家電製品等のライフサイクル全体のGHG排出量の分析として、今回はエアコンと冷蔵庫をとりあげます。これらの機器ははエネルギー起源の二酸化炭素排出だけではなく冷媒のGHG排出についても検討しておく必要があります。冷媒として使われている代替フロンであるHFCsが大きな温室効果を持つためです。
冷媒の抑制対策は当初オゾン層破壊物質として行われたものでしたが、後に極めて高い温室効果が明らかになってからは地球温暖化防止対策としても行われるようになりました。その詳細は前回の投稿で示した通りです(「日本のGHG排出量の5%を占め、年率5%増加している温室効果ガスとは?」を参照ください)。
家庭用エアコンの冷媒は2020年以前まではR410Aという地球温暖化係数(GWP)が大きい冷媒(GWP=2,090)が使われていましたが、2020年頃より新規に製造される製品はHFC-32(GWP=675)に置き換わっています。
しかし、それでも依然として大きなGHG排出量となるため、業界においてGWPが小さなグリーン冷媒を開発中です。一方、家庭用冷蔵庫については、以前はHFC-134a(GWP=1,430)が使われていましたが現在は多くの製品でイソブタン(GWP=3)が使われており、新製品ではその問題は解決しています。
ライフサイクルのGHG排出量を算定する手法をLCA(Life Cycle Assessment)と言います。GHG排出量を低減するためには、LCAにより製品の使用時に加えて製造時や廃棄時の排出量についても認識しておくことが必要です。
エアコンと冷蔵庫については、いくつかの製品のLCA評価が公表されていますが、その分析範囲はエネルギー起源の二酸化炭素排出量を算出したもののみでした。しかし、冷媒のHFCs排出量も無視できないため、ここではその算定結果についても示します。
<本投稿のコンテンツ> ■エアコンのライフサイクルGHG排出量の分析事例 (1)ライフサイクルGHG排出量の分析方法 (a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量 (b)冷媒のGHG排出量 (2) エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果 (3) 冷媒のGHG排出量の分析結果 ■冷蔵庫のライフサイクルGHG排出量の分析事例 (1)ライフサイクルGHG排出量の分析方法 (a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量 (b)冷媒のGHG排出量 (2)エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果 (a)比較対象の冷蔵庫の諸元 (b)素材調達、製造、輸送、使用、廃棄の計算条件 (c)二酸化炭素排出量の分析結果 (3) 冷媒のGHG排出量の分析結果 ■まとめ |
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エアコンのライフサイクルGHG排出量の分析事例
(1)ライフサイクルGHG排出量の分析方法
(a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量
LCA分析では、製品の製造、使用、廃棄のライフサイクルにおけるエネルギー消費量からエネルギー起源の二酸化炭素排出量を算定するのが一般的です。その算定方法は下の式に示す通り、それぞれの二酸化炭素排出量を算定します。
<製造時の二酸化炭素排出量>
∑{部品、素材の重量(kg)×部品、素材の二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg) }
<使用時の二酸化炭素排出量>
製品の耐用時間における1次エネルギー使用量(E)×1次エネルギーの二酸化炭素排出係数(kg-CO2/E)
<廃棄時の二酸化炭素排出量>
製品の重量(kg)×廃棄方法別二酸化炭素排出原単位(kg-CO2/kg)
製造時は部材や素材の重量に二酸化炭素排出原単位を乗じて、それらを合計する積み上げ方式をとっています。使用時は製品の耐久時間内に使用した1次エネルギー使用量にそのエネルギーの二酸化炭素排出係数を乗じて算定します。さらに、廃棄時は製品の重量に廃棄方法別の二酸化炭素排出原単位を乗じて算定します。
(b)冷媒のGHG排出量
政府が公表しているGHG排出インベントリ資料からその算定方法を示します1)。冷媒(HFCs)のGHG排出量は製造時、使用時(故障時を含む)、廃棄時の漏洩量から算定されます。2021年の算定結果より、製造時はほぼゼロであり無視しうると考えられます。
また、廃棄時の漏洩量は特定機器及び指定機器(法律で定められた機器)はフロンの回収が義務付けられています。さらに、これらの機器以外でも家電リサイクル法によって家庭用の冷蔵庫とエアコンは業者によるリサイクルが行われ、フロンの回収が義務付けられています。
家電リサイクル法の施行以前の機器が残存する可能性がありますが無視できると考えられ、家庭においては使用時のみの漏洩量を考慮することで十分であるため、以下の式で算定されます。
<使用時のGHG排出量>
製品の冷媒充填量(1kg)×使用時漏洩率(2%/年)×冷媒の地球温暖化係数×使用年数(年)
エアコンに充填される冷媒は1kgであり、使用時の漏洩率は年間2%とされています1)。これらの積に冷媒の地球温暖化係数(GWP)、使用年数を乗じることで、二酸化炭素に換算したGHG排出量が算定されます。
(2)二酸化炭素排出量の分析結果
ここでは、エネルギー起源の二酸化炭素排出量を算定した事例として、東芝が自社製品のLCAを行った報告書を引用します2)。この報告書では基準となる「製品A」(RAS-406YDR、2000年製品)と省エネを図った「製品B」(RAS-402SDR、2006 年製品)をLIME2(日本版被害算定型ライフサイクル環境影響評価手法)で評価した結果を示しています。
計算の方法として、家庭用エアコン1 台が家庭において10 年間使用されることを想定しています。使用段階における使用条件はAPF(通年エネルギー消費効率)の算定条件(日本冷凍空調工業会規格、JRA4046)に示された表-1に示す条件です。
表-1 エアコンの使用条件(APF算定条件)
項目 | 条件 |
---|---|
外気温度 | 東京をモデルとする |
室内設定温度 | 冷房時27℃、暖房時20℃ |
期間 | 冷房期間3.6ヶ月(6月2日~9月21日) |
暖房期間5.5ヶ月(10月28日~4月14日) | |
使用時間 | 6:00~24:00の18時間 |
住宅 | 平均的な木造住宅 |
素材(調達),使用段階は設計データを使用し、製造に関しては投入財(エネルギー等)を出荷金額で配分しています。なお冷媒フロンに関しては全て回収されるものと仮定しています(使用時の漏洩も考慮しない)。
2つのエアコン製品のライフサイクルにおけるエネルギー起源二酸化炭素排出量の算定結果を表-2に示します。これまでの家電製品に比べて非常に大きな値となっており、製品Aの二酸化炭素排出量は約9t、製品Bは約7tです。新型になったことで省エネが進み、2割以上の削減ができたことが分かります。
使用時の二酸化炭素排出量が98~99%を占めており、製造時や流通(輸送)時の割合は少ないものでした。なお、廃棄・リサイクル時はマイナスとなっていますが、これはリサイクルによって別の材料に転換されることを評価したものです。
表-2 エアコンのライフサイクルにおけるエネルギー起源二酸化炭素排出量
材料調達 | 製 造 | 流 通 | 使 用 | 廃棄・リサクル | 合 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2000年製品 A | 121.1 | 12.7 | 1.6 | 8,970.4 | -39.3 | 9,066.5 |
2006年製品 B | 129.0 | 12.7 | 1.7 | 6,927.4 | -39.3 | 7,031.5 |
B/A (%) | 106.5 | 100.0 | 106.3 | 77.2 | 100.0 | 77.6 |
出所)東芝:家庭用エアコンの環境影響評価報告書、2008年6月
(3)冷媒のGHG排出量の分析結果
冷媒のGHG排出量を前述した方法により算定すると表-3の通りです。表-3では冷媒をR410AとHFC-32の2種類について計算しています。冷媒R410AのGHG排出量は418kg-CO2、冷媒HFC-32のそれは135kg-CO2でした。地球温暖化係数が約3倍違うので、GHG排出量はその割合で変化しています。
表-3 冷媒のGHG排出量
単位 | 冷媒R410A | 冷媒HFC-32 | |
---|---|---|---|
HFC充填量 | g | 1,000 | 1,000 |
年間漏洩率 | % | 2 | 2 |
使用年数 | 年 | 10 | 10 |
冷媒漏洩量 | g | 200 | 200 |
HFCのGWP | - | 2,090 | 675 |
GHG排出量 | kg-CO2 | 418 | 135 |
エネルギー起源二酸化炭素と冷媒のGHG排出量の合計を示したものを図-1に示します。エアコン製品Aでは冷媒R410Aを使用し、製品Bでは冷媒HFC-32を使用していると仮定して計算しています。
その結果、GHG排出量は製品Aは9.5t-CO2ですが、製品BRは7.2 t-CO2と3割減になっています。また、製品Aの冷媒のGHG排出量の割合は約4%ですが、製品Bでは約2%と小さくなっており、冷媒のGWP値の改善が影響していることが分かります。
図-1 エアコンのライフサイクルのGHG排出量
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冷蔵庫のライフサイクルGHG排出量の分析事例
(1)ライフサイクルGHG排出量の分析方法
(a)エネルギー起源の二酸化炭素排出量
エネルギー起源の二酸化炭素排出量の算定方法はエアコンで説明した算定方法と同様です。製造時、使用時、廃棄時におけるそれぞれの原単位や排出係数を用いて算定します。
(b)冷媒のGHG排出量
冷蔵庫もエアコンと同様に政府が公表しているGHG排出インベントリに算定方法が掲載されており、以下の通りです。下の式で、冷蔵庫の冷媒充填量は125g、使用時漏洩率は0.3%/年です。単純に計算すると冷媒の年間漏洩量はエアコンの1/50です。
<使用時のGHG排出量>
製品の冷媒充填量(0.125kg)×使用時漏洩率(0.3%/年)×冷媒の地球温暖化係数×使用年数(年)
なお、2021年の日本全体の家庭用冷蔵庫から排出されたGHGは1千t/年と算定されており、家庭用エアコンの1/10,000と、非常に小さなものです1)。これは冷蔵庫の冷媒はHFC-134a(GWP=1,430)からイソブタン(GWP=3)に既に変更されていることも原因です。
(2)エネルギー起源の二酸化炭素排出量の分析結果
(a)比較対象の冷蔵庫の諸元
冷蔵庫のLCAの事例として、日本電機工業会の研究チームが公表した報告書の分析結果を紹介します3)。本報告書では表-4に示すように1999年度の製品と2010年の製品を比較しています。定格内容量とドア数、質量も異なっており、この年度の最も売れ筋の製品を比較しています。
同様に冷媒もHFC134a(GWP=1,430)とR600a(イソブタン、GWP=3)と異なっており、断熱材も新製品では断熱性能が向上しています。なお、本報告書では冷媒のGHG排出量は算定していません。
表-4 比較した冷蔵庫の性能比較
1999 年度製品 | 2010 年度製品 | |
---|---|---|
定格内容積 | 約400L | 501L |
ドア数 | 4 ドアまたは5 ドア | 6 ドア |
年間消費電力量の測定方法 | JIS C 9801:1999 | JIS C 9801:2006 |
販売時期 | 1999 冷凍年度 | 2010 冷凍年度 |
(1998/10 ~ 1999/9) | (2009/10 ~ 2010/9) | |
冷媒 | HFC134a(代替フロン) | R600a(イソブタン) |
断熱材発泡剤 | シクロペンタン | |
断熱材 | 発泡ウレタン | 発泡ウレタン+真空断熱材 |
製品質量(包装材含む) | 85.1kg(5 社平均) | 102.5kg(3 社平均) |
(b)素材調達、製造、輸送、使用、廃棄の計算条件
各社の製品を構成する素材を表-5のように分類し、それぞれの重量を算定し、その平均値を算出しました。製品組み立て段階のエネルギー(電力、都市ガス、LPG、灯油、重油、上下水道、エアー、蒸気)の投入量は、各社から実績データを求め、平均値を算出しています。
表-5 LCA分析を行った素材の分類
大分類 | 中分類 | 小分類 |
---|---|---|
鉄類 | 表面処理鋼 | 塗装鋼板(塗料込み)、メッキ鋼板、塩ビ鋼板(塩ビ込み) |
ステンレス鋼 | マルテンサイト系・フェライト系・オーステナイト系の合計 | |
その他鉄鋼 | 表面処理されていない一般鋼・特殊鋼等の合計 | |
銅類 | 銅 | 導線材を除く |
銅合金 | 黄銅(Cu-Zn)、 青銅(Cu-Sn)、 ベリリウム銅等の合計 | |
アルミ類 | アルミニウム | 導線材を除く |
アルミニウム合金 | ダイカスト(Al-Si-Cu)等 | |
プラスチック類 | プラスチック | ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、 発泡ポリスチレン(EPS)、発泡ポリウレタン(EPUR)、 ABS、塩化ビニル(PVC)、ASA(Acrylonitrile-Styrene-Acrylate) メタクリル(PMMA)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、 ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール(PF)樹脂、その他樹脂 |
繊維強化プラスチック | ガラス繊維強化プラスチック | |
電子回路基板 | 基板 | 部品付き基板(ディップ後) |
その他 | その他合金 | チタン合金、亜鉛合金、ロウ接合金、焼結合金等の合計 |
磁石(バインダーなし) | フェライト、ソフトフェライト、アルニコ、コバルト磁石等の合計 | |
ボンド磁石 | 冷蔵庫ドアのゴムマグ等、バインダーに練り込んだもの | |
ゴム | 塩素・ 臭素を含むもの(クロロプレンゴム等) | |
塩素・ 臭素を含まないもの | ||
ガラス | ||
セラミック | ||
ガス | ノンフロン冷媒(イソブタン) 断熱材発泡剤(シクロペンタン) |
|
潤滑油 | 冷凍機油 | |
導線 | 導体材:銅、被覆材:塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル(PVC)以外 | |
包装・取説 | 木材、ダンボール、印刷紙(取扱説明書等)、樹脂シート(PE、PP)、 発泡スチロール(EPS)、結束バンド(PP) |
|
他素材 | ガラス繊維(真空断熱材)、PET繊維、蓄冷剤、素材別内訳が不明のもの等 |
製品輸送については、表-6に示すように、製造拠点から物流拠点、小売店を経て、購入者までのルートを設定しています。それぞれのルート別にトラックの積載可能量、積載率、輸送距離を仮定して算定しています。
表-6 輸送における計算条件
製造拠点 | 輸送区分 | 輸送手段名称(積載率) | 輸送距離(km) |
---|---|---|---|
国内製造シナリオ | 製造拠点→物流拠点 | 10 tトラック(40 %) | 500 |
物流拠点→小売店 | 4 tトラック(60 %) | 15 | |
小売店→購入者 | 軽トラック(41 %) | 5 | |
海外製造シナリオ | 製造拠点→港湾 | 10 tトラック(40 %) | 100 |
海上輸送 | 船舶 | 注) | |
国内港湾→物流拠点 | 10 tトラック(40 %) | 500 | |
物流拠点→小売店 | 4 tトラック(60 %) | 15 | |
小売店→購入者 | 軽トラック(41 %) | 5 |
出所)日本電機工業会、環境技術専門委員会LCA-WG:冷蔵庫のライフサイクル・インベントリ分析報告書、2013年3月
対象の冷蔵庫は国内にて使用されると設定し、年間消費電力量は各社の対象冷蔵庫のカタログ値の平均値より287 kWh/ 年としています。また、使用年数は「家電製品の使用実態と消費者の意識調査報告書」(家電製品協会)に基づいて10.4 年と設定しました。
廃棄、リサイクルについては、金属(鉄、銅、アルミ)95%およびプラスチック20 %が素材回収・再利用されているものとしました。金属はシュレッダー処理された後に、再利用されることにより製造負荷が控除されると設定、プラスチックは再利用されることにより、最も構成比の多いポリプロピレンの製造負荷が控除されると仮定しています。
さらに、リサイクル処理にかかるエネルギーは、リサイクルプラントにおける年間使用電力量を年間処理質量で除し1kg当りにおける消費電力量を算定しています。冷媒のイソブタン(R600a)、断熱材発泡剤のシクロペンタンについては大気放出しているものと仮定しています。
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(c)二酸化炭素排出量の分析結果
分析に使用した原単位については、LCA ソフトウェアである「MiLCA」に搭載されているLCI デー タベース「IDEA ver.1.0」のデータベース4)を利用しています(ただし、電子回路基板については、日本電機工業会 重電・ 産業システム機器LCA検討WGにて試算された原単位5)を利用)。
二酸化炭素排出量の分析結果を表-7に示します。冷蔵庫のライフサイクル全体における二酸化炭素排出量は2010年の製品では約1,709kg-CO2でした。ライフサイクル段階毎に比較すると使用段階が約 1,382 kg-CO2と最も大きく、全体の約81% を占めています。
次いで調達(素材)段階の負荷が大きく、約326kg-CO2(約19 %)でした。また調達(部品加工)段階の負荷(約27kg-CO2)と製造(組立)段階にかかる負荷(約26kg-CO2)は同程度でした。回収輸送段階の負荷は約3.2kg-CO2であり、他の段階と比較すると小さくなっていました。
表-7 二酸化炭素排出量の算定結果
ライフサイクル段階 | 二酸化炭素排出量(kg-CO2) | |
---|---|---|
1999 年度製品 | 2010 年度製品 | |
調達(素材) | 295.2 | 325.5 |
調達(部品加工) | 23.5 | 27.1 |
製品製造(組立) | 22.2 | 26.1 |
製品輸送 | 9.1 | 11 |
使用 | 3,828.0 | 1,382.0 |
回収輸送 | 2.7 | 3.2 |
処理・処分 | 7 | 8.4 |
リサイクル控除 | -68.7 | -74.3 |
合計 | 4,119.1 | 1,709.0 |
次に1999年度の製品と2010年度の製品を比較すると図-2の通りです。1999年度製品と2010年度製品の算出結果を比較すると、調達(素材)段階では、1999 年度製品から二酸化炭素排出量が約10 %増加していますが、これは定格内容積の増加により質量が約20%増加しているためです。
図-2 冷蔵庫のライフサイクルの二酸化炭素排出量
その一方で使用段階における二酸化炭素排出量は約64%減少しており、真空断熱材の採用等により、使用段階における省エネ性能が大きく向上していることが分かります。ライフサイクル全体で比較すると、約59%減少しています。
なお、素材の重量と二酸化炭素排出量の構成比率を図-3に示します。電気回路基板は重量が全体の0.5%であるのに対し、GHG排出量は17%と大きくなっており、その重量当り原単位が大きいことが分かります。
図-3 調達男系における素材の重量と二酸化炭素排出量の比率
(3)冷媒のGHG排出量の分析結果
日本電機工業会の報告書では計算されていませんが、ここでは前述の算定方法に従って冷媒のGHG排出量を計算してみます。表-4に示された2種類の冷媒の冷蔵庫からのGHG排出量を算定した結果は表-8の通りです。
冷蔵庫の使用年数10.4年間の冷媒の排出量はどちらも4gです。そしてGHG排出量はHFC-134aは5.7kgt-CO2、イソブタンは0.01kg-CO2でした。エアコンの場合に比べると非常に小さな値となっています。
表-8 冷蔵庫からの冷媒のGHG排出量
単位 | 冷媒HFC-134a | 冷媒イソブタン | |
---|---|---|---|
HFC充填量 | g | 125 | 125 |
年間漏洩率 | % | 0.3 | 0.3 |
使用年数 | 年 | 10.4 | 10.4 |
冷媒漏洩量 | g | 4 | 4 |
HFCのGWP | - | 1,430 | 3 |
GHG排出量 | kg-CO2 | 5.7 | 0.01 |
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まとめ
今回はエアコンと冷蔵庫に関するライフサイクル全体におけるGHG(冷媒の排出分を含む)排出量の分析事例を紹介しました。結果をまとめると以下の通りです。
<エアコンについて>
・使用年数10年として計算したエネルギー起源の二酸化炭素排出量は7~9t-CO2と他の家電機器に比べて大きなものでした。これは、分析を行った時期が2008年であるため、その後の省エネ製品では小さくなっている可能性があります。
・使用時の二酸化炭素排出量は全体の98~99%を占めており、製造時や流通(輸送)時の割合は少ないものでした。このことから、エアコンについても使用時の省エネに努めることが二酸化炭素排出量を減らすことに繋がります。
・エアコンの冷媒にはHFCsが使われており、その排出を無視できません。製品に使われている冷媒R410A(GWP=2,090)のGHG排出量は418kg-CO2、冷媒HFC-32(GWP=675)は135kg-CO2でした(エアコンの使用年数を10年、廃棄時は家電リサイクル法で事業者が回収と想定)。
・これらの結果より、冷媒のGHG排出量の割合は2~4%となり、それほど大きな割合ではありませんでした。ただし、エアコンの廃棄は家電リサイクル法に基づいて適正にフロンの回収が行われていることを想定しており、不法投棄などを行うと大きな排出が想定されますので注意する必要があります。
<冷蔵庫>
・電気機械工業会のWGでの各社の詳細なデータに基づくLCA分析結果によると、冷蔵庫のライフサイクル全体における二酸化炭素排出量は2010年の製品では約1.7t-CO2でした(使用年数10.4年と仮定)。
・ライフサイクルの段階毎に比較すると使用段階が約 1.4 t-CO2と最も大きく、全体の約81% を占めていました。次いで素材の調達が0.3 t-CO2と約18%を占めていました。素材の調達段階での割合(2割)は他の家電機器の中でも大きなものです。
・素材調達段階の素材種別の二酸化炭素排出量は、電気回路基板の重量が全体の0.5%であるのに対し、二酸化炭素排出量は17%と大きな割合を占めており、その影響が大きいことが分かりました。
・冷蔵庫に使用されている冷媒はエアコンと比較すると、充填量は1/8、漏洩率が0.3%のため、年間漏洩量は1/50程度でした。また、既にGWPが小さなイソブタン(GWP=3)に移行されており、冷媒からのGHG排出量は無視できるほど小さなものでした。
・分析当時における10年前の機種と比較すると、二酸化炭素排出量は3割程度削減されており、断熱材の改良等の影響が想定されました。また、素材調達における二酸化炭素排出量が旧製品より大きくなっており、これは普及した製品の大型化によるものでした。
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<参考文献>
1)温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)編、環境省監修:日本国温室効果ガスインベントリ報告書、2023年版
2)東芝:家庭用エアコンの環境影響評価報告書、2008年6月
3)日本電機工業会、環境技術専門委員会LCA-WG:冷蔵庫のライフサイクル・インベントリ分析報告書、2013年3月
4)産業技術総合研究所、産業環境管理協会: MiLCA LCIデータベース、IDEA, ver.1.0、社団法人 産業環境管理協会(更新 2012-7-18)
5)日本電機工業会 重電・産業システム機器 LCA検討WG:電気学会全国大会 講演論文集、2007年8月