冷蔵庫の省エネ技術
冷蔵庫の省エネ技術について表-1に示しています。その主要な技術としてインバータ制御と断熱材の向上といった対策があります1)(表-1)。
まず、インバータ制御について説明します。一般的にポンプやコンプレッサーなどの機器は、流量または風量を調節するのに台数を変えたり、バルブまたはダンパにより流量を絞って運転します。しかし、この制御方法では必要な動力は大きく減らすことはできません。例えば、ダンパを使って流量を60%まで低減させる場合の動力は76%程度必要です。これは、ダンパでの制御は動力の損失が大きいためです。しかし、インバータを使ってポンプ等の回転数を調節する場合、流量を60%まで低減させる場合の動力は25%で済むのです(表-1の左側)。このため、インバータを利用したポンプやコンプレッサーを有する家電製品は省エネが可能となるのです。インバータを導入できる家電製品は、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などです。冷蔵庫はインバータの導入により大幅に消費電力を削減してきました。
表-1 冷蔵庫の省エネ技術
省エネ対策 | インバータ制御 | 断熱材 |
---|---|---|
省エネの 仕組み | コンプレッサーなどの回転数を変化させ効率よく運転する技術。庫内の温度に応じて冷却能力を効率良く制御し、省エネを行う。 | 断熱効果の高い高性能断熱材の仕様により、庫外からの熱の侵入を防止し、コンプレッサー等の運転を軽減させて省エネを行う。 |
説明図 |
さらに省エネを達成するために冷蔵庫の壁に高性能断熱材を導入して熱の侵入を防ぎ、コンプレッサーの負担を減らすことも行っています。表-1に示すように、従来の発泡断熱材に加えて真空断熱材を外壁側に配して断熱効果を高めています。断熱材が厚くなると冷蔵庫の貯蔵容積が小さくなるため断熱材を薄くする手法や、高性能の断熱効果を持つ素材を開発するなどが行われています。
インバータの省エネ効果
ここでは資源エネルギー庁の省エネポータルサイトの省エネ型機器情報サイトから取得したデータを用いてインバータの省エネ効果を分析します2)。前報告で冷蔵庫のエネルギーに影響を与えるのは貯蔵室の容積を設定温度を考慮して調整した「調整内容積」であることが分かりました(「冷蔵庫①-省エネ性能」を参照)。 そのため、この「調整内容積」と消費電力量の関係を見ていきます。
また、冷蔵庫は冷却の仕方や定格内容積の大きさにも影響しており、基準エネルギー消費効率を設定する際には以下の3つに分類していました(経済産業省告示)。
a. 自然対流方式
b. 冷気強制循環方式、定格容積 375L以下
c. 冷気強制循環方式、定格容積 375L 超
ここでは、これらの分類に従って消費電力量の傾向を見ていくことにします。そして、これらの同一条件の下で省エネに最も有効なインバータ制御の有無の影響について把握します。
まず、下表に冷蔵庫のタイプ別のインバータ制御の有無について年度別に集計したものを示します。インバータは2016年の64.5%から2021年には79.3%と増加してきました。これに伴って冷蔵庫の消費エネルギー全体は低減してきていることが推測されます。
表-2 冷蔵庫のインバータ制御製品の推移
2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
タイプa | 全製品数 | 32 | 14 | 38 | 67 | 44 | 23 |
インバータ有 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
普及率(%) | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 4.3 | |
タイプb | 全製品数 | 89 | 97 | 99 | 114 | 153 | 34 |
インバータ有 | 32 | 48 | 45 | 74 | 98 | 19 | |
普及率(%) | 36.0 | 49.5 | 45.5 | 64.9 | 64.1 | 55.9 | |
タイプc | 全製品数 | 130 | 133 | 93 | 171 | 162 | 127 |
インバータ有 | 130 | 133 | 89 | 171 | 162 | 126 | |
普及率(%) | 100.0 | 100.0 | 95.7 | 100.0 | 100.0 | 99.2 | |
合計 | 全製品数 | 251 | 244 | 230 | 352 | 359 | 184 |
インバータ有 | 162 | 181 | 134 | 245 | 260 | 146 | |
普及率(%) | 64.5 | 74.2 | 58.3 | 69.6 | 72.4 | 79.3 |
(閲覧日2021年7月29日)の登録データより集計。
これを冷却タイプ別に詳しく見ると、タイプaの冷蔵庫はほとんどインバータが搭載されていません。このタイプは冷気を自然に対流させるものであり庫内も容積が小さいため、価格を抑えるため制御装置をつけにくいことが原因と思われます。一方、タイプcは逆にほとんどがインバータが搭載されています。これは冷気を強制的に循環させるタイプで、定格容積も375L超で大きく、電力を多く消費するために、インバータの制御が強く求められるためでしょう。そして、タイプbはその中間であり、インバータの有無が36%から65%の間で変動しています。375L以下の冷蔵庫はインバータ搭載かどうかに留意して機種選びをすることが必要です。
次に、最新の冷蔵庫について、冷却タイプ別に調整内容積と消費電力量の関係を図示したものを下図に示します(ここではエネルギー庁のデータのうち、2020年と2021年に更新された製品のデータを対象としています)。
冷蔵庫タイプaは調整内容積が50Lから250Lの範囲にあり、消費電力量は概ね100kWh/年から300kWh/年の範囲にあります。調整内容積が大きくなると消費電力量も大きくなっています。図中に回帰式を示していますが、インバータがついていないためこの傾きは比較的大きく、調整内容積がさらに大きくなると消費電力量もかなり大きくなります(例えばこの回帰式を使えば、調整内容積が400Lの場合は消費電力量は460kWh/年となり、タイプbの消費電力量を大きく超えます)。
一方、冷蔵庫タイプbのインバータ無しとインバータ有りのケースを比較すると、回帰式の傾きがインバータ無しの方が傾きが大きくなっています。インバータ有りのケースで調整内容積が大きくなっても、消費電力量の増加はそれほど大きく変化していないのは、インバータの省エネ効果と考えられます。
さらに、冷蔵庫タイプcのグラフは回帰式が作成できないほど分布傾向が明確ではありません。このケースはインバータがほとんどついているので、このばらつきは他の要因(例えば真空断熱方式の採用の有無など)によるものと考えられます。
定格内容積と消費電力
次に、冷蔵庫の容量または容積(ここでは調整内容積ではなく、家電製品を購入するときの製品表示にある定格内容積を用います)と消費電力の関係を見ていきます。下表に冷却タイプ別の定格容積別の平均消費電力量と省エネ型と思われる上位5種の平均消費電力を示しています。
下表にあるように、冷却タイプa(自然対流方式)は定格内容積が200L未満と小さいため、消費電力量も少なくなっています。しかし、定格内容積が大きくなると冷却タイプbの省エネタイプの機種よりも大きな消費電力となっています。
冷却タイプb(冷気強制循環方式、 375L以下)を見ると、定格内容積が大きくなるにつれて平均消費電力も省エネ型の平均消費電力も大きくなっていますが、その差は比較的小さいと言えます。具体的には、「定格内容積350L以上」の平均消費電力は 「定格内容積100L以上150L未満」 の1.2倍程度です。容積は2倍以上になっていても消費電力の差は2倍とはなっていません。
冷却タイプc(冷気強制循環方式、375L超)を見ると、これまでとやや傾向が異なっており、定格内容積が大きくなっても平均消費電力量及び省エネタイプの平均消費電力量は増加傾向は明確ではありません。大容量の冷蔵庫は製品によって省エネの対策が大きく異なっている可能性があり、単に定格内容積に比例して消費電力量も増加しないという傾向があるように思われます。
さらに、各タイプの省エネ型の消費電力は、同じタイプの製品全体の平均消費電力量の1割から3割程度低下した値となっています。平均との差がこれだけなので、製品全体でみる場合、省エネタイプとそうでないタイプの機種は大きな差があるものと思われます。これらの傾向を把握したうえで、価格との総合評価をしながら、製品の購入を考えることが必要です。
表-3 冷却タイプ、内容積別の消費電力量の集計
タイプ | 定格内容積 (L) | 製品数 (個) | 平均消費電力 (kWh/年) | 省エネ上位5種 平均消費電力 (kWh/年) |
---|---|---|---|---|
a (冷気自然対流方式) | 40L以上50L未満 | 65 | 127.2 | 104.2 |
50L以上100L未満 | 87 | 212.5 | 136.2 | |
100L以上150L未満 | 56 | 247.2 | 182.4 | |
150L以上200L未満 | 12 | 288.2 | 279.0 | |
b (冷気強制循環方式、 定格内容積375L以下) | 100L以上150L未満 | 69 | 306.2 | 232.0 |
150L以上200L未満 | 112 | 310.8 | 256.4 | |
200L以上250L未満 | 30 | 318.6 | 296.0 | |
250L以上300L未満 | 61 | 366.6 | 320.0 | |
300L以上350L未満 | 130 | 352.8 | 325.0 | |
350L以上 | 187 | 372.3 | 330.0 | |
c (冷気強制循環方式、 定格内容積375L超) | 400L以上450L未満 | 132 | 310.7 | 249.6 |
450L以上500L未満 | 250 | 273.0 | 231.4 | |
500L以上550L未満 | 199 | 276.5 | 223.8 | |
550L以上600L未満 | 94 | 282.0 | 233.4 | |
600L以上700L未満 | 124 | 299.1 | 243.8 | |
700L以上 | 15 | 308.9 | 292.6 |
冷蔵庫の消費電力の測定結果
実際に冷蔵庫の消費電力を計測した結果を下図に示します。ここでは東芝の2020年製VEGETA(庫内容量465L、型番GR-S470-GZ、定格消費電力86W)の消費電力を測定しました。なお、本製品の省エネ性能は、年間消費電力量235kWh/年、省エネ基準達成率112%、多段階評価値「4.3」です。
全体的に20W以下の消費電力ですが、扉を開閉するときに、電動で開閉するため大きな電力となっています。周期的に消費電力が変動しています(4Wと13Wを行き来している)。測定当日は7月末であり、室内気温は25℃以上です。定格消費電力は86Wですので、非常に低い消費電力と言えます。
本製品のスペックである年間消費電力量は235kWhですので、1時間平均の消費電力は27Wと計算されるので、条件によっては高い電力消費となるものと思われます。現在の冷蔵庫の使い方として、扉の開閉も少なく庫内の食品も少ないため、比較的少ない消費電力となっていると考えられます。
まとめ
冷蔵庫もエアコンと同じように冷媒を用いた蒸気圧縮冷凍サイクルにより飲食物を冷却します。冷蔵庫の主要な動力は圧縮機であり、コンプレッサーがその役割を果たします。この動力をいかに省エネするかが主要な課題になりますが、その大きな省エネ効果をもたらすものとしてインバータ制御があります。インバータ制御はこれまでコンプレッサーのON-OFF制御だったものを回転数制御により大きな省エネ効果を生み出すものです。
現在、販売されている冷蔵庫について資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトのデータを集計しました。自然対流方式の小型冷蔵庫はインバータ制御を搭載していないため、冷蔵庫の容積が大きくなると消費電力も大きくなります。冷気強制循環方式の小型のもの(375L以下)は、インバータの搭載機種と搭載されていない機種が混在しており、大型のものはほとんどがインバータが搭載されています。これらを参考にインバータ搭載の冷蔵庫を選択することが省エネの上で有効です。
また、製品に表示されている定格内容積と消費電力量の傾向を把握し、平均的な消費電力量と高い省エネ性能を持つ製品(上位5種)の平均消費電力を整理しました。上位5種の平均消費電力量は容積規模別平均の1割から3割小さい傾向にあり、それを考慮して購入を検討すべきと考えられました。
<参考文献>
1)一般社団法人日本電気工業会、製品分野別情報、電気冷蔵庫、省エネのポイント https://www.jema-net.or.jp/Japanese/ha/reizouko/knowledge3.html、閲覧日2021年7月30日
2)経済産業省、資源エネルギー庁、省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、「電気冷蔵庫」(閲覧日2021年7月29日)
省エネ型製品情報サイト (seihinjyoho.go.jp)