前回は蓄電池導入による自家消費を増加させた太陽光発電システムの収益性を分析しました。これまで固定の電気料金単価、消費電力量を使用してきましたが、これらは収益性に影響を与えます。収益を計算する20年間にこれらの条件が変わらないとは限らず、これらは収益性へのリスク要因になります。
新たな投資に対するこのような収益性のリスクについて、事前に把握しておくことが多額の投資に対する後悔しない判断に繋がります。今回は蓄電池を導入した太陽光発電システムの収益性のリスクについて検討していきます。
今回取り上げるリスク要因は以下に示す2項目です。
・電気料金単価
・消費電力量
電気料金単価はこれまで一般世帯の2022年の平均料金(35円/kWh)を用いてきました。電気料金単価は燃料費の高騰により大きく変動しており、将来の収益に対する変動要因になります。本検討においては電気料金単価が高い場合よりも低くなる場合の方が投資回収を遅らせる要因ですので、その点に注目して分析します。
また、これまで設定してきた消費電力量は3〜4人世帯のものであり、将来は世帯の人数が減って消費電力量が少なくなる場合もあるかもしれません。この場合も投資回収という観点からはリスク要因になります。太陽光発電による蓄電池を用いた自家消費を主目的とする場合は、収入の中心となる買電軽減額が減るので収入を減らすことになるためです。
なお、これまでも説明してきたように費用効果に最も大きな影響を与えるのは補助金ですが、新年度が始まったばかりのため新予算での補助金の額が確認できない状況です。そのため、次回以降で東京都以外の補助金における収益性について検討したいと思います。
また、ここでは費用効果、投資効率のみで蓄電池容量の評価等を行っています。単に設置者の経済的評価のみで設備容量を決定することに疑問を持つ方もいると思います。そこで最後に費用効果で決定された設備容量について、再エネの主力電源化への貢献という視点から考察してみましたので、報告します。
<本報告のコンテンツ> ●電気料金の変動の影響 (1) 過去の電気料金の推移 (2) 電気料金の変動による収益性への影響 (a)分析の条件 (b)蓄電池導入の有無による費用効果 (c)蓄電池容量別の費用効果 ●消費電力量の変動の影響 (1) 世帯人数別の消費電力量 (a)蓄電池導入の有無による比較 (b)蓄電池容量別の費用効果の比較 (2)消費電力量による費用効果の影響 (a)消費電力量による仕向電力量の相違 (b)蓄電池導入の有無による費用効果 (c)蓄電池容量別の費用効果 ●再エネ主力電源化への貢献に関する分析 |
電気料金の変動の影響
(1) 過去の電気料金の推移
電気料金は2022年に燃料価格の高騰により大きく増加してきました。これは電気料金が燃料費調整制度によって発電の原料となる燃料価格に連動した料金体系になっているためです。詳細は「【緊急分析】急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析」(2023年1月23日投稿)を確認ください。
ここでは、これまでの報告で使用してきた過去の電力料金単価の推移を分析し、太陽光発電の投資のリスク要因としての電気料金単価の低減可能性を見ていきます。分析で使用していたのは、小売電気事業者としての東京ガスの料金体系に基づいた単価です1)(東京電力EPなどの旧電力企業系の小売電気事業は料金規制がかかっており、今後値上げが行われるため採用していません)。
電気料金単価は使用した電力量によって変わってくるため、これまで消費電力量380kWh/月(年間4,560kWh)の世帯における電気料金単価を使用していました。これは小売電気事業のデータベースから、部屋数3LDKの世帯(3~4人世帯と想定)の平均消費電力量を集計したものです。その電気料金単価について2022年1月から2023年5月までの推移を図-1に示します。
同図を見ると2022年1月の29.9円/kWhから2023年1月の43.4円/kWhまで上昇を続けています。2023年2月から政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」により、7円/kWhの補助が行われて大きく低下しています(図-1の青線)。同図にはこの補助がなかった場合の単価についても示しています(図-1の赤線)。
これを見て分かるように料金の上昇は2023年2月以降一旦終了し、下降に転じています。これは燃料価格が低下してきたためです。前回の検討で用いた単価35円/kWhは2022年の平均値です。政府の補助後の単価(2023年5月、32.7円/kWh)は既にこの値を下回っていることが分かります。政府の補助は現在のところ9月までとされていますので、実際には10月以降もこれを下回るかどうかは不明です。
前述したように、蓄電池を用いた太陽光発電設備の費用効果を分析する際は、この電気料金単価が低いほど収入が減ることになり、費用効果や投資効率を低減させます。これは、蓄電池により夜間時の消費電力を軽減した買電軽減額を収入として見ているからです(詳細は「太陽電池(4)-自家消費を増加させる蓄電池の収益性」、2023年5月1日投稿を確認ください)。
これらのことから、電気料金単価が30円/kWh程度に戻ることは十分考えられますので、まずこの価格での費用効果について検討します。さらに、電気料金単価が25円/kWhまで低下していくケースもリスク評価の厳しいケースとして分析しておくことも有効と思われます。実際に2021年はこの料金水準であったからです。
(2) 電気料金の変動による収益性への影響
(a)分析の条件
なお、ここで想定するケースは前回報告でも対象にした以下の想定ケースです。発電設備5kW、蓄電池容量は10kWhを想定します。太陽光発電設備費用の詳細は「太陽電池(3)-現在の住宅用FIT価格での収益性」を参照ください。また、蓄電池設備費、補助金等の詳細は「太陽電池(4)-自家消費を増加させる蓄電池の収益性」を参照ください。
<対象地域と対象世帯>
●対象地域:東京都心
●屋根の方位、傾斜角:南向き傾斜角30度
●消費電力量:間取り3LDKに住む3~4人世帯の消費電力量(年間4,560kWh)
<導入設備の諸元>
●発電設備容量:5kW
●蓄電池容量:10kWh
●設置箇所:既設建物への設置を仮定
●太陽光発電設備費:調達価格等算定委員会の意見書より28万円/kW
●蓄電池設備費:22.5万円/kWh(5kWh未満)、21万円/kWh(5kWh以上)
●蓄電池設置工事費:40万円/件
●維持管理費:調達価格等算定委員会の意見書より3千円/kW/年
●補助制度:東京都補助制度(2023年度)
<売電価格、電気料金単価>
●売電価格(FIT価格):17円/kWh (前半10年間)
●売電価格:9円/kWh (後半10年間)
●電気料金単価:比較対象35円/kWh(対象世帯の2022年平均値)
電気料金単価については、以下の2つのケースを追加して計算を行います。
① 電気料金単価30円/kWh(比較的想定されるケース)
② 電気料金単価25円/kWh(厳しいリスクとして見ておくケース)
(b)蓄電池の有無による費用効果
電気料金単価を30円/kWh、25円/kWhとした場合の費用効果の分析結果を表-1に示します。前回と同様に費用効果の指標として事業収支(収入-支出)、収支比率(収入/支出)を、また投資効率の指標として投資回収年数、利回りを算定しています。
表-1 電気料金単価別の費用効果
電気料金単価 30円/kWh | 電気料金単価 25円/kWh | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
収入 | 蓄電池 | あり | なし | あり | なし | |||
売電の有無 | あり | なし | あり | あり | なし | あり | ||
買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,884 | 3,884 | 1,740 | 3,884 | 3,884 | 1,740 | |
電気料金単価(円/kWh) | 30 | 30 | 30 | 25 | 25 | 25 | ||
20年間電気料金(千円) | 2,330 | 2,330 | 1,044 | 1,942 | 1,942 | 870 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 1,903 | 4,045 | 1,903 | 4,045 | |||
平均売電価格(円/kWh) | 13 | 13 | 13 | 13 | ||||
20年間売電収入(千円) | 495 | 1,052 | 495 | 1,052 | ||||
合 計 | 2,825 | 2,330 | 2,096 | 2,437 | 1,942 | 1,922 | ||
支出 | 太陽光発電 システム | 設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 100 | 700 | 700 | 100 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 1,300 | 700 | 700 | 1,300 | ||
蓄電池 システム | 設置費(千円) | 2,500 | 2,500 | 2,500 | 2,500 | |||
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | 1,500 | 1,500 | ||||
補助率(%) | 60.0 | 60.0 | 60.0 | 60.0 | ||||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | ||||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ||
合 計 | 2,000 | 2,000 | 1,600 | 2,000 | 2,000 | 1,600 | ||
費用 効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 825 | 330 | 496 | 437 | -58 | 322 | |
収支比率(収入/支出) | 1.41 | 1.17 | 1.31 | 1.22 | 0.97 | 1.2 | ||
投資 効率 | 投資回収年数 (年) | 13.0 | 16.7 | 13.3 | 15.6 | 20.7 | 15.0 | |
利回り(%) | 2.43 | 0.97 | 1.91 | 1.29 | -0.17 | 1.24 |
注2)太陽光発電設備、蓄電池の補助は東京都の2023年度予算を基に設定。東京都は太陽光発電単独の補助はないため、市区町村の補助を基に設定。
料金単価別の事業収支と利回りを比較したものを図-2(1)、図-2(2)に示します。電気料金単価が30円/kWhの場合は「蓄電池10kWh、売電なし」の事業収支、利回り共に「蓄電池なし、売電あり」のケースより悪くなっています。「蓄電池10kWh、売電なし」の事業収支は「蓄電池10kWh、売電あり」の半分以下となっており、利回りも1.0%のためかろうじて利益が出るというところです。
電気料金単価が25円/kWhの場合は「蓄電池10kWh、売電なし」の事業収支はマイナスとなり、投資を回収することは不可能です。電気料金単価が35円/kWhでは十分な利益が出ていた「蓄電池10kWh、売電なし」のケースが、単価が10円/kWh低減すると利益が出なくなることに注意が必要です。従って、売電なしとするにはリスクがあると考えた方が良いでしょう。
(c)蓄電池容量別の費用効果
次に、蓄電池の容量別の費用効果を分析した結果を表-2に、事業収支と利回りを比較したものを図-3(1)、図-3(2)に示します。どちらも同じ傾向にありますが、単価が30円/kWhの場合でも「蓄電池5kWh、売電あり」は利回りで4%以上を確保しており、「蓄電池3kWh、売電あり」も3%を確保しています。しかし、売電なしの場合はほとんどの蓄電池容量で利回りは1%台に低下しています。
表-2 蓄電池容量別の費用効果(電気料金単価30円/kWh)
蓄電池10kWh | 蓄電池7.5kWh | 蓄電池5kWh | 蓄電池3kWh | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
収入 | 売電の有無 | あり | なし | あり | なし | あり | なし | あり | なし | |
買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,884 | 3,884 | 3,631 | 3,631 | 3,193 | 3,193 | 2,659 | 2,659 | |
電気料金単価(円/kWh) | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | ||
20年間電気料金(千円) | 2,330 | 2330 | 2,179 | 2,179 | 1,916 | 1,916 | 1,595 | 1,595 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 1,903 | 2,159 | 2,597 | 3,130 | |||||
平均売電価格(円/kWh) | 13 | 13 | 13 | 13 | ||||||
20年間売電収入(千円) | 495 | 561 | 675 | 814 | ||||||
合 計 | 2,825 | 2,330 | 2,740 | 2,179 | 2,591 | 1,916 | 2,409 | 1,595 | ||
支出 | 太陽光発電 システム | 設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
蓄電池 システム | 設置費(千円) | 2,500 | 2,500 | 1,975 | 1,975 | 1,450 | 1,450 | 1,075 | 1,075 | |
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | 1,125 | 1,125 | 950 | 950 | 570 | 570 | ||
補助率(%) | 60.0 | 60.0 | 57.0 | 57.0 | 65.5 | 65.5 | 53.0 | 53.0 | ||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | 850 | 850 | 500 | 500 | 505 | 505 | ||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ||
合 計 | 2,000 | 2,000 | 1,850 | 1,850 | 1,500 | 1,500 | 1,505 | 1,505 | ||
費用 効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 825 | 330 | 890 | 329 | 1,091 | 416 | 904 | 90 | |
収支比率(収入/支出) | 1.41 | 1.17 | 1.48 | 1.18 | 1.73 | 1.28 | 1.6 | 1.06 | ||
投資 効率 | 投資回収年数(年) | 13 | 16.7 | 12.2 | 16.5 | 9.6 | 14.9 | 10.3 | 18.6 | |
利回り(%) | 2.43 | 0.97 | 2.87 | 1.06 | 4.55 | 1.73 | 3.75 | 0.37 |
注2)太陽光発電設備、蓄電池の補助は東京都の2023年度予算を基に設定。
さらに、単価が25円/kWhになると「蓄電池5kWh、売電あり」でも利回り3%程度であり、売電なしの場合はほとんどのケースで利回りがマイナスになっています。5kWhで最大なのは表-2に示すように、東京都の制度では補助率が最も大きいためです。
このように電気料金単価が5円/kWh低下するごとに、利回りは1%以上低下していくことが分かります。現在の料金単価で十分利益が出ると思っても、将来の変動においてはこのようなリスクがあることを認識しておくことが重要です。また、利回りを重視する場合は特に蓄電池容量について小規模(発電容量の1時間程度)で売電可能にしておくことが有利と考えられます。
なお、この計算は東京都の小規模蓄電池に高額の補助が設定されている場合の結論であり、補助制度に依存していることに留意してください。補助制度の異なる場合の分析はさらに検討していくことが必要です。
消費電力量の変動の影響
(1) 世帯人数別の消費電力量
これまでの検討では、世帯の消費電力量は3~4人家族で月平均380kWhを前提に時間別、月別(旬単位)の需要パターンを使用してきました。家族数が少ない場合や節電を行って消費電力量が少ない世帯では費用効果にどのような影響が出てくるのでしょうか。
ここでは、消費電力量の少ない世帯として2人世帯を例に分析します。消費電力量のデータは東京ガスのカスタマーサポートから得られる2人世帯の消費電力量の平均値です2)。図-4に消費電力量の年間平均時間パターンを、図-5に月別パターンを示します。時間変動、月別変動共に両世帯は同様の変動傾向を示しています。
2人世帯の年間消費電力量は3,743kWhであり、3~4人世帯の4,555 kWhの82%でした。2人世帯の消費電力量はどの時間断面も概ね8割程度の割合となっています。このデータを用いて蓄電池を導入した太陽光発電システムの費用効果を分析します。
(2) 消費電力量による費用効果の影響
(a)消費電力量による仕向電力量の相違
前述した分析条件の下で、蓄電池を用いた太陽光発電システムの各電源と使用用途間の仕向電力量を計算した結果を表-3に示します。仕向電力量の計算は、まず発電電力量は自家消費し、余剰があれば容量限度まで蓄電し、それでも余剰がある場合に売電するというルールに従います。
これは小規模の太陽光発電(発電能力10kW未満)は自家消費を優先し余剰分を売電できると決められているからです。また、蓄電池に優先的に貯めるのは、電気料金単価が売電価格より高いため、夜間時に蓄電池の電気を使って買電量を減らす方が有利なためです。
表-3の仕向電力量は1時間毎の計算値を年間集計したものを示しています。同表には比較のために、前回報告した3~4人世帯の結果も示しています。また図-5には蓄電池の導入前後の仕向電力量と太陽光発電導入前の仕向量(買電量)も示しています。
表-3 各電源、使用用途間の仕向電力量
記号 | 項目 | 2人世帯 | 3~4人世帯 | ||
---|---|---|---|---|---|
導入後 | 導入前 | 導入後 | 導入前 | ||
S | 発電電力量 | 5,786 | 5,786 | 5,786 | 5,786 |
D | 消費電力量 | 3,743 | 3,743 | 4,555 | 4,555 |
b1 (S→B) | 蓄電池Bへの供給量 | 1,904 | - | 2,142 | - |
b2 (B→D) | 蓄電池Bからの供給量 | 1,905 | - | 2,144 | - |
b3 (S→D) | 太陽電池Sからの供給量 | 1,506 | 1,740 | - | |
b4 (G→D) | 買電量(商用電源Gからの供給量) | 332 | 2,237 | 671 | 2,815 |
b5 (S→G) | 売電量(売電行う場合) | 2,376 | 4,280 | 1,903 | 4,045 |
まず、2人世帯の蓄電池導入前の買電量(図-5の上段中央のG→D)は2,237kWh、売電量(同じくS→G)は4,280kWhです。一方、3~4人世帯の蓄電池導入前の買電量(図-5の下段中央のG→D)は2,815kWh、売電量(同じくS→G)は4,046kWhです。
太陽光発電設備と蓄電池の導入により2人世帯の買電量(図-5の上段左側のG→D)は332kWhであり、蓄電池の導入により買電量を1,905kWh(=2,237-332)減らすことができました。3~4人世帯は同様に買電量(図-5の下段左側のG→D)は671kWhとなり、蓄電池の導入により買電量を2,144kWh(=2,815-671)減らしています。
さらに、太陽光発電と蓄電池システムへの収益に影響を与える買電減少量は以下の通りです。2人世帯については全ての設備の導入前の買電量は3,743kWh(図-5の上段右側のG→D)であり、太陽光発電設備と蓄電池の導入によって3,411kWh(=3,743-332)減らすことができました。また、3~4人世帯のそれ(図-5の下段右側のG→D)は4,555kWhであり、同じく3,884kWh(=4,555-671)減らしています。
このように、2人世帯の買電減少量は3~4人世帯のそれと比べて473kWh(=3,884-3,411)少なくなっています。一方、売電量については2人世帯は2,376kWh(図-5の上段左側のS→G)、3~4人世帯は1,903kWh(図-5の下段左側のS→G)と2人世帯の方が473kWh(=2,376-1,903)多くなっています。このように買電の減少量と売電の増加量が同じ値となりますが、電気料金単価が売電価格よりも高いため、2人世帯の収入が減少する要因となります。
(b)蓄電池の有無による費用効果
費用効果の分析結果を表-4に示します。これを見ると予想通り、世帯人数3~4人の場合よりも費用効果面では低下していることが分かります。これは前述した通り買電減少量が少なくなっていることと、電気料金単価が売電価格より高いためです。
表-4 蓄電池の有無による費用効果
2人世帯消費電力量 | 3~4人世帯消費電力量 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
蓄電池の有無 | あり | なし | あり | なし | ||||
売電の有無 | あり | なし | あり | あり | なし | あり | ||
収入 | 買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,411 | 3,411 | 1,506 | 3,884 | 3,884 | 1,740 |
電気料金単価(円/kWh) | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | ||
20年間電気料金(千円) | 2,388 | 2,388 | 1,054 | 2,719 | 2,719 | 1,218 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 2,376 | 4,280 | 1,903 | 4,045 | |||
平均売電価格(円/kWh) | 13 | 13 | 13 | 13 | ||||
20年間売電収入(千円) | 618 | 1,113 | 495 | 1,052 | ||||
小計 | 3,006 | 2,388 | 2,167 | 3,214 | 2,719 | 2,270 | ||
支出 | 太陽光発電 システム | 設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 100 | 700 | 700 | 100 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 1,300 | 700 | 700 | 1,300 | ||
蓄電池 システム | 設置費(千円) | 2,500 | 2,500 | 2,500 | 2,500 | |||
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | 1,500 | 1,500 | ||||
補助率(%) | 60.0 | 60.0 | 60.0 | 60.0 | ||||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | ||||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ||
合計 | 2,000 | 2,000 | 1,600 | 2,000 | 2,000 | 1,600 | ||
費用 効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 1,006 | 388 | 567 | 1,214 | 719 | 670 | |
収支比率(収入/支出) | 1.50 | 1.19 | 1.35 | 1.61 | 1.36 | 1.42 | ||
投資 効率 | 投資回収年数 | 12.0 | 16.3 | 12.6 | 11.2 | 24.1 | 11.9 | |
利回り | 2.96 | 1.14 | 2.18 | 3.57 | 2.11 | 2.58 |
注2)太陽光発電設備、蓄電池の補助は東京都の2023年度予算を基に設定。東京都は太陽光発電単独の補助はないため、市区町村の補助を基に設定。
太陽光発電導入(太陽電池設備5kW、蓄電池10kWh)における投資の利回りを示したものを図-6に示します。世帯人数が3~4人の利回りより0.4~1.0%低下していますが、売電を行う場合は2%以上を達成できるようです。
(c)蓄電池容量別の費用効果
次に、蓄電池容量別に費用効果を比較すると表-5の通りです。家族数3~4人の場合と同様に5kWhの容量の場合が最も費用効果、投資効率が大きいことが分かります。表-5の蓄電池の補助率を見ると分かるように、5kWhの蓄電池の補助率が大きいためです。
表-5 蓄電池容量別の費用効果
蓄電池10kWh | 蓄電池7.5kWh | 蓄電池5kWh | 蓄電池3kWh | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
収入 | 売電の有無 | あり | なし | あり | なし | あり | なし | あり | なし | |
買電軽減額 | 買電減少量(kWh/年) | 3,411 | 3,411 | 3,245 | 3,245 | 2,931 | 2,931 | 2,445 | 2,445 | |
電気料金単価(円/kWh) | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | 35 | ||
20年間電気料金(千円) | 2,388 | 2,388 | 2,272 | 2,272 | 2,052 | 2,052 | 1,712 | 1,712 | ||
売電収入 | 売電量(kWh/年) | 2,376 | 2,544 | 2,860 | 3,344 | |||||
平均売電価格(円/kWh) | 13 | 13 | 13 | 13 | ||||||
20年間売電収入(千円) | 618 | 661 | 744 | 869 | ||||||
小計 | 3,006 | 2,388 | 2,933 | 2,272 | 2,796 | 2,052 | 2,581 | 1,712 | ||
支出 | 太陽光発電 システム | 設備費(千円) | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 | 1,400 |
補助金(千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
計 (千円) | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | ||
蓄電池 システム | 設置費(千円) | 2,500 | 2,500 | 1,975 | 1,975 | 1,450 | 1,450 | 1,075 | 1,075 | |
補助金(千円) | 1,500 | 1,500 | 1,125 | 1,125 | 950 | 950 | 570 | 570 | ||
補助率(%) | 60.0 | 60.0 | 57.0 | 57.0 | 65.5 | 65.5 | 53.0 | 53.0 | ||
計 (千円) | 1,000 | 1,000 | 850 | 850 | 500 | 500 | 505 | 505 | ||
維持管理費(20年間)(千円) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ||
合計 | 2,000 | 2,000 | 1,850 | 1,850 | 1,500 | 1,500 | 1,505 | 1,505 | ||
費用 効果 | 事業収支(収入-支出)(千円) | 1,006 | 388 | 1,083 | 422 | 1,296 | 552 | 1,076 | 207 | |
収支比率(収入/支出) | 1.50 | 1.19 | 1.59 | 1.23 | 1.86 | 1.37 | 1.71 | 1.14 | ||
投資 効率 | 投資回収年数 | 12.0 | 16.3 | 11.1 | 15.7 | 8.8 | 13.7 | 9.5 | 17.1 | |
利回り | 2.96 | 1.14 | 3.49 | 1.36 | 5.40 | 2.30 | 4.46 | 0.86 |
注2)太陽光発電設備、蓄電池の補助は東京都の2023年度予算を基に設定。
各容量別の利回りを世帯人数別に比較したものを図-7に示します(3~4人世帯の費用効果の計算結果は前回の報告で示していますので、省略します)。同図から分かるように2人世帯の利回りは3~4人世帯より0.4から1%程度低くなっています。
2人世帯でも容量が5kWhで売電をする場合は利回り5%を達成しています。他の容量の場合も売電する場合はおおむね3%を達成していますが、売電しない場合は大きく低減しています。
今回は、世帯人数2人の場合で電気料金単価を変化させた計算結果は示していませんが、傾向としては表-1に示した割合で収入が低減していくので、そのリスクを確認したうえで投資の判断をすべきと考えられます。
再エネ主力電源化への貢献に関する分析
ここまで、太陽光発電設備への投資を行う際の費用効果や投資効率のリスクについて検討してきました。分析の結果、蓄電池の容量については5kWの太陽光発電設備に対して5kWhの蓄電池を設置することが最も費用効果が高いことが分かりました。
これは補助制度が5kWhの蓄電池に最も高額の補助を行っていたためですが、この事実からだけだと費用効果を重視して5kWhの蓄電池を設置する人が多くなるかもしれません。
また、今回の検討結果から消費電力量(電力需要)が大きい方が太陽光発電システムへの投資面では有利であるとされたため、あまり節電しない方が良いと思う方もいるかもしれません。
補助制度については次回の検討テーマとする予定ですが、ここでは太陽光発電設備や蓄電池の導入の目的である再エネの主力電源化について考えた場合に、5kWhの蓄電池の設置が最適か、消費電力量はどうなのかを考えてみたいと思います。
太陽光発電設備の普及に伴って電力需給の逼迫は太陽光発電が行われなくなった18時以降になります(「太陽電池(2)-太陽光発電の普及施策」の図-6を参照ください)。また、家庭用の電力需要を見ると、本報告での図-4(1)から分かるように20時~22時が最も多くなっていました。
この夜間時の需給バランスを改善するために蓄電池を用いた太陽光発電設備の果たす効果を分析します。前回の3~4人世帯の仕向電力量の分析結果と、今回の2人世帯の仕向電力量の分析結果から、買電量の18時以降の変動を整理すると以下となります。
3~4人世帯における蓄電池容量別の買電量の時間パターン(年間平均値)を図-8に示します。蓄電池の容量が小さいものは18時以降に大きくなり、翌日の朝の太陽光発電が行われるまで上昇していきます。この図より蓄電池容量が大きい方が夜間時のピークを小さくできることから、ピークカットのためには蓄電池容量を大きくした方が有利となります。
次に、蓄電池容量10kWhについて3~4人世帯と2人世帯の場合を比較したものを図-9に示します。これを見ると2人世帯の夜間時ピークは0.07kWhであり3~4人世帯の0.12kWhの6割程度です。このことから消費電力量が少ない方が夜間時のピークを小さくすることができ、再エネの主力電源化に向けて効果的であることが分かります。
以上のことから、個別世帯での費用効果(または投資効率)により決定された蓄電池容量は電力システム全体での最適化と一致しないことが分かりました。補助制度はこれらの電力システムの安定化に向けた制度設計が必要と思われ、次回は補助制度についても考察していく予定です。
<参考文献>
1)東京ガス、公式Webサイト、電気料金単価計算表、料金メニュー「基本プラン」
2)東京ガス:公式Webサイト、MYTOKYOGAS、カスタマーサービス、消費電力量