Categories
断熱建材

【続報】内窓の省エネ効果を暖房の熱負荷計算によって検証してみた!

 前回は内窓の省エネ効果について外気温と暖房機器(エアコンと石油ファンヒータ)のエネルギー量を実測することで確認してきました。その省エネ効果の分析結果は、暖房のためのエネルギー量とエネルギー代が1割程度の削減にとどまっていました。

 いろいろな文献では内窓の省エネ効果が高いことが謳われています。あるテレビ番組では、エアコンの電気代が大きく減少したなどと説明されていました。このような相違はどこから来るのでしょうか。おそらく、気象条件(外気温)や住居の外壁や床・天井の断熱特性によるものと思われます。

 そこで、今回は内窓の省エネ効果を暖房時の熱負荷計算によって検証していきたいと思います。熱負荷の計算は冷房時については、本サイトの「エアコン(10)-冷房時の熱負荷計算」(2022年8月29日投稿)で説明しており、今回は暖房時の熱負荷を計算します。

 今回の検討においてはデータの取得が困難であることが想定されます。具体的には四方の壁の熱損失を検討する際、隣室の室温も必要になりますが、それが隣戸(宅外)の場合はそれを測定することはできません。それは天井や床の熱損失を考える場合の上部階並びに下部階の室温についても同様です。

 従って、今回の検討は実測データの代わりにいくつかの仮定条件を設定して検討していますので、やや精度が低い分析となります。ただし、熱負荷計算による分析は、他の居住条件(外気温、断熱性等)でのシミュレーションも可能となることから、有用性の高いものと思われます。

 このような分析は、知見が少なく大変チャレンジングな試みですが、前回の供給熱量の実測値の検証を行うために試算してみました。その結果、実測値との整合性を確認しましたので報告します。また、断熱性の異なる居室との省エネ効果の比較も行いましたので、ご確認ください。

<本報告のコンテンツ>
暖房の熱負荷の検討要因
居室を囲む6面(壁、床、天井)の断熱特性の把握
暖房の熱負荷計算による内窓の省エネ効果の推計
 (1)検討対象日のエネルギー供給量
 (2)壁、天井、床の温度差の設定
 (3)熱負荷の計算結果
住居の断熱特性の違いによる内窓の省エネ効果の分析
まとめ

暖房の熱負荷の検討要因

 冷暖房の熱負荷の計算においては、表-1に示す熱負荷構成要因を用いることが一般的です1)。以前に報告した冷房の熱負荷計算においては、表-1のガラス窓透過日射熱負荷から室内熱負荷(1~4までの項目)を検討してきました。

表-1 冷暖房の最大熱負荷計算における検討要因

 No. 負荷構成要因冷房負荷の計算暖房負荷の計算
 1ガラス窓透過日射熱負荷
 2貫流熱負荷
 3すきま風熱負荷
 4室内熱負荷
 5蓄熱負荷
 6透湿負荷
注)〇は検討の対象、△は検討の対象外(場合によっては考慮)
出所)空気調和・衛生工学会:試して学ぶ熱負荷HASPEE、新最大熱負荷計算法、改定2版、2022年

 しかし、暖房負荷の計算においては、表-1に示すようにガラス窓透過日射熱負荷、室内熱負荷、透湿負荷は無視する(場合によっては考慮)とされています。これは、これらが暖房負荷を低減させるものであるため、空調設備の設計においては安全側になるためです。

 また、すきま風熱負荷は冬季に関してはすきま風を少なくして熱損失を少なくするため無視できると考えられます。さらに、蓄熱負荷はオフィスのように土日の冷暖房が行われない場合の熱負荷の検討項目であるため、これも無視できます。従って、ここでは貫流熱負荷のみを取り上げて、検討していきます。

 貫流熱負荷(q)を算定するためには、以下の(1)式に示す項目の値を把握する必要があります。すなわち、壁等の熱貫流率、面積、温度差です。そして、それらの項目は下図に示す6面の床、天井、壁、窓の全てについて把握する必要があります。

 qUAΔt    (1)

  q:貫流熱負荷 (W)
  U:熱貫流率 (W/(m2・K))
  A:面積 (m2
  Δt:温度差 (室温-外部温度)(K)

図-1 居室を囲む壁、床等からの貫流熱(熱損失)

居室を囲む6面の断熱特性の把握

 対象となる居室の平面図と西側から見た側面図を図-2に示します。リビングと寝室が隣接しており、暖房は2つの部屋に熱を供給します。それぞれの寸法を平面図と側面図に示しています。本居室は集合住宅の中間階にあります。

図-2 居室の平面図と側面図

 居室を囲む6面の状況を表-2に示します。内窓の施工によって変更されたものは西壁の窓の二重化であり、他の壁、床、天井は変更がありません。西壁と南壁は外気に面しており(外壁と称します)、北壁は隣戸に接し(戸境壁と称します)、東壁は宅内の他の部屋に面しています(宅内壁と称します)。天井と床も上部階、下部階の部屋(宅外)に面しています。

表-2 居室を囲む壁、床、天井の諸元

  内窓施工前  内窓施工後 外部の状況
西壁 窓一重ガラス窓
(図-4(1))
二重ガラス窓(内窓設置)
(図-4(2))
外気
 壁コンクリート、断熱材
(図-3(1))
 同左外気
東壁コンクリート、断熱材なし
(図-3(3))
 〃隣室(宅内)
北壁コンクリート、断熱材なし
(図-3(2))
 〃隣室(宅外)
南壁コンクリート、断熱材
(図-3(1))
 〃外気
天井コンクリート、断熱材なし
(図-3(4))
 〃上部階(宅外)
コンクリート、断熱材なし
(図-3(4))
 〃下部階(宅外)

 外壁、戸境壁、宅内壁、天井・床のスラブの断面図を図-3に示します。外壁は150mmのコンクリートに吹付け断熱材、空気層、石膏ボードで構成し、外側にタイル、内側にビニールクロスを張り付けています。

 戸境壁は180mmのコンクリートに両側にビニールクロスを張り付けています。宅内壁は60mmのコンクリートに両側にビニールクロスです。床・天井のスラブは200mmのコンクリートに上に床材、下にビニールクロスを張り付けています。

(1)外壁の断面図            (2)戸境壁の断面図
図-3.1 外壁、戸境壁の断面図
(3)宅内壁の断面図           (4)スラブの断面図
図-3.2 宅内壁、スラブ(床、天井)の断面図

 また、内窓施工前後の窓の構成を図-4に示します。内窓施工前は3mmの単板ガラスであり、内窓施工後はLow-E複層ガラスと3mmの単板ガラスの2重ガラス窓となっています。

図-4 内窓施工前後の窓の構成

 これらの建材の厚さ、熱伝導率、室内外の熱伝達率2)を使って、それぞれの熱貫流率を算定した結果を表-3、表-4に示します。熱貫流率の計算方法は本サイトの「建築材料(1)-外壁の断熱性能」(2022年1月24日投稿)に詳細に説明していますので参考にしてください。壁、床・天井の熱貫流率については、外壁1.832W/(m2・K)、戸境壁2.811 W/(m2・K)、宅内壁3.563 W/(m2・K)、床・天井2.604W/(m2・K)と計算されました。

表-3 外壁の熱貫流率の計算

  材  料熱伝導率 λ (W/(m・K))
熱伝達率 h (W/(m2・K))
厚さd (m)1/hd/λ
室外表面熱伝達 ro=1/ho230.0435
タイル熱抵抗 d/λ1.30.0080.0062
コンクリート熱抵抗 d/λ1.60.150.0938
断熱材吹付熱抵抗 d/λ0.0640.010.1563
非密閉中空層の熱抵抗 ra0.07
石膏ボード熱抵抗 d/λ0.220.0120.0545
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
室内表面熱伝達 ri=1/hi90.1111
熱貫流抵抗 Rw=Σ(ro+ri+ra+d/λ) 0.5459
熱貫流率 U=1/Rw W/(m2・K)1.832
注)それぞれの物質の熱伝導率、表面熱伝達率、非密閉空気層の熱抵抗は以下の参考文献による。
出所)空気調和衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識、改訂4版、2021年4月

表-4(1) 戸境壁の熱貫流率の計算

材料熱伝導率 λ (W/(m・K))
熱伝達率 h (W/(m 2・K))
厚さd (m)1/hd/λ
室内表面熱伝達 ro=1/ho90.1111
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
コンクリート熱抵抗 d/λ1.60.180.1125
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
室内表面熱伝達 ri=1/hi90.1111
熱貫流抵抗 Rw=Σ(ro+ri+d/λ) 0.3557
熱貫流率 U=1/Rw W/(m2・K)2.811

表-4(2) 宅内壁の熱貫流率の計算

材料熱伝導率 λ (W/(m・K))
熱伝達率 h (W/(m2・K))
厚さd (m)1/hd/λ
室内表面熱伝達 ro=1/ho90.1111
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
コンクリート熱抵抗 d/λ1.60.060.0375
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
室外表面熱伝達 ri=1/hi90.1111
熱貫流抵抗 Rw=Σ(ro+ri+d/λ)0.2807
熱貫流率 U=1/R  W/(m2・K)3.563

表-4(3) 床・天井スラブの熱貫流率の計算

  材   料熱伝導率 λ (W/(m・K))
熱伝達率 h (W/(m2・K))
厚さd (m)1/hd/λ
室内表面熱伝達 ro=1/ho90.1111
ビニールクロス熱抵抗 d/λ0.190.0020.0105
コンクリート熱抵抗 d/λ1.60.2000.125
ビニル系床材熱抵抗 d/λ0.190.005
0.0263
室内表面熱伝達 ri=1/hi90.1111
熱貫流抵抗 Rs=Σ(ro+ri+d/λ)0.384
熱貫流率 U=1/Rs  W/(m2・K)2.604

 さらに、窓の熱貫流率は表-5に示す通り、内窓施工前6.369 W/(m2・K)、施工後は1.433W/(m2・K)でした。この計算の詳細は本サイトの「内窓の断熱効果を実測で確認してみた!」(2022年12月26日投稿)に記載していますので参照ください。

表-5 窓の熱貫流率の計算

熱伝導率 λ、
熱伝達率 h
厚さ d
m
①施工前
単板ガラス
②Low-E
複層ガラス
施工後窓ガラス
 ①+②
室外表面熱抵抗 ro=1/ho230.0430.0430.043
ガラス熱抵抗 d/λ 10.0030.0030.003
非密閉中空層の熱抵抗 ra0.07
Low-E複層ガラス(グリーン)の熱抵抗 rg0.4710.471
室内表面熱抵抗 ri=1/hi90.1110.1110.111
熱貫流抵抗Rg=∑(ro+ra+rg+ri+d/λ)0.1570.6250.698
熱貫流率 U=1/Rg W/(m2・K)6.3691.6001.433
注)複層ガラスの熱貫流率(1.6)はLIXILカタログによる。
室外表面熱伝達率ho=23W/(m2・K)、室内表面熱伝達率hi=9W/(m2・K)、ガラスの熱伝導率λ=1.0W/(m・K)、非密閉中空層の熱抵抗ra=0.07W/(m2・K)は参考文献2による。

 以上の計算結果を取りまとめると表-6となります。

表-6 居室を囲む6面の断熱特性

面積(m2熱貫流率(内窓施工前)
W/(m2・K)
熱貫流率(内窓施工後)
W/(m 2・K)
西壁 窓8.76.3691.433
 壁8.91.8321.832
東壁17.63.5633.563
北壁10.52.8112.811
南壁10.51.8321.832
天井30.02.6042.604
30.02.6042.604

暖房時の熱負荷計算による内窓の省エネ効果の分析

(1)検討対象日のエネルギー供給量

 以上の6面の断熱特性のもとで、具体的な1日の暖房時の熱負荷を貫流熱負荷のみを考慮した計算を行います。ここでは、1月31日の事例を基に説明します。1月31日の実際の外気温と室温の推移を図-6に示します。朝方は室温が20℃を下回っていますが、ほぼ20℃前後にコントロールされています。

図ー6 外気温、室温の推移(1月31日)

 また、その時のエアコンと石油ファンヒータからの時間別供給熱量の推移を図-7に示します。この日は午前8時に外気温が3℃を下回るなど寒い日であり、石油ファンヒータを1日に4回、延べ6時間程度稼働させていたため、1日の総供給熱量は40.1kWhでした。

 なお、供給熱量はエアコンと石油ファンヒータからの供給熱量の総和です。具体的にはエアコンの消費電力量に3を乗じた値(COP3.0を仮定)、灯油使用量に灯油発熱量を乗じた値の合計です。計算方法の詳細は前回投稿の「内窓によるエネルギー消費と暖房代の削減効果」を参照ください。

図-7 暖房による供給熱量の推移(1月31日)

(2)壁、天井、床の温度差の設定

 温度差は室温と外部の温度との差です。外部の温度の設定方法は表-7の通りです。まず外気に面している西壁(窓含む)、南壁は外気温です。また、隣戸に面している北壁、床、天井のうち、床は下層階が半年前から空室となっているため「外気温+2℃」と仮定します。そして東壁、北壁、天井は測定した隣室の室温を参考に「室温-5℃」とします。

表-7 居室を囲む6面の外部温度の設定

 居室を囲む6面 外部の状況 外部温度の設定
西壁 窓外気外気温
 壁外気外気温
東壁隣室(宅内)隣室(宅内)の温度測定結果 注)
北壁隣室(宅外)隣室(宅内)の温度測定結果 注)
南壁外気外気温
天井上部階(宅外)隣室(宅内)の温度測定結果 注)
下部階(空き家)外気温+2℃

(3)熱負荷の計算結果

 上記で設定した外部温度と室温を用いて、(1)式により計算した内窓施工前後の居室の6面の時刻別熱負荷を図-8に示します。内窓施工前の最大熱負荷(午前10時)は3,570Wでしたが、内窓施工後は2,840Wに改善しました(10時は石油ファンヒータとエアコンを同時に稼働して室温が大きく上昇した時点です)。

図-8(1) 暖房の時刻別熱負荷の推移(内窓施工前)
図-8(2) 暖房の時刻別熱負荷の推移(内窓施工後)

 壁、窓別の熱負荷量の1日積算値を計算すると表-8の通りです。熱負荷量の1日積算値とは「各時刻別の熱負荷が1時間継続したものを熱負荷量(単位:Wh)として、これを1日分(暖房機器を稼働させた時間帯)を合計したもの」です。

 熱負荷量の1日積算値=Σ(時刻別熱負荷(W)×1時間(h))

 計算された熱負荷量の1日積算値を個別に見ると、表-8に示すように床が最も大きくなっており、窓は内窓施工前は14.4kWh、施工後は3.2kWhと大きく改善しています。また全体では内窓施工前は55.7kWhであり、内窓施工後は44.6kWhでした。

表-8 壁、窓等の熱負荷量の1日積算値(1月31日のデータを基に)

西壁窓西壁 東壁 北壁 南壁 天井 合計
面積 m28.78.917.610.510.53030
熱貫流率 W/(m2・K)6.369/1.4331.8323.5632.8111.8322.6042.604
熱負荷量の1日積算値
kWh
内窓施工前14.44.25.32.55.06.617.655.7
内窓施工後3.24.25.32.55.06.617.644.6

 内窓施工後の熱負荷量の1日積算値を内窓施工前のそれで除するとその割合は約80%となります(表-9)。このことから、計算された熱負荷からは内窓の施工により暖房の供給熱量を80%まで低下させることが可能と考えられます。

 なお、内窓施工前の熱負荷量の1日積算値は実際の暖房による供給熱量(40.1kWh)よりやや多い値となっています(表-9)。これは、今回の熱負荷計算では貫流熱負荷のみを考慮していることと、本来の熱負荷計算が最大熱負荷を計算する目的のものだからです。

表-9 熱負荷計算結果による内窓の省エネ効果

熱負荷量の1日積算値 (kWh)供給熱量(kWh)
内窓施工前 A内窓施工後 B変化率 C=B/A実測供給熱量 D比率 D/B
55.744.680.1%40.189.9%

 前回の報告では実際の供給熱量は内窓施工前の88%(12%の低下)と推計されていました。熱負荷計算と供給熱量との比較では約8%の差が生じています。これは、内窓の熱貫流率が実際にはスペック値より大きいという可能性や、熱負荷算定の条件設定(貫流熱負荷以外は考慮していない)、供給熱量の実測上の精度などの要因が考えられます。しかし、熱負荷計算の結果と供給熱量の計算結果は概ね整合していると考えることができます。

住居の断熱特性の違いによる内窓の省エネ効果の分析

 内窓の施工による省エネ効果は、住居の断熱特性によって変わるものと考えられます。そのため、ここではより断熱性の高い住居での内窓の省エネ効果を推計してみます。

 まず、外壁の熱貫流率は建築物省エネ法では東京多摩地域は0.87W/(m2・K)を性能基準としています(詳細は本サイトの「建築材料(1)-外壁の断熱性能」(2022年1月24日投稿)を参照ください)。そのため、表-10に示すように、西壁、南壁の熱貫流率を0.87W/(m2・K)に改善することにします。

 これは、熱の損失が約50%に改善することになります。そこで、他の天井、床、北壁、東壁についても熱貫流率を元の値の5割に変更します。具体的にはそれぞれの熱貫流率を東壁1.782W/(m2・K)、北1.406W/(m2・K)、天井、床1.302W/(m2・K)としました。

 このような前提で熱負荷量の1日積算値(kWh単位)を算定した結果を表-10に示します。内窓の施工前は34.9kWh、施工後は23.7kWhとなり、内窓施工後の熱負荷積算量の1日積算値は施工前の約68%となりました。このことは、内窓の施工によって3割以上の省エネが可能となることを示しています。断熱性の高い住居で内窓を設置すると省エネ効果が高いことが分かりました。

表-10 断熱性の異なる住居における内窓施工前後の熱負荷

西壁窓西壁 東壁 北壁 南壁天井合計
面積 m28.78.917.610.510.53030
熱貫流率 W/(m2・K)6.369/1.4330.871.8411.4420.871.3021.302
熱負荷量の1日積算値
 kWh
内窓施工前14.42.02.71.32.43.38.834.9
内窓施工後3.22.02.71.32.43.38.823.7

まとめ

 今回は、前回報告した内窓の省エネ効果を、暖房の熱負荷計算によって検証しました。冷房時は窓の日射熱負荷や室内熱負荷などの要因を考慮していましたが、暖房の熱負荷においてはこれらは考慮しなくても良いことになっています(空調設備の設計において安全側となるため)。

 そこで、今回は貫流熱負荷のみを用いて時刻別の熱負荷の計算を行うこととしました。対象の居室の6面の壁、窓、床、天井の断面図より断熱性能(熱貫流率)を推計し、対象となる日(1月31日)を設定して、外気温、室温、暖房による供給熱量のデータを整理しました。

 これらのデータを用いて熱負荷計算を行い、その熱負荷量の1日の積算値と前回測定した供給熱量を比較しました。その結果、供給熱量に対して1割程度多くなっていましたが、これは熱負荷を貫流熱負荷のみを取り上げたことが原因と考えられます。また熱負荷計算は最大熱負荷を算定するために使われるため、実測値よりも多くなることは予想されたことでもあります。これらのことを考慮すると、熱負荷計算と実測値は概ね整合していると考えられました。

 この熱負荷計算法を用いて内窓の施工前と施工後で比較すると、熱負荷量の1日積算値は80%程度に改善する(20%の省エネ)ことが示唆されました。前回の報告では内窓の施工により供給熱量が88%程度改善されたという結果でしたが、概ね傾向を把握することができていると判断されました。

 この熱負荷計算法を異なる断熱特性の居室に適用して内窓の省エネ効果を推計しました。具体的には、建築物省エネ法の性能基準値(東京都多摩地区)を参考に、壁、床、天井の熱貫流率を現況値から1/2に低減した値(断熱性が2倍)を設定しました。計算の結果、熱負荷量の1日積算値は70%程度に改善(30%省エネ)することが分かりました。

 このことより、断熱性が高い住居では内窓の施工による省エネ効果が高くなることが計算で確かめられました。ここで考慮した熱負荷は貫流熱負荷のみであることや、室外の温度などの多くは仮定値を用いているなど、やや大雑把な計算になりましたが、供給エネルギーの実測値による内窓の省エネ効果が熱負荷計算によってある程度検証できたものと思っております。

<参考文献>
1)空気調和・衛生工学会:試して学ぶ熱負荷HASPEE、新最大熱負荷計算法、改定2版、2022年.
2)空気調和・衛生工学会:空気調和設備計画設計の実務の知識、オーム社、2017.