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乗用車

乗用車(1)-省エネ性能

 自動車はエネルギーを使って人や荷物を移動させるものです。地球温暖化対策の中では移動手段全体をモビリティと呼んでおり、自動車に加えて鉄道、船舶、航空機も含めて使われています。モビィリティの温室効果ガス排出量は地球温暖化対策計画においても以下のように重要な位置を占めています。

 モビリティ全体のエネルギー消費量は日本全国のそれに対して約22%を占めています(運輸部門の最終エネルギー消費の熱量ベースに基づく)。そして、運輸部門のうちの旅客用の乗用車(貨物を含まない)のエネルギー消費量は日本全国のそれの約11%を占めています。家庭用の全エネルギー消費量が全体の15%程度ですので、乗用車のエネルギー消費量がいかに大きいかが分かると思います1)

 我が国の最新の地球温暖化対策計画によると、運輸部門の二酸化炭素排出量は全体の18.6%を占めています2)。このうち乗用車の二酸化炭素排出量は上記の運輸部門におけるエネルギー消費量の割合から9%程度と見積もっても大きな相違はないものと思われます。そして、2030年の運輸部門の温室効果ガスの排出目標は2019年度比29%減、2013年度比では35%減とされています。

 このように、乗用車のエネルギー消費に伴う二酸化炭素排出量の多さや、2030年までの厳しい削減目標を考慮すると、家庭での乗用車使用における省エネも避けて通れない重要な課題と言えるでしょう。そのため、自動車のエネルギー消費性能(燃費)に関しては政府も自動車の生産者側もこれまで継続的な省エネ対策を行ってきました。

 日本においては次世代自動車または環境対応型自動車を政府が主導して普及を図ってきた経緯があります。その目的は省エネまたは地球温暖化防止だけでなく、排気ガスによる大気環境保全も含まれています。次世代自動車とは、燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、天然ガス自動車、クリーンディーゼル自動車などです3)

 これらの車種は従来のガソリン車と差別化されて導入への補助金や税優遇を受けてきました。そのため、日本においては優遇措置や燃費の面でガソリン車より有利なハイブリッド自動車が急速に普及してきた事情があります。これは、世界的には電気自動車が新たな環境対応型車種として普及の中心になりつつあることと大きく異なっています。

 乗用車は貨物自動車とともに省エネ法の対象29品目の一つです。近年対応する告示も改訂されて車種の対象範囲が広がり2030年までの新たな目標値も決定されています。そこで今回から家庭で使用する乗用車(法律用語では「乗用自動車」です)を取り上げます。その第1回目として、上記の次世代自動車の原理やエネルギー消費における特徴を把握し、新しい省エネ基準を明らかにするとともに、次世代自動車の省エネ性能などを分析していきます。

次世代自動車の原理と特徴

 次世代自動車とは前述したように政府が主導する環境対応型自動車のことで、省エネルギーと排気ガスによる大気汚染防止を目的として指定された以下の車種を言います3)

 ●燃料電池自動車
 ●電気自動車
 ●ハイブリッド自動車
 ●プラグインハイブリッド自動車
 ●天然ガス自動車
 ●クリーンディーゼル自動車

 このうち、天然ガス自動車とクリーンディーゼル自動車は排気ガス規制面と燃費面ではガソリン車より優れていますが、地球温暖化防止の目的からはガソリン車と同種と考えても良いでしょう。そのため、ここでは燃料電池自動車からプラグインハイブリッド自動車までを対象とします。

 なお、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)はハイブリッド自動車の電源を家庭用のコンセントに接続することで充電できるようにしたものであり、ハイブリッド自動車とは構造上の大きな相違はありません。また、電気自動車も最近ではプラグイン(Plug in)のタイプ(PBEV)が販売されていますので、特にプラグインのみを取り上げることはしません。

 燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車の特徴を下表に整理しました4)。燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)は車載の水素と空気中の酸素を反応させて燃料電池で発電し、その電気でモーターを回転させて走るため、電気自動車と類似の駆動原理です。水素と酸素の反応により排出されるのは水だけなので、究極の環境対応型自動車と言われます。しかし、原料となる水素の製造、輸送手段や水素供給インフラの整備が課題です。

表-1 次世代自動車の駆動原理と特徴

車種  駆 動 原 理主要部品   メリット        デメリット   
燃料電池自動車 FCV車載の水素と空気中の酸素を反応させて、燃料電池で発電し、その電気でモーターを回転させて走る。気体水素が主流だが、液体水素、気体水素に改質可能な天然ガス、メタノール・エタノール、ガソリン・軽油等の炭化水素なども燃料としての利用が可能。燃料電池
モーター
高圧水素タンク
●BEVより航続距離が長い
●BEVと異なり充電が不要
●GVと比べて2倍以上のエネルギー効率
●CO2、CO、PMなど有害物を排出しない
●燃料の水素は天然ガス、石油、バイオマスなどから製造可能
●燃料電池の価格が高い
●水素の貯蔵や搬送に高いコストがかかる
●GVほどの航続距離は実現していない
●水素を補給する水素ステーションの整備が必要
電気自動車 BEVバッテリーに蓄えた電気でモーターを回転させて走る。ガソリンやディーゼルのエンジンなどの自動車と比べ構造が簡単で、部品数が少なく部品自体も小型化できるため自動車の小型化が比較的容易。バッテリー
モーター
コントローラー
●走行時にCO2やその他の排気ガスを出さない
●騒音が少ない
●安価な夜間電力などを活用すれば節約出来る
●構造が簡単で部品数が少なく本体の小型化が容易
●1回の充電当りの航続距離が短い
●ガソリン供給に比して充電時間が長い
●リチウムイオン電池のコストが高く、本体価格も高価になる
●受電のためのインフラがまだ整っていない
ハイブリッド自動車 HEV複数の動力源を組み合わせ、それぞれの利点を活かして駆動することにより、低燃費と低排出を実現する自動車。市販されているハイブリッド自動車の多くは、ガソリンやディーゼル等のエンジンと電気や油圧等のモーターの組み合わせ。エンジン
バッテリー
モーター
インバーター
コンバータ
●インフラの整備が不要
●アイドリングをストップすることが出来る
●低速トルクに優れるモーターで効率の良い発進・加速が出来る
●運動エネルギーをモーターより発電して回収が可能なため燃費性能が高い
●外部電源から夜間にバッテリーに充電して低価格化
●有害物質の排出量は削減出来るが、製造や廃棄する時に発生する排出量は他の車両よりも多い可能性がある
●GVよりも車体が重い
●部品数が増えることでシステムが複雑になる
●エンジン使用時はCO2排出量がゼロにならない(バイオ燃料以外の場合)
注)GV:ガソリン車、CO:一酸化炭素、PM:浮遊粒子状物質
出所)文部科学省:次世代自動車エキスパート養成教育プログラム開発事業実証実験授業講座、次世代自動車と自動車社会を取り巻く新技術について

 電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle、ここではEVの中でバッテリーのみで走るものと定義します)はバッテリーに蓄えた電気でモーターを回転させて走る自動車であり、ガソリンやディーゼルのエンジンなどの自動車と比べ構造が簡単で、部品数が少なく、本体を小型化することが可能です。これまで、充電インフラが少ない、充電時間が長い、1回の充電における航続距離が短いなどのデメリットが指摘されてきましたが、プラグインBEVの登場によりそのデメリットは軽減されています。また、航続距離も最近はカタログ値で800kmを超える車種も登場しています。

 ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)は複数の動力源を組み合わせ、それぞれの利点を活かして駆動することにより、低燃費と低排出を実現するものです。HEVの多くはガソリンやディーゼル等のエンジンと電気や油圧等のモーターを組み合わせています。低速トルクに優れるモーターで効率の良い発進・加速が出来ることや、運動エネルギーをモーターにより発電することが可能であるため充電量も少なくなり、ガソリン車に比べて燃費性能が高いことが挙げられます。

 半面、モーターとエンジンの2つを有するため、部品数も多くシステムが複雑になり、重量が重く、製造や廃棄する時に発生する二酸化炭素排出量等は他の車両よりも多くなる可能性があります。また、エンジンが稼働中はガソリンの燃焼によって二酸化炭素の排出をゼロにすることはできません。ただし、脱炭素燃料であるバイオ燃料や合成燃料を使えば排出をゼロにすることは可能です。

 これらの車種の二酸化炭素排出特性を比較するには、製造から輸送、利用、廃棄までのライフサイクルでの評価が必要です。また、今後普及が期待される合成燃料などの技術開発状況にも影響を受けます。これらの評価については後日取り上げることにして、今回は利用段階でのエネルギー消費量、いわゆる燃費に着目して評価していくことにします。

省エネ基準

(1)法規制の改定の経緯と概要

 乗用車の省エネ法に基づく省エネ基準については1999年の制定以来、過去に13回の改定が行われてきました。関連する告示は、「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」です5)。直近の改定は2020年に行われています。新告示の詳細は本サイトの「乗用車のエネルギー消費効率」を参照ください。

 この改定では、これまでガソリン、ディーゼル車のようなエンジンを中心とした車種に加えて、電気自動車やハイブリッド自動車も対象としています(燃料電池車は普及が少ないことで対象にされませんでした)。その結果、従来の燃費であるガソリン1L当りの走行距離が使えなくなり、その燃費の定義を変えることになりました。

 このため、使用される燃料を原料から製品として精製され、輸送される過程での損失も考慮されます。電気の場合は発電効率、送配電効率も考慮されて評価されます。このようにして電気と燃料のエネルギー消費の基準を統一して評価できるようになりました。

 また、これまで燃費の測定に使われてきたテストモードである「JC08モード」から世界的に使われている「WTLCモード」を中心に使用することに変更されました。このモードの変更とともに、燃費の表示が1つではなく、走行状況の違いによる4つの燃費の表示が義務付けられることになりました。

 ●WLTCモード燃費値(下記の3つのモードを総合化したもの)
 ●市街地モード燃費値
 ●郊外モード燃費値
 ●高速道路モード燃費値

 ここで、市街地モードは渋滞が発生して低速走行となる場合、高速道路モードは高速で走行する場合を想定しています。そして、省エネ法の精神に則りトップランナー方式により省エネ基準が決められています。厳しい省エネ基準となっているため、目標年度はリードタイムをもって2030年度とされています。

(2)対象範囲と目標年度

 対象範囲はこれまでのエンジンのみの車両に加えて、電気自動車とプラグインハイブリッド自動車が加わりました。

 ●特定ガソリン乗用自動車、ディーゼル乗用自動車、特定LPガス乗用自動車
 ●プラグインハイブリッド乗用自動車
 ●電気乗用自動車

 目標年度については、従来から対象とされている自動車は2020年度と2030年度の2つの目標が設定されており、新たに対象となった自動車は2030年度が目標となっています。

〈特定ガソリン乗用自動車・ディーゼル乗用自動車・特定LPガス乗用自動車〉
 ●2020年度以降の各年度(2029年度まで)
 ●2030年度以降の各年度

〈プラグインハイブリッド乗用自動車、電気乗用自動車〉
 ●2030年度以降の各年度

(3)省エネ基準

①目標年度が2020年度以降の各年度(2029年度まで)のもの

 2020年度までは燃料を使用する自動車が対象ですので、従来と同じ燃費すなわち、燃料1L当りの走行距離をkmで表した値(km/L)であり、その基準値が下表の通り厳しくなりました。

表-2 乗用自動車の省エネ基準(2029年度まで)

 区    分基準エネルギー消費効率 (km/L)
車両重量が741kg未満のもの24.6
車両重量が741kg以上856kg未満のもの24.5
車両重量が856kg以上971kg未満のもの23.7
車両重量が971kg以上1,081kg未満のもの23.4
車両重量が1,081kg以上1,196kg未満のもの21.8
車両重量が1,196kg以上1,311kg未満のもの20.3
車両重量が1,311kg以上1,421kg未満のもの19.0
車両重量が1,421kg以上1,531kg未満のもの17.6
車両重量が1,531kg以上1,651kg未満のもの16.5
車両重量が1,651kg以上1,761kg未満のもの15.4
車両重量が1,761kg以上1,871kg未満のもの14.4
車両重量が1,871kg以上1,991kg未満のもの13.5
車両重量が1,991kg以上2,101kg未満のもの12.7
車両重量が2,101kg以上2,271kg未満のもの11.9
車両重量が2,271kg以上のもの10.6
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

②目標年度が2030年度以降の各年度のもの

 2030年度からプラグインハイブリッド自動車、電気自動車が加わります。2030年度以降の省エネ基準(基準エネルギー消費効率)の指標は同じく燃費ですが、表-2とは異なって重量のステップ別に設定されるのではなく連続的に算定することとなりました。下表に示すように車両重量の2次関数で算定されます。

表-3 乗用自動車の省エネ基準(2030年度以降)

 下図に新基準と旧基準の比較を示します。新基準は旧基準と比較して車両重量が2,300kgまでは平均して5km/L程度厳しくなっています。旧基準は2,271kg以上は一定なので車両重量が2,700kgを超えると新基準の方が小さな値となる逆転現象が見られます。

 自動車の種類別のエネルギー消費効率の算定方法は下表の通りです。表中のWLTCモード燃費とはWLTP(国際調和排出ガス・燃費試験法:Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)におけるテストサイクル(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)によって測定された燃費を指します。

表-4 車種別のエネルギー消費効率の算定式

   種 類   エネルギー消費効率
特定ガソリン乗用自動車 WLTCモード燃費値
ディーゼル乗用自動車 WLTCモード燃費値を1.1で除した値
特定LPガス乗用自動車 WLTCモード燃費値を0.74で除した値
プラグインハイブリッド
乗用自動車
 WLTCモード走行時の数値を用いて以下の式により算出した値
 エネルギー消費効率
 =1/[UF(RCD)×{1/FeCD+1/(6.75×RCD/E1)}+{1-UF(RCD)} /FeCS]
  UF(RCD) :プラグインレンジに応じて算出される係数
  FeCD:プラグイン燃料消費率(km/L)
  FeCS:ハイブリッド燃料消費率(km/L)
  E1:一充電消費電力量(kWh/回)
  RCD:外部充電による電力によってWLTCモードで走行できる最大距離(km)
電気乗用自動車 WLTCモード走行時の数値を用いて以下の式により算出した値
 エネルギー消費効率 = 6750/EC
  EC:交流電力量消費率(Wh/km)
出所)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号

 電気自動車とガソリン等を燃料とする自動車との比較を可能にするため、新燃費では旧燃費のTank-to-Wheel (TtW)評価に代えてWell-to-Wheel(WtW)評価でエネルギー消費効率(WtW 燃費値)を算定します。これは、エネルギー消費量をエネルギーの製造段階に遡って評価するものです。具体的には電気の場合は発電及び送配電の効率、燃料の場合は精製効率、輸送効率等をTtW燃費に乗じてWtW燃費を算定します。

 そして、旧燃費との連続性を確保するため、ガソリン自動車のエネルギー消費効率が旧燃費のTtW 評価によるエネルギー消費効率と同じになるよう、WtW 評価によるエネルギー消費効率をガソリンの精製効率、輸送効率等で除した値を新燃費基準におけるエネルギー消費効率とし、単位はkm/Lとしています。このことにより、新燃費でも旧燃費と同様の指標で評価することができます(詳細は本サイトの「乗用車のエネルギー消費効率」を参照ください)。

 なお、上記で示された電気自動車及びハイブリッド自動車のエネルギー消費効率を算定する際に用いられる電気の総合効率は71.4%(発電効率と送配電効率を乗じたもの)を用いています。一般的には火力発電の発電効率は最大でも55%程度であり送配電ロスもありますので、この総合効率値は再生可能エネルギーなどの普及を前提としています6)

 この総合効率値は参考文献6に記載があるように、第5次エネルギー基本計画で設定された2030年の電源構成の目標値を基に計算されたものです。すなわち、電源の割合が化石燃料56%、非化石燃料44%です。現状の電源構成では化石燃料が8割程度であり、また第6次エネルギー基本計画の2030年の電源構成の目標値は化石燃料41%ですので、それを考慮して評価しておく必要があります。

 つまり、日本においては電気自動車及びハイブリッド自動車のエネルギー消費効率は、現状では過大評価する(燃費を高く見過ぎる)ことになるということです。また、2030年を想定した場合(電源構成が第6次基本計画の目標通りに達成した場合)では逆に過小評価されることになるということです。

車種別のエネルギー消費特性の比較

 ここでは、国内メーカー製造の乗用車のエネルギー消費の状況を把握します。国土交通省に登録された車両について車両重量とエネルギー消費効率(以下、燃費と称します)の関係を下図に示します。同図では車種を色で区別してプロットしており、また2030年度の省エネ基準(基準エネルギー消費効率)についても示しています7)。なお、本データはガソリン自動車(ハイブリッド自動車を含みます)のみを対象としています。

 同図から分かるように車両重量が重いほど燃費は低下しています。多くの車両が2030年度の基準を満たしていないことが分かります。しかし、ハイブリッド自動車の燃費は他の車種に比べて高く、その中には2030年度燃費基準を既に満たしているものもあります。

出所)国土交通省:公式Webサイト、政策・仕事、自動車、自動車燃費一覧(令和4年3月)

 国土交通省の報道発表資料より、燃費の良い乗用車(普通・小型車部門)のベスト10を下表に示します8)。上位10車のうち7車種がトヨタであり、他はホンダが2車種、ニッサンが1車種ランキングされています。1位のヤリスの燃費は36km/Lであり、2020年度燃費基準の達成率は153%、2030年度燃費基準の達成率も133%となっています。10位までの車種は全てハイブリッド自動車であり、全て2030年度燃費基準を達成していることが分かります。

表-5 乗用車の燃費の上位10車種

順位 社名通称名車体重量
(kg)
燃費値
(km/L)
2020年度
基準達成率 (%)
2030年度
基準達成率(%)
1トヨタヤリス105036.0153133
2トヨタアクア108035.8152133
3トヨタプリウス132032.1168127
4トヨタヤリス クロス116030.8141117
5トヨタカローラ スポーツ136030.0157120
6日産ノート119029.5135113
7ホンダフィット118029.4134112
8トヨタカローラ1330~135029.0152115~116
トヨタカローラ ツーリング1350~137029.0152116
10ホンダインサイト137028.4149114
注)上記の燃費はWLTCモードです。
出所)国土交通省:公式Webサイト、報道・広報、報道発表資料、自動車の燃費ランキング

 国土交通省の統計では電気自動車は掲載されていません。そのため、メーカー資料から電気自動車のエネルギー消費特性を把握し、ガソリン自動車(ハイブリッド自動車を含む)と比較します。電気自動車の一例として日産Leaf、日産AriyaB6、トヨタbZ4X(FWD)、ホンダe Advance、三菱自動車eK X-EVの各車種別の基本諸元を下表に示します9)10)11)12)。車両重量は1,080~1,920kgであり、表-5に示した車種よりもやや重いことが分かります。

表-6 電気自動車の基本諸元

項目 / モデル名Leaf XAriya B6
bZ4X (FWD)e AdvanceeK X-EV
メーカー日産日産トヨタホンダ三菱自動車
寸法全長 mm4,4804,5954,6903,8953,395
全幅 mm1,7901,8501,8601,7501,475
全高 mm1,5651,6551,6501,5101,655
重量・定員車両重量 kg1,6701,9201,9201,5401,080
乗車定員 人55544
車両総重量 kg1,9452,1952,1951,7601,300
燃費性能交流電力量消費率 Wh/km161166128138124
 市街地モード Wh/km137159113116100
 郊外モード Wh/km150170121130113
 高速道路モード Wh/km179176140149142
一充電走行距離 km450470559259180
バッテリー種類リチウムイオン電池リチウムイオン電池リチウムイオン電池リチウムイオン電池リチウムイオン電池
総電圧 V350352355.2355.2350
総電力量 kWh60.066.071.420.0
電動機
モーター
種類交流同期電動機交流同期電動機交流同期電動機交流同期電動機交流同期電動機
定格出力 kW8545736020
最大出力 kW11016015047
省エネ性能エネルギー消費効率 km/L41.940.752.748.954.4
省エネ基準 km/L22.319.919.923.526.8
省エネ達成率 %187204264208202
出所)各車両のスペック及び下の写真は日産、トヨタ、ホンダ、三菱自動車の公式Webサイトから。

 表-6では交流電力量消費率(電費)も示しています。この値は1kmを走行するのにかかる電力量(Wh/km)を表したもので、小さいほど省エネ性能が高いことになります。三菱自動車eK X-EVが124Wh/km、トヨタbZ4X(FWD)が128Wh/kmと高い性能を示しています。ただし、eK X-EVはbZ4Xに比して重量が非常に軽いので単純に比較はできません。

 次に、この電費からエネルギー消費効率を算定した結果を省エネ性能欄に示しています。さらに、車両重量から算定された省エネ基準(基準エネルギー消費効率)、それらから算定される省エネ基準達成率も示しています。一例として日産Leaf Xの計算過程を示します。

 燃費(エネルギー消費効率)=6,750/161=41.9km/L
 省エネ基準=-0.00000247×1,670-0.000852×1,670+30.65=22.3
 省エネ基準達成率=41.9/22.3=1.87 (187%)

 上記の計算で燃費(エネルギー消費効率)は表-4に示す算定式を、省エネ基準は表-3に示す算定式を使用しています。この計算結果から日産Leaf Xの燃費は41.9km/Lであり、ハイブリッド自動車の最高燃費である36.0km/Lを上回っています。また上表からは、トヨタbZ4Xの燃費が最も高く52.7km/Lであり、省エネ基準達成率は264%であることが分かります。

 参考に、ガソリン車の代表としてトヨタのヤリスYaris(型式5BA-MXPA10)のガソリン車の燃費を調べると21.6km/L7)でした(車体重量は990~1,030kg)。この燃費は他のガソリン車と比べても性能が良い方ですが、電気自動車、ハイブリッド自動車と比べるとかなり低い値です。

 電気自動車、ハイブリッド自動車、ガソリン自動車の燃費及び省エネ基準達成率を比較したものを下図に示します(ガソリン車の省エネ基準は2020年度、それ以外は2030年度です)。電気自動車はトヨタbZ4Xと日産Leaf e+Xを示しています。また、ハイブリッド自動車はランキング1位のトヨタYarisと10位のホンダInsightを示しています。この図から電気自動車の燃費はハイブリッド自動車の1.3~1.8倍、ガソリン車の2倍以上であることが分かります。

 なお、上記の燃費はそれぞれの車種のスペック上の性能を使って計算したものです。電気自動車の場合はエアコンをつけると燃費は大きく低減し、冬期の寒冷地ではこの数値は期待できないと思われます。また、前述した通り電力の電源構成を化石燃料56%を前提に計算したもののため、現状とは異なることに留意しておく必要があります。

おわりに

 今回は家庭で使用される乗用車を取り上げて、そのエネルギー消費の傾向と省エネ対策としての次世代自動車の省エネ特性を分析してきました。

 まず、次世代自動車として燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車の特徴を整理しました。燃料電池自動車は車載の水素と空気中の酸素を用いて燃料電池により発電しモーターで走行します。走行時の排出は水だけなので環境面では最良のエネルギー消費と言えますが、水素の製造、輸送等のコストや供給インフラの整備に課題がありました。

 電気自動車は車載のバッテリーから電気を供給して、モーターで走行します。システムが単純で部品も少なく小型化が図れますが、バッテリーの充電能力が小さく、充電時間が長いなどガソリン車に比較して課題とされてきました。

 ハイブリッド自動車は燃料と電力の2つのエネルギーを利用して走行するものです。エンジンとモーターの両方を搭載し、複雑なシステムにより車両を制御します。そのため、装置や部品も多くなり、車両の重量が重くなり、製造や廃棄過程などでの排出物が多いと想定されています。

 次に、乗用車は省エネ法の対象となっており、省エネ基準が決められています。2020年に最新の改定が行われ、これまでのガソリン車等に加えて、電気自動車やハイブリッド自動車も対象となりました。その結果、省エネ基準の指標であった燃費(ガソリン1L当りの走行距離)を拡張した定義に変更されました。

 具体的には電気に関する燃費については、発電段階からのエネルギー消費に関する効率性を評価することにし、その効率は第5次エネルギー基本計画の電源構成を基に設定されました。電気自動車と燃料を使用する自動車との比較を行う場合はそれを考慮する必要があります。

 新基準は2020年と2030年の2つの目標年度を持ち、新たに加わった電気自動車やハイブリッド自動車は2030年度の目標のみになっています。また、新基準値の燃費の試験方法はWLTCモードとされ、燃費の表示も走行モードの違いによる4種の燃費が表示されることとなりました。

 国土交通省の公表資料から自動車のエネルギー消費傾向を把握したところ、多くの車種が2030年省エネ基準を満たしていませんが、ハイブリッド自動車の中では既に満たしているものもあります。この基準によりガソリン車は電気自動車やハイブリッド自動車に移行していくものと思われました。

 エネルギー消費性能が高い電気自動車の燃費をメーカー資料から把握すると、ハイブリッド自動車の1.3~1.8倍、ガソリン車の2倍以上であることが分かりました。ハイブリッド自動車はエンジン稼働中は二酸化炭素を発生することになりますので、温室効果ガスの削減という面では電気自動車に劣ります。

 日本では、自動車業界のトップであるトヨタがハイブリッド自動車の開発、製造に注力してきたため、政府の補助、税優遇もあってハイブリッド自動車は急速に普及してきました。しかし、世界の動向はガソリン車から電気自動車に移行していく傾向にあります。

 長いエンジン自動車の使用に比べて電気自動車の使用は始まったばかりです。蓄電池の寿命など電気自動車には不確実な部分があります。また、合成燃料の普及への期待もあり、ハイブリッド自動車がまだまだ活躍する余地も残されており、電気自動車との優劣は現状では付けられません。今後は、これらの乗用車のライフサイクル全体における温室効果ガス排出に関する評価により選択されていくものと考えられます。

<参考文献>
1)資源エネルギー庁:2020年度におけるエネルギー需給実績(確報)、2022年4月
2)地球温暖化対策計画、2021年10月22日、閣議決定
3)環境省・経済産業省・国土交通省:次世代モビリティガイドブック、2019-2020
4)文部科学省:次世代自動車エキスパート養成教育プログラム開発事業実証実験授業講座、次世代自動車と自動車社会を取り巻く新技術について
5)1999年通商産業省・運輸省告示第2号(制定)「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等」、最終改定2020年経済産業省・国土交通省告示第2号
6)資源エネルギー庁:総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会、省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ・交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会合同会議 取りまとめ(乗用車燃費基準等)、2019年6月25日
7)国土交通省:公式Webサイト、政策・仕事、自動車、自動車燃費一覧(令和4年3月)
8)国土交通省:公式Webサイト、報道・広報、報道発表資料、自動車の燃費ランキング
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000263.html
9)株式会社日産:公式Webサイト、Leaf、Ariya主要装備一覧/諸元表
10) トヨタ自動車株式会社:公式Webサイト、bZ4X、主要装備諸元
11)本田技研工業株式会社:公式Webサイト、e Advance、主要装備諸元
12)三菱自動車株式会社:公式Webサイト、eK X-EV、主要装備諸元