を除いてこれまで検討してきた省エネ対策が冷房負荷を軽減させるうえで有効でした。機器の機能効果を損なわないレベルでの省エネ対策(消費電力量の低減)が機器の発熱を軽減することができ、冷房負荷も削減できることが分かりました。

 厨房発熱については、換気設備の稼働が必須であり、厨房機器の火力に合わせて排気風量を調節することが重要であることが分かりました。具体的には、能力7.3kWのガスコンロを使用する際に、換気設備を「弱」で稼働させると3.6kWが室内に放熱することになり、能力4.3kWのガスコンロでも1.4kWが放熱されました。換気設備を「中」で稼働すれば、どちらも1kW以下に抑えることができました。

 これまで検討してきた熱負荷軽減対策のうち、検討対象としてきた部屋において、実施可能な対策を全て実施した場合の、冷房負荷の軽減効果を分析しました。実施可能な対策は、窓の断熱化(窓ガラスの熱貫流率3.32→1.6W/m2・Kに改善)、壁のグリーンカーテン使用(日射吸収率0.7→0.3に改善)、気密性の向上(相当すきま面積C値5.0→2.0に改善)です。

 これらを全て実施した場合の冷房負荷はピーク時(17時)で24%、1日の総和では約3割削減ができました。窓の複層ガラスへの取り換えとグリーンカーテンの実施により、貫流熱負荷は約4.1kWhの削減となりました。さらに、気密性の向上により約3.7kWhの削減となっており、合計で現状に対して7.8kWhの改善となりました。

 また、1日を6時間ごとの区間に分けて冷房負荷の軽減効果を計算した結果を見ると、18時~24時における熱負荷の軽減量が最も多くなっていました。これは、この部屋の外壁のコンクリート厚が比較的厚く、断熱材も使われているため、日中に日射が吸収された熱が夜間に放熱されることを防ぐグリーンカーテンの効果が大きいと考えられました。

 さらに、すきま風熱負荷は12時~18時の時間帯に最も大きな軽減量となっていました。これは日中に上昇した外気温の影響で増加したすきま風による熱量を、気密性の向上により低減させたことによると考えられました。

 今回の計算は、夏の最も熱負荷が大きな時点における熱負荷軽減対策の計算結果です。他の時点における冷房負荷の軽減効果はこれほど大きくないと思われますが、どの時点でも一定の削減は可能と考えられます。このことにより、冷房の消費電力量が大きく削減され、ひいては温室効果ガスの排出を抑えることができることが分かりました。

 窓の断熱化や気密性の向上は冬季にも有効と考えられ、暖房負荷の軽減にも貢献すると考えられます。冬季の検討については、機会を改めて行う予定です。

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<参考文献>
1) 空気調和・衛生工学会編:試して学ぶ熱負荷HASPEE-新最大熱負荷計算法-改訂第2版、2022年6月
2) 宇田川光弘、他:建築環境工学、熱環境と空気環境、改訂版、朝倉書店、2020年4月