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需給対策

ディマンド・レスポンス(2)-2022年冬

 ディマンド・レスポンス(DR:Demand Response)とは逼迫した電力需給を改善するために電力の使用者が需要パターンを変化させて対応するものです。使用者が節電に協力することで、ブラックアウトや計画停電などの緊迫した状況を回避することや、電力供給施設への投資を抑制して過度な料金値上げを低減させるという効果もあります。

 DRについては2022年の電力需給ひっ迫を受けて、政府の「2022年度の電力需給に関する総合対策」において、需要側の対策として取り上げられ、比較的簡易な方法で行う「インセンティブ型DR」が提案されてきました1)2)

 2022年夏季のDRへの参加の状況については、本サイトでもその節電結果について報告してきました(「ディマンド・リスポンス(1)-2022年夏」を参照ください)。2022年度冬季については政府が財政的な支援を行うことを公表しており、事前のアナウンスも行われていました。さらに、東京都のように地方自治体も支援を行うところがあったようです。

 このサイトでは家庭での省エネを中心に対策を整理してきており、既に日常の節電を行っている方も多いと思います。そのため、DRの節電判定の基準であるベースラインは既に大きく低減していて、さらに節電することは難しくなっています。そこで、前回も蓄電池(バッテリー)による電力需要の調整を行う方法を提案してきました。今回もその方法で節電を行います。

 ただし、家庭用の蓄電池は蓄電容量(Wh)が大きくないだけでなく、接続できる定格電力(W)も大きくありません。蓄電容量は大きくても1kWh~2kWhです。また定格電力は最大でも1,000W程度であり、使えない家電機器も多いのです。

 冬季に最も多くの電力を要するエアコンは最大出力2,000Wを超えるものが多いため、これを賄うことはできません。電子レンジ、IH調理器、電気ケトルも1,000Wを超えますので家庭用の蓄電池からは電力を供給できません。

 さらに、家電機器は1ヵ所に集まっているわけではなく複数の部屋にあるため、それを1個の蓄電池で賄うことは困難です。このように蓄電池の活用が難しいことが予想されるため、今回は蓄電池を3個に増やして節電効果を分析しました。

 また、蓄電池の使用だけでなく、家電機器を上手に使用時間をずらして節電できる方法もあると思いますので、それについても検討します。節電の判断基準であるベースラインの特徴を把握して、節電量を増やす方法についても分析を進めます。

 さらに、多くの方は節電によるインセンティブがどの程度か知りたいと思っていることでしょう。今回は節電の各推進主体(小売電気事業、国、地方自治体)からインセンティブ(ポイント)が付与されますので、その具体的な内容についても詳しく説明したいと思います。

 今回のDRの実施期間は2022年12月14日から2023年3月15日と予定されていました。昨日、その期間が終了しましたのでこれまでの結果を報告します。

<本報告のコンテンツ>
2022年度冬の節電プログラム
 (1)小売電気事業の節電プログラム
 (2)国の節電プログラム
 (3)東京都の節電プログラム
DR参加における節電実績
 (1)DR対象日と時間帯
 (2)節電方法(蓄電池の使い方)
 (3)時間指定型プログラムの節電結果
 (4)前年同月比型プログラムの節電結果
 (5)夏季の節電結果との比較
節電効果を上げるための分析
 (1)ベースラインの分析による効果的な節電
 (2)蓄電池の効果的な使用による節電
DRの節電インセンティブの獲得結果
まとめ

2022年度冬の節電プログラム

 今回のDRには小売電気事業からの節電プログラムに加えて、国と地方自治体も節電プログラムが予算化され、いずれもインセンティブ(特典)が付与されることが公表されていました3)4)。その節電プログラムと特典の概要は表-1の通りです。

表-1 小売電気事業、国、自治体の節電プログラムの特典

 付与者 特典種別  特典付与の概要
小売電気事業時間指定型節電時間帯の節電量(kWh)の5倍のポイント、総節電量に応じてボーナスあり
前年同月比型前年同月の使用量を3%下回っている場合に50ポイント
参加特典参加条件を満たした場合に2,000ポイント
時間指定型節電時間帯の節電量(kWh)の5倍のポイント(対象時間は節電できた時間の24時間分まで)
前年同月比型前年同月の使用量を3%下回っている場合に1,000ポイント
東京都節電達成5日以上節電を達成した場合に1,000ポイント
出所)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、冬の節電キャンペーン2022

(1)小売電気事業の節電プログラム

 小売電気事業の節電プログラムは時間指定型と前年同月比型の2種類があります5)。時間指定型については、事業者が指定する時間帯における電力使用量ベースラインとの差を積算した節電量をもとに1kWh当り5ポイントを付与するものです。

 時間指定型については、総節電量に応じてボーナスが付与されます。そのボーナスのポイントを表-2に示します。これは小売電気事業の東京ガスの一例ですが、他の小売電気事業もボーナスを付与していると思われます。

表-2 節電ボーナス特典(東京ガス節電プログラム)

 No.節 電 量 ボーナスポイント
 1 5kWh未満  な し
 2 5kWh以上10kWh未満 ポイント 10円分
 3 10kWh以上20kWh未満 ポイント 50円分
 4 20kWh以上30kWh未満 ポイント 100円分
 5 30kWh以上40kWh未満 ポイント 200円分
 6 40kWh以上50kWh未満 ポイント 300円分
 7 50kWh以上60kWh未満 ポイント 500円分
 8 60kWh以上70kWh未満 ポイント 1,000円分
 9 70kWh以上80kWh未満 ポイント 1,500円分
 10 80kWh以上90kWh未満 ポイント 2,000円分
 11 90kWh以上100kWh未満 ポイント 2,500円分
 12 100kWh以上 ポイント 3,000円分
出所)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、冬の節電キャンペーン2022

 冬季においてはこれに加えて前年同月比型の節電プログラムが加わりました。これは、前年同月の消費電力量に対して3%以上削減した場合に50ポイントを付与するものです。国も同じプログラムを設定していますので、小売電気事業もこれに合わせたものと思われます。

 この2つの節電プログラムは夏季のDRに参加した世帯は自動的に両方が適用されます。夏季に比べるとインセンティブの種類が増えたことになります。

(2)国の節電プログラム

 国の節電プログラムは2022年冬季から始まりました。まず国の節電プログラムに参加するためには、参加申し込みと個人情報の提供が条件です。詳細を以下のコラムに示します。

<節電プログラムの参加条件>

① 今冬に開催する「冬の節電キャンペーン」に参加すること
② 個人情報を経済産業省「電気利用効率化促進対策事業」の補助金事業の事務局に提供すること等に同意すること。

 ここで②に示す個人情報とは、小売電気事業に登録された需給契約に係る全ての個人情報(需給契約名義、住所、電話番号、契約番号、供給地点特定番号等)を指します。この個人情報がどのような目的で使われるのかは明らかではありません。

 そして、国のインセンティブは以下の3種類です。

 ① 参加特典(2,000円相当)
 ② 時間指定型
 ③ 前年同月比型

 まず、①の参加特典は参加表明した時点で与えられます。この条件を満たした参加者には2,000円相当のデジタルギフト券(東京ガスの場合はパッチョポイント)が付与されます。小売電気事業が異なっても、2,000円相当のギフト券は変わりません。

 時間指定型と前年同月比型は小売電気事業と計算方法は同じです。ただし時間指定型は対象時間に上限があり、各月の変化量が発生した24時間分までを対象としています。基本的には小売電気事業のポイントよりも少なくなります。

 一方、前年同月比型は3%以上の削減率は変わりませんが、ポイントは1,000ポイント/月と非常に大きな値です。3か月間3%以上削減すると3,000ポイントが付与されます。このように、国の節電インセンティブは小売電気事業に比べて大きなポイントになっています。

(3)東京都の節電プログラム

 需給契約の需要場所が東京都内にある使用者に対して、定められた判定方法に従い、節電に5日以上成功した場合に1,000ポイント(再生可能エネルギー100%契約の場合は2,000ポイント)が付与されます4)

 定められた判定方法とは、「期間中の節電対象時間帯における節電量が0.001kWh以上となった場合、節電に1日成功したものとする」とされています。なお、東京都は2024年の夏季・冬季まで実施するとアナウンスしています。

DR参加における節電実績

(1)DR対象日と時間帯

 今回DRに参加したのは、夏季と同じ東京ガス(小売電気事業)の節電プログラムです。小売電気事業の節電プログラムに参加すると自動的に国の節電プログラムにも参加できるようになっています(情報提供の同意は必要)。また、需給契約の需要場所が東京都である方は同様に自動的に東京都の節電プログラムに参加できます。

 図-1にDR対象日を示します。節電は平日のみに行われます。2022年12月14日から2023年3月15日の対象期間(平日のみ63日)において、DR対象日は27日間でした。DR対象日は気温が低下してエアコンの暖房需要が増加するときと考えられます。なお、年末と年始は意図的に回避されています。

 また、DR対象時間帯を図-2に示します。今回のDR対象時間帯の特徴は午前中と夕方に分かれているということです。需要者にとっては朝食及び夕食前後の調理・片付けの時間帯であり、非常に節電するのが難しい時間帯と言えます。そのうえ前日の17時過ぎにDRの対象時間帯の連絡がメールで入ってくるため、前もって準備しておくことが難しいということもあります。

図-2 DR対象時間帯

 この時間設定は電力需要が多いこと以外に別の要因があると考えられます。以前の報告(「電力需給逼迫の要因-気温と消費電力量の関係」)に示した通り、この時間帯は太陽光発電からの電力供給量が十分でなく、全体の供給力が低下している時間帯なのです。

 その理由は1月23日と2月10日は昼間も節電対象時間となっていることです。これらの日は天候が悪く太陽光発電が期待できない日だったからと思われます。特に2月10日は関東地区でも1日中雪が降っていました。このように、太陽光発電による電力供給が大きな割合を占めてきたため、DRの時間帯もこのように設定されたものと想定されます。

 節電時間帯は最長10時間、最短2時間でした。また総時間数は132時間であり、27日間の平均では1日4.9時間でした。夏季は1日平均8.3時間でしたので、夏季に比べて6割程度に短くなっています。

(2)節電方法

 今回も節電は蓄電池(バッテリー)を用いて需要を調整する方法をとりました。蓄電池の仕様を表-3に示します。前回は2個の蓄電池を使用しましたが、今回は3個用意しました。利用した蓄電池はJackery社製のポータブル電源3種で、蓄電能力は1,000Wh、700Wh、400Whです。

 従って、1日の節電量は最大で2,100Whが可能となるはずです。しかし、蓄電能力を半分以上使うことはほとんどありませんでした。それは夏季と違って今回は節電時間が非常に短いためです。ただし、昼間の時間帯はDR対象ではないため、午前中に消費した蓄電池を昼間に充電することが出来、給電量を増やしやすい利点もあります。

表-3 用いた蓄電池(ポータブル電源)の仕様

  項 目  内 容  外  観
蓄電池1製品名Jackeryポータブル電源1000
定格容量リチウムイオン電池
46.4Ah/21.6V(1,002Wh)
出力ポートAC出力×3:100V,~60Hz,10A,合計1,000W(瞬間最大2,000W)
USB-A出力:5V=2.4A
USB-C出力×2:5V=3A,9V=2A, 12V=1.5A
蓄電池2製品名Jackeryポータブル電源700
定格容量リチウムイオン電池28.05Ah/14.4V(708Wh)
出力ポートAC出力×2:100V/5A,~60Hz, 500W
USB-A出力:5V/2.4A
USB-C出力:5V/3A, 9V/3A, 12V/3A, 15V/3A, 20V/3A
蓄電池3製品名Jackeryポータブル電源400
定格容量リチウムイオン電池28.05Ah/14.4V(403Wh)
出力ポートAC出力:100V,~60Hz,2A, 200W(瞬間最大400W)
USB出力:5V=2.4A
出所)Jackeryポータブル電源、取扱説明書

 それぞれの定格出力は順に1,000W、500W、200Wです。また、AC出力ポートは順に3個、2個、1個となっています。ポート数が増えたとは言え、家電に使用するには限界があります。エアコン、電気ケトル、電子レンジ、オーブントースターは定格電力が大きいため、「蓄電池1」(定格容量1000W)でも使えません。そのため、各蓄電池は表-4に示す機器を接続させて節電を行いました。

表-4 蓄電池に接続した家電機器

  接続機器   型  式機器の定格電力平均消費電力
蓄電池1液晶テレビ東芝REGZA 50BM620X150W80W程度
(節電モード)
磁気ディスクElecom SDG NY0202UBK10W程度
蓄電池2ノートパソコンNEC PC-NX850LAB90W20~40W
モデムNTT東日本 VH1004EN9W7W程度
ルータSoftbank30W9W程度
蓄電池3加湿器Panasonic FE-KFU0716W15W程度

 ここで、蓄電池に接続する上で問題になった事例を以下に示します。蓄電池の能力と機器の最大消費電力、安全性を考慮して使用することが必要です。

●エアコン(富士通ゼネラル製AS-Z22:消費電力範囲110~1,500W)に「蓄電池1」を接続しましたが、稼働しませんでした。瞬間最大2,000Wとスペックに記載されていますが、1,000Wを超えると温風が出てこなくなりました。
●空気清浄機(トゥーコネクト製Airdog A3s:定格電力27W)に「蓄電池2」を接続したところ誤作動を起こしました。この機器にとって許容できない電圧の変動が起きていた可能性があります。
●石油ファンヒータ(コロナ製FH-G3215Y)に「蓄電池1」を接続したところ点火時に600Wを超える消費電力となったため、安全性を考慮して使用をとりやめました。

 なお、今回は蓄電池への充電のための消費電力量を減らすため、小型の太陽光パネルを用いて蓄電池への充電を行いました。ただし、集合住宅であるため1日の充電量は100~200Whとわずかです。ただし、充電は節電対象日以外でもできるため、なるべく太陽光パネルを用いて充電しました。

(3)時間指定型の節電結果

 DR対象日における節電量と蓄電池からの給電量、蓄電池への充電量(商用電源、太陽光)を表-5に示します。同表には、充電量はDR対象日の前日に行っているものがあるので、それも記載しています。さらに、節電量を決めるベースラインのパターン番号についても示しています(ベースラインは表-8、図-4に記載)。

 27日間の節電量は55.77kWhでした。1日当りにすると2.07kWh、対象時間当りでは0.42kWhの節電ができていることになります。ただし、表-5の備考欄にあるように、旅行や外出により節電量が多くなっている日があります。また、蓄電池からの給電量は11.21kwhでした。

表-5 節電結果と蓄電池の給電量、充電量

No.月日対象時間
(hr)
ベースライン節電量
(kWh)
給電
(kWh)
充電(kWh)
(商用電源)
充電(kWh)
(太陽光)
備考
112月14日4.5パターン10.220.2300
212月15日2パターン100.650.730.19
312月19日9パターン21.420.820.880.08
412月20日6.5パターン21.270.480.360
512月21日3パターン20.050.160.400
612月22日7.5パターン21.350.820.670.05
712月23日7パターン22.000.640.150.08
812月26日6パターン22.270.1900
912月27日3パターン22.50000
1012月28日3パターン20.300.160.210.10
111月6日5パターン34.090.620.200.08外出
121月10日3パターン30.300.2500.15
131月11日6パターン30.720.290.150
141月12日2パターン30.850.420.160
151月23日10パターン47.720.2100旅行
161月24日3パターン43.15000
171月25日8パターン44.250.3600.06外出
181月26日4パターン43.87000.08
192月1日2パターン51.290.2200.12
202月3日7パターン64.151.080.240
212月6日2.5パターン62.170.440.570.10
222月9日2パターン71.0700.380.10
232月10日10パターン71.371.390.270
242月16日4パターン81.270.6200.15
252月22日3パターン92.320.1300
263月3日3パターン102.400.2900.17
273月6日6パターン103.400.750.480.07
対象日以外2.301.46
合計13255.7711.218.163.05
1日当り平均4.902.070.420.300.11
対象時間当り平均0.420.080.060.02
注)ベースラインのパターンは表-8を参照ください。

 図-3に節電量と蓄電池からの給電量の推移を示します。外出や旅行に出かけている時の節電量が多いことが分かります。そして、節電量に対する蓄電池からの給電量の割合は2割程度(11.21/55.77)の比較的少ない値となっています。

図-3 節電量と蓄電池からの給電量

(4)前年同月比型の節電結果

 前年同月との比較による節電結果を表-6に示します。ここで各月は検針日の月を指しており、1月の消費電力量は実際は12月分を指します。1月は6%以上、2月は11%以上削減されており、いずれの月も3%以上削減の基準を満たしていました。これは内窓の施工によるエアコンの消費電力量の削減の影響もあるものと思われます。

表-6 前年同月比型の節電結果

1月2月3月
当年(2023年)344kWh381kWh300kWh
前年同月(2022年)368kWh432kWh607kWh
削減率-6.5%-11.8%-50.5%
注1)2022年3月の消費電力量は特殊な事情によって多くなっています。
注2)検針した日の月を示すため、実際は1月は12月、2月は1月、3月は2月の消費電力量になります。
出所)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、冬の節電キャンペーン2022、Mypageより。

(5)夏季の節電結果との比較

 今回の節電結果と2022年夏の節電結果とを比較したものを表-7に示します。同表では、節電量と蓄電池からの給電量の比較を行っています。それぞれの節電日数当り、節電対象時間当りの計算値を示しています。

表-7 2022年夏季との比較

項  目2022年夏2022年冬2022年冬
(特異日除く)
節電対象日数(日)192722
時間数(時間)157.70132.0102.0
1日当り時間(時間/日)8.34.94.6
節電量節電量 A(kWh)18.1155.7732.69
1日平均 B(kWh/日)0.952.071.49
時間平均 C(kWh/時間)0.110.420.32
蓄電池からの給電量給電量 D(kWh)9.5911.2110.02
1日平均 E(kWh/日)0.500.420.46
時間平均 F(kWh/時間)0.060.080.10
節電における蓄電池からの給電率給電率 D/A(%)53.020.130.7
給電率 E/B(%)52.620.330.9
給電率 F/C(%)54.519.031.3
注)特異日とは旅行や外出している日(1月6日、1月23日~26日までの5日)を指す。

 まず、節電量は冬季55.77kWh、夏季18.11kWhであり冬季は大きく増加しています。また1日当りの節電量は冬季2.07kWh/日、夏季0.95kWh/日であり、対象時間当り節電量では冬季0.42kh/時間、夏季0.11kWh/時間ですのでこれも大きく増加していることが分かります。

 なお、冬季は旅行や外出している日が5日あり、非常に大きな節電結果となっていました。そのため、その5日分を除いてそれぞれの値を算定すると、節電量32.69kWh、1日当りの節電量1.49kWh/日、対象時間当り節電量では0.32kh/時間であり、これも夏季に比べ大きくなっています。

 次に、蓄電池からの1日当り給電量は夏季が0.50kWh/日、冬季は特異日を除いた値でも0.46kWh/日とやや少なくなっています。これはDR対象時間が短くなっていることが原因です。しかし、対象時間当りの給電量は夏季0.06kWh/時間に対し、特異日を除いた冬季は0.10kWhと多くなっています。これは、蓄電池を増やした効果です。

 さらに、節電量に対する蓄電池からの給電量の割合(給電率)を見ると夏季の5割程度と比べると冬季は大きく減少しています。これは、後の分析で示すように、蓄電池による節電以外の節電量が多くなっていることが原因です。

節電効果を上げるための分析

(1)ベースラインの分析による効果的な節電

 節電量を判断する基準となる消費電力量のベースラインを示すと図-4、表-8の通りです(ベースラインの決定方法については「ディマンド・リスポンス(1)-2022年夏」を参照ください)。ベースラインのパターンは10種類あり、そのパターンが適用された日は表-5に示した通りです。

 ベースラインの1日消費電力量はパターン6が14.425kWhで最大、パターン10が10.125kWhで最少となっています。パターン6は2月初めに適用されているベースラインであり、このころが最も気温が低いため消費電力量が多くなったことが原因です。逆にパターン10は3月初めに適用されており、気温が上がって消費電力量が少なくなってきたことを反映しています。

図-4 節電量を決めるベースライン

表-8 節電量を決めるベースラインの特徴

0-00-
4:00
4:00-
8:00
8:00-
12:00
12:00-
16:00
16:00-
20:00
20:00-
24:00
8:00-
20:00
合計
Patern 10.5751.9003.1252.6002.2750.9508.00011.425
Patern 20.3501.6003.3252.3002.1750.9507.80010.700
Patern 30.3251.5004.3252.7252.9750.95010.02512.800
Patern 40.4001.1754.0753.0253.2000.97510.30012.850
Patern 50.3251.3254.5752.6502.9251.30010.15013.100
Patern 60.3251.0505.0503.3753.4001.22511.82514.425
Patern 70.3251.0754.8503.4503.3751.17511.67514.250
Patern 80.3751.0503.2502.8752.9001.4759.02511.925
Patern 90.3751.1003.2502.9003.1251.9509.27512.700
Patern 100.4251.2253.8501.7752.0500.8007.67510.125
出所)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、冬の節電キャンペーン2022、Mypage

 ベースラインの違いによる節電量の相違を示すため、2つの事例を示します。これらの図で折れ線が消費電力量とベースライン、棒グラフは節電量を表します。図-5は12月23日でベースラインがパターン2の時のものです。図-6は2月3日でベースラインはパターン6です。

 両日とも節電対象時間は7時間であり、1日の消費電力量は約10kWhとほぼ同様の条件(節電対象時間は若干異なります)ですが、ベースラインが異なるため、節電量は前者が2.00kWh、後者は4.15kWhと2倍の違いになっています(表-5参照)。

図-5 ベースライン、消費電力量、節電量(12月23日)
図-6 ベースライン、消費電力量、節電量(2月3日)

 2月3日のベースラインのパターン6に着目すると、8時以降の大きな立ち上がりは、朝方の石油ファンヒーターからエアコンに切り替えた際の立ち上がりの消費電力です(暖房機器の使用方法については、「内窓によるエネルギー消費と暖房代の削減効果を分析してみた!」(2023年2月27日投稿)に詳しく説明しています)。

 2月になって気温が下がってきたことで、その消費電力量が大きくなっています。そのため、DR時間帯では初めにエアコンを使ってあたため、DR時間帯に入ってから石油ファンヒーターが応援することにしました(エアコンは石油ファンヒータ稼働後も継続して運転します)。その結果、エアコン消費電力量が少なくなり、大きな節電が可能になりました。

 また、朝食後の食器洗い乾燥機の使用や洗濯乾燥機の使用も節電時間帯を外すことで節電が可能です。今回のDR時間帯が朝方数時間と夕方となっていることで、食器洗い乾燥機等の稼働を数時間遅らせるだけで節電が可能になりました。これらのことから、夏季に比べて大きな節電ができるようになったと言えます。

 気温が下がってきた時期に無理にエアコンの使用を抑えるのは健康によくありません。今回は石油ファンヒータを併用して寒さをしのいでいます。ただし、温室効果ガスの削減という観点からは石油ファンヒータの使用はお勧めできません。この方法は日本の電源構成が化石燃料に依存している時期の過渡的な対策として適用すべきと考えられます。

 また、ベースラインを決定するDR対象日前の5日間の消費電力量を意図的に上昇させるという方法もあまりお勧めできません。このような方法は単に、インセンティブを獲得するためだけの対応になってしまいます。

(2)蓄電池の効果的な使用による節電

 今回の蓄電池の利用において、いくつかの課題が上がってきました。それをまとめると以下の通りです。

 ①夏に比べて蓄電池からの給電による節電割合が少なかった。
 ②蓄電池からの時間当り給電量が少なかった。
 ③蓄電池の能力(蓄電容量)を十分に使いきれなかった。

 ①については、表-7に示した通り節電量に占める蓄電池からの給電量の割合が、夏の5割に対して冬は2~3割と低いということを示しています。これは冬季においては(1)に示したようにベースラインの特徴を把握して、蓄電池以外の方法での節電が効果的であったことが大きな要因です。

 ②については、エアコンや電子レンジなどの定格電力が大きい家電機器には使用できないことと、各居室に分散している家電機器に蓄電池から電力を供給することには限界があるためです。しかし、蓄電池を3個使用したことにより、夏に比べて1時間当りの給電量は1.7倍に増えました。

 ③については、蓄電容量をほとんどの日が5割以下しか消費していないことを意味しています。これは②の原因に加えてDR対象時間帯が非常に短い時間であったことも原因です。このような状況で、唯一蓄電池からの給電量が節電量と同程度だったのが2月10日です。この日は前述したように東京地方で1日中雪が降っている寒い日であり、DR対象時間帯も10時間という長さでした。

 この日の給電、蓄電量と消費電力量の推移を図-7に示します。この図では折れ線が消費電力量(電力メータ計測値)と実消費電力量(消費電力量+給電量)、棒グラフが給電量(えんじ色)、蓄電量(青色)を示します。この図から9時以降19時まで蓄電池が一定の給電を行っていることが分かります。

図-7 消費電力量蓄電池の蓄電、給電量

 この日の3種の蓄電池からの1日の給電量の内訳を示すと表-9の通りです。同表から「蓄電池1」は約7割、「蓄電池2」は約8割を消費しており、全体でも66%の蓄電容量を消費したことが分かります。これは10時間、蓄電池からの給電をフル稼働させたためです。

表-9 蓄電池の給電量(2月10日)

蓄電容量 A給電量(2/10) B給電率 B/A
蓄電池11,000Wh680Wh68%
蓄電池2700Wh553Wh79%
蓄電池3400Wh156Wh39%
合計2,100Wh1.389Wh66%

 この日の消費電力量とベースライン(パターン7)、節電量の推移を図-8に示します。1日中エアコンがフル稼働しているため、多くの時間帯で節電ができていません。それでもわずかに節電できたのは蓄電池からの給電があったためと想定されます。

図-8 ベースライン、消費電力量、節電量の推移(2月10日)

 このように蓄電池を効率よく稼働させるためには長時間の使用が効果的ですが、DR対象時間は供給側の都合によって決定されるため、十分に能力を生かすことは難しいようです。今回は、3種の蓄電池を各部屋に配置して使用しましたが、3種類の蓄電池を用意することは一般家庭では難しいと思われます。

 今後、蓄電池による需要調整を効果的に行うためには、②と③の課題を解決することが必要です。そのためには家庭内の家電機器全てに利用可能な蓄電設備を設置して、どのような消費電力の機器でも利用可能にすることが必要です。それは住居を新築するときから考慮して整備することが必要になります。

DRの節電インセンティブの獲得結果

 今回の節電の結果より、小売電気事業者、国、東京都から付与されるインセンティブ(ポイント)は表-10の通りです。現在はまだポイントは付与されていませんが、小売電気事業から約930ポイント、国から約5,200ポイント、東京都から1,000ポイントが付与されると計算されました。

 このように、今回は国の支援等により合計で7,000ポイント以上のインセンティブを得ることになりそうです。夏の140ポイントに比べると非常に大きなものになりました。2050年のカーボンニュートラルに向けて需要者側では無理のない節電は不可欠なことですので、インセンティブの大きさとは関係なく節電の練習をしておくことが必要です。

表-10 節電による得られる予定のインセンティブ(ポイント)

節電プログラム/月等12月1月2月3月ボーナス等合  計
小売電気事業時間指定型571256829500779
前年同月比505050150
参加特典2,0002,000
時間指定型40846026210
前年同月比1,0001,0001,0003,000
東京都節電5日達成1,0001,000
合  計7,139

まとめ

 今回は2022年夏季に続いて冬季のDRに参加した節電結果を報告しました。今冬から小売電気事業に加えて国と自治体(東京都)も節電プログラムを予算化し、参加者に節電に応じたインセンティブ(現金に相当するギフト券)を提供しました。

 時間指定型の節電インセンティブに加え、夏季にはなかった前年同月比型のものも設定され、インセンティブの種類も増えました。国は参加するだけで2,000ポイント、前年同月比3%以上の節電で各月1,000ポイントと大きなインセンティブを提供しています。そのため、今回の節電により7,000ポイント以上のインセンティブを得ることができました。

 節電プログラムの対象期間は2022年12月14日から2023年3月15日まで(平日の63日間)ですが、実際に時間指定型の節電対象となったのは27日間でした。DR対象時間は延べ132時間、1日平均4.9時間でした。今冬のDR対象時間の特徴として、午前と夕方の2つの時間帯に分かれることでした。そのため、夏季のDR対象時間の1日8.3時間に比べて6割程度に減少することになりました。

 その節電結果は、時間指定型で55.77kWh、1日当り2.07kWh/日を記録しました。夏季の節電実績が18.11kWh、1日当り0.95kWh/日と比べると大きく増加しました。ただし、冬季は旅行や外出した日があり、その日の節電実績が大きかったため、夏季と比べる条件が異なります。また、前年同月比型では1月~3月(検針日基準のため実際には12月~2月)ともに3%の節電を達成しました。これは内窓の施工の効果もあったものと思われます。

 今回も3種の蓄電池による需要の調整を行いました。蓄電池からの給電量は延べ11.22kWh、1日当り給電量は0.42kWh/日でした。後者は夏季の0.50kWh/日と比べても8割程度となっています。これは、1日のDR対象時間が少なくなったためです。なお、1時間当りの給電量は夏季よりも多くなっています。

 また、節電量に対する蓄電池からの給電量の割合は2割と低いものでした。旅行や外出している日(特異日)を除いた場合のそれは3割になりますが、夏季の5割と比べるとその割合は低いと言わざるを得ません。この原因は蓄電池に寄らない節電が効果的であったことも一因です。

 今回は、節電量を決定するベースラインの分析により、ベースラインのピーク時にエアコンの運転による消費電力量を減らすことにより節電効果を向上させています。DR時間帯にエアコンに加えて食器洗い乾燥機や洗濯乾燥機の稼働をやめる消費電力量の調整も効果的です。今回のDR時間帯が午前中と夕方に分けられていることで、食器洗い乾燥機等の稼働を数時間ずらすだけで、節電が可能となります。

 DRの対応策として蓄電池の活用を政府が検討しているようですが、今回のDR時間帯の設定では効果的な使用が難しいことが分かりました。家庭用の蓄電池は対応できる最大消費電力が1,000W程度と小さく給電できる家電機器が限定されるため、短時間に多くの給電をすることは難しいからです。

 また、使用する家電機器は各部屋に分散されており、蓄電池が1個の場合はさらに供給が限定されます。蓄電池を効率的にDRに活用するためには、家電機器全てに利用可能な蓄電設備を、住居を新築するときから整備することが必要と考えられます。

<参考文献>
1)経済産業省:第51回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会、資料4-3、ディマンド・リスポンスの活用に向けて、2022年6月30日
2)資源エネルギー庁:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン、2020年6月1日
3)資源エネルギー庁:公式Webサイト、記事一覧、「節電プログラム」で特典をゲットしながら無理なくおトクにディマンド・リスポンス、2022年12月28日
4)東京都:公式Webサイト、都政情報、Web広報東京都、節電キャンペーンに参加してポイントをもらおう!、2022年11月30日
5)東京ガス:公式Webサイト、MyTOKYOGAS、冬の節電キャンペーン2022