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COP27の結果報告-結果の概要

 ※Title photo by UNFCCC_COP27

 今年の気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)はエジプトのシャルム・エル・シェイクで2022年11月6日に開会し、18日の閉会予定を2日延長して20日に閉会しました。世界197か国、約120人の首脳が集結し、参加者は政府関係者だけでなく民間企業やNGOなども併せて4.5万人が参加しました。日本からは11月14日から西村環境大臣が閣僚級会合や二国間協議に出席したほか、エジプト政府の招きで小池東京都知事も参加しています1)

 前回のCOP26では気温上昇を1.5℃に抑えることが実際の目標と認識され、パリ協定における残された第6条のルールブックに関する合意がなされました。日本が進める二国間クレジット事業(JCM)の実質的な裏付けが得られた意義のある会議でした(詳細は本サイトの「COP26結果報告(1)-結果の概要」「COP26結果報告(2)-パリ協定第6条」を参照ください)。

 COP27の前に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、約束されている全てのNDC(国家が決めた貢献)を足し合わせても、今世紀中の地球の気温上昇を1.5℃に抑えることが難しいと指摘されていました。そのため、今回のCOPでの各国の首脳参加のもとでNDCにおける削減目標をどの程度上積みできるのかに注目が集まっていました。

 一方、2022年は地球上のあちこちで洪水や干ばつによる森林火災などの自然災害が発生しました。中でもパキスタンの洪水は国土の1/3が浸水し、3,300万人が被災するという大規模なものでした。欧米の気候学者の国際研究チーム「ワールド・ウエザー・アトリビューション」によると、地球温暖化の影響でこの地域の雨量が最大75%増えていたということです2)

 その流れを受けて始まった今回のCOPでは、多くの気候に脆弱な国からの「損失と損害」(Loss and damage)への基金の設立に関する要求が出されました。温暖化への緩和と適応に関する支援に限定したいとする先進国との協議が難航し、会期が延長される結果となりました。結局、欧州連合(EU)の提案で、対象を温暖化に脆弱な国に限定した基金の設立が採択され、詳細は次回のCOP28で協議することになりました。

 以下では、会合の始まる前に期待されたことがどの程度進展したのかについて見ていきます。

期待されていた成果

(1)緩和の削減目標の強化

 昨年のCOP26で決定されたCOP27での課題を抜粋すると以下の通りです3)

 ● 2030年削減目標の見直し・強化を求める
 ● 「緩和の野心及び実施の規模を緊急に拡大するための作業計画」(MWP)の採択
 ● 2030年までにメタンなどの非CO2温室効果ガスの削減を検討するよう奨励
 ● 対策がとられていない石炭火力の段階的削減や非効率な化石燃料補助金の段階的廃止

 世界の平均気温は既に約1.1℃上昇しており、これまでにパリ協定の締約国が表明した温室効果ガスの削減目標(NDC)や対策は十分ではありません。COP26でまとまった「グラスゴー気候合意」は、締約国に対し「2022年末までに2030年までの温室効果ガス削減目標を再検討または強化する」ことを求めていました。COP27は国ごとの削減目標や対策を「野心的に」強化することが議題となる予定でした。

 COP26閉会以降COP27開始前(2022年10月20日時点)までにNDCを提出または再提出したのは24か国でした3)。COP26の開始前、会期中に提出した国が124か国であったのに比べると非常に低調な結果となっており、COP27の会期中にどの程度の削減目標を上積みできるかが注目されていました

 同時に、緩和の野心及び実施の規模を緊急に拡大するための作業計画、すなわち緩和作業計画(MWP:Mitigation Work Programme)の採択についても求められていました。これは、削減目標を単なる目標に終わらせないための具体的な行動を盛り込んだ計画書となるものです。

 さらに、対策がとられていない石炭火力の段階的削減や非効率な化石燃料補助金の段階的廃止などの強化も注目されていました。これは前回のグラスゴーのCOPで議長国であるイギリスがこだわったものでした。前回の協議では、対策がとられていない石炭火力の「段階的廃止」を「段階的削減」に矮小化されたとして失望感が広がっていたこともあり、今回それらがどう強化されるかが課題でした。

(2)議長国エジプトの提出したテーマ

 議長国エジプトは途上国の立場や懸念を強く反映し、以下の5つの優先課題を掲げました4)

 ● 「適応」を着実に実現していくこと。
 ● 「損失と損害」への具体的な行動を起こすこと。
 ● 「資金の流れ」を現実のものとすること。
 ● 円滑で「公正な移行」(Just transition)を進めること。
 ● 「気候行動を絶えず前進」させていくこと。

 「適応」(Adaptation)はCOP26でも重要課題として扱われていたテーマでした。また、古くて新しいテーマともいえる「損失と損害」(Loss and damage)が協議の中心として加わることになりました。地球温暖化において重要な用語である、「緩和」(Mitigation)、「適応」、「損失と損害」は下図の通り解釈されます5)

出所)椎葉 渚:COP27の焦点 「適応・損失と損害」、COP27直前ウェビナーシリーズ(No.1)、地球環境戦略研究機関(IGES)を基に作図

 すなわち、「緩和」とは二酸化炭素排出量を削減して気温上昇を抑えることであり、カーボンニュートラルを目指すことを意味します。「適応」は現状では気温上昇による影響は避けられない国や地域があるため、その影響への適応策を強化するために途上国を支援することを意味します。「適応」には、洪水の防御や被害の軽減策、さらに干ばつによる水資源、食糧への影響の軽減、森林火災のための対策などが含まれます。

 そして、「損失と損害」はそのような努力をしてもなお避けられない被害への対応を意味します。「緩和」や「適応」が十分であれば「損失と損害」は軽減されますが、それらがいずれも十分でない場合には大規模な「損失と損害」が生じます。パキスタンの事例から現在の状況はそれを座視できない段階であるということを意味していると判断されます。

 「損失と損害」のテーマは近年始まったものではなく、かなり昔から提示されていました。特に海面上昇によって生じる損失や損害の補償を求める小島嶼国連合(AOSIS)から繰り返し主張されてきました。これまで温室効果ガスを大量に排出し続けてきた先進国に対し、その「責任と補償」を求めてきたものです。しかし、先進国は「損失と損害」を「責任と補償」問題へと発展させることは受け入れがたく、このことを積極的に取り上げることを避けてきたと言われています6)

 しかし、COP21で合意されたパリ協定ではこの「損失と損害」を第8条に明記しました。ただし、第8条の条文中には「責任と補償」の文言を記載しないことで合意されました。そして、COP25で「損失と損害」への取り組みに対する技術支援の目的で「サンチアゴネットワークが」設置され、COP26でその機能、運用形態が決定され、この活動に対して資金提供を行うことが合意されました6)。これらの動きから、「損失と損害」に対する資金適用の要望も次第に高まっていったと想定されます。

 一方、「緩和」と「適応」に対応するために先進国は、年間1000億米ドルの資金を2025年まで援助し続けることを約束してきました。しかし、この約束はこれまで一度も実現していません。そのため今後は2019年に行われた適応資金の援助額を倍増させ、2026年以降は1000億米ドル以上に上る資金援助目標を、2024年までに決めることになっています。さらに途上国では「損失と損害」に関して独立した基金の設立を求める声が強まっています。これらの資金援助について先進国には厳しい交渉が予想されます。

 4番目に掲げられた「公正な移行」とは気候変動などの環境問題の解決に取り組む際に、全てのステークホルダーにとって公正かつ平等な方法により持続可能な社会への移行を目指す概念を言います。特に、産業構造の大きな転換が生じる際の雇用の確保などが課題です。しかし、このテーマは施策決定における背景として大きな影響を有しているものの、明示的には取り上げられることはなかったようです。

 最後の「気候行動を絶えず前進」とは、この間に世界中で蔓延したCOVID-19感染症の影響、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー、食糧の安全保障上の問題が生じている中で、仮にどのような状況下にあったとしても停滞することなく地球温暖化の防止を前進させるということを強調しています。

 なお、COP27の協議事項については、これ以外にもCOP26に引き続きパリ協定第6条の2項、4項の運用に関する詳細な手続きの決定も含まれています。特に、日本が進める第6条2項の二国間協力に関する各種報告の様式、審査に関するガイドライン等の協議が行われる予定です。

COP27の成果

(1)緩和の削減目標の強化

 緩和に関する削減目標に関しての政府代表団の報告をもとに以下にまとめます1)

●グラスゴー気候合意の内容を引き継いで、パリ協定の1.5℃目標に基づく取組の実施の重要性を確認する。
●2023年までに同目標に整合的なNDCを設定していない締約国に対して、目標の再検討・強化を求める。
●全ての締約国に対して、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減及び非効率な化石燃料補助金の段階的廃止を含む努力を加速することを求める。

 上記の報告から1.5℃目標に沿ったNDCを提出していない国に対して目標の再検討・強化を求めるということは、本来COP27までに提出する必要があったのにそれが出されていないことがうかがわれます。1.5℃目標に沿ったNDCとは、今世紀半ば(2050年)までに脱炭素化を行うことを意味します。

 最大の二酸化炭素排出国である中国は、前回のCOPで2060年において脱炭素化を実現すること、同3位のインドは2070年の脱炭素化を宣言しており、これらの状況を踏まえてのことと想像されます(二酸化炭素排出量の世界ランクは参考文献7による)。このほかG20メンバーでは、インドネシア、ロシア、サウジアラビアが脱炭素化は2060年と宣言しています3)

 さらに、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電とそれらへの補助金の記述に対しても前回同様の表現となっており、今回のCOPでその強化が行われることはありませんでした。COP27に参加した地球環境戦略研究機関(IGES)のメンバーの報告によれば、緩和の削減目標の強化に対してはCOP26のグラスゴー合意からさらに踏み込むことはできなかったと報告されています8)。 

(2)緩和作業計画の策定

 また、緩和作業計画(MWP)についてIGESの報告をもとに要約すると以下の通りです8)

●機会・優良事例・実行可能な解決策・課題・障害についての意見交換のために、年2回の対話を実施する。
●すべてセクターや横断的事項を対象とする。
●対話の結果は、NDC が「国が自ら決定する」という性質であることを考慮して、 新しい目標やゴールを課すものではない。年次報告書としてハイレベル閣僚級会議に報告される。
●作業計画の進捗について毎年、CMA(パリ協定締約国会合)での議題とする。
●期間は2026年まで(2026年に期間延長の要否を検討) 

 上記の通り緩和作業計画は、「意見交換を目的とする対話であり、新規目標にはつながらない」とされており、政治プロセスとのリンクは確保されたものの、グラスゴー気候合意とのリンクがなく、野心引き上げ、実施規模の拡大につながるのか疑問であると報告されています。

(3)適応と損失と損害

 今回の適応に関する大きなテーマは、COP26で設置が合意された2年間の作業計画である「適応に関する世界全体の目標(GGA)に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画」についての進捗を確認することでした。

 ここに示されたGGA(Global Goal on Adaptation)とは、パリ協定第7条1項に示された「気候変動への適応に関する能力の向上並びに気候変動に対する強靱性の強化及び脆弱性の減少」に関する世界全体の目標を言います。

 IGESの報告によれば、GGAの達成およびその進捗のレビューの指針となるべき枠組みについて、COP28での採択を視野においた議論を来年実施することが決定されたとのことです9)

 そして、COP27の開催中に途上国への適応資金を拠出するプレッジが相次ぎ、その資金拠出額の合計は2億3千万米ドルに上ったとされています。ドイツは5,980万米ドル、米国は1億米ドル、日本も1,200万米ドルの拠出を発表しました。そのほか、地球環境ファシリティ(GEF)が運用する後発開発途上国基金(LDCF)や特別気候変動基金(SCCF)に対しても8か国が資金提供を約束しています9)

 また、損失と損害に関する技術支援を促進する「サンティアゴ・ネットワーク」の完全運用化に向けて、同ネットワークの構造、諮問委員会・事務局の責任と役割等の制度的取り決めについて決定したとされています。 

(4)気候基金

 気候基金には長期的な緩和と適応に向けた基金と今回話題となった損失と損害のための基金があります。それぞれの協議結果を以下に示します1)10)

<長期的な緩和と適応に向けた基金>
●先進国からの年間1,000億米ドルの目標未達が途上国から追及を受けた。
●適応資金を2025年までに2019年比で少なくとも倍増するという約束については、UNFCCCの下に設置されている資金常設委員会に対し、適応資金の倍増に関する報告書を作成する。

<損失と損害のための基金>
●先進国と途上国との間で意見の隔たりが大きく、閣僚級での議論に持ち込まれた。
脆弱な国への損失と損害支援に対する新たな資金面での措置を講じる
その一環として損失と損害基金(仮称)を設置する
資金面での措置(基金を含む)の運用化に関してCOP28 に向けて勧告を作成するため、移行委員会を設置する。 

 なお、上記の移行委員会については付託事項があり、そのメンバーは24人、先進国10人、途上国14人(アフリカ3人、アジア太平洋3人、ラテンアメリカ・カリブ3人、小島嶼国2人、後開発途上国等3人)とされています。委員会の作業は年3回の会議によって協議され、2023年3月末までに第1回の会合を招集、勧告はコンセンサスによって採択されるとあります10)

(5)パリ協定第6条関係

 COP26ではパリ協定第6条のルールブックが完成されたとしていますが、COP27ではCOP26で決まっていなかった事項が協議されました11)

●第6条2項(二国間協力)については、クレジットの報告様式や審査のガイドラインについて、日本側から提案しそれが決定文書に盛り込まれた。
●第6条4項(CDM移行)については、主としてCDM活動の第6条4項への移管手続き(クレジット期間、対象活動、移管プロセス)が決定された。

 なお、この会期中に日本政府は、パリ協定第6条ルールの理解促進や研修の実施等、各国の能力構築を支援する「パリ協定第6条実施パートナーシップ」を立ち上げました(下の写真参照)。これには2022年11月18日時点で43カ国24機関が参加を表明しています1)

まとめ

 今回は2022年11月6日~20日まで開催されたCOP27の結果の概要を、参加した政府代表団とIGESメンバーの報告からとりまとめました。

 議長国がエジプトであったということもあり、途上国の立場でのテーマの設定や協議の取りまとめが目立ったCOPだったというのが第一印象です。COP26で提起された産業革命以来の上昇気温を1.5℃に抑えるために、2030年までの残された10年間に緩和の規模を緊急に拡大するという目標は達成されませんでした。

 この背景として、COP27の直前に実施されたG20の閣僚級会合において、中国、インド、サウジアラビアが「温度上昇の目標を1.5℃ではなく2.0℃に戻す」ことを提案したということもあり(結果的にこの提案は否決されました)、途上国と先進国との間の緩和目標への意識の隔たりがあったと思われます6)

 そして、途上国から先進国への支援資金を増額する要望も大きなものでした。これまでの長期的な緩和と適応のための資金提供が目標通りに達成できていないことが指摘され、その資金を適応に多く配分することが繰り返し主張されました。また、今回は損失と損害に対する独立した基金の設立を求める意見が出され、その設立を検討することで合意されました。

 このように、今回のCOP27は緩和目標と資金提供に関する先進国と途上国との見解の相違が一層先鋭化した会議となりました。人類が直面する課題に対して、両者の立場を超えて、協力して課題の解決にたどり着けるかどうかが、問われていると言えます。

<参考文献>
1)日本政府代表団:国連気候変動枠組条約第27 回締約国会議(COP27)結果概要、2022年11月22日、https://www.env.go.jp/content/000088572.pdf
2)読売新聞オンライン:パキスタンの大洪水、地球温暖化で雨量最大75%増、今夏には国土の3分の1冠水、2022年9月22日、https://www.yomiuri.co.jp/science/20220922-OYT1T50157/
3)田村堅太郎:COP27の焦点 「脱炭素化に向けた最新動向」、COP27直前ウェビナーシリーズ(No.4)、地球環境戦略研究機関(IGES)
4)地球環境戦略研究機関(IGES):公式Webサイト、UNFCCC COP27 特集、COP27直前ウェビナーシリーズ紹介記事、https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop27
5)椎葉 渚:COP27の焦点 「適応・損失と損害」、COP27直前ウェビナーシリーズ(No.1)、地球環境戦略研究機関(IGES)
6)椎葉 渚:気候変動交渉と損失と損害-これまでの議論とCOP26の成果、地球環境戦略研究機関(IGES)、IGES Briefing note、2022年2月
7)エネルギー経済研究所(EDMC):エネルギー・経済統計要覧2022年版、全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト、https://www.jccca.org/
8)田村堅太郎:COP27の結果ー総論、IGES気候変動ウェビナー、COP27結果速報ウェビナー、2022年11月25日
9)椎葉 渚:気候変動への「適応」と「損失と損害」に関するCOP27 の結果、IGES気候変動ウェビナー、COP27結果速報ウェビナー、2022年11月25日
10)大田純子:COP27シャルムシェイクの結果ー資金、IGES気候変動ウェビナー、COP27結果速報ウェビナー、2022年11月25日
11)高橋健太郎:COP27におけるパリ協定6条の結果とカーボンクレジットの動向、IGES気候変動ウェビナー、COP27結果速報ウェビナー、2022年11月25日