電力会社7社(旧電力会社系のみなし小売電気事業)から申請が出ていた電気料金の値上げが2023年5月19日に経済産業省によって認可されました。既にお伝えしている通り、昨年末からの値上げ申請に対して関係機関の審査や消費者庁との協議が終了して、やっと認可にたどり着いたということになります。
ロシアによるウクライナ侵攻やコロナ感染症の鎮静化などの結果、あらゆるものの価格が高騰しているさなかに、小売電気事業から大幅な値上げ申請が出されていました。この値上げ申請は旧電力会社系企業に課せられた「規制料金」に対する値上げ申請であり、「規制料金」を放置することによる民間企業の経営悪化を回避することは当然の選択肢と言えるものでした。
そもそも、電力自由化後に料金設定には規制が課されていない企業が多い中、旧電力会社系の小売電気事業に対してだけ、規制がかかっているのは民間企業の競争原理から考えた場合にも問題がある制度でした。
電力自由化によって自由に料金設定ができる小売電気事業者は燃料価格の上昇に合わせて料金値上げを行っており、その料金格差は大きくなっていました。しかし、「規制料金」の値上げの申請が行われた旧電力系企業に対しては、国民だけでなく政府系の機関も難色を示していたのです。
今回は、1度提出された申請書を修正する指示が出され、審査機関による厳しい査定を受けて値上げ幅が縮小したということで消費者庁から値上げの承認がおり、その後経済産業省から認可手続きが進められました。値上げ幅が縮小した主な要因は、基準となる燃料価格に最新データを用いたためです。
今回は、認可された電気料金値上げの実態について整理していきます。公共料金の値上げという生活者への多大な負担に対する政府の取り組み内容やその料金査定の内容についても説明していきます。
また、自分の電気料金が今回の値上げによる影響を受けるか分からないという方もいると思います。そこで、今回値上げとなる電力系企業の規制料金の電気料金メニューについて説明します。さらに他の自由料金制をとる新電力企業との料金の差異についても分析しましたので、報告します。
<本報告のコンテンツ> ■電気料金値上げの認可までの経緯 (1)電気料金の認可制度 (2)規制料金の値上げが認可されるまでの経緯 ■料金改定の内容 (1)電力・ガス取引監視等委員会による審査と査定 (2)検討段階における料金算定結果 (3)7月以降の料金予想額 ■規制料金と自由料金の差異 (1)規制料金の電気料金メニュー (2)自由料金の小売電気事業との比較 ■おわりに |
電気料金値上げの認可までの経緯
(1)電気料金の認可制度
まず、電気料金の認可制度について簡単に説明します1)。電気料金には自由料金と規制料金の2種類があります。自由料金とは各企業の自由競争に基づき経営努力により料金設定を行って顧客獲得を目指す制度であり、規制料金とは政府の指導の下一定の料金レベルを超えないように規制された料金制度です。
規制料金は電力自由化前には地域独占の電力会社に対して、利益を優先した料金値上げが行われないよう通常行われていた制度でした。この規制料金制度は、2016年4月の小売電力全面自由化に際して「規制無き独占」に陥ることを避けるため、低圧需要家向け(一般家庭用)の小売規制料金については経過措置として従来と同様の規制料金として残ることになったものです。
この規制料金と自由料金の標準世帯の電気料金を比較したものを図-1に示します。図-1は東京電力エナジーパートナー(東京電力EPと略称)の規制料金と他の新電力企業(東京ガス、ENEOSでんき、SBパワー)の電気料金の推移(2022年初めから2023年5月まで)を示しています。
東京電力EP の電気料金は燃料費調整額が上限値に達してから一定であるのに対して、自由料金である他社は上限値を超える措置をとったことから、料金が上がっていきます(上限値の撤廃時期は企業によって異なっています)。2023年2月には政府の補助が適用されたため大きく減少し、その後燃料価格の低下によってさらに減少していきました。
この経過措置規制料金は電気事業が運営上必要とする原価に利潤を加えた額と料金収入が一致するよう決められ、その約款(特定小売供給約款)は経済産業大臣による認可を必要とします。一方、自由料金は事業者の裁量で設定される費用に法令等により算定される費用(託送料金)を加えて設定され、認可等の規制はありません。
この規制料金は従来からの旧電力会社系の小売電気事業に適用されており、電力自由化後に進出した新電力企業には適用されていません。この規制料金を変更する認可申請が提出された場合の手続きを図-2に示します。
認可申請が行われると、経済産業大臣は電力・ガス取引監視等委員会に意見聴取を行い、同委員会にて審査が行われます。また、広く一般から意見を聴取する公聴会等を行い、消費者庁とも協議を行ったうえで認可するとされています。
(2)規制料金の値上げが認可されるまでの経緯
認可に至るまでの規制当局と電力会社、需要家とのやりとりの経緯を表-1に示します2)。2022年11月末に東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社から値上げ申請が行われ、続いて2023年1月末に東京電力EP、北海道電力から値上げ申請がありました。
値上げの申請内容については本サイトの「緊急分析-急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析」、「速報-年初の電気は値上げ、ガスは値下げの理由を解説」に記載していますので参照ください。ここでは申請後の政府の対応について示します。
表-1 規制料金の値上げ認可の経緯
時 期 | 内 容 |
---|---|
2022年11月末 | 東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力からの料金値上げの変更認可申請 |
2022年12月~ | 電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合における審査(計16回) |
公聴会・パブリックコメント | |
2023年1月末 | 東京電力EP、北海道電力から料金値上げの変更認可申請 |
2023年3月中旬 | 電力会社に対して直近の燃料価格などを踏まえて原価等を再算定するよう指示 |
2023年3月末 | 電力会社7社が原価等の再算定を行い、補正を提出 |
2023年4月27日 | 本申請に係る査定方針のとりまとめ、経済産業省から消費者庁と協議開始 |
2023年5月16日 | 消費者庁より承認の確認 |
2023年5月17日 | 電力・ガス取引監視等委員会「認可に対して異存ない」との回答 |
2023年5月19日 | 経済産業省から料金値上げの認可申請の認可 |
変更認可申請が行われた後、2022年12月から電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合における審査を行い、電力会社に対して直近の燃料価格などを踏まえて原価等を再算定するよう指示が出されました。電力会社は再度申請書を見直し、2023年3月末に再提出しました。この間、公聴会や「国民の声」の募集を通して意見を取りまとめていきました。
その後、同委員会は査定方針をとりまとめ、料金算定の基礎となっている原価を詳細に査定し、値上げ幅は減少しました。その後消費者庁との協議を行って、同年5月16日に値上げ承認、電力・ガス取引監視等委員会からも同意の回答を得て、5月19日に経済産業省が9社からの料金値上げの申請を認可しました。
料金改定の内容
(1) 電力・ガス取引監視等委員会による審査と査定
電力・ガス取引監視等委員会における審査により示された査定方針を整理すると表-2の通りです。燃料費については、前述の通り最新の燃料価格を使用するとともに、燃料単価は中長期契約価格のトップランナー査定(最も安い価格の採用)を採用する方針を打ち出しています。
また、販売電力料についても直近の上昇した価格ではなく先物価格を使用するなど、長期的な視点を入れた原価算定方法を採用しています。さらに、経営効率化については電力各社を横並びで評価し、修繕費などは効率化を目指した原価査定を行っています。
表-2 電力・ガス取引監視等委員会により示された査定方針
項 目 | 査定の主な考え方 |
---|---|
燃料費 | ・2022年11月~2023年1月の燃料価格を用いて、燃料費を再算定する。 ・石炭(海外炭)の単価やLNGの中長期契約価格について、トップランナー査定を行う。 |
購入・販売電力料 | ・スポット市場からの調達などについて、2023年度の電力先物価格を想定市場価格として用いる。 |
人件費 | ・社外役員の役員給与について、過去の料金審査の査定水準よりも高い水準となっている事業者については、過去の査定水準を超える部分は、原価算入を認めない。 ・従業員1人当たりの年間給与水準について、賃上げ分の原価算入を認めない。 |
修繕費・減価償却費 | ・直近5年間の過去実績を基にした修繕費の基準超過分について、火力・水力などは原価算入を認めない。 ・不使用の土地・建物・機械装置について、不使用の理由が合理的でない場合は査定する。 ・社宅について、入居率の基準を90%とし、入居率が低い場合は査定する。 |
その他 | ・賃借料について、合理的な理由無く、周辺物件の平均的な水準を上回っている場合などは、当該超過分を料金原価から減額する。 ・普及開発関係費について、販売促進の側面が強い費用や地域イベント支援に係る費用など、優先度が低い費用を料金原価から除く。 |
経営効率化 | ・修繕費などの固定的な費目について、過去6年間(2016~21年度)の費用水準を横比較し、各事業者の効率化係数(最大で23.0%の効率化)を設定する。 ・その上で、修繕費などの各費目について、効率化係数を用いて査定する。 |
料金設定など | ・基本料金と従量料金の設定方法について、今回の料金改定申請の主たる要因が、燃料価格の高騰などに伴うものであることから、基本料金は据え置くこととする。 |
(2) 検討段階における料金算定結果
ここでは、最終的な認可料金に至る検討段階別の結果を見ていきます。申請前、当初申請、再申請、最終の査定結果という4段階での標準家庭の電気料金をまとめると表-3の通りです2)。検討過程別の電気料金の推移状況を図-3に示します。
表-3では全ての電力会社で統一した条件、すなわち料金メニュー「従量電灯AまたはB」、契約電流30A、月使用量400kWhでの電気料金を示しています。図-3に示すように、各過程で料金額が低減している様子が分かります。査定後の料金は北海道電力と沖縄電力は相対的にやや高くなっていますが、他の5社はいずれも15,000円から17,000円の範囲になっています。
表-3 申請前、当初申請、再申請、査定後の標準家庭における電気料金
事業名 | 申請前 | 当初申請 | 再申請(補正後) | 査定後 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
料金 | 料金 | 単価 | 値上率 | 料金 | 単価 | 値上率 | 料金 | 単価 | 値上率 | |
北海道電力 | 15,662 | 20,714 | 51.8 | 32% | 19,738 | 49.3 | 26% | 18,885 | 47.2 | 21% |
東北電力 | 13,475 | 17,852 | 44.6 | 32% | 16,846 | 42.1 | 25% | 16,657 | 41.6 | 24% |
東京電力EP | 14,444 | 18,458 | 46.1 | 28% | 16,842 | 42.1 | 17% | 16,522 | 41.3 | 14% |
北陸電力 | 11,155 | 16,491 | 41.2 | 48% | 16,601 | 41.5 | 49% | 15,879 | 39.7 | 42% |
中国電力 | 13,012 | 17,426 | 43.6 | 34% | 17,335 | 43.3 | 33% | 16,814 | 42.0 | 29% |
四国電力 | 12,884 | 16,609 | 41.5 | 29% | 16,575 | 41.4 | 29% | 16,123 | 40.3 | 25% |
沖縄電力 | 14,074 | 20,045 | 50.1 | 42% | 19,709 | 49.3 | 40% | 19,397 | 48.5 | 38% |
出所)経済産業省:特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針、2023年5月16日
ここで、電気料金の算定方法を概説します。下式に示すように、電気料金は基本料金、従量料金、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)により計算されます。
電気料金(円/月)=基本料金+従量料金+燃料費調整額+再エネ賦課金
基本料金は契約電流によって一定の値をとり、従量料金は従量料金単価に電力使用量を乗じて算定されます。燃料費調整額は燃料価格の実績により毎月変動し、再エネ賦課金は1年間固定の賦課金単価に電力使用量を乗じて算定されます。
ここで、電気料金の上昇に最も影響が大きいのが燃料費調整額です。燃料費調整額の算定方法は下のコラムに示す通りです。過去3か月間の平均燃料価格が基準燃料価格を超えた場合にその超えた量に基準単価を乗じて燃料費調整単価が決まっています。規制料金はこの燃料費調整単価に上限が設定されているのです。
<燃料費調整額の算定方法> 燃料費調整額は、以下の計算式によって求められます。 燃料費調整額 = 燃料費調整単価 × 使用電力量 <燃料費調整単価の計算方法> 燃料費調整単価は、以下の計算式により求められます。 【プラス調整(平均燃料価格が基準燃料価格を上回った場合)】 燃料費調整単価 = (平均燃料価格 - 基準燃料価格) × 基準単価 ÷ 1,000 【マイナス調整(平均燃料価格が基準燃料価格を下回った場合)】 燃料費調整単価 = (基準燃料価格 - 平均燃料価格) × 基準単価 ÷ 1,000 平均燃料価格が基準燃料価格を上回った場合はプラス調整の計算式を、下回った場合はマイナス調整の計算式を採用する仕組みです。 それぞれの用語の意味は以下の通りです。 (1)平均燃料価格 平均燃料価格は、過去3ヶ月間の燃料価格を使って求められる数値です。 原油、液化天然ガス、石炭の価格に、それぞれ所定の換算係数をかけて求められます。 (2)基準単価 基準単価は、平均燃料価格が1キロリットル当たり1,000円変動した場合に調整される単価です。 (3)基準燃料価格 基準燃料価格とは、電力会社が料金プランを作った当時に想定していた平均燃料価格です。言い換えれば、現在の価格設定の前提となった燃料価格を指します。この金額をもとに、家計の電気代に燃料費調整額が加えられるのか、あるいは引かれるのかが決まります。 規制料金には燃料費調整単価の計算において平均燃料価格が基準燃料価格の1.5倍を上回る場合は、その基準燃料価格の1.5倍を上限価格としそれを上回る部分については調整を行わないことになっています。これが上限値と言われるものです。 |
当初申請での基準燃料価格は2022年7月~9月の貿易統計の平均値であり、再申請時のそれは2022年11月~2023年1月の平均値に変更されています。再申請の過程で値上げ額が低下しているのは、燃料価格の低下によるものです。
その結果、料金値上げ率は北陸電力42%、沖縄電力38%となっているほかは、東京電力EP14%、他の4電力は20%台の値上げ率となっています。電力会社別に値上げ率が異なるのは、主として発電の燃料(石炭、石油、天然ガス)の構成が異なるからです。
(3) 7月以降の料金予想額
料金値上げは6月1日から実施されますが、その請求は7月以降に行われます。電力・ガス取引監視等委員会のとりまとめ結果より、7月の電気料金の予想額を計算したものを表-4に示します。
表-4 7月以降の電気料金の予想額の計算
事業名 | 査定後料金 A | 査定後単価 B=A/400 | 燃料費調整 C | FIT軽減 D | 激変緩和 E | 合計 F=C+D+E | 合計単価 G=F/400 | 7月単価 H=B-G |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
単位 | 円/月 | 円/kWh | 円/月 | 円/月 | 円/月 | 円/月 | 円/kWh | 円/kWh |
北海道電力 | 18,885 | 47.2 | 656 | 820 | 2,800 | 4,276 | 10.7 | 36.5 |
東北電力 | 16,657 | 41.6 | 752 | 820 | 2,800 | 4,372 | 10.9 | 30.7 |
東京電力EP | 16,522 | 41.3 | 712 | 820 | 2,800 | 4,332 | 10.8 | 30.5 |
北陸電力 | 15,879 | 39.7 | 612 | 820 | 2,800 | 4,232 | 10.6 | 29.1 |
中国電力 | 16,814 | 42.0 | 792 | 820 | 2,800 | 4,412 | 11.0 | 31.0 |
四国電力 | 16,123 | 40.3 | 572 | 820 | 2,800 | 4,192 | 10.5 | 29.8 |
沖縄電力 | 19,397 | 48.5 | 1,096 | 820 | 2,800 | 4,716 | 11.8 | 36.7 |
出所)経済産業省:特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針、2023年5月16日
ここでは、査定時の料金から以下の3点が考慮されています。
●燃料費調整:再申請時(2022年11月~2023年1月)から燃料価格低下を考慮
●再エネ賦課金(FIT):2022年度3.45円/kWhに対して2023年度1.4円/kWhに減額
●激変緩和措置:政府による補助7円/kWhを考慮
ここで注目すべきは、初めて再エネ賦課金が前年度より低減したことです。これは、FIT適用期間が終了した世帯が出てきたこと、さらにFIP制度の開始により買取金額が低下してきた結果であり、昨年度に比べて2.05円/kWh(400kWhの場合820円)軽減されます。
また、燃料費調整については6月の燃料費調整額と同額と仮定していますが、572円(四国電力)から1,096円(沖縄電力)の減額になっています。さらに、激変緩和措置による政府による補助については、7月にも適用され7円/kWh(400kWhの場合2,800円)の減額です。
この措置は現状では9月(8月使用、9月請求分)までとされており、10月は3.5円/kWhと半減され、11月以降は適用されない見込みです3)。そのため、ここでは11月以降の政府の補助が適用されない場合も計算しています。
これらのことを考慮して、電気料金単価(電気料金を使用電力量で除したもの)を比較したものを図-4に示します。4つのグラフでは、申請前、査定後、7月予想値、11月予想値を示します(7月予想値、11月予想値の燃料費調整額を6月調整値と同額と仮定)。
まず、申請前と7月予想値を比べると北陸電力と沖縄電力を除く5社で7月予想値が低くなっています。しかし、これは政府の激変緩和措置による影響があるためで、11月以降はこの単価より一律に7円/kWh上昇することになり、全ての電力会社で申請前(2022年11月時点)よりも高くなります。
11月予想値は、北海道電力と沖縄電力は43円/kWhを超えていますが、他の5社は36円/kWhから38円/kWhの範囲です。東京電力EPに関しては申請前(36.1円/kWh)と比較して4%程度の上昇でしかありません。政府の補助が終了してもこの程度の値上げであるということが不思議と思う方もいるかもしれません。
この理由はこの間の燃料価格の低下にあります。東京電力EPの自由料金であるスタンダードSの燃料費調整単価と調整額を表-5に示します。2022年の1月の燃料費調整単価はマイナスであり前回の料金改定を行った時の燃料価格を下回っていました。
表-5 燃料費調整単価、調整額の推移
燃料費調整単価(円/kWh) | 燃料費調整額(円) | 備 考 | ||
---|---|---|---|---|
2022年 | 1月 | -0.53 | -212 | |
2月 | 0.74 | 296 | ||
3月 | 1.83 | 732 | ||
4月 | 2.27 | 908 | ||
5月 | 2.74 | 1,096 | ||
6月 | 2.97 | 1,188 | ||
7月 | 4.15 | 1,660 | ||
8月 | 5.10 | 2,040 | ||
9月 | 6.50 | 2,600 | ||
10月 | 8.07 | 3,228 | ||
11月 | 9.72 | 3,888 | ||
12月 | 11.92 | 4,768 | 料金値上げ申請時の根拠 | |
2023 | 1月 | 12.99 | 5,196 | |
2月 | 13.04 | 5,216 | ||
3月 | 11.69 | 4,676 | ||
4月 | 10.25 | 4,100 | 再申請時の根拠 | |
5月 | 9.21 | 3,684 | ||
6月 | 7.91 | 3,164 | 7月請求分 | |
7月 | 6.54 | 2,616 |
出所)東京電力EP、公式Webサイト、燃料費調整単価一覧表(低圧)
2022年2月以降は上昇を続け最大で13.04円/kWh(2023年2月)を付けました。標準家庭(400kWh/月)で5千円以上の金額になります。その後は下降を続け2023年の7月の燃料費調整単価は6.54円/kWhとなっています。
当初の値上げ申請時に使われたのは12月の燃料費調整単価(3か月の遅れがあるため)であり、再申請時に使われたのは4月の単価です。つまり、燃料価格の影響は申請時から4.0円/kWh(=11.92-7.91)、再申請時から2.3円/kWh(=10.25-7.91)軽減していると言えます。
規制料金と自由料金の差異
(1)規制料金の電気料金メニュー
料金値上げが行われるニュースが流れる中で、自分の契約している電気料金が値上げされるかどうか分からない方もいるのではないでしょうか。そこで、ここでは値上げされる電力会社の料金メニューについても説明します。
電力会社の値上げが認可されたのは規制料金である「特定小売供給約款」により契約している料金メニューです。契約している小売電気事業の契約書に「特定小売供給約款」と書いてあれば、値上げの対象になります(もちろん、今回値上げ申請を行った7電力系企業が対象であり、中部電力、関西電力、九州電力は対象外です)。
そのような契約約款が見当たらない場合は、これらの企業では「従量電灯A」または「従量電灯B」という料金メニューになっていますので、確認してください。これと異なる自由料金の契約約款は東京電力EPの場合は「電気需給約款(低圧)」などの名称が使われています。
東京電力EPの場合はスタンダードSなどは自由料金ですので、燃料費調整額が上限の適用を受けずに既に値上げされているので、今回の値上げ認可で大きな影響を受けることはありません(東京電力EPの5月19日の通知ではスタンダードSは従量電灯Bの値上げに合わせて、7月1日から従量電灯Bと同じ従量料金単価とする(値下げ)ことが発表されました)。
(2)自由料金の小売電気事業との比較
これまで規制料金の適用を受けてきた電力会社はこれでやっと燃料価格の影響を加味した料金体系になりました。値上げできなかった期間は電力会社が自己負担していたため、昨年度の決算は多くの企業が大幅な赤字になっていました。自由競争が原則の企業社会にあって、各社平等の価格設定ができたともいえましょう。
ところで、自由料金制が適用されている新電力(小売電気事業)は現在どのような価格体系になっているでしょうか。燃料費の高騰により新電力はいち早く電気料金にその影響を反映させてきました(図-1参照)。しかし、発電のための燃料を長期契約ではないスポット契約を中心に調達していた企業は料金値上げにも限界があるため、急激な価格高騰で経営が苦しくなり廃業した企業も出ていました。
ここでは、新電力企業のうち比較的大手と思われる東京ガス、ENEOSでんき、SBパワーの電気料金と旧電力系企業の代表である東京電力EPの規制料金(従量電灯B)を比較します4)5)6)7)。
東京電力EPは新料金体系をもとに電気料金を計算しています。ENEOSでんきは託送料金の値上げを受けて5月に、SBパワーは規制料金の変更認可に合わせて6月に料金改定を行っています(これらの企業は認可を受ける必要がありません)。なお、東京ガスは2023年9月1日に料金改定をすることを公表しています8)。
各社の2023年6月5日時点の料金体系に基づいて、7月請求分(6月使用分)の電気料金を比較したものを表-6に示します(ここでは各種の割引料金は考慮していません)。従来と変わって基本料金は各社異なる金額となりました。また、従量料金単価もまた各社が工夫した料金になっています。
表-6 東京電力EPと新電力との電気料金の比較(東京電力エリア)
小売電気事業 | 東京電力EP | 東京ガス | ENEOSでんき | SBパワー | |
---|---|---|---|---|---|
供給区域 | 東京電力エリア | 関東地区 | 関東エリア | 東京電力エリア | |
料金メニュー | 従量電灯B | 基本プラン | 東京Vプラン | おうちでんき | |
契約電流 | 30A | 30A | 30A | 30A | |
基本料金(円/月) | 885.72 | 858.00 | 885.87 | 885.72 | |
従量料金 | 120kWhまで | 30.00 | 19.78 | 19.97 | 28.22 |
120kWh超300まで | 36.60 | 25.29 | 24.63 | 34.82 | |
300kWh超 | 40.69 | 27.36 | 26.31 | 38.91 | |
燃料費調整単価注1) | -1.78 | 7.91 | 7.91 | 0 注2) | |
再エネ賦課金単価 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | |
400kWhの料金(国補助なし) | 14,991 | 14,244 | 14,071 | 14,991注3) | |
400kWhの料金(国補助あり) | 12,191 | 11,444 | 11,271 | 12,191 | |
備考 | 改正6月1日 | 変更なし | 改正5月1日 | 改正6月1日 |
注2)SBパワーの従量料金単価は燃料費調整単価(6月分)を含んだものとして公表されており、燃料費調整単価は示されていない(2023年6月5日時点)。
注3)SBパワーは上記の料金に電力市場連動額を加算(または減算)する必要があるが、これは加算前の値。電力市場連動額は電力市場連動単価に30分ごとの使用電力量を乗じて算定される。
出所)各企業の公式Webサイトより(2023年6月5日確認)
さらに、燃料費調整単価は異なる値になっています。東京電力EPの6月の燃料費調整単価は-1.78円/kWhです。この燃料費調整単価は料金改定に伴って、新たな燃料価格をもとに計算されていますので、付録に詳細を示します(従来の計算方法は「緊急分析-急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析」に示しています)。
一方、東京ガスとENEOSでんきは従来の計算方法に従って燃料費調整単価を計算しており、6月のそれは7.91円/kWhです。さらに、SBパワーの燃料費調整単価は従量料金単価がそれを考慮したものとなっているため0としています(SBパワーはこれに加えて調達する電力の変動に伴う調整を行っています)。
それぞれの標準世帯での電気料金の比較を行った結果を図-5に示します。この図より、ENEOSでんきと東京ガスがほぼ類似した値となっており、東京電力EPはこれらよりやや高い金額です。SBパワーは従来の計算方法では東京電力EPと同じ金額となっていますが、新料金体系による新たに設定された電力市場連動額が加算されるとさらに高くなることが想定されます。
SBパワーの新しい電気料金の計算方法を下のコラムに示しています。SBパワーは電気料金の計算に新たに電力市場連動額を加算する方法を導入しています。電力市場連動額とは外部から調達する電力の価格に連動して料金を調整するものです。これは、発電に使用する燃料の価格変動に連動して燃料費調整額を算定するのと同じ考え方と言えます。
電力市場連動額を同社Webサイトで試算した結果(2023年6月2日試算)、1,000円を超える金額になりましたので電気料金は16,000円を超える料金となり、比較的大きな影響があるものと思われます(2023年5月の一般的な電気の使い方だった場合の電力市場連動単価にて計算したもの。基準市場価格は2.2円、市場調達比率は30%)。
<SBパワーの新電気料金体系(おうちでんき、くらしでんき、自然でんき)> 電気料金=基本料金+従量料金+燃料費調整額+電力市場連動額+再エネ賦課金 燃料費調整額と電力市場連動額は条件によってプラスにもマイナスにもなります。今回新しく導入された電力市場連動額の計算方法は日本卸電力取引所から調達する電力の取引価格に連動し、かつ、月ごとの電力市場から調達する比率に応じ、以下の計算方法で料金が決まります。 電力市場連動額=電力市場連動単価×30分ごとの電気使用量 電力市場連動単価=(電力市場価格-基準市場価格)×市場調達比率 <電力市場価格> 日本卸電力取引所(JEPX)における「前日市場(スポット市場)」の取引価格。 1日が30分ごとに区切られ、それぞれの30分ごとで取引価格が決定される。 電力市場価格は、需要と供給のバランスによって変動する。具体的には、世界情勢による燃料価格の変動、発電所の稼働状況、夏季・冬季など気温による電気の使用状況などによって上昇や低下する。 <基準市場価格> 電力市場連動単価を決める際、電力市場価格から差し引く価格。 電力の市場取引価格が下落して、電気の調達価格を低減できた時間帯については、最大限顧客に還元できるよう、基準となる価格を設定する。 <市場調達比率> 市場調達比率は電力市場から調達する割合に応じ、月ごとに設定する。 2023年6月、9月、10月、11月、2024年3月は30% 2023年7月、8月、12月、2024年1月、2月は70% 基準市場価格および市場調達比率は、毎年のSBパワー株式会社の需給計画に基づき年度ごとに決定し、毎年ウェブサイトにて通知する。 ※電力市場価格は東京エリアでは、4月平均9.80円/kWh、5月平均11.09円/kWhでした9)。 |
おわりに
今回は、料金値上げが認可された旧電力会社系の小売電気事業の電気料金について整理してきました。この結果、意外にも料金の値上げ額はかなり抑えられているという印象を持った方も多いと思います。
これらの企業(の特定小売供給約款の電力メニュー)は規制料金制を課せられており、昨年度途中から燃料費調整額が上限値に達して赤字を自社で負担してきた事情があります。今回の値上げによってその赤字の補填を行うことができるのでしょうか。
値上げの影響が少なく感じられたのはこの間の燃料価格の低下が原因でした。現在の燃料費調整単価は、2022年9月頃の水準に戻っていることが分かりました。規制料金は燃料価格の一時的な上昇の影響を回避できたものの、規制がなければ値上げの申請が必要なかったのではないかと思われます。
電力自由化によって電気料金の安い企業を求めて契約変更を行ってきた方も多いと思われますが、この結果を見る限りその効果は大きくありません。規制料金は新電力系の企業の料金よりも高額に思えましたが、昨年度の後半からはそれらを大きく下回っていたからです。
今回の規制料金の変更認可に併せて、新電力系の企業でも新たな料金体系を打ち出した企業があります。SBパワーは電力調達の実態を反映させて電力市場連動額を導入しました。今後、需要者は毎日取引されている電力市場価格の変動についても確認していくことが必要になります。
一般世帯に関係する電力自由化は2016年4月から始まったばかりであり、需要者は今回の燃料価格高騰による電気料金上昇という経験を踏まえて、電力会社の選択というテーマにその経験を生かしていく必要があります。
今回の電気料金の比較分析は、規制料金の認可直後の分析であるため、今後も料金改定が続いて比較の結果が変わっていく可能性があります。その後の料金改定も確認しながら、機会があるたびに取り上げていきたいと思います。
<参考文献>
1)経済産業省:公式Webサイト、審議会・研究会、エネルギー環境、東京電力エナジーパートナー株式会社による電気料金値上げ認可申請に係る公聴会、資料電気料金(特定小売供給に係る料金)の値上げ認可プロセスについて、2023年4月13日
2)経済産業省:特定小売供給約款の変更認可申請に係る査定方針、2023年5月16日
3)資源エネルギー庁:電気・都市ガスをご利用するみなさまへ、【お知らせ】23年6月からの電気料金改定に関して、2023年6月5日閲覧
4)東京電力EP:公式Webサイト、低圧の料金メニューの見直しについて、料金表、2023年5月19日更新
5)東京ガス:公式Webサイト、基本プラン、料金について、2023年5月26日閲覧
6)ENEOS電気:公式Webサイト、電気料金プラン、関東エリア、東京Vプラン、2023年5月26日閲覧
7)SBパワー:公式Webサイト、「ソフトバンクでんき」における電気需給約款「低圧」及び料金表の改定について【第2報】、2023年5月19日更新
8)東京ガス:公式Webサイト、電気をご契約中のお客さまへ、電気料金メニュー定義書の改定等について、2023年6月9日
9)日本卸電力取引所(JEPX):公式Webサイト、電力取引、スポット、約定価格、2023年6月2日閲覧
付録 東京電力EPの新しい燃料費調整額の計算方法
<従量電灯Bなどの特定小売供給約款にもとづく料金プラン>
■燃料費調整制度のしくみ
・原油・LNG・石炭それぞれの3か月間の貿易統計価格にもとづき、毎月平均燃料価格を算定する。
・算定された平均燃料価格と、基準燃料価格との比較による差分にもとづき、燃料費調整単価を算定し、電気料金に反映する。
■燃料費調整のプラス・マイナス調整
・平均燃料価格が、基準燃料価格を上回る場合はプラス調整を、下回る場合はマイナス調整を行う。
・平均燃料価格が129,200円(基準燃料価格86,100円×1.5(100円未満四捨五入))を上回る場合は、129,200円を平均燃料価格とし、それを上回る部分については調整を行わない。
■燃料価格の算定期間と電気料金への反映時期
各月分の燃料費調整単価は、3か月間の貿易統計価格にもとづき算定し、2か月後の電気料金に反映する。
■燃料費調整単価の算定方法
平均燃料価格と基準単価から各月分の燃料費調整単価を算定する。
【プラス調整】平均燃料価格が86,100円を上回る場合
燃料費調整単価(銭/kWh)=(平均燃料価格-86,100)×基準単価/1,000
【マイナス調整】平均燃料価格が86,100円を下回る場合
燃料費調整単価(銭/kWh)=(86,100-平均燃料価格)×基準単価/1,000
※燃料費調整単価は、小数点以下第1位で四捨五入。
※平均燃料価格が129,200円を上回る場合は、129,200円を平均燃料価格とし、それを上回る部分については調整を行わない。
■基準燃料価格、平均燃料価格
基準燃料価格は前述の通り86,100円/kLである。平均燃料価格は、原油・LNG・石炭それぞれの3か月の貿易統計価格と下記の算式により算定する。
平均燃料価格(原油換算1kL当り)=A×α+B×β+C×γ
A:3か月における1kL当りの平均原油価格、α:0.0048
B:3か月における1t当りの平均LNG価格、β:0.3827
C:3か月における1t当りの平均石炭価格、γ:0.6584
※α・β・γは、原油・LNG・石炭について、原油へ単位を合わせ、各燃料の構成比を乗じた係数(一定)で、これによりそれぞれの燃料の平均価格から原油換算の平均燃料価格を算定する。
■基準単価
平均燃料価格が1,000円/kL変動した場合に発生する電力量1kWh当りの変動額のことをいう。
<従量制の場合>
基準単価(1kWhにつき):18銭3厘