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太陽電池

太陽電池(1)-性能と特徴

 前回は「GX実現に向けての基本方針」を解説しました(GXとはGreen transformationの略であり、社会・経済活動におけるエネルギー利用を化石燃料主体から脱炭素エネルギーに移行していく意味があります)。このエネルギー供給を脱炭素化するための中心施策は再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化でした。

 国内の再エネの電源比率は既に20.3%(2021年度実績、資源エネルギー庁)に達していますが、2030年目標の36~38%にはまだ大きく不足しています。上記の基本方針では、再エネのうち洋上風力発電と次世代型太陽電池に焦点を当てていました。これらの再エネに注目しているのは、比較的短期間でまとまった供給力を整備できるためと考えられます。そのうち、太陽電池は国産再エネとして期待されるペロブスカイト太陽電池の開発、実装化が期待されていました。

 今回から2050年のカーボンニュートラル(脱炭素化)に必要な再エネの1つである太陽電池について整理していきます。太陽電池は一般の家庭でも使われており、一部自治体では新築の建物に太陽電池を設置することを義務化する動きもあります。省エネ対策の1手段として、太陽電池の性能(発電量)や今後の能力向上の可能性を知っておくことも重要と言えます。

 太陽エネルギーを利用するには太陽電池(太陽光を電気エネルギーに変換する)の他に、太陽熱を利用する方法もあります。これも化石燃料消費を低減させる有効な方法ですが、今回は太陽電池に限定して整理していきます。

 太陽電池の検討は3回に分けて報告します。太陽電池についてまず知りたいことは、その原理や特徴、そしてどのくらい発電できるのかということでしょう。また場所(緯度)、設置する屋根の方位や傾きなどによって発電量が左右されますが、それはどのくらい影響があるのでしょうか。また、期待されているペロブスカイトはどのような優れた特徴を有しているのでしょうか。初回は、このような基本的な疑問への回答を整理していきます。

 さらに、第2回目で太陽電池を含めた再生可能エネルギーを電源の中心にする場合の電力システム上の課題や、普及に向けた対策について、FIT制度などの状況も踏まえて検討していきます。そして、最後に第3回目では各家庭で太陽電池を導入する際の留意点、価格、費用効果、補助制度、維持管理、廃棄・リサイクルなどの課題について整理していきます。

<本報告のコンテンツ>
太陽エネルギーについて
太陽電池の原理と特徴
(1)太陽電池の原理と太陽光発電システムの構成
(2)太陽電池の種類と特徴
次世代型太陽電池(ペロブスカイト)
(1)原理と特徴
(2)開発状況と今後の課題
太陽電池による発電量
(1)年間発電量の計算方法
(2)太陽光パネルの方位、傾きによる発電量の相違

太陽エネルギーについて

 まず、太陽電池の説明の前に太陽エネルギーとはどういうものなのかを整理します。太陽は地球から1.5億kmの遠くから3.85×1023kWのエネルギーを発しています。地球の大気圏に到達したエネルギー量は1.38kW/m2であり、そのうち70%の1kW/m2が地表に到達し、51%が直射光として、19%が散乱光として熱になります1)

 太陽から到達するエネルギーは地球の緯度によって異なり、低緯度ほど大きなエネルギーを得ることができます。日本は中緯度のため直射光は少なく、また日照時間などによって受けるエネルギー量が減少していきます。日本の主要地点の全天日射量(日積算値の月平均値)を表-1に示します。全天日射量とは地上の水平面に全天から到達する日射量を指します2)

表-1 全天日射量の日積算値の月平均値と年間平均値

1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月 年
札幌1.672.473.534.475.115.224.834.423.692.641.691.363.43
仙台2.313.083.864.694.944.443.974.003.332.892.311.973.48
東京2.613.193.694.474.814.114.334.393.312.722.392.253.52
大阪2.312.893.754.675.144.674.925.113.893.192.502.143.76
福岡2.062.863.754.695.114.474.674.864.033.502.531.943.71
鹿児島2.503.173.834.674.923.925.065.194.393.782.892.423.89
那覇2.442.973.614.224.645.085.815.334.753.923.032.504.03
注)データは1991年から2020年までの平均値。理科年表2022の値(MJ/m2)を単位換算(kWh/m2
出所)理科年表2022、国立天文台編、丸善出版

 表-1より全天日射量の年間平均値(最右列)を見ると、札幌3.43kWh/m2、東京3.52kWh/m2、大阪3.76kWh/m2、那覇4.03 kWh/m2などとなっています。これを緯度(都道府県庁の緯度)との関係でみると図-1に示すように、低緯度ほど全天日射量(年平均値)が大きいことが分かります。

出所)国立天文台編:理科年表2022、丸善出版、2021年11月30日
図-1 緯度と全天日射量の年平均値との関係

 全天日射量の月平均値の変動を見たものが図-2です。日照時間の長い夏季が大きく、冬季が小さくなっています。地点別のピークは那覇が7月、札幌は6月、東京は5月となっています。東京のピークが5月なのは、6、7月が梅雨によって日照時間が少ないためと考えられます。

 実際に太陽光によって発電できる量は、緯度のほかに太陽光パネルの方位と傾き、太陽電池の変換効率、各種設備の損失などにも影響を受けることになります。

出所)国立天文台編:理科年表2022、丸善出版、2021年11月30日
図-2 日本の主要地点の全天日射量の月別平均値

太陽電池の原理と特徴

(1)太陽電池の原理と太陽光発電システムの構成

 一般的な太陽電池は、太陽からの光エネルギーを直接、電気に変換する半導体の一種です3)。半導体にはn型半導体とp型半導体の2種類があり、太陽電池は図-3に示すようにn型とp型を積み重ねた構造となっています。表面に光が当たるとプラスとマイナスを持った粒子(正孔と電子)が発生し、マイナスの電気はn型半導体のほうへ、プラスの電気はp型半導体のほうへ移動し、電気が流れます。

出所)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版、2014年
図-3 一般的な太陽電池の構造

 太陽光発電の基本的なシステムは、図-4に示すように太陽電池モジュール・アレイ、接続箱、集電盤、パワーコンディショナなどで構成します。NEDOの再生可能エネルギー白書に記載してある説明をコラムに示しています。

出所)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版、2014年
図-4 太陽光発電システムの構成
<太陽光発電システムの構成>NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版より引用
1)太陽電池セル
 光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接、電力に変換する電力機器で、太陽電池の最小単位をいう。
2)太陽電池モジュール
 複数の太陽電池セルを所定の出力が得られるように電気的に接続したものを、長期間の使用に耐えられるようガラスや樹脂を用いて封止し、機械的強度を確保するとともに、固定設置するための枠を取り付けたものをいう。
3)太陽電池アレイ
 電圧を高めるため、太陽電池モジュールを複数枚、直列に接続したものを太陽電池ストリングと呼ぶ。太陽電池ストリングをさらに複数、並列に接続し、所定の電力が得られるように構成し、架台などに固定したものをいう。
4)接続箱
 目的の電流・電圧が得られるよう太陽電池アレイを構成するために、必要な枚数の太陽電池モジュールをつなぎ込むための端子台を備えた機器をいう。端子台機能の他に、故障や事故でストリング間に電圧差が発生したときに高電圧のストリングから他のストリングに電流が流れ込むのを防ぐための逆流防止ダイオード、誘導雷などによって発生した雷ノイズを吸収するためのサージアブソーバ、 保守点検時のための直流側開閉器などが内蔵されている。
 また、屋根スペースの関係で太陽電池モジュールの直列数が少なく、既定の電圧が取れない場合や、各ストリングの電圧が不均一になってしまう場合に、各ストリング間の電圧バランスを調整するためのコンバータ機能を内蔵した接続箱も商品化されている。
5)集電盤
 発電した直流電力を一つにまとめてパワーコンディショナに供給する装置をいう。
6)パワーコンディショナ(PCS)
 太陽電池からの直流電力を一般の電気器具で使用可能な交流電力に変換するとともに、商用系統との連系運転や自動運転に必要な各種保護・制御機能を備えたものをいう。系統側が停電していても、スイッチの切り替えによって専用のコンセントからAC100Vを出力する自立運転機能、および接続箱や昇圧コンバータの機能を内蔵したタイプのパワーコンディショナも商品化されている。
 パワーコンディショナの出力容量は、一般的に、住宅用で10kW未満、公共・産業施設用で10~100kWであり、家庭用(3~5kW)では1 台、公共・産業施設用では発電出力に合わせて複数台のパワーコンディショナが必要となる。
7)蓄電池
 電気エネルギーを化学エネルギーに変えて保存し、必要に応じて電気エネルギーとして取り出して使うことができる電気機器をいう。系統連系システムに蓄電池を設置することによって、出力変動の抑制、電力貯蔵、災害時の電力供給などが可能となる。

(2)太陽電池の種類と特徴

 太陽電池の種類と特徴を表-2に示します3)。大別すると原料の種類によってシリコン系、化合物系、有機系の3種に分かれます。最も一般的なのがシリコン系の単結晶であり、日本が次世代型太陽電池として開発の中心にしているのが有機系の有機薄膜の1種であるペロブスカイト太陽電池です。

 表-2に示す変換効率とは太陽の日射量(エネルギー)を電気エネルギーに変換する割合のことです。シリコン系単結晶は変換効率が20%程度で高い値を有するのに対して、多結晶は15%まで、薄膜型は9%までと比較的低い効率となっています。しかし、多結晶は単結晶より安価であり、薄膜系は大面積の生産が容易で量産が可能なため、さらに安価になっています(NEDOの白書は2014年公表であり、変換効率はその時点の数値です)。

表-2 太陽電池の種類と特徴

 種 類   特   徴 メリット 課 題変換効率実用化状況
シリコン系結晶系単結晶160~200µm程度の薄い単結晶シリコンの基板を用いる性能・信頼性低コスト化〜20%実用化
多結晶小さい結晶が集まった多結晶の基板を使用単結晶より安価単結晶より効率が低い〜15%実用化
薄膜系アモルファス(非晶質)シリコンや微結晶シリコン薄膜を基板上に形成大面積で量産可能効率が低い〜9%実用化
化合物系CIS系銅・インジウム・セレン等を原料とする薄膜型省資源・量産可能・高性能の可能性インジウムの資源量〜14%実用化
CdTe系カドミウム・テルルを原料とする薄膜型 省資源・量産可能・低コストカドミウムの毒性〜3%実用化
III-V族系III族元素とV族元素からなる化合物セルに多接合化・集光技術を適用超高性能低コスト化(セル効率)〜38%研究段階
有機系色素増感酸化チタンに吸着した色素が光を吸収し発電する新しいタイプ低コスト化の可能性高効率化・耐久性(セル効率)〜14%研究段階
有機薄膜有機半導体を用いて塗布だけで作製可能低コスト化の可能性高効率化・耐久性(セル効率)〜12%研究段階
注)セル変換効率:太陽エネルギーから電気エネルギーへの変換効率
出所)NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版、2014年

 化合物系の太陽電池は銅、セレン、カドミウムなどの金属を用いた省資源で量産可能な太陽電池です。CIS系は、銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)の化合物を組み合わせたものであり、NEDOプロジェクトでセル効率として23.4%を達成しています(2018年11月)4)

 Ⅲ-V族系は周期律表のⅢ族のガリウム(Ga)とⅤ族のヒ素(As)を主原料とする化合物半導体を用いた太陽電池であり、38%(セル効率)までの変換効率が確認されています。Ⅲ-V族系は変換効率は高いですが高価なため、人工衛星などの宇宙用太陽電池として使用されています4)

 有機物系は色素増感、有機薄膜の2種類があり研究開発段階ですが、いずれも低コスト化の可能性があります。セル変換効率が12~14%程度となっていますが(参考文献の書かれた時点の値)、近年の開発の進展によって効率が改善されているようです(後述)。

次世代型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)

(1)原理と特徴

 ここでは、「GX実現への基本方針」に示された次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池について、その原理と特徴について説明します。

 有機薄膜の太陽電池は、p型の有機半導体に導電性ポリマーを、n型の有機半導体にフラーレン誘導体をそれぞれ用いています。2種類の有機半導体を混ぜて溶かした液を、電極の付いた基板上に塗布して薄膜にした後、薄膜上に電極を形成するという極めて簡易な製造方法で太陽電池を作製することができます3)

 有機薄膜の太陽電池の効率向上のため有機半導体に増感材を組み込む方法等が盛んに研究されました。ペロブスカイト太陽電池は光電変換材料にペロブスカイト材料を用いており、2009年9月桐蔭横浜大学の宮坂力教授らが発明しました。ペロブカイト太陽電池は、分離した電子と正孔が再結合して熱として再放出されることを防止するための電子移動層と、正孔移動層と分離された電子と正孔を電気エネルギーとして取り出す集電極から構成されます4)

 有機・無機のハイブリッド材料より形成されるペロブスカイト太陽電池の発電層、電子移動層、正孔移動層は、原材料を溶剤に溶解或いは分散したインクを用いて塗布により形成されるため、製造コストが安価であることが特長です。また、基板にフィルムを用いることで、フレキシブル性、軽量性があるため、様々な用途への展開が見込まれています。

(2)開発の進捗状況と今後の課題

 2019 年には東京大学のグループらが直列のペロブスカイト太陽電池ミニモジュール(2.76cm2)で変換効率20.7%を、単体セル(0.187cm2)で22.3%を達成しました(図-5)。高効率のペロブスカイト太陽電池は、大面積化や製品化に技術的課題がありますが、研究ベースでは変換効率を30%に近づける要素技術や、他の光吸収バンドを持つ太陽電池と積層するタンデム技術が進められています4)

出所)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenges 2020)、2020年12月
図-5 東京大学が開発した高効率ペロブスカイト太陽電池

 ペロブスカイト太陽電池は基板に一様に塗布することが技術的課題であり、小面積では高い変換効率が達成できるものの、大面積になると変換効率の向上が難しいとされています。新たなプロセス開発により、従来両立の困難であったセルの大面積化と高効率化が実現しつつあります。

 株式会社東芝は、大規模な面積(703cm2)のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールの変換効率15.1%を達成しました(2021年9月)5)。またパナソニック株式会社は単セル変換効率21.8%、縦30cm×横30cm×厚さ2mmの太陽電池モジュールとして変換効率17.9%を達成(2020年7月)しています6)(写真-1)。

 また、ペロブスカイト太陽電池の大きな課題は耐久性とされています。現在、耐久性は改善しつつありますが、一般に品質保証期間が20年の結晶シリコン太陽電池とは大きな差があります。今後、構造面等から耐久性を大きく改善していくことが求められています。

 現在、「次世代型太陽電池実用化事業」(2021年度~2025年度まで)がNEDOのプロジェクトとして実施されています。ここでは、ペロブスカイト太陽電池の実用サイズモジュール(900cm2以上)の作製技術の確立、一定条件下で発電コスト20円/kWh以下(2030年までに14円/KWhを目指す)を実現する要素技術を確立することが目的です7)

 そのため、製品レベルの大型化を実現するための各製造プロセス(例えば塗布工程、電極形成、封止工程など)の個別要素技術の確立に向けた研究開発を行います(図-6)。また、これら研究開発を行う事業者の目標達成に必要なセルや材料に係る基盤技術開発を行います。

出所)資源エネルギー庁:グリーンイノベーション基⾦事業「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画
図-6 製造プロセスにおける技術基盤開発の内容

太陽電池による発電量

(1)年間発電量の計算方法

 ここでは、太陽電池によって日本ではどの程度の発電が可能なのかについて試算します。太陽光発電システムを導入する際の費用効果を分析するためには、年間の発電量が重要な要素です。年間発電量の算定式を以下に示します8)

 Ep=∑{(Hi×Khi×Kpcs×Kj×P)×di}(i=1〜12)

  Ep:年間予測発電量(kWh/年)
  Hi:太陽光パネルの設置面の1日当りの日射量(kWh/m2/日)(月別に変動)
   ※日射量は、NEDOの日射量データベースより入手。
  Khi:セルの温度上昇による損失(月別に変動)
  Kpcs:パワーコンディショナーによる損失(約8%)
  Kj:配線や受光面の汚れ等によるその他の損失(約7%)   
  P:太陽電池の能力(kW)
  di:i月の日数(日)

 ここで、日射量の月間平均値は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の日射量データベースから得ることができます9)
 NEDO日射量データベース閲覧システム:
 https://appww2.infoc.nedo.go.jp/appww/index.html

 この閲覧システムは、日本の特定の地点を選び、太陽光パネルの方位と傾きをデータ入力するだけで、日射量の月間平均値を求めることができます。一例として、以下の事例で太陽光発電システムによる年間発電量の推計を行った結果を示します。条件は以下の通りです。

 ・場所:東京都台東区上野公園(メッシュ番号53394651)
 ・緯度・経度:北緯 35°42.7′、東経 139°46.1′
 ・方位:南向き
 ・傾斜角:30度

 まず、メニュー画面で年間月別日射量データベース(MONSOLA-20)を選択します(図-7の中央のボタン)。

図-7 NEDO日射量データ閲覧システムのメニュー画面

 次に、地図を参考に該当する場所を指定します(図-8)。ここでは、住所検索やメッシュ番号の指定もできます。上野公園のあるメッシュ53394651を選び、右下の「この地点のグラフを表示」ボタンを押します。

図-8 NEDO日射量データ閲覧システムのメッシュ指定画面

 図-9の画面の左の入力部で傾斜角と方位を入力します。右側には月別、年平均、季節別の日射量が表示されます。デジタルデータは左最下部の「データ一覧表を表示」から得ることができます。

図-9 NEDO日射量データ閲覧システムの入力、出力画面

 上記の条件から得られた月別平均日射量を表-3の1行目に示しています。これに各種損失係数(Khi、Kpcs、Kj)を乗じて算定した月別発電量(Ep)を集計した結果、年間発電量(Ep計)は1,162.8kWhとなりました。

 これは、発電能力1kW当りの発電量ですので、これに太陽電池の能力を乗じることで年間発電量が得られます。もし、5kWの太陽光パネルを設置している場合は、5を乗じて約5,800kWhとなります。売電価格が20円/kWhとすると、1年で約116,000円(全量を売電した場合)の収入が得られることになります。

表-3 年間発電量の計算の一例

1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
日射量Hi4.704.344.674.895.234.244.704.673.933.533.634.00
Khi0.90.90.90.850.850.80.80.80.80.850.850.9
Kpcs0.920.920.920.920.920.920.920.920.920.920.920.92
Kj0.930.930.930.930.930.930.930.930.930.930.930.93
日数di312831303130313130313031
発電量Ep112.293.6111.5106.7117.987.199.799.180.779.6079.295.5
Ep合計1,162.8
注1)日射量(日量)の単位はkWh/m2 、Epは月単位の発電量(kWh/m2)。
注2)損失係数(Khi、Kpcs、Kj)は太陽光発電協会、マニュアルによる。

(2)太陽光パネルの方位、傾きによる発電量の相違

 ここでは、太陽光パネルの方位(屋根の向き)と傾きによる発電量の相違を分析します。上記の例と同じ地点(東京都台東区上野公園)で方位(屋根の向き)と傾きを変えて計算した年間発電量を図-10に示します。同図には年間発電量の最大値(方位:南、傾斜角:30°)に対する比率も示しています。

 方位別には、南が最も発電量が多く、次いで南西と南東、さらに西と東の順になり、北が最も少なくなっています。また、傾き別には30°が最も多く、90°が最も少なくなっており、どの方位でも同じ傾向にあります。これは、この場所の緯度が北緯35度であることが原因と考えられます。

 これらのことから、この地点で最も発電量が多くなるのは南向きで30°の傾きの時であることが分かります。逆に北向き90°の傾きの場合が最も少なく、最大値に対して3割程度しか発電しないことが分かります(図-10の折れ線グラフより)。

図-10 太陽光パネルの方位、傾き別の年間発電量

 次に、方位別の月間発電量の推移を示したものが図-11です。方位が南の場合の月変動は比較的少ないのに対し、方位が北の場合は冬季の発電量が非常に少なくなっており、5月の発電量の2割程度にまで減少しています。なお、6月の発電量が少ないのは梅雨による日照時間が少ないことの影響と思われます。

図-11  方位別の月間発電量の変動

 このように、太陽光発電システムを導入する際には、上記の計算に基づく年間発電量を算定して、費用効果を確認したうえで導入することが必要です。また、住居を新築する際には、太陽電池の効率的な設置が可能な住居の設計を考慮することも必要になります。次回は、日本の太陽光発電導入の施策について、検討していきます。

<参考文献>
1)化学工学会SCE・Net編:新エネルギーのすべて(改訂版)、工業調査会、2009年
2)国立天文台編:理科年表2022、丸善出版、2021年11月30日
3)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO再生可能エネルギー技術白書第2版、2014年
4)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenges 2020)、2020年12月
5)東芝:公式Webサイト、世界最高のエネルギー変換効率15.1%を実現したフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発、2021年9月10日
6)樋口洋他:大面積ペロブスカイト太陽電池モジュールの高効率化、パナソニック技術ジャーナル、Vol.68、No.1、2022年5月
7)資源エネルギー庁:グリーンイノベーション基⾦事業「次世代型太陽電池の開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画、2021年10⽉1⽇
8)太陽光発電協会:表示ガイドライン、2022年度
9)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO日射量データベース閲覧システム:https://appww2.infoc.nedo.go.jp/appww/index.html