ディマンド・レスポンスの背景と概要
(1)ディマンド・レスポンスの背景
2022年は年初から電力需要の逼迫により国や電力会社から節電の要請が出されていました。近年の電力需給改善のために、需要者からの協力を受ける対策の一つとしてディマンド・レスポンス(DR:Demand Response)があります。
資源エネルギー庁もWebサイト上でDRを大きくとり上げて導入を呼びかけています1)。このサイトによるとDRとは「消費者が賢く電力使用量を制御することで、電力需要パターンを変化させること」と説明されています。これにより、電力の需要と供給のバランスをとることを目指しています。
この背景には供給側の電力供給能力が想定される需要に対して十分でないことと、再生可能エネルギーのように発電出力を自由に変動させることができない電源の割合が増加してきていることがあります。供給の能力に合わせるように需要を変動させて需給バランスをとることにより、供給能力を強化するための費用を低減させ、利用者の負担を軽減させることも意図していると思われます。
前日した通り2022年は電力の需給逼迫が予想され、経済産業省はその対策に当初から取り組んでいました。そして、2022年6月7日に公表された「2022 年度の電力需給に関する総合対策」(電力需給に関する検討会合)において、需要側の対策としてDRが取り上げられています。これによると対策の実施方法として、以下のように記載されています2)。
「需給逼迫時に需要抑制した需要家に対して対価を支払う、対価型のディマンド・リスポンス(DR)の普及拡大を図るため、小売電気事業者に対し需要家の特性にあわせた DR の検討を促すとともに、産業界に対しDR 契約の周知、呼びかけを行う。」
これに先立って、5月27日に開催された総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会において、DRの協議が行われています3)。この協議資料によれば、小売電気事業者の7割がDRの実施を検討していないとされていました。その理由は、DR実施のための具体的な手法が不明、システムや人員等の体制確保が困難とのことでした。
これに対し経済産業省はDRが全体の需給改善に資するだけでなく、需要者にとっても料金高騰対策の手段となるため、小売電気事業者に対してDRメニューやキャンペーンを有し、比較的簡易な方法でDRを実施するよう指導することとしました。そして、DR手法の一つとしてDRの実施によって需要者が対価を得ることができる「インセンティブ型DR」の実施事例を示しています4)。
その後、国は令和4年度予算の電気利用効率化促進対策事業によって、DRを付与する小売電気事業者に対する補助対象者の公募を行っています。また、東京都は令和4年度6月補正予算において小売電気事業者が上乗せポイントを付与する取組及びそのシステム構築等に対し、補助する予定であることを公表しています。
(2)ディマンド・レスポンスの仕組み
インセンティブ型DRの仕組みや現在導入されている事例について、経済産業省の資料等よりまとめます3)4)。2022年6月30日時点でDRのメニューを有している小売電気事業者は下表に示す33社であり4)、その多くが節電量に応じてポイントを付与する仕組みを作っています。具体的には東京電力EPはpontaポイントやnanacoポイント等、SBパワーはpaypayポイントなどを付与することとしています。
表-1 DRを導入している小売電気事業者(2022年6月30日時点)
旧9電力会社 | 新電力会社 | 新電力会社 |
---|---|---|
北海道電力株式会社 | エバーグリーン・リテイリング株式会社 | UNIVERGY株式会社 |
東北電力株式会社 | 株式会社エネワンでんき | ミツウロコグリーンエネルギー株式会社 |
東京電力エナジーパートナー株式会社 | 株式会社V-Power | 株式会社Looop |
北陸電力株式会社 | 株式会社エネット | ENEOS株式会社 |
中部電力ミライズ株式会社 | 株式会社関電エネルギーソリューション | 東京ガス株式会社 |
関西電力株式会社 | 株式会社エナリス・パワー | 株式会社トヨタエナジーソリューションズ |
中国電力株式会社 | 日田グリーン電力株式会社 | 楽天エナジー株式会社 |
四国電力株式会社 | 株式会社 ユビニティー | グリーンピープルズパワー株式会社 |
九州電力株式会社 | 株式会社エスエナジー | 株式会社afterFIT |
株式会社エフオン | アストマックス・エネルギー株式会社 | |
株式会社タクマエナジー | 大阪瓦斯株式会社 | |
アストマックス株式会社 | SBパワー株式会社 |
DRの仕組みの概要を示したものが表-2です3)。下表では、需要者の対象、契約形態、DRの発動方法、評価方法(ベースライン)、報酬、事業者を示しています。現状では業務・産業用を対象に行っている事業者が多いようです。
ただし、旧電力事業者の北陸電力、九州電力や新電力事業者の東京ガスやSBパワーなどは家庭用(低圧)の需要者も対象にしています。なお、この事例は2022年5月以前のものであるため、今年の夏のDRの対象が変わっているものもあります(東京電力EPでは今夏、家庭用のDRを実施していました)。
同表の記載内容からDRの仕組みについては、需給逼迫の発生に関する予測(DR発動のトリガー)、ベースライン設定(DR実施量の把握)、報酬設定(需要家へのインセンティブ)がポイントとなるようです。DRの対象日時を決定するための予測方法は自社独自の需要予測がほとんどです。また、節電量の評価方法としてどのようなベースラインをもとに算定するのかが重要となります。
表-2 小売電気事業者によるインセンティブ型DRの取組事例
事業者 | 需要者 | 契 約 | 予測・発動 | 評価(べースライン) | 報 酬 注) | 事業者例 |
---|---|---|---|---|---|---|
旧一電 小売 | 業務・産業用(主に高圧以上) | • kW報酬型契約 • アドオン可能なkWh報酬型契約 • 料金メニュー | • 自社独自の需要予測 | • High 4 of 5 (当日調整あり) • 簡易的なベースライン (基準となる特定日との比較) | • kWに応じた対価 • kWhに応じた対価 • 電気料金の減額 ※ 対応できなかった場合のペナルティが存在するケースもあり | • 東京電力EP • 北陸電力 • 中部電力ミライズ • 中国電力 • 九州電力 |
家庭用(低圧) | • アドオン可能なkWh報酬型契約 • 料金メニュー | • 自社独自の需要予測 • 期間中毎日実施 | • High 4 of 5 (当日調整あり/なし) • 簡易的なベースライン (前年同月比) | • kWhに応じた対価 • 電気料金の減額 • 追加的なポイント等の付与 | • 北陸電力 • 中部電力ミライズ • 九州電力 |
|
新電力 | 業務・産業用(主に高圧以上) | • アドオン可能なkWh報酬型契約 | • スポット価格における閾値の設定 • 期間中毎日実施 | • High 4 of 5 (当日調整あり/なし) | • kWhに応じた対価 • 電気料金の減額 | • UPDATER (みんな電力) • エナリス • エネット • ミツウロコグリーンエネルギー |
家庭用(低圧) | • アドオン可能なkWh報酬/一律報酬型契約 | • 自社独自の需要予測 • 期間中毎日実施 | • High 4 of 5 (当日調整あり/なし) | • kWhに応じた対価 • 削減量の順位に応じた対価 • 参加者一律に対価 • 追加的なポイント等の付与 | • 東京ガス • 大阪ガス • JCOM • SBパワー |
出所)経済産業省:第50回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会、資料4-3、ディマンド・リスポンスの活用に向けて、2022年5月27日
ここで、ベースラインを決めるための方法としてエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン(ERABガイドライン)で推奨している方法があります。ERABガイドラインでは、各種取引におけるDR実施量(需要抑制量)を正確・公平に算定するための「標準ベースライン」として、「High 4 of 5(当日調整あり)」を規定しています。また、「High 4 of 5(当日調整あり)」が適切ではない場合の代替ベースラインとして、「High 4 of 5(当日調整なし)」や他の方法も規定しています。
この「High 4 of 5」とは、DR実施日の直近5日間のうち、消費電力量が最低の1日を除いた4日間をベースラインの日として採用し、これらの日の30分ごとの電力需要の平均値を基に、需要ベースラインを作成します。ただし、除外日については以下のような細かな決まりがあります5)。
<DR対象日が平日の場合の除外日>
『次に掲げる日については、上記の母数となる直近5日間から除外するものとする。その際、当該母数が5日間となるよう、DR実施日から過去30日以内(平日及び土曜日・日曜日・祝日)で更に日を遡るものとする。(下図を参照)
● 土曜日・日曜日・祝日
● 過去のDR実施日
● DR実施時間帯における需要量の平均値が、直近5日間のDR実施時間帯における需要量の総平均値の25%未満の場合は当該日』
次に、「当日調整あり」または「当日調整なし」の区別は以下の通りです。
(1) DR実施日の直近5日間のうち、DR実施時間帯の平均需要量の多い4日間の需要データについて、30分単位のコマ毎の平均値を算出する(当日調整なし)。
(2) DR実施時間の5~2時間前までの30分単位6コマについて、DR実施日当日の需要量と、上記(1)の差分を取る。
(3) (1)で算定された値におけるDR実施時間帯の30分単位の各コマに、(2)で算出された値を加算し、標準ベースラインとする(当日調整あり)。
ディマンド・レスポンスへの参加における節電実績
(1)DR対象期間と実施日
東京ガス(株)は小売電気事業者でもありますが、2021年からDRの趣旨に則った節電キャンペーンを実施しています。2022年夏も実施していましたので、これに参加して節電を行った結果を報告します。
DRの実施期間は7月27日から9月23日までの予定でした。この期間でDRの対象となった日は下図に示す通り19日でした。全て平日であり、土日はありません。DRの対象となる日は前日の17時過ぎにメールが来て、DRの実施時間帯が告げられます。
この19日間の節電対象時間を下表に示します。節電の開始、終了時間はまちまちですが、午前10時ころから始まって19時から21時ころまでに終了することが多いことが分かります。最も長い時間は12時間半(8月3日)、最も短い時間は1時間(8月23日)、平均継続時間は8.3時間でした。
表-3 DR実施日の節電対象時間
No | 月/日 | 開始時間 | 終了時間 | 継続時間(時間) |
---|---|---|---|---|
1 | 7/27 | 10:30 | 20:30 | 10.0 |
2 | 7/28 | 13:00 | 21:00 | 8.0 |
3 | 7/29 | 13:30 | 21:30 | 8.0 |
4 | 8/1 | 10:00 | 19:30 | 9.5 |
5 | 8/2 | 10:00 | 20:30 | 10.5 |
6 | 8/3 | 9:00 | 21:30 | 12.5 |
7 | 8/4 | 10:00 | 19:30 | 9.5 |
8 | 8/9 | 10:00 | 19:30 | 9.5 |
9 | 8/19 | 15:30 | 19:00 | 3.5 |
10 | 8/23 | 16:30 | 17:30 | 1.0 |
11 | 8/31 | 15:00 | 21:00 | 6.0 |
12 | 9/1 | 10:00 | 21:00 | 11.0 |
13 | 9/5 | 9:00 | 19:30 | 10.5 |
14 | 9/6 | 11:00 | 20:00 | 9.0 |
15 | 9/7 | 10:00 | 19:30 | 9.5 |
16 | 9/8 | 11:00 | 19:00 | 8.0 |
17 | 9/13 | 13:00 | 19:00 | 6.0 |
18 | 9/14 | 10:00 | 18:00 | 8.0 |
19 | 9/20 | 9:00 | 17:00 | 8.0 |
平均 | 8.3 |
(2)DR期間の節電方法
これまで節電対策を十分に行ってきており、さらなる節電は生活内容を変えることになりますので、今回は生活習慣を変えずに節電を無理なく行える方法をとることとしました。そこで、この対象期間において蓄電池を用いて節電対象時間帯の消費電力量を調整する(節電対象時間外に蓄電池を充電し、対象時間内に蓄電池から給電する)ことで対応することとしました。
下表に用いた蓄電池の仕様を示します。利用した蓄電池はJackery社製のポータブル電源2種類で、蓄電能力は1,000Whと400Whです。1,000Whの電源はAC出力が3基ありますが、利用したのは液晶テレビの電源としての利用のみです。また400Whの電源は仕事用のパソコンの電源としての利用のみでした。
表-4 用いた蓄電池(ポータブル電源)の仕様
項 目 | 内 容 | 外 観 | |
---|---|---|---|
蓄電池1 | メーカー名 | 株式会社Jackery Japan | |
製品名 | Jackeryポータブル電源1000 | ||
定格容量 | リチウムイオン電池 46.4Ah/21.6V(1,002Wh) |
||
出力ポート | AC出力×3:100V,~60Hz,10A,合計1,000W(瞬間最大2,000W) USB-A出力:5V=2.4A USB-C出力×2:5V=3A,9V=2A, 12V=1.5A |
||
蓄電池2 | メーカー名 | 株式会社Jackery Japan | |
製品名 | Jackeryポータブル電源400 | ||
定格容量 | リチウムイオン電池28.05Ah/14.4V(403Wh) | ||
出力ポート | AC出力:100V,~60Hz,2A, 200W(瞬間最大400W) USB出力:5V=2.4A |
下図に蓄電池により調整した消費電力量の一例を示します。下図では蓄電池への充電と給電を棒グラフで、消費電力量を折れ線で表しています。両グラフのスケールは異なりますが、充電・給電は右軸、消費電力量は左軸を使用します。消費電力量の青い線はメータで測定された値であり、赤い線はこれに充電量(-)と給電量(+)を加えた実際の消費電力量を表します。節電対象時間外に蓄電池に充電し、節電対象時間内に蓄電池からの給電によりメータで測定される消費電力量を減らしています。
(3)DR期間の節電結果
DR実施日に蓄電池を用いて電力消費を調整することにより節電を行った結果を下表に示します。同表には節電量を判断するベースラインとなる消費電力パターンと蓄電池からの給電量と蓄電池への充電量も示しています。
表-5 節電量と蓄電池からの給電量、蓄電池への充電量
No | 月/日 | 継続時間 hr | 消費電力の ベースライン | 節電量 kWh | 蓄電池からの 給電量 kWh | 蓄電池への 充電量 kWh |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 7/27 | 10.0 | パターン1 | 0.90 | 0.0 | 0.0 |
2 | 7/28 | 8.0 | パターン1 | 0.53 | 0.40 | 0.95 |
3 | 7/29 | 8.0 | パターン1 | 0.55 | 0.52 | 0.33 |
4 | 8/1 | 9.5 | パターン1 | 0.15 | 0.76 | 0.87 |
5 | 8/2 | 10.5 | パターン1 | 0.25 | 0.87 | 0.62 |
6 | 8/3 | 12.5 | パターン1 | 0.88 | 0.71 | 0.58 |
7 | 8/4 | 9.5 | パターン1 | 0.75 | 0.44 | 0.80 |
8 | 8/9 | 9.5 | パターン2 | 1.08 | 0.51 | 0.43 |
9 | 8/19 | 3.5 | パターン3 | 0.58 | 0.32 | 0.28 |
10 | 8/23 | 1.0 | パターン4 | 0.13 | 0.0 | 0.0 |
11 | 8/31 | 6.0 | パターン5 | 0.35 | 0.36 | 0.25 |
12 | 9/1 | 11.0 | パターン5 | 2.55 | 0.65 | 0.29 |
13 | 9/5 | 10.5 | パターン6 | 1.68 | 0.66 | 0.38 |
14 | 9/6 | 9.0 | パターン6 | 1.50 | 0.61 | 0.82 |
15 | 9/7 | 9.5 | パターン6 | 1.60 | 0.71 | 0.68 |
16 | 9/8 | 8.0 | パターン6 | 1.78 | 0.69 | 0.37 |
17 | 9/13 | 6.0 | パターン7 | 0.48 | 0.44 | 0.66 |
18 | 9/14 | 8.0 | パターン7 | 0.58 | 0.55 | 0.42 |
19 | 9/20 | 8.0 | パターン7 | 1.83 | 0.39 | 0.28 |
合計 | 158.0 | 18.11 | 9.59 | 9.02 | ||
平均 | 8.3 | 0.95 | 0.50 | 0.47 |
DR対象日の節電量と蓄電池からの給電量を下図に示します。蓄電池からの給電量と節電量にはあまり明確な関係は見られません。蓄電池からの給電量が多いと節電量が多いとも言えないことが分かります。これは、節電量を判断する消費電力量のベースラインが異なることが原因していると考えられます。
そのため、下図にベースラインの1日の変動パターンを示します。また、下表に4時間ごとの消費電力量の集計結果を示します。下表には、節電の対象になることが多い「8:00~20:00」と1日合計の消費電力量についても示しています。
表-6 ベースラインとなるパターン別の時間区分別の消費電力量
0-00 -4:00 | 4:00 -8:00 | 8:00 -12:00 | 12:00 -16:00 | 16:00 -20:00 | 20:00 -24:00 | 8:00 -20:00 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
パターン 1 | 0.98 | 1.35 | 1.90 | 2.45 | 2.50 | 1.98 | 6.85 | 11.15 |
パターン 2 | 1.05 | 1.58 | 2.68 | 3.03 | 2.50 | 2.03 | 8.20 | 12.85 |
パターン 3 | 1.03 | 1.55 | 2.53 | 2.20 | 2.35 | 1.55 | 7.08 | 11.2 |
パターン 4 | 0.98 | 1.45 | 2.13 | 1.88 | 2.08 | 1.33 | 6.08 | 9.83 |
パターン 5 | 0.50 | 1.10 | 1.60 | 2.05 | 1.85 | 1.30 | 5.50 | 8.4 |
パターン 6 | 0.50 | 1.05 | 1.48 | 2.10 | 1.65 | 1.13 | 5.23 | 7.9 |
パターン 7 | 0.40 | 0.95 | 1.15 | 1.63 | 1.43 | 1.20 | 4.20 | 6.75 |
ベースラインのパターンは7種類あり、パターン間には非常に大きな相違があることが分かります(パターンの適用日は表-5記載)。東京ガスのベースラインを決める方法は、前述した「High 4 of 5(当日調整なし)」です。当日調整なしですので、当日の消費電力に関係なく直前の4日間の平均値がそのままベースラインとなります。
表-6よりパターン2は消費電力量が大きいため節電効果が高くなり、パターン5から7は逆に消費電力量が小さいため節電効果が低くなることが想定されます。しかし、パターン5から7のベースラインが適用されている9月の節電量は上図の通り比較的大きくなっており、実際はそう単純ではなさそうです。
下図に最も大きな節電量だった9月1日の消費電力量と節電量のグラフを示します。ベースラインと消費電力量は折れ線(左軸)、節電量は棒グラフ(右軸)で示しています。節電量はベースラインを下回る場合のみ積算されます。この日の節電対象時間帯は10時から21時で11時間分がカウントされます。
この日のメータでの測定電力量は6.0kWhであり、蓄電池からの給電量は0.65kWh、蓄電池への充電量は0.29kWhでした(表-5参照)。従って、正味の消費電力量は6.36kWh(6.0+0.65-0.29)です。そして、節電量は2.25kWhですので蓄電池による給電量より1.6kWh(2.25-0.65)多い節電が行われていたことになります。
この日のベースラインはパターン5です。ベースラインが20時ころに大きな消費電力になっているのは、ベースライン対象日の対象時間内に食器洗い乾燥機を稼働させているためです。ベースラインが比較的大きな消費電力となっていることや、電力の使用を節電対象時間外の10時前までに済ませてその後は節電を行っていることから、節電量が比較的に大きくなったと思われます。
一方、下の図はDR開始2日後(7月28日)の消費電力量と節電量を示しています。この日のメータでの測定電力量は15.8kWh、蓄電池からの給電量は0.40kWh、蓄電池への充電量は0.95kWhでした(表-5参照)。DRが始まる午前中に充電していますので11時ころの消費電力量が大きくなっています。
このころはエアコンのコントロール方法について試行錯誤していた時期であり全体の消費電力量が大きくなっています。また、節電に慣れていなかったこともあり、節電対象時間中(13時~21時)にあまり節電できていません。この時のベースラインはパターン1ですが、パターン5と比較しても消費電力量が大きい(表-6参照)にも関らず、節電量(0.53kWh)は大きくありませんでした。
このように節電量はベースラインの消費電力量の大小に加えて、節電行動の熟練度にも関係していると考えられます。なお、蓄電池からの1日の給電量は最大でも0.87kWh、平均0.50kWh(表-5参照)であり、全容量1.4kWhを有効に活用しているとは言えません。今後はこの蓄電池をより効果的に活用することが必要です。
(4)節電によるインセンティブ
経済産業省の推奨に従って、東京ガスのDRメニューは「インセンティブ型DR」です。このインセンティブは節電量に応じたポイントをAmazonギフト券として提供されます。ギフト券は1ポイント1円としてAmazonでの購入に充てることができます。
インセンティブは1kWhの節電に対して、5ポイントが付与されます。そして、以下のようなボーナスポイントが付与されます6)。
●5kWh以上10kWh未満:Amazonギフト券 10円分
●10kWh以上20kWh未満:Amazonギフト券 50円分
●20kWh以上30kWh未満:Amazonギフト券 100円分
●40kWh以上50kWh未満:Amazonギフト券 500円分
●50kWh以上60kWh未満:Amazonギフト券 1,000円分
・・・・・100kWh以上は4,000円です
今回の場合、19日間で18kWhが節電できましたので、Amazonギフト券のポイントは以下の通り140ポイントでした。
節電によるインセンティブ=18kWh×5ポイント/kWh+50(ボーナス)=140ポイント
なお、東京ガスのキャンペーンサイトによると、今回の節電キャンペーンで節電できた電力量は164.5万kWhであったとのことです。現在経済産業省では、別途節電キャンペーンの検討を行っており、その仕組みは2022年度冬に導入される予定です。東京ガスでは2022年度の冬季にも再度実施するとのことですので、冬季の結果についても報告したいと思います。
<参考文献>
1) 資源エネルギー庁:公式Webサイト、政策について、電力・ガス、電力需給対策、デマンド・リスポンス、
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/index.html
2) 経済産業省:2022 年度の電力需給に関する総合対策、電力需給に関する検討会合、2022年6月7日
3) 経済産業省:第50回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会、資料4-3、ディマンド・リスポンスの活用に向けて、2022年5月27日
4) 経済産業省:第51回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会、資料4-3、ディマンド・リスポンスの活用に向けて、2022年6月30日
5) 資源エネルギー庁:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン、2020年6月1日
6) 東京ガス:myTOKYOGAS、夏の節電キャンペーン