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断熱建材

【続報】内窓によるエネルギー消費と暖房代の削減効果を分析してみた!

 冬季の暖房代の増大を抑制するためには、エアコン等の省エネだけでは大きな効果をあげることは難しいと考えられます。暖房エネルギーを削減する基本的な対策は室内の断熱性を向上させることであり、その対策の一つに内窓の設置があげられます。

 内窓の省エネ効果の検討については、速報「内窓の断熱効果を実測で確認してみた!」(2022年12月26日投稿)で内窓の断熱性能の向上を報告しました。今回はエアコンの消費電力量やストーブ(石油ファンヒータ)で使用する燃料などのエネルギー消費量全体への影響、さらに暖房代の削減額について分析した結果を報告します。

 速報では、内窓施工前後の断熱性能について、暖房をしていない夜間時における室内の温度低下について分析し、早朝時の室温の低下がやや緩和していることを見てきました。またその効果は外気温が低いほど大きい(温度低下しにくい)ことも分かりました。

 その後、継続的にエアコンの消費電力量の測定を行ってきました。この測定は内窓の施工前にも行っており、「消費電力量と気温の関係(2)」(2021年12月13日投稿)でその測定結果を用いて外気温と消費電力量との関係を分析した結果を報告しています。

 外気温がさらに低下した12月下旬以降は、暖房としてエアコンだけでなく石油ファンヒータも必要となり、灯油の使用量の測定も行いました。内窓施工前においては、「ストーブ(3)-エアコンとの併用」(2022年3月14日投稿)において、外気温とエアコンの消費電力量と石油ファンヒータの燃料消費量を測定し、外気温と暖房の総エネルギー供給量との関係を分析した結果を報告しています。

 今回は、これらの報告で分析した内容と同じ分析を、内窓施工後のデータを用いて行いました。そして過去の報告で分析した内窓施工前のエネルギー消費量と比較することで内窓の省エネ効果を分析しましたので、以下に報告します。

<本報告のコンテンツ>
 省エネ効果の分析方法
 (1)使用した暖房機器
 (2)消費電力量、燃料消費量の測定方法
 (3)エネルギー供給量の算定方法
 エアコンの消費電力量への省エネ効果
 暖房のエネルギー供給量への省エネ効果
 (1)エアコンと石油ファンヒータの運転方針
 (2)内窓施工によるエネルギー供給量の省エネ効果
 (3)内窓施工による経済的効果
 まとめ

省エネ効果の分析方法

(1)使用した暖房機器

 内窓施工前後の省エネ効果を計測するために、エアコンの消費電力量と石油ファンヒータの燃料消費量を測定します。まず、エアコンは2021年12月末までは三菱電機のMSZ-ZW403Sでした。その後2022年1月からはダイキン工業のAN40ZRBKP-Wを使用しています。

 それぞれの性能仕様を表-1、表-2に示します。どちらも暖房能力5kWですが、通年エネルギー消費効率(APF)は前者が6.3、後者は7.1です。そのため、消費電力量に差が出る可能性はあります。

表-1 測定対象のエアコン(2021年12月まで)

項  目  内 容  
メーカー三菱電機
型 番MSZ-ZW403S
電 源単相200V
冷房能力(kW)4
消費電力(W)1095
冷房期間消費電力量(kWh)333
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室28
木造南向和室18
暖房能力(kW)標準5
低温7.1
消費電力(W)標準1130
低温2750
暖房期間消費電力量(kWh)標準939
低温1272
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室23
木造南向和室18
通年エネルギー消費効率(APF)6.3
出所)三菱電機、三菱ルームエアコン、カタログ
資源エネルギー庁、省エネポータルサイト、省エネ型製品情報サイト、エアコン、2021年11月13日閲覧
備考)消費電力量の算定の仮定条件は以下の通りです。本製品の発売は2012年であるため、JIS規格はJIS C9612:2005に基づいています。
冷房:室内27℃、室外35℃の温度環境で最大風量における仕様値。
暖房:室内20℃、室外7℃(標準)、2℃(低温)の温度環境で最大風量における仕様値。
運転停止中の消費電力は0.04Wです(日本電機工業会自主基準による待機時消費電力測定値「0.0W」を示す)。

表-2 測定対象のエアコン(2022年1月以降)

   項    目  内容(数値)
メーカーダイキン工業株式会社
型 番AN40ZRBKP-W
電 源単相200V
冷房能力(kW) 4.0
消費電力(W) 800
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室 28
木造南向和室 18
暖房能力(kW)標準 5.0
低温9.1
消費電力(W)標準900
低温3,390
面積の目安(m2鉄筋アパート南向洋室23
木造南向和室18
消費電力量 kWh暖房時期間合計761
冷房時期間合計305
期間合計(年間)1,066
通年エネルギー消費効率(APF)7.1
省エネ基準達成率(%)144
冷房定格エネルギー消費効率(冷房COP)5.0
注)各仕様はJIS C9612: 2013に基づきます。期間消費電力量の数値はカタログ値を示しています。
出所)ダイキン工業株式会社:ルームエアコンRX/Rシリーズ、取扱説明書
ダイキン工業株式会社:ルームエアコンカタログ、2021年11月(2022年度製品用)

 次に、測定の対象にした石油ファンヒータは表-3の通りです。暖房出力は最大3.19kW、1時間当り燃料消費量は0.310L/hとなっています。

表-3 測定に用いた開放式石油ファンヒータの仕様

  項  目  内   容
型   式FH-G3215Y
メーカー株式会社コロナ
種  類強制通気形開放式石油ストーブ
点火方式高圧放電点火
使用燃料灯油 (JIS 1号灯油)
燃料消貴璽最大3.19kW (0.310L/h)
最小0.66kW (0.064L/h)
暖房出力最大3.19kW
最小0.66kW
騒音35dB(最大燃焼時)/21dB(最小燃焼時)
タンク容量5.0L
燃焼継続時間16.1時間(最大燃焼時)
暖房のめやす木造 15m2 (9畳)まで
コンクリート 20m2 (12畳)まで
外形寸法高さ426 mm 幅394 mm 奥行き324mm
質量9.3kg
電源電圧及び周波数100V  50/60Hz
定格消費電力点火時最大650W・燃焼時20W
待機時消費電力0.8W
販売年2016年
注)本説明書では灯油の発熱量を37MJ/Lで計算。
出所)株式会社コロナ、石油ファンヒータ取扱説明書

(2)消費電力量、燃料消費量の測定方法

 エアコンの消費電力量と石油ファンヒータの燃料消費量の測定方法は以下の通りです。

 <三菱電機のエアコンの消費電力量の測定方法>

 三菱電機製のMSZ-ZW403Sは、200V対応の電力計エコキーパーEC200を用いて消費電力量を測定しました。エコキーパーEC200は消費電力を0.01kWh 単位で測定できます。その詳細の仕様を表-4に示します。 

表-4 200V電源対応の電力計(ワットチェッカー)

 項  目   仕  様    写  真 
メーカー名株式会社カスタム
製品名・型番エコキーパー、EC-200
定格電圧AC100~240V、50/60Hz
消費電力0.5W以下
測定可能範囲1W~3,000W
測定精度±10%以内
使用温度範囲0~50℃
表示項目使用時間、積算電力料金、1時間当りの電気料金、瞬時電力、積算電力量、CO 2排出量
✳︎積算電力量は10kWhまでは0.01kWh、それを超えると0.1kWhで表示。
注)メーカーホームページでは、本製品は既に生産終了となっていますが、ネット上では販売はされています。

<ダイキン工業のエアコンの消費電力量の測定方法>

 一方、ダイキン工業製のAN40ZRBKP-Wは、エコキーパーEC200のソケット形状が合わず使えませんでした。そのためwifi対応のスマートリモートコントロール機能(写真参照)を用いてiPoneで1時間ごとに積算消費電力量データを受信し、記録しました。

 ただし、本機能で把握できる消費電力量の最小単位は0.1kWhであり、測定精度は十分ではありません。そのため時間変動パターンの分析などの時間単位の分析にはやや難があります。

<石油ファンヒータの燃料消費量の測定>

 石油ファンヒータの燃料消費量は、図-1に示すように石油ファンヒータのON/OFF時刻を記録して、時間帯ごとの稼働時間を算定把握しました。そして、その稼働時間に時間当り燃料消費量(0.31L/h、表-3参照)を乗じて燃料消費量を算定しました。

図-1 石油ファンヒータの稼働時間の測定方法

(3)エネルギー供給量の算定方法

 エアコンは電気、石油ファンヒータは燃料(灯油)を使用します。そのため、暖房に用いたエネルギー量を統一するため、エアコンと石油ファンヒータの供給熱量を消費電力量の単位であるkWhに換算します。

 エアコンは実際に消費された電力量の何倍もの熱量を供給することができます。そこで、定常運転時に用いられる平均成績係数(COP)を3.0と仮定して、エアコンの供給熱量を以下の式で計算します。

 エアコンの供給熱量(kWh)=消費電力量(kWh)×平均成績係数COP(3.0)

 次に、石油ファンヒータは稼働時間に稼働時間当り灯油消費量(0.31L/h)を乗じて灯油消費量を算定します。そして、これに灯油発熱量(37MJ/L)を乗じて石油ファンヒータの供給熱量(MJ単位)を算定し、さらにこれを換算係数3.6で除してkWh単位に換算します。

 石油ファンヒータの供給熱量(kWh)=稼働時間(h)×時間当り灯油消費量(0.31L/h)×灯油発熱量(37MJ/L)/3.6(MJ/kWh)

 これらから、暖房のためのエネルギー供給量を以下で算定します。

 暖房エネルギー供給量(kWh)=エアコンの供給熱量(kWh)+石油ファンヒータの供給熱量(kWh)

エアコンの消費電力量への省エネ効果

 内窓の施工後2022年11月11日から12月10日まで、暖房としてエアコンのみを使用しており、その消費電力量を1時間毎に測定しました。また、外気温と室温も同時に1時間毎に測定しています。測定結果の一例(12月3日)を図-2に示します。消費電力量はエアコンの表示が0.1kWh単位のため、時間別には大まかな把握しかできません。

図-2 エアコンの消費電力量と外気温、室温の推移

 このデータ精度からは時間変動パターンの分析は困難のため、1日単位の消費電力量を分析します。平均外気温(エアコンが稼働している5時から22時までの平均)と1日消費電力量の推移を図-3に示します。これらのデータは外出した11月29日と30日を除いた28日分です。

 これを見ると平均外気温が下がっていくにつれてエアコンの消費電力量が増加していくのが分かります。12月に入って特に気温が低下したため、エアコンの消費電力量も5kWhを超えるなど大きく増加しました。

図-3 平均外気温とエアコンの消費電力量の推移

 次に、このデータを用いて平均外気温と消費電力量の回帰式を作成しました。その結果を図-4に示します。回帰式の決定係数は0.9356であり、非常に当てはめ度合いは高いと言えます。

 図-4には今回計測したデータに加えて、内窓施工前の2021年のデータにより作成した回帰式を示しています(「消費電力量と気温の関係(2)」2021年12月13日投稿を参照)。この分析では2021年の測定データを使用しており、エアコンは三菱電機のMSZ-ZW403Sです。

図-4 平均外気温とエアコンの消費電力量の関係

 これらの回帰式を使ってデータの範囲である平均外気温8℃から18℃まで1℃刻みで消費電力量を計算しました(表-4)。その結果、エアコンの消費電力量は外気温8℃では15%、18℃では5%、平均12%削減されていることが分かりました。

表-4 内窓施工前後のエアコンの消費電力量の変化

外気温(℃)施工前消費電力量(kWh)施工後消費電力量(kWh)変化率
86.115.1884.8%
95.674.8385.2%
105.244.4885.5%
114.804.1386.0%
124.373.7886.5%
133.943.4387.1%
143.503.0888.0%
153.072.7388.9%
162.642.3990.5%
172.202.0492.7%
181.771.6995.5%
平均88.2%

 ただし、残念ながらこの結果はエアコンが内窓施工前後で買い換えられているため、内窓の効果かエアコンの性能による違いか分からないと言えます。

暖房のエネルギー供給量への省エネ効果

(1)エアコンと石油ファンヒータの運転方針

 12月中旬からはストーブ(石油ファンヒータ)の使用が必要になり、エアコンのみではなく石油ファンヒータによる暖房が加わりました。そのため、エアコンと石油ファンヒータからの暖房のエネルギー供給量への影響を分析します。

 計測した期間は2022年12月21日から2023年1月31日までであり、旅行や外出した際のデータを除いた35日分で分析を行います。前述の通り石油ファンヒータは稼働時間を記録し、それを燃料消費量に変換します。そして、両方の暖房機器のエネルギー量を同一の指標で表すためkWh単位に変換します。

エアコンと石油ファンヒータの運転方針は以下の通りです。

●朝5時~5時半の時間帯で石油ファンヒータをONにする。
●室温が20℃を超えた時点で石油ファンヒータをOFFにし、エアコンをONにする。
●室温の変動に応じて必要な場合に石油ファンヒータのON、OFFを行う。
●石油ファンヒータのON、OFFに関係なくエアコンは継続的に運転する。
●石油ファンヒータの設定温度は22℃、エアコンの設定温度は22.5℃とする。
●エアコンの運転メニューは「暖房運転」とし、加湿、除湿運転は行わない。
●暖房は21時から22時には終了する。

 運転方針の分かりやすい説明のため、1日のエネルギー供給量(熱量)の時間変動の一例(1月20日)を図-5に示します。エアコンの消費電力量と石油ファンヒータの燃料消費量から供給熱量に換算したものを示しています。また、図-6には同じ日の外気温と室温の推移を示します。

 図-5より石油ファンヒータの稼働中はエアコンの消費電力量は少なく、石油ファンヒータを停止しているときはエアコンの消費電力量が大きくなっています。また、外気温と室温が上昇した15時から16時のエアコンの消費電力量は非常に少なくなっており、エアコンが室温に応じた制御をしていることが分かります。

図-5 暖房のエネルギー供給量の時間変動(2023年1月20日)

 図-6を見ると外気温(青色線)は朝8時に4℃まで低下し、その後上昇して16時に最高気温になった後は低下してきます。室温(茶色線)は石油ファンヒータを点火してから、6時以降21時までは20℃から22.5℃の範囲を保っており、エアコンの温度管理が十分に行われていることが分かります。

 この日は石油ファンヒータを5時から8時までと、夕方18時30分から19時10分まで2回稼働させています。日によっては、室温の変動によって3回から4回稼働させるときもありました。石油ファンヒータとエアコンを同時に稼働させるときは温度設定範囲を超えるときもあり、エアコンの温度制御が難しい場合があるようです。

図-6 暖房時の外気温、室温の時間変動(2023年1月27日)

(2)内窓施工によるエネルギー供給量の省エネ効果

 次に、計測した期間の1日のエネルギー供給量と平均外気温の推移を図-7に示します。エネルギー供給量は20kWhから46kWh(平均30.4kWh)まで大きく変動しています。外気温が下がった1月下旬にエネルギー供給量が急増していることが分かりますが、外気温との明確な関連は分かりません。

図-7 平均外気温とエネルギー供給量の推移

 そこで、外気温とエネルギー供給量の関係を示したものが図-8です。図-8は横軸に外気温、縦軸にエネルギー供給量をとっています。この回帰式を図中に示していますが、決定係数は0.3386と非常に低い数値となっており、統計的に有意とは言えません。

図-8 平均外気温とエアコンのエネルギー供給量の関係(内窓施工後)

 ここで、内窓の施工前後のエネルギー供給量を比較するために、内窓施工前のデータを基に同様の回帰式を作成した結果を図-9に示します。なお、このデータは2022年1月以降のエアコン買い換え後に測定したものです。データ数は13と少ないですが、決定係数は0.6714と比較的当てはめが良いことが分かります。

図-9 平均外気温とエアコンのエネルギー供給量の関係(内窓施工前)

 作成された回帰式を用いて観測された外気温の範囲内(4℃~10℃)でエネルギー供給量を推計した結果を表-5に示します。内窓施工前後の変化は6~11%程度の削減となりました。ただし、これは図-8に示したように、内窓施工後のデータがばらついており、統計的に有意ではない回帰式を使った結果です。

表-5 平均外気温によるエネルギー供給量の推計値の比較(参考)

外気温 (℃)内窓施工前エネルギー供給量(kWh)内窓施工後エネルギー供給量(kWh)変化率(%)
441.6337.1889.3
538.4834.5289.7
635.3231.8790.2
732.1729.2190.8
829.0226.5691.5
925.8723.9092.4
1022.7221.2593.5
平均91.1%

 そのため、回帰式による推計値の比較ではなく、外気温が類似した日の実際のエネルギー供給量の比較を行います。外気温を1度毎の階級別に実際のエネルギー供給量の平均値を集計したものを表-6と図-10に示します。

表-6 平均外気温の階級ごとのエネルギー供給量の実績平均値の比較

外気温(℃)の階級施工前のエネルギー供給量(kWh)施工後のエネルギー供給量(kWh)変化率 (%)
6≦x<733.628.986.0
7≦x<833.029.388.8
8≦x<930.926.786.4
9≦x<1029.626.689.9
平 均88.2
図-10 内窓の施工前後の暖房エネルギー供給量

 この結果より、施工後の方が10~14%程度(平均12%)のエネルギー供給量が軽減していることが分かります。これらのことから、今回の内窓の施工によって暖房のエネルギー供給量が約1割程度軽減できたことが分かりました。

(3)内窓施工による経済的効果

 次に、ここでは内窓の省エネの経済効果を分析します。まず、エアコンと石油ファンヒータの供給熱量当り価格を整理すると表-7の通りです。石油ファンヒータ(灯油代)の供給熱量当り価格は10.83円/kWh、エアコン(電気代)のそれは14.93円/kWhとなっています。ここで電気の価格のkWhは消費電力量ではなく供給熱量であることに注意してください。このことから現状では、灯油の価格の方が有利となっています。

表-7 エアコンと石油ファンヒータの供給熱量当り価格

エネルギー単位熱量換算係数供給熱量エネルギー価格供給熱量当り価格 
ファンヒータ(灯油)37MJ/L3.6MJ/kWh10.28 kWh/L111.3円/L10.83 円/kWh
エアコン(電気)33 kWh/kWh44.8円/kWh14.93 円/kWh
注1)灯油の料金単価(111.3円/L)は店頭現金価格(消費税込/18L)、全国平均値の1月平均値(2003円)より換算。
注2)電気の料金単価(44.8円/kWh)は、東京電力EP、スタンダードS、関東地区、400kWh使用時、2023年1月料金単価。
注3)単位のkWhは消費電力量、イタリックのkWhは熱量を表す。

 経済効果を分析するにあたり、暖房の熱量がどの暖房機器から供給されるかによって変わってくるため、3つのシナリオを設定しました。表-8に示すように、灯油の供給熱量の全供給熱量に対する比率が50%、30%、0%の3ケースを計算しました。

 この計測期間の平均供給熱量は30.4kWhであるため、これに上記の比率を乗じて、暖房機器別の供給熱量を算定します。そしてこの供給熱量に表-7で算定した供給熱量当り価格を乗じて、燃料の費用を算定します。なお、内窓施工前の費用は、内窓施工後の費用を0.88(表-6参照)で除して算定します。

表-8 内窓の経済効果(試算値)

項     目case1case2case3
暖房機器使用シナリオ灯油50%、電気50%灯油30%、電気70%灯油0%、電気100%
灯油熱量 kWh/日15.29.120
供給熱量当り価格 円/kWh10.8310.8310.83
費用 円/日164.698.80
電気熱量 kWh/日15.221.2830.4
供給熱量当り価格 円/kWh14.9314.9314.93
費用 円/日226.9317.7453.9
合計熱量 kWh/日30.430.430.4
費用 円/日391.5416.5453.9
費用 円/月11,745 12,495 13,617
経済効果施工前費用 円/月13,347 14,199 15,474
経済効果 円/月1,602 1,704 1,857
冬季合計 円/4カ月6,408 6,816 7,428
注)施工前費用は合計費用(月額)を0.88(表-6より)で除して算定。

 その結果は表-8に示すように、1か月の費用軽減額はケース順に、1,602円、1,704円、1,857円となりました。冬季の暖房を使用する期間を4カ月と仮定すると、冬季の軽減額は順に6,408円、6,816円、7,428円となっています。以上の計算は非常に大雑把な計算ですが、オーダー的な把握が可能と思われます。

 この数値は暖房に関して内窓施工前から省エネを心がけている状態で測定していますので、省エネを心がけていない場合はより大きな経済効果が出てくる可能性はあります。また、この分析結果は2023年1月時点での評価であり、エネルギー価格の変動により変わっていくものであることに留意する必要があります。

まとめ

 今回は前回の速報に引き続き、内窓施工前後の暖房のエネルギー消費量と暖房代の比較を行いました。内窓の施工は2022年10月末であり、11月以降が内窓施工後のデータ、10月中旬までが施工前のデータです。ただし、2022年1月にエアコンの変更があったため、2021年に分析したものは異なるエアコンのものであるため注意が必要です。

 まず、暖房にエアコンのみを用いた期間(2022年11月中旬から12月上旬まで28日)において、外気温とエアコンの消費電力量を測定し、それらのデータから回帰式を作成しました。内窓施工前にも同様の方法で回帰式(2021年のデータ使用)を作成していました。そのため両者を用いて同一の外気温に対する消費電力量の推計値を比較したところ、内窓施工前に比べて平均で12%の消費電力量の低減が見られました。

 次に、12月下旬からは気温が下がったためストーブ(石油ファンヒータ)も使用しました。2022年12月21日から2023年1月末までエアコンの消費電力量に加えて石油ファンヒータの稼働時間を記録し(灯油消費量を推計)、外気温を測定し有効データ35日分を得ました。

 その石油ファンヒータから得られる熱量とエアコンの消費電力量から得られる熱量の合計を暖房のエネルギー供給量としました。回帰分析の結果、エネルギー供給量は内窓施工前に比べて5~10%削減されていました(内窓施工前のデータは2022年の測定データであり、同一のエアコンを使用)。

 ただし、この分析結果は外気温とエネルギー供給量との回帰式を統計解析上有意でないものを用いていました。そのため、回帰式によらず実際の外気温が類似した日の実績値の比較を行った結果、施工後の方が1割程度エネルギー供給量が低減していました。

 さらに、内窓の省エネの経済効果を分析すると、石油ファンヒータとエアコンをどのように使用するかに依存しますが、概ね1か月1,600円から1,850円程度の削減効果があることが分かりました。

 このように今回測定したデータからは内窓の省エネ効果は、全体の供給エネルギー量の1割程度にとどまりました。外気に面している窓の熱損失が大きいと言われていますが、室内を囲む6面のうちの1つ(さらにその一部)に過ぎませんので、大きな効果を望むためには壁面の断熱が必要になるものと思われます。