2024年3月に一斉に電力会社から値上げの報道が出ていました。また共同通信によると、5月の電気料金の値上げは4月に比べて中部電力の574円が最大で東京電力EPは559円、関西電力は543円などと報道されています1)。
2023年6月に大幅な規制料金の値上げがあったばかりですが、これはなぜなのでしょうか。燃料価格は落ち着きを取り戻している時期であり値上げの要因は余り考えられません。そこで今回は予定を変更してこの電気料金値上げを取り上げます。
結論から言うと、この5月の料金値上げの主な要因は再エネ賦課金の変更によるものです。2023年度は前年度に比べて大きく低下していましたが、今回は以前の傾向に戻ったため、前年度と比べると大幅な値上げになりました。なぜ再エネ賦課金単価が増加したのかについて解説します。
また、これまで電気代の高騰の影響を緩和してきた国の補助金も、7月以降は終了する予定です。このサイトで繰り返し指摘してきたように、化石燃料への補助金はG7やCOP28等でも廃止を求められてきたことでした。この補助金の廃止は再エネ賦課金よりも家計に大きな影響を与えます。
さらに、電気料金に影響を与える燃料費調整額等についても触れておく必要があります。為替レートの変動やウクライナ戦争などでの影響により燃料価格の影響はどうなっているのでしょう。今回はそれらの影響によって今後電気料金がどの程度変わっていくのかも解説していきます。
<本報告のコンテンツ> ■電気料金に影響を与える要因 ■再エネ賦課金 ■託送料金 ■燃料費調整額 ■国の補助金 ■影響要因を総合化した今後の電気料金の推移 ■まとめ |
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電気料金に影響を与える要因
電気料金は基本料金と電力量料金で算定されますが、それ以外にも電気料金に関連する要因があります。それは以下の4つの要因です。
・再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)
・託送料金(小売電気事業が送配電事業者に支払う料金)
・燃料費調整額(燃料費の変動に伴う調整金)
・国による補助金(電気・ガス価格激変緩和対策事業)
このうち再エネ賦課金は再エネの普及を促進するための賦課金であり1年に1回変更されます。また、託送料金は2024年4月から新たに付加されることになりました。さらに、燃料費調整額は燃料費の増減に合わせて調整されるもので、毎月変更されます。
そして、国が電気・ガス価格の高騰を緩和するための補助金もそろそろ廃止になりそうです。いろいろな料金に関連する要因が全て値上げに向かう傾向にあります。それらについて具体的に以下に解説していきます。
再エネ賦課金
再エネ賦課金は再生可能エネルギーの普及拡大を目的にFIT制度により発電電力量の買い上げを行った費用を利用者が負担する金額を言います。過去の再エネ賦課金の単価の推移を図-1に示します2)。2012年度から始まり2024年度で13年目になります。
図-1 再エネ賦課金単価の推移
再エネ賦課金の単価は毎年度再エネ特措法で定められた算定方法に従って経済産業大臣が設定しています。2024年5月検針分からは3.49円/kWhとなることが経済産業省から公表されています3)。算定式は以下の通りです。
賦課金単価=(買取費用等-回避可能費用+広域的運営推進機関事務費)/販売電力量
この式から分かるように再エネ賦課金の単価は、再エネの買取額から買取により電力調達を免れることが可能な費用(回避可能費用)を差し引いた金額を販売電力量で除したものです。いずれも過去の実績を基に予想した金額により算定されます。
表-1に再エネ賦課金算定の根拠を示します3)。最後の5行目は経済産業省の公表資料にこの報告で追加したものです。この計算式に基づいて再エネ賦課金単価は2022年度は3.45円/kWhであり、2023年度は1.40円/kWh、そして2024年度は3.49円/kWhになりました。
表-1 再エネ賦課金算定の根拠
2022年度に おける想定 | 2023年度に おける想定 | 2024年度に おける想定 | 主な要因 | |
---|---|---|---|---|
(1)買取費用等 | 42,033億円 | 47,477億円 | 48,172億円 | ・2024年度から新たに運転開始する再エネ発電設備 ・再エネ予測誤差のための調整力確保費用 |
(2)回避可能費用等 | 14,609億円 | 36,353億円 | 21,322億円 | ・過去の市場価格の実績を踏まえて、市場価格に連動する回避可能費用単価を推計 |
(3)販売電力量 | 7,943億kWh | 7,946億kWh | 7,707億kWh | ・過去の販売電力量の実績及び電力広域的運営推進機関の需要想定を元に販売電力量を推計 |
(4)再エネ賦課金単価 | 3.45円/kWh | 1.40円/kWh | 3.49円/kWh | { (1)-(2)+ 広域的運営推進機関事務費 10億円}/(3) |
なぜ2023年度が前年度に比べて大きく減少したのかというと、「回避可能費用」が小売電力の価格が高騰した期間を基に計算されたため、「回避可能費用」が大きくなり再エネ賦課金単価が減少したのです。この小売電力の価格は市場価格に連動しています。
図-2に過去3年間の小売電力の市場価格を示します4)。2023年度の「回避可能費用」を算定する価格のもとになる2022年の市場価格が非常に高くなっています。2024年度は2023年の市場価格が落ち着いてきたため「回避可能費用」が下がり、その結果再エネ賦課金単価が上昇しました。
図-2 小売電力の市場価格の推移
月間電気使用量が400kWhの需要家モデルを用いて負担額を算定すると月額1,396円(3.49×400)となり、前年度からの負担増は836円となります(400kWhは総務省家計調査に基づく一般世帯の月間電気使用量)。なお、電力会社が想定している一般世帯の月間使用量は260kWhであり、値上額は543円(2.09×260)と若干小さな金額となります。
ところで、冒頭で示した電力会社毎の電気料金の値上げ額が異なっているのはなぜでしょうか。これは託送料金の変更と燃料費調整額の影響によるものです。再エネ賦課金はどこの電力会社でも同じ値ですが、これらは電力会社によって異なっています。託送料金と燃料費調整額については以下に示します。
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託送料金
託送料金とは電気を送るために利用する送配電設備の利用料金を言います。これは一般送配電事業者が再エネの普及に伴い系統間の融通を行う設備の増強などに要する費用を小売電気事業者に要求し、それに伴い託送料金の変動分を小売電気事業者が料金に反映させることになったものです。
この託送料金はそれぞれの地域によって異なっており、小売電気事業者が反映させる金額も異なります。東京電力EPを例にすると託送料金の変更に伴って4月1日より、表-2のような料金改定が行われています5)。
表-2には従量電灯B(規制料金)とスタンダードS(自由料金)の2つを示していますが、現在はどちらも同じ料金となっています。現行料金と見直し後の料金を比較すると、基本料金が大きくなる一方、電力量料金はどの区分も0.2円/kWh減少しています。
表-2 託送料金の変更による電気料金体系の改定(東京電力EP)
料金種別 | 区分 | 単位 | 従量電灯B | スタンダード S | ||
---|---|---|---|---|---|---|
現行料金 | 見直し後料金 | 現行料金 | 見直し後料金 | |||
基本料金 | 10A | 1 契約 | 295.24 | 311.75 | 295.24 | 311.75 |
15A | 442.86 | 467.63 | 442.86 | 467.63 | ||
20A | 590.48 | 623.50 | 590.48 | 623.50 | ||
30A | 885.72 | 935.25 | 885.72 | 935.25 | ||
40A | 1,180.96 | 1,247.00 | 1,180.96 | 1,247.00 | ||
50A | 1,476.20 | 1,558.75 | 1,476.20 | 1,558.75 | ||
60A | 1,771.44 | 1,870.50 | 1,771.44 | 1,870.50 | ||
電力量料金 | 0~120kWh | 1kWh | 30.00 | 29.80 | 30.00 | 29.80 |
121kWh~300kWh | 36.60 | 36.40 | 36.60 | 36.40 | ||
301kWh~ | 40.69 | 40.49 | 40.69 | 40.49 |
これは託送料金が設備に関する費用であるため、基本料金に反映させたものと思われます。ここで料金見直し前後の料金の差異をグラフにしたものを図-3に示します。契約電流が30Aと40Aの2ケースの結果を図示しています。電気使用量が大きくなるほどプラスからマイナスに変わっています。
この結果、契約電流30A(黒線)では250kWhで差異が0となり、契約電流40A(赤線)では330kWhで0となっています。総務省の調査結果である平均電気使用量400kWhではどちらも見直し後の方が安くなります。ただし、この改定での大きな料金の変化はないと言えます。
ところで、電気代の節約に関する情報として表-2に示す基本料金は契約電流により異なります。もし、40Aから30Aに変更することが可能な場合は料金改定前では295円/月の軽減でしたが、料金改定後は312円/月となり17円大きくなります。家族数が減少して契約電流を小さくできる場合には検討する価値があります。
燃料費調整額
燃料費調整額を簡単に説明すると、発電に使用される燃料価格の増減を加味して料金の調整が行われる金額を言います。この調整額は過去3か月間の平均燃料価格に基づいて算定され、発電電力会社の燃料構成によって異なります。
燃料費調整額の算定方法については本サイトで既に説明しており、詳細は以下を参照ください。
燃料費調整額の説明:【緊急分析】急騰した電気・ガス料金の実情と両者を比較できるコスト分析
東京電力EPの関東地区における燃料費調整額の単価の実績を図-4に示します6)。従量電灯Bの単価は規制を受けて上限額(5.13円/kWh)のまま維持されているのに対して、自由料金であるスタンダードSは上昇を続け最高値(13.04円/kWh)から減少しています。
図-4 燃料費調整額単価の推移
従量電灯Bは2023年6月に、スタンダードSは同年7月に料金体系が改訂されており、燃料費調整額の基準が変わっています。燃料費調整額の単価は過去に大きく変動してきましたが2023年10月以降はあまり変動していないことが分かります。
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国の補助金
国は「電気・ガス価格激変緩和対策事業」により電気・ガス代の高騰を緩和するための補助金を提供してきました。まず2023年2月検針分より7円/kWh、2023年10月より3.5円/kWhを補助し、その後は終了する方針でした7)。
しかし、燃料費の高騰は続いていたため、閣議決定により当初に予定した期限を延長して2024年5月検針分まで3.5円/kWhの補助が延長されました8)。そして2024年6月検針分は1.8円/kWhとなり、同年7月以降は0となる予定です(図-5)。
なお、これは予定であり今後さらに延長されるかどうかは、政府の方針によります。仮に延長されても補助額は1.8円/kWhの少額にとどまると思われます。
図-5 国の補助金の推移
影響要因を総合化した今後の電気料金の推移
これまで見てきた4つの影響要因を総合化して、今後どのように電気料金が変動していくのかを整理すると表-3の通りです。表-3では東京電力EPの関東地区における2つの標準世帯、すなわち30A、260kWh/月と40A、400kWh/月の使用者の電気料金を計算しています。
まず、小売電気事業が設定している月使用量260kWh(契約電流30A)の需要家の3月を基準とした料金は7,560円です。これに4月から託送料金が変更され(燃料費調整額も考慮)、5月からは再エネ賦課金が増額されます。そして6月は国の補助金が3.5円/kWhから1.8円/kWhに変更され、そして7月には0円となります。
その結果、2024年4月は7,576円(3月に対して16円増)、2024年5月は8,120円(同560円増)、2024年6月は8,562円(同1,002円増)、2024年7月は9,030円(同1,470円増)となります。もちろん、月が変わると使用量も変化しますので、この金額はあくまでも月使用量が260kWhの場合です(図-6)。
表-3 今後の電気料金の予想(東京電力EP、関東地方)
検針月 | 契約電流30A 260kWh/月 | 契約電流40A 400kWh/月 | 託送料金 の変更 | 燃料費調整 円/kWh | 再エネ賦課 円/kWh | 補助金 円/kWh |
---|---|---|---|---|---|---|
2024年3月 | 7,560円 | 12,285円 | 旧料金 | -5.78 | 1.40 | 3.5 |
2024年4月 | 7,576円 | 12,300円 | 新料金 | -5.71 | 1.40 | 3.5 |
2024年5月 | 8,120円 | 13,136円 | 新料金 | -5.71 | 3.49 | 3.5 |
2024年6月 | 8,562円 | 13,816円 | 新料金 | -5.71 | 3.49 | 1.8 |
2024年7月 | 9,030円 | 14,536円 | 新料金 | -5.71 | 3.49 | 0 |
同様に月使用量が400kWh(総務省の家計調査による平均電気使用量)の場合は以下の通りです。2024年4月は12,300円(3月に対して15円増)、2024年5月は13,136円(同851円増)、2024年6月は13,816円(同1,531円増)、2024年7月は14,536円(同2,251円増)となります。使用量が多くなると増加額も大きくなります(図-6)。
このように2024年度は5月以降段階的に電気料金が上昇していきます。家計の生活費を節約するにはこれまで提案してきた節電対策や、前述した契約電流の変更など様々な対策を実行することが必要です。
図-6 今後の電気料金の推移(東京電力EP、関東地区)
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まとめ
今回は新聞記事に掲載されていた電気料金の値上げについて、その要因ごとの値上げ金額を把握し、今後の傾向について整理しました。
値上の最初の要因は5月検針分から変更される再エネ賦課金です。2023年度は市場での電力小売価格が高騰していたため1.40円/kWhと軽減されていましたが、2024年度はこれが落ち着いてきたため3.49円/kWhと2022年度と同様のレベルになりました。
この変化は再エネ賦課金の単価を決める際に、再エネの買取額を買取による回避可能費用で減じて算定していることから生じます。すなわち、小売電力価格が高騰しているときは再エネ賦課金単価が減少するのです。これにより、再エネ賦課金単価が2023年度は小さく2024年度は大きくなったため、2024年度は2.09円/kWhの料金上昇になるということです。
次の要因は国が支援してきた3.5円/kWhの補助が7月には完全に撤廃されることです。6月は影響を緩和するために1.8円/kWhの補助が行われますが、その後は全て0となり3月と比較して3.5円/kWhだけ負担が増えることになります。
さらに、託送料金と燃料費調整額の変動による料金への影響があります。燃料費調整額については今後のエネルギー価格の予想がつかないため料金への影響は不明です。ただし、この数か月は大きな変動はありません。
また、託送料金を考慮した料金改定では基本料金が増加し電力量料金は減少しています(東京電力EPの場合)。そのため月間電気使用量によってプラスになったりマイナスになったりしますが、その額は小さく託送料金による大きな影響はありません。
今後は4月以降段階的に電気料金が上昇していきます。今後は電気料金の節約につとめることが重要です。これまで本サイトで提案してきた節電対策の実施を検討するほか、契約電流の見直しも一案です。
契約電流の変更が可能であれば電気代が減ります。例えば家族数が減少するなどして契約電流を40Aから30Aに変更することが可能な場合は、東京電力EP(関東地区)の新しい料金体系では毎月312円の節約ができます(旧料金体系では295円/月)。
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<参考文献>
1) 共同通信:公式Webサイト、5月電気代、大手全社値上がり 政府の再エネ賦課金引き上げで、2024年3月21日
2)東京電力HD:公式Webサイト、再生可能エネルギー発電促進賦課金単価
3)経済産業省:公式Webサイト、ニュースリリース、再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2024年度以降の買取価格等と2024年度の賦課金単価を設定します、2024年3月19日
4)日本卸電力取引所:公式Webサイト、月平均約定価格(東京)
5)東京電力EP:公式Webサイト、託送制度変更にともなう見直し概要について(2024年4月1日実施)、2024年2月6日
6)東京電力EP:公式Webサイト、燃料費調整単価等一覧、2024年3月25日閲覧
7)経済産業省:公式Webサイト、ニュースリリース、電気・ガス価格激変緩和対策の実施のため、電気・ガス料金の値引きを行うことができる特例認可を行いました、2022年12月16日
8)経済産業省:公式Webサイト、ニュースリリース、電気・都市ガス料金の値引きの特例認可、2023年12月23日