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太陽電池(6)-太陽光発電世帯が蓄電池を導入する補助制度とは?

 蓄電池の補助と収益性については前々回の「太陽電池(4)-自家消費を増加させる蓄電池の収益性」(2023年5月1日投稿)において検討してきました。この検討においては東京都の極めて高額な補助の下での検討でした。しかし、他の地域ではあまり高額の補助は設定されていませんので、その場合の検討も必要です。

 蓄電池は再エネの主力電源化に向けて太陽光発電ができない夕方から夜間時の需給バランスの改善のために重要な設備でした。太陽光発電設備は既に普及が進んでいますので、多くの世帯で発電した電力を売電して収入を得ています。

 そのような世帯にとって蓄電池は魅力的な設備と言えるのでしょうか。また、現状の補助金の下で投資する価値がある(採算がとれる)のでしょうか。蓄電池の導入を検討中の方はその点に最も興味があると思われます。その採算性についての重要なポイントは補助制度です。

 ここでは国や自治体での蓄電池への補助制度の現状を把握するとともに、導入する世帯にとって蓄電池導入の採算性について分析を行っていきます。そのうえで、太陽光発電で売電している世帯が蓄電池を導入して採算がとれる補助金について考察します。

 この分析の結果を先にお話しすると、現状の補助金では一般的な消費電力量の世帯であって、FIT価格で売電している世帯では採算性は困難であることが分かりました。それは、蓄電池の価格が高騰しており、東京都以外の国や自治体の補助制度では補助金額が少ないためです。

 そこで、現行の補助制度において蓄電池を導入する際の採算性が取れる可能性についても分析しました。具体的にはオール電化を導入している消費電力量が多い世帯やFIT価格の適用が終了している世帯、さらに電気料金単価が高額の世帯を対象に、蓄電池導入で採算が取れる補助金について分析しましたので、報告します。

 なお、最後に今後の分析精度向上のためのお願いについても記載してありますので、ご確認いただきご協力いただけますようお願いいたします。

国内における蓄電池の補助制度の現状
(1)国の補助
(2)地方自治体の補助
太陽光設備導入世帯における蓄電池導入の収益性
(1)蓄電池容量別の収入
(2)蓄電池の設置費用
(3)蓄電池の補助金の分析
蓄電池導入に影響する条件における必要補助金の分析
(1)蓄電池導入の補助金に影響を与える要因
(2)オール電化の消費電力量における必要補助金
(3)低売電価格における必要補助金
(4)高額な電気料金単価における必要補助金
おわりにとお願い

国内における蓄電池の補助制度の現状

(1) 国の補助

 前回までは東京都の蓄電池に対する補助を基に検討してきましたが、今回は他の補助制度について概観します。初めに国の補助制度について概説します。現在の国の補助制度は設備に対する直接または単独の補助はないようです。

 2023年度に実施されるのは経済産業省と環境省の表-1に示す補助制度です1)2)。経済産業省の補助制度は蓄電池を分散型エネルギー源として活用するための実証事業に参加する個人、企業への補助となります1)。そのため、単に設備及び設置工事費への補助を行うのではなく、実証事業で行う蓄電池を用いた太陽光発電の出力制御等への協力や運転データの提供が義務付けられています。

 環境省の補助はネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の実現の手段として蓄電池への補助を行うものであり、ZEHの基準を満たすことが条件となっています2)。その基準とは建築物の外皮基準(壁、床、天井などの居室を囲む建材基準)や一次エネルギー消費の省エネ基準の達成です。

 したがって、国の補助は様々な条件が付されており、補助を受けることが容易ではありませんが、ここでは補助の水準を見るにとどめます。経済産業省の補助は補助対象が設備費、工事費であり、補助率は1/3以内設備容量当りの補助額容量補助額)が32千円/kWh以下となっています(公募要領では補助金上限額となっていますが、ここでは容量補助額と称します)。

 また、経済産業省の補助は2023年度から補助上限が1台当たり600千円となりました。一方、環境省の補助は蓄電システムに対して補助率は1/3以内、容量補助額が20千/kWhで補助上限が200千円です。

表-1 国の蓄電池に関する補助制度

    補助制度名 管轄省庁 補助対象補助率容量補助額補助上限
蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金経済産業省設備費、工事費1/3以内32千円/kWh注1)600千円
戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業環境省蓄電システム1/3以内20千円/kWh200千円
集合住宅の省CO2化促進事業(低層ZEH-M支援事業)環境省蓄電システム1/3以内20千円/kWh200千円/戸注2)
注1)この容量補助額は、蓄電池の故障や自然災害時に早期に復旧できる体制があり、廃棄物処理法上の広域認定の取得を受けている条件を満たした金額です。条件を満たさない場合は27千円/kWhとなります。
注2)一定の条件を満たす場合は上限240千円/戸 
出所)2023年度蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金公募要領、2023年度3省連携事業ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス推進に向けた取り組み、パンフレット

 これらの補助制度における設備容量による補助金額を図-1に示します。同図にはこれまで用いてきた東京都の補助金についても示しています。経済産業省の補助金は32千円/kWhですので、10kWhで320千円、15kWhで480千円、20kWhでは上限の600千円です。環境省は10kWhで200千円、15kWhでも同額の200千円です。

図-1 国と東京都の設備容量に対する補助金

 一方、東京都の補助は10kWhで1,500千円、20kWhでは3,000千円と国の補助金の5倍程度になります。東京都の補助率は3/4以内ですので、その補助率だけでも非常に大きな相違があります。これまでの検討において東京都の補助で利益が出ていたケースでも、国の補助で利益が出ると考えるのは難しいように思われます。

 この相違は、国は蓄電池を再エネの主力電源化に向けた手段としてとらえているのに対して、東京都は家庭での蓄電池の普及に対してある程度投資回収が可能なレベルとして補助金を設定していると考えられます。

(2)地方自治体の補助

 日本の地方自治体のうち、人口規模の大きな80自治体(6県74市区)の蓄電池への補助制度を整理しました。補助の仕組みとして国や東京都と同様に補助率と設備容量当り補助額(国や東京都では補助上限としていますがここでも容量補助額と称します)を設定しているところと定額の補助をしているところがあります。

 図-2(1)に示すように補助率を設定しているのは19自治体であり、補助率「1/10以下」と「1/3」が7自治体ずつあり、多くを占めています。1/2の補助率を設定しているところも2自治体(東京都練馬区、福岡市)ありました。また、容量補助額を設定しているのは30自治体あり、図-2(2)に示すように概ね10~30千円/kWhで設定されています。容量補助額が50千円/kWh以上の自治体は山形県、京都市、境港市、東京都港区の4自治体です。

図-2 蓄電池の補助率、容量補助額別の自治体数

 また全ての自治体で補助上限(定額の補助を含む)を設定しています。図-3に示すように上限額が50千円と100千円を設定しているのはそれぞれ18自治体あります。200千円以上の上限を設定しているのは13自治体あり、そのうち最も高額なのは1000千円の京都市でした(京都市は延べ床面積300m2以上の新築、増築の住宅を条件としています)。

注)補助率設定型とは補助率と容量補助額により補助額を決定する補助制度を指す.定額設定型は、補助率等を設定せず、補助額の上限のみ設定している補助制度を指す。
図-3 蓄電池の補助上限別の自治体数

 表-2に高額の補助を行っている自治体を示します。東京都港区の容量補助額は80千円/kWhで、経済産業省の32千円/kWhの2倍以上、境港市も60千円/kWhです。しかし補助上限は400千円ですので、小容量の蓄電池の場合に経済産業省の補助よりも有利になることが分かります(経済産業省の補助上限は600千円)。京都市は容量補助額は51千円/kWhで補助上限も1000千円と、経済産業省のそれらより大きくなっています。

表-2 高額補助の自治体

補助率容量補助額
(千円/kWh)
補助上限
(千円)
   備  考
東京都港区80400
京都市1/3以下511,000延床面積300㎡以上の建築物
太陽光発電と同時申請
境港市1/3以下6040010kW未満の太陽光発電設備と連系
福岡市1/2以下400蓄電容量1kWhあたり135千円以下が前提
仙台市1/3以下250東京都と同様、事業者を通して市民に間接補助
山形県1/3以下50250FIT適用への補助、非FITは350千円が上限
南相馬市25250設備容量上限10kWh
出所)各自治体の公式Webサイト

太陽光発電導入世帯における蓄電池導入の収益性

(1) 蓄電池容量別の収入

 ここでは蓄電池導入の収益性について、太陽光発電を既に実施している世帯を前提に太陽光発電単独の収入と比較して分析します。すなわち、蓄電池導入前の太陽光発電のみで得られた収入に対する増加収入を「蓄電池導入による収入」として定義します。

 一般的に蓄電池を利用すると太陽光発電により蓄えた電気を夜間時に利用することで買電量が減少します。一方、売電量はその分減少することになりますが、電気料金が売電価格より高いので収入は増加することになります。この増加分を「蓄電池導入による収入」とします。

 蓄電池は容量を大きくするほど買電量を減少させることができますが、買電量をゼロにすることは難しいと言えます。それは天候により発電ができない日が続く場合があるためです。設備容量を増やしても収入がそれほど増えなくなることが想定されます。

 そこで、設備容量別の収入の変動を把握することが重要と考えられます。ここでは初めに蓄電池の容量別の収入の変化について分析します。分析の条件は以下の通りです。

<対象地域と対象世帯>
 ●対象地域:東京都心
 ●屋根の方位、傾斜角:南向き傾斜角30度
 ●消費電力量:間取り3LDKに住む3~4人世帯の消費電力量(年間4,560kWh)
<導入設備の諸元>
 ●発電設備容量:5kW
 ●蓄電池容量:2kWh~20kWh
<電気料金単価、売電価格>
 ●売電価格:17円/kWh (前半10年間)
 ●売電価格:9円/kWh (後半10年間)
 ●電気料金単価:35円/kWh、30円/kWh
 
 ここでの分析では、これまでと同様に東京都心を対象地域とし、南向き傾斜角30度に設置した発電容量5kWの太陽光発電設備を想定します。蓄電池の設備容量として2kWhから10kWhまで1kWh刻みで設定し、参考として15kWh、20kWhのケースを設定しました。

 また、売電価格はこれまでと同様の価格(前半10年は17円/kWh、後半10年は9円/kWh)ですが、電気料金単価は35円/kWhと30円/kWhの2ケースを設定します。2022年の平均単価は35円/kWhでしたが、20年間の長期間を想定すると30円/kWhも検討する必要があると考えられたためです。

 発電した電力はまず需要を満たし、その余剰がある場合は蓄電池に蓄え、それでも余剰がある場合は売電します。その計算方法(アルゴリズム)は前々回に示した通りです(「太陽電池(4)-自家消費を増加させる蓄電池の収益性」、2023年5月1日投稿を参照ください)。その方法で各種電源と使用用途間の仕向電力量を計算して、買電量と売電量を算定しました。そのうち電気料金単価が35円/kWhの計算結果を表-3に示します。

表-3 蓄電池の導入による収入増加額の計算(電気料金単価35円/kWh)

蓄電池容量(kWh)23456789101520
蓄電池導入前買電量
(kWh/年)
2,8152,8152,8152,8152,8152,8152,8152,8152,8152,8152,815
蓄電池導入後買電量
(kWh/年)
2,1821,8961,6181,3621,150988864757671424301
蓄電池導入前売電量
(kWh/年)
4,0454,0454,0454,0454,0454,0454,0454,0454,0454,0454,045
蓄電池導入後売電量
(kWh/年)
3,4183,1302,8522,5972,3862,2232,0981,9901,9031,6501,523
買電
軽減
による
収入
増加
買電減少量
(kWh/年)
6339191,1971,4531,6651,8271,9512,0582,1442,3912,514
電気料金単価
(円/kWh)
3535353535353535353535
20年間の収入
(千円) A
4436438381,0171,1661,2791,3661,4411,5011,6741,760
売電
収入

減少
売電減少量
(kWh/年)
6279151,1931,4481,6591,8221,9472,0552,1422,3952,522
平均売電価格
(円/kWh)
1313131313131313131313
20年間の収入
減(千円) B
163238310376431474506534557623656
蓄電池導入による
収入増(千円) A-B
2804055286417358058609079441,0511,104
蓄電池設備費用(千円)8501,0751,3001,4501,6601,8702,0802,2902,5003,5504,600
必要補助金額(千円)5706707728099251,0651,2201.3831,5562,4993,496
必要補助率(%)67.162.359.455.855.757.058.760.462.270.476.0
注1)ここでの蓄電池導入前とは、太陽光発電で売電しているが蓄電池を導入していない場合を指します。
注2)平均売電価格とは考慮期間20年の前半10年間17円/kWh(FIT買い取り期間)、後半10年間9円/kWhとして平均をとった値。

 表-3より、設備容量別の買電減少量(蓄電池導入前の買電量-蓄電池導入後の買電量)を図-4に示します。設備容量が大きくなるにつれて増加していきますが、その増加率は逓減していきます。設備容量が3kWhから5kWhまで1kWh増加するのに270kWh増加していきますが、5kWhから10kWhまでは135kWh、10kWhから15kWhまでは50kWhなどと徐々に小さくなっていきます。

図-4 蓄電池設備容量別の買電減少量

 年間の集計値でみると買電減少量と売電減少量はほぼ同量ですので、収入はこの買電減少量の変化と同様の変化をするはずで、従って収入の増加率は逓減していきます。

 表-3には、この買電減少量に電気料金単価を乗じた「買電軽減による収入額」A、売電減少量に売電価格を乗じた「売電収入の減少額」B、これらから得られる「蓄電池導入による収入増」(A-B)を示しています。その蓄電池容量別の傾向は、図-4の傾向と一致しています。

(2) 蓄電池の設置費用

 蓄電池の設置費用は前々回の報告に示した通り以下の通りです。この計算方法は経済産業省が調査した2019年時点の平均設備費にその後のリチウムイオン電池の製品価格の上昇を加味して設定したものです。

 蓄電池設備費=225千円×設備容量(5kWh未満)、210千円×設備容量(5kWh以上)
 蓄電池の設置工事費=400千円/箇所

 この費用関数を用いて蓄電池の総費用(設備費、設置工事費)を算定したものと、蓄電池導入による収入を比較したものが図-5です。この図から分かるように、既に太陽光発電をして売電収入を得ている世帯では蓄電池を導入しても採算が取れません。具体的には、設備容量が5kWhでは約800千円、10kWhでは約1,560千円の不足が生じています。

図-5 蓄電池容量別の総費用と増加収入

(3)蓄電池の普及を促進する補助金の分析

 上記の計算で蓄電池導入による収入が蓄電池の導入費用よりも少ないことが分かりました。収支不足を解消するには補助金の導入が有効です。そこで、蓄電池導入における収入と支出の差を必要補助金額とし、その補助金の導入費用に占める割合を補助率として算定した結果を図-6に示します。

図-6 蓄電池の普及に必要な補助金額と補助率

 同図は電気料金単価が35円/kWh(青色)の場合に加えて30円/kWh(赤色)の場合も示しています。蓄電池の普及に必要な補助率が最も低いのは蓄電池容量が5~6kWhのときです。電気料金単価が35円/kWhの場合は補助率55.7%が最低(設備容量6kWh)であり、30円/kWhの場合は65.8%が最低(同じく5~6kWh)となっています。

 このように補助率が5~6kWhで最少となる理由は以下の通りと考えられます。まず、図-4に示したように設備容量が大きくなるにつれて買電量の減少割合は小さくなるため、補助率は設備容量が大きくなるほど上昇する傾向があります。しかし、設備容量が小さすぎると蓄電量が少なく買電減少量は少なくなって補助率を上昇させます。そのため、補助率は蓄電容量が中間の領域で最小になるわけです。

 この補助率の分析結果を国や自治体の補助制度の実情と比較すると以下の通りです。東京都の蓄電池への補助は表-4の通り、補助率を3/4(75%)と設定していました3)。この補助率であれば、図-6より電気料金が30円/kWhでも設備容量10kWhまでは採算が取れるはずです。

表-4 東京都の蓄電池への補助金

 設備容量補助率容量補助額   補助金の具体例
5kWh未満3/4190千円/kWh2kWh:380千円/3kWh:570千円/4kWh:760千円
5kWh以上
6.34kWh未満
3/4一律950千円5kWh:950千円(190千円/kWh)
6kWh:950千円(158.3千円/kWh)
6.34kWh以上3/4150千円/kWh7kWh:1,050千円/8kWh:1,200千円/9kWh:1,350千円
10kWh:1,500千円/15kWh:2,250千円/20Wh:3,000千円
出所)東京都:公式Webサイト、プレスリリース、住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」の助成金申請受付について、2023年4月13日

 しかし、東京都では容量補助額を表-4のように設定しているため、図-7に示すように電気料金単価が35円/kWhの場合で採算が取れるのは5kWhと6kWhだけとなっています。電気料金単価が30円/kWhの場合はどの場合も採算が取れません。これは東京都が制度設計した時点から蓄電池の価格が高騰してきた結果と考えられます。

図-7 蓄電池の普及に必要な容量補助額と東京都の補助

 一方、国の補助率は1/3でありこの条件では必要補助金を満たすことはできません。また他の自治体についてもこの補助率(56%以上)、設備補助額(150千円/kWh)には届きません。そのため、東京都以外の蓄電池の補助制度の下では、太陽光発電を既に導入して売電収入を得ている世帯が、蓄電池を導入するのは大変難しいというのが実情です。

蓄電池導入に影響する条件における必要補助金の分析

(1)蓄電池導入の補助金に影響を与える要因

 これまでの分析は、一般的な消費電力量(3~4人世帯)でFIT価格で売電している世帯を対象としていました。このような世帯では東京都以外の補助制度の下では蓄電池導入の採算が取れませんでしたが、全ての世帯がそうとは限りません。

 消費電力量については、3~4人世帯と2人世帯の消費電力量をもとに分析したところ、消費電力量が多いほど買電軽減額が増加するため、蓄電池導入効果が向上していました(「太陽電池(5)-収益性に対するリスク要因の影響分析」、2023年5月15日投稿、を参照ください)。

 そのため、消費電力量が多い世帯では蓄電池導入のための補助金が少なくても採算がとれる可能性があると思われます。消費電力量が多い世帯の代表はオール電化の世帯です。ここではオール電化世帯の消費電力をもとに蓄電池導入の採算性を確保できる補助金を分析します。

 また、太陽光発電をFIT制度の初期から始めている場合は、FIT価格での買い取りが終了して、売電価格は電力事業者との自主取引価格(8~10円/kWh程度)に変わっていきます。売電価格が低い場合も蓄電池導入による収入が増加します。

 さらに、電気料金単価も地域や料金メニュー(再エネ100%電源など)によっては高額になっている場合もあり、これも蓄電池導入による収入を増加させます。したがって、蓄電池導入を促進する要因とその条件は以下の状況と想定されます。

 消費電力量:オール電化を導入している世帯の多量消費電力量
 売電価格:FIT価格の適用が終了して電力事業と自主取引を行う低売電価格

 電気料金:小売電気事業者の電源構成等による高額の電力料金単価

 このような状況を想定して蓄電池を導入した時の採算性確保に必要な補助金について検討します。

(2)オール電化の消費電力量における必要補助金 

 オール電化の場合の消費電力量については、一概に数値を設定することは難しいと言えます。オール電化の世帯では給湯や暖房などにも電気が使われることになり、寒冷地域と温暖地域ではこれらの消費電力量が大きく変わってくるからです。また暖房機器や給湯機器の種類によっても大きな相違が出てきます。

 ここでは検討の対象としてきた東京地域におけるオール電化の消費電力量を想定します。東京電力は過去の料金改定においてオール電化世帯の消費電力量を660kWh/月と仮定していました4)。また、他の文献でもオール電化世帯の消費電力量は7,000kWh/年(=583kWh/月)という測定値が記載されています5)

 また、エネルギー統計での燃料の熱量(cal)からこれを電力量(kWh)に換算することで7,280kWh/年とするデータもあります6)。これらを総合するとオール電化の消費電力量として年間7,200kWh/年、600kWh/月という設定が可能と考えられます。

 この設定値を用いて蓄電池の設備容量別の収入、支出、必要補助額を計算したものが表-5です。表-3と同様に既に太陽光発電を導入して売電していることを前提に、蓄電池導入による収入増加分(買電軽減額-売電減少額)を計算しています。表-5の蓄電池導入前買電量とは太陽光発電のみを導入しているときの買電量です。

 売電量も同様に太陽光発電時と蓄電池導入時から計算します。表中の買電減少量と売電減少量はほぼ同量になっており、それぞれに電気料金単価と売電価格を乗じて収入を計算します。そして、支出と収入の差を必要補助額とし、その補助率、容量補助額を算定しました。

表-5 オール電化世帯の蓄電池導入における必要補助額

設備容量(kWh)23456789101520


蓄電池導入前買電量
(kWh)
4,7274,7274,7274,7274,7274,7274,7274,7274,7274,7274,727
蓄電池導入後買電量
(kWh)
4,1343,8643,6053,3583,1252,9002,6962,5182,36419511823
蓄電池導入前売電量
(kWh)
3,3163,3163,3163,3163,3163,3163,3163,3163,3163,3163,316
蓄電池導入後売電量
(kWh)
2,7272,4552,1971,9511,7181,4931,2891,111958542414

買電軽減
による
収入
買電減少量
(kWh/年)
5938631,1221,3691,6021,8272,0312,2092,3632,7762,904
電気料金単価
(円/kWh)
3636363636363636363636
20年間収入
(千円)
4276218089861,1531,3151,4621,5901,7011,9992,091
売電
収入
売電減少量
(kWh/年)
5898611,1191,3651,5981,8232,0272,2052,3582,7742,902
平均売電価格
(円/kWh)
1313131313131313131313
20年間売電
収入減(千円)
153224291355415474527573613721755
合計 A2743975176317388419351,0171,0881,2781,336

蓄電池システム
設置費(千円)
8501,0751,3001,4501,6601,8702,0802,2902,5003,5504,600
維持管理費 
(20年間)(千円)
合計 B8501,0751,3001,4501,6601,8702,0802,2902,5003,5504,600



必要補助額 B-A
(千円)
5766787838199221,0291,1451,2731,4122,2723,264
補助率 
(%)
67.863.160.256.555.555.055.055.656.564.071.0
容量補助額 
(千円/kWh)
288226196164154147143141141151163
注1)ここでの蓄電池導入前とは、太陽光発電で売電しているが蓄電池を導入していない場合を指します。
注2)電気料金単価(36円/kWh)は消費電力量600kWh/月の場合の電気料金を積算し、単価計算して算定。
注3)維持管理費は太陽光発電設備において支払うものとし、蓄電池単独での費用は発生しないと仮定。

 この結果より図-8に示すように、オール電化の世帯の収入は一般世帯(3~4人世帯)のそれより増加しています。具体的には蓄電池容量10kWhでは144千円、15kWhでは227千円などです。設備容量が小さいものの効果が少ないのは消費電力量に比べて蓄電容量が小さいためです。

図-8 オール電化世帯の蓄電池容量別の蓄電池導入の収入と費用

 必要補助額の算定結果から、補助率と容量補助額を算定した結果を蓄電池容量別に図示したものを図-9に示します。補助率は蓄電池容量が15kWhまでは70%以下で、特に容量7~8kWhでは55%となっています。

 また容量補助額は9~10kWhで最小の141千円/kWhとなっています。最小値をとる設備容量が補助率と異なることに留意が必要です。このようにオール電化世帯の消費電力量になると、補助率と容量補助額が低下してくるとともに、必要補助が最小の設備容量も大きくなることが分かります。これらを考慮して補助制度を設計していくことが必要です。

図-9 オール電化世帯の蓄電池容量別の蓄電池導入補助率と容量補助額

(3) 低売電価格における必要補助金

 FIT適用期間(10年)が終了すると、売電価格は電力事業者との自主取引による価格となり、9円/kWh程度の価格になると考えられます。この売電価格を用いて、上記で検討したオール電化の世帯で蓄電池導入による収入と支出の関係を示したのが図-10です。売電価格が低下したため、蓄電池導入による収入は大きくなっています。

図-10 オール電化世帯で売電価格9円/kWhの蓄電池導入による収入・支出

 算定された必要補助額から、補助率と容量補助額を算定した結果を図-11に示しています。補助率は蓄電池容量が5kWhから10kWhまでは50%以下となっています。容量補助額も大きく下がっており、10kWhでは122千円/kWhで採算が取れることが分かります。これらの条件では補助金額が大きく低減できることが分かりましたが、東京都以外の補助制度では依然として採算が取れません。

図-11 オール電化世帯、売電価格9円/kWhの蓄電池容量別の蓄電池導入補助率と容量補助額

(4)高額な電力料金単価における必要補助金 

 最後に、高額な電気料金単価を考慮した必要補助金を分析した結果を示します。ここではドラスティックな結果を示すために、電気料金単価を45円/kWh、55円/kWhの2つのケースを分析した結果を図-12、図-13に示しています。なお、他の条件は消費電力量600kWh/月(オール電化世帯)、売電価格を9円/kWhとしています。

 図-12では国(経済産業省)の補助金(容量補助額32千円/kWh)を付加した収入を赤線で、京都市の補助金(容量補助額32千円/kWh)を付加した収入を黄色線で示しています。電気料金単価が45円/kWhの場合は、まだ収入と設備費との差は400千円以上あり、国の補助、京都市の補助を含めても設備費を上回ることはできません。

図-12 電気料金45円/kWhで国補助を受けた場合の蓄電池導入による収入と支出
(消費電力量600kWh/月、売電価格9円/kWh)

 電気料金単価を55円/kWhとした場合は、図-13に示すように収入が設備費用を上回るケースが出てきます。図-13では、国、京都市、東京都港区の補助金を付加した収入を示しています。図-13から収入が蓄電池費用を上回るのは、設備容量がおおむね5kWhから10kWhの範囲です。

図-13 電気料金55円/kWhで国補助を受けた場合の蓄電池導入による収入と支出
消費電力量600kWh/月、売電価格9円/kWh)

 このように、電気料金単価が55円/kWhまで上昇した場合には、東京都以外の補助金でもオール電化でFIT適用が終了した世帯では蓄電容量が5~10kWhで採算が取れることが分かりました。電気料金がここまで高額なケースは少ないと思いますが、今後の補助制度の設計に参考になると思われます。

おわりにとお願い

 これまで6回にわたり太陽光発電と蓄電池の導入における収益性について検討をしてきましたが、今回でひとまず終了したいと思います。一般の世帯においては再エネの導入における主要な判断指標が収益性であると仮定して分析してきました。脱炭素化社会においては再エネの導入が重要となり収益性を超えた判断になると思われますが、そこでは異なる評価指標での分析も必要かもしれません。

 これまでの分析では太陽光発電設備や蓄電池の費用について、費用関数(能力や容量別の単価)を用いて分析を行ってきました。実際には住居の屋根の構造などの現地確認の下で見積をとって分析することが必要です。その意味では、今回の分析が精度の高いものであったかどうか不安が残ります。

 今回の一連の分析においては、日射量データベースを用いた太陽光発電量や蓄電池による買電、売電量の推計計算の方法をある程度確立できたと思っています。しかし、上記の費用関数の使用など、実際に導入を考えている人のニーズに十分応えられているかという疑問が残ります。

 そのため、今後再エネ導入に関するコンサルタント業務を行うためには、実際の導入者のニーズをつかむ必要があると考えています。そこでこのサイトの閲覧者の中で、実際に太陽光発電と蓄電池の導入を考えている方から、ご質問やご意見を伺いたいと思っています。

 もし以下の情報をご提供いただければ、実際に見積もられた金額を参考に採算性などの検討内容を報告させていただきます。ただし、投資回収を保証するものではなく、分析精度の向上のための学習過程であることをご理解いただき、1つの参考資料としてご活用ください。

 <ご提供いただく情報>
 ・場所(市町村名):日射量データの取得と補助制度の把握のため
 ・太陽光発電設備、蓄電池の見積額(太陽光発電の能力と蓄電容量を含む)
 ・年間消費電力量(または月別消費電力量)
 ・契約している小売電気事業と料金メニュー
 ・売電価格(FIT適用の残り年数を含む)

 <報告する分析結果>
 ・太陽光発電量(年間期待値)の推計結果
 ・売電量と買電量(太陽光発電単独)
 ・売電収入と電気料金(買電額)
 ・蓄電池導入による売電、買電量
 ・費用効果分析結果(事業収支、採算性)

 匿名でのお問合せでも結構ですので、当サイトの「ご意見・ご質問」メニューから送信ください。もちろん個人情報の取り扱いには十分留意して実施します。多数のお問合せをいただいた場合は10名程度に限らせていただきます。本サイトは海外からの閲覧者も多いのですが、日射量データが入手できないため、日本に在住の方に限らせていただきます。

 匿名希望の方は、「お名前」を【匿名希望】、「電話番号」を【99999999】とし、「ご用件」に【その他のお問い合わせ】を選択いただき、「ご意見・ご質問」にご記入ください。また、このお願いに関してのご質問がある場合についても、上記のメニューからお問い合わせください。よろしくお願いいたします。

<参考文献>
1)環境共創イニシアチブ・大日本印刷:2023年度蓄電池等分散型エネルギーリソース次世代技術構築実証事業補助金公募要項、第1.0 稿、2023年4月21日
2)環境省、他:2023年度3省連携事業ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス推進に向けた取り組み、パンフレット
3)東京都:公式Webサイト、プレスリリース、住宅用太陽光発電初期費用ゼロ促進の増強事業」の助成金申請受付について、2023年4月13日
4)東京電力:公式Webサイト、プレスリリース2012年、電気料金値上げの認可について、電化上手、平均使用量、2012年7月25日
5)吉田一居、他:家庭内における省エネルギー行動と意識に関する研究、その10 各種マンション居住者のエネルギー消費実績に関する比較分析、空気調和・衛生工学会学術講演論文集、Vol.8、2018年
6)Selectra Japan:公式Webサイト、「一般住宅」と「オール電化住宅」の最終エネルギー消費量、https://selectra.jp/energy/guides/knowledge/alldenka-pros-cons