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太陽電池(3)-現在の住宅用FIT価格での収益性

 今回は住宅屋根に設置する小規模な太陽光発電設備(10kW未満)における現状のFIT価格で売電した場合の収益性について解説していきます。この規模の太陽光発電は、FIT制度が継続され(新制度のFIP対象外)、自家消費分を除いた余剰電力のみ売電が可能です。

 前回はFIT価格のこれまでの推移やFIP制度への移行について説明してきました(「【再生可能エネルギー】太陽電池(2)-再エネの普及施策」、2023年4月10日投稿)。近年FITの売電価格は低下してきており(2022年度は17円/kWh)、今後も低下していく可能性があり投資目的での収益性は低減している可能性があります。

 近年は電気代が高騰しており太陽光発電による節電効果を期待して導入を検討している方も多いと思います。太陽光発電を導入する決め手は費用効果であり、地球温暖化防止への貢献は付加価値として考える人も多いでしょう。

 また、近年の物価上昇による設備費や設置工事費の価格に不安を持っている方もいると思います。ここでは最も実勢に近い設備費用や維持管理費についても整理していきます。国や自治体の補助制度によって設備費の軽減を図れますので、それらも考慮していきます。

 収益の基本となる売電量と買電量は1日の時間消費電力量の変動を基に算定する必要がありますので、ここでは時間データを基に分析する方法を具体的に説明します。さらに、屋根の方位や地域によって発電電力量も異なりますのでその地域性についても分析を行いました。

 その結果は、住宅用のFIT価格を政府は非常にうまく設定しているという感想を持ちました。FIT価格は大きすぎると国民の負担が大きくなり、小さすぎると太陽光発電の普及を促進しないためです。その価格は利回り2%台となるように設定されているのではないかと思われます。

 しかし、どこでもどのような条件でも利回り2%台が達成できるわけではありません。地域や屋根の方位、傾斜角によって収益性に差が出ますので、注意が必要です。本報告では簡単な表計算ソフトで費用効果を分析する方法を示していますので、ご確認ください。

<本報告のコンテンツ>
太陽光発電設備の費用効果の分析方法
(1) 費用効果を算定するための項目
(2) 太陽光発電による収入額の推計
  (a) 発電電力量の推計/(b)売電量と買電量の推計/(c)収入額の推計
(3) 太陽光発電に係る支出額の推計
  (a)設備費の推計/(b)補助金の設定/(c)維持管理費の推計
(4) 費用効果の分析
太陽光発電設備の費用効果分析の事例
(1)想定ケース
(2)収入額の推計
(3)支出額の推計
(4)費用効果の分析
異なる条件での費用効果の比較
(1)屋根の方位、傾斜角別の費用効果分析
(2)緯度の相違による費用効果分析

太陽光発電設備の費用効果の分析方法

(1) 費用効果を算定するための項目

 費用効果の指標には「事業収支」や「収支比率」などが使われますが、これらは収入と支出を基に算定されます。「事業収支」は収入と支出の差、「収支比率」はそれらの比で表されます。実際の検討においては、販売業者等から設置工事費を含めた見積を聴取することが必要ですが、ここではその前段としての概算での検討手法を示します。

 なお、費用効果に加えて投資効率などの指標も使われることが考えられます。太陽光発電を投資目的で導入する場合もあるからです。投資効率の指標として「投資回収年数」や「利回り」などが考えられます。

 費用効果を算定するための項目を示すと図-1の通りです。収入は太陽光発電による売電収入が挙げられますが、電気料金の軽減額も収入としてカウントします。支出は設備費、設置工事費、維持管理費から構成されます。

図-1 費用効果の算定項目

 同図に示すように事業収支を算定する際に重要となるのが使用年数です。使用年数が短ければ収入が少なくなって事業収支はプラスになりません。しかし、使用期間の予測は難しく、法定耐用年数は17年としても20年以上使用されている事例もあり、メーカーの実績などから設定することになります。

 売電収入は売電量にFIT価格を乗じることで算定されます。売電量は発電電力量と消費電力量(自家消費)との差の余剰電力量から算定されます。買電による電気料金は発電できなかった時間帯での消費電力量に電気料金を乗じたものです。また、発電電力量は、場所、屋根の方位、傾斜、日陰などによって影響されます。

 10kW以上の太陽光発電設備については、撤去、廃棄を適正に行うことを担保するために、積み立てをしておくことが義務付けられています。ただし、10kW未満の太陽光発電で屋根に設置する場合は、建物の改築、廃止時に撤去、処分となるため、積み立ては免除されていますので、ここでは考慮しません。

(2)太陽光発電による収入額の推計

 ここでは、1時間単位の発電電力量と消費電力量を基に太陽光発電による収入額を概算する方法を説明します。

(a)発電電力量の推計

 以前の報告(「太陽電池(1)-性能と特徴」、2023年4月3日投稿)で示したNEDOの日射量データのうち時間データを用いて時間発電電力量を計算します。時間データを使うのは図-2に示すように時間別の売電量、買電量を算定するためです。

図-2 売電量と買電量のイメージ

 これらの算定において必要となるのは、設置場所の位置、屋根の方位と傾斜角です。位置は地図上で選択したり、メッシュまたは緯度・経度を与えて指定します。日射量はNEDOの日射量閲覧システムのデータのうち、METPV-20のデータを用います1)。これは365日24時間ごとの代表年の方位別、傾斜角別日射量データです。

 このデータから時間発電電力量を以下の式から計算します。

 Ep=H×Khi×Kpcs×Kj×P/3.6

  Ep:時間発電電力量(kWh/hr)
  H:太陽光パネルの設置面の1時間当りの日射量(MJ/m2/hr)
   ※日射量は、NEDOの日射量データベースより入手。
  Khi:セルの温度上昇による損失(月別に変動)
  Kpcs:パワーコンディショナーによる損失(約8%)
  Kj:配線や受光面の汚れ等によるその他の損失(約7%)   
  P:太陽電池の設備容量(kW)

 METPV-20から得られる方位別、傾斜角別日射量に各種損失係数(Khi、Kpcs、Kj)及び設備容量Pを乗じて時間発電電力量を算定します。日射量の単位は0.01MJ/m2であることに注意して、これをkWhに変換します。Khiは温度により変化するため、太陽光発電協会の表示ガイドラインにある表-1の値を用います2)

表-1 太陽電池の損失係数(Khi)

項 目1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
結晶系シリコン0.900.900.900.850.850.800.800.800.800.850.850.90
アモルファスシリコン0.750.800.850.850.900.900.950.950.900.850.800.75
出所)太陽光発電協会:表示ガイドライン、2022年度

(b)売電量と買電量の推計

 消費電力量は契約している小売電気事業者のスマートメータ・データから日別時刻別の消費電力量を入手します。図-2に示すように発電電力量と消費電力量との差を算定し、売電量(発電電力量が多い場合)と買電量(消費電力量が多い場合)を算定します。そして、これを24時間、365日分積算することで1年間の売電量及び買電量を算定します。

【発電電力量≧消費電力量】
 売電量=∑∑(発電電力量推計値i,j-消費電力量i,j) (j=1~24, i=1~365)
【発電電力量<消費電力量】
 買電量=∑∑(消費電力量i,j-発電電力量推計値i,j) (j=1~24, i=1~365)

(c)収入額の推計

 10kW未満の太陽光発電設備は余剰電力分しか売電できませんので、収入を分かりやすく書くと以下の通りとなります。太陽光発電導入前と導入後の買電分の差が電気代の減少額となるため、これを収入に含めて計算します。売電収入は売電量に売電価格(FIT価格)を乗じて算定します。

収入=太陽光発電の導入による買電量の減少分×電力料金単価+売電量×売電単価(FIT価格)
 買電量の減少分=導入前の買電量-導入後の買電量=消費電力量-導入後の買電量

 なお、電力料金単価は消費電力量によって変わってくるのですが、簡単のために導入前と導入後の電力料金単価を同一と仮定して計算する方法を示しています。

(3)太陽光発電に係る支出額の推計

(a)設備費の推計

 設備費は太陽光発電設備に加えて設置工事費も含めて算定します。正確には販売業者からの見積が必要ですが、ここでは最新の実勢価格をもとに算定します。FIT価格の提案を行っている調達価格等算定委員会での検討資料から、設置工事費を含めた総設備費単価(設備容量1kW当り)の実績値を把握できます3)

 最新のデータでは、図-3に示すように新築26.1万円/kW、既設28.1万円/kW、全体で26.7万円/kWとなっています。FIT制度が始まった2012年の費用と比べると約6割程度まで低下してきていることが分かります。FIT価格は42円/kWhから17円/kWhまで低下していますので、売電価格は4割程度になっています。工事費も含めた全体設備費はこの価格に設備容量を乗じて求めます。

出所)調達価格等算定委員会:令和5年度以降の調達価格等に関する意見、2023年2月8日
図-3 太陽光発電の全体設備費単価の実績

(b)補助金の設定

 国や自治体の補助制度があるため、それをもとに補助金額を設定します。例えば、東京都及び都下の自治体では重複が可能な補助制度が設定されています。東京都の場合は太陽光発電設備単体の補助はなく、エコキュートや蓄電池を同時に購入した場合に補助されます。

 一方、都下の自治体では制約なしの補助制度があるようです。ある自治体の事例を下のコラムに示します。多くの自治体の補助金上限額は概ね10万円と言ったところですが、お住まいの自治体の補助制度を以下のサイトなどから調べてみてください。

 ソーラーシステム振興協会:2022年度地方自治体の太陽熱利用システム及び 太陽光発電に係る助成制度
https://www.shouene.com/photovoltaic/subsidy/2022-pv-subsidy-list.html

<K市の補助制度>
 太陽光発電システム:1kWあたり3万円(上限10万円)
 家庭用燃料電池(エネファーム):5万円
 蓄電池:5万円
※複数の種類の機器を設置した場合は、それぞれを合わせた金額が補助金額となります。

(c)維持管理費の推計

 維持管理費についても調達価格等算定委員会での検討資料から算定することができます。同委員会では太陽光発電協会へのヒアリングにより4,670円/kW/年という結果を得ています。その内訳は下のコラムの通りです。

<維持管理費の根拠>
・5kW の設備を想定して、太陽光発電協会にヒアリングを行った結果は以下の通り。
・発電量維持や安全性確保の観点から3~5年ごとに1回程度の定期点検が推奨されており、1回当たりの定期点検費用の相場は約3.5万円程度
・パワコンディショナ(パワコン)については、20 年間で一度は交換され、29.2 万円程度が一般的な価格
・以上から20年間使用を前提として以下の維持管理費を得た。
 (3.5万円×5回+29.2万円)÷5kW÷20年間=約4,670円/kW/年
・ただし、定期点検費用については、機器の性能の向上により、定期点検の頻度を小さくできる可能性が示唆されていたことや、パワコン本体の費用については、パワコンの費用も含めたシステム費用は低減傾向にある。
・このため、こうした点もふまえ、2024 年度の想定値は2023年度と同額の3,000 円/kW/年を据え置くこととする。

 しかし、同委員会は定期点検の頻度を低減できること、パワーコンディショナの価格も低減していることなどから、前年度と同額の3,000円/kW/年を設定しています。なお、維持管理費はこの単価に設備容量を乗じて算定されます。

 また、使用年数については、本単価の計算が20年を仮定して算定していることから、これ以降の計算でも使用年数20年を仮定して計算します。

(4)費用効果の分析

 費用効果は事業収支と収支比率の2通りの指標が考えられます。事業収支は使用期間でどのくらい利益が出るかを示しており、収支比率は他のケースとの比較がしやすい指標です。これらの指標の計算方法は以下の通りです。太陽光発電設備の耐用年数は17年ですが、前述の通り使用年数を20年とします。

<事業収支>
 20年間の事業収支=20年間の収入総計-設備費+補助金-維持管理費×20年
<収支比率>
 収支比率=年間収入/年間支出

 事業収支がプラス(収支比率が1より大きい)になれば導入する価値があり、マイナス(収支比率が1より小さい)の場合は導入することはためらわれます。GHGの削減のために導入することは可能ですが、それは個人の判断次第です。

 また、投資効率については以下の指標が考えられます。投資回収年数とは設備投資額を何年で回収するかを表すものです。また、利回りは設備投資額に対する年当りのリターン(パーセント単位)で表したものです。

<投資回収年数>
 投資回収年数=設備投資額/年間収益

  年間収益=年間収入-年間支出(維持管理費、設備費含まず)
<利回り>
 利回り(%)=20年間の事業収支/設備投資額/20×100

太陽光発電設備の費用効果の分析事例

(1)想定ケース

 ここでは、以下のようなケースを想定します。
 ●設置位置:東京都都心部
 ●屋根の方位(向き)と傾斜角:南向き、30度
 ●消費電力量の条件:間取り3LDKに住む3~4人世帯の平均消費電力量
 ●発電設備容量:5kW
 ●設置費:既設建物への設置を仮定
 ●電力料金:35円/kWh(想定する世帯の消費電力における2022年平均単価)
 ●売電単価(最初の10年間):17円/kWh(2022年度10kW未満設備のFIT価格)
 ●売電価格(最後の10年間):9円/kWh(小売電気事業の買取価格実績より)

(2) 収入額の推計

(a)発電電力量

 1年間365日の日射量の時間データ(東京都都心部の南向き傾斜角30度)より発電電力量を算定しました。その結果を図-4に示します(赤線が発電電力量)。同図は各月の5日、15日、25日のデータをプロットしていますが、計算は毎日のデータを用いて行っています。

図-4 太陽光発電の導入による売電、買電量の推計値

(b)売電量、買電量

 消費電力量については、東京ガス・カスタマーサイトのスマートメータ・データより、3LDK世帯の時間データを入手しました(図-4の青線)。これを基に前述した計算式を基に売電量、買電量を算定しました。その結果を図-4に示します(売電は黒線、買電は緑線)。

 この売電量、買電量を基に、収入(買電の軽減額と売電収入の和)を算定すると表-2の通りです。設備容量が10kW未満の太陽光発電のFIT価格での買い取りは10年であり、10年経過後は買取価格は大きく減少します。

 同表より、買電の軽減額は約61千円、売電収入は最初の10年間は約69千円/年、後の10年間は約36千円/年となります。その結果、合計の収入は約130千円/年(最初の10年)と約97千円/年(後の10年)になります。20年間の総収入は約2,270千円となります。

 年間収入=61+69=130千円/年 (前半の10年間)
 年間収入=61+36=97千円/年 (後半の10年間)
 20年間の総収入=(130+97)×10= 2,270千円 

表-2 売電収入と買電の軽減額

買電軽減額売電収入合計
導入前導入後
電力量(kWh/年)4,5552,8151,7404,045
前半の10年間単価(円/kWh)35353517
金額 (千円/年)159.498.560.968.8129.7
後半の10年間単価(円/kWh)3535359
金額 (千円/年)159.498.560.936.497.3

 ここで注目すべきは売電による収入は前半の10年間は高額ですが後半の10年では半分程度となり、20年間を通してみると買電の軽減額より小さくなることです。この傾向は電気料金が上昇している状況ではさらに影響が大きくなっていくものと思われます。

(3) 支出額の推計

(a) 設備費

 既設建物への設置であるので設備費単価(工事費含む)として280千円/kWを採用し、これに5kWの設備容量を乗じて以下を得ました。

 全体設備費=280千円/kW×5kW=1,400千円

(b) 補助金

補助金は自治体の補助として3万円/kW(上限10万円)を採用し、補助金額は10万円とします。この結果、補助金を除いた設備費は以下となります。

 実質設備費(補助金控除)=1,400千円-100千円=1,300千円

(c) 維持管理費

 ここでは、調達価格等算定委員会が設定した3,000円/kW/年を採用し、これに5kWを乗じて年間維持費を以下のように算出しました。

 年間維持管理費=3千円/kW/年×5kW=15千円/年
 20年間の総維持管理費=15千円/年×20年=300千円

(4) 費用効果の分析

 上記で計算された収入、支出から得られる費用効果(事業収支と収支比率)を以下に示します。

 20年間の事業収支=(130+97)×10-1,300-15×20=670千円
 収支比率=2,270/1,600=1.42

 このように、本ケースでは20年間で約670千円の利益が出ることが分かります。また、その総収入は総支出の1.42倍であることが分かります。

表-3 費用効果の計算結果

単年度(千円/年)20年間(千円)
平均収入 113.52,270
支出設備費701,400
補助金-5-100
維持管理費 15300
801,600
事業収支(収入-支出)33.5670
収支比率(収入/支出)1.421.42

 さて、この太陽光発電は投資案件としてはどのように評価されるでしょうか。投資評価の指標として設備投資の投資回収年数や利回りを算定します。その結果を表-4に示します。

表-4 投資回収年数の算定

    項   目  備 考
設備費 A(千円)1,300設備費+設置工事費(補助金控除)
年間収入(千円/年)前半10年 B129.7売電収入+買電軽減額
後半10年 C97.3 〃
年間支出 D(千円/年)15.0維持管理費
年間収益(千円/年)前半10年 E114.7=B-D
後半10年 F82.3=C-D
回収額(千円)前半10年回収額 G1,147.0=E×10
10年目の回収残 H153.0=A-G
回収年数(年)10年以降年数 I1.9=H/F
回収年数 J11.9=10+I

 表-4で年間収支とは年間収入から年間支出(維持管理費)との差を指します。収入が10年の前後で変わるので計算が少し複雑ですが、この投資案件は10年では回収できないため、前半の10年で回収した残りを何年で回収するかを計算して求めています。

 投資回収年数=10+(1,300-1,147)/82.3=11.9年

 上記の計算では前半の10年では1,147千円しか回収できず、残りの153千円を年間収支82千円で回収すると1.9年かかることから、全体で11.9年で回収することが分かります。一般的に投資回収年数は10年以下を目指す投資家が多いので、それほど有効な投資案件とは言えないかもしれません。

 また、利回りの計算方法は以下の通りです。本投資案件の場合は利回り2.58%であり、特に効率的な投資案件とは言えません。投資信託で実質利回り3~5%の実績を有するものも多いので、それよりは低い結果になっています。

 利回り=670/1,300/20×100=2.58%

 しかし、日本国債の利回り(10年物、2023年4月中旬)は0.5%程度ですので、それよりはましということは言えるでしょう。なお、利回りの計算では課税額を考慮すべきですが、このレベルの収益では非課税(所得が20万円未満)となるため考慮しなくて問題ありません。

異なる条件での費用効果の分析

 これまでの計算は、南向きで太陽光パネルの傾斜(屋根の傾斜)を30度にできる最も効率的な条件での結果でした。ここでは、以下の3つの条件に着目して、その費用効果の相違を分析します。

・屋根の方位:南 → 西、北
・屋根の傾斜角:30度→15度、45度、60度
・緯度が異なる地域:東京 → 札幌、仙台、鹿児島、那覇

(1)屋根の方位、傾斜角別の費用効果分析

 東京都心において太陽光パネル(屋根)の方位と傾斜角を変えた場合の費用効果を分析した結果を表-5に示します。まず方位を南のままで傾斜角を15度、45度、60度を加えて比較した結果、最も収入が多いのは30度で45度は大きく変わらず、15度と60度はやや低下していました。

表-5 方位、傾斜角による費用効果の相違

方位南向き南向き南向き南向き西向き北向き
傾斜角15度30度45度60度30度30度
売電量(kWh/年)3,752 4,045 4,049 3,767 2,953 1,760
買電量(kWh/年)2,809 2,815 2,834 2,867 2,891 2,982
収入(千円)買電軽減1,222 1,218 1,205 1,182 1,165 1,101
売電前半638 688 688 640 502 299
売電後半338 364 364 339 266 158
小計2,198 2,270 2,257 2,161 1,933 1,558
支出(千円)設備費1,400 1,400 1,400 1,400 1,400 1,400
補助金-100-100-100-100-100-100
維持管理費300 300 300 300 300 300
小計1,600 1,600 1,600 1,600 1,600 1,600
事業収支(収入-支出)(千円)598 670 657 561 333 -42
収支比率(収入/支出)(-)1.371.421.411.351.210.97

 その結果、最も費用効果が高いのは傾斜角30度の時であり、45度は大きな差異はありませんが、15度と60度はやや低下していました。しかしその低下度合いは20年間の事業収支で10~15%程度でした。

 また、傾斜角が30度のままで方位が西向きと北向きの場合の費用効果を分析した結果は、西向きの事業収支(収入-支出)は約330千円と半分以下になり、収支比率(収入/支出)は1.21と収益性は大きく低下していました。また、北向きの事業収支はマイナスとなり費用効果は期待できないことが分かりました。

 このように屋根の向きで収入が大きく変わるため、自分で費用効果を分析して導入の是非を決める必要があります。もちろん、事業収支がマイナスでも脱炭素化に貢献していることは確かですので、その意味での効果はあると考えられます。

(2)緯度の相違による費用効果分析

 ここでは、緯度の異なる地域での費用効果の相違を分析します。まず、表-6に札幌(北緯43.06度)、仙台(北緯38.27度)、鹿児島(北緯31.56度)、那覇(北緯26.21度)の発電電力量、売電量、買電量を示します。 

表-6 地域別の発電電力量、売電量、買電量

札幌仙台東京鹿児島那覇
北緯43.0638.2735.6931.5626.21
発電量(kWh/年)5,2415,6505,7865,5825,500
売電量(kWh/年)3,5433,9064,0453,8683,721
買電量(kWh/年)2,8572,8122,8152,8422,777
注)北緯の小数点以下は10進数で示す。

 この結果より、東京の発電量、売電量が最も多く、次いで仙台となっています。緯度の低い那覇や鹿児島のそれらが少ないのは天候による日照時間が少ないためと考えられます。

 また、それぞれの地域の費用効果分析の結果を表-7に示します。この結果は発電量の結果と同様です。それぞれの利回りを見ると、東京は2.5%を超えていますが、札幌では2%を下回っています。

表-7 地域別の費用効果

札幌仙台東京鹿児島那覇
収入(千円/年)買電軽減額59.461.060.960.062.2
売電(前半10年)60.266.468.865.863.3
売電(後半10年)31.935.236.434.833.5
売電平均46.150.852.650.348.4
支出 (千円/年)80.080.080.080.080.0
費用効果20年間の事業収支(千円)509636670606612
収支比率(-)1.321.401.421.381.38
投資効率投資回収年(年)13.312.211.912.412.4
利回り(%)1.962.452.582.332.35

 以上までの分析結果は、屋根の向きが南向き、傾斜角30度という理想的な条件での計算結果ですので、これよりも条件が悪い場合には費用効果は低減していきます。表-5に示したように東京でも西向きの屋根の場合、発電量は15%減となり事業収支は半分まで低下していました。

 このように、FIT価格の低減により太陽光発電は投資の対象として効率の良い案件とは言えなくなっているというのが結論です。ただし、東京都のように他の設備と一緒に整備することで補助額が向上する場合もありますので、具体的な計算を行って検討することをお勧めします。

 今回の検討では、FIT価格が10年後に大きく低減するため収益性が低下することや、収益性に買電費用が大きな影響を与えることが分かりました。そのため、FIT制度は利用せず、蓄電池の設置により買電費用を低減させることも検討すべきと思われます。次回はその検討を行った結果を報告する予定です。

<参考文献>
1)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO日射量データベース閲覧システム:https://appww2.infoc.nedo.go.jp/appww/index.htm
2)調達価格等算定委員会:令和5年度以降の調達価格等に関する意見、2023年2月8日
3)太陽光発電協会:表示ガイドライン、2022