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COP28の結果報告-産油国の議長がリードした化石燃料からの脱却

 今年の気候変動枠組み条約締約国会合(COP28)はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで2023年11月30日に開会し、会期を1日延長して12月13日に閉幕しました。世界198か国から政府関係者を始めとして民間企業やNGOなども併せて約10万人(登録者数)が参加しました1)。日本からは12月1日から岸田首相が首脳会合に出席したほか、昨年に引き続き小池東京都知事も参加しています。

 2023年は夏季に世界中で異常な高温で悩まされた年でした。世界気象機関(WMO)は今年の世界平均気温が174年間の観測史上、最も高くなるとの見通しを発表しています2)。地球温暖化の影響が目に見えて拡大していく中で、2022年の温室効果ガス排出量は前年比1.2%増の574億トンと過去最高を更新し、目標である産業革命前との温度差を1.5℃に抑えるという軌道には乗っていないのが実情です。

 今回の会合の注目点はグローバルストックテイク(GST)が初めて取りまとめられ、協議されたことです。GST(Global Stock Take)とは、「パリ協定の長期目標達成に向けた世界全体の進捗を5年毎に評価する仕組み」であり、「削減目標(NDC)の更新・強化と国際協力促進のために情報を提供すること」を目的としています。

 第1回目のGSTの統合報告書が事前に公表され、COPでそれをもとに協議が行われ、それに関する最終的な合意文書が作成されました。また、前回のCOP27で設置が決定された「損失と損害」への基金の拠出や適応目標(GGA:Global Goal of Adaptation)の設定などが注目されました。

 COP28の一番の成果はGSTの決定草案にエネルギーの使用における化石燃料からの脱却を記載したことでした。これまで石炭火力の削減または廃止の表明はあっても化石燃料全体を対象としたことはありませんでした。これを産油国であるUAEの議長がリードしたことに驚きを隠せません。

 以下では、会合の始まる前に期待された内容と、会合後に決定されたGSTの決定草案を中心に説明をします。最後にこのホスト国の議長が合意に持ち込んだ化石燃料からの脱却に対して、今後の日本政府、産業界に期待することについて示したいと思います。

<本報告のコンテンツ>

期待されていた成果 
(1)注目されていたポイント
(2)議長国UAEの目指すビジョン
(3)グローバル・ストックテイク統合報告書

COP28の成果
(1)グローバル・ストックテイク
(2)緩和
(3)適応
(4)損失と損害
(5)その他

今後の日本政府、産業界に期待すること
(1)なぜ日本は今年も化石賞を受賞したのか
(2)化石燃料からの脱却に向けた進捗の加速に期待

おわりに

期待されていた成果

(1)注目されていたポイント

 今回の注目のポイントは第1回のグローバルストックテイク(GST)の結果報告とそれに基づいたNDCの野心向上を促進することでした。ストックテイクとは日本語では「棚卸」を意味しており、パリ協定の決定に従って各国がどの程度その対策に取り組んでいるかを評価し、さらに各主体へのフォローアップ(推奨事項)を示していくものです。

 そしてそのGSTに基づいて、「緩和」に関して会期中にどのような決定が合意されるのかも注目されていました。COP26ではホスト国の英国が石炭火力発電の「段階的廃止」にこだわり、結局「段階的削減」に終わった後、COP27では進展が見られず終わっていました。

 また、「適応」はその目標設定が課題として残されていました。どのような目標項目となり、具体的な数値目標が決まるのかに注目が集まっていました。さらに、前回のCOPで設置が決まった「損失と損害」の基金に関しては、先進国からの資金の提供などに進展がみられるかどうかも注目されていたところです。

(2)議長国UAEの目指すビジョン

 始めて産油国で行われるCOPにおけるホスト国UAEの姿勢に注目が集まっていました。今回のCOPの議長であるスルタン・ジャベル産業・先端技術相はCOP開始前に関係者に対して4回レターを送り、合意に向けた方針を説明していました3)。彼が掲げた「緩和」に関するビジョンは以下の通りです4)

1. 2030年までに再エネ容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍
2. 2030年までにメタン排出量をネットゼロにすることを含め産業からの排出量を半減以下
3. 低炭素水素、炭素回収・貯留、二酸化炭素除去の利用拡大など、排出量の多いセクターの変革
4. 自動車の電化やモーダルシフトを含む、化石燃料を使用しない輸送形態への大幅な転換
5. 非効率な化石燃料補助金の段階的廃止、クリーン電源の導入に向けた取り組みを加速
6. 企業や国は、目標に基づく行動を起こし世界基準に沿った説明責任を果たす

 これまでのCOPでの目標である「2030年までに1.5℃以下に抑える」という経路にのるためには、再エネと省エネが必須であり、その目標を「再エネ容量3倍、エネルギー効率2倍」としてまず掲げています。

 また二酸化炭素だけでなく「メタン排出量についても2030年にネットゼロ」とし、他のガスについても半減以下とする目標が加わっています。さらに、「自動車の電化、モーダルシフト」についてもIEA1.5℃ネット・ゼロシナリオに基づいています。COP26で目指した石炭火力発電のみを対象とするのではなく化石燃料全体をターゲットにしているように思われます。

 一方、「低炭素水素、炭素回収・貯留、二酸化炭素除去の利用拡大」についても言及しています。これらのビジョンは事前に取りまとめられたGSTの統合報告書に基づいているようです。以下では事前に公表されたGST統合報告書の概要を示します。

(3)グローバル・ストックテイク統合報告書

 GSTの検討には2021年から情報の収集、技術的評価をもとに統合報告書を作成し、成果物の検討が各レベルで実施されました。統合報告書の作成にあたり、取られた手法は情報の収集と技術的な評価における対話形式での協議が行われたことが特徴です。

 そして技術的対話においては政府組織だけでなく非政府主体(自治体、企業、研究機関、個人など)の参加が認められました。非政府主体は意見書の提出と技術的対話にも参加しました。提出された意見書279のうち非政府主体は249(89%)、技術的対話への参加者は全体330人のうち非政府主体は150人(45%)でした。

 GSTの統合報告書がCOP28の開始前に公開されていましたので、その概要を示します。キー・ファインディングの和訳全文が参考文献に示されています5)。ここではキー・ファインディングの概要を示します6)

 その内容は下のコラムに示すように「私たちの置かれた状況」、「緩和」、「適応(損失と損害含む)」、「資金」の4つの項目に分類されます。「私たちの置かれた状況」は前回のCOPでも示された通りあらゆる面での行動が必要であり、システム変革が求められるということです。

<キー・ファインディングの概要>
出所)IGES:第1回グローバル・ストックテイク(GST)の統合報告書-企業等の非政府主体の行動から各国の削減目標(NDC)引き上げ狙えるか、2023年9月

【A. 私たちの置かれた状況 】
1. 今、あらゆる面で行動が必要
2. 政府と非政府主体によるシステム変革
3. 包摂性と衡平性が野心を高める

【B. 緩和(対応策の影響含む)】
4. 排出量は、必要な緩和経路に沿っていない
5. NDCにおけるより野心的な目標と行動
6. 再エネ、化石燃料廃止、森林減少ゼロ
7. 公正な移行が強固な緩和成果を支援
8. 経済多様化により対応策の影響対処

【C. 適応(損失と損害含む)】

9. 適応策の強化 、損失と損害の最小限化
10. 既存の努力は断片的、地域間で不平等
11. 地域に根差した適応が変革を促進
12. リスクの包括的管理とコミュニティ支援
13. 適応・損失と損害の資金アレンジメント

【D. 実施手段と支援と資金フロー】
14. 公的資金の戦略的投入、有効性
15. 投資を気候行動にシフトさせる機会
16. 新技術の革新と既存技術の展開
17. 国主導、ニーズに基づいた能力構築

 「緩和」は提出されたNDCは排出量が必要な緩和経路に沿っておらず、NDCのさらなる野心的な目標が必要であること。そのためには、再エネ導入、化石燃料廃止、森林減少ゼロが求められ、公正な移行、経済多様化による影響への対処が必要とされています。

 「適応」は、損失と損害を最小限化するために、地域に根差した適応策をとり、リスクの包括的管理が必要です。そのために、「資金フロー」として、公的資金を戦略的に投入し、投資を気候行動にシフトさせることが必要とされています。

COP28の成果

(1) グローバル・ストックテイク

 締約国が合意したGSTの決定草案がUNFCCCのサイトに既にアップされています7)。ここでは、COP28日本政府代表団と地球環境戦略研究機関(IGES)の報告をもとに説明していきます。

 まず、日本政府代表団が報告したGSTに関する決定事項をコラムに示します8)。結果報告の速報版という位置づけのためか、極めて要約された内容となっています。

<日本政府代表団によるグローバル・ストックテイクに関する報告>
出所)日本政府代表団:国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要、2023年12月18日

 パリ協定の実施状況を検討し、長期目標の湮成に向けた全体としての進捗を評価する仕組みであるグローバル・ストックテイクについて、初めての決定が採択された。
 12月1日~2日の首脳級会合も経た2週間にわたる議論・交渉の末に採択された決定文書には、1. 5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性、2025年までの排出量のピークアウト、全ガス・全セクターを対象とした排出削減、各国ごとに異なる道筋を考慮した分野別貢献(再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍のほか、化石燃料、ゼロ・低排出技術(原子力、ccus、低炭素水素等)、道路部門等における取組)が明記された。また、パリ協定第6条(市場メカニズム)、都市レベルの取り組み、持続可能なライフスタイルヘの移行等の重要性についても盛り込まれた。

 IGESのCOP28の速報セミナーでは少し具体的な内容が書かれています9)。まず、進捗・実施状況の評価については、改めて以下の通り合意されました。

「全ての国が削減目標NDCを提出し、パリ協定以前は4℃上昇すると予想されていた世界の気温はNDCが実施されれば2.1~2.8℃の上昇にとどまるが、これは1.5℃までに抑えることはできない。」

 そして、1.5℃目標に向けて緊急行動の必要性が協調され、今後取りうる対策と機会として、採択された決定文書には後述するように個別テーマ(緩和、適応、損失と損害、気候資金、公正な移行)ごとの対策が盛り込まれました。

 さらに、各国政府へのフォローアップとしてNDCの更新と強化を求め、非政府組織に対しても自主的な取り組みに対してGSTの成果を考慮するよう求められました。また、気候変動枠組条約(UNFCCC )を通じたフォローアップとして、既存の仕組み(6条関連)や新規に立ち上がるプログラムや対話を活用することが示されました。

(2)緩和

 ここからは、GSTの決定草案の内容を参考文献10)をもとに説明していきます。緩和の主要な結論であるパラグラフ(pg)25、27~29の内容をコラムに示します。

<GST決定草案:パラグラフ25,27~29>
出所)IGES(田村堅太郎):COP28の成果:気候変動緩和、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2023)、パラレルセッション4、COP28速報セミナー、2023年12月19日

25. パリ協定の気温目標達成に合致するカーボンバジェット(炭素予算)は小さく、急速に枯渇しつつあることに懸念を表明し、50%の確率で地球温暖化を1.5℃に抑えようとした場合、過去の累積CO2排出量がすでにカーボンバジェット全体の約5分の4を占めていることを認める。

27. 1.5℃に抑えるためには温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減し、2050年までに実質ゼロにする必要がある。

28. GHG排出量を1.5℃の道筋に沿って大幅、迅速かつ持続的に削減する必要性を認識し、締約国に対し、パリ協定とそれぞれの国情、経路、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で、以下の世界的な努力に貢献するよう求める。
(a) 2030年までに再エネ容量を世界全体で3倍、エネルギー効率改善率を世界平均で年率2倍にする。
(b) 対策が講じられていない石炭火力の段階的削減に向けた取り組みを加速すること。
(c) ネット・ゼロ・エミッションのエネルギー・システムに向けた取り組みを、ゼロ・低炭素燃料を活用して、今世紀半ばまでに、あるいは今世紀半ば頃までに、世界的に加速する。
(d) 公正、秩序ある、衡平な方法で、この重要な10年間の行動を強化しつつ、2050年までのネットゼロ達成を目指し、エネルギーシステムにおいて化石燃料から脱却する
(e) 再エネ、原子力、特に削減が困難なセクターにおける炭素回収・利用・貯蔵などの削減・除去技術、そして低炭素水素製造などの、ゼロ排出および低排出技術を加速する。
(f) 特にメタンを含めた非CO2ガスの排出削減を2030年までに世界的に加速し、大幅に削減する。
(g) インフラの整備やゼロエミッション車・低排出車の迅速な導入など、様々な経路で道路交通からの排出削減を加速する。
(h) エネルギー貧困や公正な移行に対処しない非効率な化石燃料補助金を可能な限り早期に廃止する。

29. 過渡的燃料(transitional fuels)が、エネルギー安全保障を確保しつつエネルギー転換を促進する役割を果たしうることを 認識する。

 今回、カーボンバジェット(炭素予算)の表現が初めて記載され、気温上昇を1.5℃に抑えるとした場合の累積二酸化炭素は既に4/5を占めているとされました(pg25)。つまり、今後排出が許されるのは1/5しか残されていないことを意味します。

 そしてそのためには、「温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減し、2050年までに実質ゼロにする必要がある」とされています(pg27)。

 そのため、緩和対策として、「2030年までに再エネ容量を世界全体で3倍、エネルギー効率改善率を世界平均で年率2倍にする」とされています(pg28-a)。これは議長の当初目指したビジョンにも示されています。また石炭火力発電については段階的削減(phase-down)のままであり、前回から進展はありませんでした(pg28-b)。

 そして2050年のネットゼロ達成を目指し、「エネルギーシステムにおいて化石燃料から脱却する」ことが初めて記載されました(pg28-d)。IGESの解説によれば、日本では「化石燃料からの移行」という和文約が見られますが、単なる「Transitioning from」ではなく「Transitioning away from 」としていることから、脱却の方が適切ではないかとしています。

 さらに、「ゼロエミッション車・低排出車の迅速な導入など、様々な経路で道路交通からの排出削減を加速する」(pg28-g)、「非効率な化石燃料補助金を可能な限り早期に廃止する」(pg28-h)ことも記載されています。これらも議長が目指したことでした。

 この他、緩和(エネルギー消費)に関係して各種の分野別の取り組みが表明されました。その事例を以下に示します。石炭火力発電の廃止には今回新たに米国も参加しました。

● 脱石炭同盟 (Powering Past Coal Alliance):対策が講じられていない石炭火力の早期廃止(米国も参加表明し60ヶ国へ、日本は不参加)
● 石炭移行促進(Coal Transition):優良事例共有、政策策定協力(仏、米、尼、越を含む8ヶ国+EU)
● 脱石油ガス同盟 (Beyond Oil and Gas Alliance):すべての化石燃料の段階的廃止(14ヶ国)
● 石油ガス脱炭素憲章: 2030 年フレアリング(焼却処理)廃止、2050年操業時ネットゼロ(UAE, サウジアラビア及び大手石油ガス会社50社)
● 原子力の役割宣言:2050年までに世界の原子力設備容量を3倍(日本を含む22カ国)

(3)適応

 世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画の下での2年間に亘る議論の成果として、GGAの達成に向けたフレームワークが採択されました11)

 フレームワークは、国主導かつ自主的なものとして、テーマ別の7つの目標適応サイクルについての4つの目標を設定しました。内容についてはコラムにある通りです。気候変動による災害、食糧生産、健康、居住地等へのレジリエンスを強化することが目標になっています。

<テーマ別の7つの目標と適応サイクルにおける4つの目標>
出所)IGES(椎葉渚):気候変動への適応に関するCOP28の成果、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2023)、パラレルセッション4、COP28速報セミナー、2023年12月19日

<テーマ別の7つの目標>
(1)気候変動による水不足の削減、水関連災害に対する気候レジリエンスの強化
(2)気候変動に強い食料・農業生産と食料の達成
(3)気候変動に関連する健康への影響に対するレジリエンス
(4)生態系と生物多様性に対する気候変動の影響を軽減
(5)気候変動の影響に対するインフラと人間の居住地のレジリエンス
(6)貧困撲滅と生活に対する気候変動の影響を軽減
(7)気候関連リスクの影響からの文化遺産の保護

<適応サイクルについての4つの目標>
(1) 影響・脆弱性、リスク評価
 2030年までに、すべての国が最新のアセスメントを実施し、適応計画等の策定に活用する。
 2027年までに、すべての国がマルチハザード早期警戒システム、気候情報サービス、気候関連のデータ・情報・サービスの改善のための観測を確立する。
(2)計画
 2030年までに、すべての国が国別の適応計画等を策定し、必要に応じて関連する計画等に適応を主流化する。
(3) 実施
 2030年までに、すべての国が国別の適応計画等の実施を進め、主要な気候ハザード影響を削減する。
(4) モニタリング・評価・学習
 2030年までに、すべての国がモニタリング、評価、学習のためのシステムとその実施に必要な制度的能力を構築する。

 また、GGAに関する新たな議題を設定するとともに、目標に対する進捗評価のための指標を検討するための2年間の作業計画が立ち上がり、GGAの実現及びフレームワークの実施加速化に向けた議論を開始することが決定されました。

(4)損失と損害(ロス&ダメージ)

 新たな資金措置に関し、COP28初日(11月30日)の開会式全体会合において、基金の基本文書を含む制度の大枠について決定が採択されました。決定の採択の後、基金の立ち上げ経費を中心に、我が国を含む各国からプレッジが行われ、会期終了までに700万ドルの拠出の公約がありました。

 基金については、気候変動の影響に特に脆弱な途上国を支援の対象とすること、世界銀行の下に設置すること、先進国が立ち上げ経費の拠出を主導する一方、公的資金、民間資金、革新的資金源等のあらゆる資金源から拠出を受けること等が決定されました。

 また損失と損害に関する技術支援を促進する組織(サンティアゴ・ネットワーク)について、事務局ホスト機関として国連防災機関(UNDRR)と国連プロジェクト・サービス(UNOPS)を選定しました。UNFCCC事務局、事務局ホスト機関、諮問機関の役割についての合意形成、諮問機関メンバーの選出が行われ、来年以降のSNの本格的運用が決まりました。

(5)その他

 COP27で決定された「公正な移行に関する作業計画(JTWP)」について、雇用、エネルギー、社会経済等の要素を含むこと、作業を2026年まで継続し、その時点で効果や効率性について評価を行い、継続を検討すること等が決定されました。

 パリ協定第6条2項及び4項については、国連への報告等に関する詳細事項について見解の一致に至らず、引き続き議論されることとなりました。第6条8項(非市場アプローチ)については、各国の取組を登録するウェブ・プラットフォームの運用や今後の作業計画について決定されました。

今後日本政府、産業界に期待すること

(1)なぜ日本は今年も化石賞を受賞したのか

 今年も日本は環境NGO(CANインターナショナル)から化石賞を会期中に2回受賞しました。これは地球温暖化防止の施策に後ろ向きまたは消極的な国に与えられる皮肉を込めた賞を意味します。第1回目の受賞は岸田首相が演説を行った日の夕方に決定されました12)

 受賞の根拠は岸田首相が行った演説における以下の内容によるものと言われています13)

「排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していきます」

 このフレーズは新規の国内石炭火力発電所の建設を終了するだけの表明であり、既存の石炭火力については依然として使い続けることが暗に表明されています。その数時間前に演説した国連事務総長が化石燃料の削減ではなく廃止を求めていたことに対する残念な発言と取られても仕方がありません。

 さらに、岸田首相は「アジアゼロエミッション共同体」を設立してアジア諸国においても日本の技術を提供していくことを表明しています。この技術にはアンモニア混焼による石炭火力発電を進めることが含まれています。日本だけでなくアジア諸国に対しても石炭火力発電を設置していくことに対して大きな反発があったとされています。

 日本政府はアンモニア混焼による石炭火力発電が「対策済み」の火力発電と見なせると判断していますが、これは科学的に認められることでしょうか。この問いに実際にアンモニア混焼で排出される二酸化炭素排出量を試算した文献があるので以下に引用します14)

 まず、石炭火力発電の「対策済み(abated)」の意味を確認することが必要です。IPCC第6次評価報告書においては「対策済み」とは『発電時点における90%以上のCCSによる二酸化炭素吸収と永続的貯留を行う』と記載されています。

 アンモニア混焼の石炭火力発電がこれと同等の二酸化炭素排出量になる場合は以下の2つのケースがあります。

(1)天然ガスからアンモニアを製造する場合:アンモニア製造時にCCSで二酸化炭素を95%吸収させ、石炭火力発電のアンモニア混焼率を88%以上とする

(2)太陽光発電の電力を用いてアンモニアを製造する場合:アンモニア混焼率を93%以上とする

 日本政府の説明ではアンモニア混焼を2割程度からスタートしその割合を上げていくと説明していますので、太陽光発電の電力を使って製造したアンモニアを93%以上使うレベルになるのはいつのことかわかりません。とても「対策済み」の石炭火力発電が実現するとは思えません。

 そして日本でも実現困難な「対策済み」石炭火力発電は、途上国ではさらに対策をとるのが困難な技術といえましょう。途上国への支援であれば、最初から石炭火力発電ではなく再生可能エネルギー施設の建設を援助していく方が有効な対策と言えると思います。

 今回のCOPで2回の化石賞を受賞したことに対して日本政府の経済産業大臣は、「日本の技術が世界に理解されていない」と国内で説明しました12)。しかし上記のような科学的な検討を政府内で再度行って、もう一度地球温暖化対策について真剣に考え直すことが必要です。

(2)化石燃料からの脱却に向けた進捗の加速に期待

 今回の報告では成果報告については日本政府代表団とIGESの報告を中心にまとめました。政府代表団の結果報告で気になったのは、どのマスコミにも取り上げられている「化石燃料からの脱却」への合意について、あまり強調されていないことです。さらにパリ協定やG7会合などで何度も繰り返されている化石燃料に対する補助金の廃止についても一切触れられていません。

 今回のCOP28が産油国で行われたにもかかわらず、「化石燃料からの脱却」への合意を議長がリードしました。「化石燃料からの脱却」の痛みはこれら産油国の方が日本よりも大きいと思われます。我が国においてこの合意への覚悟と対策への取り組みをより明確に伝えるべきではなかったかと思われます。

 日本の自動車産業は依然としてHEV(ハイブリッド車)やガソリン車を中心に販売を続けています。さらに、ガソリン等の補助金については物価高騰対策のため現在も継続されています。そのためこれらについての報告を避けたという意図が見えてしまいます。

 電力は再生可能エネルギーなどの代替手段があり一応その取り組みが始まっています。しかし石油やガス等の燃料についてはその代替手段が明確ではないのが現状です。そのため化石燃料からの転換が難しい液体燃料、ガス燃料についての脱炭素化の進捗が必要です。

 日本自動車工業会は2050年でもエンジン車を合成燃料で維持する方針を示していますが、合成燃料の開発は進んでいるとは言えないようです。自動車のEV化が進まない日本の自動車産業ではEV化への転換、合成燃料と水素の開発及び実装化を急ぐことが必要になるでしょう。

 また、調理に使われている都市ガス、プロパンガスなどについても同様です。調理のためにIH調理器や電子レンジなどの電化製品で全て代替できるのかを真剣に検討することになるでしょう。代替手段としてガス会社が進めるグリーン水素と二酸化炭素を使ったメタネーションがどこまでコストを含めて実用化できるかも注目されます。

 さらに寒冷地で暖房に使われている灯油などの液体燃料についてもその代替燃料の検討が必要です。日本の寒冷地での暖房にエアコンだけで対応できるのか。断熱性の高い住居への転換が進むと言っても直ぐに対応できるわけではないので、灯油に代わる液体燃料への転換に関する技術開発も必要です。

 今後は日本の基幹産業である鉄鋼や自動車産業、さらにエネルギー産業全体で「化石燃料からの脱却」への対策の検討を加速することになります。まさに社会システム全体の変革を含めた、日本の科学技術の進展に期待したいと思います。

おわりに

 最後に、本会議の議長であるスルタン・ジャベル氏の閉会の挨拶について触れておきたいと思います15)。彼は開催前に英国の報道機関であるBBCから「彼は石油会社の経営者でもあり、今回の会合において石油やガスの取引に利用しようとしている」と報道されていました16)

 その報道に不安を感じていた関係者もいたと思われます。しかし、彼のこれまでの行動や閉会の挨拶にはそれを打ち消す強いメッセージが込められています。開催者が成果を強調するのは一般的ですが、彼の挨拶の中で強調したのは以下の言葉でした。

 「私たちが団結して行動すれば、私たちのすべての将来に非常に前向きな影響を与えることができます。そして、それは私たちのすべての未来を意味します。なぜなら、包括性がこの会議の心臓部だからです。」

 彼がCOPの期間内に合意に導くために、事前に準備を重ねて来たことが、各国の関係者に向けた4通のレターや各種のイベント、各国政府への訪問などから分かっています。それでも12月12日の会期最終日には、合意まで大きな隔たりがありました。

 そして、1日延期した時に彼は合意に向けて大変な努力をしたと想像されます。そのため全締約国が合意できたという包括性こそが最大の成果だと強調したのでした。これは利害が異なる国の交渉での合意の困難性を克服し、分断を回避したことへの真の喜びの言葉だったと言えます。

 挨拶の最後は協力してくれた彼のチームと家族に向けた感謝の言葉でした。1年間家に帰らず仕事をしてくれた部下や、それに耐えた家族へのねぎらいが述べられています。産油国で行われたこのCOPの結果には、科学者やNGOからの不満の声も聞こえてきますが、最終的に合意に持ち込んだUAEのチームに感謝して、この報告を終わります。

<参考文献>
1)United Nation: UN Climate Change Conference- United Arab Emirates, https://www.cop28.com/en/
2)World Meteorological Organization: Press release, 2023 shatters climate records, with major impacts, 30 November 2023
3)United Nation COP 28 UAE: Letter to participants, https://www.cop28.com/en/letter-to-parties
4)地球環境戦略研究機関(IGES)、田村堅太郎:COP28の焦点-1.5℃目標に向けた最新動向、直前ウェビナーシリーズ第5回、2023年11月27日
5)IGES:第1回グローバル・ストックテイク(GST)の統合報告書-企業等の非政府主体の行動から各国の削減目標(NDC)引き上げ狙えるか、2023年9月
6)地球環境戦略研究機関(IGES)、梅宮知佐:COP28 直前ウェビナーシリーズ第1回「政治的局面を迎えるグローバル・ストックテイク 世界の軌道修正成るか」、第1回グローバル・ストックテイクの技術的評価、2023年11月10日
7)UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change: Outcome of the first global stock-take, Decision -/CMA.5, https://unfccc.int/documents/636608
8)日本政府代表団:国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要、2023年12月18日
9)IGES(津久井あきび):グローバル・ストックテイクに関するCOP28の成果、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2023)、パラレルセッション4、COP28速報セミナー、2023年12月19日
10)IGES(田村堅太郎):COP28の成果:気候変動緩和、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2023)、パラレルセッション4、COP28速報セミナー、2023年12月19日
11)IGES(椎葉渚):気候変動への適応に関するCOP28の成果、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2023)、パラレルセッション4、COP28速報セミナー、2023年12月19日
12)読売オンライン:日本またも化石賞、経産相が反論「新技術に理解ない」、2023年12月7日
13)首相官邸:COP28における首脳級ハイレベル・セグメント、岸田首相スピーチ、2023年12月1日
14)自然エネルギー財団:公式Webサイト、なぜ石炭火力アンモニア混焼への投資が1.5℃に整合しないのか、2023年11月29日、https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20231129.php
15) UNFCCC: COP28 President delivers remarks at closing plenary,
https://www.cop28.com/en/news/2023/12/COP28-President-Delivers-Remarks-at-Closing-Plenary
16)BBC News: COP28 president denies using summit for oil deals, 29 November, 2023, https://www.bbc.com/japanese/67574478