前回は住宅用の太陽光発電設備の導入による売電の収益性について検討してきました。その結果は、FIT価格が実にうまく設定されており、条件が良ければ利回り2%程度の収益が確保されることが分かりました。しかし、FIT価格は低下していくものと思われますので、今後もこの程度の収益が確保されるかどうかは分かりません。
FIT価格が低下していく一方、電力料金は高騰しており発電した電力の自家消費を増やすことで収益を上げる可能性が高くなります。そのため、太陽光発電の導入を検討する際は、蓄電池を用いて夜間時でも発電した電力を自家消費する費用効果を検討することも必要です。
蓄電池を導入することによって投資費用が増加しますので、その費用増加に対する効果の検討が必要です。近年は原材料価格の上昇により蓄電池の価格が上昇しています。一方、国や自治体も自家消費型の太陽光発電利用に力を入れており、蓄電池の補助を高額に設定する自治体も出てきていますので、その影響も分析する必要があります。
今回は、蓄電池を用いて自家消費を増やす場合の費用効果を検討します。まず太陽光発電による発電電力量と消費電力量とから、昼間に蓄えられた電気を夜間に使用するという計算アルゴリズムを作成します。その計算結果より売電量と買電量を積算します。
そして、前回と同様、太陽光発電設備の設備費、維持管理費(以上支出)と売電収入と電気料金の軽減額(以上収入)とから年間収益を計算していきます。設備費については、自治体からの補助をうまく活用し、ライフサイクル全体での費用効果を分析します。
最も注目するテーマは「どの程度の容量の蓄電池を設置するのが経済的か?」です。今回は、蓄電池の容量を変えて費用効果を分析します。また、東京都の蓄電池を併用した太陽光発電設備への高額な補助金の効果についても分析しましたので報告します。
<本報告のコンテンツ> ■蓄電池使用によるメリット (1) 発電電力の活用上のメリット (2) 蓄電池設置に有利な補助制度 ■蓄電池使用における費用効果の分析方法 (1)蓄電池使用による売電、買電量の推計 (2)費用効果の分析 ■蓄電池使用における費用効果の分析事例 (1)東京都の補助を活用した費用効果の分析事例 (a)想定ケース/(b)各種電力量の計算/(ⅽ)費用効果分析 (2)蓄電池の設備容量による費用効果の相違 |
蓄電池使用によるメリット
(1)発電電力の活用上のメリット
蓄電池とは充電を行うことで電気を蓄え(蓄電)、繰り返し使用できる電池(二次電池)のことです。乗用車のところで取り上げたリチウムイオン電池が主流となっています。住宅用蓄電池の用途は、商用電源(グリッド電源)からの電気を貯めて使う場合と、今回のテーマのように太陽光発電設備からの電気を貯める場合の2つの使い方があります。
商用電源の電気を貯める場合は、料金単価の安い夜間に蓄電し、それの高い時間帯に使用することで電気代を節電するために使われてきました。ただ、これまでの本サイトでの検討において明らかになってきたように、再エネの普及に伴って昼間の発電量に余剰が生じてきた地域では、昼間の消費電力を増加させることが推奨されています。
太陽光発電による電気を蓄電する場合は、昼間に発電した電気を夜間時にも使用できるという大きなメリットがあります。太陽光発電の昼間しか発電できないデメリットをカバーし、今後の再エネの主力電源化に向けて重要な設備となります。また、災害などの停電時にも利用できるというメリットもあります。
蓄電池の能力について「容量」と「出力」が重要になります。「容量」とは貯められる電気量のことで、kWhの単位で表されます。一方、「出力」とは瞬間的に取り出せる電気のパワーのことで、kWの単位で表されます。水をためるタンクをイメージして「容量」はその容積(ボリューム)、「出力」はタンクからの流量と考えると良いでしょう。
ここでは、太陽光発電設備と蓄電池の組合せに関する費用効果を分析することが目的のため、蓄電池の性能等についての検討は省略します。ただし、経済性の計算を簡単にするため、蓄電池を最大限に活用できる全負荷型の蓄電池を使用することを想定します。
本サイトのディマンド・リスポンスのところで説明したように、小型の蓄電池では0.1kWから1kW程度の出力しかないため、エアコンや電気ケトル、電子レンジなどの大出力を要する機器には使えませんでした(「ディマンド・リスポンス(2)-2022年冬」、2023年3月16日投稿、を参照ください)。
据付型の蓄電池も特定負荷型の蓄電池は限られた電化製品しか使えません。そのため、家庭内での全ての電気機器を使用するために、高出力を有する全負荷型の蓄電池を使用することを前提で検討していきます。
(2)蓄電池設置に有利な補助制度
太陽光発電設備からの発電量の時間変動に対処する極めて有効な設備が蓄電池といえます。そのため、国や自治体も太陽光発電設備に加えて蓄電池を設置する場合に補助金を提供する仕組みになってきています。
その中でも蓄電池補助を大きく拡充したのが東京都です。東京都は再エネに関する多くの補助を実施しており、補助対象が設置者本人のものと設置事業者のものの2種類があるようです。
まず、設置者への補助については「家庭における蓄電池導入促進事業、災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」において、2022年度補正予算において表-1に示すような拡充を行っています。これまで蓄電池への補助は補助率1/2、補助上限10万円/kWhであり、その補助対象は機器費のみでした。
表-1 東京都の蓄電池の設置者への補助(2022年度補正予算)
補助対象 | 現行(2022年度当初予算) | 改定後(2022年度補正予算) |
---|---|---|
蓄電池 | 【補助率】1/2(上限10万円/kWh) 【補助対象経費】機器費 | 【補助率】3/4(上限15万円/kWh) 【補助対象経費】機器費及び工事費 ※5kWh未満の場合、上限額上乗せ(4万円/kWh) |
太陽光発電設備 (蓄電池導入を前提) | <新築住宅> 【3kW以下の場合】 12万円/kW(上限36万円) 【3kWを超える場合】 10万円/kW(50kW未満) ただし、3kWを超え3.6kW未満の場合 一律36万円※ <既設住宅> 【3kW以下の場合】 15万円/kW(上限45万円) 【3kWを超える場合】 12万円/kW((50kW未満) ただし、3kWを超え3.75kW未満の場合 一律45万円 |
しかし、改定後は補助率3/4、補助上限15万円/kWh(小規模は19万円/kWh)であり、その補助対象は機器費及び工事費と変わっています。設備容量別の補助上限は、10kWhは150万円、5kWhは75万円、3kWhは57万円(上乗せ)です。
また、同時に太陽光発電設備を設置する場合は、太陽光発電設備にも補助が受けられます。新築住宅に5kWの設備を設置する場合は50万円(10万円×5)、既設住宅は60万円(12万円×5)の補助を受けることができます1)。
本事業は2022年度補正予算で手当てされたものであり、2023年度は5月以降にその詳細が明らかになりますが、この補助率が大きく変わることはないものと考えられます。
一方、太陽光発電設備や蓄電池の設置工事業者に対する「住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」の補助内容を表-2に示します。補助対象は東京都に登録した事業者ですが、工事を発注した設置者の工事費が割り引かれることになり、設置者に間接的に補助される仕組みです。この補助は2023年度の正式な申請が始まっています2)。
表-2 東京都の太陽光発電・蓄電池の設置工事業者への補助(2023年度予算)
設備項目 | 新築住宅 | 既設住宅 |
---|---|---|
太陽光発電(3kW以下)注) | 15万円/kW | 18万円/kW |
太陽光発電(3kW超) | 10万円/kW ※3kWを超え3.6kW以下一律36万円 | 12万円/kW ※3kWを超え3.75kW以下 一律45万円 |
蓄電池(5kWh未満) | 19万円/kWh | |
蓄電池(5kWh以上) | 15万円/kWh ※5kWh以上6.34kWh未満 一律95万円 |
出所)東京都:公式Webサイト、プレスリリース、住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」の助成金申請受付について、2023年4月13日
まず、太陽光発電設備については設備容量と新築・既設の種類に分かれて補助額が設定されています。設備容量3kW以下については表-1の補助額を越えており、2022年度を上回る金額となっています。
また、蓄電池は補助金の上限はなく、5kWh未満は19万円/kWh、5kWh以上6.34kWh未満は一律95万円、6.34kWh以上は15万円/kWhとなっています。ただし、蓄電池の容量は太陽光発電設備の設備容量の2時間分となっており、太陽光発電設備が5kWであれば10kWh分の蓄電池の補助が受けられます。
ここで、両補助制度の補助金額をまとめると、太陽光発電設備5kW、蓄電池10kWhを導入する場合、以下のように新築の場合200万円、既設の場合210万円の補助を受けることができます。
<新築> 10万円/kW×5kW+15万円/kWh×10kWh=200万円
<既設> 12万円/kW×5kW+15万円/kWh×10kWh=210万円
また、他の自治体(区市町村)の補助も同時に受けることができるため、前回の報告で自治体から10万円の補助を受ける場合を想定しましたが、蓄電池を設置することで太陽光発電設備に70万円の補助を受けることができるようになり、非常に大きなメリットになります。
蓄電池使用における費用効果の分析方法
(1)蓄電池使用による売電、買電量の推計
前回の余剰電力を売電する分析は、発電電力量と消費電力量の差を計算するだけで、売電量と買電量を把握できました。今回は蓄電池を使用することで発電した電気を蓄え、必要な時に電気を供給するという計算が必要になります。以下にその分析方法を示します。
まず、図-1に示すように電力量の主要な構成要因は消費電力量D、発電電力量Sと蓄電量Bです。そして、この消費電力量を満たすために、各種の電源から電力量が供給されます。それは太陽電池(b3)、蓄電池(b2)、商用電源(b4)からの供給量です。
発電電力量Sは消費電力量Dを満たした残りは蓄電池に送られ(b1)、それでも余る電力(b5)を売電します。なお、蓄電池への供給量(b1)と蓄電池からの供給量(b2)はその時刻別の蓄電量Bに左右されます。時間ごとにこれらの電力量を計算し、年間総量を積算することで費用効果が分析できます。
この仕向電力量の関係式は以下の通りです。
S=b1+b3+b5
D=b2+b3+b4
Bt=Bt-1+b1-b2
1番目の式は「発電したものは消費電力を満たし(b3)、余剰分は蓄電池に供給し(b1)、蓄電池が容量を超える場合は売電する(b5)」ことを示しています。2番目の式は「消費電力量Dは太陽電池(b2)、蓄電池(b3)、商用電源(b4)からの供給量の総和に等しい」ことを示しています。また、最後の式は「蓄電量(Bt)は1時間前の蓄電量(Bt-1)にb1を加え、b2を差し引く」を示しています。
この条件を満たすように1時間毎の仕向電力量を計算していきます。この計算のアルゴリズムを図-2に示します。ここで重要なのは蓄電量に応じて蓄電池に仕向られる電力量が制限されることです。
そのため、ここでは以下の2つの指標により、仕向電力量を計算します。発電量と電力需要との差(S-D)の余剰電力量(E)と、余剰電力量と蓄電量の和(B+E)の条件を確認してb1からb5までの値を計算し、24時間、365日繰り返していきます。
図-2で余剰電力量(E)が正の場合(発電量>需要量)で、その余剰電力量と蓄電量の和(B+E)が蓄電池の容量(10kWh)を超える場合は、b1を(10-B)、b3をD、b5を(B+E-10)とし、容量を超えない場合はb1をE、b2をD、他は0とします(図中のBのグラフを参照ください)。
また、余剰電力量(E)が負の場合(発電量<需要量)で、その余剰電力量と蓄電量の和(B+E)が0kWh以下の場合は、b2をB、b3をS、b5を-(B+E)とし、0kWh超の場合はb2を-E、b3をS、他は0とします(マイナスの符号はB+E、Eが負の値をであるためです)。
そして得られたb4を1年間積算したものが年間買電量であり、これに電気料金単価を乗じて買電による電気料金が算定できます。また、b5の年間積算値が太陽光発電の余剰分であり、売電する場合は売電量となり売電収入の計算が可能となります。
(2)費用効果の分析
蓄電池導入による費用効果を分析する項目を図-3に示します。前回提示した分析項目に蓄電池の設備費と補助金を追加しています。まず、収入と支出を前回の分析と同様の方法で算定します。収入は売電収入(売電しない場合は0)と買電軽減額です。支出は太陽光発電設備、蓄電池設備費(設置工事費含む)に補助金を控除した金額、さらに維持管理費です。これらの費用は設備容量に設備費単価を乗じて算定します。
ここでは前回考慮していなかった蓄電池の設備費の容量当り単価を設定します。経済産業省の資料によれば、2019年度時点で蓄電池の設備価格の実績値は130~150千円/kWh、工事費は330千円/件とされています3)。設備費単価は設備容量によって異なり、設備容量が小さくなると単価は大きくなる傾向にありますので、以下のような設定ができます。
設備容量5kWh未満:150千円/kWh
設備容量5kWh以上:140千円/kWh
この価格は2019年度時点のものですので、経済産業省の生産動態調査からリチウムイオン電池のその後の価格推移を見たものが図-4です4)。2019年度の価格に対して2022年度は1.5倍(185.9/124.0)となっており、大きな増加を示しています。これは、原料であるリチウム、ニッケル、コバルト等の鉱物価格が高騰したためと思われます。
そのため、ここでは蓄電池の設備価格を2019年時点の1.5倍とします。また、工事費は330千円/件のところ人件費等の上昇を考慮して400千円/件と設定します。具体的には設備容量3kWh、5kWh、10kWhに対しては、以下の通りそれぞれ1,075千円、1,450千円、2,500千円となります。
設備容量 3kWh:150×1.5×3+400=1,075千円
設備容量 5kWh:140×1.5×5+400=1,450千円
設備容量 10kWh:140×1.5×10+400=2,500千円
次に、蓄電池を導入することによって補助金が大きく変わります。前述したように既設住宅への設置で5kWの太陽光発電設備に東京都から600千円の補助が受けられます。また区市町村もいろいろな支援を行っていますが、ここでは100千円の補助を仮定します。さらに、蓄電池は設備容量によって異なる補助率となります。まとめると以下の通りです。
太陽光発電設備 5kW 東京都:600千円、区市町村:100千円
蓄電池 5kW未満:190千円/kWh
5kWh以上6.34kWh未満 :一律950千円
6.34kWh以上:150千円/kWh
費用効果の指標として、今回も事業収支(収入-支出)、収支比率(収入/支出)を算定します。また投資効果の指標として、投資回収年数、利回りについても算定します。算定方法は前回の報告(「太陽電池(3)-現在の住宅用FIT価格での収益性」、2023年4月20日投稿)を参照ください。
蓄電池使用における費用効果の分析事例
(1) 東京都における分析事例
(a)想定ケース
ここでは、東京都において蓄電池を用いて自家消費量を増やした場合の費用効果を分析します。分析に用いた条件(想定ケース)を下に示します。太陽光発電設備の容量を5kW、蓄電池の容量を10kWhと仮定して計算を行います。
●対象地域:東京都心
●屋根の方位、傾斜角:南向き傾斜角30度
●消費電力量:間取り3LDKに住む3~4人世帯の消費電力量(年間4,560kWh)
●太陽光発電設備容量:5kW
●蓄電池容量:10kWh
●設置費:既設建物への設置を仮定
●電力料金:35円/kWh(年間消費電力が約4,560kWhの2022年の平均単価)
●売電価格(前半10年間:FIT価格):17円/kWh
●売電価格(後半10年間):9円/kWh
(b)各種電力量の計算
まず、発電電力量の算定方法は前回の報告(「再生可能エネルギー:太陽電池(3)-現在の住宅用FIT価格での収益性」)で示した計算式により算定します。また、消費電力量は対象世帯の平均月別時間データを入手して使用しています。各種の仕向電力量は図-2のアルゴリズムにより算定しました。
計算結果の一例を図-5~図-6に示します。図-5では1日の発電電力量(S:青線)と消費電力量(D:赤線)を示しています。仕向電力量から算定される蓄電量(B)が棒グラフで表されています。この日は1日中晴天のため、全天日射量に応じた発電量となっています。
b1からb5までの計算された仕向電力量を図-6に示しています。まず発電された電力量の仕向け先は以下の通りです。図-6で当初は発電した電力量で電力需要を満たし(桃色線)、余剰分を蓄電池に貯めていき(青線)、蓄電量が蓄電池の容量(10kWh)に達した時点で(図-5の棒グラフ参照)、売電(紫線)する様子が分かります。
次に、需要量への仕向電力量は以下の通りです。この事例では蓄電池の初期蓄電量が0のため、0時から6時までは商用電源からの供給(緑線)、6時過ぎから18時ころまでは太陽電池からの供給(桃色線)、18時以降は蓄電池からの供給(黒線)により需要を満たしていることが分かります。
ここで、蓄電池を導入した場合と導入しない場合の相違を図-7に示します。図-7は2つの場合の発電電力量と商用電源からの買電量を示しています。蓄電池導入前は太陽光発電ができない早朝と夜間時に買電を行っています(図-7の黒線)。
一方、蓄電池導入後はこの日の初期蓄電量が2.5kWhあったため、電力需要を5時まで蓄電池からの供給で賄い、6時に若干供給したものの6時以降は発電がおこなわれて買電は停止しています(図-7の赤線)。夕方以降も蓄電量が十分にあり全て蓄電池からの供給で賄ったことで、買電量はゼロが続きました。
その結果、この日の買電量は導入前は8.4kWhであったのに対し、導入後は0.5kWhと大きく減少しています。このため、太陽光発電が可能な天候の時はこのような夕方から夜にかけての消費電力を十分に賄うことができると想定されます。
次に、1年間の商用電源からの買電量を図-8に示します。同図から天候が良くない日には導入前後の買電量が変わらない日もありますが、買電が0の日も比較的多くあり、蓄電池導入の効果が大きいことが分かります。
蓄電池導入前後の各電源、使用用途間の仕向電力量を表-3にまとめました。太陽電池からの直接の供給電力量はどちらも同じ1,740kWhですが、商用電源からの買電量は導入前の2,815kWhに対し導入後は671kWhでした(図-9)。蓄電池の導入により買電量を76%減少させることができました。
表-3 各電源、使用用途間の仕向電力量
記号 | 項目 | 導入後電力量 | 導入前電力量 |
---|---|---|---|
S | 発電電力量(kWh/年) | 5,786 | 5,786 |
D | 消費電力量(kWh/年) | 4,555 | 4,555 |
b1 | 蓄電池への供給量(kWh/年) | 2,143 | - |
b2 | 蓄電池からの供給量(kWh/年) | 2,144 | - |
b3 | 太陽電池からの供給量(kWh/年) | 1,740 | 1,740 |
b4 | 商用電源からの供給量(買電量)(kWh/年) | 671 | 2,815 |
b5 | 商用電源への供給量(売電量)(kWh/年) | 1,903 | 4,046 |
(ⅽ)費用効果分析
設定した電気料金単価と売電単価を用いて費用効果を算定すると表-4の通りです。同表では、売電を行った場合と売電しない場合に加えて、前回報告した蓄電池を使用しない場合の費用効果を示しています。
表-4 蓄電池導入による費用効果
蓄電池10kWh | 蓄電池なし | ||||
---|---|---|---|---|---|
売電あり | 売電なし | ||||
収入 | 買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,884 | 3,884 | 1,740 |
電気料金単価(円/kWh) | 35 | 35 | 35 | ||
20年間電気料金(千円) | 2,719 | 2,719 | 1,218 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 1,903 | 4,045 | ||
平均売電価格(円/kWh) | 13 | 13 | |||
20年間売電収入(千円) | 495 | 1,052 | |||
小計 | 3,214 | 2,719 | 2,270 | ||
支出 | 太陽光発電システム | 総設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 100 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 1,300 | ||
蓄電池システム | 総設備費(千円) | 2,500 | 2,500 | ||
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | |||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | |||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | ||
合計 | 2,000 | 2,000 | 1,600 | ||
費用効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 1,214 | 719 | 670 | |
収支比率(収入/支出) | 1.61 | 1.36 | 1.42 | ||
投資効率 | 投資回収年数 (年) | 11.2 | 14.1 | 11.9 | |
利回り(%) | 3.57 | 2.11 | 2.58 |
注2)太陽光発電設備、蓄電池の総設備費は設備費と設置工事費を含む。
注3)太陽光発電設備の補助は蓄電池と併設の場合は東京都600千円、市町村100千円の補助を想定。太陽光発電のみの場合は市町村補助のみ。
同表のうち、収入を比較したものを図-10に示します。蓄電池導入後の買電軽減額は20年間で2,719千円となります。発電した電力量の余剰分を売電すると20年間の売電収入は495千円です。この金額は蓄電池を導入しない場合の2,270千円よりも大きいことが分かります。
図-11に事業収支と収支比率を示します。この結果を見ると、売電する場合は20年間の事業収支は1,214千円となり、収支比率(収入/支出)は1.61と高い費用効果を示します。また、投資回収年数は11.2年、利回りは3.57%です。一方、売電しない場合の事業収支は719千円、収支比率1.36、投資回収年数は14.1年、利回りは2.11%です。
蓄電池を導入しない場合と比較すると、「売電あり」、「売電なし」のどちらも「蓄電池なし」の場合よりも事業収支が大きくなっています。これは蓄電池を加えた支出額の差が400千円に留まっているためです。東京都の補助金が蓄電池導入に対して高額になっており、売電しなくても利益が出るように設定されていると想定されます。
蓄電池導入の場合、売電をした方が費用効果は高いですが、売電をしなくても利益が出ることが分かります。これは、FIT価格の低減や出力制御などの不安定要素があっても導入する価値があるということを示しています。
(2)蓄電池の設備容量による費用効果の相違
次に、蓄電池の設備容量を変えて費用効果を分析した結果が表-5です。蓄電池の容量を10kWhに加えて7.5kWh、5kWh、3kWhの3つのケースを対象に費用効果を分析しました。
補助金は2023年度の最新の補助額(設置事業者補助)を用いています。表-5で蓄電池の補助金と補助率について赤字で示しています。蓄電池の補助率は5kWhのものが最も大きくなっています。
表-5 蓄電池の容量別の費用効果の比較
蓄電池10kWh | 蓄電池7.5kWh | 蓄電池5kWh | 蓄電池3kWh | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
売電の有無 | あり | なし | あり | なし | あり | なし | あり | なし | ||
収入 | 買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,884 | 3,884 | 3,631 | 3,631 | 3,193 | 3,193 | 2,659 | 2,659 |
電気料金単価(円/kWh) | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | ||
総買電軽減額(千円) | 2,719 | 2719 | 2,542 | 2,542 | 2,235 | 2,235 | 1,861 | 1,861 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 1,903 | - | 2,159 | - | 2,597 | - | 3,130 | - | |
平均売電価格(円/kWh) | 13 | - | 13 | - | 13 | - | 13 | - | ||
総売電収入額(千円) | 495 | - | 561 | - | 675 | - | 814 | - | ||
合計 (千円) | 3,214 | 2,719 | 3,103 | 2,542 | 2,910 | 2,235 | 2,675 | 1,861 | ||
支出 | 太陽光発電 システム | 設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
蓄電池 システム | 設置費(千円) | 2,500 | 2,500 | 1,975 | 1,975 | 1,450 | 1,450 | 1,075 | 1,075 | |
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | 1,125 | 1,125 | 950 | 950 | 570 | 570 | ||
補助率(%) | 60.0 | 60.0 | 57.0 | 57.0 | 65.5 | 65.5 | 53.0 | 53.0 | ||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | 850 | 850 | 500 | 500 | 505 | 505 | ||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ||
合計 (千円) | 2,000 | 2,000 | 1,850 | 1,850 | 1,500 | 1,500 | 1,505 | 1,505 | ||
費用 効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 1,214 | 719 | 1,253 | 692 | 1,410 | 735 | 1,170 | 356 | |
収支比率(収入/支出) | 1.61 | 1.36 | 1.68 | 1.37 | 1.94 | 1.49 | 1.78 | 1.24 | ||
投資 効率 | 投資回収年数 (年) | 11.2 | 14.1 | 10.5 | 13.8 | 8.5 | 12.4 | 9.2 | 15.4 | |
利回り(%) | 3.57 | 2.11 | 4.04 | 2.23 | 5.88 | 3.06 | 4.85 | 1.48 |
注2)蓄電池の補助は「5kWh以上6.34kWh未満 :一律950千円」のため、5kWhの補助率が最も高くなっています。5kWh未満は190千円/kWh、6.34kWh以上は150千円/kWhです。
蓄電池容量別の収入を比較したものを図-12に示します。各ケース別の買電量は蓄電池容量が大きいほど軽減されますが、売電量は逆に少なくなります。蓄電池の電力が夜間時に自家消費に使われるためです。しかし、電気料金単価の方が売電単価より大きいため、収入全体としては蓄電池容量が大きいほど多くなります。
さらに事業収支と収支比率を図-13に示します。これを見ると、「売電あり」の場合は事業収支、収支比率ともに5kWhの蓄電池が最も大きくなっています。5kWhの蓄電池では収支比率が1.82と極めて高く、投資回収年数も10年を下回る8.5年となっています。これは、蓄電池の補助率の大きさが一因と考えられますが、その原因解明にはより詳細な分析が必要です。
従って、仮定した消費電力量(約380kWh/月、12.7kWh/日)では、東京都の補助制度においては5kWhの蓄電池容量を導入することで最も大きな費用効果が得られることが分かりました。本計算はあくまでも費用関数に基づく試算ですので、実際には個々の住居の屋根の構造等に基づく見積を基に評価していく必要があります。
また、高額の補助がある東京都の事例をもとに費用効果分析を行ってきましたが、地域によって制度が異なることからその実情に合わせた費用効果分析を行って、導入の是非を決めていくことが必要です。なお、NEDOの日射量データは観測期間の平年値を示すものですので、個々の年との比較ではばらつきがあることをご理解ください。
次回は、東京都以外の地域での補助を前提にした分析や、今回は詳細な検討をしていなかった電気料金に関する感度分析についても行っていく予定です。
<参考文献>
1) 東京都:公式Webサイト、補助金・助成金、家庭における蓄電池導入促進事業災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業、2023年4月24日閲覧
2) 東京都:公式Webサイト、プレスリリース、住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」の助成金申請受付について、2023年4月13日
3) 経済産業省:公式Webサイト、第1回定置用蓄電システム普及拡大検討会、定置用蓄電システム普及拡大検討会の結果とりまとめ、2020年11月19日
4) 経済産業省:公式Webサイト、生産動態統計、2023年4月24日閲覧