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太陽電池(2)-太陽光発電の普及施策

 再生可能エネルギー(再エネ)の普及は脱炭素化に欠かすことのできないものです。そのうち太陽光発電を行う太陽電池は永遠のエネルギー源である太陽エネルギーを利用した最もクリーンな発電技術と言えます。

 前回は太陽電池の原理や発電量などの性能について整理してきました。太陽電池が発電した電力量はこの間大きく増加してきましたが、2030年の目標には不足しています。今後はどのような対策を進めていけば良いのでしょうか。

 太陽電池を主体とする太陽光発電設備は短期的に整備ができ、住宅などに設置できる分散型電源であり、電源(グリッドへの売電)としても自家消費する節電対策としても利用が可能なため、脱炭素化のための極めて有用な技術です。しかし、晴天日の昼間しか発電しないため、グリッド電源として利用する場合はそれを補完するための電源を確保する必要があることが大きな課題です。

 また、大規模な太陽光発電設備が山間部の森林を伐採して設置した結果、大雨での土砂流出などの災害を招いた事例もあります。また景観の悪化、生物多様性への悪影響など周辺環境を悪化させた事例も出てきました。そのため、太陽光発電の立地を規制する条例を定める自治体も増えてきました。

 さらに、太陽光発電設備の設置には多くの補助金が利用されていますが、その費用は電気料金の上乗せにより電気使用者が支払っています。最近のエネルギー需給の逼迫から電気料金の高騰が続いていることから、こうした負担を軽減することも必要です。これらを踏まえ、太陽光発電設備の導入に伴う課題とその対応策を整理する必要があります。

 本報告ではまず、これまでの太陽光発電設備の普及状況を概観し、普及を促進した施策とその課題を整理します。次に、今後太陽光発電を含む再エネを主力電源とする場合の課題と対応策について分析します。さらに、費用負担や防災、環境問題を解決する施策について整理し、最後に再エネ目標の達成に向けた対策を検討したいと思います。

<本報告のコンテンツ>
これまでの太陽光発電の普及施策と課題
(1)日本における太陽光発電の導入状況
(2)太陽光発電を促進したFIT制度
(3)太陽光発電の利用上の課題
太陽光発電の主力電源化に向けての対応策
(1) 再エネを主力電源とする際の問題点
(2) 発電電力量の変動に対する対応
FIT制度からFIP制度への移行
(1)FIP制度の概要
(2)FIP制度のメリット、デメリット
その他の課題への対応
(1)環境保全、防災対策
(2)FIT期限を迎える太陽光発電への対策
再エネ目標の達成に向けて
(1)太陽光発電の達成目標
(2)野心的な導入施策




これまでの太陽光発電の普及施策と課題

(1)日本における太陽光発電の導入状況

 日本の電源構成(発電電力量ベース)の推移を図-1に示します1)。原子力は2011年以降大幅に減少して、近年は横ばいであるのに対し、化石燃料は減少傾向にあります。一方、再エネは緩やかに増加しています。

出所)資源エネルギー庁:ニュースリリース、令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)、2022年11月22日
図-1 日本の電源構成の推移

 再エネのエネルギー種別の発電電力量の推移を図-2に示します1)。太陽光発電は2010年の35億kWhから2021年の861億kWhまで24.6倍に大きく増加してきました。しかし、2021年に策定された第6次エネルギー基本計画の2030年目標値(1,290~1,460億kWh)に対して59%~67%の達成率です。

出所)資源エネルギー庁:ニュースリリース、令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)、2022年11月22日
図-2 再エネのエネルギー種別の発電電力量

 次に日本の太陽光発電の導入に関して、世界での位置づけを見てみます。図-3に示すように、世界的に見ても日本の太陽光発電の導入量は大きいと言えます。太陽光発電の累積設置容量は中国308.5GW、米国178.7GWに次いで78.2GWと第3位(連合体であるEUを除いて)となっています2)

 日本における太陽光発電の導入費用(発電能力当り費用)については、諸外国に比べてかなり高額となっています。図-4に示すようにロシアに次いで2番目の価格です。この原因は、太陽電池のモジュール(インバータ含む)の費用は他国と同程度であるのに対し、設置工事費が非常に大きいことです。その結果、総費用は1,690 USD/kWを超えており、中国やインドの約600 USD/kWの2.8倍、世界平均の915 USD/kWと比べても1.8倍となっています3)

出所)International Renewable Energy Agency (IRENA):Renewable power generation costs in 2021
図-4 太陽光発電設備の総費用の国別比較

 日本での設置工事費が高額である理由は、工事方法の違い、工事期間の長さが挙げられています。また、欧州では1つの会社が架台からモジュールの設置まで一貫して行っていることや、ドイツでは非住宅の場合は入札によって工事費が決められていることで価格が低減できていると分析されています4)

 これは、後に示すように日本ではFIT制度における買取価格が極めて高額に決められていたことや太陽光発電ビジネスが大規模に広がらず、地域の工事業者のみに限定されて競争原理が働かなかったことも考えられると思います。

(2)太陽光発電の普及を促進したFIT制度

 太陽光発電の普及を促進したのは固定買取価格制度(FIT: Feed in Tarif)であることは間違いありません。FIT制度は再エネで発電した電気の全量を固定価格で長期間(大規模太陽光発電設備は20年間)買い取ることを保証する制度です(10kW未満の設備は2016年の法律改正により余剰電力買取に変更されました)。

 FIT制度は2012年度から始まっており、買取価格は毎年調達価格等算定委員会が協議し、その意見を基に経済産業大臣が決定しています。家庭用の小規模の発電設備の買取価格については、図-5に示すように2012年度の42円/kWh(+税)から次第に減少してきて、2022年度は17円/kWh(+税)になっています5)

出所)資源エネルギー庁:公式Webサイト、政策について、なっとく再生可能エネルギー、FIT・FIP制度、買取価格・期間等(2012年度~2021年度)
図-5 FIT制度における太陽光発電電力の買取価格(10kW未満)

 この当初の買取価格は欧米の2倍以上で設定されていました。時期的に再エネ導入に大きな期待が寄せられていたため、再エネ発電事業者の言い値で決められた価格であったとされています。この買い取った費用の半分以上(再エネ買取費用から火力発電等によって発電した場合のコストを差し引いた金額)は電力使用者である消費者から再エネ賦課金として徴収されています6)

 既に報告したように再エネ賦課金の単価は2022年度で3.45円/kWhであり電気料金を押し上げています(「【緊急分析】急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析」、2023年1月23日投稿、を参照ください)。FITの買取価格は20年間(大規模太陽光発電設備の場合)変わらないためその支出は長期間続き、太陽光発電の設備費用が低下してきた今でも、再エネ賦課金を下げることができません。

(3) 太陽光発電の利用上の課題

 太陽光発電システムを利用していく際の課題を列挙すると以下のものが挙げられます。

 ①発電電力量の変動による電力システムの安定性
 ②分散型太陽光発電設備のインフラとしての継続性
 ③太陽光発電設備の設置に伴う災害対策、環境保全
 ④太陽光発電導入に関する国民の負担(電気料金の上昇)

 まず、①は電力システム上の課題として太陽光発電からの発電量の変動に対する手当が必要であるということです。この場合の問題は電力の需給バランスが正と負の両方で問題が発生します。太陽光発電からの供給量が減少して電力が不足する際には他の電源からそれを補完する必要があります。

 また、需要が少なく電力に余剰が生じる場合は、他の電源の出力を落とす必要があります。しかし、火力発電施設が減少していく状況では出力を低減させることが難しくなっていきます。前回の報告(「DX実現への基本方針」の閣議決定:これで日本の脱炭素化は進むのか」、2023年3月27日投稿)で九州電力管内の送配電事業者が原子力発電の安定運転のために太陽光発電の出力制御を計画しているという事例を報告しました。

 需要が供給を上回る場合は、太陽光発電を補うための出力制御が可能な発電施設の整備が必要となります。また、供給が需要を上回る場合に太陽光発電の出力制御を行う場合は、FIT制度では全量固定価格での買い取りを保証していますので、その補償を行うことが必要になります。FIT制度をどのように改善していくのかが課題です。

 次に、②については太陽光発電設備は個人所有のものもあり、個人の都合で廃止することができ、さらに維持管理も個人に任せています。その結果、電力設備のインフラとしての継続的、安定的な稼働に問題が出てくる可能性があります。適切な維持管理がされていない場合は出力も低下していくため、その管理が重要です。

 特に、FIT制度では10年または20年の固定買取の期間が終了した時点以降は買取価格が減少するため、太陽光発電設備を廃止する発電事業者も出てきます。これは電力の安定供給を阻害する可能性があるため、その対策を検討しておくことが重要です。

 さらに③については、再エネ発電施設の設置に伴う地域トラブルが2016年10月から2022年2月末までに850件発生しています。これは、太陽光発電の設置場所で降雨による斜面崩壊、土砂崩れの発生や、地元への説明が不十分で景観や環境を害したことなどが原因です7)

 さらに、それらの事例を受けて、自治体が再エネ設備の設置に抑制的な条例を設けた事例は2021年までに184件に上っています。そのため、設備の設置に係る災害防止、環境保全などの対策や地元とのコミュニケーションが重要です7)

 ④の太陽光発電導入に関する国民の負担については、2021年度の再エネ賦課金の総額は2.7兆円と見込まれています8)。今後も再エネの導入が進むとさらに賦課金が増加していくことになり、国民の負担を軽減することができません。この課題についてはFIT制度に係ることなので、FIT制度の改善が重要です。

太陽光発電の主力電源化に向けての対応策

(1)主力電源とする際の問題点

 太陽光発電を含む発電量の変動が大きな電源を主力電源とする際には、それを補完する電源が必要です。雨天の場合の昼間や太陽光発電からの電力供給がなくなる夕方のピークを他の電源で補う必要があるためです。

 一例として2022年6月27日の東京エリアの電力需給の状況を図-6に再掲します(「電力需給逼迫要因―気温と消費電力量の関係」、2022年7月18日投稿を参照)。この日は6月末としては気温が非常に高くなり、政府並びに小売電気事業者から節電要請が出た日でした。

 全体供給量(需要量に等しい)から太陽光発電の供給量を差し引いた供給量(図-6の黒線)は、夕方の16時から19時頃が最も多くなっており、これは太陽光発電の普及によって改善することができないものです。電力需給を満たすためには、この分の供給量を他の電源で賄う必要があります。

出所)東京電力パワーグリッド:でんき予報、エリア需給実績データ
図-6 太陽光発電からの供給がなくなる時の補完電源の必要性

 この不足分は多くの場合は現状では化石燃料による発電(火力発電)に頼らざるを得ませんが、火力発電を調整電源として利用すると稼働率が悪くなり経済性が低くなります。そのため、多くの発電事業者は経済性の悪い火力発電施設を廃止してきました。全国で生じている電力需給のひっ迫はこのような状況によるのです。

 また、脱炭素化に向かう中にあって火力発電に依存するというのは考えにくい対策です。そのため、脱炭素化社会に向けた再エネを主力電源とするための対策が望まれており、以下にその対策を説明していきます。

(2)発電電力量の変動に対する対応

 再エネの出力変動に対する需給バランスを確保する方法として考えられている対策を図-7に示します9)。各電源は以下の原則で供給します。

 ① 原子力、地熱、水力の定常運転
 ② 火力、バイオマスの最低出力運転(電力余剰時は出力制御)
 ③ 連系線の利用による電力融通
 ④ 余剰電力を活用した揚水運転、蓄電、水素製造
 ⑤ 太陽光発電等の再エネの出力制御
 ⑥ 揚水発電、蓄電池、水素によるピーク時供給
 ⑦ 需要対策:DR(ディマンド・リスポンス)、節電要請

出所)資源エネルギー庁:電力ネットワークの次世代化、2022年12月6日
図-7 電力需給バランスの対策

 まず、出力制御が難しい原子力、地熱、水力(これらは長期固定電源としています)を定常運転します。火力、バイオマスは最低出力運転です。

 昼間の電力供給に余剰が生じるときはまず火力の出力制御、連系線の活用による(他地域への)電力融通を行います。また、余剰電力を活用して、揚水運転(ダムへの揚水)、蓄電、水素製造を行います。

 それでも余剰が生じる場合は、バイオマス、太陽光(及び風力)の再エネの出力制御、そして最後に原子力、地熱、水力の出力制御を行います。長期固定電源は技術的に出力制御が困難とされているためです。

 そして、最も需要の多い時や供給が不足した時に、連系線の活用による(他地域からの)電力融通、(ダム貯水を用いた)揚水発電、蓄電池からの供給、水素による発電を行って需給バランスをとります。それでも不足するときはディマンド・リスポンス(DR)などの節電要請を行います。

 ところで、再エネの出力制御については、これまでのFITの全量買取という方針に反します。出力制御する場合は発電しなかった分の見込み収入分を補償することが必要になります。出力制御をせず太陽光発電をうまく自発的に制御できるようにするのが次に説明するFIP制度です。

FIT制度からFIP制度への移行

(1)FIP制度の概要

 FIT制度は再エネ施設で発電された電力の全量を固定価格で買い取る制度でした。これが電気料金の上昇の一因となり国民負担を軽減できないことから、FIT制度に加えてFIP制度が2022年4月から導入されました。FIP制度の対象は太陽光発電の場合は50kW以上の施設であり、10kW以下の住宅用はFIT制度のみが適用されます。

 FIP(Feed in premium)とは再エネの電力市場への統合を図るため、買取価格を市場の電力価格に連動させることで、再エネを他の電源と同じように扱う方法です。FIP制度の認定を受けた発電事業者は発電した再エネ電気を卸電力取引市場や相対取引により自ら市場で売電することになります。

 図-8にFIT制度とFIP制度の売電収入の相違を示します。前者は売電価格は一定ですが後者は市場価格に依存します。その際、市場価格よりも優遇されるようプレミアム単価を上乗せして売買できます。プレミアム単価は、基準単価(FIP価格)から参照価格を控除して算定されます。

出所)資源エネルギー庁:公式Webサイト、政策について、なっとく再生可能エネルギー、FIT・FIP制度、買取価格・期間等(2012年度~2021年度)
図-8 FIT制度に代わるFIP制度の特徴

 参照価格は下の式で表され、参照期間ごとの市場価格の平均価格を基礎に、季節または時間帯による再エネ電気の供給の変動その他の事情を勘定して算定された額です8)

 参照価格=①「卸電力市場」の価格に連動して算定された価格
     +②「非化石価値取引市場」の価格に連動して算定された価格
     -③バランシングコスト

 ここで、「非化石価値」とは、石油や石炭などの化石燃料を使っていない「非化石電源」で発電された電気が持つ、「環境価値」の一種であり、再エネ電気にも、この「非化石価値」があります。

 また、FIP制度では、再エネ発電事業者は発電する再エネ電気の見込みである「計画値」をつくり、実際の「実績値」と一致させることが求められます。これを「バランシング」といいます。バランシングにあたり、計画値と実績値の差(インバランス)が出た場合には、再エネ発電事業者は、その差を埋めるための費用を払わなければなりません(FIT制度では再エネ発電事業者には免除されていました)。

 基準価格(FIP価格)は当初はFIT価格と同額で始めます。また、バランシングコストも当初1.0円/kWhとし、翌年から少しづつ金額を減らしていくとされています。

(2)FIP制度のメリット、デメリット

 FIP制度のメリットは再エネの発電事業者が電力の市場価格を意識して(市場の電力需給に依存して)、発電することが可能になることです。市場価格が高い需給ひっ迫時に多く発電して、市場価格が安い電力余剰時には発電を控えるというインセンティブが働きます。このため余剰電力の発生を抑制することができます。

 また、プレミアム価格は市場価格に応じて変更されますので、FIT制度で設定された高額の買取価格から需給に合わせた価格設定が可能になるというメリットもあります。また、電力市場で必要な分だけを購入することで購入量が限定されるため、再エネ賦課金による電力使用者の負担も減少していくことが想定されます。

 一方FIP制度のデメリットは再エネの発電事業者の卸売市場での売電収入が変動し、投資回収が困難になるリスクがあることであり、投資回収の見込みがないと判断した場合には再エネへの投資が行われないことです。再エネ事業者は市場価格が安い季節に発電施設の定期メンテナンスをしたり市場価格の変動にあわせて売電を行うことで利益を確保していくことが必要になります。

その他の課題への対応

(1)防災、環境保全対策

 課題の検討に示したように太陽光発電設備の設置に災害を引き起こしたり周辺環境に悪影響を及ぼすことが問題でした。これを受けて、過去に太陽光発電の土地の改変により災害発生の防止対策として電気事業法を以下のようなに改正しています7)

・電気事業法に基づく電気設備の技術基準の解釈に土砂流出又は地盤の崩壊を防止する措置を講じる。
・台風による水上太陽光発電設備の火災事故を受け、水上特有の荷重・外力(波力・水位等)や部材性能等を規定化。
・太陽電池発電設備に特化した新たな技術基準「発電用太陽電池設備に関する技術基準」を整備(2021年4月)。

 これらの規定に基づき、事業計画時点で指導が徹底されています。また、新たな対応として、以下が提案されています7)

・太陽光パネルの設置のための盛土についても規制対象に含める、安全基準への適合を求める。
・再エネ特措法の認定・申請段階で、設置場所や事業者名等の情報を自治体へ共有
・太陽光発電の稼働済案件の位置が一目で分かるマップ形式での自治体へ情報を提供する。

 また、発電能力10kW以上の太陽光発電認定案件に対し、廃棄費用を積み立てることを義務化しました。さらに、立地地域の地元理解の促進に向けた自治体との連携強化策として条例データベースを作成し、その情報を共有するイベント、会議などを開催しています。

(2)FIT期限を迎える太陽光発電への対策

 2012年に始まったFIT制度は既に10年が経過しており、10年が期限の発電能力10kW未満の設備は高額買取(42円/kWh)が終了しています。今後は発電した電力量は自家消費または相対・自由契約となります10)

 資源エネルギー庁では自由契約先の小売電気事業者の紹介やFIT終了後のエネルギー供給の重要性などをアピールして継続を推奨しています。自由契約を行う契約先は数多くあり、その売電価格は東京電力エナジーパートナーでは8.5円/kWh11)、東京ガスでは9.5円/kWh12)などとなっています。

 買取価格の低減により発電を終了する可能性はあるでしょうか。発電事業者にとっては既に投資資金は回収しており、新たな投資をしなくても収入が得られるのであれば、継続して売電する可能性は高いと言えます。

 また、自家消費を選択した場合は、自家消費を超える余剰電力のために蓄電池をリースするサービスを提供している小売電気事業者もあり、夜間に蓄電池からの電力を利用することもできます。売電しなくなる場合はグリッドの電源からはカウントされなくなりますが、その分需要が減ることで需給バランスに貢献することになります。

 一方、大規模の発電事業者(発電能力10kW以上)は20年間の買い取り期間ですので2032年頃から買い取り期間が終了し始めます。これらの大型太陽光発電事業者に対しては、電気事業者等から様々な引き合いがくると思われます。

 というのは、年間販売電力量5億kWh以上の小売電気事業者は、2030年に非化石燃料比率を44%以上にすることが求められているからです(エネルギー供給構造高度化法の中間評価の目標値の設定より)。また、発電を終了したい事業者のために、発電所の売買が可能となるよう評価事業を整備することも提案されています6)

再エネ目標の達成に向けて

(1)太陽光発電の達成目標

 第6次エネルギー基本計画の基礎となった資料によると、2030年の太陽光発電の目標は103.5GW~117.6GWとされています13)。2021年度の導入量は78.2GWですので、目標達成には25.3GW~39.4GWを整備する必要があります。また、同資料では2030年の太陽光発電の設備能力の導入見込みを積算しており、それは表-1の通りです。

表-1 第6次エネルギー基本計画における2030年の太陽光発電導入見込み

2020年時点
の導入量
FIT既認定未稼働
の稼働
趨勢導入量政策強化合  計2030年
の目標
55.8GW18GW13.8GW12.4GW100.0GW103.5GW
~117.6GW
注)趨勢導入量は2020年度単年の導入量約1.5GWより算定。政策強化の内訳は、以下の通り。
・改正温対法によるポジティブゾーニング(再エネ促進区域を指定して積極的な案件形成を行う取組)や自治体の計画策定に対する支援(環境省):4.1GW
・温対法に基づく政府実行計画等に基づき、公共部門を率先して実行(環境省):6.0GW
・空港の再エネ拠点化の推進(国交省):2.3GW
出所)資源エネルギー庁:2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)、2021年10月

 同表に示す通り、2021年時点では100GW程度までの見込みを立てていたと考えられます。これをさらに目標値まで積み上げるにはさらなる野心的な施策が必要になります。その1つの施策が太陽光発電設備の設置義務化です。以下に設置義務化の動きを示します。

(2) 野心的な導入施策

 最近、東京都、川崎市、京都市、京都府、群馬県、大熊町で住宅を含む建物等に太陽光発電の設置義務化の条例が議会で可決されています14)。このうち、東京都については、大手ハウスメーカー等が供給する新築住宅等が義務対象となります。環境性能の高い住宅の新築時や既存住宅の断熱改修等を行った際に、あわせて設置する太陽光パネル等に対して補助が行われます。2025年4月から実施する予定です15)

 川崎市は、延べ床面積2000㎡未満の中小規模の住宅を一定量供給する特定建築事業者への太陽光発電設備の設置を義務化します。設置基準量は「年間供給棟数」「棟当り基準量」「算定基準率」などを考慮し算出するとしています16)

 ここで、東京都の新築住宅の太陽光発電設備設置の義務化を実施した場合の効果について試算してみます。2022年の1年間の新築住宅の設置戸数と平均床面積を基に17)、2026年から2030年までの5年間の太陽光発電設備の設置ポテンシャルを算定すると表-2の通りです。

 戸建て、マンションの床面積、戸数を基に、それぞれの階数を仮定して屋根に設置可能な太陽光パネルの面積を算定し、これを発電能力1kW当りの必要面積(6m2/kW)で除して算定しました。その結果、単年度のポテンシャルは0.3GWであり、2026年度から2030年度までの5年間を合計すると約1.5GWとなりました。

表-2 東京都の新築住宅の太陽光発電ポテンシャル

 項   目持 家 分譲住宅貸  家合計
戸 建マンション
戸数 (戸)15,27717,87529,57970,747133,478
床面積(m2/戸)
115.996.467.846
太陽光パネル面積(m2/戸)29.024.13.411.5
1kW当り必要面積(m2/kW)6666
太陽光発電ポテンシャル(MW/年)73.871.816.8135.6298.0
5年間ポテンシャル(MW)369359846781,490
注)太陽光面積は戸建ては床面積の1/4(2階建て、屋根の片面に設置)、マンションは床面積の1/20と仮定(10階建て、屋上の半分に設置)。発電能力1kW当り必要面積は実績値より6m2/kWを仮定。
出所)東京都:令和4年住宅着工統計、2023年1月

 これは東京都の試算結果ですが、他の地域では戸建住宅が増え床面積も大きくなるため、設置できる1戸当りの太陽光パネル面積は東京都より大きいと想定されます。そのため、これを全国に拡大していくことが効果的と考えられます。

 このように、設置義務化を住宅に限ってもこの程度のポテンシャルを有することから、非住宅のビルの屋上や駐車場などへの拡大も期待されます。また、ペロブスカイトが実用化されると、建物の壁面や塀などにも設置が可能となるため導入量も拡大するでしょう。今後の動向を見守りたいと思います。

<参考文献>
1)資源エネルギー庁:ニュースリリース、令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)、2022年11月22日
2)IEA Photovoltaic power Systems Programme:Strategic PV Analysis and Outreach、Snap shot of Global PV Markets 2022、April 2022.
3)International Renewable Energy Agency (IRENA):Renewable power generation costs in 2021.
4)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenges 2020)、2020年12月
5)資源エネルギー庁:公式Webサイト、政策について、なっとく再生可能エネルギー、FIT・FIP制度、買取価格・期間等(2012年度~2021年度)
6)竹内純子:電力崩壊、戦略なき国家のエネルギー敗戦、日本経済新聞出版、2022年12月22日
7)資源エネルギー庁:再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理の在り方に関する検討会について、2022年4月26日
8)資源エネルギー庁:公式Webサイト、スペシャルコンテンツ、再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート、2021年8月3日
9)資源エネルギー庁:電力ネットワークの次世代化、2022年12月6日
10)資源エネルギー庁:政策について、新エネルギー、どうする?ソーラー、
11)東京電力エネジーパートナー:公式Webサイト、再生可能エネルギーの固定価格買取制度についての大切なお知らせ、2022年4月7日閲覧
12)東京ガス:公式Webサイト、卒FITを迎える方へ 東京ガスなら最大23円/kWhで買取!、2022年4月7日閲覧
13)資源エネルギー庁:2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)。2021年10月
14)地方自治研究機構:太陽光発電設備等の建物への設置を義務づける条例、2023年4月4日
15)東京都:公式Webサイト、都政情報、2025年4月から太陽光発電設置義務化に関する新たな制度が始まります、2023年1月1日
16)川崎市:川崎市地球温暖化対策の推進に関する条例の改正に向けた重要施策の考え方【概要版】、2023年1月26日
17)東京都:2022年住宅着工統計、2023年4月6日